女の条件


「なー、全然見つかんないんだけどー」
「……………」
「こっちにもなかったぜ。一体どこにあんだよー」
「……………」

「ちょっと嬢ちゃ……」
「うーるーさーいーっ!!!」

 遠坂家の地下書庫。夏場は空気がひんやりしていて過ごしやすい場所だが、さすがに秋になってくると身体の芯に冷気が伝わってくる。調べ物があった凛は、目的の本をさっさと探して居間で本を読むつもりだった。ところが目的の本がまったくもって見当たらない。色々と引っ掻き回してみたものの気が付けば30分ほど経過していた。すると、
「おい嬢ちゃん、女が身体冷やしちゃいけねえぜ」
 などと霊体になっていたランサーが突如として実体化して現れた。凛にしてみればそろそろ手伝わせようと思っていたところだったので渡りに船、とばかりに「アンタはあっちの書棚漁って!」と指示だけすると、一心不乱に本を探し始めた。
 そんな凛の後姿を眺めつつ何か言おうとしたランサーだったが、おとなしく言われたとおりに本を探し始めた。

 それから小一時間。
 見つかる気配のないまま退屈したランサーが茶々を入れ始めるにいたって、こちらイライラしていた凛の方がプチっと切れたというワケであった。
「あんたねぇ…前から言おうと思ってたんだけど……」
「何だよ、嬢ちゃん」
「その『嬢ちゃん』っての、いい加減やめてよね! 最初の時にちゃんと名乗ったでしょ!」
 ただでさえ目的のものが見つからなくて苛立っているというのに、そしてそんな苛立ちをからかっているような彼の口ぶりがどうしようもなく凛の癪に障った。
「悪いな、オレは女を5段階に分けてんだよ。雌以前と雌と子供と女と淑女、特に名前で呼ぶのは女以上と決めてるもんでな」
「……へえ、さすがに年増好みは言うことが違うわね」
 左手に持っていた『ケルト用語辞典』をめくりながら、凛は反撃を試みる。
「おーい、目的の本は探さなくていいのかよー……」
「アンタをぎゃふんと言わせるのが先! 黙って待ってなさいよ、このセクハラサーヴァント!!」
 あまりの言われように襲ったろか、と思いかけたランサーだったが、足元に転がっていた分厚い革張りの本を1冊拾い上げた。凛にしてもランサーにしても目的の本を探すのために、書棚を総ざらいしていた。そのため、いくつか…どころではなく足の踏み場も探さなくてはいけないほど床に本が散乱しているという、ちょっとばかりデンジャラスな状況となっていたのである。
「お、いいもんみっけ☆」  本の下敷きになっていた写真は幼い頃の凛と、彼女と似た少女が写っていた。性格なのだろうか、勝気そうな瞳で笑っている凛に対してもう一人の少女は少し控えめに、それでもこぼれんばかりの笑顔を浮かべていた。 「これ嬢ちゃんの妹か……って、この家は人の気配がないんだけどな」  すでにこの世の住人ではないのかもしれない。父親は前回の聖杯戦争に参加して帰ってこなかった、ということはランサーも聞いていた。ならばなぜ妹のことは何も言わないのか?
「嬢ちゃん、これどうする?」
 何らかのリアクションを期待して、一心不乱に辞典をめくっている凛に話し掛けたランサーだったが、
「………捨てて」
 の一言で片付けられたら立つ瀬がない。その上、自分を見つめてくる凛の瞳に含まれる感情が複雑すぎる色合いを浮かべていたのも気になった。
「えっ……いや、でも……」
 豹変といってもよいほどの凛の態度に、ランサーは戸惑いを隠し切れない。 「捨てちゃっていいから……欲しかったらあげる。どっちにしろ」

 私に持ってる資格ないし、持ってちゃいけない。

 聞こえるギリギリの音声で呟いた凛は、ぱたんと本を閉じると「今日はとりあえず終わりにするわ、手伝ってくれてありがとう」なんてしおらしいことを言うと階段を登っていった。

 ランサーは一瞬、凛が妹を手にかけたのかと思わないでもなかった。けれど、彼女の瞳に浮かんでいたのは後悔というよりは自分に対する不甲斐なさのようなものだった。察するに、生き別れになった妹をどうにもできないという罪悪感が多少なりとも頭を掠めたのだろう。
「はーぁ、なんでオレはこういう女に弱いんだ……」


「……ほれ」
 居間でぼーっとしていた凛に缶紅茶を差し出す、私服姿のランサー。
「……ありがと」
 素直に受け取った凛はプルタブをあけると、一口流し込んだ。
「………聞かないの?」
 何のことかは言わないまま、うつむいたままの凛がそれだけを口にする。すると、
「聞かねえよ」
 鼻で笑ったランサーはさらに言葉を続ける。
「お前みたいなイイ女から事情を根掘り葉掘り聞くほど、オレは野暮じゃねえ。オレにとっては、お前が見せた弱い部分だけで充分」
 はっと顔をあげた凛にニヤリと笑みを浮かべて、
「凛、お前みたいな強い女が見せる弱さは、それだけでオレを狂わせる。だから、そのままでいい」
 穴のあくほどランサーの顔を見つめていた凛だったが、ふと我に返ると紅葉のように顔を染めて慌てたように言った。
「……ちょ、ちょっと…アンタ何恥ずかしいコト言ってんのよ!」
「別に恥ずかしいことを言ったつもりはないけどな」
 飄々と言ってのけたランサーは、凛の手から缶を取り上げると一口含んだ。
「元気になったことだし、これ貰ってもいいよな? 嬢ちゃんと間接ちゅーv」
「ちょ、ちょ、ちょっと何てコト言って……このセクハラサーヴァント! ちょっと、待ちなさいっ!」
 笑いながら逃げるランサー、そんな彼を仕留めようとそこらにあるものを投げつける凛。そんな凛の猛攻を身軽にかわしながらランサーは彼女に聞こえない声で呟いた。



「お前はそのままの自然体でいてくれよ、凛」


・END・

槍凛です(笑)。ワタシは槍凛が好きだー! アインツベルンの城での2人の直接のヤリトリも大好きですが、凛を裏切ったアーチャーを糾弾するランサーに萌え。槍凛に萌え。しかし、友人たちからは「こんなランサーのセリフがわいてくるキミの頭って……」と半ば呆れられました。


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