34 爪きり



「…あ。イテ」
「どうしたんだね?」
「ん〜、ちょっと血が」
「見せてごらん」


言われるままに、左手を差し出すエドワード。
掌から少し出ている血が、人差し指の爪にも付いていた。



「旅の間、爪切ってなかったからな」
「あぁ…それで、手を握り込んだ瞬間さっくり、か」


生身の左手だから、本当は、そんなことも気にしなければいけないのだけど。
ただ、生身の手よりも手入れの大変な鋼の義手に気を取られてしまって、と。


「こうして血が出ているのを見ると、生きている証、という気がするね」
「…アルは血出ないけど生きてるぞ」
「…すまない。無神経な発言だった」


ただ、私が戦場にいた時、酷い怪我をしてしまったことが一度あって、
その時は出血量も多くてさすがに青くなったものだった。
けれど、まだ自分の身体から血が流れている間は死んでいないのだから、
と思って再び立ち上がり、陣幕まで戻った経験を思い出してね。


言い訳するようにそう付け加えたロイに、
そっか…、とだけ返すエドワード。







「一応、切っておきなさい」

ぽい、と寄越された爪切りをありがたく拝借して、プチン、と伸びすぎた爪を切り。
エドワードは、少しためらった後、おもむろに。



「オレも、戦場に出たら、血流すことになるんだよな」


誰の、とは言わなかったけれど。
きっと、どちらも意味しているのであろう事は、ロイにも痛いほど伝わってきた。


「…だからアルフォンスにだけは、国家資格を取らせたくないのかね?」
「あぁ。自分も相手も血を流してるなら戦ってる感じがするけど、
 血を流してるのが相手だけだと、弱いものいじめみたいな気分になるだろ?
 アルは優しいから…きっと、それに耐えられない…」
「かも知れないね。彼だってまだ14才なんだし、耐えられなくて当然だ…君もね」



ゆっくりと、頭を撫でられる。
普段なら力一杯抵抗するその手の動きが、リズムが、エドワードの神経を安らげる。



時に、真実と、掛けて欲しい言葉というのは違うのだけれど。
いつもなら、優しい慰めなんか必要としないのだけれど。


今だけは、甘えたいと思わずにはいられなかった。




何が書きたかったんだろう…。 弱いエド…じゃないなぁ。 「まだ15才」のエド、って所でしょうか?(尋くな) 途中ロイエドになりそうになくて焦ったことは秘密です。 45題に戻る