花と団子と弁当箱


「士郎〜〜〜〜〜!」

 
 昼食の後の洗い物をしていた士郎は、その声に蛇口をきゅっと締める。
「シロウ? 大河がきたようですが……」
「……ん…わかった」
 珍しく洗い物を放置したまま、いそいそと準備をし始める。既に下ごしらえの済んでいる野菜各種、洗い終えたばかりの鍋やフライパン。
「そういえば、今日は食器ではなく先に鍋類を洗っていましたね?」
「虫の知らせってヤツかな」
 ははは、と笑って済ませる士郎に不思議そうな目を向けるセイバー。するとそこには大きな風呂敷包みを抱えた大河がやってきていた。
「じゃじゃーん! 今年も今年もやってまいりました!」
 見たことのない形状のものに興味を抱いたのか、セイバーが素直に質問を口にする。
「タイガ……それは一体何なのですか?」
「ふっふっふ〜見て驚くな! 年に一度のご開帳〜それではいざ!」
 さらさらと結び目を解くと、微かな衣擦れの音を残して開かれたそこには……。


 見事なまでの漆塗りの重箱があった。


「………見事な細工ですね」
「あ、やっぱわかる? 嬉しいな〜☆ ギンギラギンに派手なワケじゃないんだけどさ」
 そこここに細工が施されているというワケではない。蓋の部分には桜が、そしてあたかもそこから舞い散ったような花びらが側面に蒔絵で細工が施されている。
「あまり過多の装飾を施していないからでしょうか、かえって美しく見事なもののように思えます」
「そーなのよそーなのよ。で、これを使って年に一度のお花見をするのが最高の贅沢なのよう!」
「……これを、使用するのですか……?」
 思わず呆然と大河を見るセイバー。彼女の目から見ると、この重箱は実際に使用するものではなく、その美しさを愛でるもののように思えるのだった。それは士郎も同じ意見のようで、
「そう思うだろう、セイバー? なのに藤ねえったらさ……」


「何言ってんの! どう見ても花見弁当用に作られた重箱じゃない!」


「……って言ってきかないから」
 もう説得する気も失せた、とばかりに重箱に詰める弁当作りに勤しむ士郎。そんな士郎の後姿と重箱を見つめながらにこにこしている大河を見比べると、セイバーはふっと表情を和らげた。


「それが、この箱の役割なら」


 そう言って重箱を台所へと運ぶセイバー。「うんうん、セイバーちゃんならわかってくれると思ってたわー」などと大河が合いの手を入れるのを小耳に挟んだ士郎は、傍らに来たセイバーに耳打ちする。


「……話、合わせてくれてありがとな」
 このままだったら暴発するところだった、と漏らす士郎にセイバーは返す。
「別に、タイガの太鼓持ちをしたわけではありません。私の思うところを述べたまでです」


 人に役割があるように、物にも役割がある。その役割を果たすことこそが存在の証。
 サーヴァントがマスターのために在るように―――――。

 後の言葉は口にせず、ただ静かにセイバーは士郎の手伝いを始めた。


・END・

 Fate中一、二を争う食いしん坊キャラ・藤ねえ(あとの1人は言うまでも無い)。この人の発言はな〜んにも考えてなさそうでその実、物事の核を突いているというか。最初のうちは大して気にもとめなかったのですが、衛宮邸メンバーの大長老として欠かせないなー。


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