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真夏の怪談…? |
「しろー、持ってきたよー。はーやく〜!!」 玄関から聞こえてくる明るい能天気な音声。その大音声に居間にいたセイバーが最初に反応する。 「シロウ、タイガが来た様ですが」 「ん? ああ、そういや何か持ってくるって言ってたな……じゃ、ちょっと行ってくる」 身軽な動作で立ち上がった士郎は軽やかな足音を立てて玄関へと向かう。そんな主の後姿を見送るとセイバーは付けっぱなしになっていたテレビに視線を移した。 夏、ということで色々な夏の料理が大写しになっている。 夏の野菜を使った料理各種は、彩りがよいものが多く見ているだけでも楽しい。トマトとなすびがたくさん入ったカレーも、ほっこりとした南瓜の煮物も、色鮮やかで夏の生気をそのまま形にしているように見える。 デザートになる果物各種も甘いものが多い。香りからして甘い桃、爽やかな口当たりなのに濃い果実の風味のする梨、見た目から想像もつかないような中身の色をした西瓜。 そういえば、とつい先日の出来事にセイバーは思いを馳せる。 大量の花火セットと大玉のスイカを持って突如としてやってきた藤村大河と3日で飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになったのは記憶に新しかった。花火も美しかった、浴衣というこの国の民族衣装も素朴な味わいがあってよかった。何よりも、縁側で寛ぎながら口にした西瓜の美味なことといったら……! 「あの甘さが……」 この状況を表しているようだと思いつつも、もう一度口にしてみたいと思わずにはいられないセイバー だった。すると、 「………これは………!!」 まるで、彼女の心を読んだかのようにテレビの画面には西瓜が大写しとなる。それだけではない、中に映っている人物は心底美味そうに西瓜を頬張っているではないか……!! 嗚呼、と思わずテレビを凝視する騎士王。 程よく冷えた西瓜は、次々と他人の腹へ収まっていく。ああ、ああ、とテレビの中の人物に半ば殺意を覚えかけながらも画面に釘付けになっていたセイバーだったが、次第に顔色に変化が生じてきた。 「………………………!!」 「あら、悪いわね衛宮君」 「いや…家に置いてても腐らせるだけだから」 夏休みも終わりに近づいたそんな夕暮れ。強い日差しの突き刺す日中をさけて野外に出た士郎は、半分にカットした西瓜を丘の上の洋館まで届けたところだった。 「腐らせる……? あら、こんなに甘いのだったら………」 几帳面に切り口にラップがかけてあるというのに、甘い香りは鼻空を刺激してくる。今年は暑さが厳しいせいか、全体的に西瓜のできがよいとはいわれていたが、目の前のそれは予想以上に甘みの強そうな一品である。 「うん……それがさ…………」 「ええっっっ!!!」 ごにょごにょと説明する士郎に途中まで聞いたところで思わず素っ頓狂な声を上げる凛。 それもそのはず。何しろ、 「セイバーが一口も口にしないって……!?」 「そうなんだよ……けどさ、前は美味しい美味しいって喜んで食べてたんだ。なのに急に……」 心底困り果てた様子の士郎に対して、凛は厳しい視線で問いかける。 「アンタ…食費がかかるー、とかセイバーの前で言ったんじゃないでしょうね!?」 そんなコトを言ってたらタダじゃおかない、というような凄みを込めて睨みつける凛に対して、 「ば、バカなこと言うなよ!! そもそもオレがしっかり魔力供給できてないのが悪いんだし……」 しっかりと否定する士郎。そんな士郎の様子に嘘はないと判断したのか、凛は普段の冷静な彼女に戻った表情でうーん、と唸っている。 「………どーも、解せないのよねえ………」 「だろ? それに普段の食事はちゃんと食べてるんだ………西瓜だけ口にしないんだよ」 そりゃまた、と半分他人ごとのように相槌を打つ凛。 「こないだ藤ねえが田舎から送ってきた大量の西瓜を分けてくれたんだけどさ、誰も食わないから中々減らなくって………」 柳洞時にも差し入れして、いつも世話になっているお礼と称して間桐家にも渡した。けれど、まだ衛宮家に居候を続ける西瓜たちは、少しでも涼しいところへというコトで蔵に入れられている。 「………じゃアンタ、大量の西瓜に囲まれて毎日の鍛錬を……………」 そんな絵柄に思わずぷ、と凛は吹き出しかけたが衛宮士郎にとっては笑い事ではない。多少げんなり、とした様子の士郎を見かねた凛は、 「じゃ、私が聞いてみるわ。女同士の方が気兼ねないコトもあるでしょうから」 と、明るい調子で士郎の背中を二三度ばしばしと叩いてみた。 「……………………………」 「……………………………」 「………大丈夫なのかな、遠坂のヤツ……」 廊下から居間を除き見るようにして二人の様子を窺う士郎。と、その時、 「士郎ー、終わったわよー!」 と明るい凛の声が響く。おそるおそる襖を開けてみるとそこには、 「あ、シロウ! お先にいただいてます」 はぐはぐと西瓜にかぶりついているセイバーがいた。 これは一体…? と呆然とその情景を眺めている士郎の袖をつんつんと引っ張る感触があった。見ると凛が袖を引っ張りつつ視線で外を促していた。場所を移動しよう、ということなのだろう。軽く頷くと静かな足取りで二人はその場所を後にした。 「は?」 「だから、テレビ禁止令出したほうがいいと思う」 唐突な凛の発言に、彼女の意図を掴みかねない士郎は思わず聞き返す。 「何で、また」 「うん…要約すると…………」 あの時……そう、ちょうど士郎が大河に呼ばれて玄関に出て行ったときの話だった。居間でおとなしくテレビを見ていたセイバーはとある二人組のコントもどきの寸劇を見ていたらしい。で、 「スイカの食べ過ぎでスイカの化け物になった男が、町中を恐怖に陥れる話………って、それを………」 どうやら、純粋無垢な騎士王は信じ込んでしまったらしい。西瓜を食べすぎなければそんなことにはならないのだし、そもそもが作り話だというのに……! 「ホント、夏は怪談の季節だっていうけどね………私たち、もう十分すぎるほど怪談もどきを経験しちゃってるから………」 「………そーだよなー………」 やはり普通の人間と魔術師と英雄では物事の尺度が違うんだろうな、というコトをしみじみ実感した二人であった。 ・END・ 元ネタはド●フ出身の2人組のコントです。セイバー同様、佐々木の弟も相当なトラウマになったらしく、未だに彼はスイカが食べられません。哀れ。 |