雪〜冬木教会の場合


 それは日曜日の早朝だった。
 お勤めのために神父が聖堂のビスケット扉を開くと、周囲一面が真っ白だった。つまり雪。冬場でも気候が柔らかな冬木の町には珍しい。
「………………」
 何も言わずに扉をぱたんと閉じると、神父控え室の隣に設けてある納戸へ向かう。さすがに雪かきくらいはしておかないと洒落にならないことくらい神父にも分かっていた。
 ごそごそと中をかき回すこと数十秒……中に収められている物の数はたいしたことがないので、すぐに目当てのものを見つけると再び外界とを隔てる扉へと向かう神父。ノブに手をかけた瞬間、

「雪だ〜ゆき〜!」

 と、隣に並んだ神速のサーヴァントがいつの間にか扉を蹴破る勢いで開こうとする。気付いた言峰だったが、止める間もなくランサーは思い切り観音開きの扉を全開にすると白銀の野へ駆けてゆく。
「結構、降ってんな〜」
 空は青く澄み切っていたが、昨夜の内に降り積もった雪は相当なものだったらしい。無人の野に一人立つランサーの足首まですっぽりと雪が覆い尽くしている。
 ずかずかずか。
 プリーストコートの裾が汚れる(というよりは濡れる)ことも気にせず、スコップを手にした言峰はランサーの傍まで近寄ると、何も言わずにそれを手渡した。
「?」
 いきなり見慣れない道具を渡されて一瞬驚いたランサーだったが、スコップを手にした言峰が自分の所まで歩いてきた道のりをみれば、きれいに雪が除けられている。
「参道全てとまでは必要ではないが、参拝者が歩けるくらいにはしておけ」
「へええ〜面白えなー」
 ランサーのリアクションは言峰のセリフに対してのものではなく、奇妙な形をした道具が雪をかき分けるに適しているということであった。
「道ができるくらいでいいのか?」
「そうだ」
 スコップを興味津々で眺めつつ、さっそく作業に入ったランサーを横目に聖堂へ戻る言峰。いつもより深々と冷たい空気の聖堂に、暖房を強めに入れると、ふとあることに気付き居住区の方に戻る。和室の扉を開けるとそこには、



「やはりな……」



「何がやはりだ。ええい、忌々しい! 何故にこの館は暖を取るのに適さぬ!」
 それは石造りの建物だからだろう、と言おうとして言峰は口を噤んだ。数年前も同じような会話のやりとりをした記憶があったからだ。その時も英雄王は炬燵に入って(というよりもぐって)掛け布団をすっぽりと肩まで被っていた。やはり珍しく雪の降った翌朝のことだった。
「……ランサーは外へ行ったぞ」
「狗風情と我とを同列に扱うか!」
 いつもならバビロンの門から宝具の一つや二つ飛んできそうな勢いだが、ギルガメッシュにとって今一番の重要事は暖を取ること以外に他ならないらしい。
 絶対に騎士王には見せられないだろう英雄王の醜態を見つつ、ふと窓に視線を移すと、何やら礼拝にきたらしい子供たちにせがまれて何かを作っているランサーの姿が見えた。
「ねー雪だるまー作ってー!」
「かまくら作ってー!」
「ユキダルマ? カマクラ? 一体どんなんだよ?」
 門前に雪だるまやかまくらが乱立する情景を思わず頭に浮かべてしまった神父は、面白くもなさそうに「一応、釘をさしておくか」とガタガタ震えているギルガメッシュを後にして和室を出た。


 回廊の手摺に積もった雪が朝の陽光を受けてきらめいている。反射した光が目に刺激を与えるのを防ぐように手を翳した言峰は、ぽつりと呟きを漏らした。




「狗は喜び庭駆け回り、猫は炬燵でまるくなる……か」


・END・
 オチは多分皆様予想通りかと(笑)。イラストにするなら「雪の下のランサー」より「炬燵に潜って金色の綿入れ半纏を着ているギル」の方が見たいですな。多分…つか絶対ギル様の半纏は金。


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