| 狗も杓子も〜the Xmas story "Rin" |
「ランサー、いる?」 遠坂家の居間、昼食(兼朝食)を終えた凛は霊体化しているランサーを呼び出す。主の呼び声に答えて、ランサーはすぐに姿を現した。 「何か用か……っとと」 現界したランサーに紙袋を投げる凛。サーヴァント中最速を誇る英雄は、動体視力にもその力を遺憾なく発揮する。 「それに着替えなさい。外出するから」 「は? 面倒くせえな……別に霊体でもいいじゃ……」 ねえか、続けようとしたランサーの言葉は、左手を翳した凛によって遮られる。 「さっさとする!」 「おっかねえな…ったく。可愛い顔が台無しだぜ?」 令呪をもって脅かされようと、ランサーの飄々とした口ぶりは変わることはない。 「着方は分かるわよね?」 「分かんなかったら嬢ちゃんが着せてくれんのか?」 疑問に疑問で返すだけでも人を食っているというのがありありだが、返事の内容が内容なだけに凛の堪忍袋の緒もはちきれる寸前だった。 それが証拠に、笑顔が恐ろしいほど固まりきっている。 「ランサーってばホントお茶目さんね☆ だったら遠慮なく令呪使わせてもらおうかしら」 そのニッコリは「赤い悪魔」の異名に相応しい。さすがに身の危険を感じたのか、ランサーは「わかった」と一言言うと魔力で編まれた鎧を解除した。 「痛っ! うわ、やめろっ!」 その瞬間、ガンドの一斉射撃がランサーを襲ったのは言うまでもない。 「……取りあえず晴れててよかったわ」 「そーだよな、せっかくの逢引だし」 冬木市一のデートスポットである海浜公園を歩く凛とランサー。誘い出した凛の方がよたよたと精彩のない動きであるのに対して、ランサーはさくさくと凛を先導するようにして歩いている。 「………なんでアンタそんなに元気なのよ」 あれだけガンド当たったのに、と心底悔しそうに呟く凛に、 「そりゃ、オレがサーヴァントだからだろ。嬢ちゃんも意外と間抜けなんだな」 笑って答えるランサー。サーヴァント相手にガンド百連発。確かに痛みは覚えるだろうが、たかが人間の呪いでサーヴァントが決定的なダメージを受けるわけがない。反対に術者の消耗の方が激しいだろう。 「うう…悪かったわね。でも、元はといえばアンタがセクハラまがいのことするからでしょう!?」 「嬢ちゃんが着替えろって言ったんだろうが」 ああ言えばこう言う。邪気のない返答だが、正論なので腹がたつことこの上ない。けれど、消耗しているのは確かで、凛はいい具合に反論も思いつかない。 「おーい、大丈夫か?」 「うん…多分」 「帰るか? おとなしく寝てた方がいいんじゃねえの?」 「それだけはダメ! あ、芝生。芝生行こ! 陽が当たって気持ちよさそうだし」 少しだけ元気を取り戻したのか、凛はランサーの羽織ってる上着をひっぱると芝生の方へと降りていった。 「うわ…っ……」 絶句した凛に対し、ランサーは余裕にも軽く口笛を吹く。そこはカップルたちのふれあい…ではなく、触れ合いの場に成り果てていた。 「……ひ、人前でここまでやる!?」 「妬くなよ、嬢ちゃん」 どこまでも余裕ぶちかましのランサーは、凛の手を取ると空いている場所に滑り込む。一足先に胡座をかいてうーん、と伸びをするその姿はどこにでもいそうな青年の姿である。 「んー、陽当たりいいな。ん? 嬢ちゃん、座んねーの?」 「うん……」 凛としては疲れてもいるし、座りたいのは山々である。けれど、スカートが短すぎることに今更ながら気づいてしまったのだ。 「? ああ、そういうことか」 ランサーは、短すぎるスカートの裾を掴んで所在なげに佇んでいる凛を招き寄せると、 「ここでいいだろ?」 と、いきなり凛の右手を掴んで引き寄せた。自分の膝の上に。 「ちょ、ちょっと……!」 凛は反論する間もなくランサーの膝の上に尻餅をつく形で座り込まされる。その上、どうしようか考えているうちに身動きがとれなくなった凛の膝の上に、実にタイミングよく上着がかけられた。 「え、あ…ありがと……」 ランサーの手馴れたエスコートっぷりに、凛はただ呆然と身をまかせるばかり。 「なに、どうということはない……少し寝るか?」 「じょ、冗談じゃないわよ! こんなはしたない格好で寝られるもんですかっ!」 これでは周囲のバカップルと同レベルではないか、そう思った凛だった。 が、いかんせん、ガンドの連発で憔悴した身体は睡眠を欲しているようで。そんなところに、陽当たり・人肌座布団(というか座椅子)・膝かけと眠気を誘う三大アイテムが勢ぞろいしては勝てる道理がない。 うとうととし始めた凛に気づいたのか、事も無げにランサーは言う。 「少し寝とけ。何かあったら起こしてやる」 もっとも、凛は聖杯戦争に参加するような魔術師だ。何かの気配を察知したら迷わず身体の機能が彼女を戦闘状態にまで高めることは間違いない。けれど、こうやって声をかけてやれば凛とて少しは気が抜ける。それを考えた上でのランサーの言葉だった。 「うん…じゃ、悪いけど……」 お願い、という最後の言葉はかすかな音になっただけ。瞼の落下と同時に、脱力した凛はランサーの胸板に寄りかかるような姿勢で眠りに入ってしまった。 「……おやすみ」 しばらくして。 周囲のバカップルたちも場所変えをしているのか、人が少なくなってきたところに、2人に影をつくるような形でその少女は現れた。 「アンタ、遠坂の何?」 凛ほどではないが、やはりきりと引き締まった顔立ちのその少女は、ランサーの言葉で言うならば「いい女」の範疇に入るだろう。そんな少女が、いきなり喧嘩を吹っかけるかのようなセリフとともに出てきたのである。 「あ?」 「だから、アンタは遠坂の何なのよ? 彼氏?」 訝しげに尋ねてくる少女に、きっぱり簡潔に、 「下僕」 とだけ答えるランサー。これっぽっちも間違った答えではないが、一般人にしてみればナメられている以外の何者でもない。 「ふざけないでよ! アンタみたいなチャラチャラした、軟派そうな男が手に負えるタマじゃないわよ、遠坂は」 「そうか? いいように使われてるぜ?」 これも間違いではない。けれど、そんなランサーの返答はますます少女の癇に障ったらしい。 「アンタ……!」 声のトーンを一オクターブ上げかけた少女に対し、ランサーは人差し指を自分の唇に立てる。静かにしろ、というその合図とすやすやと眠っている凛が視界に入ったのか、少女は声のトーンを元に戻すと小声で話し始めた。 「……悪かったわ」 「いや」 少女の声を聞きながら、ランサーは凛の様子を確かめる。彼女はというと、何もなかったかのようにすやすやと寝息を立てていた。 「……負けたわ」 「は?」 勝手に話し掛けてきて、勝手に怒り出して、今度は勝手に降参宣言をする少女に、ランサーは訝しげに視線を向ける。 「アンタ、遠坂のこと見つめる目がすごく優しいのね」 「まあ、そうだな……凛のことは大事に思ってるからな」 サーヴァントとして当然であるし、男としても意識はしている。 「ふうん…ならいいわ」 少女は目を細めながら納得したように頷いている。 「けど『下僕』なら、勝負はまだついてないわね? 下僕さん、期限日までお互いがんばりましょ、って遠坂に言っておいてね」 起こすのは可哀相だから、そう言い置いて少女はあっという間に去っていった。 「何だったんだ、結局……?」 わからないまま取り残されたランサーは、何も知らずにすかすかと眠る凛の頬を幾度かつつく事で、もやもやした気持ちを落ち着かせてみた。 「そう言えば、ランサー」 帰り道、ふと気づいたように凛はランサーに問い掛ける。 「広場にいたとき、誰か来なかった?」 「ん? ああそういえば、猫っぽい雰囲気の姉ちゃんが来たな」 何で私が『嬢ちゃん』で綾子が『姉ちゃん』なのよ、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ凛は続きを促す。 「オレは嬢ちゃんの何なのか、って聞かれたから言っておいたぜ」 ニヤニヤとしてどことなく嬉しそうに言うランサーに、ラッキー、と思った凛だったが、次のランサーの言葉で天地がひっくり返る。 「下僕だ、って」 ………………。 沈黙の後にいきなり立ち止まった凛に、ランサーは身の危険を感じてとび退った。さっきまでランサーが立っていた場所に、凛の鋭いガンドが放たれる。 「ちょ、ちょっと待った! オレが何をしたっていうんだ!」 「問答無用! この役立たず!」 せっかく、今日という日にあの場所に綾子を呼び出したっていうのに! 肝心なときに役にたたないんだから! 3年になるまで、どちらが先に「彼氏」を作るか。 凛と綾子の壮絶なる女の戦いはまだまだ続くことになりそうだった……。 ・END・ いつの間にか忘れ去られていた「彼氏作ろう大作戦」……いや、ワタシも忘れてたよ(笑)。 槍凛です、槍凛。もうホント、ランサーが凛のサーヴァントだったら、いちゃらぶいちゃらぶして(主にランサーが)くれて楽しそう〜。という妄想の産物ざんす。たはは…。 |