アーカイブス・外軌常版・仮面ライダーブレイドたんスペシャル 〜 undead bemaiders 〜(上) |
――年の瀬の、喫茶ハカランダ。 一菜と始穂が和やかに談笑する傍ら、美月が絵葉書を見て嬉しそうに微笑んでいる。 一菜「あれ。なに読んでるの美月ちゃん」 美月「/// ――っ!? ///」 ……いきなり一菜に声をかけられ、慌てて絵葉書を隠そうとする美月……が、 隠すところまで見られていてはそれにも意味がないことに気づいたか、やがておずおずと それを2人に見せる。 美月「……北泰さんからの寒中見舞です。時節ごとに、いつも律儀に送ってきてくれるんですよ」 始穂「……『ホクシン』? 誰よ」 美月「あ。そーいえば始穂さんには結局言ってなかったでしたっけ。 ……元・バジリスクアンデッド、と言えばわかりますか?」 始穂「!?――――――――――――――――」 露骨に顔をしかめる始穂。彼女にとって、その単語は思い出したくもないことを嫌でも思い出させる。 その様子に気づいた一菜が、あわててとりなすように割って入った。 一菜「――ほ、ほらほら始穂ちゃん? もう3年以上前のことだし、そんなに気にしないで。 それに……悪いことばかりあったわけじゃないし。」 始穂「…………。ま、まぁね。正直、一菜と『ひとつになれた』のは、 状況に流されちゃったのは確かだけどそれでも嬉しい経験(こと)だったし――――」 さくら「…………ぶぉふっっ!?」 始穂がそう言った瞬間。その後ろで話に耳を傾けていたさくらが、盛大にコーヒーを噴き出した。 さくら「/// ――し、ししししし始穂ちゃんっっ!? そういういかがわしい物言いはしないようにっ! ///」 始穂「……『いかがわしい』?」 一菜「って、先輩?」 美月「なにがですか?」 きょとん、と。3人が3人とも不思議そうに――「わかってなさそうな」様子でさくらを見る。 さくらは慌てて「……い、いやその別になんでもないから。」とだけ言って顔を背けた。 美月「?……なんだったんでしょうか。」 始穂「さぁ。……まぁ、そうね一菜の言うとおりかしらね。 結局わたしたちはここにこうして居られるんだし、そろそろ吹っ切らないとね――」 言葉とともに天井を仰ぎ、過去のあの戦いに思いをはせる始穂、そして一菜と美月。 そう、あれは確か――ティたーんを倒して天王寺さんもやっつけて、 あとはギラファアンデッドただひとりを残すのみとなった、あのころの話―― 外軌常版・仮面ライダーブレイドたんスペシャル 〜 undead bemaiders 〜 ――それは、ある月のない夜のこと―― 謎のアンデッド反応を2つ感知し、現場へと向かったレンゲルたんとギャレンたん。 この時期活動しているアンデッドは、ジョーカー……始穂を除けば ギラファアンデッド一体のみであるので、2つ反応があるという時点で明らかに異常事態である。 そして向かった場所で……2人は、その謎の敵(アンデッド)に、あっさりと地面に叩き伏せられていた。 レンゲル「く……ぁうっ、つ、強ぉい……」 ギャレン「なんな、のよ、こいつ……アンデッド、じゃ、ない……?」 謎1『これはまた、異なことを言う。貴女達は、 天王寺理事長――ケルベロスアンデッドを存じておるのだろう?』 謎2『あはは、人造アンデッドが、ソイツ一人だとでも思ってた?? 甘いなぁ――甘い甘い♪』 2人「「な――!!?」」 つまり――言葉を額面どおりに取るならば――この2人も、人造アンデッドなのか。 ギャレンたんたちの驚愕をよそに、敵2人はこちらへと歩を進めてくる。 謎1『戯(たわむ)れはこのへんにしておこう。お前たちの持つカードを渡していただく――』 ギャレン「……美月ちゃん、逃げなさい――」 レンゲル「!で、でもっっ!! たちばなさ……」 ギャレン「いいから!一菜たちにこのことを知らせて……!」 なんとかレンゲルたんだけでも逃がすべく、ギャレンたんは立ち上がった。 その様子に敵の一人、猫のような姿の方が、嘲笑(わら)いながら目を細める。 謎2『あはは♪ ――逃がすと、思ってる?』 謎1『あがこうとするその意気や善(よ)し。逃げられるなら――逃げてみよ!!』 ギャレン「………………っ! 行きなさい!師匠の命令よ!!」 レンゲル「――――――――。 っ!」 ギャレンたんの叫びに弾かれるように、レンゲルたんは力を振り絞り、駆け出した。 その背中を見送りつつ、レンゲルたんをかばうように敵の前に立ちふさがるギャレンたんだったが―― 謎1『……行くぞ。 北秦(ほくしん)流薙刀(なぎなた)術奥義――“鍬鋏断ち(しゅうきょうたち)”!!』 ぶぉんっ、と風を凪ぐ音。そして叩きつけられる衝撃とともに、 ギャレン「…………!! く、ぁあぁぁぁぁぁっ……、」 ギャレンたん・橘さくらは意識を失った――――! ★ ――同時刻・トライアルBこと広瀬 香里のセーブハウス。ギャレンたんたち同様、 こちらも謎の敵に襲撃を受けていた。強烈な一撃を喰らい、地面に叩きつけられるトライアルB――!! トラB「ぐ……ぅっ!」 謎3『ふふふ……これで終わりですよ、広瀬博士――!!』 トラB「……ふっ、ん……なるほど、研究所でもみそっかすだったあんたがたいした進歩じゃない、 ウォーム(=ミミズ)アンデッド……いや、東呂木(とうろぎ)ちゃん?」 謎3⇒ウォーム『な――! 貴様、気づいて――!?』 ……否。こちらの謎の敵は、トライアルBによってあっさりその正体を看過される。 見抜かれたウォームアンデッドの驚愕を鼻で笑いつつ、トライアルBは高らかに言い放った。 トラB「仮にも元BOARD開発部の、あなたの上司をごまかせると思って? ――そのスレンダーな体型ですぐわかったわ!」 ウォーム『……いやその。それ上司とか関係ないですから。(汗 てゆーか、着眼点は体型(そこ)ですかっっ!?』 ……思わずツッコむ東呂木……いや、ウォームアンデッド。 それでも気を取り直して、トライアルBを叩き伏せるべく、 ウォーム『――と、ともかく!これでトドメ――!!』 カリス「(いきなり)甘い!!スピニング、ダンス――!!!」 ブレイドJ「下がって広瀬さん!!ライトニング――スラッシュっっ!!」 ウォーム『(どっかーん!)……ぐぎゃぁぁぁっっっ!!??』 ……襲いかかろうとした瞬間、カリスたんとブレイドたん(ジャックフォーム)の 同時攻撃を喰らい、なんの見せ場もなくあっさりへち倒されたのだった。 変身が解け、人間体に戻るウォームアンデッド、いや、東呂木。 トラB「――ふっ。まったくツメが甘いったら。私自身はまだ戦えるほど回復してないんだから、 不慮の事態に備えて、緊急連絡(エマージェンシー)の手段くらい確保してるわよ?」 東呂木『……く、ぅっ……。け、けれど――これで勝ったとは思わないこと、ね……』 カリス「――勝ってるけど。これ以上ないくらい見事に。」 東呂木「あなた達はね。けれど今ごろあとの2人は――」 ブレイドJ『あとの2人…………? ! ま、まさか先輩と美月ちゃんの身に何か――!?』 トラB「……捨ておけそうにないわね。一菜ちゃん始穂ちゃん、 この娘を別の隠れ家に連行するから手伝って。」 そしてブレイドたんたちは、広瀬の別の隠れ家へと場所を移した。 ――その後に待ち受ける運命も知らずに。 ★ さらに同時刻。 夜の街の路地裏で、追い詰める影と追い詰められる影があった。 追い詰めた影は、仮面ライダーカイズィー・草加 雅菜。油断なくカイズィーブレイガンを構え、 目の前の相手を牽制(けんせい)している。そして追い詰められた影は―― カイズィ「そこまでよ、南郷(なんごう)――いや、 アルバトロス(=アホウドリ)オルフェノク」 南郷=アルバス「追い詰められ、ましたか……さすがはSB社の狗(いぬ)、 獲物を追い詰めるのは得意なようですね」 カイズィ「…………負け惜しみはあの世で好きなだけ言いなさい。もっとも、 オルフェ体に変身してるってことは、素直に逝く気もないみたいだけど。」 アルバス「えぇ。ただし変身はまだ途中ですが。」 言いつつおもむろに、南郷――アルバトロスオルフェノクは一枚のカードを取り出した。 そのカードを見て、カイズィーは驚愕する。 カイズィ「な……!? そ、それはまさか――!!」 あれは……ブレイドたんたちの使う、ラウズカード! いや――あれが本物であろうはずがない。アルバトロスの姿が刻まれたカードなど存在しないはずだ。 そして、アルバトロスオルフェの腕についている機械。それにはカードを読み込ませる スロットがついていて―― カイズィ「――そのカード、その機械は……アンタ!?」 アルバス「天王寺の遺(のこ)せし、人造アンデッドと同化する技術。その同化のベースが 人間ではなくオルフェノクであるなら……単純に考えて、 人間と同化したそれより強力だとは思いませんか――――!?」 不敵ですらあるつぶやきとともに、カードを、自分の腕の機械に差し込むアルバトロス! ……カードに刻まれている人造アンデッドの姿がアルバトロスそのまんまであるため、 その姿自体はオルフェノク体と比べほとんど変化はない。せいぜい、ちょっとカラフルになった 程度である……だが、その威圧感・闘気は、先程までとは比べ物にならない―― それこそがすなわち、アルバトロスオルフェノクが、さらにアンデッドの力を得たことの証だった。 アルバス「……地獄へ行くのは、貴女が先です。――いまだアンデッド体の作成は 不完全とはいえ、貴女を屠(ほふ)るくらいはっっ!!」 カイズィ「――――く――――ッ!!!」 ビュォゥッッ!!! と鋭く振るわれる、アルバトロスの鉤爪の一撃!! カイズィーはそれを 紙一重で避けすぐさま距離を取ると、カイズィー最強形態・ブレイクフォームを発動させ、 ガキィィィィィィィィィィィン! と切り結ぶ――!! ★ そのしばらく後、広瀬の別のアジトの一つ。 一菜たちがそちらへ場所を移した直後、謎の敵から逃がされた美月もそちらへ合流し―― さくらが、自分を逃がしてくれたことを一菜たちに告げるのだった。 美月「……ぇぐっ、ぐすっ、ご、ごめんなさ、い…… 一菜さぁん…… たちばなさんが……たちばなさんをわたし、置きざりに……(涙 」 泣きじゃくる美月。その話す内容に大きなショックを受けつつも、 一菜は美月を慰めるべく、気丈に、微笑んだ。 一菜「――大丈夫。先輩なら、ゼッタイ大丈夫よ。今は、美月ちゃんが無事だっただけで、 いい、から……さ、落ち着いてゆっくり休んで――」 トラB「――に、しても妙ね……そりゃBOARDの最深部にならトライアルも含めて 人造アンデッドのデータは残ってるだろうけど。いくらこの娘(=東呂木)がいるからって、 あのセキュリティは理事長以外突破できない、超厳重なプロテクトがされているのよ。 そこにアクセスしない限り、人造アンデッドは作れないはずだけど……」 首をかしげるトライアルB。そこへ――外からでも今の会話を聞くことが出来たのだろうか、 その疑問に答える声が、届いた。 謎1『――然(しか)り。東呂木や南郷どの程度の腕では、 ようやく基礎部分が“はっきんぐ”できただけでな。その構造に不安定な部分が多すぎるのだ』 全員「「「「――――!!?」」」」 ……慌ててどたどたと窓に駆け寄り、外を見る一同。 そこにいたのは、トライアルの大群。そして、アンデッド――ギャレンたんを打ち倒した、 あの謎のアンデッドの姿である。 美月「あのときの――えぇと、バジリスクアンデッド……! そんな、ここまでわたしが尾けられたはずなんて、ないのに!?」 謎1⇒バジリス『うむ。そなたが居たのは偶然。 拙(わたし)は、東呂木の反応を追ってきたに過ぎぬ。――だが――』 驚く美月の疑問に、律儀に答えるバジリスクアンデッド。 そしていったん言葉を切り、ぐるり、とあたりを見渡し、一菜たちの姿を捉える。 バジリス『……その人造アンデッドの開発者・広瀬博士が居(お)り、ジョーカーが居り、 もう一人のカテゴリーK持ち(=ブレイドたん)まで居る。 これであの方の所望するすべてが揃う――丁度いい。貰(もら)い受けるとしよう。』 始穂「……! 黙って、聞いていれば好き勝手なことを――!!」 一菜「美月ちゃん広瀬さん下がって!!センパイの、カタキ――!!」 2人「「変身!!《Turn up――!/Change――!!》」」 一方的なバジリスクアンデッドの言葉に、怒りを込めて、高らかに。 ブレイドたんとカリスたんに、それぞれ変身する一菜たちだった。 ★ さくら「……あのね。“カタキ”って、死んでないんだけど私……。」 ――とある、廃棄された研究施設。 バジリスクアンデッドに打ち倒されたギャレンたん――さくらは変身を解除させられ、 下着姿で鎖に吊られていた。その目の前には、戦いの場にいたもう一体、 猫を思わせる姿の人造アンデッドがいる。 謎2『ま、そりゃ生きてるけどねー。バジリスク……北秦ちゃんにやられて、カードとかバックルとか 全部取られて、あげく下着姿で鎖吊りって、かなり役立たずだと思うんだけど。』 さくら「/// …………くっ!――悪趣味な………… ///」 謎2『に、しても。あなたカテゴリーK持ってないのよねー。 がーっかり。持ってりゃ話が早かったのにぃ。』 さくら「余計なお世話よ。……それで? 私をどうするつもり――?」 謎2『ん?もちろん人質。(あっさり) いろいろ利用価値ありそーだし、 とりあえず殺さないから安心していーよ?――いろんな意味で美味しそーだし♪♪』 じったり、と。湿り気を帯びた笑みを浮かべ舌なめずりをしつつ、 猫のようなアンデッドは動けないさくらの背後から、おもむろに抱きついた。 そしてさくらの下着と胸の間に指をもぐりこませ、きゅっ、と絞り揉む。 さくら「/// ……って、ちょ、ちょっと!? や……離しなさい――っ!?? ///」 謎2『んふふ♪ やっぱこのくらいの役得ないとやってられないわよねー♪』 ? 「えー。同じ役得なら、もっと“ちっちゃかわいー”方がいいなぁ。」 ――アンデッドが、下のほうに手を伸ばしかけたその時。まったくの唐突に。第3の声が聞こえた。 2人「『……………………。』」 謎2『……いま、何か言った??』 さくら「……言ってない。てゆーか、私の声でもあなたの声でもないし。」 ? 「てなわけで、いきなりルシファーズハンマーっ♪」 ……そんなのーてんきな声とともに撃ち込まれる白銀色のエネルギー錐…… そして、キックの体制で飛び込んでくる人影――!! それは謎の影に直撃し、 どっかーん、というマヌケな音とともに、笑えるくらいあっさりとぶっ飛ばした。 謎2『あぅわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!??(ずべしっっ! 』 ? 「わ。びっくり。……さすがしぶといってゆーかまだ生きてるー。」 ……場違いなくらいのほほんとした声とともに、暗闇から姿を現したその姿は。 ▽マークが特徴的な額飾りの、スマートブレイン系ライダー少女―― 仮面ライダー・デルティーである。 さくら「で……デルティー!? SB社の!? なんでここに!!?」 デルティ「んー。その西大寺(さいだいじ)って娘マークしてたから。オルフェノク……で、 いまはアンデッドでもある――その姿だと、リュンクス(=山猫)アンデッド、かな??」 さくら「――――はぁ!!?」 驚愕するさくら。一方のデルティは、いつもの楽しそうな笑みを崩さない。 そしてリュンクスオルフェノク……いや、リュンクスアンデッドは、むっくり起き上がると 憎々しげにデルティを睨みつけ、『い……、きなり何すんのよぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!?』と 絶叫しつつ、デルティーへと襲い掛かった――!! ★ そう。SB社は最初からこの謎の一団をマークしていた。だからこそデルティーはあっさり 西大寺と呼ばれた少女の居場所を突き止め、またカイズィーはカイズィーで 南郷を追撃できたわけだ。なのだが―――― SB社社長室。ジト目のいぬみと夕菜に見つめられ、珍しくも雅菜は、恐縮して縮こまっていた。 いぬみ「…………で。ブレイクフォーム発動して、アルバトロスオルフェ圧倒したまではいいけれど、 形勢不利と見られるや、あっさりまんまと逃げられた、と……?」 夕菜「……しかも、ブレイクフォーム発動後の自己修復が壊れてて、カイズィーギア自体が いま稼動不能状態、ですか……だからあれほど、ちゃんとメンテナンスに来なさい、って 言ってたのに。」 じろっっ×2。 言い訳の余地もない状況で、すごく悔しそうにしながらも言い返せない雅菜だった。 雅菜「…………っ。」 レオナ「ま、まぁまぁ2人とも……(汗 それより、えぇと―― 南郷さんと西大寺さん?その2人が、今回のターゲット――なんですね?」 夕菜「えぇ。特に南郷……草加さんが あ っ さ り 取 り 逃 が し た 方が 黒幕っぽいんですよねー。」 微妙に言葉を強調しつつ、さらにちろーり、と睨む夕菜。 雅菜「(小声で)…………悪かったわよ、くそぅ。…………」 夕菜「元BOARDの研究員にして――そこがローカストアンデッドの襲撃を受け壊滅した際に、 オリジナルのオルフェノク――アルバトロスオルフェとして覚醒している人です。 南郷は、その後身を隠し、北秦、東呂木、そして同じくオルフェである西大寺、の3人を 仲間に加え――」 いぬみ「うわ見事に東西南北。書き手、何も考えてない※わねー。」 ※うるさいほっとけ。……真面目な話、どうせ今回かぎりのやられ役なんで、覚えやすさを優先して 名前をつけたのはとりあえず事実です。……コレ書いた当時「いちご100%」連載してたっけ?(謎 夕菜「――そして南郷は自分と、同じくBOARDの研究員だった東呂木の2人で BOARDのシステム内に侵入。“あるもの”のデータを盗んだんです」 レオナ「…………“あるもの”、ですか?」 夕菜「えぇ。――人造アンデッドのデータ。アンデッドと言う存在を 人間の手で造りだす、そしてそれと一体化する技術です」 3人「「「な――――!!?」」」 夕菜「……もう一人のオルフェノク、西大寺の方は北崎さんにマークしてもらってましたが…… いまだ連絡なし。まったくどーなってるんでしょーか。(タメイキ 」 少なくともこの時点では北崎さん=デルティーはマトモに仕事をしているわけだが、 もちろんいちいち連絡とか入れてくるような女ではない。それでも、性格はともかく 能力については夕菜は信用している。なのでひとまずそれ以上は気にしないことにして、 状況の再確認を続けるのだった。 ★ ――そのころ、広瀬のセーブハウスでは。運命の時が、刻一刻と近づいていた。 Wカリス「カリスアローカリスアローカリスアロー!!(ずびしずばしずげしっっ! でもってとどめの……ワイルド――サイクロン!!」 バジリス⇒北秦『……ぐぁぁぁっっっ!!』 ワイルドカリスたんの必殺技・ワイルドサイクロンをまともに食らい、人間体に戻ってしまう バジリスクアンデッド……接近戦では危ない、と判断した始穂は距離を置いての攻撃を連発し、 必殺の薙刀攻撃を受けることなく圧倒したのである。 ……って、どえらい卑怯くさい勝ち方だなおい。(ツッコミ Wカリス「…………。やかましい解説。」 トラB「これまでね。――あなたの手下、トライアルの不完全体どももブレイドたん&うちの娘たち (=トライアルD・E・Fたん)によってきれいに全滅したわ。そしてあなたも、この通り」 北秦『ぐっ……なる、ほど。 相手がジョーカーでは、拙ごときでは役者が不足している……というわけか……』 Wカリス「――観念しなさい。なんのつもりだか知らないけれど、 敵を見逃すほどわたしはお人よしじゃない。」 ちゃき、とカリスアローを北秦の喉元につきつけるワイルドカリスたん。 そこへ――唐突に、声がかけられた。 ? 『いいえ、見逃させてもらいます――まだ、必要な駒ですしね』 2人「「――――!!」」 振り向く、トライアルBとワイルドカリスたん。 そこへいたのは、人造アンデッドのデータ盗用の首謀者・南郷。 小脇にはいつの間に助けたのか気絶している東呂木を抱え、妙に余裕のある様子でたたずんでいる。 ……時間的に考えて、カイズィーに負わされた傷も癒えていないだろうに。 トラB「な……南郷ちゃん!? いつの間に――」 南郷『北秦――あなたも手駒なら、これ(=東呂木)を持って無事に逃げるくらいはしてみせなさい。』 Wカリス「逃げるですって?――逃がす、ものですか!!」 トライアルBの疑問を無視して、北秦に指令を下す南郷。 だが北秦はワイルドカリスたんに見張られ、おいそれと逃げられる状況ではない。無茶な命令と 言う他ないのだが……南郷は、慌てず騒がずふところから小瓶を取り出すと、サメのように ニカッ、と笑いつつ、その小瓶を地面に叩きつける! 小瓶から、もくもくと沸いて出るガスは―― Wカリス「……な!? ごほっ……これって、……!?」 トラB「けほっ……南郷ちゃん、あなた……こふっっ……」 アンデッドポイズンから抽出したガスを、さながら煙幕のように張る南郷。自身はガスマスクを装着し 難を逃れているが、それは始穂たちを脚止めするに十分だった。 ……いろいろと、ままならない状況に深ぁくため息をつく南郷。 南郷『やれやれまったく……さっきはSB社の狗に思わず手傷を負わせられるし、 こっちを襲った部隊は役に立たないし――わざわざ自分で出てくる羽目になるとは。 ……ですが、こうなった以上せめて目的のもう一つ、広瀬博士の身柄くらいは――!!』 トラB「…………こほ、……な、んですって――――!」 その言葉を聞きとがめ、慌てて離脱しようとするトライアルB。だが、それよりも早く南郷は アンデッド・オルフェノク体へと変身し、鋭い鈎爪を振りかざし追い迫る――!! 南郷⇒アルバス「――少々、手荒になりますが…………なぁに、殺しはしませんよ!!」 トラB「………………きゃ――――――!」 Wカリス「トライアルB!? ……くっ!!」 そして、鈎爪は振り下ろされる。 ……ざしゅっっっ! と、鋭く切り裂く音が、響いた。 ★ 研究施設での戦闘は、デルティーがリュンクスアンデッドを圧倒する形で、 ほぼ決着がつこうとしていた――だが。 リュンクス『くっ……の!舐めるなぁっ!!』 デルティ「――っ!?」 一瞬の隙をつき放ったリュンクスの手刀が、デルティーの腹部を貫いた!!――いや。 その、直前。デルティーはスーツを脱ぎ捨て、オルフェノク体、しかも最低限の箇所のみを隠す 高速形態・ドラゴンオルフェ魔人体へと変化する。そして、 ドラゴン「残念。空蝉(うつせみ)の術ー♪ 続いて影走りの術ー♪♪(げしげしだきげしどぐしっ! 」 リュンクス『……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!?』 アクセルフォームにも匹敵する超高速をもって、リュンクスを殴る蹴る抱きつく叩くどつく! ……なにかさりげなく余計な動作が入った気もするが、ともあれその激しい攻撃に、 ついにリュンクスは地面に這いつくばらされるのだった――――! リュンクス『……ぐ……、あぁぁぁっっ……!!!』 ドラゴン「(ぱちぱち)わー、すごいすごい。ルシファー喰らってそれだけ動けるだけでも たいしたもんだー♪――けど、もう、勝ち目、ないよ??」 リュンクス『……ぐっ、そうか、もね……だけど、こっちには切り札があるのよ――!』 言いつつ膝立ちになるリュンクス。彼女の言う“切り札”とはすなわち人質・さくらの存在である。 鎖で吊り下げられているさくらに攻撃を仕掛け――ようとするより、早く。 ドラゴン「んー、そっかー人質殺すと夕菜ちゃんががうるさいし。 あんまし好みじゃないけどしょーがないから助けたげるー。」 さくら「………… 一応、ありがと。(こめかみひくひく 」 魔人体の高速を持って、鎖でぐるぐる巻きのままではあるが、きっちりさくらを助けていた。 ……って、助けたのそんな理由かい北崎さん。つか理由がなければほっとく気満々かい。(ツッコミ) ともあれ、人質の救助を優先することにはしたようだ……助けられた当人は、 そのあんまりな物言いに、額にものすごい勢いで青スジたててたりもするが。 ドラゴン「んじゃ、ばっいばいきーん♪」 リュンクス『く――の、憶えてなさいよぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!』 こうしてドラゴンオルフェは、見事さくらを救出し、しゅたっと立ち去るのだった。 後にはリュンクスの絶叫が残るばかりだったが――ふと、その後に残された“それ”に気づいた。 ……一瞬喜ぶべきか怪しむべきか判断に苦しんだが……なにしろ“それ”は、オルフェノクにとっては 垂涎(すいぜん)のアイテムである。結局、“それ”を回収してこの場を去った。 ★ ――実体を見せず走る白い影。さくらを担いだドラゴンオルフェノクは、夜の街を疾走していた。 そのさなか、鎖で縛られたままのさくらが叫ぶ。 さくら「!……って、ちょ、ちょっとデルティー!!あなた、変身道具は――!?」 ドラゴン「ん? ……あ、あーあー、大丈夫っ♪ ほら、このバックルと 変なブレスレット(=アブソーバー)と……カードは、全部で12枚でいーんでしょ?」 鼻の下を親指でこすりながら※、ほぃっ、と手に持つ袋の中身を見せるドラゴンオルフェ。 混乱した状況であったはずだが、その中で彼女はきっちりそれらを回収していた……のだが。 ※「仮面の忍者 赤影」に青影、というキャラがいてねー。(以下略 さくら「あ、ありがと……って、違うそうじゃなくて!! 『あなたの』変身道具! デルティーギアの方よ!!」 ドラゴン「え? ――んーと。」 ……自分の手の中、袋の中を見る。だが、ベルトもデルタフォンもない。 ということはつまり、一式をあの場に置いてきてしまったということで、 ドラゴン「…………あ。 そっちはすっかり忘れてきちゃったー♪(てへっ)」 さくら「“てへっ”じゃないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!??」 さくらの絶叫が尾を引きながら、夜の高速度道路に響き渡るのだった。 ……この後、ここの高速道路で、絶叫を残しつつ車を抜き去っていく裸の双子の女 ――ということに、少なくとも噂ではなっている。まぁ確かに2人とも裸同然の格好ではあったが―― の話が新たな都市伝説として話題になるのだが……それはまぁ、この際余談である。 ★ ――ぽた、と。袈裟懸けに斬られた傷口から、あたかも緑色の泡沫のような、血が、流れた。 トラB「し……始穂、ちゃん……? あなたが、私をかばうなんて――」 始穂は、アルバトロスの攻撃の前に立ちふさがり、その身をもってトライアルBを守ったのだ。 Wカリス「……ぅっ……あんた、だって……以前、一菜をかばった※でしょ―― 何の不思議が、ある、って…………」 ※「ケータイ空間」過去ログ 参照です。 うわごとのように呟きつつ――ワイルドカリスたんは、膝からその場に崩れ落ちた。 そこへ、南郷の手下のトライアルを一掃したブレイドたんたちが駆けつける!! ブレイド「――し、始穂ちゃぁぁぁぁん!!!?? 待ってて、今、助けるから――」 南郷の方をきっっ、と睨み、ラウズアブソーバーにQweenのカードを装填(そうてん)、 そしてキングフォームに変身するべく、Kingのカードを取り出す―――― その、瞬間。 アルバス『!そうはさせません――ちょうどいい、それもいただくとしましょうっっ!!』 ビュッッ、と風を切る音とともに、アルバトロスは指先から粘液状のムチを飛ばした。 伸ばされたムチは狙い過(あやま)たずブレイドたんの持つ、Kのカードを――奪い取る!! ブレイド「!!?――か、カードが!!? コーカサスたんっっ!!」 アルバス『(ぱしっっ)……これは、ありがたい余禄(よろく)ですね。 この状況で、これ以上を望むのはさすがに贅沢、ですか――』 奪ったカードが確かにKであることを確認すると、アルバトロスはひとつ満足そうに頷く。 そして身をかがめ飛び去ろうとする――それよりも早く。 Wカリス「!それを――返しなさいっっ!!」 ワイルドカリスたんが、アルバトロスを追う――コーカサスのカードを取り戻すべく、飛びかかる!! その猛追にアルバトロスは、それを迎え撃つ、というよりは半ば反射的に鈎爪を――、 ――――ざんっっ!! 振るわれた、斬撃音。それとともに。 ――ぴっ。 ブレイドたんの顔にかかる、おびただしい量の緑色の血―― トラB「始穂ちゃん――!!?」 ブレイド「し……ほちゃ…………」 Wカリス「―― 一 ……菜……」 先程の袈裟懸けとは逆、ちょうどX字に切り裂かれた形になるワイルドカリスたん……始穂。 傷は深い。とはいえ、ジョーカー……アンデッドは文字通り不死(undead)であり、 死ぬことはない。そして、普通に倒したのでは封印されることもない――はずだった。 相手が、ケルベロスアンデッドの組織構成を基にした、人造アンデッドでさえなければ。 Wカリス「……う……、あぁ――――――――」 苦しげに呻き続ける始穂。その体は徐々にぼやけていき…… ブレイド「!? し、始穂ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」 消えゆく始穂に、手を伸ばす一菜。だが――間に合わない。 一菜の手が触れるよりも早く始穂の姿はかき消え、後に残るのは――ただ一枚の、ラウズカード。 その虚空に、悲しげな表情の始穂が何かを一菜に語りかけたように見えたのは、 果たして幻だったのだろうか―― 一菜が伸ばした手が、空を薙ぐ。 ここに、相川 始穂――ジョーカーは、封印された。 ……あまりに唐突に、理不尽に訪れた別れに、一菜は、ただただ絶叫する―――― ブレイド「いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!! 始穂ちゃん、始穂ちゃん、始穂ちゃぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっ!!!!」 ――絶望とばかりに、始穂の封印されたカードにすがりつく一菜。 だが一方のアルバトロスも、とまどった表情でため息をついている…… 少なくともこの段階でのジョーカー封印は、彼女にとっても予定外の事態だったらしい。 アルバス『――忘れてましたね。人造アンデッドなら、攻撃だけで直接アンデッドを 封印できるんでした……正直、ジョーカーの封印はもっと後でもよかったんですが。 しかもこの状況だと……』 つぶやきを漏らす、アルバトロスアンデッド。 同時、トライアルBはとっさに散らばったハートスートのカード ――直前まで、カリスたん(始穂)が持っていたもの――をつかんで飛びのく! そしてレンゲルたんも変身し、「一菜さん始穂さぁぁぁぁぁん!!!」と叫びつつ、援護に駆けてくる――!! おまけに、DEFのトライアル3姉妹までこちらに駆けてきているとなると、 アルバス『……やはりこれ以上は広瀬博士とジョーカー、片方すら持って帰るのは無理、ですね。 まぁ、いいです。カテゴリーKだけでこの場は満足しておきましょう――』 そして、先程の小瓶と同じものをもう一度取り出し地面に叩きつけると――たちまち湧き出す、 アンデッドポイズン。それを煙幕代わりにして――アルバトロスは、いずことへもなく消えた。 そして同じく、バジリスク・ウォームの両アンデッドも姿を消している。 レンゲル「――――っ!! しまった逃げられちゃいました……追いますっっ!」 トラB「待ちなさい美月ちゃん! もう、追っても無駄。それより――」 一菜の方へ目を向けるトライアルB。 その一菜は地面にへたり込み、うつろな表情でジョーカーのカードをいとおしそうに捧げ持ち、 慟哭(な)きながら始穂へと語りかける――言葉が帰ってくる、はずもないのに。 ブレイド「始……穂ちゃん、始穂ちゃん――」 レンゲル「一菜…………さん…………」 ブレイド「こんな……こんな姿になっちゃって―― せっかく、“人間として生きたい”って言ってたのに――言って、くれたのに……」 レンゲル「――だ、大丈夫です一菜さん!すぐにテイピアたんに頼んで――」 トラB「だめよ! テイピアリモートじゃ、アンデッドは解放者の意思に染まってしまう―― “ジョーカー”は開放できても、そこに“始穂ちゃん”の意思は残らない※わ……!!」 ※映画では、レンゲルのリモートでカリス開放されてた&正気を保っていましたが、 とりあえず今回の話では「あれは例外」ということにさせてください。そうでないと、 嶋さんとかギラファとかが、映画版でトチ狂ってたことの説明できないし…… レンゲルたんがあわててクラブ10.テイピアのカードを取り出すのを止めるトライアルB。 それ自体は当然の判断なのだが……それを今この場で言ってしまったのは失策(まず)すぎた。 それは、始穂を始穂として再生する方法がない――言うなれば始穂に対する死亡宣告に ほかならなかったのだから。そして言うまでもなく、一菜もその言葉を聞いている―― トラB「!? …………あ――――」 ブレイド「――ぅ、うわぁ、あぁぁぁぁぁぁぁんんんっっっ…………!!!」 後悔の念をにじませつつ口を塞ぐトライアルBに、しかし目すらくれず。 喉も裂けよ、血の涙も流れよと言わんばかりに――泣き、喚く一菜だった………… ★ ――こちらは同時刻、SB社社長室。 いぬみ「待ってよ。それってつまり――オルフェノクが、アンデッドと同化するってこと!?」 夕菜「そうですね……みんな、夏の事件※のアンデッドオルフェノクを忘れてませんね?」 いぬみ「……忘れるわけないじゃない。あのとき、わたし危うくそーされかけたんだから……(渋い顔 」 レオナ「強かったですよね……相手2人(イーグルもどき&カプリコーンもどき)がかりとはいえ、 わたし一方的にボコボコにされましたし……(暗い顔 」 ※「仮面ライダーブレイドたんvsファイズィー」という話がありまして。 実はそれこそが、八兎がいっちゃん最初に書いた「モノ」で、データも残してはいるんですが…… 当時はSSではなくシチュエーション(名場面)集の意味合いが強かったこともあり、 文章化にめっちゃ手間がかかること必至なのです。……なので、ここでは「そういう事件があって、 アンデッドオルフェノクと戦って、いぬみちゃんがウルフアンデッドもどきにされかかった& レオナちゃんが2人がかりでボコにされるような目にあったんだよ」くらいに思っておいてください。 夕菜「あれと同等か……力を使いこなせる分、あれより手ごわい相手になるでしょうね。 もっとも、わたしたちがつかんでいる限り、オルフェ+アンデッドなのは南郷と西大寺の2人。 残りの2人は、単なる人間+人造アンデッドのようですが」 雅菜「へ? んじゃ残りの2人って、なんで南郷たちに協力してんの??」 夕菜「東呂木は――南郷が、BOARD中枢へ侵入(ハック)するために仲間に引き入れただけの関係で―― まぁ捨て駒、と見ていいでしょう。少なくとも、わたしが南郷ならそうします(きっぱり 」 ――たいへん率直な物言いであった。あんまりといえばあんまりな発言に、いぬみと雅菜は 思わず「「……うわ、悪辣(あくらつ)……」」みたいにつぶやいてしまうが、 夕菜はもちろん黙殺した。 夕菜「……ただ、残る一人・北秦との関係がよくわからないんですよ。 実家が北秦流という、薙刀(なぎなた)の家元であることくらいで――」 雅菜「……どうでもいいわ。敵なら、倒すまでよ――!」 ぽきぽき、と指を鳴らし闘志を燃やす雅菜――に、いぬみは冷静にツッコむ。 いぬみ「……カイズィギア使用不能状態のくせになに言ってんだか。」 雅菜「う゛。」 夕菜「この際ですから、技術部に依頼して徹底的にギアのオーバーホールしましょうね。 というわけで、あとは北崎さんが帰るのを待って後の対応を決めましょ――」 沙耶「ただいまー。ごっめーん、デルティギアなくしちゃったー♪」 ……よりにもよってこのタイミングで、かつこの言い草で帰還してくる デルティー=ドラゴンオルフェノク=北崎 沙耶。ちなみに、さくらは途中で降ろしている。 それはともかくそんなあんまりな言葉に「ぴき。」と夕菜のこめかみに血管が浮かんで、 夕菜「………………。(0,0,0,enter ――complete.)」 レオナ「きゃーっ!? 夕菜ちゃん落ち着いてくださいーっ!!?」 いぬみ「気持ちはわかる!わかるから、ここでオーガストラッシュはやめてーっっ!!?」 ……衝動的にオーガたんに変身、沙耶をぶっとばそうとして、みんなに止められるのだった―― ★ アルバトロスが退却した後の、広瀬のセーブハウス。 ――どのくらいの、時が流れただろうか。さすがに直後ほどの激しさではなくなったものの、 始穂の封印されたカードを前に、一菜はいまだ嗚咽を漏らし続けていた。 トライアルBは、そんな一菜に声をかける。 トラB「…………落ち着いた、かしら。一菜ちゃん――?」 一菜「うっ………………、うぁぁ――――」 落ち着いているわけがない。だがトライアルBはまずそんな言葉から話をきり出し、 そして――いつもの彼女らしからぬことに、あえて突き放した感じで話を続けた。 トラB「――わかっていた、はずでしょう? ジョーカーが残ると世界は滅ぶかもしれなかった。 ギラファアンデッドを含めてもあと2体のこの状況じゃ、たまたま封印が早くなっただけ―― ううん、むしろ南郷ちゃんたちがいたおかげで、ギラファが最後の勝者に ならなかった分ラッキーだった……のかも知れないのよ?」 一菜「…………っ!!!!」 ギッ、と。空間すらゆがませるかと思えるほどの鋭い視線でトライアルBを睨みつける一菜。 彼女らしからぬ仕草ではあるが、それでもトライアルBはまったくひるまずに話を続ける。 トラB「――私を、怒る? それで気がすむならそうしてもいいわ。けど、たぶん結果は変わらな――」 一菜「約束したんです!始穂ちゃんと!!」 トラB「――――。」 一菜「結果が変わらないなら……それで人間が滅ぶなら、そのときはわたしが封印するって……! こんな風にお別れしたかったわけじゃないっっ!!」 いまにも飛びかからんばかりの勢いでトライアルBに食ってかかる一菜。 ――それでも、その激情に伴うかのように、その言葉にも瞳にも、意志の力が戻ってきている。 トラB「……だったら、どうするの?このままもしギラファたんまで封印されると、 最後に残るアンデッドはあの連中になるわよ?」 一菜「――――。あの人……南郷さんたちを。 ……倒して、止めます。」 決然と、一菜はそう言い、手元のジョーカーのカードを握りしめた―――― ★ ――南郷たちの本拠地―― 追撃を振り切りアジトへ戻った南郷たちは、旧BOARD中枢部からさらに情報を得るべく ハッキングを敢行していた。西大寺も合流し、傍らのイスに腰掛けて、「お土産」をもてあそびつつ 脚をぶらぶらさせている――手伝う能力も、その気もまったくないらしい。 西大寺『南郷ちゃ〜〜〜ん、東呂木ー、まーだー??』 東呂木『急かさないでくれませんか、西大寺。ハッキングはデリケートな作業なんです』 脳天気に問う西大寺に、とげとげしく答える東呂木。仲はあまりよろしくないようではある。 そんな2人の様子は気にすら止めず、作業を続ける南郷。 そして北秦は、やはりハッキング方面には役に立たないがゆえか、一人離れた場所に 薙刀を携え、立っていた。 不意に。東呂木の動きが止まる――偶然にもそのデータにたどり着いて。 東呂木『!? ――南郷さん、これって……』 南郷『なにか、有用そうなデータが見つかりでもしましたか?』 東呂木『……えぇ。これを見てください』 東呂木の表示した画面を覗き込む南郷。西大寺も「――なになにー?」とばかりに覗き込んでくる。 そこに表示されていたのは――スコーピオンアンデッドと、カメレオンアンデッドのデータ、 そしてそれらの合成組織図―――― 南郷『これは……合成アンデッド? “ティターン”……!? ふ、ははは――そうか!そうですか、この手がありましたか……!』 北秦『南郷どの……?』 南郷『ふ、ふふ……当初の予定とは変わりましたが、これで人造アンデッドの力不足は解決、です――』 南郷の目的は、“自らが最強のアンデッドになること、そして最後の勝者になること”だった。 ……実にわかりやすいというか、かの天王寺理事長とまったく同じである。とはいえ、 南郷自身はオルフェノクである分、同化するアンデッドが同じならケルベロス―― 天王寺理事長の作り出したそれをも凌駕する力を得るはずだった……あくまでも、条件が同じなら。 不完全な知識で作られた人造アンデッドは単体ではケルベロスのパワーに遠く及ばないもので、 ゆえに南郷はいろいろと手を尽くそうとしていたわけだ。 曰く、引き続きハッキングを続行する。……今の今まで成果はまったくあがってなかったわけだが。 曰く、広瀬博士を拉致し協力させる。……拉致すら出来ずに見事に撃退されたわけだが。 曰く、最強のアンデッド・カテゴリーKから因子を抜き取りそれを元にアンデッド細胞を培養する ……スペードK・コーカサスのカードは手に入れたものの、そこから因子を抜き出す方法など 見当すらついていないわけだが。 ――だが。 手元にはそのコーカサスのカードと、そして自らと親和するアルバトロスのカード。 そして、偶然とはいえたった今データ抽出に成功したティターンのデータ――これさえあれば。 南郷『ごくろうさま、東呂木。あなたのおかげで、目的は達成できそうです――』 西大寺『♪ それじゃ、これで完成するのね?』 南郷『えぇ。あとは完成するまで、ここに誰も近づけさせないだけ。そしてその後で、 ギラファアンデッドを封印すれば終わり、です――3人とも。 誰もこないとは思うけれど、一応警戒を頼みます。』 西大寺『おっけー♪ 新しい玩具(オモチャ)もあるしねー』 言いながら、西大寺は玩具……デルタフォンを構える。 文字通り新しいおもちゃを得た子供のようにうきうきとした様子の西大寺。 一方、北秦は目を閉じ、『…………承知。』と一言頷くのみだった。 そして残る東呂木は、あからさまに驚いた表情を浮かべる。 東呂木『え……わ、わたしも出撃、ですか南郷さん!? 南郷さんの補佐じゃなくて?』 南郷『……アルバトロスは、私専用のカードです。それとの調整であれば、 あとは一人のほうが、いろいろと作業をやりやすいですから』 東呂木『で、でももし、ライダー少女達が嗅ぎつけてきたら……!?』 西大寺『うわー、東呂木ヘタレー。ここが嗅ぎつけられてるわけないじゃん。』 東呂木『可能性の話をしてるんです西大寺。……わたしのウォームはあっさり彼女たちに 蹴散らされましたし、正直、正面から来られると……』 不安げにおどおどとする東呂木。南郷はそんな彼女に優しく――例えて言うなら、 子供をあやそうとする誘拐犯のように――微笑んだ。 南郷『……勝てる自信がない、ですか? ――そうですね。なら、ついでにそちらについての対策も用意しておきましょう。 今はとりあえず、私の指示に従ってください……いいですね?』 東呂木『…………はい。わかりました…………』 穏やかだが有無を言わせぬ南郷の言葉に、不承不承、頷き出て行く東呂木。 その微笑みからなにか不穏なものを感じ取っているのか、足取りは重い。 そして、その後について出て行く北秦も何か感じ入るところがあったのか、 『……東呂木。不憫(ふびん)な――』 とつぶやいた。その声は小さく、誰に届くこともなかったが。 ★ 覚悟を、決めた一菜。 そんな一菜にトライアルBは、先程までのキツめな態度からは一転、にっこりと微笑む。 それはやはりなんだかんだ言っても、トライアルBが一菜を――「好き」とは別の次元で―― 「信頼」していることの証だった。 トラB「――うん。そうね。それでこそ一菜ちゃんよ。こうなると、 ギラファが未封印なのはむしろラッキーね。あとは始穂ちゃんを始穂ちゃんのまま 解放する方法があれば、とりあえず現状維持で丸く収まる、と。」 一菜「……始穂ちゃんのまま開放、って……できるんですかそんなこと!? 本当に!!?」 勢い込んで聞く一菜。そんな彼女にトライアルBは、苦笑交じりの微笑を浮かべて答える。 トラB「きっぱり正直に言うわ。はっきり言って現状では無理。 ……だけど、南郷ちゃんたちは自力でBOARD中枢にハッキングして、不完全とはいえ独力で 人造アンデッドを作り上げた――だったら、元BOARDの開発部の主任の名にかけて、 それ以上の結果を出してあげようじゃないの」 一菜「――広瀬、さん……!(うるっっ 」 トラB「とはいえ、人手があるにこしたことはないわね……私と、トライアルEたんと…… あと一菜ちゃん。桐生ちゃんに連絡をとってくれる?」 一菜「――――はい! それじゃ今すぐ……」 言葉では言い尽くせない感謝の輝きに瞳を潤ませ、すぐさま行動に移る一菜。 その目の前で――きぃ、とドアが開き―― さくら「……それと、私も、でしょ?」 ――敵の隠れ家から救出された、さくらもそこに姿を現した。 一菜「!! センパイ!よかった、無事で………… って、/// ……なんてカッコしてるんですか…… ///」 さくら「/// ……あ゛…… ///」 ……デルティーに救出され解放されたのち、即座にレッドランバスを呼んで 駆けつけたため下着姿のままなのを思い出し赤面するさくら、そしてその格好に、無事を喜ぶよりも やはり恥ずかしさに顔を赤らめてしまう方が先に立つ一菜が、互いに顔を見合わせるのだった。 ★ ――SB社オペレーションルーム。 北崎の「デルタギア落とした」発言を受け、レオナは端末を操作していた。 レオナ「――デルタギアの反応、捕捉!場所の特定は出来ました。 周辺の生体反応も4つ――まちがいなくアジトだと思います!!」 夕菜「怪我の功名、ですね。……いかに隠蔽(いんぺい)を完璧にしようと、 イーグルサットがある限り、ギアとその周辺の反応をごまかすことはできません。」 ――イーグルサット。ギアの反応を把握し、またファイズィーたちの変身機能をも司る。 そこにアクセスすれば、ギアの位置の特定くらい朝飯前であった。 沙耶「んふふー、計算どおりー♪」 いぬみ&夕菜&雅菜「「「…………おおうそつき。」」」 ……ふんぞりかえる沙耶だが、誰も信じてくれない。まぁ当然だが。 レオナ「ま、まぁ相手がデルティギア持ってってくれたおかげで、アジトが特定できたのは 確かですから……それで相手側にオルフェノクがいるなら、 絶対にデルティに変身までしてくるでしょうけど…………(大汗 」 いぬみ「……考えてても仕方ないわ。行くわよ、レオナちゃん夕菜ちゃん!!」 レオナ「はいっ!」 いぬみの先導に、響くように答えるレオナ。だが夕菜のほうはそれに追随しない。 夕菜「――先に行っててください。わたしは、もう一つだけやることがありますから。」 いぬみ「ふうん?わかった。それじゃレオナちゃんと先行するから……」 そして、ギアボックスを手に現場へと向かういぬみとレオナ。 夕菜も立ち上がり、いったん席を外す。あとには雅菜と沙耶が残された形になる―― 実質的に留守番を言い渡されたわけだが、「んー、じゃあまぁ、ゆっくりしよっか♪」と 開き直る沙耶はともかく、雅菜の方はしばらく考えるそぶりを見せると、 雅菜「(……ニヤリ。)」 と微笑んで、部屋を後にするのだった。 雅菜が向かうは――社長室。 ★ 方針が決まったあとの、トライアルBの行動は素早かった。 さくら、桐生、トライアルEたんを指揮し、BOARD中枢へのハッキングを進めている―― そのさなか、トライアルEたんが“それ”に気づいた。 トラE「……あれ?? これって…… えぇと、桐生コウさん? あなた宛にメールが届いてます」 桐生「私宛に?誰から――?」 トラE「“スマートブレイン社より”ってなってますけど。」 桐生「…………え゛。(汗 」 桐生は、SB社とも親交がある。 ※なんて設定、これ掘り起こすまで忘れてました。(ぉ ゆえに彼女宛にメールが来ること、それ自体はあまり不自然ではない。 なのだが――どうにも唐突なタイミングであった。 さくら「SB社〜〜〜〜? なんでこんなときに……」 トラE「えぇと件名が……“アンデッド・オルフェノク関連事件のレポート”――だそうです。」 他全員「「「「「――――!!!??」」」」」 ――つまり、木場 夕菜が自分(というか、SB社)の知る情報を伝えてきたわけである。 むろん、夕菜とて現在の一菜たちの厄介な状況まで把握しているわけはない。 単に「アンデッドがらみの事件だから、BOARD側にも伝えておこう」程度の認識であるが、 どちらにせよ一菜たちにとってはありがたい情報である。添付ファイルには、 SB社の調べた南郷たちの素性や、つい今しがた把握したばかりの南郷たちの本拠地についても 記載されていた――それを読んで、一菜は小さく頷く。 一菜「敵のアジト……意外に、近い。……行くわよ美月ちゃん、あの人たちを止めに!!」 美月「……はいっ!!」 一菜「広瀬さん、センパイ、桐生さん……始穂ちゃんを、よろしくお願いします」 そして駆け出す一菜と美月――その美月に、さくらは「待って。美月ちゃん、これを――」 といって、“それ”を投げ渡した。力強く頷いて、受け取る美月。 美月「……これは――! ラウズアブソーバー!たちばなさんの……!?」 さくら「私、今回居残りでデータ収集するから……私の分まで、頼むわよ」 美月「――はいっっ!」 一菜「それじゃ――行きます! 変身――!!《Turn Up――!》」 美月「変身!《Open Up――!》」 そうして、それぞれレンゲルたん&ブレイドたんに変身した2人は, いざ戦いへと、出撃(とびだ)した――!! ―― 外軌常版・仮面ライダーブレイドたんスペシャル 〜 undead bemaiders 〜 続く―― Include―― 桐生宛てにメールを送信し終えて、夕菜は社長室へ戻ってきた。 夕菜「――それじゃ、海堂さん長田さん、わたしも出撃するんで、後はよろしくお願いします」 社長秘書1・長田「あれ?社長……」 社長秘書2・海堂「今回、お休みじゃなかったんスか?」 夕菜「?いえ、お休みなんかしませんけど……」 いきなりわけのわからないことを言ってくる秘書コンビ。 首をかしげながらも出動しようとオーガギアボックスを手にしようとする――が、 置いていた場所に、ギアボックスがない。 夕菜「…………って、長田さん。 ここに置いといたオーガたんギアは……?」 長田「えーと。草加さんが使うからって、持っていきました、けど……」 海堂「『汚名は自分で返上する。社長の許可も取ってある」 ……なーんて言ってましたしねー。(投げやり 」 夕菜「………………(ぴき)。」 ……つまり勝手に持ち出したわけだ、あの女(=雅菜)は。 そんなあんまりな状況に「ぴき。」と夕菜のこめかみに血管が浮かんで、 夕菜「………………。(ずももももん、とオルフェノク体に変化――)」 長田「きゃーっ!? 社長、落ち着いてくださいーっ!!?」 海堂「気持ちはわかる!わかるから、ここで激情&疾走体はやめれーっっ!!?」 ……衝動的に雅菜を追いかけてぶっとばそうとして、秘書コンビに止められるのだった―― ――Include out |
八兎ジャック
2008年02月12日(火) 19時42分13秒 公開 ■この作品の著作権は八兎ジャックさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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