23 ちょっとまって 夢を、みた。 大佐がどんどん遠くに行く夢。 闇の中、必死で叫ぶオレ。 行かないで、ちょっとまって、って。 構わず歩き続ける大佐。 その少し後ろを歩く中尉がちょっとだけこっちを振り返って 申し訳なさそうな顔をしたけど、すぐに前を向いて。 ふと気が付くとオレは、背中から羽の生えた姿で。 でも、その羽には重い鎖が絡まっていて。 鎖を振り切ればこの羽で大佐の所まで追いつけるって分かってるのに、 もがけばもがくほど鎖は絡まる一方で。 遂に、大佐の姿は見えなくなった。 オレは力無くうなだれて、鎖への抵抗を諦めた。 その瞬間、羽はするりと鎖から抜けて。 晴れて自由の身になったオレは、それでもうなだれたまま。 どうして、オレが動けるときにはもう、全てが済んでしまっているのだろう。 …もう、遅い。 そう呟いて、オレは闇の中に意識と身体を投げ出した。 大佐、出来ればいつまでも元気でな、って口の中で小さく呟いた気もする。 「以上、あらすじ」 「ふむ」 いい加減夜も更けようかという時分。 オレは大佐に抱きついた状態で、ついさっきまで見ていた夢の話をした。 うなされていたオレを大佐が起こしてくれたらしい。 起き抜けに抱きついたオレに、ただ事ではないと悟ってくれたのは正直嬉しかった。 「君らしくないな、エドワード」 あやすようにオレの頭を撫でながら、呟く大佐。 オレはそれが心地よくて、素直に口を開く。 「らしくない?」 「あぁ。いつでも前向きに生きようとする君にしては、らしくないね。 もっとも、いつも無理して前を見続けている反動かもしれないが…」 私の姿が見えなくなったからって「もう遅い」というのは本当に君らしくない。 その位置からは確かに見えなくなったかもしれないが、 そこから一歩でも歩き出せば、また見えるかもしれないんだろう? ささやきながら、あやしながら。 オレを安心させるように、大佐が全神経を使っているのが分かる。 なんだか、嬉しい。 「…だな。確かに、オレらしくない」 あんたに依存してるせいかもしれないな、って小さく笑うと、大佐も笑って。 「依存、ね。でもそれを言うなら、私も君に依存しているよ。 君が不安に落とされ、うなされているだけで、私までこんなにも不安になる」 ぎゅ、と抱きしめられる。 その感触が、大佐は今、確かにここにいるんだって思わせてくれる。 ちょっとまって、って言わなくてもいい幸せを、感じさせてくれる。
たまにはうなされる日もありますよ、きっと。 だってまだ15才ですから。 45題に戻る