22 背中



一緒に町を、歩いていて。
ふ、と。
思うことがある。




「鋼の?どうし…」
「何でもない」

みなまで言わせず。
その態度と、「何でもない」という言葉で『今不機嫌です』というメッセージを伝える。
大佐は苦笑して、丁度視界に入った喫茶店に入ろうとオレの手を引く。
オレは小さく頷いて。



「それで?さっきまで機嫌良く喋っていたと思うのだけれど?」


何がオレの機嫌を損ねているのか分からない大佐。
何とかしてオレからその原因を聞き出そうと。
…そりゃあ大佐には分からないさ、絶対。


「…10分で5人」


とりあえず、いきなり本当の理由を言うのは悔しいので、本当のことは言わない。
けれどウソをつくのはイヤだから、「おまけ」あたりに位置する、ついでの理由を先に出す。
大佐はむ?と首をひねって。


「あぁ、歩いていて私に声を掛けてきた女性の数か?」
「あたり」


すぐに思い当たるくらい本人が自覚してるのも腹が立つけど。
しかし本当の理由はこれじゃない。

それがどうやら、顔に出ていたらしい。


「まぁ、完全にウソをついているわけではなさそうだが。もう少し正直になってくれないかね?」


にっこり。
そこらの女なら一発で落ちるんだろう、バックに光が射していそうな笑みを浮かべる大佐。
見慣れているオレでも、この笑顔を正視しながらウソをつくのは辛い。
何たって、オレの一番好きな…


「だから…それは…」
「それは?」



…はっ。
大佐の合いの手で我に返った。
危うく大佐の懐柔策に乗せられる所だった。
あぶない、あぶない。
まだ言ってやるもんか。



「やっぱまだ言わない」
「…惜しい。あと少しだったのに」



呟く大佐。
そーゆー事は相手に聞こえないように言えよ。
デリカシーってもんはないのか、大佐。







心の中で全力のツッコミを入れながら、オレはタイミングを計っていた。



さて、いつになったら

「大佐が人波からオレを庇うようにして歩く時、
 アンタの背中で前が全然見えなくなるのが悔しいんだよ」

って教えてやろうかな。




牛乳とちりめんじゃこを使った料理ってどんなのがあるかなぁ。 45題に戻る