××山の一夜
「………何か、変じゃねえ………?」
風呂から戻ってきて寝間に直行したランサーは、襖を開けた途端に口の端をひくつかせる。
「……フッ、これだから躾のなっていない狗だというんだ、君は」
それに対して、いつもの人を小ばかにした顔と口調で返すアーチャー。
それだけにとどまらず、
「この国の風俗に詳しくなかろうと思ったので私が手を出してやったのだがな」
とか、
「人の厚意に対して礼の一つも口にできないのか」
等等彼らしい、半ば小姑じみた……というより完全な小姑と化した言葉が続く。
「………確かに」
と、腕を組んでしばし黙考していた槍兵はぼやくようにして反撃の狼煙を上げ始めた。
「オレはこの国の生活習慣について、オマエほど詳しくはない」
元々の生まれが地球の裏側みたいなものだし。
現に、寝巻き代わりに借りた浴衣だって、他人に手伝ってもらって着たのだから。
「それに、厚意に対して礼の一つもないのはオレらしくもない……一応、礼は言っておく」
敵味方の区別なく、純粋な厚意には礼を。純粋な悪意には死を。
それが彼の行動規範。鉄壁の『中庸』。
「だからと言って―――」
びし、と畳を指差すとその勢いのまま、噛み付くような口調で弓兵に食って掛かる。
「この布団の敷き方はありえねえだろうが!!」
ランサーの指先。
そこにあるのは、紛れもなく布団。
……ただし、蟻の入り込む隙間もないほどにくっつけられた、二組の布団だった。
柳洞寺での弓道部&陸上部の合同合宿。
その場に人でとして借り出されたアーチャーとランサーだったが、2人とも同じ人物に声をかけられたにしろ、受諾した理由は大きく異なる。
弓兵としては、自分のマスターが行く場所に同行するのは当たり前、というサーヴァントとしての行動規範に則って。
槍兵としては、単なる娯楽。ついでに同行するのは女子高生ばかり、というのも大きなポイントだったかもしれない。
実際に、男子生徒で参加するのは合宿場所を提供する柳洞一成と、何やら色々と相談を受けていたがために必然的に手を貸すことになった衛宮士郎だけなのだ。
けれど、現実として、
「大体、この部屋は坊主だって一緒だろうが! 3人で寝るのに狭すぎるだろう!」
「ああ、アレなら西の棟の方に行ったぞ。なんでも我々と褥を共にするのは嫌だそうだ」
「褥とか言うな!」
「何か間違った事を言ったか、私は」
宛がわれた男部屋では三人で休むはずが……何やら最悪の相性の男と一夜を過ごすことになるらしい。
思わず頭を抱えたランサーの傍に、ふいとアーチャーが近寄る。
「な……!!」
「じっとしていろ」
それだけ言うと、アーチャーはランサーの着ている浴衣の襟を合わせると、腰の帯をするりと解く。一瞬だけ身を硬くしたランサーだったが、そのままアーチャーのするにまかせた。
すると、
「歩き方には気をつけたまえ。いつもの君の歩調では、歩いているだけで浴衣が着乱れる」
「……あ、ああ………」
それだけ言うと、アーチャーは手早くランサーの浴衣を直した。
確かに、ランサーより早く身につけ、尚且つ布団の上げ下ろしなどの作業をしていたというのに、
アーチャーの浴衣は一糸とも乱れていない。
その姿を見て、少しばかり感心したランサーだったが、
「……誘っているのかと思ったのだがな」
ぼそり、と呟くようなアーチャーの言葉に、完全な戦闘体勢で背後に飛び退る。
けれど、そんなランサーの姿にぷっ、と可笑しそうに笑うと、アーチャーは、
「そんなに警戒しなくてもいい」
とだけ言うと、ぴったりとくっつけられた布団を引き離しにかかった。
貞操の危機に頭を抱える槍兵と、
注意したにも関わらず扇情的な浴衣姿を再び眼前に晒される弓兵と、
いったいどちらの受難であるのか……?
……おそらく両方であることは、覆しようのない事実かもしれない。
・END・
そして寝起きは余計にスゴイことに。
耐えろ! 耐えるんだアーチャー!!(笑)
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