|
月愛でる主従 |
「あー、これでようやく魔力が少しは補えるわ」 「……これだけ食って少しかよ!」 ある秋の晩の衛宮邸。5合炊いた米はキレイさっぱりなくなっている。メインの秋刀魚&大根おろし。豆腐と玉ねぎの煮物。茄子の味噌汁にキュウリとワカメの酢の物……トドメに梨を2個…しかもソフトボール並みの大きさの新高である。おかず各種は、明日の朝の当番の桜の労を減らそうと多めに作っておいた……のだが、鍋は綺麗なまでに空っぽだった。 「しょーがねぇだろ。魔力の供給がなきゃ現界してられねーし、少しでも消費を減らそうと霊体になってるとお前が嫌がるし」 「いや、それは………月見団子いるか?」 ランサーの愚痴をかわそうと、士郎は苦し紛れに月見団子を出す。「いる」と嬉しそうに表情をほころばせたランサーを見て、きな粉とつぶ餡の用意をしようと立ち上がった。 十五夜、ということで月見団子を用意したのはいいが、こういう日に限っていつもの面々が不参加だった。凛は探したい資料があるから家の書庫に篭もる、と言い出し、桜もまた慎二に引きずられるようにして間桐の家に帰っていった。こういう行事には先陣を切ってやってきそうな藤ねえもまた家の都合とやらで―――多分、若い衆たちがお嬢のために月見団子を作ったのだろう―――いない。結果として男2人で月見という、うすら寒い現実となった。 「なー、ゲッペイは作らねーの?」 団子と付け合せのきな粉&つぶ餡。急須に湯のみと一式揃えた士郎が縁側に向かうと、先に月を見ていたランサーが聞いてくる。 「ゲッ……って、何でお前が知ってんだ?」 「タイガが言ってたんだよ『士郎の手作り月餅はすごく美味いんだぞ〜v』って」 藤ねえ、余計なコト教えるな。思わず心の中で呟く士郎。 「なー、ゲッペイ〜」 「……わかったよ、今度作る」 これじゃ犬を餌付けしているようなものだ。当の本人が聞いたらすごーく嫌がりそうなことをちょっとだけ考えた士郎だったが「楽しみだなー」とか「これでタイガに自慢できる」とか言っているランサーを見ると、まあいいかという気にもなってくる。 「しかしさ、ホントにお前って変だよな」 ピラミッド状に積み上げられた月見団子がきれいさっぱり2人の腹に収まって、胃を落ち着かせようと熱い日本茶をすすりながらランサーはおもむろに口を開いた。 「なんだよ、魔術師らしくないっていうのは俺も自覚してるよ」 凛あたりから耳にタコができるほど言われているので、また小言かよという気もしないでもない士郎。そんな士郎をちらりと目の端に捕らえながら、 「違うさ…そうむくれるな。オレが言いたいのはお前が『日常』と『非日常』の区切りをつけてるのが変……いやどちらかというと面白い、というヤツさ」 1人納得したようにうんうんと頷くランサー。に対して、士郎は納得がいかないというような素振りだ。 「だから『日常』と『非日常』って……」 口に出してみて士郎もあることに気づいた。 「そうか…そういえば昨日は」 殺し合いをしていた、ランサーと一緒に。他のマスターと、他のサーヴァントと。なのに今日は彼と一緒に暢気にも月見なぞしている…色気もなく。 「お前はこうやって周囲の人間と送る日常があると思えば、オレと共に殺し合いに参じる非日常を完全に分けることができる……嬢ちゃんはどうだ? 非日常の中に日常を欠片だけ抱いて周囲に合わせてる。イリヤ、つったっけかバーサーカーのマスターの嬢ちゃん。あれなんか日常も非日常も区別がねえだろ」 彼女らにも言い分はあるだろうが、ランサーの言うことはわかる。そんな風に士郎が軽く首を動かすのを見て、 「そういうこった。だからお前は面白い」 と、ランサーは断定的な一言でまとめあげる。しかし士郎の方は、 「……何だか、俺、珍獣みたいな扱いじゃないか」 と不満気だ。 「まあ、そういうことになるな」 否定をしないランサーに、士郎はますます不満そうにして、 「だったら日常でのほほんとするなよな。明日からメシ抜きにしてやる」 などと伝家の宝刀をいきなり抜いてくる。そりゃ勘弁してくれよ、と軽い口調で反省の色すら見せないランサーを尻目に片付けをしようと縁側を立つ士郎。そんな士郎の後姿を見送ると、彼に背を向けてぽつりとランサーは呟いた。ほんの少し楽しげに。 「……そんなマスターを気に入っているオレも充分珍獣なんだけどな」 ・END・ 士郎&槍。意外と似たもの同士という気がします。士郎の行く末を槍が知ったら嘆くでしょう(笑)。それくらい気に入っていると思われ。しかしこの状況はどう見ても男夫婦……。 |