21 差



頑張っても、頑張っても縮まない差というものはある。

身長なら…嫌いだけど…牛乳を飲んで適度に運動すれば伸びるだろう。
知識量の差というのも、相手が仕事に追われて本を読む暇もない間に
追いつき、追い越すこともできるかも知れない。
でも、ひとつだけ、どうやったって縮まない差がある。






「…いきなりこれまでとは系統の違う本を借りたと思ったら…」
「いいだろ。何読もうとオレの勝手だ」
「それはそうだけどね。
 やはり科学者たる錬金術師が哲学書を読んでいるというのは妙な光景だな」
「ちょっと、思うところがあってね」


そう、今オレが手にしているのは【古代哲学シリーズ第1巻:時と人】という本だったりする。
全10巻構成で、明日までにこれを読んだ後は、続きも今回の滞在中に読破するつもりだ。


「しかしまた、何で哲学?」
「…科学とは違う立場から物を見たら、賢者の石について別の考えが浮かぶんじゃないかと思ってね」
「ほう」



勿論ウソだ。
いや、完全にウソというわけではないけれど、少なくとも今回の大目的ではない。

真の目的は…そう、大佐との精神年齢の差を縮めること。
実年齢だけはどうやったって縮められないから、せめてこの位。
大佐にオレを諭すことが出来るのも、
オレの倍近く生きてる間に豊かな精神性を付けてきたからだろうし。
それなら、オレだって違う角度から物を見れるような価値観と精神の修養を積むことで
少しは大佐に近づけるかも知れない。




いつまでも「保護者」されてるのは嫌だから。
早く、一人前の男として見てほしいから。

あぁでも、読み慣れない本を急に読んだせいで、何だか眠いや…







「馬鹿だね、私だってその位分かっているんだよ。
 それが解らないようでは、まだまだお子様だな…」



夢か現か、ロイに髪を撫でられているような気がした。



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