「相変わらず魔力が足りなさそうな顔をしている」
そのサーヴァントの気配は察知していたが、別段構えをとることもなく、ランサーは視線を向けるだけにとどめた。
「余計な世話だ」
マスターから充分な魔力補給を受けていられるサーヴァントに対して、多少のやっかみがあることは否めない。返す言葉は最小限であり、棘を含んでいた。
「別に頭から拒絶することもなかろう? 別に君に害を為しに来たわけではない。むしろその逆だ」
そう言って警戒心なくランサーの元に近寄ってくる赤い外套の男―――アーチャーはフ、と軽い笑みを浮かべると手を差し出した。
「………オマエ、また何か作ったのか?」
「察しがいいな。もっとも、これくらいなら君ほど鼻が利かなくても大体の予想はつくだろうが」
確かに、弓を引くための大きな手の上に鎮座しているのは、ランサーも以前見た覚えのあるような包みだった。以前は濃厚な甘さを漂わせていた包みだったが、今回は甘みの他にも焼き上げたような香ばしさがランサーの鼻を刺激する。
「……で、どうして貴様は敵に塩を送る真似をする?」
以前、マスターである言峰綺礼から聞いたことのあるこの国の諺を比喩として問うランサーに、少しばかり感心したような表情を見せてアーチャーは答える。
「答えは簡単だ。君ほど美味そうに物を食う者はいないからな」
「…………………」
怪訝そうな表情から、まるで苦虫を潰したかのような表情に変わるランサー。けれど、そんなことはお構いなしというように、アーチャーは言葉を続ける。
「作り手にとって、自分が作ったものを美味そうに食われるのは至福といってもいい。何しろ私のマスターは少しばかり捻くれているからな、素直に『美味い』の一言が言えないときている」
お手上げ、という様子で手を上げるアーチャーに、すかさず心の中で「何惚気ぶちかましてやがるコノヤロー」とツッコミを入れたランサーだったが、アーチャーの科白は止まらない。
「その点、君は素直だ。
―――表情も、言葉も」
確かに、ランサーは戦略のための隠し事なら平気でできる。が、それ以外に関しては生来の気質もあるのだろう、基本的に隠し事が苦手のようだった。
「……………………」
「まあ、深く考えなくてもよいだろう。一つどうだ」
包みを開いて中の焼き菓子を一つつまんだアーチャーがランサーの口元に、その指を寄せてくる。
「……………ちょっと待て」
額に指をあてて考える姿勢をとると、ランサーが口を開く。
「オマエ…まさかそのまま口を開けろというんじゃあるまいな?」
「この体勢になってしまったら仕方なかろう? おとなしく口を開け」
母親が子供に食べさせる図でもあり、恋人同士のいちゃつく図にも似たそれを思わず想像してしまったランサーは「そんなこっ恥ずかしい真似できるか!!」と反射的に口を固く結ぶ。するとアーチャーはニッコリと笑んで見せると、爆弾発言をかました。
「ああ、失礼した。どうも私は周囲の空気に合わせるのが苦手でな。
こういう時の常套句は『はい、あーんして〜』でよかったかな?」
ぷち。
頭の血管のどこかが切れる音をどこか遠くで聞きながら、発狂寸前のランサーは
「ふ ざ け る な!!! テメエはオレの母親か妻か恋人か!? 何が悲しくてヤローからそんな真似をっ……!!」
大音声で呼ばわりながら、当然の如く大口を開ける。そしてすかさず、
ぽい。
その隙を見計らうかのようにして、ランサーの口にはアーチャー手製の焼き菓子が放り込まれた。
「!!」
反射的にくちをもぐもぐと動かして飲み込むランサー。
「どうだね?」
「………………まあ、不味くはねえ、けど……」
尻すぼみに小さくなるランサーの呟きを満足げに聞き、一つ頷く。
「この状況で『不味くない』というのは褒め言葉と取っていいだろうな。ランサー、君はやっぱり素直でいい」
残りの菓子をランサーの手に握らせ、アーチャーはその場を去ろうとする。が、
「次はもっと君が動揺しそうな食べ方をさせてもらうとしよう」
と、最後に置き土産も忘れなかった。
「……この野郎……け、二度と来んじゃねーよ」
アーチャーが姿を消した中空を睨みつけながら、ぼやくランサーがいた。
・END・
弓槍というよりは弓→槍という感じ。弓はきっと長年疲れ果てて精神的に磨耗しているせいもあって、好きな子ほど意地悪をしてしまうという、稚拙な愛情表現しかできなくなったものと思われます>凛に対してもそうだしね(笑)。で、槍も槍で真正面からそれを受けてたっちゃうから収集がつかない、と。あー……すげーBLっぽい……。
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