26 名前 「大佐〜」 ぱたぱたぱた。 廊下を走りながらこっちへ向かってくる1人の少年。 名を、エドワード・エルリックと言う。 人呼んで、鋼の錬金術師。 その小さな(と言うと鉄拳が飛んでくるが)身体に精一杯の罪を背負い、 睨め付けるようにして運命と未来を見据え歩き続ける彼に、私はゆっくり振り向いた。 「どうしたんだね、エドワード」 「あのさ、ここの文章の意味が分からなくて…」 これ、と指さす白い指先、否、白い手袋。 片手だけ着けているのはおかしいから、と本来の白い指先さえ覆ってしまったそれ。 惜しいな、などと思いながら、彼の指さす語句に目を遣る。 「あぁ、これは…ほら、3語先の肩に*印が付いているだろう?」 「あ」 「本の後ろを見てごらん。多分、説明が付いているから」 「…見落としてた…」 ポリ、と頬を掻きながら部屋に戻っていく彼。 しきりに「何で見落とすかな、オレ」と呟いて。 その後ろ姿は、酷く落ち込み、また反省して。 でも、それはあの年頃の少年相応の姿で。 15にもなれば働きだす者もいるが、まだ就学中の子だっている。 そんな子達にとっては、教科書の一文を見落とすくらい日常茶飯事の事。 それをこんなにも重く受け止めてしまうほど、彼の日常は非日常に溢れていて。 背負った物の重さに潰されまいと必死に足掻くための手段なのだろうが、 傍目に見れば…いや、私情を挟んだ時点で第三者の視点とは言い難いかもしれないが…こんなにも痛々しく。 小さな背も。 白い手袋も。 反省する姿も。 …その、通り名も。 全て、彼自身が作った罪を、背負った結果。 再び本に没頭しているであろう、1人の少年。 名を、エドワード・エルリックと言う。 人呼んで、鋼の錬金術師。 それは彼の、罪の名。 あるいは、罰の名。
ウロボロス組のメンバーが それぞれの性質を表す罪の名を背負っているように、 エドもまた、彼の罪の名を背負っている。 45題に戻る