雪〜遠坂家の場合


「うっわ………」
 あまりの寒さに目を覚ました凛は、朝の光を拝もうとカーテンを勢いよくあける。シャ、っと小気味いい音を立てて開かれたカーテンの先には、蒼穹と銀世界が彼女の視界に待っていた。
「と、とりあえず着替えて暖房入れよう……」
 石造りの洋館はさすがに冷える。しかも中々暖まらない。これで人がいればそれだけで少しはいいけれども、一人ときたものだ。機械のぬくもりも人のぬくもりもないこの家にとって、雪の日の朝ほど冷たいものはない。
「うう〜寒っ! 早く暖房入れてお湯沸かして、あったかい紅茶が飲みたい〜〜!」
 自分でやるしかない、と分かりきっているからこそあえて声に出して言ってみた凛だった。


 が、
「ああ、おはようマスター」
 さぞかし冷え切っているだろうと上着を着込んで階下の居間に降りてきた凛だったが、そこはほこほこといい具合に暖まっていた。しかも、
「紅茶でいいか?」
 と、甲斐甲斐しく世話を焼く男メイド……もとい彼女のサーヴァント、アーチャーがひょっこり台所から顔を出す。あまりの居心地のよさに凛は「これじゃ私、人間として退化するわ…」と内心で思いつつも「上げ膳据え膳ってのもかなりいいかも」などとしばしの女王様気分に浸っていた。

「まずは身体を温めたまえ」
 アーチャーが出してきたのは、乳茶褐色の液体が満たされたティーカップ。微かにただようシナモンの香りの他にも何やら芳しい。
「? ただのロイヤルミルクティーじゃないわよね……マサラチャイ? …って、アンタ買い物に行ってでもきたの!?」
 確か、聖杯戦争前にはなかったはずのスパイスをふんだんに使用している。しかしいつの間に……と思った凛だったが、あっさりとアーチャーはその答えを否定した。
「いや、ここにあったものだけを使用させてもらったのだが?」
「え……!? あ、美味しい☆ けど、私マサラチャイで使うようなスパイスなんて買ってたっけ……?」
 セリフの途中にさりげなく感想&感謝をこめて呟くように言う凛に、満足げな笑みを見せたアーチャーは、
「初日の、片付けをしている最中に見つけたのだ。何やら賞味期限が……」
 などととんでもないコトを言う。二口目を含んでいた凛は思わずマサラチャイを吹き出しそうになった。が、
「ギリギリだったので、早く使用してしまおうと思ってな……おや、どうしたのかなマスター?」
 皮肉げに言葉を続けるアーチャーに醜態を見せてなるものかと間一髪のところで飲み込む。
「………アンタね、その性格の悪さはどうにかならないワケ!?」
「性格が悪い、とは心外だな。マスターとサーヴァントは似たもの同士、というのを知らない君ではあるまい、マスター?」
 ぴく、と片側の頬の肉が痙攣しそうになるのを堪える凛。この一筋縄ではいかないサーヴァントが自分を「マスター」と呼ぶときの響きが、何か―――普段「士郎」と呼んでいる彼を「衛宮くん」と呼ぶときのそれ―――に似ているのを知っているからだ。
「ちなみに牛乳は消費期限を過ぎてはいたが、熱を加えているので問題なかろう?」
「……問題があるもなにも、私だって余った牛乳はそうやって飲んでるわよ」
 うっわー、サーヴァントとこんな所帯じみた会話をすることになるとは思わなかったわ。凛は心の中で呟かずにはいられなかった。


「じゃ、後はよろしく。何かあったら呼ぶから」
「了解した」

 館の扉を閉じると、眼下には道が広がっている。下る道のりは、きれいに雪が除けられていた。
「……やっぱ、人間として堕落するわ、これは」
 あまりに家事一般その他に有望なサーヴァントも困りものかもしれない。何しろ相手は英霊。この聖杯戦争が終わったら、彼は再び英霊の座に戻る定めだ。
「こりゃ、アイツに先手とられる前にやっとかなきゃ……」
 私、これから一人で生活できなくなるわ……! と固く心に誓ってみせる遠坂凛がいた。


・END・

 一度は味わってみたいとワタシも思います、メイドアーチャー(笑)。ぜひともエ○のコスプレでもしてほしいなと。


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