雪〜衛宮家の場合


 広い庭が一面白くなる時、衛宮家には白い悪魔が現れる。

「おはようございます、シロウ」
「ああ、おはようセイバー」
 珍しく桜がいない朝の衛宮邸。居間で挨拶を交わした主従が朝食の支度をしていると、突如として


「士郎〜! イチゴのシロップ持ってきてー!」


 庭から朝の静寂を破るかのような大音声が響き渡った。それと同時に思わずコケる士郎。
「……………藤ねえ……」
 イチゴのシロップ。これが意味するところは一つしかない。頭を抱えたくなった士郎だったが、ここで出さなきゃあとからまた大事になるだろうと冷蔵庫を開ける。
「まったく、雪が降るといつもやるよな……藤ねえは」
「シロウ?」
 いそいそとガラスの器とスプーンと、かき氷用のシロップを出してきた士郎に、セイバーが不思議そうな目を向ける。
「え? セイバー、これは真似するなよ。こんなことやって腹壊さないのは藤ねえくらいだからさ」
「真似するも何も……その緑の液体は何なのですか?」
 イチゴ味のご指名だったが、冷蔵庫にあった昨夏の置き土産はメロン味。実はこれも「やっぱりー、メロン味ってのが高級そうじゃない〜?」と本物のメロンを家でたらふく食っているだろう藤村大河が選んだものだった。
「えっと…メロン味のするシロップだよ。本当なら夏場にかき氷っていうのを作った時に使うものなんだけど………」
 雪にかけて食べるのは藤ねえくらい、だよなあ……と一応、本人の名誉のためにそこまで言わなかった士郎である。
「……ええと、持っていってくるから、朝食は少し待ってくれるか?」
 セイバーに変な常識をうえつけられてはたまらないと思った士郎が、用具一式をお盆に乗せて庭に降りようとすると、
「使い走りくらい私がします。シロウはどうぞ朝食の支度を」
 と、サッとお盆を取り上げたセイバーがは縁側に用意してあったゴム長靴を履いてざくざくと歩いて行った。
「あ………ま、いいか」
 3秒ほど考えて朝食の準備に戻ろうとした士郎だったが、いきなり


「くぉら、士郎! 誰がメロン味のシロップ持ってこいって言ったのよっっ! てか、このガラスのお皿とスプーンは何よ! うわ〜ん、酷いっっ! 士郎ってばお姉ちゃんのこと、そんな目で見てたんだー! うううっ、ぐ・れ・て・や・る〜〜〜!」


 などと大声で叫び出され、大慌てで2人のいるところまで駆けていく。この際、ふりふりエプロンをつけたままだったのはご愛嬌だ。
「な、なんだよ、藤ねえ! 雪にシロップかけて食うんじゃなかったのか!?」
 実は、雪が降った際の行事のようになってしまっていたので、今回もだろうと何も考えずに用意をした士郎だったのだ。けれど、
「ちがうもんちがうもん、士郎のばかー! 何よ、変な目になっても知らないんだから〜!」


 変な目。


 連想のつながらない熟語に、「?」が飛び交う士郎の頭の中。すると、所在なげに佇んでいたセイバーがすっと差し出してくるものがあった。先程彼女に持たせたガラスの器とスプーンだった。
「?」
「タイガが必要としていたのはこれではなかったようです」
 どういうことだ? と思いながら、そしてお盆はどこだ? と視線を巡らすと、


「……雪うさぎ………?」


 丸型のお盆に鎮座しているのは、雪でできた可愛らしいウサギ。ただ、普通であれば南天の実などが目として入るものだが、生憎と衛宮邸の庭にはなかったようで、
「それで、イチゴのシロップ………?」
 苦肉の末、大河はイチゴのシロップをちょびっと垂らして目の代わりにしようとしたらしい。
「そうだったんだ……ゴメン、藤ねえ。いつものアレかと思ってた」
 何気に容赦ないセリフの士郎に、ぷーと頬を膨らませる大河。
「いいもん、ウチの庭から南天持ってくるもん」
 と、雪うさぎののっかった盆をセイバーに渡すと、くるりと自宅へ向かっていった。




「……でも可愛いよな、コレ」
「とても愛らしいと思います……大河が心をこめて作ってくださった分、よけいに」
 画竜点睛が入ったら、これはまた一段と可愛らしくなるのだろう。
 雪の日の冷たく暖かい、ウサギは。


・END・

 この藤ねえによく似ていると相棒・紅嬢から太鼓判(烙印?)をもらった佐々木でした。いや、いくらワタシでも雪を食ったことがあるのは小学生の低学年までだよ(笑)。


>戻る