33 本能




生き物にはみな、生存本能というのがある。
特に意識的に制限を加えない場合、これは勝手に作用し、
自分という個体が生き残るための最善の方法を選択しようとするものである。



「…みたいな理解で良いんだよな?」
「特に問題はないと思うが。
 …で、君はその自分の認識のどこに疑問を感じてそんな質問をするのかね?」
「”意識的な制限”ってヤツさ。どこまでをそう呼ぶのか?」


椅子から立ち上がり、こつこつと部屋の中を歩き回る。
落ち着きのない子だね、と言わんばかりに苦笑したロイは手を差し伸べる。
その手に惹かれるように、近づくエドワード。
まるで蝶のようだと、とりとめもなく思うロイ。


「そうだね、これは私見だが」
「うん?」

そこで一つ言葉を区切り、つらつらと思った事を、言語理論に則った言葉に置き換える。

「”自分が助かるよりも、この人を助ける方が大事だ”
 と思える全ての対象は皆、制限に加えて構わないだろうな」
「…よく分かんねー」
「早い話が、”この命に替えても守りたい大事な人”と
 思える存在が危険に瀕しているなら、生存本能なんか問題じゃなくなるって事さ」
「あぁ〜、納得」


わかりやすい説明が出来るなら最初からしてくれりゃいいのに、
と付け加えることも忘れなかったが、礼も忘れず。





ぽそりと呟いたエドワードなりのまとめを、ロイは聞き逃さなかった。


「つまり、生存本能より愛の本能の方が優先度が高いってか…」





こっそりと、ロイが肩を震わせていたことは、また別のお話。



暗い話を書こうとしたのが見え見えの出だし。 なのに何でかこんな物が出来上がりました。 うわ、不思議。 45題に戻る