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お山の魔女の愛の巣にて |
「星降る晩の鏡の前で、」 「………………」 「ワインと涙とロバの血を、」 「………………」 「ガラスの小瓶で混ぜ合わせ………」 「………………」 「入れる、っと……」 「………お前、2度もマスター殺してどうしようっていうんだ?」 「きゃあああっっ!」 白絹を引き裂くような悲鳴が響いたかと思うと、ガチャリと耳障りな音がそれに取って代わる。無残にも粉々に砕け散ったガラスの小瓶。更にその残骸からはみ出るようにして、得体の知れない液体がじわじわと零れ出る。呆気に取られた表情で一連の流れをただ見つめていたキャスターは、我を取り戻すと可憐な目元に殺意をも滲ませて背後の男を振り返った。 「貴方…ランサー…!」 激昂したキャスターはそのまま片腕を振り上げると、平手打ちの態勢でランサーに挑みかかる。けれど、ランサーは避ける素振りさえ見せずにキャスターの華奢な手首を軽く掴んだ。 「おっ…と。何だ、意外と手の早い女なんだな」 などとふざけたことを言う余裕すら見せて。もっとも、彼にとっては軽くであってもキャスターにとっては充分に痛みを感じる程度のものであった。その表情に苦痛が表れるのを見てとったランサーは、もとより彼女を痛めつけるつもりなどなかったのだろう、すぐにその五指を解く。 「………何の用です、ランサー? そもそも山門のアサシンをどうしたというのですか?」 まだ痛むのだろう、自分の胸元に引き寄せた手首をもう片方の手でさすりながら、険を含んだ眼差しでランサーを睨みつけるキャスター。だがそんなキャスターとは対照的に、ランサーは頬をぽりぽりと掻きながら微妙な笑みを浮かべるとぽつりと言った。 「お前、自分が何したか分かってないだろ?」 何しろ、柳洞寺山門を守るアサシンこと佐々木小次郎との一勝負を覚悟して槍を手にしていたランサーが見たものは、哀れにも白目を剥いて横たわる男の姿だったのだ。 「何とは……? 大体、私の質問に答えていないようですが」 「だから、アサシンの野郎は白目剥いてブッ倒れてたんだがよ……そんなこたできるのは、お前さんだけじゃねえのか?」 きょとん、とした表情の後に考え込むキャスター。ぶつぶつと「ちゃんと成功したはず……」とか「製法は間違えてないのだけれど……」とかいう呟きに、不安を感じたランサーが思わず尋ねる。 「お前、一体あいつに何を飲ませたんだ?」 そんなランサーの声で現実に引き戻されたのか、いたって真面目に答えるキャスター。 「ヤモリとバラと蝋燭を焼いて潰して粉にしたものですけど? おかしいわ……ちゃんと丑三つ時に……」 それは丑三つ時がどうこうではなく、すでにヤバいものだということにキャスターは気付いていない。サーヴァントでさえ失神させる威力を持つものという時点で、相当にヤバいものであるというのがうかがえる。 「………まさか、それもマスターに食わせるつもりだったんじゃ………」 「そうだったのですけれど……ああよかった。そんな危険なものを宗一郎に渡すところだったなんて。やはり毒見は必要ね」 つーか、字面だけでアヤしいコトに気づけ! 思わずツッコミを入れようとしたランサーだったが、彼女の次の発言でそれどころではなくなった。 「それではこれも作り直して……丁度よいところにいらしてくれて助かりましたわ、ランサー」 「……へっ!?」 いきなり話の矛先が自分に向いてきて、思わず一歩引くランサー。 「今、貴方が壊したこちらの薬……責任をとっていただくことにしましょう」 「それ…って……オレに飲め、と……?」 にっこりとまじりっけなしの笑顔で頷くキャスター。反対に一気にランサーの顔からは血の気が引いていく。こういうときばかり予感が的中する、自らの幸運ランクの低さに思わず頭を抱えたくなったランサーだった。 「そ、そもそもそれって、な、何の薬なんだよっ!」 「決まっているでしょう? マスターとサーヴァントの間には信頼と愛情が不可欠。宗一郎に私のことをもっと気に入っていただくための……」 「つ、つまり! 惚れ薬ー、とか媚薬ー、とかの類なわけなんだよな!? な!」 「……まあ、平たく言えばそうなりますわね」 思わず心の中で勝利の雄叫びをあげるランサー。 媚薬の類だったら……! 「実験台を必要とするような薬を作るくらいなら、確実にしかも効果の高い薬を他所から持ってくる方が早いだろう! な!」 「……どういうことです? 詳しく話を聞かせていただきましょうか、ランサー?」 「実は……」 ……かくしてキャスターは冬木教会においてその陣を張るのである。本編で語られる理由の他、冬木教会に隠された媚薬の類を得るためだったとか……? ・END・ 初書きキャス子さんでした。お友達にキャス子Fanが多いので、好評いただいたのが嬉しかったな〜。一応キャス子さんのテーマソングは『バレンタイン・キッス』だと思いますが『バレンタインに黒バラを』もいいよな〜。ちなみに作中の呪文は『魔道王グランゾート』のEDから使ってみました(笑)。 こちらから、この話を元にした紅嬢原案のミニコント(?)へいけます。 |