19 機械鎧 体の軋み具合で、大体今の湿度が分かる。 今は雨が降っていなくても、間違いなく今日中には降り出すな、とか。 その度に、自分の罪を思い出す。 勿論オレは錬金術師だから、ある程度は空気中の水分を分解して 機械鎧が軋まない程度に湿度を下げることもできる。 でもそれは室内での話であって、屋外みたいな無制限範囲には無効だし、 ましてや雨が降るのを抑えられる訳じゃない。 罰されるだけの罪を棲まわせた身体を引きずり、 オレは今日も図書館に通う道すがら、軋む機械鎧に顔を顰める。 …そう言えば、こんな湿度の高い日は同じように顔を顰めてる奴が居るっけな。 オレにとっては上官に当たる人間の顔を思い浮かべ、資料を借り出したら顔を出してやろうと決める。 勿論目的は、空気中の水分と比例して無能度が増す上官殿をからかいに、だ。 「よぉ大佐、言われてた通り顔出しに来たぜ。 どうせこんな日は無能なんだし、茶の一杯くらい付き合ってやるよ」 ちゃっ、と手を挙げたオレの姿を捉え、大佐の表情が軽くなる。 おいでおいでをする彼に従い、応接セットに座り込む。 やけに嬉しそうなその顔が、機械鎧の痛みを忘れさせる。 「珍しいね、鋼のが私とお茶なんて」 「オレも雨の日は調子良くないんでね。無能同士傷の舐め合いでもしようかと」 「君にしては趣味の良くない発言だな。何かあったのかね」 「さてね」 趣味の悪い発言になっているのは仕方ないだろう。 実は会った瞬間から気分が向上してる、なんて気取られないよう少し下降気味に話してるんだから。 …そう、浮かない表情の彼を見てさえ、気分が軽くなったなんてバレるわけにはいかない。 あくまでもからかいに行くのが目的で、心のどこかで会いたいと思っていたなんて…絶対に認めない。
無能同士、ってか。 45題に戻る