境界線上の姫君


「………………」
「………………」
「……どうしたらいいと思いますか?」
「だから、何でオレに訊く?」

 衛宮家の道場。磨かれた床の上にセイバーが正座しているのはよく見られる光景だったが、今日のところは普段見られないもう一つの人影があった。
「貴方から声を掛けていただいたと思うのですが」
「そりゃ、珍しいものを見させてもらったからな」
 うんうんと頷きながら答えるランサーを、セイバーは呆れたような怒っているような表情で見つめる。
「食い物を目の前に、手を付けずに考え込んでるオマエなんて相当に珍しかろう?」
「……そ、それは、まるで私が食べることしか考えていないような言い種ではありませんか! ランサー! 速やかに訂正を求めます」
「訂正も何も、事実だけを言っているんだがな、オレは」
 確かに、チョコレートケーキを目の前に考え込んだ挙句、道場で正座して気を静めているセイバーの姿を見れば誰もが奇妙に思うだろう。ランサーにしても偵察の最中に思わず声を掛けてしまうほどのものだった。
「…まあ、面白いものを見せてもらったことではあるし、オマエが相談したいというなら聞いてやらないこともないが」
 にやにやと笑みを浮かべてみせたランサーに、歳相応の少女のようにしてむくれるセイバー。
「……貴方という人は……! 結構ですっ!」
 ぷい、とそっぽを向いたものの、立ち去る気配のないランサーに再びセイバーは視線を戻す。
「……どうしていつまでもここにいるのですか!?」
「この後が気になるんでな。あの菓子を平らげるか、マスターの坊主に突っ返すか……オマエの食欲と融通の利かなさとどっちが上かと思うと……っと!」
 最後まで言わせず、セイバーは手元にあった竹刀を掴むとランサーに打ちかかる。危なげなくその一撃をかわすランサーだったが、セイバーはその手を緩めようとしない。幾度となく打ち込み続ける。
「おいおい…マジになるなよ……」
「貴方がそうさせたのでしょう!」
 遮二無二打ち込まれる斬撃を紙一重でかわすランサーだったが、埒があかないと踏んだのか何十回目かの一撃を右手でがっしりと掴みこんだ。
「落ち着けって……ったく、本当に融通の利かない性格だよな、オマエは」
「あ、貴方にそんなことを言われる筋合いはないっ!」
 尚も火に油を注ぐような不要なランサーの一言に、セイバーは筋力Aの本領発揮とばかりに竹刀に力を込める。
「ちょ、ちょっと手加減しろって、オイ!」
「自らの失言を後悔するといい!」
 どうにかなりそうだ、と本気で冷たい汗をかき始めたランサーだったが、

「あ、坊主」
「えっ!?」

 セイバーの一瞬のスキを逃さず、ランサーは手早く竹刀を取り上げる。セイバーが気が付いたときにはすでに竹刀は道場の端へと投げられていた。
「ひ、卑怯です! ランサー」
「馬鹿、こんなのにひっかかるなよ」
 ランサーの半ばぼやきに似た反論に、セイバーはうう、と上目遣いにランサーを睨みつける。そんな視線に少しだけ表情をあらためると、ランサーは切り出した。
「まあ、どうせあの坊主のことだ。またオマエを女扱いして何か言ったんだろう。それでオマエもオマエで意識している、と……ったく、相変わらず不器用つーか……」
「……ランサー、光の御子ともあろう貴方が覗き見ですか!?」
 あまりに的を得たランサーの推測。思わず噛み付かずにはいられないセイバー。けれど、
「はあ? オレがここに来たのは随分と久しいんだがな。そもそも、オマエが坊主の事を意識するといったらそれくらいしかないだろうが!?」
「………………」
 的確なランサーの指摘にセイバーはしばらくの間黙り込むと、蚊の鳴くような声で呟く。
「……シロウは、私を…………」

 それは前日。
 バレンタインデーという菓子の行事があるとかで士郎がケーキを焼いていた。一つ一つにラッピングを施しているのを見て「誰かに差し上げるのですか?」とセイバーが尋ねたところ「そうだよ、日頃お世話になっている女の子にプレゼントしようと思って」と、士郎はその中の一つをセイバーに手渡したのだった。
「……別にいいじゃねえか。いや、それどころかマスターの鑑と言ってもいいだろうが」
「私はそういう見返りが欲しくて士郎のサーヴァントとなっているわけではありません! しかも『女の子』ですよ! サーヴァントに性別ぞないと何度も言っているのに……!」
 はあ、と一つため息をつくとランサーは興味が失せたとばかりにセイバーに背を向ける。
「ラ、ランサー! 話はまだ……」
「……いい加減オマエの惚気話も聞き飽きた」
 それだけを言うと、ランサーは霊体化してあっという間に姿を消す。

「ま、待ちなさいっ! ここまで聞いておいて逃げるとは卑怯な!」
 後にはセイバーのわめき声だけが道場に響いていた。


 一方、衛宮邸の屋根に避難したランサーは
「ったく、出来上がってるのに気付かないヤツの惚気なぞ聞いてられるか!」
 と憎まれ口を叩く一方で、
「まあ、あの坊主なら悍馬を乗りこなすくらいの器量はあるだろうよ」
 と楽しげに呟いてもいた。

・END・

 士剣&槍という構図…つか、兄貴ってば仲人プレイ(笑)。金剣も好きですが、士剣も好き〜☆ ランサーはセイバーからかうの好きなようですし、セイバーはセイバーで憎めない分ギルよりランサーの方が苦手のような気がします。つか、一説によればアーサー王もケルト人の血を引いていたらしいですから(笑)。


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