少女の夢はいつ叶う〜the Xmas story "Illyasuiel"


「ねー、ランサー、それ取って!」
「ん? この赤い爺さんのか?」
「ちーがーうー! 隣の、トナカイの方!」
 立派な樅の木に次々と飾りをつけていくイリヤ。その傍でランサーはいいように使われている。アインツベルンの城という舞台も手伝ってか、お姫様と従僕といった風情であった。
「しっかし、暢気だよなー」
「え? ちゃんと結界も張ってるし、問題無いよ」
「いや、そうじゃなくてだな……」
 聖杯戦争の準備もせずに何遊んでるんだ、というツッコミをその実入れたかったランサーではあるが、クリスマスツリーを前に普通の子供のようにはしゃいでいるイリヤを見ていたら、どうでもよくなっていた。実際の年齢はどうであれ、外見はこの上もなく愛らしい子供なのだから。
「お、この星はどこに……」
「ダメ!」
 一際立派な星の飾りを手にしたランサーから、イリヤはそれを奪い取る。
「これは一番最後につけるの! 一番上のところ」
 金色に輝く星を、まるで宝物のように胸に抱くイリヤ。
「じゃ、さっさと終わらせようじゃねえか」
 他の飾りを取ったところで、ノック音とともにセラが入ってきた。
「お嬢様、プレゼントが本家より届いております」
 その言葉で、一瞬にして今まで楽しげだったイリヤの表情が固まったのが、ランサーには見えた。さらに、ガラガラと台車を押して大きな箱をリーズリットが運んでくると、明らかに嫌悪の表情が浮かんでくる。
「イリヤ、また届いた……でも、ケーキは美味しいのを用意したから」
 イリヤ同様のホムンクルスでありながら、失敗作であるが故なのか表情に乏しい二人のメイド。けれど、この時のリーズリットの表情には、明らかにイリヤを心配しているような、いたわっているような色が浮かんでいた。声音がそうだっただからだろうか。
「『ベコちゃん』のブッシュ・ド・ノエル……」
「いらないっっ!」
 癇癪を起こしたイリヤに、大体の予想はついていたのかセラもリズも黙ったままでいる。動揺しているのは(顔にこそ出さないが)事情を知らないランサーだけだった。
「………………」
 やがて、一礼して部屋を出て行く二人。去り際に、リズがほんの少しだけランサーに視線を向けた。もっとも、ランサーが何かしらのアクションを返そうとした時には、既に2人は部屋を出て行っていた後だったが。

「………………」
「………………」
 重い沈黙の後で、口を開いたのはイリヤが先だった。
「どうせ、また同じなんだから……」
 独り言のような呟くようなセリフだったが、それは「聞いて欲しい」というランサーへのサイン。
「随分とデカい箱じゃねえか? お前一人くらいなら入りそうだな」
 少女とはいえ女の機微には聡いランサーは、軽い調子で茶化すようにして言う。
「……そうよ。私と同じ大きさのテディベアルが入っているの」
「テディベアル?」
 何じゃそりゃ、そんな声と表情になってしまったランサーを見て、ようやく僅かながらではあったがイリヤは笑みを見せた。
「くまのぬいぐるみよ。ランサーってばそんなことも知らないの?」
「知らねえよ。どんなのだ?」
「じゃあ、見せてあげる」
 スカートの裾を翻して箱へと歩み寄るイリヤ。かけられたリボンを丁寧に外し、箱を開ける。上から見下ろす形になっているランサーには、その正体がはっきりとわかった。というより、彼にも見覚えがあるものだからだ。
「こりゃ……お前の……」
 そこまで言って、唐突に口を噤むランサー。
「……そう。私の部屋に同じものが9体あるのよ」
 同じ大きさのものが今までに9つ。これで10個目。それが何を意味しているかわからないランサーではない。
「そして、これがたぶん最後」
 聖杯の素体であり、聖杯の炉心であるイリヤは、大聖杯を開くためだけに生を受けた。聖杯戦争が始まるということは聖杯戦争が終わるということ。それは同時にイリヤの役目も終わりをむかえるということだ。ランサーはそんな事情については知るはずもない。けれど、なにやら崖の淵に立たされているような、危うげな様子のイリヤが気になった。
「最後……」
「そう。だからっていうわけじゃないけど……」


「お願い聞いてくれる?」


 つとめて明るい調子で、小悪魔のような笑みを浮かべながらイリヤは言う。
「ああ」
 気の利いた言葉が出てこなかったのか、ランサーはそれだけを言うと跪くようにしてイリヤと目の高さを合わせた。

「肩車」
「え?」
「だーかーらー、肩車して!」

 ……もっと大層なことを言われるかと思っていたランサーにとって、あまりに拍子抜けする言葉。けれど、
「……いいぜ。ほら……!」
 立ち上がると、イリヤの腰を掴んで高い高いをするように持ち上げると、そのまま身体を半回転させて自分の肩に跨るようにさせる。
「ちょ…ちょっと! 前から言おうと思ってたけど、あなたレディを何だと思ってるの!」
「い、いてえよ! 髪の毛ひっぱんなコラ」
 ランサーの髪を掴んでバランスを取るのは仕方がないが、お返しとばかりにぎゅっと力を込めて掴むイリヤ。
「あ、ツリーの近くまで行って」
 言われたとおりに近寄ると、何やらイリヤが身を乗り出すようにしてもぞもぞと動く。支えてやるのは容易いが、一応釘をさしておくのは忘れないランサー。
「おい、気をつけろよ。落としちまうぞ」
「……もうちょっと………できた!」
 イリヤの声に反応してランサーはツリーのてっぺんを見上げる。そこには燦然と星が輝いていた。
「へえ、いい感じにできたじゃねえか」
「当たり前でしょ! 私とあなたとでつけたんだもの」
「へ、違いねえや」

 彼女にとっての最後のツリー。
 それを2人で一緒に作り上げられることができたのは楽しくもあり、また切ないものでもあった。

・END・

 あー……ちょっと正視できないくらい恥ずかしいですね、我ながら。今頭の上に薬缶置いたら確実に沸騰するくらい恥ずかしいです、マジに。羞恥プレイ以外の何者でもないよ(笑)。


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