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二天戴くとも |
「やっぱり、ここにいたんですね」 「………あァ?」 冬木港近くの洞穴。 ごつごつとした岩肌の上に名ばかりの敷布をしいて寝転がる体躯があった。 極彩色のアロハシャツに、所々擦り切れた跡のある皮のパンツ。その隙間から覗く筋肉は隆々と逞しくありながら、一切の無駄を感じさせない。けれど、どこか荒んだ…というか、無法者というか……有体に言えばそのスジの人に見えるのは、獲物を狙うような鋭い目つきと大ぶりの耳飾りのせいだろう。 この場に人がいたらさぞかし驚くだろう。 そんな男に平然と話しかけているのは、どこをとっても愛らしく、育ちのよさそうな金髪の少年であるということに。 「探してましたよ?」 「………そーかい」 主語も目的語ない少年の言葉に、それを理解していながらも簡単に男は流す。 それだけではない。少年が自分の側まできてちょこんと腰を下ろすのをみると、すぐに瞼を閉じた。 明らかに、誰が見ても不貞寝モード。 そんな男……ランサーに構うことなく、少年は言葉を続ける。 「いいんですか? さっさと行かないとまたアレで雁字搦めですよ」 「………そりゃ、オメーもだろ」 不承不承という口調で言葉を返す男に、少年はあはははは、と軽快に笑う。 ほんの僅かな時間が過ぎる。 傍らの子供からの発言がなくなると、つまらなくなったのか、ランサーの方が口を開く。 「………オメエは行かねえのかよ」 「ボクだって、好きでこき使われてるんじゃありませんから」 間髪入れずに返ってくる少年の答えに「違いない」と男は笑ってみせる。 「アレのサーヴァント使いの荒さはどこからきたもんかねェ……」 「ホントです。生まれつきなのか、それとも例の……」 「ああ、教会から修道院をたらい回しにさせられていた、ってヤツの時か……」 そんなの、と一旦言葉を区切ると男は断言した。 「ありゃ生まれつきだろ。間違いねえよ」 「ボクもそう思います」 めずらしく意見が一致したなあ、と言うと口の端に笑みを浮かべる男。ホントですねえ、と少年も今度は同じように笑みを浮かべる。 「は〜あ、何だか考えてたら疲れちゃった」 と、唐突に少年は仰向けに寝転がっている男の胸板に「えい」とうつ伏せる。その拍子に少年の肘が鳩尾に入ってしまった男は、げほっと息とも咳ともつかない声を上げると少年の無体に当然の抗議をする。 「何しやがんだ、テメエ!」 「さっきから一人でゴロゴロしている人に、ボクの気苦労がわかるって言うんですか」 要するに、自分もゴロゴロしたいのだろう。そう当たりをつけたランサーはしっしっと追い払うように少年の目の前で手をヒラヒラさせる。が、 「ちょっと、いたいけな少年にゴツゴツとした岩肌で寝ろって言うんですか! うわ酷い! 幼児虐待反対!!」 「何が幼児だこの金ピカ! 思考回路はデカい方と同じじゃねえか!!」 「あんなのと一緒にしないで下さい! ボクは幼い少年として当然の権利を要求しているまでです」 「自分で幼いとか言ってる時点で……つか、『幼い少年』の部分を『王』に置き換えてみやがれ!!」 ……そう、かの暴虐の嵐。金色の英雄王・ギルガメッシュのお決まりのセリフである。 「あ、酷い! それ以上言うならランサーさんだって………」 と、少年王の何かが零れ落ちる……というよりは、スイッチが入る、と言ったほうが正しいかもしれない。 何しろ――― 「うわーー!! やっぱりコレかーーーーー!!」 数瞬の後、蒼の光の御子の身体は『天の鎖』で文字通り雁字搦めにされていたのである。 「……なんか、この光景って……すごく見覚えがあるんですけど………」 「見覚え、って……テメ………」 目をキラキラとさせて、周囲の状況を見渡す英雄王(小)。当然、ランサーの立派な腹筋に鎮座したままである。 「えっと、確か………」 「うわー! な、な、何してやがるっ!! そこっ……!!」 まるで昔の記憶を辿るかのようにして、少年の指が男のアロハシャツにかかる。 「ぬ、脱がすなっっ!」 「んと、この後は………」 ぷちぷちと軽やかな動きでアロハのボタンを全て外すと、少年は文字通りランサーの身体を外気に晒す。 「………んっっ……」 「あはは、可愛い乳首」 柔らかい、少年特有の指が男の身体を弄る。 その触覚に、どこか忘れかけていた痛みと甘さが急激に呼び覚まされるランサー。 「お前、それ以上……触ん……………」 「冗談ですよね? これでやめちゃったら面白くないでしょ」 と、少年の手は、指は容赦がない。 無邪気という名の邪気を纏った少年は、ここぞとばかりにその本性―――あの地上で最も傲慢な英雄王の気配を剥き出しにして悪戯を続ける。 「ねえ、ランサーさん……もうすぐいい声で鳴き始めるんでしょ……?」 よかったですよね、室内じゃなくて……まるで猫のように目を細めて、残酷な託宣を下す少年はその手を決して緩めない。 「誰が………ッ………んっっっ」 テメエの思い通りになるか、とでも言おうとしたのだろうが、生憎とそれはできない。ランサーの口唇には封をするようにして、少年の口唇が重なっていたのだから。 「………………………」 くちゅ、と舌を差し込むその手際のよさも、少年は英雄王と変わらなかった。けれど、英雄王ならそのまま舌と舌を掻きあわせて楽しむのに比べると、少年はすぐに離れて言った。 「……このまま、最後までしちゃってもいいですよね?」 「……………………」 処刑宣告にも等しい少年のセリフに、思わずその髪の色より青ざめたランサーだったが、 「お取り込み中、悪いのだけど」 と、白い花を振るような声に現実に引き戻された。 見れば、洞穴の入り口には法衣を纏った少女がその茫洋とした存在感を露わにしていた。 「……お二人には手伝っていただきたいことがあったので、探していたのですが………マスターの言いつけを逃れての逢瀬とは感心しませんね」 何か返答に困るようなことをさらりと言うカレン。さすがに聖職者たるもの感情の自戒はお手の物といったところである。 「………………」 「こ、これには…………」 チッ、という悔しげな表情の金色の少年。 そして、懸命に逃れようとする蒼い男。 「………………」 「深くもない理由が…………」 「問答無用です」 と、少女の手から放たれる紅の瀑布。 男を捕らえるに類を見ないほどの力を誇るマグダラの聖骸布である。 「……これから衛宮邸にてお世話になりますので、その引越しの準備を」 そうそう、と、一旦話を区切るとカレンはランサーの方に視線を向ける。 「このことは、貴方の本来のマスターにも伝えておきますから」 「え゛っ…………」 ぴしゃりと言い切ると表情一つ変えず、カレンは2人を引きずっていく。 「なあ、思ったんだけど……」 「奇遇ですね、ボクもです」 情けなく、だらしなく引きずられたままの2人は顔を見合わせると、 『何でここまでそっくりなんだーーーーーー!!』 と、空に向かって絶叫した。 冬木の空は今日も見事な秋晴れである。 ・END・ ちびギルとランサーはナリは変わっても力関係は変わらないと思います。 しかし、カレンは文字通り外見は母親似で、中身は父親似なんでしょうね………。 嗚呼、哀れなサーヴァントに合掌(笑)。 |