冬木の町に××ができました 2



「へえ……結構大きいんだな」
「これが、スケートリンクですか」
 新都からの直通バスを降りると、真新しい建物の匂いがする。白を基調にしたその建物は曲線で描かれたかのような形をしており、ドーム型球場を思わせた。
 学校の体育館のような外観かと思っていた士郎だったが、的が外れた予想に少しばかり驚いたような表情を浮かべながら、傍らの少女に問いかけた。
「ええと、セイバーはスケートってしたことは………」
 が、途中まで言って気付く。
 小難しい形をしたスケート靴の刃の部分を考えれば、伝説上の王とも言える彼女の時代にあったものかどうか想像に難くない。けれど返ってきたのは、
「似たようなものならば経験があります」
 との、士郎の予想を越えたものだった。

 かのアルビオンの地での子供の遊びは、中々にハード。
 何しろ、

「こう、湖の中央にある島の草や枝を取ってくるという実地訓練のような遊戯がありまして」
「・・・まさか」
「はい、さすがに普通の靴では歩くこともままなりませんので、こう食後のゴミとなるような馬の骨やら牛の骨やらに乗って…そうですね、滑る、という感じはありました」
「・・・マジで?」
 この時点でも吃驚仰天! な士郎だったが、更に続くセイバーの言葉はトドメの一撃だった。


「はい。ああ……そういえば、時々丈夫な骨が落ちていたりもします。大体が殲滅戦などの激しい戦場の………」
「・・・わかった、わかったから」
 それ以上口にしないでくれ、つーか、するな。

 
 思わずうーむ、という感じで俯いた士郎にセイバーは何かあったのかと慌てふためく。
「シロウ、身体の具合でも悪いのですか? なら………」
「い…いや、全然…全然っ問題ないから」
 まさか、人骨(大腿骨あたり?)に乗って軽やかに滑るセイバーを想像してました、なんて言えるわけもなく。
 ついでに、ありえないのにくるくると楽しそうにジャンプを跳んでいたなんて余計に言えるわけもない。
「しかし、随分と顔色が………」
「いや、その………今度は俺の方が教わらなくちゃいけないかなー、なんて思ったりして。スケートってやったことないんだ」
 追求の言を逃れようと目を逸らした士郎だったが、スケートは水泳ほど親しみあるスポーツではなかったことに気付く。もしかしたら経験があるのかもしれない。が、衛宮士郎にとってスケートの記憶はないと断言できた。
「ならば、今度は私が教師役を務めることにいたしましょう」
 くる、と士郎の傍らから飛び出すセイバー。いつものブラウスに紺のスカートという出で立ちではなく、短めの濃紺のプリーツスカートとざっくりとした白いセーターの彼女は春一番の紋白蝶のようにも感じられた。

 一足早い、春の予感。

「ああ、頼むよ。授業料代わりに美味しいお弁当作ってきたから」
「それは素晴らしい。ならば、授業料の分だけしっかりと鍛えて差し上げます」

 え、と一瞬道場のシゴき…ならぬ特訓を思い出した士郎だったが、リンクの入り口で振り返ってにっこり笑うセイバーに思いなおしたように同じような笑みを返す。


「よーし! 鬼軍曹のシゴキには負けないからな!!」
「立派な心意気です、シロウ」
 ところでオニグンソウとは一体なんですか? あまり美味しそうな響きではないのですが………そんなセイバーのツッコミが続くのはもはやお約束ですらあった。


 ☆☆☆☆☆


「意外に人が少ないんだなあ………」
「そうですね。もっとたくさんの人々がいると思っていたのですが」
 休日だというのに、中央にあるメインリンクに人影は少ない。それでも友人同士やら恋人同士やら、様々な集団が楽しげに氷の上に集っている。小さな子供の姿が見当たらないのは、プラスチックの壁を隔てた子供用練習リンクに集中しているからのようだった。
「とりあえず、スケート靴に履き替えようか」
「はい」
 空いているベンチに2人腰掛け、いそいそと支度をする。

「こうまで空いていると、素人ジャンプとか続出してんだろうなー」
 きゃー、とかうわっ! とかの華々しくも騒々しい声は、何もただ滑っているだけでは起きないだろう。靴紐を結び終えて顔を上げた士郎の目の前では、茶髪の若者が悪ふざけの結果としてフェンスに直撃している。
「む、それは危険です。やはりジャンプの練習をするのであれば、半回転のジャンプから順序を追って………」

 もしもしセイバーさん、ツッコミ所が違うのでは。
 そんな表情をしてしまった士郎だったが、

 
「安心しな。危険行為は即退場、ってな? ”クランの番犬”の名にかけて、そこんとこ容赦はしねえぜ」


 ひょっこりと表れた男は、長い青の髪をたなびかせると、そのまま士郎とセイバーの脇を通り、氷上でのびている茶髪青年の側に近寄っていった。
「おいおい兄さん、ここは女子供の遊び場でもあるんだぜ? 自分の女にいいトコ見せたきゃ、もちっと上手くなってからにしろや」
 容赦なく襟首を掴みあげるとランサーは「危険行為により強制退場〜」と楽しげに高らかに宣言しつつ、茶髪男を場外に放り出しに向かう。いかにも楽しげに。


「………容赦ないな」
「………哀れですらあります」
「自業自得とは言え、あの男、しばらくはこの辺りを歩けんだろうな」
 互いに感想を述べて頷きあう二人の上から、別の声が降ってくる。え、と思って剣の主従が顔を上げると、そこには褐色の腕をむき出しにした男が出口の方を見遣りつつ大きく一つ頷いていた。
「アーチャー………」
「なんで、オマエがここに……!?」
 半ば唖然としたセイバーと、明らかに警戒心を滲ませた士郎を見下ろす弓騎士。相変わらず身体に密着した衣服のままで、口の端に刷くのはシニカルな笑みで。
「ここは公共の場だろう? 私がいたところで何の問題もあるまい」
「・・・って、わくわくざぶーんの時も言ってたよな」
「オマエが間抜けな質問をするからだ」
 ふふん、とそこはかとなく勝ち誇ったような雰囲気のアーチャーだったが、
「行きましょう士郎。この様な手合を相手にすることはない」
 と、スケートを楽しみにやってきたセイバーはあっさりアーチャーを無視すると士郎の手を引く。

 元は同じヒトなのに。

 そんなセイバーの残酷さに、ちょっとばかり士郎はアーチャーに対して憐憫の情を抱いてしまった。


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