| 演劇・仮面ライダー The Nextたん（４） |
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これまでのあらすぢ： 風間 大矢の保護した、かつてのウカワーム＝間宮 レナにうりふたつの少女。 彼女はNATO（北大西洋条約機構）によって改造された末に脱走した諜報用サイボーグ、 その名もメサイア・ネクストだった。 そのネクストを捕まえるべく――否、実は爆破するべく密命を受け帰国する 北條 之秀だったが、 アギトチームによってそのことを見破られ、葦原 涼緒に殴り倒されるのだった。 一方、メサイア・ネクストは「間宮 ちはる」の仮名を与えられ、大矢の手によって 折りしも学園祭の演劇・「仮面ライダー the NEXTたん」の再準備に動き回る天道 司たち ZECT学園２年某組のメンバーの手伝いをすることとなっていた。司の妹・樹花や、 木場 夕菜、上条 美月、トドロキといった各勢力ライダー少女（現時点で)14歳組、 そしてゼロノスたん・志村 純（未来）などがその手伝いに（……）集結する中、 北條とは別にメサイアを爆破せんと襲い来る、黄色いマフラーを身につけた謎の一団の動きが浮き彫りになる。 北條の動きと、そしてその謎の一団の動向。 イマジン・ウラタロスは、やはりZECT学園２年某組の生徒である野上 良に 憑依していることによってその両方を把握できる状況にあり……それ故に今、この事件の 背景とも言うべき、非情な結論にたどり着いたのだった――――！！ ――演劇・『仮面ライダー The Nextたん（４）』―― ライブラリカフェ・ミルクディッパー。 ――メサイア・ネクスト、と呼ばれるサイボーグを爆破するために日本に帰ってきた北條。 そうと確定した瞬間、その北條を殴り倒し気絶させた涼緒。 それを一応（……）止めに入る翔と、場違いにもどんより落ち込む真琴。 そんな騒ぎを天井の梁の上から眼下にしつつ。 現時点では唯一、この事件のすべての事象を知りうる立場にいるモモタロスたち―― 良に憑り依くイマジンたちは、驚愕を隠せずにいた。 状況から推理したウラタロスのそれが、あまりに外道な結果を導き出したからである。 モモ「…………ま、待て待て待て待ておい、カメ女。それって――お前の『推理』、だろ？ 昨日襲ってきた連中とか、今のねーちゃんたちの話から組み立てた、――ただの『推理』。」 ウラ「そりゃ、現時点ではそーだけどね。 こう考えるのが一番しっくり来るんだもん。それを否定する要件はいまのところないし。」 キン「せ、せやけど――信じられへん、てか信じたくないわそんなん。 ンな非道いこと――イマジンやらそういう連中ならともかく、人間がするやなんて……！？」 ジーク「――キンタロス。貴女の気持ちも分かりますけれど。 イマジンにもその精神性に貴賤（きせん）があるように、人間にも『下衆』というのはいますわ」 リュウ「で、でも……そんなの、あのネクストって娘が、かわいそうじゃない！！」 リュウタロスが叫ぶ――ちょっと聞く分には意外な発言に思えるかもしれないが、 子供っぽく自己中心的な性格なだけで、本質的にはリュウタロスは優しい娘である。 なかなかそういう面を見せないのも確かだが、いったん感情移入した対象 ――この場合はネクスト――に対しては、こういう反応も普通に見せるのだった……とはいえ。 ウラ「落ち着きなよ、リュウちゃん。繰り返すけどさ、今はまだただの『推理』だよ。 実際どうなのかは、少なくともあの北條ってひとに詳しい話聞かない限り確定しない――」 モモ「――そーうかよ。 しかたねぇな……んじゃ、聞くか。」 あっさりきっぱり、言い切るモモタロス。「は……？」とウラタロスが その言葉の意味に気づくより早く、――モモタロスはウラタロスの首根っこを引っつかみ、 モモ「（ぴょんっっ）ね――――ちゃ――――んっっ！」 リュウ「（一緒にぴょんっ）おーねーいーちゃーんっっ！」 ウラ「…………って、ちょ、ちょっと先輩ひぃえぇぇぇぇぇぇぇえぃっっ！！！？」 梁からおもむろに飛び降りて――そしてリュウタロスまでついてくる――、 だうんっっ！ とテーブルの家に降り立つ！ その物音に驚き視線を向けた涼緒と真琴は、 いきなり姿を現した、身長30cmほどのちーさな女の子を目の当たりにする形となり――硬直した。 涼緒「…………！？ な…………、なななななによこいつら……？」 真琴「人形！？ ――いや、じゃなくて自力で動いてるし――」 翔「あらあら～。ダメですよモモタロスさんウラタロスさんリュウタロスちゃん。 バンジージャンプするんだったら、ちゃんと腰紐つないどかないと――」 ウラ「…………。いやおねーさんそうじゃなくてね…………（汗 」 モモ「今すぐそこのデコ女に、この事件の前後関係確かめてくれ。」 涼緒・真琴「「――――――――は？」」 のほほんと口を開く翔とは対照的に、さらに困惑する涼緒と真琴――当然だ。 いきなり出てきたちみっこい人形が、「この事件」についての話に首を突っ込んで来たのだから。 涼緒「！ ちょ、ちょっと待てぃ！？ あんたら今の話聞いてたの――――！！？」 翔「あぁ安心していいですよ葦原さん、この娘たちは信用できますからー」 真琴「いや『信用できる』とか、いきなり言われても困るんですがっ！？」 ウラ「……あぁ、そこのアタマよさそうだけど不幸そうなお姉さん。あなたが不振がるのも 無理ないとは思うんだけど……こうなっちゃったら仕方ない。ちょっと確かめたいことがあるんだ。 ……『Nextたんを爆破するために動く、別勢力がある』……こう言えば、わかってくれるよね？」 ぽりぽり、と仕方なさげにほっぺたを掻（か）きながら、口を開くウラタロス。 ……とりあえず『その連中にももちゃんたちも襲われかけた』とまでは言わない。そこまで言ってしまえば ネクストの居場所がZECT学園だと特定されてしまう。この段階ではまだ、そこまでこの人達に 開示するのは危険と判断したからである。それでも今の言葉だけで言いたいことは理解してもらえたようで、 ぴた、と。真琴が動きを止める。 真琴「……ちょっと、待ってください。 つまりそれって――それが本当なら、北條さんはただのスケープゴートってことになりますね。」 翔「……スケートボード？」 涼緒「違（ちげ）ぇ。ちょっと黙ってなさいよこのうすらばか。」 リュウ「（むか）あー！ おねぃちゃんにうすらばかとか言うなバカって言ったほうがバカなのにー！」 モモ「いやこらお前も落ち着いとけガキ女、話が進まねぇだろっっ！？」 ……目の前の少女（＝涼緒）が、騒動（コト）あるごとにおねぃちゃん（＝翔）に カカト落としを食らわせまくってる、なんて事が知れたら、リュウタロスは逆上して 何をするか知れない。それこそ、即座に良に強制憑依して涼緒を殺しにかかってもおかしくないが、 幸いそういう話になる前に状況が収まる。 ウラ「……ま、とりあえずさ。裏を取る必要はあるんだよ。あとの質問は不幸そうなお姉さんに まかせるんで、そこのオデコの広いお姉さん起こして、質問してくれない？」 真琴「いちいち『不幸そうな』とかつけないでくださいよっ！？」 思わずツッコミ系反論かまして、――そして気を取り直すようにこほん、とせき払いを一つ。 真琴「……葦原さん、北條さんを起こしてください。」 涼緒「そのちみっこい連中のこと、信用するわけ？ …………って、いや、まぁ――いいか。 どのみち北條叩き起こして聞かないといけないことはあるし、それに――――」 言葉を切って、ちろ、と翔の方に視線を向ける。 翔「？」 涼緒（――まぁ、このうすらばかが『信用』してるってことは、このちみっこい連中が 何者であろうと、悪い連中じゃないのは確かっぽいし――――） そんな風に、口には絶対に出さずに頭の中でだけつぶやくと、北條を起こしにかかる涼緒だった。 ★ 講堂では、練習が続いている。 舞台の上では、Ｖ３たん・風見 志焔――大矢が、１号たん・本郷 凪――司と対峙していた。 大矢（志焔）『わたしはショッカーの最新型改造人間※、ホッパー・Version３。 旧型の貴女では、勝負にもならな――（どぐしっ！）……痛ぁぁぁぁぁっっっ！！？』 ――みなまでセリフを言うことなく。司に蹴り飛ばされる大矢だった。 その司の表情は「誰が旧型よっっ！」と如実に語っていたりする――実に理不尽なことに。 ※「NEXT」ではそういう設定です念のため。 大矢「…………ってぇっっ！！ いきなり何するんだよ司ちゃんっっ！！？」 司「……あ、ごめん。なんかあんたに“貴女じゃ勝負にもならない”だとか そういうセリフ吐かれると無性に腹がたってつい…………」 大矢「『腹がたって』ってなんだよその理由はっ！？ てゆーか、自分で書いた（※正確には、手直しした）脚本だろっっ！！」 司「……だから、ごめんってば。」 大矢「まったく……じゃ、とりあえず次のシーン行こうか」 気を取り直して、練習を続ける大矢たち。 場面は移る。妹の死を知り半狂乱となったＶ３たんを止めるべく、立ち向かっていくダブルライダー、 １号たんと２号たん・一文字 はやな――そあら。 大矢（志焔）『新時代を担う、ショッカー……そう思っていたのに裏切られた気持ちが、 貴女たちにわかる！？ ショッカーの支配から逃れ、抗っているつもりで、その実 踊らされてるだけの、愚かな貴女たち――（どげしっ！）……どぁぁぁぁぁっっっ！！？』 ――またもみなまでセリフを言うことなく。司に跳び蹴りかまされる大矢だった。 その司の表情は「誰が愚かよっっ！」と如実に語っていたりする――実に八つ当たりなことに。 大矢「！！！！ だ～～～～か～～～～らぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ！！！ 自分で書いたシナリオとセリフに怒ってどーすんだよっっ！！？」 司「……だから、ごめん、謝るってば――そこについてはちゃんと、脚本手直しして対処するから……」 大矢「そーぢゃなくてっっ！ 蹴らなきゃすむことじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ！！」 そあら「……つ…………、司ちゃんてば…………（大汗 」 こんな感じで、Ｖ３たんvs１号たんの場面になると練習が停止する有様である。 ……本番明日だっつーのに大丈夫なのかマジで。（ツッコミ そんな練習風景、というかどつき漫才を、顔に縦線走らせまくりながらなかば呆然と見つめている、 良はじめ２年某組一同＋Nextたん（ちはる）含むお手伝い組……いや、訂正しよう。ただ一人 司の妹・樹花だけは「わー、おねーちゃんかっこいー！」とか言いつつちぱちぱ拍手してたりもするが。 そんな中――良の脳裏に、声が響いた。 キン（――――もも！） 良（！？ ど、どうしたのキンタロスいきなり？？） ジーク（『Nextたん』のことで新情報です！ 詳しいことをここ（講堂）で話すのもなんですし、 いますぐ席を外して――あぁ、できれば緑色下僕たちにも、話を通した方がいいですわね） 良（ね、Nextたん？ って、ちはるちゃんのこと、だよね？？ ……いや、まぁそれより。 一応聞くけど、「緑色下僕たち」って、純ちゃんとデネブのこと？（汗 ） ジーク（えぇもちろん。（きっぱり） ――急ぎなさい、もも。 それと……ちょっと、冗談ではすまない話になりそうなんで覚悟をしておきなさい） 良（え――――ぅ、うん、わかった。） 妙に……なんというか、らしくもない痛々しい声でそう告げるジーク。 その雰囲気に不穏なものを感じ取った良だったが、とりあえずは話を聞くべく 「純ちゃん、ちょっと……」と純を伴って、その場を離れるのだった。 ――その不穏な予感は、すぐに現実のものとなる。 ★ Author（この章の語り手） 北條 之秀―― …………。う……ん？ 涼緒「……はい。目を覚ましたわね、北條。」 ……ッ！？ あ、葦原さん！ いきなり暴力とはどういうつもりで…………（ぶぉんっっ！！） ………………ひっ！？ 涼緒「まだ蹴られたりないってンなら、今度は今みたいなスレスレ空振りじゃなくて、 顔面でも脊髄でも好きなところに当てたげるけど？」 ――――！？ ぼ、ぼぼぼぼ暴力はいけませんっっ！？ いやあの、てゆーか…………」 涼緒「あぁ、必死に言いつくろうとしてるところ悪いけど、議論する気はないの。いいから知ってること 洗いざらい吐きなさい。質問の答えが滞（とどこお）ったら、その瞬間に問答無用で蹴るから。」 翔「あ、葦原さーん？ 乱暴はだめですよー？」 津上さんはにっこり笑顔でそう言うが、しかし言葉とは裏腹に止めるそぶりは一切（……）ない。 そして葦原さんは、「答えが滞ったら問答無用で蹴る。」と言った以上必ずやるだろう。 …………観念するしか、なさそうだ。 ――いいでしょう。とりあえず、何から聞きたいですか？ 真琴「とりあえず、あのNextたんがどこの何者なのか、でしょうか。 北條さんが……その、爆破しようとするからには、それなりの理由があるわけでしょ？」 ……すっかりその「Nextたん」って呼び名定着しましたね……いやまぁいいですけど。 正直には、言いますけどね。私も上から伝え聞いただけの話もある、というのは含んでおいて下さいよ？ そもそも彼女は、ご存知のようにNATO（北大西洋条約機構※）によって 諜報用サイボーグ・メサイアの次世代機（ネクスト）として改造されたわけですが―― 改造手術に耐えられる存在、と言うのがまず貴重なんです。 ※これ自体は実在の組織なわけですが……この物語はフィクションです、ってことでひとつ。 リジェクション――という単語をご存知ですか？ 人間に機械部品を埋め込むことに対する 肉体的拒絶反応。ほとんどの人間は、その肉体を蝕む魔の手から逃れることは出来ません。 かつて存在したネガティブシンジケートのうち改造人間を有していた、と噂される―― 「SHOCKER」「BLACK SATAN」などはそのリジェクションを抑える技術を持っていた、とも 言われてますが……正直どこまで本当なのやら。与太話の域は出ませんね。 涼緒「――話が逸（そ）れてるけど？」（ぶぉんっっ！） ……い、いいいいいやちょっと待ってください別にそらしてるわけじゃなくてっ！？ と、ともかく彼女は、改造手術に耐えることの出来る、稀有（けう）な人材だったんですよ―― 真琴「えぇ、そこはまぁそうなんだろうと思います。今に至るまで北條さんから リジェクション絡みの話は一切出ていませんでしたから。問題は…… そういう稀有な人材を、どこで見つけてきたか、ですね。」 ……おおむね想像は、ついてるようですね氷川さん。 えぇ、もちろん『たまたま自分から志願してきた少女が、たまたまネクストの改造に適合した』 なんて都合のいい話じゃありません。 ――さらってきた……正確には買ってきた、んですよ。 翔「――――――！？（息を飲む）」 ガモン共和国、という国がありまして、 真琴「ガモン共和国？ ……東南アジアの、たしかほんの数年前まで内乱状態だったていう？」 えぇ、ですからまだ政情も安定しているとは言いがたい。裏ルートでの人買いなんて日常茶飯事ですね。 そのルートで……ネクストを作成したその国連下部組織が、適合体と考えられる少女を 「入手して」来たんです。 モモ「（ぼそぼそ）……あれ？ でもよ、つーこたぁあのネクストって、外人か？ それにしちゃふつーに日本語しゃべってたし、姿だって日本人――間宮なんとか、だったろ？」 ウラ「（ぼそぼそ）……話聞いてなかったでしょ先輩。あのサイボーグには他人の姿を 移植できるって最初の最初に言ってたじゃないか。（※（１）参照のこと） だからどんな姿でも不思議はないんだけど……日本語の方は、たしかにちょっと疑問だね。」 リュウ「（ぼそぼそ）おねぃちゃーん？ そう聞いてくれる？」 ……今なにか言いました、津上さん？ 机の下あたりからぼそぼそ何か聞こえたような…… 翔「あぁ、ただの腹話術ですから気にしないでください。 ※普通はします。 ……それより、ひょっとしてNextたんって日本語ペラペラだったりしませんか？」 ？ ？？ なんでいきなりそんなことを――あぁ、いや答えます、答えますからそこの凶暴な人を 押さえといてください……結論から言うと、その通りです。 日本への出稼ぎ――あくまでも人身売買目的ではなく、ですよ――を視野に入れて、 ボランティアによる日本語レクチャーとかも、ガモン共和国では盛んだったみたいですから。 真琴「そうして、NATOは――全体が関わってるとはさすがに思えませんから 機構内の一部勢力が、だとは思いますが――Nextたんを『入手』『改造』した、と。 ……けど、そんな非人道的なやり方が許されるわけ、ないですよね。」 ――そうですか？ 人類社会の発展のためには「必要不可欠」……とまでは言いませんが、 「必要悪」くらいでは十分あると思いますが。金銭での支払いをしている、という意味では 正当なビジネスですらありますし――尊い、犠牲ですよ。 涼緒「――――――！！！！ この…………（殴りかかる！）」 翔「！ 葦原さん、抑えてっっ！！」 真琴「………………っっ（拳をぎゅっ、と握りこむ 」 リュウ「！！ このデコ女、勝手なコト言ってるー！！ 殺（たお）していいよネ？ 答えは――」 モモ「……待て待て待て待てガキ女！？ ここでいきなり暴れていいわけねーだろッッ！」 ウラ「ここで暴れると、『おねーさんが』情報聞き出すのに困るからねぇ…… 今はまぁ、『おねーさんに免じて』おとなしくしときなよ、ね？」 リュウ「…………わかった。（しぶしぶ 」 …………？ 津上さん？ いまなんか目の前の机が不自然にガタガタ揺れたような…… 翔「あぁ、ただのびんぼーゆすりですから気にしないでください。 ※普通はします。 ……けど北條さん、葦原さんやリュウちゃんが怒るのも無理ないって言うか、ひどいですよそれ。」 ……まあ、確かに非人道的なやり方であること、そしてネクストが逃亡する理由になったで あろうことは認めます。けれど、だったとしてもNATO……超国家組織がそんなものに関わってる なんてことは公表できない。そして、私が最初に語ったネクストの体内の爆弾の話―― 真琴「……体内に３つ仕掛けられた爆弾――ですか？」 えぇ。それは嘘偽りない事実です――私の携帯端末に、設計略図も入れてありますがね。 肩口・鳩尾の脇・下腹部（盲腸のあたり）に配置された爆弾。単体での威力はそう大きくないのですが、 例の自爆コード――“救世主は現れない 希望は時代に引き継がれない”ってヤツですね――の 入力、もしくは爆弾そのものに負荷がかかれば爆発する構造になっていて、その３つの爆弾の 誘縛・相乗効果により総威力はライトンR30爆弾級にまで高められ……周囲一帯を軽くクレーター化できます。 そんなものをうかつに爆発させて、罪も無い一般の人を巻き込むことが出来ないのも事実 ……違いますか？ 真琴「…………そこはまあ、認めますが」 （頷く）……つまり、結論です。 ネクストの存在、そしてそれにNATOが関わっていることは公表するわけにはいかない。 そして、下手な場所でネクストが爆破してしまったら大変なことになる。だから、 ネクストを捕獲し、秘密裏に爆破コードを入力……「処分」しなければならない。 ということなんですよ―――― ★ ……きっぱり言い切る、北條。 とりあえず後ろでハテナマークを浮かべまくっている翔のために、真琴は今の話をまとめる。 真琴「……つまり、ですね津上さん。 Nextたんが改造された経緯には同情すべきだけれど、だからといって体内爆弾の爆発に、 無関係な人間を巻き込むわけにはいかない。だから捕獲して、安全な場所で爆破しよう―― 北條さんは、そう言ってるんです」 涼緒「――証拠隠滅も兼ねてね」 吐き捨てるような涼緒のセリフであった。まぁ無理もないが。しかし翔の疑問は消えないようだ。 翔「――でも、北條さん。それって捕獲したあとわざわざ爆破とかしなくても、 爆弾を摘出すれば、いいんじゃないですか？ 木野先生ならきっとあっさりやってくれますよ」 北條「……それは、不可能です。さっきも少し言いましたが、爆弾摘出とかも含めて爆弾それ自体に 負荷がかかればその瞬間に爆発する構造になっているんです……いや、本当ですよ」 真琴「自爆コードじゃなくて、普通に爆弾停止させるコードとかはないんですか！？」 北條「停止コードはありません……ただし、停止させる方法はなくはないですが」 涼緒「だったらそっちを先に試しなさいよ！？ どうやんのよ、キリキリ吐きなさい！！」 北條「爆弾が爆発する前に、ネクストの生命活動を停止させるんです。 爆弾の動力はネクストの生体電源でまかなってますから、そうすれば爆弾は停止しますね」 ――きっぱり言い切る北條。言うまでもなくそれは、「ネクストを殺せ」という意味で―― 涼緒「！！！――――――――――――っっっ！！！！！」 ふざけんな、それじゃ意味がないでしょ――そんな怒りを込めて北條に飛び掛らんとする涼緒を、 真琴と翔が２人がかりで押さえつける。そして怯えて下がる北條。 北條「……いや、本当ですってば！ この期に及んでウソついてどーするんですかっっ！！ ていうか、私もさすがに直接手を下すのはかわいそうだと思ってますよ！！」 翔「そうですよ！ 北條さんにそんな度胸あるわけないじゃないですか！？」 北條「…………いやあの。（汗 」 真琴「それじゃ――正直、いい手段だとは思いませんけど―― Nextたんを気絶させて捕縛、そうして意識を失わせたまま保護・監察するとか」 北條「……それも、駄目なようですね。いや、しばらくはそれでも大丈夫かもしれませんけど、 爆弾が爆発するような負荷がどの程度のレベルなのかも、正直、不明なんです…… 極論、“つまづいてコケたら爆発しました”なんてことが起こりかねません」 淡々と、北條は続ける。 ……つまり、最終的にネクストの扱いをどうするにしろ、結論として ネクストの爆破、もしくは死亡は避けられないのだ―――― 「む～～～～～～」とばかりに考え込む翔、今にも蹴りかからんばかりの怒りを向ける涼緒、 そして真琴は――しみじみぼそりと、つぶやいた。 真琴「つまり――お膳立ては全部済んでる、ってことですか……」 北條「……『お膳立て』？ なんのですか？？」 北條に問いかけられ、真琴は――沈痛な面持ちで、ぽつぽつと言葉を紡ぎだした。 真琴「まず、ですね北條さん。なんでNextたん、日本にいるんだと思いますか？」 北條「は？ 何をいまさら。私の話を聞いてなかったんですか氷川さん？ ネクストには 日本語の素養があるのと、日本人少女の姿を移植されているから、身を隠すのに都合が……」 真琴「それは、『Nextたんが日本へ入国しようと思った理由』でしょう？ ……まず間違いなく身ひとつの状態で脱走した、しかもそういう経緯で“買われた”ってことは 本人にスパイの素養とかがあるわけでもないNextたんが、どうやって日本の税関突破したんです」 ――そう。日本の税関は優秀である。 パスポートなどあるはずもないNextたんが密入国することは、普通に考えてほぼ不可能だ。 北條「い、いや……そこは――確かに疑問ですが、しかし実際、ネクストは日本に入国してますよ？ 密入国の方法にしても、船で入国するなりなんなり手はあるでしょう？」 真琴「NATOの情報網すらくぐり抜けて、ですか？ 素人同然の存在が？？」 北條「信じがたいですが……くぐり抜けたん、でしょう。いいですか、何を疑問に思ってるのか 知りませんが、ネクストが現在日本に潜伏している、というのはまぎれもない事実なんです」 真琴「そうですね。そしてその爆破のために、日本人捜査官である北条さんを派遣した―― けどね、北條さん。北條さんとは別系統で、Nextたんを爆破しようと動く別勢力があるんですよ」 先ほど真琴たちに伝えられた――そして真琴がその意味に気づいた、その情報。 それを聞いた北條の動きが、ぴた、と止まる――さすがに、頭のいい女ではあるのだ。 その言葉の意味に気づく。気づくが…… 北條「は、は、ははは……ご、ご冗談を氷川さん。 それが本当なら……私は、ただの捨て駒じゃないですか！？」 狼狽し、食ってかかる北條。それに同情的な視線を向ける氷川。 この２人（と、ウラタロス）にはこれだけで状況が把握できるようだが―― 正直、傍から見ている涼緒には、なにがなんだかまったく理解できない。 涼緒「いやだから。氷川それに北條、あんたらあたしにわかるように説明しなさいよっ！？」 真琴「――――葦原さん。『Nextたんを爆破しようと動く別勢力』の目的、って、なんだと思いますか？」 ★ Author 氷川 真琴―― 涼緒「『目的』って……決まってんでしょうが。『Nextたんを爆破しようと動く別勢力』なんだから、 その目的も当然『Nextたんを爆破すること』でしょ？」 いや、まぁそうなんですが。 そのために北條さんが動いている状況で、さらにその勢力が動いてる理由は？ もちろん、北條さんは秘密裏に日本にやってきてるわけだからその人たちも表立っては動けないにしても、 北條さんにその存在を知らせない理由はないでしょう？……目的が、同じなら。 涼緒「……なるほどね。そこは納得したわ。それで？」 それに、さっきのちみっ娘……えぇと、いやそのもとい、わたしたちの入手した情報では、 その勢力はこともあろうに街中でNextたんを爆破しようとしたわけでしょう？ ――その勢力がNextたんを爆破するにあたって、被害面を一切考えていないのは確実です……いや、 むしろ被害を出すように爆破するつもりだ、と考えるべきでしょう。 北條「……………………。（わなわな 」 ……街中でライトンR30級の大爆発が起これば、いかにNATOが情報統制しようとも 事件を隠蔽するのは不可能です。なら、その最終目的について考えられることは２つ。 ひとつは、どこか謎の組織（ネガティブシンジケート）がNextたんを爆破することで テロもしくは示威行為を行うつもりで暗躍している可能性。けれどこれは、 NATOがNextたんをマークしている現状で、その組織の存在をまったく察知できていない…… もしくは察知できているにもかかわらずそのことを（追撃者である）北條さんに伝えない、というのは いくらなんでも不自然でしょう。なら、本命の可能性は―― 翔「？ ？？」 涼緒「…………。これから氷川が正解言うから、それだけ聞いてなさいあんたは。」 ――NATO自体が、この爆破の仕掛け人となっている、ってことです。 北條「！い……い、いや、まさかっ……そんな――――！！ あ、ありえません、というか、 そんなことがありえてはならないというか、メリットがないというか（あわあわ 」 …………。まず落ち着いて、全部聞いてください北條さん。 NATOが……いや、NATOの一部勢力が『Nextたん』――禁断のサイボーグ・メサイア・ネクストを作り出した。 けれどそのことが明るみに出かけて、NATO内部で告発されそうになっている、としましょうか。 この場合、その一部勢力がもっとも組織的ダメージを受けずに済む方法は何か？ ……その一部勢力の、さらにほんの一部の暴走、ということにして強引にカタをつけてしまう、 つまりトカゲのシッポ切りを行うこと。……これは想像ですが、すでにその一部勢力内では 誰が犯人で……いや、犯人役で、みたいな役割の押し付けが、すでにできてるんじゃないかと思います。 翔「……トカゲの、シッポ切り……」 けれどNextたん本人が生きていては、そんなごまかしなんて通るはずもない。 殺してしまったとしても、「普通に殺した場合は爆弾も機能しなくなる」って話でしたから、 その死体を検分される可能性が高い。なら体内の爆弾を作動させて、“処分”……って、 われながら嫌な言い方ですが……するのが、あくまでも「ごまかすための」手段としては、最良でしょう。 そのために、Nextたんは日本に逃げるのを黙認された―――― 涼緒「そして、北條に爆破命令を与える、か……このデコ女、能力以上に功名心がバカ高いから、 お偉い人から秘密任務を与えられて、さぞかし張り切ってたでしょうねぇ（冷ややか 」 ……Nextたんを爆破する命令を受けた人間（北條さん）がいて、実際Nextたんが爆破されたなら 誰の仕業「だと思う」かなんて、考えるまでもないでしょう？ あとから話の矛盾に気づいて いくら否定しようとも、爆破指令を――この指令を与えた人も、シッポ切りの範疇だとは思いますが―― 実際に受けてる事実がある以上、その否定が受け入れられる可能性は、まずない。 翔「あー、なるほど。つまり北條さんは、NATOと世界国家の間に無駄ないさかいの種を残さないために 仕立て上げられたスイートコーン……『尊い、犠牲』ってやつですねー」 涼緒「『スケープゴート』だっつーの！！ つかどんどん原型から離れていくじゃないのっっ！？」 ……それまでほとんど黙っていた津上さんが、こういうときだけ口を挟んでくる…………、って………… ！！？ いやその津上さん、それ本人の前で『尊い犠牲』なんて言っちゃマズ、 北條「――――――――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッ！！！！」 ……あー。（脱力 予想したとおり、北條さんはテンパった。パニクった。絶叫した―――― ★ 北條「こ……ここここ、これは何かの間違いです。今すぐNATOに電話して、どういうことか問い合わせを――」 涼緒「すんなぁぁぁぁぁぁぁっっっっ！！？ マトモな答えが返ってくるワケないでしょーがっ！！」 翔「というか、口封じされる可能性がさらに増加することうけあいですね。」 真琴「津上さんもサラっとそーゆーこと言わないでくださいよっっ！？」 ……アバレフルスロットル状態な北條を３人して押さえ込もうとするが、いや、パニクった人間の強さは あなどれない。３人がかりをも振りほどき、フトコロから携帯端末を取り出して、 どこかへ――おそらくはNATO関係者の誰かへ――連絡をとろうとセキュリティコードを入力し、 プロテクトが解除されたところへ、 涼緒「……寝てろッッ！！（どがすっ！！ 」 翔「――――えぃ♪（づげしっっ！！ 」 涼緒のおなじみカカト落としと、タイミングを合わせて放った翔の中身入りペットボトル後頭部直撃。 「ぐほぁ。」と妙な悲鳴をあげ、あっさり再昏倒する北條だった。 ※超死ねます。よいこはぜったいにまねをしないようにしましょう。……つかそのペットボトルどこから出した。 真琴は、その携帯端末を拾い上げる。それと同時、机の下からウラタロスたちものそのそ這い出してきた。 ウラ「…………。確定、しちゃったね」 モモ「――胸クソ悪ぃにもほどがある話だなオイ。」（←怒りのあまり、かえってガラにもなく冷静になっている) リュウ「～～～～～～～～～ッッ！！」（←怒りのあまりどうしていいかわからないらしい) ウラ「（ぼそっっ）……あの、言っとくけどリュウちゃんも先輩も。気持ちは……正直わかるけど、 いま下手にももちゃんに憑依してコト起こさないようにね。……それが原因で Nextたんが起爆したら、シャレじゃすまないんだから――――」 リュウ・モモ「「わかってる（らぁ）ッッッッ！！！！！」」 不承不承、叫ぶモモタロスたち。その傍らで、翔たちは顔を突きあわせこれからのことを話し合う。 翔「……しかし、困りましたねー。北條さんが日本でこのお店に入り浸ってたことは その人たちにも当然把握してるでしょうから……ミルクディッパーそのものと、 わたしたち全員もNATOのその組織とやらにマークされちゃってますよね、絶対。」 涼緒「まぁ、そうね――こいつ（北條）がこんだけ長居してる段階で、 事件について何らかの相談を受けてる、と判断されてはいるだろうしね」 真琴「ここでの会話自体は盗聴されてない※にしろ、迂闊には動けなくなった、ということですか……」 ※（１）で説明したとおり、ミルクディッパーの対盗聴対策はわりと完璧気味だったりします。 一応ミルクディッパーも街中に存在する以上、篭城（ろうじょう）している限りまさか相手も 表立った襲撃はかけて来れないだろう……こちらが何も動きを見せない限りは、だが。 今しがた真琴が言ったように、迂闊には動けない状況。――これから、どう動（し）たものか。 ……まあなんにせよ何にせよ体勢を立て直す必要がある。 翔「――それじゃとりあえず北條さん、片付けときましょうか。下手に立ち回られたら困りますし、 さるぐつわかましてス巻きにして地下倉庫に転がしときますね♪」 モモ「…………気絶からこっち、めちゃめちゃ手際いいな、ねーちゃん達…………（汗 」 リュウ「……アタシ、おねぃちゃんについてく。」 そうして、鼻歌交じりにすいすいと北條を梱包（……）していく翔。……本当に慣れた手つきだなおい。（ぉ そしてそのままス巻きを引きずって、イマジン達を引き連れて地下倉庫へ向かった。あとに残るのは、 涼緒と真琴。二人して顔を見合わせて、ままならない状況に「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」」と 深ぁくため息をつく。 涼緒「……にしても。奇妙な縁、って言うべきなのかしらね」 真琴「あ。葦原さんもそう思いますか？」 涼緒「当然よ。そのNextたんってヤツ――」 言葉を切る、涼緒。一拍間をおいて、 涼緒「わけわかんない組織に拉致られて、自分の意思とは関係なく改造された挙句脱走する。それって、 ――まるで仮面ライダー少女、じゃない。それも、往年の昭和時代の――」 ぎ、と噛み締めるような表情で目を閉じて……小さく、そうつぶやくのだった。 ★ ジーク（……ということですわ、もも。 ――認めたくは、ありませんけど。 現時点での状況は、ネクストに対する死刑宣告というほかないですわね――――） キン（…………うっ、おぅぅぉぅ……（爆涙）……っっ、なんつーかぁいそな話やねん……っ！（号泣 ） 良「…………っ！？ そんな――――――――！！」 純「……………………。」 ZECT学園講堂裏。良と純、そしてデネブは、良に憑依したジーク――キンタロスの方だと、 泣くばっかりで会話にならない――を通じて、ミルクディッパーの姉たちの会話を ほぼリアルタイムで傍受していた。 ……絶望的な結論にショックを受ける良。だが対照的に純の方の反応は、至極淡々としたものだった。 純「――で？ こっからどうすんのよもも。」 良「……………………。」 純「ネクストを助ける方法はない、ってのが確定したわけでしょ？ しかも爆弾にある程度の負荷がかかれば……“ある程度”ってのが具体的にどの程度かは わかんないけど、下手すればあの娘が階段から転げ落ちたって起爆するかもしれないって話で―― もしそんなことになれば、この学校くらいは裕に吹き飛ぶわよね」 良「……………………。」 ――どうすんのよ、と言われても。今の良には、どうする結論も出せそうに無い。 良「……どうしたら、いいと思う純ちゃん――――」 純「…………さぁね。わたしに聞かれても困るわ」 ……実は純の中ではすでに結論は出ているのだが、あえて突き放したように言い放つ。 純「ただね、もも。ひとつだけ言えるのは、これってあんたが背負い込む問題じゃないわよ？ ネクストが改造されちゃったのも、こんな状況になったのも、ももの責任なんていっさいないんだから ……仮にネクストが起爆してわたしたちみんな死んで、北條ってヤツが国際犯罪者になっちゃったとしても、ね」 良「！ で、でも――――」 純「でも、じゃない。……ま、あんたが納得しづらいってのはわかるし、今日明日で絶対ダメってほど せっぱ詰まった問題でもないみたいだから、悩むんなら止めないけど。 悩んでも結果は変わらない・問題を先送りにするだけだってのは、理解しときなさいよね？」 良「――――――。うん」 純の言葉が、聞こえているのかいないのか。ふらぁ、と力の入らない表情でその場を離れる良。 その後姿に、純は深ぁぁぁぁぁぁぁぁく――ため息をついてつぶやいた。 純「……ありゃ、ダメだわ。」 デネブ（ダメ……って？） 純「あのバカ、ネクストにすっかり同情しきってる――あの状態じゃどんな決断も出来ないわね。 あれに憑いてるイマジン連中も悩んでる、さらに姉貴たち――アギトチームまで身動き取れない 状況となれば、あの娘にちゃんとした助言できる人間、いないわよ？」 デネブ（……いや。じゅんが、ちゃんとした助言したげればいいんじゃ……？ ） 純「ちゃんとした助言？ しましょうか、『いいからとっとと他所につれてって、爆破しろ』って。」 ――その純の、口調はひどくあっさりとしていた。 非道にすら聞こえるその物言いに、デネブをして純に食ってかかる。 デネブ（――！！ じゅ、じゅんそんなひどい冗談言ってる場合じゃないのに――――！） 純「言っとくけど、冗談のつもりないわよ？ そうすれば憂いは完璧に断てる。 ……ま、もっとも爆破まではさすがにかわいそうだと思うけど…… ここで爆発させるわけにはいかない以上、最低限『他所につれてく』とこは譲れないわ」 デネブ（そ、それでも、じゅん。） 純「それでも、じゃない。 さっきももには『今日明日で絶対ダメってほどせっぱ詰まった問題じゃない』って言ったけど、 実際、いつ爆発するかもしれない超強力爆弾がすぐそばにある、ってのはせっぱつまった問題でしょうが。」 デネブ（だ、だとしてもっ！ ショックを与えなかったら爆発しないんだから、 ショックを与えないようにすればいいだけじゃ――――） 純「……それで放置して、『うっかり転んで爆破されちゃいました』なんて笑い話にもならないわ。 しかも、あれがいる限りNATOの手先が手を変え品を変え爆破しに来るんでしょ？」 デネブ（……………………。けど……） 純の言うことは、いちいち正論だ。だがデネブには――理解はできても納得はしがたいらしい。 彼女にしては珍しいことに、しつこいくらいに食い下がる。 デネブ（ZECT学園……ここならセキュリティもしっかりしてるし、下手に外に出すより よっぽど安全だと思うんだけど――――） 純「その強固なセキュリティとやらが、昨日の時点であっさり突破されてるでしょうが。 んで突破された結果、最悪想定される状況は――わたしたち全員の爆死。 ……間違えないことね、デネブ。わたしたちが……わたしが考えなくちゃいけないのは、 『爆発にZECT学園やわたしたちが巻き込まれないこと』であって、 『Nextたんを爆発させないこと』は――優先順位としては、その次に来ることよ。」 デネブ（……。そ。そう、だけど――――） 純「――――――デネブ。」 じっ、とデネブを見つめる純。見つめ返したデネブの瞳に映った純のその顔は、 だが決して、その状況に納得したものではなかった。 心情的に納得できていないのは、純も同じ――それでも、やらなければならないことも、あるのだ。 だから――――デネブは、 デネブ（………………。りょー、かい……。） ついに、折れた。 純はひとつ頷いて、すっと目を閉じこれからのプランについて思考を巡らせる。 NATOのエージェントたちは、Nextたんを狙うのをあきらめず、ZECT学園に入り込んでこようとするだろう。 だが逆に、Nextたんの状況――劇の準備の手伝いをさせられていて、その劇の上映が明日である――を 把握している以上、その劇が終わったあとZECT学園から出す可能性は考えているに違いないが、 いまこの時点でNextたんを追い出す可能性は、まったく考えてないわけはないにせよ そう高いとも思ってはいまい。だから純は、決断した。 「――どのみち、今がタイミング的にはベストってことね。てなわけでデネブ、 ……今夜。Nextたんを――連れ出すから。」 ★ ――そんな純の悲壮とも言える決意と、ほぼ同時刻。 司「……イエローマフラー？」 奏『えぇ。NATOの下部組織のひとつです。』 劇の練習の休憩時間を利用して、司は、 電話で連絡を取っていた。間宮 ちはる――かつてのウカワームにそっくりな存在――が 大矢の手引でZECT学園内に入り込んできたのを怪しんで（それ自体は本気でただの偶然なわけだが） その調査に乗り出していた奏。彼女がそれを調べる過程で、捜査線上に浮かんできたのが この組織だった。 奏『レッドマフラー隊、というのは有名ですよね？』 司「とーぜん。所属を明らかにし士気を鼓舞する意味で、メンバー全員が 赤いマフラーを装備してるっていう、国際平和機構所属の戦闘部隊、でしょ？」 奏『えぇ。そのレッドマフラーが戦闘部隊であるなら、イエローマフラーは諜報部隊ですね。 もっともこちらは性質上、ほとんど公表されていませんが』 司「――――ふ、ん。」 思い返す司。昨日の大矢と良の話では、襲ってきた二人の女は、なるほど確かに いずれも黄色いマフラーを巻いていたという。……って、ちょっと待てぃ。 司「…………所属を明らかにして襲ってくる諜報組織ってのは、存在意義的にどーなのよ。」 奏『まぁ諜報部隊といっても、情報収集よりは裏方での破壊活動を主としているようですから。 それに、その黄色いマフラーにはちゃんと意味があるんですよ？』 司「意味？」 奏『えぇ。ステルス性の金属を極薄の皮膜状にしたものと、やはり極細の繊維状にして編みこませたものを 何重にも重ねることによって作成したコットンシールド＆ハイコートアンテナの一種で、 通信機器の遮断・範囲拡大等を容易にする――これで情報関係の連携を密に行うことができ、 なおかつ催眠攻撃の類に対して絶大な防御力を発揮させるシロモノだそうです」 ――この場にリュウタロスがいたなら、その言葉に納得していたに違いない。 昨夜、謎の一団の脚止めに放った精神操作がうまくいかなかったのは、その一団が巻いていた この布のせいであるらしいことが明らかになったのだから……まあもちろん司はそんなことは知らないので、 ここではその話を記憶にとどめておくだけにとどまるが。司が考えるのは、別のことである。 司「………………。」 ――黄色いマフラーに意味があるのはわかったが、だからといって、目撃される危険があるというのに わざわざ所属を明らかにして潜入するというのは、いくらなんでもリスクが高すぎる。 つまり、当初の予定としては“見られても構わない”つもりであった――言いかえれば目撃者を 全部始末するつもりだったのだろうと、この時点ではちはる（Nextたん）の爆弾の件を知らない司にも 判断できる。そして――まず間違いなく、“目撃者を始末する”ことをあきらめてはいないだろう、ことも。 とりあえずそこで思考を止め、奏の報告の続きに耳を傾けた。 奏『――あと、そのイエローマフラー関係者の一人から秘密裏になんらかの依頼を受ける形で ICPOの日本人捜査官――北條、という名前ですが――が一人日本にやってきていますが…… 現在、足取りがまったく途絶えています……ことと次第によっては、もう殺されてるかも……』 司「――ありえるわね。」 ……殺されてません。あんたらもご存知の某喫茶店の地下でス巻きにされてます。それはともかく、 奏『今のところ、以上です。』 司「――『今のところ』、ね。それで、ちはるの正体とか何とかについては？」 奏『それが……まだ確定には至ってないんです――そのイエローマフラーとつながる線が ようやくうっすらと見えてきた、といったところですね……ただ一方で、 どうやらウカワームとの少なくとも直接なつながりはなさそう、でもありますが。』 悔しそうな口調の奏……悪意的に言えば、昨日の昼に調査を始めて一日半ほどが経過、 それでわかったことがこの程度、である。普段の司なら奏に対してイヤミの一つも出るところだが、 ――相手が国家間組織の、かつ諜報専門セクション、そしてどうやらその中でもかなりヤバい案件に 関わっているらしい背景が見えてきた以上、さすがにそこまで言えようはずもなく。 司「わかった。こっちでもちはるの周辺には注意しておく。 もっとも、本人の方にはメイクマスター（大矢）が貼り付いてるから そうそう手は出しづらいだろうけど……あんたは、そのまま調査を続けて。」 奏『わかりました――――司さん。』 司「？ なによ」 奏『……気をつけて。」 司「――――。あんたに、そんなことを心配されるとはね。わかってる……あんたの方こそね。」 奏の、意外な注意の言葉に一瞬、信じられない言葉を聞いたような表情になる司だったが、 少なくともその驚きを表面的にはおくびにも出さず、会話を終えるのだった。 そうして司は、感覚を研ぎ澄まし周囲に気配がないことを再度確認する。そのことを確認すると、 注意を払いながら２年某組へと戻る……もちろんまだ休憩時間中で、 大矢「ほーらトドロキちゃん、これが巷で噂のアルティメットメイクアップ！！ トドロキちゃん素材はいいんだからさ、もう少し自分で磨いちゃうといいよー」 トドロキ「/// あ、いや、でもそのわたし、そーゆーの鍛える邪魔になるから…… ///（照れ照れ 」 大矢「だーいじょうぶ、大丈夫！ 健康美って方向の磨き方もあるし、ふつーにカワイイ系でも じゅーぶん両立可能だって！！ かく言うボクも今回の劇では 主役って言う大任と、メイク係という重要な役割を両立させてるわけで、」 ひより「あ、あの大矢ちゃん、それは微妙にケースが違うと思うんだけどな、ぼく……」 レン「（ぼそっっ）……つーか便利にこき使われてるって言うのよそーゆーのは。」 とまぁ、大矢が中心になる形で、アルティメットメイクアップ実践講座が開かれていた。 （…………。状況わかってんのかしらね、あののーみそトンボ並…………） 先ほど聞いた深刻な話のせいで、思わず大矢をジト目で見てしまう司。 まぁ、おそらくちはるが襲われてたところを助けたんだろうな、という想像はつくし、 だからちはるを――間宮 レナにそっくりの少女を、という意識も否定はできないとしても―― 守る決意は高かろうことは確信できるが。……そんな司の思いをよそに、大矢の軽口は止まらない。 大矢「光のオーロラ身にまとい、君はキレイなひとになれ、ってね！ トドロキちゃんみたいに 素材のいい娘はもちろん、そうでなくてもボクの手にかかれば、眉目……、ビモク…………」 そあら「…………。眉目秀麗（びもくしゅうれい。顔だちが整っていて美しい様子のこと）？」 大矢「そう、それそれ…………って、なんだよみんな、そんなあからさまにモノ知らずの馬鹿を見る目はっ！？」 夕菜「（ぼそっっ）……いや、だからそういう視線なんだと思いますが。掛け値なしに。」 ちはる「…………。（くすくす 」 （――あれ。） 大矢のしょーもないいつもの格言失敗に、笑うちはる……かすかな笑いだったが、 司の目から見ても、本当に楽しそうなその表情。それが、おそらくちはるが 初めて見せた笑顔であることに司は気づいた。……気づいたが、そのちはるの絶望的な状況を知らない 司では、そのちはるが浮かべた“笑顔”の重さにまでは、この時点ではさすがに思い至らなかったのだ―――― ―― 『仮面ライダー The Nextたん』 続く ―― 仮面ライダー The Nextたん キャスト 本郷 凪／１号たん 天道 司 一文字 はやな／２号たん 加賀美 そあら 風見 志焔／Ｖ３たん 風間 大矢 菊間 琴美 日下部 ひより 風見 ちはる ？ ナレーター 野上 良 ビジョンフライ、ピッケルシャーク、ギロチンザウルス、レーザークラブ、チェーンリザード……他 影山 レン その他 NAC（２年某組アクションクラブ） 助っ人団剣友会 脚本 天道 司／原案・井上 朋樹（仮名） 主題歌:「CHOSEN SOLDIER」 ISSA 挿入歌：｢Platinum Smile｣ 小坂りゆ |
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八兎ジャック
2009年08月04日(火) 20時43分20秒 公開 ■この作品の著作権は八兎ジャックさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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