17 涙


「しょっぱいな」
「そりゃあ、涙だからね」


ふとした拍子に私の頬に伝った涙を、鋼のが舌で掬い取り。
一拍おいて、そう感想を述べた。


「…どうして涙はしょっぱいのか」
「え?」
「いや、学校にいた頃に、そんなことを話したのを思い出してね。
 その時、何故か私の意見を言ったら笑われたんだが…鋼のは、何故だと思う?」
「オレ?そうだなぁ…」


小さく首を傾げるその様子はまるで子供で。
しかし、考えのまとまらぬその口からふいに飛び出した単語の羅列は、およそ子供らしくなかった。


「水35L、炭素20s、アンモニア4L、石灰1.5s、リン800g、塩分250g、
 硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、マグネシウム…」
「こらこらこら」

人体の構成成分から理由を考え出した鋼のに、思わずストップを掛けてしまう。
仮にも恋人との逢瀬で、そんな色気のないことを言わないで欲しいものだ。


「何かまずいこと言った?オレ」
「と言うか、情緒も何もないな」
「…あの質問に情緒を求める方がどうかと思うけど?」
「そうかな?」


今度は私が首を傾げ、昔と同じ答えを口にする。


「あらゆる生物は海から生まれて来た。人も、その例に漏れずだ。
 なら、体の中から出てくる涙が潮の味をしていたって、何の不思議もないと思うんだけどね」
「…確かに情緒溢れる回答だな、そりゃ。オレにはとても真似できないね」



笑いこそしないものの、至極真面目に頷いてみせる恋人の頭を荒っぽく一撫でし。
そう言えばまだ聞いてないな、と思い返した。



「で、結局鋼のはどう思う?」








うちのロイさんは(本人は認めてないけど) ロマンティシズムを持っています。 ロマンチスト、って程じゃないけど。 「雪が解けたら何になる?」って聞いたら、 「水になる」って言うより先に「春になる」って答えそうです。 45題に戻る