「………どういうつもりだ、狗」
「仕方ないだろ」
いつにも増して不機嫌そうな金の英雄王にやれやれ、といった表情をして適当に相槌をうっている青の槍兵。この2人のこんな情景は、冬木教会内ではほぼ日常茶飯事といったところだ。
ただ今回、いつもと様子が異なるのは、
きゅーん、と甘ったれた鳴き声でランサーの足元に纏わり着いている二匹の子犬がいたことだった。
事の発端は3日前。教会の扉の前に二匹の子犬が捨てられていたことから始まった。教会に子犬、何世紀前のパターンもかくや、といった話だが赤ん坊でないだけまだマシだろう。教会の前に赤ん坊、という構図もまた作り話でよくあるパターンだが、ここの教会の前に捨てられるということはシャレにならない。
ともかく。
子犬が入った箱を手にとって思案していた神父のところに、丁度偵察帰りのランサーが通りかかった―――ここまでくれば後の説明はいらないだろう。箱はいつの間にかランサーの手にあった、というワケである。もちろんランサーとて黙って為すがままにされていたわけではない。一応、抗議をしたのだが、返ってきたのは
「狗が犬の面倒を見るのに何の問題がある…?」
と、公然と禁句を並べた言葉。思わず静かに殺気を漲らせたランサーだったが、箱の中の子犬が切なげに、きゅーんきゅーんと自分の方を見つめながら鳴く声にあっけなく陥落した。
そして二日後。
これもまた日常茶飯事、暇を持て余しているギルガメッシュがランサーに手を出そうとしたその時、すかさず二匹の子犬が吠え立てた。それはもう、きゃんきゃんとナリは小さいが威嚇の気配をその身体に纏わせながら。そして、不快の色をその端正な容貌にびっしりと表しながら今度は反対にギルガメッシュの方が威嚇するような声でランサーを問い詰めたのである。
「何ゆえにこんなモノを纏わりつかせておるのだ!」
「だから! 言峰に押し付けられたんだよ」
ランサーの反論にギルガメッシュは一瞬だけ表情を改めると「確かにあ奴であればやりかねん」とか呟く。が、
「なれば、退かせておけばよかろう。貴様、我の前に畜生連れで来るとはいい度胸だ」
「目ェ離せねえだろうが。特に……」
ココはある意味外より危険だからな、と二匹の首の後ろをそれぞれの手で摘み上げると腕の中に包み込むようにして抱く。そのままぽすっとベッドに腰掛けたランサーを忌々しげに見たギルガメッシュは、
「フン……精々雌犬と馴れ合うがいいわ。同じ狗同士、不都合もなかろう」
と吐き捨てるように言う。それを聞くと、ランサーはもう一度子犬の首の後ろを持ち上げる、ギルガメッシュに見えるように犬の前面を翳して見せた。
「……………?」
「こいつら、両方ともオスなんだが」
ぷちん。
その時、英雄王の中の箍が外れた。
「……………ああ、そうか。知っておるか、狗。この世ではな貴様のような男を『ましょうのげい』と
呼ぶのだ!」
今度からそう呼んでやる! といきなりいきり立ったギルガメッシュを、一瞬ばかりぽかんと見上げたランサーだったが、言葉の雰囲気から行って相当な罵声を浴びせられているということだけは分かった。売られた喧嘩は買ってやる、とばかりに子犬を床におろすと、
「あんだとこの野郎! 人がおとなしくしてりゃ調子に乗りやが……っっ!!」
立ち上がって戦闘体勢に入ろうとする。が、立ち上がるや否やランサーの身体には一瞬にして『天の鎖』が絡みついていた。
「テメェ……! いつもいつも同じ手ばかり使いやがって…っ……!!」
抵抗空しく、ランサーはそのままギルガメッシュによってベッドに押し倒される。
「フッ……使い古されようが有効な手立てであることに変わりはなかろう」
余裕の表情を浮かべると、首の装甲の僅かなつなぎ目を狙って口唇を寄せるギルガメッシュ。手足の鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら、ランサーは抵抗をやめようとしない。そんなランサーを楽しげに見下ろしながら、ギルガメッシュはその口唇を開く。
「庇護をかけているモノの前で犯されるというのは、どんな気分なのだろうな……?」
残酷なまでに美しい笑み。そして、愉悦の表情を浮かべた紅い瞳。対峙しているもう一つの紅の双眸が悔しげな色を浮かべているのとは正反対だった。それでも、ランサーは果敢に抵抗しようとする。抗う言葉を吐こうとその口唇を開いた瞬間、
「やめて下さい。子供たちが起きてしまいます〜!」
いきなり在らぬ方向から上がった声に、寝台の上の英雄王と槍兵。そして、主人の危機を救おうときゃんきゃん吠えていた子犬の声も止まる。
視線を声の方―――入り口へと向けてみると、そこには真面目くさった顔……というよりはいつもの無表情の言峰神父が佇んでいた。
唖然、として扉の方を眺めやっていた二人だったが、いち早く我に帰ったギルガメッシュが恨みがましそうにして主に向かって口を開く。
「言峰、貴様……」
そんな英雄王に対してもいつもと態度を変えることなく言峰は、
「房事の時くらい扉は閉めておけ」
とだけ言うと、あっさりとプリーストコートの裾を翻してその場を去っていった。
好事魔多し。
とは、この教会では日常茶飯事であった。
・END・
「ええい! 狗に触れてよいのは我のみだ!!」とは金様心の声(笑)。心の底では言峰がランサーに触れているコトも許せなかったりする>ギル。
それにしても罪も無い、しかも捨てられた子犬にまで嫉妬するとは……いや、ギルはそうでなくてはおかしいか。ちなみに子犬たんは灰色っぽい方がマッハで、黒っぽい方がセイングレイド。二匹ともランサーのコトが大好きです。子犬VSギルの構図ですな。
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