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冬木の町に××ができました 3 |
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「こ、こんな感じかな………」 「そうです。真っ直ぐ進もうとはせず、骨の部分を横に押し出すような感じで……ええ。シロウはコツを掴むのが上手いです」 フェンス際で2人、金髪の少女と赤茶の髪の少年が楽しげに語り合いながらスケートを楽しんでいる。ほのぼのと可愛らしいその様子を、違反者を片付けた青い猛犬は少し離れた場所からにまにまと楽しげに眺めていた。 「いや、若いってのはいいねえ」 「………そういう君はじじくさいがな」 傍らで少しばかりぶーたれた顔つきの褐色の男の刺々しいセリフに、余裕ぶちかましの男は平然と、子供を諭すようにして言う。 「振られたからって、いい大人が不貞腐れるんじゃねえよ。ついでに矛先をオレに向けるのはヤメロ。かまってほしけりゃ………」 そこまで言ったところで突如、 「こーんな感じで甘えないとダメですよね〜」 腰の辺りに衝撃を受けて思わず視線を下に向けるランサー。見れば、整えられた氷よりも尚きらきらと煌く金色の髪を揺らした少年が、その細い腰にしっかと抱きついていた。 「何だい、オーナー様のお出ましか」 「はい、お仕事ご苦労様です」 腰に抱きついてきた少年ギルガメッシュの頭をぽんぽんと撫でるランサー。傍から見れば兄弟のような2人。その実マスターを同じくするサーヴァント。 だが、話を聞くとまた別の関係でも成り立っているらしい。 「………英雄王の黄金律とやらも大したものだな」 ここまできたら英雄王というよりレジャー王というのが相応しいのではないか。 口に出しては言わぬが花、とアーチャーは意外に仲の良さげな2人を見て思う。 「だって、面白そうじゃないですか。あっちが常夏なら、こっちは常冬。夏と冬を一度に楽しむのも楽しいですし。それに人はないものねだりが大好きだから、夏を楽しんだら冬が恋しくなるものでしょう?」 昔の自分を殺したくて、でも恋焦がれてしまう人もいることだし。 「なるほど…人の心を読むが故の黄金律か」 苦笑して引き下がる黒い男。そんな男に意味ありげな笑みを向ける金色の少年。そこに、 「・・・いい加減に放せ。いくらガキでも男に触れられるのは気色悪いんだよ……って、撫でるなー!!」 二人の空気に水を差すかのごとく、ギルガメッシュにがっちりと腰を掴まれているランサーから声が上がった。 「いいじゃないですか〜。ボク、以前から不思議だったんですよね。ランサーさんって、筋肉しっかりついてるのに、何故か腰だけは異常なほど引き締まってるじゃないですか。筋肉付いてないのかな、と思ったらそうでもないし………」 最初はさわさわと触れるだけだった少年の手は、いつの間にか壊れ物を撫でるかのような手つきに変わっている。さらに、指先で撫でるように変じるそれは、どう見ても「ある目的」のためのものにしか見えない。 「確かに、大腿筋はスピードスケートの選手のようだというのに、支点となる腰がこのように細くてよくもまあ………」 「だから、触るなっっ!!」 柔らかい小さな手だけでなく、弓引く大きな手で触れられて牙をむき出しにして声を上げるランサー。がるるる、などという獣そのものの効果音が聞こえてもおかしくない。 「おい、ちっこいの!! オメー『ぱわはら』はヤメロ! 『ぱわはら』は!!」 叫び声(?)の後には何やら現代用語らしき発言を口にする槍騎士。思わず小さいギルガメッシュとアーチャーは顔を見合わせる。 「・・・アーチャーさん、今聞きました?」 「聞いた。数日前までセクハラを『食べ物か?』とか言っていた奴の口から出てくる言葉とは信じ難い。しかも、その言葉で君とこの男との関係がはっきりした」 「あ、ばれちゃいました?」 尋ねる少年に、うんうんと頷く弓騎士。その様子にかちんときたのか、更にランサーは言い募る。 「ついでに言うと、黒いの!! テメエも『せくはら』をヤメロ!! 子供なら千歩譲ろうとも、野郎に腰を撫でられる謂れは断じてないっっ!!」 そうだろう、そうだろう。 若いおねーちゃんに撫でられるならともかく、子供も大人も大の男だ。もっとも、子供に対してはある程度許容範囲があるところが、この槍騎士らしい。 けれど、そんなランサーの懐に入り込むようにして、子供は爆弾にも似た言葉の一撃を落とす。 「だったら、アーチャーさんも飲みます? 『若返りの薬』」 『・・・・・・はい!?』 その言葉に、一触即発だった槍と弓の騎士は顔を間が抜けた声を発するとと、互いの顔を見合わせる。 「アーチャーさんのその性格って、後天的なものですよね? ってことは………」 「もしかしたら、素直でよい子で少しばかり恥ずかしがりやだけど懐っこい少年の出来上がり、とか………!? いや、幾等なんでもそれはありえねえだろ、と」 そこであることに思い至ったのか、ちらりと金色の少年王に目を向けるとランサーは口ごもる。 「…………ありえる、かもな」 と。 そんなランサーの様子を不思議そうに見上げた小さいギルガメッシュは、本題とばかりにアーチャーの方へと身体ごと向き直った。 「どうですか、アーチャーさん。試してみません?」 「結構。そこまで暇を持て余しているわけではない………って何だ!! いつの間にっ!!」 にぱ、と促す少年から殺気を感じたアーチャーが身を引こうとすると、 「まあまあ、エンリョするなよ黒いの。ちび黒いの、に対する興味が湧いて仕方がねえんだ」 いつの間にやら背後に回ったランサーによって羽交い絞めにされているではないか。半ば悲鳴にも似た上ずった声で抵抗するアーチャー。そんなアーチャーの口元に、 「はい、アーチャーさん、”あーん”してください。あーん」 近くにあった椅子に乗っかった小ギルガメッシュが、自販機で使用されている紙コップを宛がう。さすがに、オーナー自ら備品を大事にしようという心意気か、しっかり靴を脱いで登っている。 しかし、そんなところに目が行くほど、アーチャーに余裕があるわけではない。 「は、放せランサー!! や、やめたまえギルガメッシュ!!」 じたばたと抵抗を続けるアーチャー。 「不味いのは一瞬だけだ。飲んだことはねえが」 「後は子供になる快感だけですよ〜うふふふふ」 前と後ろからの攻撃は止むことはない。 後に残るのは、木綿を引き裂くような悲鳴のみであったのは言うまでもなかった。 |