彼の人は散りゆく花にも似て



 ―――願わくば 花の下にて 春死なん―――


 寺の門近くに、たった1本だけある桜。その桜を見上げながら侍は息をついた。すると、
「……随分と余裕のようですわね」
 いつもの漆黒のローブをその身に纏わず、現代の衣服に身を包んだ可憐な姿を夜闇に晒してキャスターが現れた。主である彼女にちらりと目を向けると、アサシンは再び桜に視線を戻すと呟くようにして言った。
「……この花はそなたに似ている」
「……驚いた。貴方が口説き文句を口にするとは思わなかったわ」
 確かに、女を花に喩えるのは古来から使い古されてきた口説き文句だろう。けれどそんな浮ついた言葉から無縁と言っていいほどの男である。キャスターが驚くのも無理はない。物珍しいことは確かだが、彼女にとってただ1人の男から掛けられる言葉以外には意味のないことだった。
「桜は武士にとって特別な花で……」
「………いい加減にして頂戴。私は別に貴方から口説かれる覚えはないのですよ」
 益々口説き文句に似た言葉を吐くアサシンを、苛立たしげにキャスターは遮る。そんなキャスターを目の端に捉えたまま、アサシンはフ、と鼻で笑う。それはキャスターの逆鱗に触れるも同義だった。
「いい加減になさい!」
 つかつかとアサシンに近寄り、半オクターブ程高い声で抗議するキャスターに、平然と答えるアサシン。
「ふむ…なにか気に障ったか? 真理だと思ったのだが……」
「真理とかそういう問題ではありません! そんな気障な真似はおよしなさいと言っているだけです」
 会話が微妙に食い違っていることに双方とも気付かぬまま。
 ややあってアサシンが口を開く。
「気に障ったのであれば詫びよう。だが、桜のこの潔さがそなたを思い起こさせたのでな」
「私が? いさぎよい……?」
 確固たる、カタチ在る「望み」を持たずに生に執着する自分がいさぎよい、などとはキャスター自身思ったことなど一度も無かった。それなのに、この侍は何を言っているのだろうか……? 怪訝な表情になったキャスターに、言葉を補うようにしてアサシンを再び口を開く。


「……武士が目的のために散ることを、桜に喩えた。……おそらく、そなたもそういう生き様をする女子であろう……そう思ったのだ」


 望みもなく生に執着する浅ましさ、その醜さを心のどこかで自覚しているキャスターにとってそんな言葉をかけられること自体初めてだった。


「……何を馬鹿げたことを」

 口に出しては、それだけを返す。アサシンも心得たもので「そうか」とだけ答えるとキャスターに背を向けた。



 望みのために、潔く自らの命を投げ出す女を送り出すかのように。
 

・END・

 本編中、UBWでのキャス子の散り際があまりにも美しく、あまりにも切なかったのが残っていたようで。こんなキャス子の性格を理解して口にできるのは小次郎くらいかな、と。反対に、理解してても絶対に口にしないのが宗一郎。…せめてこれが逆なら、ねえ。


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