冬木の町に××ができました 1




「ん………あ、明日は日曜タイムセールあるのか・・・ジャガイモにニンジン…って、こりゃ」

 スーパーのチラシを見ながら、士郎は思わず笑みを漏らす。
 惣菜で有名な某スーパーが珍しくタイムセールを開催するのかと見てみれば、その内容はやはり若奥様対象としか思えないラインナップである。
 ちなみに後に続くのは玉ねぎに豚肉………大変分かりやすい。

「・・・・・・」
「ん? セイバー、何か珍しい広告でもあった?」

 チラシのより分けを手伝っていたセイバーが、一枚の派手な広告を注視している。特に写真など使っているわけではない、ただの極彩色のチラシ。赤と黄色がどことなく新装開店のラーメン屋やパチンコ屋のようだと思いつつ、士郎もまたセイバーと同様に紙面に目を走らせた。


『一年を通して楽しむことができます!』
『各種道具も貸し出し用を用意しております』
『お子様用も用意してあるので、親子でお楽しみになれます』
『家族のコミュニケーションに、恋人同士のコミュニケーションに最適! ラウンジもあり、お弁当広場もあり』

 など、様々な謳い文句の最後に、

『アナタもワタシもイナ・バウアー!』

 ときて、一体何のチラシであるかが理解できた。


「シロウ、これは………?」
「ああ、スケートリンクができたんだ。ほら、最近まで冬のオリンピックがあっただろ?」
「はい。選手たちが精魂こめて競技に立ち向かっていく様は壮観でした。メダルという、栄誉の称号を得るために苦難を乗り越えようとする彼らに賞賛を禁じえません。今の時代にも騎士の心を持った者たちがいるのかと感動いたしました」
「うん、すごかったよな」

 さすがは、名誉とか栄誉とかを大事にする時代の人である。
 何しろ彼女は騎士の王―――伝説に名高い騎士の中の騎士、竜の血を背負う者。

「それでシロウ、これは『おりんぴっく』とどのような関わりがあるのでしょうか?」
 極彩色と騎士の誉れ。一見、何の関係もないようにセイバーが思うのも無理はない。一つ頷くと、士郎は丁寧に説明を始める。
「スケート、あっただろ? ここには一年中氷が張られていて、みんながスケートを楽しむことができるんだ」
「………あの氷の姫君だけではなく?」
「うん、靴も貸してくれる。幾つも氷の広場みたいなのがあって、練習することもできる」
「そ、それは………」

 わなわなと身体を震わせる騎士王。
 そう、衛宮邸の面々で一番熱心にオリンピックの中継を見ていたのは他ならぬセイバーであった。
 何しろ根は体育会系。フィギュアスケートやフリースタイルスキーで選手が転倒すれば悲鳴をあげ、逆に素晴らしい技を披露すれば拍手を惜しまない。一緒に見ていることの多かったライダーなどは「もう少し静かに見られないのですか」と直接的な文句を言っていたのにも拘わらず、全てスルー。
 それぐらい、熱中していた。



 いや、それでも食欲には勝てなかったのは言うまでもないのだが。



「・・・セイバー、行ってみたい?」
「い、い、いいのですかっっ!?」

 ぎゅっと両手は握りこぶし。行きたいやりたいオーラを燦然と放っているセイバーを見て、連れて行ってやろうと思わない方がおかしい。

「うん。すぐ、というわけにはいかないけど」
 何しろ一家の主夫は時間を持て余しているわけではない。それに、できたばかりでは場内も混雑しているだろう。そう考えての士郎の言葉だったが、
「勿論です。この身は士郎はサーヴァント、マスターの指示に従います」
 
 にっこり。

 冷静な声で告げられたのならともかく、期待に満ちた楽しげな表情と声。
 ―――これにほだされないマスターが何処の世界にいるというのか(反語)。


「で、できるだけ早く機会を作るよ」
「はい、その日を楽しみにしています」


 そんなセイバーの声を聞きながら、士郎はチラシにもう一度目をやった。



『冬木の町にスケートリンク、ピカピカリンクが開場します!』


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