旅から戻って来て、久しぶりに会いに行ったら。



29 情けない




「ちわっす。大佐、います?」
「あら、エドワード君。大佐なら今は執務室にいるわよ。さっき椅子に縛り付けたから」
「どーも。…それと、お疲れ様です」
「どういたしまして」


苦笑する中尉の横を通り抜け、いざ、大佐がいるらしい執務室へ。



「よぅ、大佐。相変わらずサボってんな」
「…鋼の!」


喜色満面、といった体でオレを迎えたその人は、
確かに中尉の言ったとおり椅子に縛り付けられていた。



…威厳無いっつーか、なぁ。
あんまりじゃないか?これ。

一言で言うなら「情けない」以外の何物でもない。
二言で言っても「あぁ、情けない」って所か。
あ、「あぁ、無能」って手もアリかな。



どちらにせよ、それは非常に威厳とか風格とか、そういう物を損ねる光景で。
オレは確かな脱力感を感じながら、向かいの応接セットに腰掛けた。


「大佐、その姿はあんまりだろ…とりあえず、縄ぐらい外せ」

錬金術師なんだから、その位出来るだろ。
ぼそりと呟いたオレに、しかし大佐はゆっくり首を振って。

「自分で解くと、後が恐い。君がやってくれると言うなら話は別だが」
「…『こんな上官の姿は正視に耐えかねる』でいいかな」


先程労いを言ったばかりの中尉に対して申し訳なさはあるが。
とりあえず、理由も用意して。



ぱん、と両手を合わせ、縄に触れる。
大佐を縛っていた縄は一瞬にして紙の束になった。



「…やはり便利だな」
「何が?」
「錬成陣を書かなくても済むのが、さ」


感心したように見つめてくる大佐。
照れ隠しというわけではないが、妙に視線を逸らしたくて。


「あぁ。…本当はこれ、食パンにでもしようかと思ったんだけどな」
「イースト発酵させなくてはダメ、ということか?」
「実際の所どうか分からないけどな。そんな気がして」
「それに、熱も必要だな。パンを焼けるだけの熱を対価として
 この部屋から持ち去ったら、一瞬だけとは言え、氷点下になりかねない」
「そこは大佐に協力して貰うから良いや」
「…人を何だと」


下らない錬成談義に花が咲く。
しかし、こうして見る、向学心旺盛な大佐はやはりかっこよくて。
先程までの情けなさなど微塵も感じさせないその姿には、思わず惚れ直してしまいそうになる。








旅から戻って来て、久しぶりに会いに行ったら。
何とも情けない姿で出迎えてくれた恋人は、それでもやはり。



…情けない姿がアクセントになるほど、かっこよかったりする。






でも、書類に判貰いに行ったらこの光景。じゃやる気失くすよなぁ。 45題に戻る