仮面ライダーブレイドIF 完結(再掲載
※この作品は、2005年にこのサイトで連載された、選択リレー小説の再掲載です。
現在放映されている「仮面ライダーディケイド」内の「仮面ライダーブレイド」とは設定が異なります。



第93回「空白の日々」





まだ未練がましく研究所に残っている。
毎日何をするでもなく、ただ病室で過ごした。
体がなまっていると感じたら、トレーニングルームに篭もって一人身体を動かし続けた。

「おにーさん・・・。」
「お、一菜。ありがとう。」
トレーニングルームから出たオレに、タオルを差し出す一菜。
「おにーさん、いつまでここにいるんですか?」
「・・・・・・・。」
「もう仮面ライダーのお仕事は終わったんです。・・・それに、怪我だってもう。」
「・・・・ああ。」

ジョーカーとの戦いで受けた傷は、すっかり治った。
ライダーの仕事も終わっている。
なのにここに残っているのは、未練だ。

・・・見苦しくも、始穂への思いに縛られている。


「ねえ、おにーさん。おにーさんさえ良ければ私と、お父さんたちのところへ帰りませんか?」
「・・・・・。」
「お父さん達は、ずっとおにーさんを心配してて・・・・。」

「一菜。俺はおじさんたちのところには帰らないよ。・・・きっとさ、迷惑だと思うんだ。」
「そんなことないです!私達、家族じゃないですか!」
「・・・・シャワー浴びてくるよ。」
「おにーさん・・・。」



・・・一菜にはああいったものの、俺にはもう一つ考えがあった。
それは、始穂を封印した奴が、誰なのかを突き止めるということだ。
始穂に突き落とされた俺は、あの後彼女がどうなったのか分からない。
そのあと始穂の前に現れた何者かが、彼女を封印した。
そいつが誰なのか。俺は知りたい。

・・・・仇を討とうなんて、筋違いだと思う。
そいつは、世界を救っただけなんだから。

ただ俺は、自分を納得させたい。
決着が他人任せになってしまったことに対して。




「剣崎君!」
更衣室から出たオレに、白衣の女性が近寄ってくる。
研究員に戻った、橘さんだった。
「橘さん・・・。」
「ねえ。この前の話、考えてくれた?」
「ここに就職して、研究員にならないか、って話ですか?」
「うん。剣崎君なら大歓迎よ!ここの仕事、べつに頭使うだけじゃないし、大体ここの男性研究員って、ひ弱なのばっかりなの!」
「剣崎君みたいな立派な体の人がいれば、ありがたいんだけどなぁ。」
「でも・・・・。」
「ね、剣崎君。何もしないでただいるだけなのは、やっぱり良くないよ。・・・・職に就くの、きちんと考えて。」
「・・・・・。」
「・・・・ふう。もう、やっぱりすぐには決められないか。でも、余り時間はないわ。決めるなら早くね。」
「はい・・・。」

ぱちんと、ウインクをして去っていく。
白衣をはためかせ、颯爽と・・・・。
「やっぱり、きれいだな・・・。」

ふう。
また溜息。

「本当、身の振り方を考えなきゃな・・・。」
始穂を封印した奴を探すのも一緒に。



時計を見ると、もう午後4時を回っていた。

外に出て、冬の空気を吸う。
「出て行こうか・・・。」
そんな台詞を口にする。
行く先もないけど。

・・・・橘さんに甘えるっていう選択肢もあるんだ。
それも悪くないけど・・・。

「剣崎さぁーん!!」
「ん?」
BOARD研究所の門をくぐり、制服姿の女の子がかけてくる。
「美月ちゃん。」
「はぁ、はぁ、お久しぶりです!怪我、もういいんですか?」
「あ、うん。美月ちゃんは・・・・。」
「はい!その、えっと、な、なんとなく!なんとなくここを通りがかったら、剣崎さんがいたんで、つい声をかけちゃいました。あはは・・・。」

・・・美月ちゃんはアレから実家に戻り、高校生活に戻っていた。
今はバスケ部に戻り、毎日を頑張ってるらしいけど・・・?
「今日は部活はいいの?」
「あ、あのその、そのですね、あは・・・・・。」
どもる美月ちゃん。
「・・・・?」
「それに、君の通学路に、この研究所ってあったっけ?」
「は、はうぅ・・・・・。」

「あの・・・・。本当は、剣崎さんに会いたくて、ここを通りました。」
「・・・え?」
「それで、部活もやすんで・・・・。あはは・・・。」
「美月ちゃん・・・。」

「げ、元気出して下さいッ!」
「美月ちゃん?」
ぐっと拳を握り締め、オレを見上げる美月ちゃん。
「し、始穂さんの事は、ほんとうにその、残念でしたけど・・・。これから、きっと、いい人が剣崎さんの前に現れますから!!」
「・・・・・・・・。」

この子も、オレの事を心配して・・・・。

・・・・そうだな。俺がいつまでも何もしないでくすぶってるから、みんなは・・・・。

「ありがとう。美月ちゃん。」
「・・・・え?」
「俺、もううじうじするのやめるよ。・・・俺らしくないよな!」
「剣崎さん・・・・。はい!そうです!!」

うん。決めた。明日、ここを出て行こう。
そして、始穂を封印した奴を探しながら、またひとりの生活に戻るんだ。

ああ。なんかすっきりしたなぁ・・・・。
よし。荷物まとめるか!

俺は美月ちゃんに別れを告げると、急いで部屋に戻り、荷物をまとめた。




今夜で、ここと本当のお別れ。
BOARD研究所の寮。
思えばこことは、何度も出たり入ったりしていた。
でも、コレで本当に・・・・。

明日、すぐに出て行く。
橘さんには明日話す。きっと止めるだろうから、俺は出て行く日に話す。
これ以上迷惑かけたくないから。

「これで、こいつともお別れだ・・・。」
オレの手には、かつてのオレの商売道具。
変身ベルト、ブレイバックル。
「みんな。これでみんなとは・・・・・。」

今生の別れ。

そう考えると、目から涙が出そうになる。
ここのみんなとは、もう長い付き合いだった。
始穂と別れ、橘さんや美月ちゃんとも、もう会えない。

「はぁ・・・・。」
胸の奥がざわざわする。
・・・とても眠れそうにないや・・・。





・・・・・が、

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!

「!!!!?」
突然の爆音に、俺はベッドを飛び起きる。
俺は反射的にベルトを手に取り、その音のするほうへと向かった。

・・・それは、意外なほど早く訪れた、始穂を封印した人物との邂逅だったのだ。





第94回「バトルファイトの勝利者」





「お父様!どこへ行ってらしたんですか・・・・。」
彼の自室に、小さな女の子が待っていた。
「どうしたね?博美・・・・。」
彼女の座っていたベッドには、濡れた跡が。

「泣いていたのかい?」
「・・・・・。」
黙って彼女は頷く。

「お父様・・・。わたくし、もういやです。」
「いや・・・・?」
「お父様のお仕事は理解しています。そのためにいろんな人たちとの付き合いもあることも。」
「でも・・・・。あんな汚らしい欲望に染まった人間たちと対等に話すなど、もう我慢できません・・・。」
「そうか・・・。」
彼はうなずく。

「わたくしは他の者にとって、権力を手に入れるための道具にしか見えてはいないのです。だれも私を私としてみてくれない。」
「私を私としてみてくれるのは、お父様と鳳だけです!」
父親の胸に飛び込む少女。
「そうか、辛かったろう・・・・。」
頭を優しくなでる父親。

「はい、はい・・・・。」



「博美。では私が、そんな苦しみから解き放ってあげよう。」
「え?」

「私の研究所の研究がね、ついに完成したんだよ。」
「完成・・・?お父様が言っていた、古代の技術を利用して、理想の世界を築き上げるという・・・?」
「そうだよ博美。」
「ああ、ああ・・・・。本当なのですか、じゃあ、今の邪悪な心に満ちた人間達は・・。」
「そう、誰もいなくなる。そして、平和と調和を願う新たな人類が生まれるんだよ。」
「なんて、なんて素敵なんでしょう・・・。」

「だからね博美。お前は先に待っていてくれ。・・・母さんのいるところで。」
「お母様?・・・死んだ、お母様の・・・・。」

彼女を抱く腕がもそもそと動く。
どうやら、腕をまくっているようだが・・・。

「変身。」

・・・彼女を抱くその姿が、黒い異形へと変わる。
「!!!」

「お父様・・・!?」

ガシャアアンッ!!!

「!!!」
その時、背後の窓が割れる音がした。
彼女は異形と化した父親から離れ、そのほうを見る。

そこには、夕焼けの空から吹き込む風になびくカーテンと、黒いねじれた形をした鉄の板があった。

『これが私たちを、新たな世界へと導いてくれる・・・・。』
異形から、確かに父の声がした。
「とうさま、とうさま、これは・・・・・。」

『博美・・・。何も怖がらなくていいんだ。お前は生まれ変わる。この私が、そうする・・・。』
『だからお前は・・・・。』

「あ、ああああ・・・・・。」








ブシュッ!!

『・・・・母さんと待っていてくれ。』









「天王路さん・・・・。貴方が・・・・。」
施設の一部が破壊され、燃え上がる炎の中、その人は立っていた。
そこには彼と俺、二人だけだった。

「やあ。しばらくだね剣崎君。そして、君に感謝しなくては。」
「感謝・・・?」
「ああ。こうして今私が生きているのは、君のお陰だ。」
「は、はい・・・・・。」

「もうひとつ。この私がジョーカーを封印できたのも君のお陰だ。」

「・・・・・!!!?」
オレの顔色が変わったのを見ると、彼はにやりと微笑んだ。
「君がジョーカーの気を引いてくれていたお陰で・・・。彼女は私に気がつかなかったようだな。」
「お陰で私は・・・。労せずしてジョーカーを封印できた。」
「・・・・・・。」

・・・俺は。
気持ちを落ち着ける。
飛び掛りそうな気持ちを抑えつつ、彼の話を聞く。
「そして・・・・。わたしはバトルファイトの勝者となった。」
「な!?」
「わかるかね?私は君のお陰で勝者となれたのだよ。」
「あの時、君に命を救われていなければ私は・・・・。ふっふっふっふ・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・。」
「人間の貴方が、始穂を封印したところで、何も起こらないはずだ。バトルファイトの勝者に与えられる万能の力は、アンデッドのみに与えられるはずなんだから。」
「ふ、ふくくくくくく・・・・。」
オレの言葉がおかしいのか、天王路は含み笑いを始める。

・・・なにがおかしいんだ。

「君は理解していないようだね・・・。私が何故、ケルベロスを作ったのか。」
彼は、懐から一枚のカードを取り出した。
「それは・・・・!!!!」

「そう、ケルベロスのカードだ。」
そんな・・・。橘さんが持ち出し、カテゴリーKとの戦いで失われたはずのカードが・・・・!!
「このカードは自分の意志で私の元へ戻ったのだ。ケルベロスも、勝者となる事を望んでいる。」
「そして、それが可能なのは私だけだと分かっているのだ・・・・。」

彼はその左腕の袖をまくる。

そこには、黒い機械が埋め込まれていた。
「・・・・変身。」
その機械の中に、ケルベロスのカードを挿入する。

ズオオオオオオオオオオオ・・・・・・

「!!!!」
すると彼の身体は、あの黒いアンデッドへと姿を変えていく!
「アンデッドと、融合した・・!?」
そのオレの言葉に反応するように、天王路が変化したケルベロスの胸に、白い顔のようなものが浮かび上がった。
『違うな・・・。私はアンデッドになったのだ!!』
その白い顔は、天王路の顔だった・・!!

ケルベロスはその姿をさらに変化させ、凶悪な容貌へとかえる!
『コレが答えだ剣崎君・・・。私はアンデッドになり、万能の力を得るために、究極のアンデッドを作り上げたのだ。』

ヒュウオオオオオオ・・・・。

その姿に呼応するように、空からあのオブジェが舞い降りた。
あの日研究所と共に消えたはずの、バトルファイトのマスター。

『そして我が大願は成った・・・・。これから私は、私の支配する理想の世界を作る。』
「なんだって!?」
『今の邪悪な心に満ちた人類を淘汰し、平和と調和を望む新たな人類を創造するのだ。』
「淘汰、だって・・・?今の人類を、全て殺すって言うのか!!」
『そのとおりだ・・・・。今の人類に存在する意義はない!』

シャキッ!!

俺はベルトにカードを挿入する!

『そうだな。やはり君達は私の邪魔をするだろう。そう思ったからここに来た。』
『君達は、ここで消えてもらおう・・・!!』



「変身!!!!」




オレの戦いはまだ、終わらない・・・・。





第95回「再開、仮面ライダーの戦い」





「烏丸主任。そろそろ休まないと、身体に毒ですよ。」
さくらがコーヒーを片手にやってくる。
「橘か。・・・すまない。もう少しで完成なんだ。」
「アンデッドはもういないんですよ?それなのにそんなに一生懸命何を作って・・・。」

さくらはその手元を覗き込む。
「・・・・・!それは、ラウズアブゾーバー?」
「・・・ああ。」
「何故いまさら?さっきも言いましたけど、もう戦いは・・・。」
「橘。私は実は、まだ戦いは終わってはいないと思っている。」
「・・・・え?」

「私が気にしているのは、あの天王路という男だ。」
「天王路?いやしかし、彼にはもう何も・・・。」
「・・・・うん。しかし、私の頭からは、どうしても嫌な予感が拭い去れない。」
「それでこうして、レンゲル用のラウズアブゾーバーを作っているというわけだ。」
「・・・取り越し苦労だと、いいんだがな・・・。」

「・・・・・・・・・・。」



ドガアアアアアアアアアアアンッ!!!!

「!!!」

フィィィィオーッ!フィィィィオーッ!

爆発音の後、すぐさま鳴り響く非常サイレン!!
「まさか・・・!!!」
さくらはすぐに研究室を飛び出した!

「・・・・・。もう、コレが役に立つ時が来たのかもしれないな・・・。」
烏丸はその手元にあった電話に手をかけた。

「・・・美月君。」







「ウェェェェェアッ!!!!」

ビュッ!!!

ガギィィィィンッ!!!

振り下ろしたブレイラウザーに、二本の巨大な爪が重ねられる!
『無駄だ・・・・・。今のこのわたしには、ジョーカーとて手も足も出ない!』
「何・・・!!?」
『彼女を封印したのは、この私なんだよ?剣崎 一真・・・!!』

グググッ!!

「ううっ!!?」
ケルベロスUはその恐るべき力でオレを押し始めた!
俺は剣を合わせたまま後退するしかなく、そのまま壁に叩きつけられる!!

ズドオオンッ!!

『ライダー一人の力などこの程度のもの・・・・。』

ガシッ!!

その右手が、オレの首を掴む!
「ぐああああああああああっ!!!」
『万能の力を得、全ての支配者となった私こそが、最強なのだ!!』

ブンッ!!!

そのまま持ち上げられ、反対側へと投げられる!!
背中から落ちる。
「ぐ、うう・・・。」

『フハハハハハハ・・・!』
ケルベロスUの両肩の顔が光り始める・・・。
『受けよ。神の息吹を!!』
『ディバインウェーブ!!』

バシバシュッ!!!!

「!!」
そこから、超圧縮された火炎弾が放たれた!!!

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

「ぐうわああああああああああああっ!!!!!」
オレの周りは、たちまち炎に包まれる!!

ザッザッザッザッザッ!!!!

『ハーッハッハッハッハッハッハッ!!!』
が、ケルベロスはその炎をものともせず、爆発の中心にいるオレに向かって走ってくる!!
「く・・・!」

『SLUSH』

俺はカードをラウズする。
「・・・・・!!」
『くらええええええええっ!!!』
振るわれる左腕の爪!!

よくみろ・・よく見るんだ!!
・・・その腕は水平に振るわれようとする。
俺は命中の瞬間、身体を低くしそれを抜ける・・・・!
『ぬッ!!?』
駆け抜けざまの一撃をかわされたケルベロスは、その勢いのままオレの後ろへ・・。
「今だッ!!」

ザギィィィィィンッ!!!!

『ヌウウッ!!!?』
俺はその背中を切りつけた!!

ビシュッ!

そこから鮮血が噴出し、オレの剣を濡らす。
・・・それはやはり緑色をしていた。

『やるじゃないか剣崎君。流石はブレイド。烏丸君が君に惚れこみ、わざわざスカウトしただけの事はある。』
「・・・・・。」
ケルベロスはその爪をオレに向ける。
・・・・?

その爪は、既に赤い血で染まっていた。
・・・俺は斬りつけられてはいない。
何故だ?

「その血は・・・・なんだ!!」
俺はその爪の事を聞いてみた。
『これかね・・・・・。』

ケルベロスUがその爪を見下ろす。

『哀れな子だった・・・・。』
「え?」
『この世界に満ちた邪悪な人間の心に押しつぶされ、あの子はずっと苦しんでいた・・・・。』
「あの子・・・・・?」

『だから、私が解放してあげたのだ。・・・生きる苦しみから。』
「解放・・・・?生きる苦しみ・・・・?」

「・・・・・まさか!!!」
『そうだ。私は殺したのだよ。わが娘を、生きる苦しみから解き放った・・・・。』

「・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!」

『そして私の作る新たな世界で、あの子は新たな人類として生まれ変わり、永遠に生きることができる・・・。死など、一時のものでしかないのだよ。』



あの子を殺した・・・・!?
父親が!娘を!!
「あの子は・・・・。貴方を心配して、あの時迎えに来た!なのに貴方は、そんな自分の子供を、その手に・・・・!!!!!」
『言ったろう?死など、一時のものでしかない。』

「うるさあああああああああああああああいッ!!!!」

俺は、剣についた緑の血をその手で拭うと、その血から大剣オールオーバーを呼び出す!
キングとの戦いで身に付けた、カテゴリーAの武器の再現。
アンデッドの血から、それを呼び出すことができるんだ!
『む・・・?!』
「お前は!!!やっぱり許さない!!!」

ザギィィン!!!

『ぬ・・・・!?』
オールオーバーの重い一撃が、その巨大な爪をきしませる。
「俺は!!あの時あんたを助けて、それで喜ぶ人がいて、それは間違ってなかったって、そう思ったのに!!!」

ガギィィィィンッ!!

続けざまに振ったブレイラウザーが、その胸を捕らえる!
「それをアンタは、アンタは・・・・!!!!そんな自分の娘を殺したなんて!!!!俺は、俺は絶対にお前を倒す!!!!!」

ズガァガギィィィンッ!!!!

オールオーバーで袈裟懸け、ブレイラウザーでその胸を突く!!
『ぐぬうううううっ!!!!』
『おのれ・・・・!!!』

その爪が緑に輝き始める。
『私を倒すだと・・・・?君達仮面ライダーを生み出したこの私を、君が!』
「ああ。俺は・・・・。もうお前を人間とは思わない!!」
「お前は・・・・悪魔だ!!!」

『違うな・・・。私は、全ての支配者。神となるのだよ!!』

ケルベロスUが駆け出した!!!
その爪に宿るのは、人工仮面ライダー・ランスの力、インパクトスタッブ・・・!!

俺は腰を低くし、構える。

『受けたまえ、ブレイド・・・!!!!』






『STRAIGHT FLUSH』

『!!!?』
「な!?」

ズドオオオオオオオオンッ!!!!!

『ぬぐわあああああああああっ!!!』
その時、どこかから飛んできたダイヤ型の巨大な弾丸が、ケルベロスに命中した!!

「一人で無茶しない。剣崎君。」
「橘さん・・・!!」
そこには、巨大な銃を構えた、赤い仮面ライダーが立っていた。
その腹にはギラファオオクワガタの紋章が!

「コレがキングフォームかぁ・・・。うん。すごいすごい。これなら貴方の足手まといにはならないわね。」
「そんな、オレのほうこそ・・・。」

『ウグオオオオッ!!!!!』

「「!!!」」

巻き起こった爆炎の中から、よみがえるケルベロス!
『ふ、くくくくくく・・・・・。効かないな。橘君?』
『くくくくくく・・・・。』

「無傷!!?」
「いや、効いてるわよ。・・・・後一押しってところかしら・・・?」

『くくく・・・。もっと楽な仕事だと思っていたが、意外と思うように進まないものだ。』
『ここは数で攻めるとしようかな・・・?』

ケルベロスの目が、ギラリと光った。
それを合図に、天王路と共にここに現れたあのオブジェから、紅いケルベロスがぞろぞろと姿を現す!!
「なに!!?」
ケルベロスには三つある頭が二つしかなかったり、爪が両腕についていたりと、細部は違うが・・・。

『アレはわが子供達・・・・。そうだな。オルトロスとでも名づけようか。』
「オルトロス?・・・ケルベロスの兄弟って訳?」
『くくく・・・・。これからこのオルトロスたちが、世界を蹂躙し人類を滅ぼす!』
「この前のダークローチの焼き直し?芸がないのね。」
『あんなゴキブリどもと一緒にしないでもらおうか?』

『ヴガルルルルルル・・・・。』
現れた13体のオルトロスは、いっせいにこちらを睨んだ!

『やれ!!!』

あんな数、まともに相手なんて・・・!!





1.「剣崎君!!天王路さえ倒せばこいつらも消えるわ!貴方がザコをひきつけて、その隙に私が・・・!!」
2.「橘さん!俺はキングフォームになります!それで天王路を・・・。オルトロスはお願いします!!」




第95回「砕かれた黄金の剣」





「橘さん!!」
「ええ。・・・・私がザコをひきつける!」

ジャキィン!!

両手にキングラウザーとギャレンラウザーを構える!!
「いくわよ・・・。わんこたち!」

ズガガガガガガガガガガガ!!!!!

その強力な砲が火を吹き、オルトロスたちに襲い掛かった!
見る見るうちに煙が立ち込め、紅いその姿は見えなくなる・・・。

「よし・・・!」




『ABSORB QUEEN』
『EVOLUTION KING』

13枚のカードと融合、俺はキングフォームに変身・・・

ドクンッ!!!

『ううぐっ!!!!?』
その時、オレの中で何かが蠢いた・・・!
腹を押さえる。
腹の部分に刻まれたコーカサスビートルの紋章が、脈打つように動いている・・・。

(君がアブゾーバーを使えるのは、持って2回・・・・。)

ジョーカーと戦う前に聞かされた、広瀬所長の言葉を思い出す。
後2回以上アブゾーバーを使えば、俺はアンデッドになってしまう・・・・。
そして今、その1回を使った、というわけだ。

『ぐ・・・う・・・・。』
体の中で蠢く、例えようのない違和感。
俺はそれを必死に押さえ込む。


『ふん・・・・。キングフォームか。13体ものアンデッドと融合する、システム開発者の烏丸君さえも予測しなかった最強のフォーム。』
『だが、それが生んだ副作用がその、人体のアンデッド化というわけだ・・・。』

ケルベロスUが近づいてくる。
『ハァ、ハァ・・・・。』
俺はその手にカテゴリーAの大剣オールオーバーと、重醒剣キングラウザーを手にする。

『君は、自分の身体を捨ててまで、私に刃向かうというのかな?』
俺とは対照的に、天王路はあくまで余裕だ・・・。
『・・・俺が戦うのは、これ以上誰かの顔が、涙で濡れないようにする為だ!!!』
『そのためなら、俺は・・・・・!』

『君は捨てられないさ。君を想う者たちのために・・・・。』
『!!!!』

・・・橘さんや、美月ちゃん、一菜・・・。

『フハハハハハ!!!』
『!!!』

バシュッ!!!!

その肩から、再びディバインウェーブが放たれた!!
『うおおおおおおおっ!!!!』

バガァァァァァンッ!!!

力任せにオールオーバーを振り、それを弾き飛ばす!!
『ハァ、ハァ、ハァ・・・・・。』

『案ずることはない。例え君がここで倒れても、君を思う人々はみな私が後を追わせてあげよう。』
『そして私の創造する世界で、永遠に平和に・・・。』





「そんな世界は、要りませんッ!!!」
『!!!』

ザギィィンッ!!!

『ぐううううおおおっ!!!?』
ケルベロスの背中から火花が飛び散った!!

「剣崎さんッ!!」
『レンゲル・・・美月ちゃん!!』

『おのれ・・・・もう一人戻っていたのか!!!』
背中を押さえ、俺達二人を視界に収めるケルベロスU。

「ベルトは念のため持たされていました!烏丸主任から連絡を受けて、急いで駆けつけたんです!」
『そうか、そうだったんだ。』

『ハアアアッ!!!』

バシュッ!!!

放たれる超圧縮された火球、ディバインウェーブ!
『いくよ・・・。美月ちゃん!!』
「はい!!」
『うおおおおっ!!!!』
俺はそれの前に飛び出し、二つの剣を十字に組み、受け止める!!

『なんだと!!?』

バッ!!!

俺の影から、レンゲルが飛び出す!
その杖に、吹雪と猛毒を蓄えて!!

『BLIZZARD VENOM』

『ぐ・・・!!?』

バシュウウウウッ!!!

突き立てられた杖から、猛毒と冷気がケルベロスを蝕む!!
「えやあああああああああっ!!!!」
レンゲルはその身体を蹴りだし、引き剥がす!!

『ぐうううう・・・・・!!』
「今です、剣崎さん!!」

ドクン・・・!!ドクン・・・・!!

『あ、ああ・・・!!!!』
アンデッドの力を引き出し、オレの手に5枚のカードが現れる。

ドクン、ドクン、ドクン・・・・!!!

アンデッドが活性化する・・・。オレの体を蝕む・・・・
負けるか・・・・負けるか!!!!

『ROYAL STRAIGHT FLUSH』

バシバシバシバシバシィィン!!!

巨大な5枚のカードが、オレの目の前に並ぶ!
『ハァ、ハァ、ハァ・・・・!!!』
キングラウザーが白く光り輝く!

ダッ!!

俺は駆け出した!
ただまっすぐ。
あの男だけを狙って!!

『来るか・・・来るのかブレイドオオオッ!!!!』

5枚のカードを通り抜け、真横にラウザーを振りぬく!!
『フヌアアアアアアアアアッ!!!』
それにあわせ、ケルベロスも爪を振るった!!!
『ウェアアアアアアアアアアアッ!!!』

バキィィィンッ!!!

『!!!!!!!!』

ザシュウウウウウウウウウウウウッ!!!!!

・・・オレの振るった剣は、ケルベロスの巨大な爪を砕き、その身体を両断した・・・・!!
『ぐう、おお、おオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・!!!!!』

ズドオオオオオオオオオオンッ!!!!

爆炎をあげるケルベロスU・・・!!



『ハァ、ハァ、ハァ・・・・。』
『・・・・・・・!』
俺は、一瞬気を失いそうになる。
それを剣で支え、何とかこらえた。

「大丈夫ですか!剣崎さん!!」
『あ、ああ・・・。大丈夫。美月ちゃん・・・・。』






『STRAIGHT FLUSH』

「消えろおおおおおおおッ!!!!」
ギャレンキングフォームは、その必殺技を13体のオルトロスに放つ!!

『ヴガ!!?』
上空に放たれた巨大なダイヤ型の弾丸は空中で拡散、それらが雨のように降り注いだ!!!

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオッ!!!!

13体のオルトロスは、その姿を完全に煙の中に消した・・・・。





「・・・・終わったわね。」
「はい。今度こそ・・・。」
橘さんを中心に、俺と美月ちゃんが集まる。
3人の、仮面ライダー。

「これで本当にバトルファイトは終わったんですね。」
「ええ。勝者などいない。全ては元通りになったのよ。」

『・・・・でも、戦いで犠牲になった人は、もう帰ってこない・・・・。』

オレのつぶやきに、二人はうつむく。
真小夜さん、桐生さん、天王路さんとその娘・・・。
それに俺達の知らないところで失われた、多くの人たち。

そして、始穂・・・・。

「・・・剣崎君。私達は、そんな失われた命のためにも、これからも生きていかなくちゃ・・・・・。」








『いやいや。本当の戦いはこれからだよ。』



「「「!!!!!!!!!!」」」

・・・・・燃え上がる爆炎の中、天王路の、その姿が現れた。
『そんな・・・・。アレを受けて・・・・。』
『いや。それだけではない。』



『ヴガルルルル・・・・!!!』
「ッ!!まさか!!」
大きく抉られた地面の中から、オルトロスが姿を現す。
13体、ただの一体も欠けることなく・・・。
「何で、何でよ!!?」

『言ったろう?あんなゴキブリどもと一緒にするなと・・・・。』

天王路の後ろに、赤いアンデッドが13体そろい踏む。


『そして・・・・・。この私も、あれで終わりだと思ってもらっては困る・・・・。』
『なぜなら・・・。私は万能の力を得た、バトルファイトの勝者だからだ。』

メキッ!!

天王路の身体が、その顔が割れていく。

「・・・・!!!!」
そこから這い出した黒いモノが天王路を包み込み、その姿をケルベロスへと変えていく。

『人間の身体は、もはや不要だ。そして・・・・。私はさらに進化する!』

ミシミシとその黒い皮膚が剥がれ落ち、その下から白い新たな姿が現れていく・・・・。
その腕の爪は3本に増え、背には巨大な角が生えていく。
そして長い尾を生やし、全身に白い装甲を湛える。

『ケルベロスが・・・進化・・・・。』

『もはや私はケルベロスではない。偉大なるケルベロスの父。ソルレオンと呼んでもらおうか・・・?』
「ソルレオン・・・・!!!」

『さあライダー達よ。・・・第2ラウンドと行こうか・・・?』

感じる・・・・。オレの体の中のアンデッドが、あいつを、ソルレオンを恐れている!
ケルベロスとは比べ物にならない・・・・。アレが、統制者の万能の力を得たアンデッド・・・!!!

『く・・・・うああああああああああああああっ!!!!!!』
俺はその恐怖に後押しされるように、キングラウザーを振るい、天王路に襲い掛かった!!

『フ、フハハハハハハハハハハハ!!!!』
それにあわせ、ソルレオンの爪が向けられた・・・!!

バギィィィィィィィンッ!!!!!!





目の眩む黄金の光がはじけ、視線が妨げられる。
そのまばゆい光の中に俺が見たのは、

・・・・砕かれる重醒剣、キングラウザーだった。





第96回「トライアルB」





「烏丸君。・・・どうやら旗色が悪いようだ。」

BOARD研究所を避難する職員達。
その中にいた広瀬所長が、外の様子を感じ取る。
共にいた、彼の友人である烏丸主任に、そのことを告げた。

「まさか・・・・。キングフォームが、二人もいて、だと?」
「天王路さんの力は、我々の予想をはるかに超えているようだね。」
流れる人の波を逆らい、広瀬所長は外に出ようとする。

「広瀬君!?」
「・・・・・・。」
彼は黙って、その10年来の友人に微笑みかけた。

「ここらが・・・・引き際のようだよ。」
彼はそれだけ言い残すと、非常口から外に出る。




「待って!!!」
「・・・・・・。」
そこへ、彼を呼び止める声。
「・・・お父さん。」
「栞・・・・・。」

「どこへ、行くの?」
「私の役目を果たしにだよ。」
「役目って・・・役目って何よ!」

「わたしはかつてこの研究所を天王路さんに任された・・・。それは今でも変わらない。」
「例え相手が、天王路さんでもね。」

「ダメよ!殺されるわ!いっちゃダメよ!お父さん!!」
「栞・・・・。わたしは、お前に謝らなければならないことがある。」
「え・・・・。何よ。」

「お前は私を父と思っているようだが・・・。それは私と天王路さんがお前に刷り込んだ偽の記憶だ。」
「え・・・・・・?」

「私の言う事を聞くように・・・。仮面ライダーラルクとして我々のコマになるように・・・。そうなるように刷り込んだんだ。」

「お父さん・・・・・。」
「・・・・心配することはないよ。私が死ねば、お前の記憶はもとに戻る。」
「私をトライアルBとして、父の記憶を奪った怪物として、認識するようになる。」
「そんな、私は、私はそんなこと・・・・・。」

「いいんだ。・・・・私は、本当ならとっくに死んでいる人間だ。」
「・・・・一足先に、母さんに会って来るよ。」

「お父さん!!」










「そんな・・・・。ブレイドのキングラウザーが!!?」
オレの握るその黄金の剣は、天王路の変身したソルレオンの爪によって粉々に打ち砕かれてしまった・・・!

『フハハハハハハ・・・・・。万能の力の前には、キングフォームも形無しというわけだな・・・・。』
勝ち誇るソルレオン・・・天王路。

『いや、まだだ!!!』
俺は、先ほど必殺技を放つ前に地面につきたてておいた、大剣オールオーバーを引き抜いた!
『ウェェェェェイッ!!!!』
『フン・・・・・。』

振り下ろされるオールオーバー。
しかしソルレオンは身動き一つしない・・・。

バキィィン!!!

『・・・・・!!!』
その大剣は、ソルレオンの体表によって止められていた!
『無駄だよ剣崎君。万能の力を手にしたソルレオンの前には、何者も無力だ。』


「どきなさい!!剣崎君!!」
『!!』
その声に、俺はソルレオンから離れる!

『STRAIGHT FLUSH』

「くらえええええっ!!!!」

ドウウッ!!!

ギャレン・キングフォームのキングラウザーから、巨大なダイヤ型の弾丸が放たれた!!
『ふん・・・・・。』
ソルレオンはそれに向かい、右手を突き出した。

・・・・ッ!!!

その突き出した手の前で、その弾丸は停止する。
『・・・無駄だといったろう?』
「く・・・この化け物ッ!!」

ドヒュドヒュドヒュドヒュ・・!!!!

続けざまにギャレンラウザーを乱射!!
・・・・しかし、それら全て空中で静止し、ソルレオンに届かない。

『フ・・・・フハハハハハハ。』
バラバラバラ・・・・とギャレンの放った無数の弾丸は、地面に落ちる。
『口で言っても分からぬようだ・・・。』
ソルレオンはその爪を向け、低く姿勢をとる。

ダッ!!!!

ソルレオンが駆けた!!
「え、何!!?」
それは一瞬の閃光のように俺達の前に迫ると、その爪を振り、ライダースーツを砕く・・・・・!!!

バガァァァァンッ!!!!

「きゃあああっ!!!」

『橘さん!!!』

バギィィィィンッ!!!

『うああああああっ!!!!』
一瞬防御に回したオールオーバーも、簡単に打ち砕かれる!

ザギィィンッ!!!

「うううううううううううっ!!!」



・・・ソルレオンが姿を現したとき、俺達は地面に転がり、変身をとかれていた。
「・・・まるで、見えなかった・・・。」
その恐るべき速度。ケルベロスだった時とは比べ物にならない。
一瞬のうちに仮面ライダー、3人がやられてしまったのだ。
俺と橘さんは意識があるが、美月ちゃんは気を失っている。

『・・・これで、私に刃向かうことの無意味さが分かっただろう?』
ソルレオンが近づいてくる。

「く・・・・!」
『これで最後だ・・・・。』

『ヴガルル・・ヴガルルル・・・・!!』
ソルレオンの後ろからついてくるオルトロスたちが、俺達を見下ろしている。
『そうか・・・・。腹をすかせているようだね。では彼らを餌とするがいい。』

「!!!!」
『ヴガルルル・・・ガルルウ・・・!!』

「み、美月ちゃん起きて!美月ちゃん!!」
橘さんが彼女を揺するが、起きる様子はない・・・。


『・・・・やれ!!!』

『ヴガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』
その言葉と共に、13体のオルトロスは一斉に俺達に襲い掛かってきた!!



バシバシバシバシィィィィィッ!!!!!

『ガアアアアアッ!!!!?』
・・・・コレで最後かと思われた瞬間、俺達とオルトロスの間に雷撃が走った!!

『・・・・・・。』
俺達がその放たれた方を見ると、そこには白い仮面に一つ目の怪人が立っていた。
そして俺達は、それが誰なのか知っている。

「広瀬、さん・・・・。」
『無事なようだね。』
人間態であるときと変わらない、穏やかな声で話しかけるトライアルB・・・・。
ゆっくりと俺達の方に向かって歩いてくる。

『ここは任せたまえ。・・・君達は逃げるんだ。』
「え・・・?」

『今は体勢を立て直す必要がある。烏丸君と合流し、天王路さんを倒す方法を探すんだ。』
「でも、でも広瀬さんは!!!」
『・・・・剣崎君。』

ぽいっと、彼は何かをオレに投げてよこした。
・・・それは小さな、指輪だった。

『栞に渡してくれ。』
「広瀬さん!!!」




『君かね広瀬君。恥知らずにも私の前に現れるとは・・・・。』
『天王路さん・・・・。』
広瀬さんは俺達を追い抜き、ソルレオンの前に立った。
向かいあう二人。

『・・・早く逃げたまえ。君達は死んではならない!!』
俺達に背を向けたまま、広瀬さんは叫ぶ。

「でも、広瀬さん!!!」
「・・・・いくわよ。剣崎君!!」
「え!!?」
見れば橘さんは、美月ちゃんを背負い、立ち上がっていた。
広瀬さんがけん制しているので、オルトロスもこちらに近づいてこない。

「広瀬所長の言うとおりよ。ここで私達は死ぬわけにはいかない・・・・!」
「でも、広瀬さんは!」

「行くのよ!!!!!!」
「!!」

『ありがとう。橘君・・・・。』

「・・・・・。」
橘さんは黙って広瀬さんに頭を下げると、足早にここを去る。
「広瀬さん・・・・・。」
『剣崎君。・・・君は生きて、君の理想を叶えるんだ。いいね・・・・。』

「ッ!!!!!!」
俺は走り出した!!
もう・・・振り向かなかった。






『しかし君も格好をつけたものだ。改造実験体に過ぎない君が、我々を相手に出来るとでも?』
『ヴガルルルルルル・・・・・。』

じりじりと迫り寄るオルトロス達。
『君は既に用済みだ。私が手を下すまでもない・・・・。』
『・・・・・。』


・・・・・・・・。

『喰らえ!!!』
号令の元、オルトロスたちは襲い掛かる!!
『ヴガアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』
『・・・・・・・・・・!』

ガシュウウウウウウッ!!!!



『・・・・・・・。』
オルトロスたちは、トライアルBに張り付いたまま、動かなくなった。
『・・・・・・・?どうした?』

バチバチ・・・・

その中から、わずかに雷撃がもれる。
『・・・!まさか・・・・・。』

バガァァァァァァァァンッ!!!!!

『!!!!!』
張り付いたオルトロス達の中心から、すさまじい雷撃が放たれ、それらは散り散りになる。
『天王路さん・・・。私を甘く見ないでもらいましょうか。』
トライアルBが左手を突きたてたオルトロスは、石化していた。
それを盾に、残りのオルトロス達の攻撃を防いでいたのだ・・・!

ブンッ!
バガアアアッ!!

その腕を振るい、石化したオルトロスを砕く。
『そうか・・・。君にはそんな能力もあったね。』

『ヴガアアアアッ!!!』
再び襲い掛かるオルトロス達!!

『フン・・・ッ!!!』
それに合わせ左手を突き出し、その一体を石化する。
そしてそれを別の一体に投げつけ、石化した一体を砕き、動きの止まった一体に雷撃を浴びせる!!

バシバシバシバシィィッ!!!

『ヴガアアア・・・・・・。』
また一体息絶える。



『こんなザコでは、私は止められませんよ。・・・・天王路さん。』





第97回「人類の明日の為に」





バガアアアッ!!!

・・・・ついに、オルトロスの最後の一体も粉々に砕かれる。
『・・・・広瀬君も、厄介なものを最後に残したものだ。』

天王路・・・ソルレオンが一歩前に出る。
『私はいつまでも君に構ってはいられないのだ。世界が、新たな段階を望んでいるのでな・・・・。』
『今の人類を滅ぼし、争いを起こさない平和と調和を望む新たな人類を創造する。』
『私がこうしなければ、・・・・邪悪な心に満ちた今の人類に、未来などない。』

『・・・・そうでしょうか?』

『なんだと?』

『確かに今の人類は、貴方というとおり邪悪な心に満ちているでしょう。しかしその一方で、人を愛し、人を守ろうとする者もいるのです。』
『・・・・剣崎君の事かね。』
『彼は人を愛し、人を守るためにその心を痛め、燃やし、起っているのです。』
『私は彼を哀れに思うよ。・・・・・あのような人類を守ろうなどと。守る価値など、どこにもない。』

『・・・・貴方がもう少し早く、彼と関わっていたならば、貴方の娘ともども、変わっていたのかもしれませんね。』
『何をバカな・・・・。』

『ですが、こうなった以上、私は貴方を倒さなければならない。』
『そんなことは不可能だ。』


バシバシバシバシッ!!

その手から雷撃が放たれる!
『む・・・。』
腕でその顔をかばうソルレオン。
『ムウウウ・・・ッ!!』
その隙をついてソルレオンに近づくトライアルB!
走る勢いを利用し、石化の左手を突き出す!

『・・・・!!』
ざっと、その攻撃を身体を横にずらしかわす!
だがすぐに広瀬さんは体勢を立て直すと、続けて左手の攻撃を繰り出す!!
『・・・・・む、むうううう・・・・。』
その、ソルレオンの必死に攻撃をかわす様子から、石化の魔手は脅威に映っているようだ。
『調子に・・・乗らないでもらおうか。』

しゅる・・・・・。

『!!!』
その足に、ソルレオンの尻尾が絡みつくッ!
『うっ!!?』
足をとられ、仰向けに倒れるトライアルB!

グアアアアッ!!!

その隙を狙い、ソルレオンの3本の爪が振り下ろされる!!!!

ズドオオオオオオオオンッ!!!

間一髪身体を転がしてかわす!

『・・・やるね。広瀬君。』
『私は剣崎君に娘ともども救われた。・・・彼に報いなければいけないんですよ。』
『ではわたしも・・・・。私を助けてくれた剣崎君のためにも、新たな世界の支配者とならなくてはね!』

ビュッ!!

ザギィィンッ!!

『ッ!!!!』
その爪がトライアルBを捉える!!
『ハハアアッ!!』

ザギィィンッ!!!

『ぐうッ!!!』
続けてその身体を斬りつけるソルレオン。
『とどめだ、広瀬君!!』

その爪を腰にため、一気に突き出す!!
『ムッ!!』

タンッ!

そこから間合いをはずし、その攻撃を空振りさせる広瀬さん。
『ハアアアアアッ!!!』
突き出した爪を背中でよけながら、トライアルBはその左手を突き出した!!

ガスッ!!!

『ぐあ、ああああああああああっ!!!!?』
先ほど、オルトロスの大軍を次々と石へと変えたその魔手が、ソルレオンに突き立った・・・!!!







「BOARDの研究員達は、どこに避難したんでしょう?」
橘さんの背中で目を覚ました、美月ちゃんが口を開く。
「さあ・・・・。とりあえず安全なところ、自宅に帰ったのかしらね・・・。」
「警察に通報とか・・・。」
「私達が相手にしているものは、警察なんかじゃどうしようもないって、みんな分かってるでしょ?」
「あ、そうですね・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」
俺は二人の横で、研究所の方を見ていた。
その手には、広瀬さんから託された指輪。
(また、指輪か・・・・。)
アンデッドとの戦いで命を散らした、橘さんの恋人の、深沢 真小夜さんの事を思い出す。
あの人も、自分が死ぬ前にオレに指輪を託した。

もう、誰も犠牲にしたくなかったのに・・・。
自分の無力さを悔いる。

「剣崎君・・・。」
そんなオレの様子に気がついたのか、橘さんはオレの名前をつぶやいた。



たったったったったったっ・・・。

「?」
遠くから、人影が近づいてくる。
「あれ、広瀬さんじゃないですか?」
「えっ!!?」
俺はその名前に激しく反応した。
あの人が、生きてこっちに戻ってきたのかと・・・

でも、美月ちゃんがいう方向は、研究所とはまるで逆だったので、すぐにそれは少しの落胆に変わる。
えと、ということは・・・・。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・。」

こっちにやってくるのは、娘の広瀬 詩織さんだった。
必死の形相で、彼女は俺達を見ずにその向こう、研究所だけを見つめている。
「広瀬さん!!!」
俺はそれに気がつき、彼女を抑えた。

「放して!!」
「ダメだ!!研究所に戻っちゃ!!」
「詩織ちゃん!!?」
その言葉に橘さんも反応し、美月ちゃんを下ろして抑えに加わる。

「烏丸主任も振り切ってきたのよ・・!!わたしは、お父さんのところに行かなくちゃ!!」
「ダメよ!広瀬所長は貴方を守るために、私たちを守るためにあそこに残ったの!!今貴方が戻ったら、あなたのお父さんの気持ちが・・・!!」

「お父さん・・・おとうさあああああんッ!!!!」





『何・・・・ッ!!!?』
驚いたのは広瀬所長だった。
突き立てたはずの必殺の魔手は、天王路・・・ソルレオンに対し、まるで効果を発揮しない・・・!!!
『かかったようだね。』
『!!!!』

ガシッ!!

その左腕を天王路の右手が掴む!
『さっきの叫びは・・・・。』
『もちろん、その左手を警戒する動き。それら全て君を油断させる芝居だよ。』
『はじめから、貴方はこうなることを知っていて・・・!!』
『私は万能の支配者だ。こんな小細工は通用しない。』
ぐっと、その腕をつかむ手に力を入れる。

『うううっ!!?』
『だが・・・・。わが子オルトロス達は別だ。君のこの左手、彼らには脅威となる。』
『ふんっ!!』

バキィィィィッ!!!!!

『うぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!』
『ふん・・・。』

ぽいとその腕を投げ捨てる。
『あ、ああああ・・・・。』
引きちぎられた腕をおさえ、大きく後ずさるトライアルB・・・。

『これで・・・きみはわずかな希望をなくしたわけだ。』
『うううっ!!!』
トライアルBは苦し紛れに残った右手から電撃を放った!!

バシバシバシバシィッ!!!

『フフフ・・・ハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
が、やはりものともしないソルレオン。
『うあああああああああっ!!!!』
それを見て、さらにその雷撃の出力を大きくする!
荒れ狂う雷が、残った研究所施設を蹂躙していく・・・!

『無駄だ無駄だ・・・。もはやきみに・・・。』
ところ構わず飛び回る雷撃は、ソルレオンの横を通り過ぎ、その周りを削っていく・・・・。
そしてその行く先に、あの統制者の石があった。
『・・・・!!!!』

ダッ!!

『!!?』
あわてた様子でソルレオンはその雷の前に立つ。
そして自ら雷撃を受け止め、かき消した。
『天王路さん・・・?』

『・・・・もう終わらせることにしよう。余計な勘繰りをされる前に。』
『貴方は・・・!!』

その言葉を言い終わる前に、ソルレオンは再び白い閃光と化した。
目にも止まらぬスピードで一気にトライアルBに近づき・・・。

ザシュッ!!!!

・・・その腹を貫いていた。

『ぐあ・・・・はああっ・・・!!!!』
『さらばだ・・・・・。広瀬君。』

ズバアアッ!!!

その貫いた爪をそのまま横に凪ぎ、トライアルBの胴体は両断されてしまった・・・・。
ごろりと転がる上半身、崩れ落ちる下半身。
その身体は徐々に風化していく・・・。

『・・・・以外に手間取ったな。』
ソルレオンは振り向くと、広瀬さんを背に歩き出す。


『ライダー諸君は必ず私を止めるためにやってくる。ならば私は、彼らが気がつくよう、派手に事を進めようじゃないか・・・。』
ソルレオンは歩き出す。
統制者の石も浮かび上がり、それについていく。
バトルファイトの勝利者、万能の支配者と共に・・・。





びくっ!!!

「うううっ!!!」
突然、俺と橘さんで抑えていた広瀬さんが、頭を抑えてうずくまった。
「どうしたの!広瀬さん!!」
「うあああああああああっ!!!!!」


・・・・彼女の中で、声が聞こえる。
詩織、詩織と自分の名を呼ぶ、懐かしい声。


おとうさん・・・。

石を・・・。統制者の石を壊せ・・・?
何、何のことなの、おとうさん・・・・・。
ごめんねって、なに・・・・。


・・・・。

ゆびわ?ゆびわって、おとうさんのつけていた?
けんざきくんが・・・・もってる?
自分で渡さなかったのは、別れが辛くなるからって・・・・


おとうさん、どこへいくの?
・・・おかあさんにあいにいくの?
だ、だめよ。私、またひとりぼっちになっちゃうよ・・・

なかま・・・・?

わたしには、仲間がいるって・・?
でも、でもおとうさん・・・。

・・・それに、おとうさんもおかあさんも、ずっとわたしのそばにいるから・・・・。
そう。・・・そうなんだ。うん。


・・・仲間と力を合わせて、世界を救ってくれ・・・・。
そういうの?おとうさん・・・・。

・・・・・わかった。
わたし、負けないよ。
わたし・・・・・。まけないから。






「・・・・・・・・・。」
「広瀬さん?」
ひとまず頭痛は治まったようだが・・・・。
「剣崎君。指輪・・・渡して。」
「え?あ、ああ・・・。って広瀬さん、何でそれを・・・。」
彼女はそれをオレの手からそっと取ると、ぎゅっと両手で握り締めた。
「感じる・・・。おとうさんを、おかあさんを。」
「全部・・・・・。家族の思い出全部、ここにあるんだね・・・・。」

「広瀬さん・・・・。」
「・・・さあみんな、烏丸主任のところへ行きましょう。案内するわ。」
「詩織ちゃん・・・。うん。」
「絶対・・・。絶対に私たちの手で、世界を守りましょう!」


俺達はその言葉に力強く頷くと、広瀬さんについて歩き出した。



・・・・まだわたしの中に、おとうさんの、トライアルBの記憶は残ってる。
お父さんは自分が死んだら消えるっていってたけど、ちゃんとわたしの中にある。
思い出は、消えたりしないで、ここにある。

おとうさん。みていて。わたし達、きっと世界を守って見せるから・・・・。





第98回「最後の夜」




「そうか。広瀬君が・・・・。」
薄暗い部屋の中に、6人の人間が顔を合わせる。
俺を含むライダー3人。
烏丸主任、広瀬さん、一菜。

俺達が集まるのは、旧BOARD研究所。
赤い壁をした、もうずいぶん古い建物だった。
聞けば、BOARDの最も古い研究施設だったらしい。
まだ、アンデッドも仮面ライダーもなかった頃の、BOARDの・・・。

「父は、最期にこういっていました。」
「なんだね?」
広瀬さんの言葉に、みんな耳を傾ける。

「統制者の石を、破壊しろと。」

「・・・・・・なるほど、もはやそれしか方法はない。広瀬君はそう判断したのだろう・・・。」
「どういうことですか?」
美月ちゃんが解説を求める。

「今の天王路は、統制者の石から万能の力を授かった究極の存在だ。」
「が、それはバトルファイトというシステムがあっての話。そのマスターである石がなくなれば、天王路のその力も存在できなくなる。」
「なるほど・・・・。」

「すごく、実現が難しい話ですね・・・。」
橘さんが眉間に皺を寄せて言う。

「え、そうでしょうか?あの黒い石を壊すだけでいいんでしょ?」
「ええ。・・・・でも当然そのことを天王路も分かっている。奴は死に物狂いで統制者の石を守るでしょうね。」
「あ・・・・・。」

「俺が囮になりますよ。」
「剣崎君・・・。」
「オレのキングフォームじゃないと、あのソルレオンとはまともに戦えない。」
「・・・だめよ。あなたはもうキングフォームになっては。」
オレの提案を、あっさり否定する橘さん。
「な、なんでですか!」

「いくらあなたのキングフォームだって、奴にはまるで敵わない。・・・わたしと美月ちゃん、二人のキングフォームで奴を抑える。この方が確実よ。」
「その隙にあなたが、統制者の石を叩き壊すのよ。これしかないわ。」

「・・・・・・・・。」
確かに、奴はオレのキングラウザーを叩き折った。
俺一人では奴に勝つことは出来ない。

・・・でも俺は、二人を犠牲にしたくない。
もう、誰も犠牲にしたくない。
始穂を失い広瀬さんを失い、これ以上橘さんや美月ちゃんを失うことになれば、俺は・・・。

「・・・だいじょうぶよ。剣崎君。」
「!!」
そんなオレの考えを見透かしたように、橘さんは言った。
「私たちは死なないわ。だからあなたは心配しなくていいの。」
「橘さん・・・・・。」
「そ、そうですよ!わたし達、絶対に天王路さんを石の元へ行かせませんから、剣崎さんは・・・・。」

「・・・・わかった。」
俺がそういうと、みんな胸をなでおろしたように、ほっとした表情になる。

「・・・話は決まったな。とにかく今夜は休もう。明日、最後の決戦を挑むことになる。みんな、こんな場所ですまないがゆっくり休んでくれ。」




・・・・俺はまた、天井を見上げる。
烏丸主任や一菜の用意してくれた、寝袋に入って考える。

俺は誰も犠牲にしたくない。もうこれ以上、誰も・・・。

俺は嘘をついた。
橘さんの話に、俺は納得なんてしていない。
だから。俺はこっそり抜け出そうと考えていた。
一人で天王路を倒し、統制者の石を破壊しようと思っていた。


出来るかどうかわからないけど、それがみんなを犠牲にしない、たった一つの方法だと思うから。
俺は寝袋から抜け出し、その手に始穂と、始穂の持っていたカードを手に、オレにあてがわれた部屋から出ようとした。

こんこん。

その時、外からノックが。

・・・・・どうする?




1.寝たふりをし、声をかけられても返事しない。気配が消えたら、抜け出す。
2.・・・俺が抜け出そうと気づかれたか?仕方ない。明日までおとなしくしてよう。
3.「剣崎君、起きてる?」・・・・ノックのぬしは橘さんだった。
4.「あの、あの剣崎さん、お話したいことがあるんです。」美月ちゃん・・・?
5.「おにーさん、起きてますか?・・・・寒くて不安で、眠れなくて・・・。」・・・しょうがないな。一菜は。




第99回「最後の夜・橘 さくら編」





「剣崎君、起きてる?」

「・・・・!!!」
気づかれたのか!?
俺が、一人で抜け出そうとしてること・・・!!
橘さんは、付き合いが長いせいか、オレの考えを完全に見透かしている節がある。
さっきもそうだし、ハートのカテゴリーKを倒そうとした時もそうだった。
「起きてるみたいね。・・・・・入って、いい?」

「やば!」
おれは小声で大声を出すと(謎)あわててカードをしまい、寝袋に蛇のように滑り込んだ。

「返事を聞かずに開けま〜す♪」
ぎゃ!
なんて人だ!
あぶないところだった・・・・。

「おとなしくしてるみたいね。うん。」
にこにこしながら彼女は入ってくる。



・・・橘 さくら。オレの先輩ライダー。
俺より年上、スタイル抜群。
厳しいところもあるけれど、心優しい、オレの最も信頼する人。
紅く長かった髪は、いつの間にか短くなっていた。
カテゴリーKとの戦いで断ち切られたんだと、一菜が言っていた。

寝袋で転がるオレの横に、橘さんがしゃがみこむ。
・・・部屋は暗かった。
だからなんだといわれても困るけど・・・。

「ね、剣崎君。お話しようか?なんだか眠れなくて。」
「もちろん、剣崎君がよければ。」

・・・俺は少し考える。
ここで断ったら、怪しまれるかもしれないな。
別に断る理由は何もないわけだから、そのほうが不自然だ。
それに、彼女を部屋に入れた時点で、もう抜け出すのは無理だ。
・・・・じゃあ。

「ええ。いいですよ。」
俺は寝袋から抜け出し、橘さんにむかいあう。



「・・・二人だけで話をするの、すごく久しぶりだね。」
「そうですね。」
この切り出し方、なんか始穂の事を思い出すかな・・・・。
「明日で全部終わるのね。私たちの戦いも、仮面ライダーという仕事も、この地球に生物が誕生して以来ずっと続けられてきた、バトルファイトも・・・・。」
「そうなるんですね。」

「そして、今度こそ剣崎君ともお別れか。」
「え?」
「だって・・・。剣崎君は研究所に残らないんでしょ?」
「は・・・・はい。」
「そか。そだよね。」
「ま、研究所自体ああなっちゃって、また動くようになるのはいつかわからないけどね。」
「はい・・・。」

「で、剣崎君はどうするの?戦いがおわったらさ。」
「え?・・・・・そうですね。」

前の戦いが終わった後考えていた、始穂を封印した人物を探す。その目的は既に達せられた。
じゃあ、今度は俺はどうするというんだろう・・・・?

「何も考えてません。でも、人の役に立つ仕事がしたいかな・・・・。俺はもともと、その為に家を出たわけですから。」
正直な気持ちを告げる。
正直というか、思いついたことをぱっと話したというか・・・。
でも、間違ってないと思う。

「そっか。うん。剣崎君らしいよ。」
「そ、そうですか?」
「うん。」

「わたしはね。やっぱり研究員だけど・・・。」
「でも、剣崎君と・・・・一緒にいたいな。ふふ。」
いつもと変わらない笑顔をオレに向ける。

「え・・・・?」
でもその笑顔の意味は、多分いつもと違ってて。
「・・・わたしね、剣崎君好きだよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」
「え、ええええええええええッ!!!!?」

「真小夜と・・・同じくらい、ね。」
「そ、そうだったんですか・・・・。」

「剣崎君、昔はわたしに御執心だったよね。」
「は、はい・・・・。」
思っても見なかった事を聞かされ、ちょっと気圧されてしまう。

「でも剣崎君は・・・・、今は始穂のほうが好き、だよね。」
「あ、あの・・・・。」

「・・・・最後の戦いの前に、伝えておきたかったの。ダメだって、分かってるしね。」
「橘さん・・・・。」




1.橘さんの気持ちに・・・。応えたい。もともと俺は。
2.いや・・・。やっぱり俺は、始穂を忘れるわけにはいかない。










参.すみません。後輩属性の俺としては、美月ちゃんが好みなんで(待て
四.俺、実は妹好きでして・・・。一菜しか見えないんです!!(ぇぇー
伍.俺・・・・。広瀬さんに踏まれたいんですッッ!!(Mだったんディスカー!(0w0;)



お願いですから本気にしないでくださいねッ(゚Д゚;)





第100回「告白」





「先輩。俺は。」
「同情とかだったらやめてよ?・・・うれしくないんだから。」
彼女は笑顔でそういう。

橘さん・・・。
「俺も先輩が・・・・。」
好きだと言おうとした時、オレの口は彼女にふさがれた。
「・・・・・・!」
「ダメよ。そんな簡単に乗り換えちゃ。」
「あ、わたしもそうか。あはは。」
笑いながら頭をかく。

俺は橘さんから手を払う。
「始穂は、彼女は、あなたの誰よりも大切な人だったんでしょ?」
「はい・・・。」
「だったら、わたしなんかに逃げちゃダメよ。剣崎君には、もっと相応しい人が現れるから。」
「逃げ・・・・なんかじゃないです。」

「剣崎君・・・?」
「俺は、仮面ライダーになって。そこで橘さんにあって、そのときからずっと俺は橘さんに憧れていました。」
「いつも素敵で凛々しくて、綺麗で、でもどこか危なっかしいところもあって、放っておけないって言うか・・・。」
「俺は、ずっとあなたが好きだったんだと思う。」

「剣崎君・・・・。」

「でも、・・・・俺は始穂を裏切れません。今この時には。」
「今は?」
「はい。・・・・戦いが終わって、全てのラウズカードを封印して、バトルファイトも消滅して、全てが終わった時、改めて俺は前に進めるようになると思うんです。」
「そのとき、もしオレに命があったなら・・・・。俺は橘さんの事を、ちゃんと向き合えるようになると思う。」
「バカ!死ぬなんていわないでよ!」

ぎゅっ!!

「・・・!!」
急に抱きつかれ、思わず息を呑む。
「あなたは生き残る。絶対に。そしてわたしも。」
「はい・・・。橘さん。」
俺も彼女の背中に手を回す。
「すごく近くに剣崎君を感じる・・・。」

「俺・・・・。橘さんを守ります。もちろん、美月ちゃんや一菜。烏丸主任。・・・世界中のみんなを。」
「今度こそ。始穂に果たせなかった約束を。俺は・・・・。」
「うん・・・・。私もあなたを守る。絶対に。」

少し身体を離し、彼女と向き合う。
上気した表情の橘さん。
顔を紅くして、半目になっている。
その見たことのない表情に、オレの心臓は破裂しそうだった。

「剣崎君・・・。」

彼女が顔を近づけてくる。
それが合図。
ゆっくりと彼女は目を閉じる。

・・・・・・・・・・・・・・でも。
「だめです。橘さん。」
「・・・・・・え?」
目を開く。
「始穂が・・・・見ています。」
俺は懐から、ジョーカーのカードを見せた。
「始穂・・・・・。」

「すみません。俺は、まだ・・・・。」
彼女は俺から身体を離す。
「ううん。いきなりこんなことして、ごめん。剣崎君にも気持ちの整理がいるよね。」

「すみません・・・・。」
もう一度頭を下げる。
「もう、そんなに謝らないで。いいの。」

彼女はドアの方を向く。
「橘さん・・・。」
「明日、頑張ろうね。泣いても笑っても、コレが最後。」
「はい。」
「ふふ。剣崎君のおかげでよく眠れそう。じゃ、また明日。お休み。剣崎君。」
「はい。橘さん。おやすみなさい。」

彼女が部屋から消える。
はぁ・・・・・。

俺は寝袋にもぐりこむ。
橘さん・・・・。
すぐにさっきの事を思い出し、顔を赤くする。
もしあのまま止めていなかったら・・・・。

・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・。

ぽっ。

いやいやいや!!!
俺はジョーカーのカードを見る。
「始穂。俺には君が・・・・。」
「・・・いたんだよな。」

物言わぬカードをじっと見つめる。
「始穂・・・。橘さんなら、始穂も文句・・・・ないよな?」
ジョーカーのカードは、何も応えない。

俺は瞳を閉じる。
明日・・・・。明日で全てに決着がつく。
仮面ライダーになった自分に。始穂とあってからの自分に。

始穂・・・・・。
始穂の事を思い起こす。
彼女と過ごした思い出を。
俺はそれを思いながら眠りに就く。

せめて今夜は、彼女が永遠に消える明日までは。
彼女の事を思って、俺は明日に備えることにしたのだった。






・・・・その瞬間。その家の周囲は荒野と化した。
白い閃光が起こったかと思うと、それによって存在していたはずの多くの家も、そこに住む人間達も、その幸せも一瞬にして消滅していた。
そして。
何もない荒野の中に、黒いオブジェと人影だけが存在していた。

「博美。さあ、約束を果たす時が来た。」
その男性の肩には、腹を貫かれ絶命した少女の遺体があった。
「お前は、生まれ変わるんだ・・・。」
物言わぬ自分の娘を抱えると、それを黒いオブジェ・・・統制者の石の中に埋め込んでいく。
統制者の石は、彼女の姿をすっかり飲み込んでしまった。

「生まれ出でよオルトロス達。」
その声に反応し、統制者の石からは紅いアンデッドが次々と生まれ出る。
「いけ。全ての人類を滅ぼすために。」

バババババッ!!!!

その声にいっせいに方々へ散るオルトロスたち。
「そうだな。・・・・一週間もあれば全ての人間の掃除は終わるだろう。」
「そして・・・・・。」

ズズズズズズズ・・・・。

「お前を雛形に、わたしの理想の人類は誕生する。」
「はい・・・・おとうさま。」

統制者の石から再び現れた少女。
傷はふさがっていたが、その目には生気がなかった。
「お前は本当に、我が妻に似ているな・・・。」
その頬をゆっくりとなでる。
彼女は反応しない。
「美しい・・・。そしてこの美は永遠のものだ。」
「はい・・・・。おとうさま。」

一糸纏わぬその姿に、天王路は服を与える。
世にも美しい白いドレス。
「お前のために特注で作らせた。着てみなさい。」
「はい・・・・。おとうさま。」

言われるままにそのドレスを身に着けていく。
袖はなく、肩には紐だけのナイトドレス。

「よく似合う。ずっと、そのままでいておくれ。」
「はい・・・・。おとうさま。」

ほとんど一方通行に思える親子の会話は、無人の荒野に消えていく。
空にはただ、白い月だけがあった。





第101回「理想の人類」





その場所。

天王路がいる場所は、探すまでもなく見つかった。
都内に突如発生した、3キロ四方の荒野。
一夜のうちに現れたというそれは、見たことのない怪物に守られ、警察も軍隊もその中心に近づくことさえ出来なかった。

「間違いない。ここに天王路がいるわ。」
俺と美月ちゃんはその言葉に頷くと、その場所に向かってバイクを走らせた。
その時を同じくして、各地に紅いアンデッド・・・オルトロスが出現。
人々を襲い始めていた。

烏丸主任は、再びアンデッドハンター隊を呼び集め、その鎮圧に当たった。
しかしそれもしばらくの間だけだ。

ダークローチとは段違いの強さを誇るオルトロス。
しかもその圧倒的な物量に、いずれアンデッドハンター達も力尽きてしまうだろう。

俺達はそうなる前に、天王路を倒さなくてはいけない。
手はずは昨日話し合った通り。
橘さんと美月ちゃんが天王路を抑え、その隙に俺が、その力の源である統制者の石を破壊する。

コレで全て終わるはずだ。
いや。・・・コレで終わらせる。

「「「変身!!!」」」
俺達三人はバイクに乗ったまま変身、そのまま目的地へと急いだ。






アスファルトが突然途絶え、地面が大きくくぼんだ場所に出る。
「これが・・・・。万能の力。」
見渡す全てに、赤茶けた地面が顔を見せている。
ここの一帯だけ、街が削り取られてしまったかのようだった。
こんな住宅地の真ん中で、人の多い場所でこんな事をしなくたって・・・。
俺は悲しみと怒りに拳を握り締める。

ぽん。

そんなオレの肩に、ギャレンの・・・橘さんの手が置かれた。
「終わらせましょう。」
彼女はその一言だけを告げる。
・・・俺はそれに黙って頷いた。

バイクを乗り入れ、その中心に向かって走る。
不思議な事に、話に聞いていた、この場所を守っているというオルトロスとは、一体も出くわさなかった。
みんなで払っているのか、あるいは俺達を誘っているのか・・・・。

その疑問は次に前を見た瞬間、すぐに立ち消えた。

「ようこそ。仮面ライダー諸君。」
・・・倒すべき相手が、すぐ向こうに立っていたからだ。

俺達はそこまでバイクを走らせると、奴の手前でバイクを止めた。
「もはやお互い、語ることもあるまい。」
「ええ・・・・。そうね。私たちはお前を倒す。それだけよ。」
「私も・・・・きみたちを滅ぼし、わたしの理想の世界を実現する。」

そう。手短に語られた互いの言葉。
俺達も天王路も、自分の目的を果たすために戦う。それだけだった。

天王路は人間態から、再びソルレオンへと変化する。

「いくわよ・・・・。美月ちゃん!!」
「はい!!」

『『ABSORB QUEEN』』
『『EVOLUTION KING』』

橘さんは自らの、美月ちゃんは烏丸主任が完成させた新たなラウズアブゾーバーを起動、キングのカードを使用する!
ギラファアンデッドの、タランチュラアンデッドの紋章が二人に吸い込まれ、それぞれのキングフォームへと変身した。

「覚悟なさい・・・・天王路!!」

ドヒュイドヒュイッ!!

引き抜いたギャレンラウザーが火を吹く!
『ハハハハハハ・・・無駄だ無駄だッ!!!』
それをものともせず突っ込んでくるソルレオン。
振るわれる左腕の爪・・・!!

ガギィィンッ!!!

『・・・・む。』
それを、背中の杖と重醒杖キングラウザーで受け止めるレンゲル!
「今です!剣崎さん!!」
「行くのよ!早く!!!」

「よし!!」
俺は再びブルースペイダーのアクセルを踏むと、ソルレオンを通り過ぎ、まっすぐ中心部へと向かった。
『・・・・なるほど。そういうことか。くくく・・・・。』





その先に黒いオブジェを見つけたのは、そう走ってはいない時間にだった。
俺はブレイラウザーを引き抜き、そこに向かって全力で走る!

バイクのスピードを利用して、こいつで統制者の石を叩き斬る。
そしたら天王路の力も弱まって、あの二人でも倒せるようになるはずだ!
俺はいよいよアクセルを吹かし、一気にそれに近づいていく!!

・・・・だが。そこにはいてはならない者がいた。

「・・・・・・・・・。」
白いドレスをはためかせ、統制者の石の前にたたずむ少女。
こんなところに人が!?
俺は思わずブレーキを引き、減速していく。

バイクが完全に止まった時、オレの前には白いナイトドレスを纏った、まだ幼い少女がいた。
それはこの場に似つかわしくない、美しいドレスだった。
彼女の目は虚ろで、まともに世界が見えてない、ように見える。
ここの、この惨事の、生き残り・・・だろうか?

「ねえ。君・・・。」
オレの声が届いたのか、目だけをこちらに向ける。
「・・・・・・・・・。」
「きみ、ここは危ないよ。早くここから離れて・・・・。」

・・・・・・・・。
彼女、どこかであったような。
・・・・・・・。

「あっ、君・・・!!」
そうだ。この間天王路さんを迎えに来てた、あの小さな女の子・・・。天王路さんの娘っていう子だ。
「どうしてここに・・・・。それに君は、」
天王路が、殺したといっていたはず・・・・。
いや、ここに彼女がいる以上、それはさておこう。

「ここを、はなれる・・・?」
オレの言葉に、彼女は首を傾げた。
「そ、そうだよ。早く・・・・。」

『はなれない・・・・。おとうさまとのやくそく。』
「え?」

ヴォンッ!!

「!!!!!」

ザギィィンッ!!!

「ぐあ・・・・ッ!!」
いきなり振りぬかれたその腕から光の剣が飛び出し、オレの胸を切り裂いた・・・・!!
『おとうさまとの・・・・やくそく。ここをうごかない。』
『これにちかづくものは・・・・ころす。』

「この子は・・・・・・!!」
その背に翼を生やし、飛び上がった。
「天使・・・!?」

『わたしは・・・・おとうさまのりそうのじんるい。へいわとちょうわをねがうあたらしいにんげん。』
『おとうさまは・・・そのしはいしゃ。おとうさまのめいれいは、ぜったい。』

「天王路の・・・理想の人間!!!」
こんな、心の抜けた人形のような人間が、理想の人類だって言っていたのか・・・・。
コレのどこが、理想だって言うんだ!!!

『おとうさまとのやくそく。』
彼女はその剣を構え、オレを狙う。
「そんな・・・。」
でも、外見はただの女の子。俺はそんな子を斬る事なんて出来ない!

なんとか彼女をやり過ごして、アレを破壊しないと、天王路と戦う二人が・・・・!!


ビュッ!!!

彼女が疾走った!
一直線にオレを狙う光の剣!
俺はそれに合わせブレイラウザーを振る!

バチィィィッ!!

ラウザーの刃に走る高熱が、光の剣のエネルギーと干渉し、火花を散らす!
しかし彼女は止まらない。
その一撃を受け止められたのを認めると、すぐさま空中に飛び上がり、また構える。
「ああやって空中から狙われていたんじゃ、統制者の石を壊そうと背中を向けた瞬間やられてしまう・・・。」
俺は後ずさり、統制者の石を盾にしようとするが、彼女もまた移動し、常にオレの背中をとろうとする。

結果、俺は彼女を警戒するしか出来ない。
そして・・・・。彼女は隙を見せない。
ロボットのように感情がなく、心に動揺のない彼女には、心理戦もおそらく通じない。
・・・・やはり倒すしかないのか。

でも、でも彼女は、傷ついた父親を心配して、わざわざ迎えにやってくるような心優しい・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。



(わたしが娘を、生きる苦しみから解放したのだよ。)

・・・・・・・そっか。

俺は彼女に向けて剣を構える。

・・・オレの知ってる彼女はもう、死んだんだ。
自分の父親に殺され、そして今、その亡骸さえも利用されようとしている。
すごくお父さんが好きだったのに、その人に殺されて。
無念だったと思う。

「君は・・・・・。お父さんの事をどう思ってるの?」
『おとうさまは、わたしのたいせつなひと。』
「君を、殺したのに?」
『おとうさまは、わたしのたいせつなひと。』
『おとうさまは・・・。』

「・・・・もういいよ。」

『FLOAT』

俺は、始穂のカードをラウズする。
空中へと舞い上がる。

『おとうさまにさからうものは・・・・。』
君はもう、死んだ人間なんだ。
何も考える事を許されず、ただ生きているだけの人形に成り果てた。

『THUNDER』
『SLASH』

『LIGHTNING SLASH』

オレのラウザーが雷を帯びる。

『おとうさまに・・・・。』
二つの剣が、空中で激突した!!!

バチィィィィッ!!!!!!

まばゆい閃光が辺りを包んだ瞬間、俺は彼女の翼を叩き斬っていた。
堕ちていく・・・・彼女。

ドガアアアッ!!!!

頭から落ちる少女。
俺はゆっくりと地上に降り立つ。
『うう・・・・・。』
彼女は生きている。
あの高さから頭から落ちて。

その頭から流れる血は・・・緑だった。
「・・・・・・・・・・。」

振り返り、統制者の石を見つめる。
「もう、コレで終わりにしよう。」
俺はブレイラウザーを構え・・・・。



『いや、そこまでだ剣崎君。』
「・・・・・・・・・・・!!」

・・・・・予想以上に時間を食ったらしい。
俺は声の方をゆっくりと振り返る。

『彼女達はなかなか頑張ったようだが・・・・。』
「!!!!!!」
ソルレオンの両手には、・・・・ライダースーツをズタズタに引き裂かれた、橘さんと美月ちゃんがいた。
胸の装甲は砕かれ、仮面は既になく、二人とも素顔が露出していた。
赤と緑のスーツも裂かれ、覗く素肌には赤い血が流れていた。

『もはや命があるとは思えないが・・・・。一応手加減はしたよ。死んでもらっては人質に使えないからね。』
「人質・・・・・。」

『統制者の石から離れたまえ。剣崎君。彼女達の命が惜しいのなら・・・・。』




人質も・・・・。もううんざりだ。どうしてお前達は・・・!!!


「分かったよ・・・・・。離れればいいんだろう!!!」





第102回「決戦」




『いい心がけだ。』
俺はゆっくりと統制者の石から離れる。

それをみとめると、天王路はパッとその手を離す。
二人の身体が地面に崩れ落ちた。
もう、自力で動くことも出来ないみたいだ・・・。

橘さん・・・・。

その爪を構え、ゆっくりと近づいてくる。
「なんだ・・・・。もう人質はいいのか?」
『君を倒すのに人質など必要ない・・・。君の注意をそらせればそれで十分だ。』
「・・・・・・・・。」

ブレイラウザーを構える。
『長くに渡った君の戦いも、今日が最後だ。』
「ああ。・・・・お前を倒し、統制者の石を破壊する。」
『ふふふ・・・。追い詰められた虫のたわごとかね?』
くつくつと笑う天王路。

「俺は、お前を倒す。そこの彼女のためにも、みんなのためにも!!」
「ウェェェェェイッ!!!」
剣を手に斬りかかる!

『キングフォームなしでわたしに勝てるとでも・・・?』

ギィィィンッ!!

剣は悲鳴を上げる。
その一撃はまるで堪えていないようだった。
ソルレオンは仁王立ち。まるでかわす気はなかったようだ。

ドゴッ!!!

「ぐううううううううううっ!!!!」
その右手を振るわれ、大きく吹き飛ぶ。
背中から落ち、荒野を転げまわる。

ダッ!!

ソルレオンは地を走る!
ぐ・・・・。
俺は膝を起こす。

『ハアアアアアッ!!』
体勢を治す間もなく、ソルレオンは肉迫する!

バガアアアアンッ!!

「ぐああああああああああっ!!!」
振るわれた右の拳に、オレの仮面が砕ける。
仮面の下から覗く素の目で、ソルレオンを睨んだ。
『クククク・・・!』

ブンッ!

また振るわれる拳!
今度はそれを身を捻りかわす。
「ウェイッ!」
その隙を縫って蹴りを繰り出す!
『ぬっ!』
斬撃はダメでも、衝撃が通じるのか、少し後ずさるソルレオン。
「それなら・・・!」
バッと、腰を低く落とし右腕を上に、左腕を下に落とし、格闘戦の構えを取る。

『フンッ!!』
身体を回し、その右腕を振る。
それにあわせ左腕を上げ、それを止め、空いた右手で顔に拳を入れる!

バキッ!!

『ぬう・・・・!』

「はああっ!!」
そのたじろいだ隙をつき、ソルレオンの身体を駆け上がるように蹴りを入れ、空中で回転、そしてその腹に両腕のパンチを入れる!!!
『おのれ・・・!!!』
オレに向かって右手を伸ばすが、バク転しかわす。
ブレイラウザーを引き抜き、カードをラウズ!

『BEAT』

強大な衝撃を蓄えた右の拳がうなる!!!

バキィィィィッ!!!!!

『ぬうううううううううっ!!!!!!』
ソルレオンは大きく吹き飛び、その背を地面につけた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・。」

や・・・やれた?
キングフォームなしで・・・・。

『・・・・・・・・・・・・・・さすがだな。やはりほかに二人とは違う。』
「・・・!!」
やはり、ソルレオンは起き上がる。
『では私も・・・・。本気を出すとしよう。』
その左手の爪をちらつかせた。
『右手だけでは君を倒すことは無理なようだ。』
・・・・・!!

そういえば、先ほどからの攻撃は、右手の拳だけだった。
手加減されていたって言うのか・・・・!

爪を向けるソルレオン。
・・・もう素手じゃダメだ。
間合いが違いすぎる。
俺はブレイラウザーを引き抜く。

オレの使えるAPは残り1800。
その中で繰り出せる技は唯一つ。
コレを完全に奴に叩き込まなくては・・・・。

『では・・・。行くぞ!』

ダヒュッ!!

ソルレオンの白い身体が、閃光のように疾走る!!

ザギィィンッ!!!

「ぐああああっ!!!?」
一撃で右の肩を、プロテクターごと引き裂く!!!
そのおかげで傷は浅くて済んだが・・・。

ギュッ・・・。

オレに一撃を加えた後、すぐに方向転換し、こちらに向かってくる!
その接近する閃光に、タイミングを計り剣を振るった!

ガィィィィィンッ!!!!

振り回した剣と爪が命中し、俺の剣だけが弾かれる。
その瞬間、奴の姿が見えた。
『ぬう・・・ッ!!!』

びゅっ!

繰り出される拳。
姿の見える相手なら・・・!
俺はそれを左手で受け止める。

『むっ!』

「ウェェェアッ!!!」
止められるとは思っていなかったのだろう。
奴に動揺が走る。
その隙を突き、ブレイラウザーを斜め下から上へ切り上げた!

ザキィィンッ!!

「・・・・・ッ!」
完全に捉えたはずの斬撃は、その体皮にわずかな傷をつけたに過ぎなかった。

ビュッ!!!

バゴォオォォォンッ!!!!

「ぐあああああああああっ!!!!」
今度は逆に俺がその爪を受ける。
胸の装甲は大きく抉られてしまった。

『受けたまえ、この一撃を・・・・。』

ソルレオンの三つの頭が光りだし、白い破壊の力が高められていく・・・。





・・・・・・・・・・うう。
ようやく意識を取り戻す。
身体を動かすと、もう全身が痛い。

血の入ったその目をこすり、今周りで起きている事を確認する。
すぐ横には美月ちゃんが、わたしと同じような状況に。
つまり、満身創痍。それに、彼女はまだ意識がない。

わたしはさらに前を見つめる。そこでは剣崎君と天王路が戦っていた。
キングフォームに変身せずに。

く・・・・!

私たちが、もっと長くあいつを抑えていられれば・・・!
しかし、あれ以上何が出来たというのだろうか?
わたしと美月ちゃんのキングフォーム。その最大の技であるストレートフラッシュを同時に受けて平然としていた、あの怪物を。

・・・・・・ううん。そんなことは問題じゃない。
私たちが、剣崎君のための時間を稼げなかったのは本当だ。
じゃあ、今わたしの出来ることって言ったら・・・。

一人で必死に戦う剣崎君のために・・・・。

血まみれの腕を引きずり、腰のギャレンラウザーを引き抜く。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
ほとんど動かない左手を動かし、オープントレイを展開させる。

『BULLET』
『SCOPE』

左手で銃身を支え、命中率と弾丸の威力をそれぞれ高めた一撃。
わたしは震える身体で、慎重にその狙いを定めた・・・・。





『ソルレオンのディバインウェーブ・・・。ケルベロスのとは訳が違うぞ!』

「ハァ、ハァ・・・・・。」
今から逃げても同じだ。
あいつの一撃は確実にオレを捕らえる・・・・!

『終わりだ・・・・剣崎君!!』
「うっ!!」


ドヒュインッ!!

パシュッ!!!

『!!!?』
「!!!」
そのとき、一発の銃声が響いた。
その弾丸はソルレオンの腹部に命中したようだ。

『ギャレン・・・・。橘君。』
「橘さん!!」

彼女はうつぶせになりながら、ギャレンラウザーを放ったらしかった。
でも、ソルレオンには決定的なダメージを与えられない・・・!!

『そうか・・・。そんなに彼を守りたいのか。ならば・・・。君から始末するとしよう。』
ソルレオンはディバインウェーブの目標をギャレンへと変える。
『死にたまえ!!』
「させるか!!!!」

ドォンッ!!

『むっ!!?』
ディバインウェーブを放とうとしたその瞬間、俺は天王路に体当たりを食らわせる!
『おのれ貴様アアアッ!!!』

天王路がオレの首を掴み上げる!
橘さん・・・!!!!

ドヒュインッ!!!

再びギャレンラウザーが火を吹く。
『無駄だ!君の一撃ではわたしは・・・・。』

・・・・・だがその弾丸はソルレオンとはまるで違う方へ飛んでいく・・・。
『・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!』

バガァァァァァァァァンッ!!!!

「本命は・・・そっちよ。」



彼女が狙ったのは天王路ではなく、俺達の戦いを見守り続ける統制者の石だった。
ギャレンラウザーの弾丸を受け、粉々に四散する。

『グオオオオオ、オオオオオオオオオオおおおおおお・・・・・・・・!!!!!!』
統制者の石が消え、その力が弱まる!
「ウェェアッ!!!」
首を掴むその手を離し、すぐにカードをラウズする!!

『THUNDER』
『CHOP』

『LIGHTNING WAVE』

「うわあああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
電撃を帯びたその手刀を、その腹に叩き込んだ!!!
それはソルレオンの装甲と装甲の隙間の、柔らかい部分を狙った一撃!!!
手刀は食い込み、その全身を電撃が走る!!

バチィィィィィィッ!!!!!!

『うぐあああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・。』

ずぶりと手が引き抜け、ソルレオンは仰向けに倒れ伏した。





第103回「最強の力・人の想い」





「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・。」
天王路は、全身から煙を上げ、動かなくなった。
統制者の石も砕け散ったし。・・・・コレで、終わったんだ。

「剣崎、君・・・・。」
「橘さん!」
俺は二人に駆け寄る。

「わたしの狙撃、モノになってきたみたいね。」
つとめて笑顔で話す橘さん。
「もうしゃべらないでください。俺よりも怪我はひどい・・・・。」
「それに美月ちゃんはまだ。」
「うん・・・。」
彼女はまだ気絶したままだ。

「いいわ。ゆっくり帰りましょう。戦いは、終わったんだから・・・。」
「はい、橘・・・・。」

・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!

そのとき、オレの視界に信じられないものが飛び込んできた。

それは、先ほど粉々に四散したはずの、統制者の石・・・・!!!

「なんで・・・・。」





ズドブッ!!!!

「・・・・・・・・・・・・!!!!!!」
そのとき、オレの身体を何かが通過した。
冷たい感触が3本・・・・・・。オレの腹から、角が3本生えている。
それは乱暴に引っ込むと、抜け落ちた角の隙間から、血が吹き出る。
・・・それとともに、オレの中にあった力が抜けていく。
立っている力すら、なくなって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

どしゃっ!

自らの血の海の中に倒れこんだ。

「け、剣崎君!!!!!」
『フハハハハハハ・・・・・。統制者の石が、あんなもので壊せるものか。』
『・・・・しかし、流石に私もひやりとしたよ。アレが砕けるのを見たときは・・・・。』
『おかげで彼に隙が出来たわけだ。フハハハハハハハハハハハ・・・・・・・!!』

高笑いを続けるソルレオン。
「そんな・・・・剣崎君!!」
『君も始末してあげよう。・・・・なに、すぐによみがえるさ。わたしの忠実な人形になってね・・・。』
さくらの身体をつかみ上げ、その腹に爪を当てた。
「く・・・天王路・・・!!!」







「ぐ、や、やめろ・・・・・・・・・・・・・!!!」
「・・・・?!」
『うん・・・・・・?』

「橘さんに、手を出すな・・・・・!!!!!」

俺は・・・・立ち上がった!!

『ほう?腹に穴を開けられて、まだ生きているとは・・・・。それも君の体のアンデッド化の影響かな?』
「始穂を封印し・・・・今また橘さんに手をかけようとする・・・・。絶対に、絶対にさせない!!!」
『フハハハハハ・・・・。どうしようというのかな?』

俺は、ラウズアブゾーバーを展開する。
コレで、最後のキングフォームになる。

『EVOLUTION KING』

『むっ!!!』
その電子音声が響くと同時、ソルレオンは橘さんを掴んだまま俺から距離を置く。

13枚のカードが飛び回り、オレのスーツに吸い付き、破損した箇所を修復していく。
そしてそれは、オレの腹の傷をも癒した。
修復したキングラウザーを手にする。

「橘さんから・・・・離れろ!!!」
俺はゆっくりと歩み寄る。






『フ・・・フハハハ!愉快だ実に・・・。君とわたしの実力差は明白。そんな君がわたしに命令できるとでも?』
「離れろ!!!!」
『ハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!』

天王路の三つの顔に、白い光が集まっていく。
『焼き尽くされるがいい・・・・・。』

ズボオオッ!!!

ディバインウェーブが放たれた!!

ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!1

一瞬世界は白くなり、そのあとには巨大な火柱が上るのみだった。
「剣崎くううううううううんッ!!!!」
『フアハハハハハハハ・・・ハハハハハハハハハ!!!!』

ザシッ、ザシッ・・・。

『・・・・・・・・!!?』
「橘さんから・・・離れろ!!」
ブレイドキングフォームには、三葉虫の紋章の防御フィールドが発生。その攻撃を防いでいた。

『こざかしい・・・・・。』

ソルレオンはさくらから手を離し、爪を構え、疾走った!
白い閃光と化す天王路!!

ビュッ!!!

『!!!』
・・・が、その一撃は宙を切る。

ザギィィンッ!!!!

『ぐああああっ!!!!?』
逆にその背中を斬られるソルレオン!
ブレイドの脚の紋章が輝く。
豹を模したその紋章は、ブレイドに高速移動の力を与えていた!

『何故だ・・・・・何故!前回アレほどまでに力の差を見せておきながら!!』

ビュッ!ビュッ!!

続けざまに振るソルレオンの爪は、全て当たらずに風を切るだけだ。
「ウェェェアッ!!!!」

ドオオオンッ!!!!

『ぬぐああああああああああっ!!!!』
ブレイドはその攻撃の隙間を縫い、強烈なタックルを見舞った!!
大きく吹き飛ばされ、倒れ伏すソルレオン。

『何故だ・・・・・何故だ!!!!』

『SPADE 5』
『SPADE 6』
『SPADE 8』

『LIGHTNING SONIC』

紋章から飛び出したギルドラウズカードを、キングラウザーに入力する。
「ウェェェェアッッ・・・・ウェイッ!!!」
キングラウザーを地面につきたて、ブレイドの目が紅く輝く!

ダッ!!!

ブレイドは走った!!
荒野の地面を蹴り、まっすぐに天王路に向かって!!

バキィッ!!!

それはそのままソルレオンを弾き飛ばすと、

ダンッ!!!

地を蹴り飛び上がる!!
「ウェェェェェェェェアッ!!!!!!」
雷を纏った両足のキックを叩き込んだ!!!!

「グオオオオオアアアアアアアああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

ズドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!









爆炎がソルレオンを包む。
「はぁ、はぁ・・・・・・。」
俺はそれに背を向けると、キングラウザーの元へ行き、それを引き抜いた。

ブワアアッ!!!!

「!!!!」
そのとき、その爆炎から飛び出すものがいた!!
『わたしが、わたしが負けるはずがないぃぃぃいっ!!!!』
天王路は鬼気迫る表情でオレに向かってきた!

ビュッ!!

ガキィィィィンッ!!!

その振るわれた爪を、左腕の装甲で受け止める!
『何故だ・・・・。何故お前はここまで強いのだ!この、万能の力を得た私よりも!!!』
「俺は・・・・。オレを好きだといってくれた人を、守りたい。」
「俺は始穂を守れなかった。だから、今度は絶対に、守って見せるんだ!!」
『そんな気持ちが・・・・なぜ神を上回る!!!そんな感情が、万能の力に勝つなどあり得ないッ!!』

「万能の力よりも、何よりも強いのは・・・。人の想いなんだッ!!!!!」

バキィィィィィッッ!!!!

右腕の紋章が輝き、ソルレオンが吹き飛ぶ!
『お、おのれええええええええええええええええっ!!!!』
「・・・・・・・・・。」

ダッ!!!!

二人は同時に駆け出した!!

俺はキングラウザーを、ソルレオンは左腕の爪を構える!



私が、私が負けるはずがない!!
私は万能の力を得た支配者!!
ジョーカーを封印した、バトルファイトの勝利者だ!!!
その私が、その私がこんな・・・こんな青臭い若造に・・・・・・・・ッ!!!!!!

ドシュウッ!!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・。

オレのキングラウザーは、先ほど俺が傷つけたソルレオンの傷を再び捉え、その身体を貫いていた。

『ぐあ・・・・あ・・・・・・・・!!!!』
「さよなら・・・・天王路さん。」

『SPADE 10』
『SPADE JACK』
『SPADE QUEEN』
『SPADE KING』
『SPADE ACE』

『ROYAL STRAIGHT FLASH』

『!!!!貴様・・・・!!!!』
俺はラウザーをつきたてたまま、5枚のカードをラウズした!
全身の紋章からラウザーに、エネルギーが流れ込んでいく・・・!
そしてそれが白く輝いたとき!!

ズバアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!

・・・俺は剣を横一文字に凪いだ。

『バカな・・・・・。』
胴体が切り離されるソルレオン・・・。
『バカなアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!』

ズシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!!!!!

ソルレオンは、跡形もなく消滅した。
「や、やった・・・・剣崎君!」

・・・俺は橘さんの言葉に一度だけ振り向くと、そのまま統制者の石の元へ向かった。





ロイヤルストレートフラッシュを使う。
四散させてもダメなら、完全に消滅させるしかない。
俺は再び5枚のカードをラウズ・・・・。

「むだですよ。」
「!!?」
統制者の石を目の前にしたオレのすぐ横に、いつの間にか見知らぬ少女が立っていた。

「統制者の石は・・・・誰にも破壊できない。」
「君は・・・・何者だ!!?」


「私は・・・・。アルビノジョーカー。バトルファイトの勝利者を見守るもの。」
「バトルファイトを行う、アンデッド53体に含まれない員数外の存在。」
「そして・・・。今は統制者の代行者として、参上しました。」

「代行者・・・。アルビノ・・・・ジョーカー!?」

「あなたたちの望み、バトルファイトの勝利者は倒されました。これ以上、戦う意味はありません。」
「統制者は再び長い眠りに就き、次のバトルファイトに備えることでしょう。」
「戦いは終わったのです。さあ、お引きなさい。」

「いきなりそんな・・・そんなことが出来るか!!」

「おとなしく引くというのであれば、ただの人間に過ぎないあなたを、バトルファイトの勝者として特別に認定し、あなたの願いを一つかなえましょう。」
「な・・・・・・・?!」

「ヒューマンアンデッドの子よ。あなたはバトルファイトの勝者を下した。より強き者を求める統制者も、あなたを認めています。」
「さあ、悩むこともないでしょう。あなたの失ったもの・・・あなたの望む世界・・・・万能の力に不可能はないのですよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



1.終わってなんていない・・・。バトルファイトがある限り、こんな悲劇が繰り返されるんだ!俺は、統制者の石を壊す!!
2.わかった・・・・。俺は、オレの願いをかなえてもらう。






最終回「その穏やかな日に」





・・・・・・・・空には雲ひとつない。
風はそよぎ、小鳥はさえずり、本当に穏やかな時間が流れる。

俺はその空気の中に身をおき、心から平和な日常を感じていた。

「ああーっ!!!こんなところにいました!!」
・・・・が、そんなオレの安らぎの時間は、簡単に崩れ去ってしまったわけで。

「おにーさん!もうそろそろ時間ですよ!何をぼけーっとしているんです!」
「ぼけっとしているって何だよ。俺はねぇ、こうやって穏やかな日常に身を任せて・・・・。」
「そんなことどうだっていいでしょ!もう、おにーさんはこんな時までいつも通りなんですから!」
「少しは緊張するとか・・・。」
「平常心を保っていると言ってくれよな。」

「もう!いいです!とにかく控え室に戻ってください。皆さん集まってきてるんですから。」
「そっか・・・・。うん。よし。行こうか。一菜。」
「はいっ!」


入り口には、たくさんの人が集まっている。
そのいずれもが、オレの知った顔。

「おにーさんの友達が、続々集まってますね。」
「ああ。・・・ちょっと前まで、こんなにたくさんの友達が出来るなんて、思いもしなかったけど。」
「そうですね・・・・。おにーさん、やっぱりこっちに出て来てよかったんですよ。」
「本当・・・そうだな。」

「おかげで、あの人ともめぐりあえた訳ですから。」
「ん・・・・。うん。」
俺は思わず口つぐむ。
この後の事を少し考えて、オレの穏やかなはずの心は大きく揺れた。

「あれ?おにーさん汗かいてきてますよ?」
「い、いや・・・。俺は大丈夫だ!うん。」
「本当ですか?」
「ああ!俺は落ち着いているぞ!」

「・・・・・すごく、綺麗でしたよ?」

ばくん!

「・・・・・・・・!そ、そんなに?」
「明らかに汗の量が増量ですよ?」
「それに私、何が綺麗とか具体的に言ってませんから。」

「む・・・・。」

「少しは現実が見えてきたみたいですね。」
「外で日向ぼっこなんかして、本当は現実逃避してたんでしょう?」
「むむ・・・・。」

一菜にも隠し事は出来ないな・・・。
「ああ。そうだよ。正直逃げ出したいよ。大体さ、こんな大げさにやらなくてもさ・・・。」
「何言ってるんですか!今日は人生に一度の晴れの舞台ですよ?それにおにーさんが友達みんな呼びたいって言うから、ここを設定したんじゃないですか!」
「あう、うう・・・。」
「もう覚悟を決めてください。いいですね?」
「・・・・・・ハイ。」

「俺は腹を括らざるを得ないんですね・・・・。」
「そんなの当たり前です!」
「うぅ。」
うなだれるオレを引き連れ、一菜は控え室へと歩を進めた。



「よう、一真!」
「あ・・・・。キング。」
見知った一人に、声をかけられた。
「今日はおめでとう。出席させてもらったよ。」
「ああ。ありがとう。・・・・緋芽ちゃんは?」

「あいつなら。向こうの控え室に行ってるんじゃないか?お前に相応しいかどうか、見てやるんだと。」
「はは・・・。」
「緋芽はお前にべったりだったからな。結構嫉妬してるんじゃないのか?」
「ええ?むう・・・。緋芽ちゃんには悪い事したかな。」
「気にするなって。本当はあいつだって分かってるよ。」
「そか。」
「じゃ、今日は頑張れよ!」
「ああ!」

そういってキングは去っていく。
「緋芽ちゃんって・・・。」
「ああ。あいつの妹。いつも大きなリボンつけてる小さな子だよ。」
「おにーさんが、ろりこんじゃなくて良かったです。」
「なんだよそれ・・・。」



「やあ。剣崎君。」
「剣崎。」

「あ!真小夜さん、それに桐生さんも!」
「後輩の晴れの舞台、見せてもらおうと思ってな。」
「ありがとうございます。桐生さん。それに、真小夜さんも来てくれるなんて・・・。」
「今日は深沢診療所は休業だよ。この日のためにね。」
「そんな・・わざわざすみません。」
「いいんだよ。楽しみにしてるね。剣崎君。」
「はい!」


「桐生さん、今日は特に綺麗ですね。」
「ああ。いつも凛としてて、かっこいいよな。」
「おにーさんが、年上好みじゃなくて良かったです。」
「それはもういいって!」




控え室に戻る。
「あと数十分てとこか・・・・」
緊張するな。

・・・思えば。
俺達がこんなことになるなんて、全然考えてなかった。
出会った日から一年。申し込んだのはオレのほうからだった。

信じられないが色よい返事をもらい、今に至る。
でも・・・・。本当に良かったのかなぁ?

「なあ、一菜。」
「もう逃がしませんよ。」
「違う違う。・・・彼女、本当に俺なんかでよかったのかなぁ?」
「何を言い出すのかと思えば・・・・。そんなの、決まってるじゃないですか!」
「そういうものか?」

「人生の一大事ですよ?それをその気もないのに返事するなんてありえませんよ!」
「彼女優しいから、オレに合わせてくれただけなのかも・・・。」
「バカなこといわないでください!何弱気になってるんですか!?」
「なんか、この状況が、イマイチ信じられなくて。また俺、裏切られるんじゃないかなって・・・・。」

「おにーさんは、あの人を信じてないんですかッ!?」

「・・・・・・・・・・・!」
一菜の言葉に、俺は息を呑んだ。
「あの人を本当に好きなら、そんな弱気な言葉は出てきません!」
「一菜・・・・。」

「どうなんですか、おにーさん。本当におにーさんは、あの人が好きなんですか!?」
詰め寄る一菜。
俺は・・・少し考えた後、こう答えた。

「決まってる。俺は、彼女が好きだ。ずっと、一生一緒にいたい。」
「じゃあ・・・・。おにーさんは迷うことなんてないはずです!」

「そうだな・・・・。ありがとう。一菜。」
「はい!・・・・・ちょうど時間です。行きましょう。」
「ああ。」





・・・白いタキシードに身を包み、俺は一菜に手をとられて歩く。
荘厳な教会のバージンロードを。

長い椅子に座る人たちの顔を見る。

チベットから帰ってきた烏丸主任、嶋さん。
研究員の新名さん、広瀬所長に娘の広瀬さん。
天王路理事長、それと娘の博美ちゃん。

ハカランダの春花さん、虎太郎。
キング、緋芽ちゃん。
桐生さん、真小夜さん。
それに、たこ焼き屋の了子ちゃん。

そして・・・・。
橘さんと、美月ちゃん。

俺にはこんなにたくさんの友達がいて、みんなに祝福されてる。
そう思っただけで俺は、涙がこぼれそうだった。



通路の途中で立ち止まり、俺は花嫁を待つ。


がちゃ・・・・。

後ろの方で重い扉が開く音と、驚きの声が上がった。
振り返りたい気持ちを抑えつつ、彼女が隣に来るのをいまかいまかと待ちわびる。

・・・ふわりと、髪が舞う。
白いドレスからなびく風が、俺にその到着を伝えた。

「一真・・・・。」
白いヴェールに包まれた彼女。
顔は見えないまでも、それでも今日の彼女は、今までで一番綺麗だった。

俺は彼女の手を引き、神父様の前に立った。

・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。

今日俺は、永遠の愛を誓う。
彼女を、オレの一番守りたい人を、これからもずっと手放さないように。
もう二度と、離れないように・・・・。

俺はヴェールをめくる。
そこには照れた顔でうつむく、始穂の顔があった。

「ずっと、一緒だよね?」
彼女はそうつぶやいた。
「ああ。俺達はこの先、もう絶対に離れない。」


「・・・一真。」
「始穂。」








・・・・・・コレが、オレの望み。
誰一人傷つくことなく、みんなが穏やかに過ごせる日常を。
失われた人々や、アンデッドさえ、俺はその再生を望んだ。

これからみんなは、それぞれの守りたい大切なものと共に、人間として生きていく。
そして俺は・・・・。自分の望む幸せな未来を。

最愛の人、始穂と共に歩める未来を。
永遠の契りを・・・・・・・・・・。



「愛してる。一真・・・・・。」









「・・・・・・望みは叶ったようですね。」
「では、ヒューマンアンデッドの子らよ。また1万年後に会いましょう。」
「次のバトルファイトが行われるその日まで、せいぜい繁栄を謳歌してください。」
「他のアンデッドたちも、その日を心待ちにしているでしょう。」

「覚えておきなさい。この地球は、あなた達人間だけのものではないということを・・・・・。」










・・・・・・・・・仮面ライダーブレイドIF 統制者生存・始穂ED・・・・・・・

空豆兄
2009年03月08日(日) 10時52分54秒 公開
■この作品の著作権は空豆兄さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
これで完結です。
まだ読んでない人の目に触れる事を祈っています。

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50 Marcelo ■2015-11-21 04:24:39 188.143.232.62
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50 Pedro ■2015-11-21 02:54:09 221.178.182.10
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