王は来たりて笛を吹く


「……随分と騒がしいな………」
 冬木教会の一室、私服姿でいたランサーは外から聞こえる音声に耳をすませる。門を開きつつも、どこか人を拒むような雰囲気のあるこの伽藍には珍しい。明るい声音が響くこともあって、興味をそそられたランサーがひょいと窓から顔を覗かせると、
「何だよ、これは……!?」
 思わず、そんな言葉が口をついて出る。

 何しろ、教会周辺には制服姿の少女たちが雲霞の如く群れ集っていたのだから。


 がちゃ。
 そんな音がして部屋の扉が開かれる。が、聖堂に人の気配がある以上ここに神父が姿を現すことはない。ならば考えられる侵入者は1人―――そう頭の中で計算したランサーは振り向かなかった。気に入らない奴の顔を見るよりは、冬の珍事の方が重要とばかりに。けれどランサーはともかくとして無視された英雄王がそんなことを許すはずもない。
「……………」
「……………」
 最初の反応がなかったことに苛立ったのか、ギルガメッシュはつかつかとランサーの傍まで近寄るといきなり、
「うがっ!」
 尻尾……もとい束ねているランサーの髪を引っ張った。途端にがう、と抗議の声をあげるランサー。
「な、何しやがるっ!」
「ふん、尻尾を掴まれて騒ぎ立てるのはやはり狗だな」
 平然と憎まれ口を叩くギルガメッシュを睨めつけると「ここで関わったら終わりだ」と自分で自分に言い聞かせて、再びランサーは窓の外へと視線を向ける。
「…………………」
 そんなランサーを見逃さず、ギルガメッシュは再びランサーの髪を引っ張る。
「だから……んっっ…!」
 制止の声をかけようとランサーが口を開いたところに、ギルガメッシュは何かを放り込んだ。
 ごくり。
 咀嚼する間もなく、それを飲み込んだランサーをギルガメッシュはただ見ている。
「……テメエ、何食わせやがった」
 変なものだったらタダじゃおかない、と気炎をあげるランサー。それに対してギルガメッシュは退屈そうに、
「……雑種の女どもからの献上品だ。昨日、宝具を使用せずに外出したものでな」
 と、それだけを言う。
「宝具を使わず……って、オマエがか?」
 普段は呪いレベルのカリスマを垂れ流しにしているギルガメッシュだったが、外出時には何かと不便なため、とある宝具を使用して姿を変えている。
「何度も言わせるな、たわけ」
「……いや、この性格のまま外出したのかと思うとよ……」
 よく人間社会に被害出さずに帰ってこられたものだ、と心底感心してしまうランサーだった。
「ふん、雑種どもがいくら束になろうと我を害することなぞできるはずもなかろう」
 別にお前の心配をしているワケじゃない、とツッコミ入れても無駄なことを熟知してしまっているランサーは「あー、そーかよ」と気のない返事で相槌を打つ。
「………しかし、何でまた」
 ギルガメッシュが雑種、と呼ぶ人間たちに関わられることを極度に嫌うことを知っているランサーとしては、宝具を使わずに英雄王が外出したことが不思議でならない。
「知りたいか、狗?」
 ようやくランサーが自分に視線を向けたことに満足したのか、ギルガメッシュは少しだけ口唇の端に笑みを刷くと、ランサーの背を壁に押しつける。


「!!」


 互いの口唇の端が掠ったのは、ほんの一瞬。


「…………こ、これとどういう関係があんだよ!」
 自分の身体に纏わりついてくるギルガメッシュの冷たい手を振り解くようにして抗議するランサーに、
「貴様と退屈を紛らわせていると、必ずといってよいほど邪魔が入るからな」
 振りほどかれるフリをしながら、ギルガメッシュは巧妙にランサーの耳元へ口唇を寄せて囁く。
「………?」
「……言峰を聖堂に封じておけばよいことだ。あ奴も被っている殻には従わざるを得まい。何、簡単なことだ。2月14日に教会へゆけば願いが成就する、と学び舎の前で流言を蒔いただけのことよ」
 カリスマAランクは伊達ではない。
「まったく……愚民どもを動かすことほど退屈なものもないが、役に立つのであれば致し方なかろう……狗、光栄に思え。貴様の為に、王たる我が雑種にこの姿を見せてやったのだからな」
「……別に頼んじゃいねえよ!」

 そう、確かに2人がコトに及ぼうとすると必ずと言っていいほど2人のマスターである言峰が絡んでくる。別にくんつほぐれずの3Pに突入するとかではなく(それもなきにしもあらずだったが)、いずれにおいても大迷惑を被るのはランサーだったはず。けれど、ギルガメッシュにとっても面白いことではなかった。
 何しろ、この美しき暴君が最も赦せないことは、自らの愉しみを邪魔されることなのだから。


 邪魔者の侵入を防ぎ、満足げな笑みを浮かべると、ギルガメッシュは事態を理解して青ざめつつあるランサーを見つめて口を開いた。
「……さて、覚悟はよいか、狗?」

 ―――よくない、よくない! 絶対によくないっっ!―――

 心の中で叫んでみるランサーだったが、知らぬ間に両の手首に金属質の冷たい感触が絡まってきてた。
 
 ここまでくれば、末路は語るまでも無い。

・END・

 ハーメルンの笛吹き状態のギルっち(笑)。お気に入りの玩具であるランサーをどうこうするためにやりたい放題です。これも愛のカタチ(おい)。愛の聖者の殉教日に相応しい結末というコトで。


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