仮面ライダーintertwine 第五章過去ログ
第五章 第一話 助っ人(イシス様作者)



ニーベルゲン研究所のメインフロア。
広大な部屋でありながらも、今そこにいるのは暗殺者、人形使い、槍使いだけだった。

魔眼使いはイクスを連れ幻龍家へと出掛け、魔術師は志熊 京抹殺のために弓使いと共に朝から出向いてしまっている。
残された三人は特に何する訳でもなく、ただ黙々と朝食を食べていた。


そんな時だった。
研究所にアナウンスが響く。どうやら、この施設に入った者達がいるようだ。
しかし、その者達は正規の手続きを済ませているため、研究所の警備システムが作動する事はなかった。



メインフロアに堂々と入って来た二人の人物。
一人は、炎のように真っ赤なぼさぼさ髪の女性。
背もスラリと高く、その威風堂々とした態度は、人を惹きつける物を感じさせずにはいられない。

もう一人は、その女性と比べるとやや背の低めの少女。
蒼いショートヘアーに端正な顔立ち、そして凛々しい目つきは、いかにも厳格な雰囲気を醸し出している。


その二人の内、赤髪の女性を見た瞬間、暗殺者は旧知の友人に会ったかのように、槍使いは死神を見てしまったような顔になった。

「炎使い!久しぶりね。」
「ひえぇぇぇぇぇぇっ!!?お、お師匠様ーーーーーーーーーーーーっ!!??」

炎使いと呼んだ女性に近づき、その手を握る暗殺者。
対し、炎使いは満面の笑みで返した。

「ほんっっっと、久しぶり!!貴女に会いたくて来ちゃったよ!」
「貴女は相変わらずね。」

この同年代でありながらも、豪快でどこか子供っぽさを残した親友に、暗殺者は苦笑する他なかった。

「まぁね。でも、外でならともかく、基地の中ぐらい本名で呼び合いましょうよ、ミシェル。」
「本当に相変わらずね、ディオナは。」

口元に手を当てて薄く微笑む暗殺者−ミシェルと、眩しいぐらいの笑顔を浮かべる炎使い−ディオナ。
対照的でありながら、しかし釣り合いが取れている様に見える二人。それは、まさしく親友であった。


次に、ディオナが目を向けたのは人形使いだった。

「人形使い君も久しぶり。元気してる?」
「あ、はい。この通りなんとか・・・・・」
「こーらっ。男の子なら、もっとしゃんとする!!」

人形使いの背を豪快にバシバシ叩くディオナ。
どうしていいのか困っている表情の彼を満足げに見やった後、こっそりとこの場を抜け出そうとした槍使いによく響く声で語り掛ける。

「槍使い、逃げないでこっちに来なさい。」
「ギクッッ!!」

まるで犯行現場を発見された小心者の犯罪者の様に、背筋がピッとなる。
ゆっくりと、今にも泣きそうな顔でディオナの方へと振り向く。すると、すでに槍使いの目の前にはディオナがいた。
槍使いより背は低いにも関らず、その風格から、彼女の方が槍使いよりも大きく見える。

「私がいない間、ちゃんと修行を怠らなかったでしょうね?」
「もももも、もちろんですよっ!」

汗だらだらで、微妙に呂律が回っていない槍使いに、ディオナは死神の鎌を振り下ろした。

「よし!なら、ミシェルとの練習試合が終わったら、次は貴女の腕を見てあげる。」
「・・・・・・・・・・・」

何も言うことなく、魂が抜けたように、槍使いはその場で気絶してしまったのだった。





「ところで、ノアちゃんとエスカリアは?」

この場にいない、騎士団屈指の実力者の親子を取り上げるディオナ。その疑問に答えたのは人形使いだった。

「魔眼使いはDr.セルファ討伐に乗り出しました。魔術師は志熊 京の抹殺に・・・・・」

そこまで言って、人形使いはディオナが少し困った様な表情をしている事に気づいた。
彼女は重々しい溜息を出しながら語りだす。

「エスカリアもよっぽど本気なのね・・・彼、“力”ある者を相当恨んでるから・・・・・・・」


魔術師のその優雅な物腰の裏には、力に溺れた者や、生まれつき強大な力を持つ者に対する異様なまでの執念があった。
無理もない。彼は数年前の事件で最愛の妻を亡くし、危うく大切な一人娘のノアまで失いかけたのだ。
これで復讐は忘れろと言う方に無理がある。

「何とかしたいけど、志熊 京に関しては魔術師が全権を握ってる。私では何も出来ないかな・・・・・」

ここで言う、彼女の「何とかしたい」とは、魔術師と京の両方である。
炎使いは、その圧倒的な攻撃力の持ち主でありながらも、騎士団では珍しい穏健派の人だった。
それ故、彼女を慕う者は多い。

そう言えば、昔から炎使いは優しい女性だったなと、人形使いは頭の片隅で思い返していた。


「魔術師の心配をするのはいいけど、本当は何しに来たの?」

ディオナの心配を遮ったのはミシェルだった。
これで本当に「ただ自分に会いに来た」なんて言ったら、さすがの暗殺者でも表情は固くなる。
だが、予想を裏切ってかそうではないのか、先程までの彼女とは打って変わり凛々しい顔つきへと変わっていた。

「魔女の件に関しての捜査をこっちが担当することとなったの。代わりに、ミシェルには“奴ら”の方をお願いするわ。」

“奴ら”と聞いた瞬間、ミシェルは指先が僅かに震え、人形使いはその拳を強く握りしめた。
剣使いの仇たる“奴ら”、今までは人数の都合でその件には当たる事は出来なかったが、なるほどそのために炎使いが来た。
炎使いが魔女に当たってくれれば、暗殺者は“奴ら”を追いかけることができる。

「感謝するわ、ディオナ。」
「どういたしまして。それより、そろそろいいかな?」

見れば、ディオナは何やら準備体操を始めていた。


「貴女との練習試合。今日こそは勝たしてもらうから。」










ニーベルゲン研究所の特設フロア、もともと何もなかった空間をバトルフィールドへと改造したその場所。
向かい合う二人の女性、暗殺者と炎使い。外の展望室では、人形使い、槍使い、そして蒼髪の少女が。

何も言うことなく、暗殺者は左手を掲げ、変身する。
炎使いも、右手のルビーの指輪を暗殺者に向け、その言葉を紡いだ。

「変身!」

炎使いを業火が包む。近づいただけでも消し炭にされそうな炎を振り払い、中から出てきた仮面ライダー。
焔の如き真紅の装甲、味方には凱歌を、敵には葬送曲を奏でる騎士団五指に入る実力者。


仮面ライダープロミネンス。その両の腕を目の前へと掲げると、その拳に火球を出現させる。


「まさか、私相手に本気を出さない訳、ないよね?」
「貴女相手に本気を出さないなんて、気が触れているとしか思えないわ。」

一方の黒姫も、右手には豪奢な造りの宝剣“幽世”を取り出し、それを頭上へと掲げる。

その瞬間、幽世から放たれた暗黒のオーラが黒姫を包む。
そのオーラの中からは黒々とした瘴気が立ちこめ、うっすらと浮かぶシルエットには宙を舞う天女がいた。
薄い黒地の天衣を纏い、全身には紅い大小様々な文字が刻まれている。
先程よりも軽装ながらも、威圧感は倍増しだ。


「黒姫最強フォーム、“黄泉荒神乃化身(よもつあらがみのけしん)。」


黒姫の最強フォームは、幽世の持つ“猛毒”と“腐食”の能力を全身に纏い、その能力を使いこなす事ができる。
魔女の実験体たるデミ・パランツェを倒せたのも、この能力の賜物である。


そして、お互い同時に動いた。
黒姫の瘴気とプロミネンスの焔が交錯し、凄まじいエネルギーの奔流がバトルフィールド全体を震動させた。







黒姫とプロミネンスの戦いを見て、人形使いは呆然と、槍使いはガタガタと震えていた。

「お師匠様本気だー・・・・暗殺者の次は私が・・・・・いーーーやーーーだーーーーーーー!!」
「静かに・・・・・」

泣きじゃくる槍使いを止めたのは、残る蒼髪の少女。
炎使いの弟子、魔術師の造った改造実験体−癒し手は二人の戦いを冷静に見ていた。

「槍使い様が傷付いてもいいよう、私がいます。」
「全然よくないよーーーーーーーっ!!」


癒し手は、人間の少女とハートの9−キャメルアンデッドとを組み合わせたトライアルである。
“リカバー”の能力を回復・治療に役立てるよう魔術師が造った少女は、その厳しい視線を戦い続ける炎使いへと向けた。










街中を一台のベンツが走る。中にいるのは魔術師、弓使い、運転手、そして緑の髪の少年。
少年は手元のルービックキューブを弄りながら、気だるげな声で魔術師に語りかける。

「魔術師殿さー、マジでどうするつもりよ?」
「どうする、とは?」

少年は死人のような目を魔術師に向けることなく、ただ声だけを掛ける。

「今、騎士団じゃアンタのこと結構問題なってる。昔から、アンタやりすぎだったからさ。」

気のない一言をぬけぬけと言い放つ少年に、弓使いは射抜くような視線を浴びせる。
それを知ってか知らずか、少年はさらに語りだす。

「アンタの今までの実験だってそうだし、それに今回、アンタ弓使い使って“G”の“協力者”攻撃したっしょ?」
「あれは暗殺者の命令だったのだがね。」
「そんなの、連中にはどうでもいいワケよ。今回、アンタ結構ヤバイんじゃない?」

少年の脅しにも似た内部事情に、しかし魔術師は邪悪な笑みを浮かべた。

「彼らは分かっていないようだ。今の騎士団が誰のお陰で強いままでいられるのかを。」
「当然、魔術師殿のお陰。連中バカだよね?」

意外にも、少年は先程とは違い今度は魔術師の肩を持つ。

「“G”も、“アビス”絡みでは向こうの方が捜査権は強いが、今回は我々の方が先に到着している。」
「本来ならウチらが好き勝手できんだけど、あの“G”の、当麻 詩姫はそうじゃないみたいよ。可愛い後輩傷つけられて、黙ってるはずないし。」
「構う事はない。」

まるで蔑む様な視線を窓の外へと向ける魔術師。そこで、初めて少年は彼へと目を向けた。

「アンジェもバカだよね。魔術師殿と一緒にいた方が、もっと楽しいのにさ。」
「たった一人の大切な妹を馬鹿にしてはいけないな、ロスト。」


ロストと呼ばれた少年−四体のカテゴリーAと少年を組み合わせたトライアルは、完成したルービックキューブを再び崩し、また弄りだした。
そして、ふと思い出したようにある人物のことを話題に挙げた。

「そういやさ、人形使いどうなったよ?」

その質問に、魔術師にしては珍しく重々しい溜息を吐き出した。

「彼にはここでの生活が馴染み過ぎたようだ。このままでは、任務にも支障をきたすだろう。」
「アイツ、マジで甘ちゃんじゃね?志熊 京と一緒の学園ならさ、後ろからナイフでブスってやりゃいいのに。」

そこまで聞いて、ロストはそれ以上の感心を示さなくなり、座席にもたれかかりそのまま眠りへと入った。

その寝顔は、子供のそれだった。
これから起こる惨劇を夢の中で楽しんでいるのか、それとも今までの惨劇を夢に見ているのか。
弓使いはそんな彼を見て、頼もしさと共に腹立たしさまで沸いてくるような気分だった。





第五章 第二話 レンナとノアとイクスと・・・?(ウェイド作者)



レンナは今自宅でゲーム・・・・・第○次スー○ー○ボッ○大戦αをやっている・・・・・。
なお、気に入っているのは破壊神である勇者王だとか。

それを退屈そうに精神世界で見ているラグナロク。

ラグナロク『・・・・・・なんだ?微かだ覚えがある気をかんじた・・・・・』

レンナ「なんかいった?」

ラグナロク『いや、なんでもない』

レンナ「そう?ならいいけどってあー!・・・カツ・・・アンタやっぱ使えない・・・・」

・・・・・・・泣いているレンナ、ラグナロクは呆れている・・・。

だが・・次の瞬間。

??「のんきにゲームしとんなー!!!」

ズガァン・・・・・・・・・

何者かの蹴りによって壊されるテレビ・・・レンナは化石化している。
ラグナロクは・・・・なんだかもう呆れをとおり越して泣いている

レンナ「・・・なにするのアンター!」
覚醒して尚且つラグナロク・・・はでることを拒否したので殴りにかかるレンナ。

???「ガンヴァルオス」

ガンヴァルオス「了解、ダブルバルカン」

ガンヴァルオスの両肩の部分が開き機関銃が見えてくる。

ズガガガガガガ!!!!

穴だらけになる、レンナの部屋。

レンナ「なんなのよあんた達ー!」

切れて、激戦が起きた・・・その内容は省略する。

レンナ「それで、つまりそのセルファって奴を倒すために協力してほしいってことね・・・?それなら、こんなことやらないでよね・・・あと少しで全クリだったのに・・・・」

ぶつぶつ、と恨めしそうに言い続けるレンナ、終いには切れたノアにほっぺをつねくられた。

ノア「・・・ゲームなんてやってる暇はないのって言ったでしょ!?さっさと行くわよ!」

無理やりレンナを引きずるノア、それについていくイクスとガンヴァルオス・・・ガンヴァルオスは窓から外にでたのだが・・・。

ラグナロク『行くしかなさそうだな・・・一菜たちも誘っていくぞ・・・・(こいつ等のきではなかった・・・だれの気だ?)』

一方、その上空では

イプシロン「ねぇねぇ、破壊神も一緒だよ」
ヴォルク「そうだねそうだね、楽しみだね〜」

それをまるでゲームのように見ている二人組み・・・彼等の本当の目的は今だわからない。

そして・・・・・。

セルファ「うふふふふふふ・・・目覚めるわよ・・・この子が目覚めればライダーはずべて・・・アハハハハ・・・・アッハハハハハハ!!!!!!」

狂気に満ちきったものが・・・・目覚めさせてはいけないものを目覚めされる・・・。

ドックン・・・・・。
ドックン・・・・・。

・・・・・・ドックン・・・・・・・。





第五章 第三話 行動開始(岡島様作者)



ここで話はモーサドゥーグとの戦いの後、騎士団のメンバーがニーベルゲン研究所に戻ってきた
直後に戻る。
メインフロアにいた暗殺者の元にやってくる魔眼使い
「お姉さま、Gからのメールが届いています」
「Gから・・・・・・・・」
「活動地不介入条約、例外事項による介入の通知です」
「やっぱり・・・・・・・」
と呟いた。Gとからのメールとくれば、その内容は決まっている。
そしてメールの内容と添付されていたデータを確認した暗殺者は
「すぐに返事を出しなさい。遅いとうるさいから」
「はい・・・・・」
活動地不介入条約、それは騎士団とGは、お互いの活動地には介入しないという物である。
その中には例外事項があり、その例外事項に基づき、活動地への介入することが出来る。
その際には、相手側にメールでその旨とその地で活動するエージェントのデータを送り、返事をもらうことで、
エージェント達は活動を開始できる。
「アビスの復活か・・・・・・・・」
メールには介入の理由も書かれている。

数時間後、とあるビジネスホテルの一室
そこに当麻詩姫の姿があった。詩姫は携帯電話で話している
「わかりました。では」
電話を切る。
部屋にはGからのもう一人のエージェントがいた。
「本部に騎士団から返事が来たわ。行動を開始することが出来る」
するとその人物は
「わかった・・・・・」
と答えた。

翌朝、志保は自分の携帯電話の着信音で目が覚めた。
着信は非通知、電話に出でその相手を知ったとき彼女は
驚愕の表情を浮かべた。
そして部屋で寝ている凪を起こさぬように、こっそりと部屋を出た。

そしてボード学園の校舎から包帯姿の少女が出てきた。その手には携帯電話が握られている。
彼女はそれをポケットの入れると、彼女は包帯のせいでわかりにくいが笑みを浮かべながら、
閉まっている校門を飛び越え、外に出ると、何処かに行ってしまった。





第五章 第四話 後輩の悩み(修正版)(斬影刃様作者)



蛍は、朝早く起き朝御飯の支度をしていた。
ちなみに、献立は白飯、鯖の照り焼き、里芋とひじきの煮つけ、豆腐の味噌汁と純和風である。

「ふあ〜、…蛍〜朝御飯出来てる〜?」
「あ、おはようございます姉さん。」

秋奈が欠伸をあげながら聞くと、蛍はニコッと笑いながら挨拶をする。

「ん、おはよう蛍。今日のご飯何?」
「えっと、白飯と、鯖の照り焼き(以下略)ですよ。」

秋奈が椅子に座りながら質問すると、蛍はおかずをテーブルに置きながら答える。

「じゃあ、頂ま〜す♪」
「頂きます。」

おかずを並び終えると、二人は手を合わせた後、二人揃って食べ始める。
二人とも、落ち着いた雰囲気である。

「うん、美味しい。腕上げたわね蛍。」
「そうですか、嬉しいです姉さん。」

姉に褒められた蛍は、本当に嬉しそうな顔で喜ぶ。

食べ終わった後、秋奈はある人物に電話を掛ける。

プルルルルルップルルルルッカチャッ
『はい、風瀬ですけど何方でしょうか?』
「あ、風瀬くん?秋奈だけど〜?」
『え!先輩こんな朝早くどうしたんですか!?』
「うん、ちょっと学園新聞の事、君に相談したくてさ〜。」
『あ、そうですか…えっと、俺は何をすればいいんですか?』
「……どうしたの、いつもと比べて暗いわよ〜?」
『え、あの、ちょっとありまして……。』

秋奈が心配そうに質問すると、風瀬は慌て気味に答える。
それを聞いた秋菜は、とても優しくそれでいて威圧感のある声を出して、

「ちゃんと教えてくれるわよね?」
『え、いや、あ「くれるわよね?」…わかりました。』

列は、華枝と神歌が大怪我をして入院した事を伝えた。

「そうだったの…。」
『俺の不注意のせいで二人は……。』

この時、列は二人だけではなく、自分のせいで大怪我を負ったもう一人の少女、雅菜の事も考えていた。

「……よし!」
『?どうしたんですか先輩?』
「お見舞い行くんでしょ?じゃあ、一緒について行ってあげる。」
『……はい?』
「行っとくけど拒否権無いから、家まで迎えに行くから家から出ないでね?」
『ちょっ、先ぱ「じゃ、また後でね」ガチャッツーッツーッ』

列が抗議しようとすると、秋奈は有無言わさず電話切って出掛ける支度をする。

「あれ、姉さん出掛けるんですか?」
「あ、うん……。」

秋奈は、相槌を打った後、じっと蛍の方を見て考え込む。

「あの、姉さん?」
「あのさ、一緒に出掛けない?これから後輩に会うんだけど?」

その言葉を聞いた途端、蛍は目を丸くして驚く。

「良いんですか?私、邪魔になるんじゃ?」
「いや、むしろ今のアイツには貴女みたいなのが居た方が良いわ。」

秋奈の意味深な言葉に、蛍は分けが判らないように首を傾げる。

「で、一緒に行ってくれる?」
「あ、はい、わかりました今準備してきますね。」

そう言って、蛍は慌てながら外に出る支度を始めた





第五章 第五話 悩む乙女たち(ユルカ様作者)




『困ったことになったな…。』


エウリュディケはいつものようにひとりごちた。


Dr.セルファに関しては騎士団に任せておけばよいようにあのディスクをわざと分かりやすい場所に置いておいた。

それは槍使いがアジトに持ち帰ったから、騎士団はDr.セルファをすぐにでも退治しに行くだろう。

問題はその同じ騎士団が京=シグマを殲滅させようと動いていることだった。

EASEのデータベースのデータのコピーをソフォクレス=冥が持って行って、騎士団の暗殺者に渡してしまった為である。


『最悪の場合は…アレを使わなきゃいけない…あんまり使いたくないんだけどね…。』


髪をかき上げてまるで小説が書けない作家のように悩むエウリュディケ。


『悩んでいても仕方ないな…。とりあえず、やってみるか…。』


エウリュディケは目の前の観葉植物に向かってカードを投げた。

カードが刺さった観葉植物はその姿を消し、カードはエウリュディケの手の中へと戻る。


『シグマには、死んでもらっては困るんだ…。』


それは自分が倒すことの思いの裏返しなのかは、誰にも分からなかった。



場所は変わって、SB社病院施設…


病室で、雅菜と京が話している。


「雅菜さん、調子はどうですか?」

「最悪の気分だ…。」


雅菜がそう言ってしまうのも無理はなかった。

半ば、列を人質に取られた戦略であっという間にやられ、カイズィーギアも奪われてしまった。

「元気出せ」と言うほうが無理だ…。


「でも、そのお陰で風瀬君は無事だったんでしょう?」

「…もう、友達として見てもらえないかもしれないな…。」

「どういうことですか!? だって、風瀬君と雅菜さんは…。」


京の言うことを手を出して止める雅菜。


「私が仮面ライダーだと、列は知ってしまった。普通の女の子じゃないんだと…。」

「雅菜さん…。」


顔をやや下向き加減にして涙を流す雅菜。


「化け物でも見るような目で見られて…もう…普通の友達としての関係など…壊れて…。」

「そんな…そんなこと…。」

「少し眠る…一人にさせて…。」


病室から出て京は思った。

いつもとは違っている。強気の雅菜さんがあんなに弱気になるなんて…。

やっぱり、「仮面」ライダーなのだから、人に正体がばれるのは良くない…。

それが、すぐ近くにいるいる普通の人だったら、なおさら…。


「どうしたの、京?」

「あ、豊桜さん…。」


考えている京の前に冥が姿を現す。


「もう他人行儀はいいのよ。今は親友であり、仲間なんだから。」

「…冥さん、私達もいつかは正体知られてしまうんでしょうか…。」

「知られるという覚悟は必要ね…。もっとも、風瀬君にばれたら私はもっと酷い目で見られるでしょうね。」


表情がかなーり暗くなっている冥。


「そんな…。」

「だって、そうでしょ…。あなたを顔色一つ変えずに、この手で殺そうとしていた女なのよ…。」

「もうそんなこと関係ないですよ! さっき自分で言ってたじゃないですか! 今は親友であり、仲間なんだからって。」


それを聞いて冥は「ふっ」と笑う。


「そうね。こんな弱気になるのも私らしくなかったわ。」

「私、風瀬君を待つつもりです。だって、風瀬君の性格なら、必ずここに来るはずだから…。」

「お見舞いに?」


小首をかしげる冥。


「それに木場さんから聞いたんですが、妹の華枝ちゃんやその親友の神歌ちゃんもいるらしいですし…。」

「来ない筈が無いって訳ね…。」

「足取りは重たいかもしれませんけど…。」

「ま、考えていても仕方ないわ。とりあえずロビーで待ちましょう。あの二人の仲違いは避けないとね…。」


ロビーへと歩く二人、しかしそのロビーには先客が一人いた。

分厚い本を冷静に読み解いている女性…その姿を見た冥は突然その女性に話しかけた。


「どうして…こんなところにいるの!? 和子!!」

「それはこっちのセリフよ。あなたも私を殺しに来たの?」


神藤 和子=エウリピデス。

どうやら、冥をエウリュディケの遣わした刺客だと思っているようだ。


「それは違う! 私だって…。」

「騙されないわよ。何時だってそのポーカーフェイスはターゲットを殺すためのものだった。だから騙されない。」

「話を聞きなさいよ!」


病院のロビーだというのに口喧嘩が始まってしまう。


「あの…ちょっと…。」


二人を何とか宥めようとする京。

…雅名と列の蟠りを防ぐ前に、こっちの蟠りを解くほうが先みたいだ…。

京ちゃん、ご愁傷様。(ぉ)





第五章 第六話 ”仮面ライダー”(空豆兄様作者)



「はぁ・・・・・・・。」

受話器を置く。
「なんだって、先輩が・・・。」



それは突然の事だった。
朝ごはんを用意し、一人で黙々と食べていると、俺の所属する新聞部の部長、水無瀬 秋奈さんから電話がかかってきたのだ。
その人は、俺が落ち込んでいることを見抜いたのか、今日俺が行く病院への同行を、申し出てきたのだ。
・・・・俺の所為で怪我をさせてしまった3人の、見舞いを。

俺の、世界でもっとも大切な人たち・・・俺の妹、風瀬 華枝、その友達、英琉 神歌。
そして、俺の親友・・・草加 雅菜。


合わせる顔がない、出来れば行きたくないとも考えたが・・・その事から目を背けるわけにはいかない。
それにさっきの電話で、俺に完全に逃げ場はなくなった。
秋奈先輩・・・あの人は絶対に俺に逃げを許さないだろう。
あの人は、そういう人だ。

俺は部屋で服を着替えると、先輩の訪問を待った。
電話の内容から、すぐに来るようだ。
見舞いの品とか、俺はその間にいろいろ考えて、メモとかしておく。

華枝には何がいいかな・・・。
あまり酷い怪我じゃないみたいだし、お菓子でも持っていこうかな。
この間神歌ちゃんからもらった、ショートケーキを喜んで食べてたっけ。
俺は男だし、あんまりそういう洋菓子に縁がないせいか、華枝はすごく喜んでたよな。
よし。ケーキの詰め合わせを持っていこう。

神歌ちゃんには、花束を持っていこう。
神歌ちゃんは、向日葵が好きなんだ。
大きくて、元気で、いつも明るい向日葵が。
夏には、いつもはしゃいでた。
もっと小さい頃、自分の植えた向日葵が、大きく大きく育って、花が咲いたとき、駆け回って喜んでた。

この季節、まだ店に並んでいればいいけど・・・。


雅菜・・・。雅菜は、何が好きだったかな・・・。

・・・あってくれるのかな。雅菜は。
俺の所為であんな酷い目にあって、おまけにベルトを奪われて・・・・・。
俺のことなんて、嫌いになってるだろうな。
・・・やっぱり、できれば会いたく・・・・


ぴんぽーん・・・。

「あ。」
俺の考えを中断する、チャイムの音。
先輩が来たんだ。
俺は財布を持って部屋を出ると、玄関へと向かった。

「やっほー。」
「おはようございます。先輩。」
そこには、初めて見る余所行きの格好をした、秋奈先輩が立っていた。

「お、おはようございます。」
・・・・・と、その横に小さな女の子が一人。
華枝と同じくらいだろうか。

「あ、お、おはよう。先輩、この子は?」
「ああ。この子は私の妹の蛍。今日は一緒に来てもらうことにしたの。かまわないでしょ?」
「え・・・?あ、はい。」

「よ、よろしくおねがいします。」
ぺこっと頭を下げる蛍ちゃん。
「ああ、こちらこそ・・・。」
つられて俺もぺこり。

「どう?風瀬君。男から見て、我が妹は。」
「へ?どうって・・・・。」
華枝と、少し似ている雰囲気を出しているな、ぐらいしか・・・。

「素直じゃないわね〜。『蛍ちゃん!うあ〜、お姉さんに似て、すっげえ可愛いッス!』・・・って。そういえばいいのに〜。」
・・・そんな言い方しません。

「可愛いってそんな、姉さん、照れちゃいますから・・・///」
ぽっと顔を赤くして、うつむいてしまう蛍ちゃん。

・・・でも、ほ、本当にかわいいかも。
「・・・でもね風瀬君、手を出しちゃ駄目よ?もし手を出したら、・・・・あなたの身に、大変なことが起きるわよ。」
「た、大変なこと・・・・・・?!」
何だそれは、どういう意味だ・・!!?

「さて!そんなことより、時間がもったいないから、早く行きましょうか?」
「は、はい・・・・・。」
なんだか話をはぐらかされてしまったが、一体どんな事が俺の身に降りかかってくるというのだろうか・・・?

・・・ぶるぶるっ!

想像するだに恐ろしいので、俺は深く考えることをやめた。
この人には、一生頭が上がらないんだろうなぁ・・・と、俺は思った。




病院にいく前に、見舞いの品をあれこれとそろえる。
花屋には運よく向日葵が残っており、クラスメイトのみんなとよく行く喫茶店で、ケーキ各種を取り揃えた。

「へえ〜。ひまわりかぁ。」
「はい。神歌ちゃんが、神歌ちゃんが好きな花なんです。」
「気が利くじゃないの〜?なに、その神歌ちゃんって子と、付き合ってるの?」

「ふえええっ!?つ、付き合ってる・・・。お、大人ですぅ〜・・・///」
秋奈先輩の横を、ちょこちょこと付いて回っていた蛍ちゃんが、その話に頬を赤くする。

「そ、そんなんじゃないですってば!」
俺はあわてて否定。

「でも、噂になってるわよ?風瀬君と、中等部の長身の美少女、英琉 神歌ちゃん。今度の学園の女の子特集は、その子で行こうかしら?」
「や、やめてくださいよ!神歌ちゃんを、そんな見世物にするなんて・・・・!」

「そうね〜。未来の彼氏としては、気が気じゃないもんね?」
「秋奈先輩ッ!!」

「・・・ぅん、冗談よ。もう、そんな怒鳴らなくたっていいじゃない。」

・・・・もし実現していたら、俺の身に大変な災難が降りかかってきていたような気がする。
いいことも悪いことも一緒に・・・。



駅から電車で移動、都心部にあるスマートブレイン社、その医療施設へとやってきた。
それは都心の一等地に建つ、巨大なビルディング。
その黒光りする無機質な建物は、見るもの全てを圧倒する大きさで、そびえ立っていた。


「・・・さすが、世界の大企業。」
「・・・・その病院も、半端じゃなく立派よね・・・。」
そのSB社の病院の大きさと威容に、唖然とする一般市民二人。

「こんな病院、初めて見ました。すごいですね〜♪」
それと、無邪気にはしゃぐ女の子が一人。

「い、行きましょう。」
「そ、そうね。こんなところでバカみたいに見上げてる場合じゃないわ。わ、私はバカじゃないけどねっ。」
・・・いや、一緒に見上げてたじゃないですか。
先輩も気圧されたのか、少し言動が変だ。







「それは違う! 私だって…。」

「騙されないわよ。何時だってそのポーカーフェイスはターゲットを殺すためのものだった。だから騙されない。」

「話を聞きなさいよ!」




入るなり、そのロビーで口げんかをする女の子達が視界に入った。
「あら・・・。こんなところで喧嘩?マナーがなってないわね。」
「ええ・・・。ん?!!!」

ロビーは広いのでそれほど人は気にしていないようだが、俺はそれに目を疑った。
俺はそのけんかをする人物達に、見覚えがあったからだ。

「豊桜さん!」
俺はその中に割って入り、その知り合いに声をかけた。
「ふ、風瀬君!?」

「ふ・・・・せ?」

クラスメイトの豊桜 冥さん。
こんなところで会うなんて・・・。
「風瀬君、はう、いいところにきてくれたよ〜!」
「あ。」

その口げんかをおろおろしながら見ていた、もう一人の女の子。
それも俺のクラスメイト、志熊 京さんだった。
「志熊さん・・・。何、何で喧嘩なんかしてるの?」

「どうもこうもないわよ!こいつが・・・!」
豊桜さんが怒ったような口調で、その口げんかしていた相手を指差す。


・・・手には分厚い本。
歳は俺と同じくらいか少し上か・・・。
メガネをかけた知的美人、といった印象を受ける女性だった。

「あなた!あなたがおにいさん!?」
「へ?」

お互い初対面はずの彼女に、何で俺を見て「おにいさん」なんて言葉が出てくるんだろう。

「へぇ〜。思ったより若いんだね〜。ソ・・・いや、冥と同じくらいか。」
彼女はニコニコしながら俺をきょろきょろと見回す。
「あ、あの・・・・。今日始めてあった、はずですよね・・・?」
恐る恐る声をかける。
俺は全く身に覚えがないが、もし会ったことがあるんだとしたら、そんな失礼な話はない。
だから彼女に確認を・・・・。

「あ〜、うん。私、貴女の妹の『舞夜』の友達で、神藤 和子って言うの。よろしく!」

妹?『舞夜』・・・・・・・・・・?
「ちょ、ちょっと待ってよ。やっぱり何か勘違いしてるって。確かに俺には妹がいるけど、「まや」なんて名前じゃない。」
「え・・・・・・・・?あ、ああ!そっか!そうだったそうだった!あ、うん。気にしないで♪」

・・・・・・・・そんなの無理だ。

「・・・何よ。あんた風瀬君と知り合いだったの?」
不機嫌そうな目で、神藤さんに詰め寄る豊桜さん。
「あー。いや、このおにいさんの妹と友達!そう、そうなの。」
「へぇ〜。・・・あんたに普通の友達がいたんだ。」
「あっ、えっと、その、そうなの。偶然知り合っちゃって〜。」

(ソフォクレスは知らないんだっけ。舞夜の、ゼベイルの正体・・・。)

なにやら二人で話し始める。
「・・・・・・・・。」
気になる・・・。
先ほどのことといい、気になる・・・。


「はぁ〜。でも良かった。風瀬君のおかげで、助かったよ・・・。」
志熊さんが、安堵の息とともに話しかけてくる。

「ああ・・・。俺も良く分からないけど。喧嘩の原因って、何だったの?」
「え!あ、そ、その・・・。気、気にしないで!あはは・・・。」
苦笑いをしてごまかす彼女。

・・・何なんだ一体。
やたらと俺に隠し事をするよな。
頼られてるんだか避けられてるんだか・・・。


「・・・風瀬さん。もてもて。」
「蛍も、気をつけなきゃ駄目よ〜?」
「うん。」

・・・外野で、なんか好き勝手な事言ってるんだが・・・。



受付に聞いて、二人の病室にやってくる。
その間、ぞろぞろと女の子を連れる俺を、道ゆく患者や看護師さんたちが、嫌なものを見るような目で見ていたが・・・。
ぐ、俺だって好きでこんなにつれてるんじゃないぞ。

「・・・って言うか、何でみんな付いて来るんだよ。」
病室の前で一度立ち止まり、その一団を振り返って見る。

「私達は、そもそもあなたの付き添いだったし。」
「うんうん。」
・・・と、水無瀬姉妹。

「私?わたしは。その、あなたの妹の・・・華枝ちゃん?が、心配だったし。」
・・・なんだか微妙な回答の神藤さん。

「えっと・・・。私はこっちがついでなんだけど、風瀬君に、ちゃんと寄って欲しいところがあって。」
「は、はい!私もです。」
そういうのは、クラスメイト組の豊桜さんと志熊さん。

「よって欲しいところ?」
「はい。・・・・雅菜さんのところです。」

「・・・・・・・・・・・・・!」

雅菜・・・・。
雅菜か・・・・・。
・・・・・・・・。

「わかった。ここのあとに、行くよ。」
「!!本当ですか!よかった・・・・。」
「うん。雅菜も喜ぶよ。きっと。」

・・・喜ぶ。
本当にそうだろうか。
彼女は、俺を歓迎してくれるだろうか。


・・・・豊桜さんは、志熊さんは知らないんだ。
雅菜が、実は仮面ライダーだったなんて。
ただの人間の俺を助けるために、彼女は傷ついたって。
だからそんな風に簡単にいえるんだ・・・。

俺に、彼女にどんな顔をして会えって言うんだよ。
・・・でも、ああ言ってしまったのだから仕方がない。
雅菜にも、会いに行こう。

そう決めると、暗い顔を振り払って、俺はいつもどおりの顔で二人の病室のドアを引いた。



「ふあ・・・・。おにぃちゃん!」
その瞬間、妹の明るい声が飛んできた。
「よ。華枝。一人で夜寝られたか?」

「うん!・・・でも本当は、気づいたら朝だったんだけどね。」
ふにゃっと華枝が笑う。
・・・どこも悪くないみたいで、良かった。
「おにぃちゃんも、どこも怪我はないの?」
「ん・・・・・?」
あ、そうか。
華枝は、別れたあと俺がどうしてたかは知らないのか。

「ん。大丈夫だよ。どこも怪我してない。」
「本当!?よかったぁ〜。昨日ね、私すごくすごく心配したんだよ?おにぃちゃんは無事かなぁって。」

「そっか・・・。ごめんな。心配かけて。」
「ううん!おにぃちゃんは元気で、私をお見舞いに来てくれたから、ちっともおにぃちゃんは悪くないよ!」
「はは・・・。ありがとう。華枝。」


「・・・だれ?その人たち。」
「あ・・・・。」

華枝が不安そうな目で見るのは、一緒にやってきた俺のたくさんの女友達。
「こんにちは〜♪」
笑顔で手を振って挨拶するのは、さっき知り合ったばかりの神藤さん。

「・・・・・・・・。」
華枝は戸惑いながら、弱々しく手を上げるだけだった。
「あらら・・・。本当人見知りね・・・。」
ガクッとうなだれる神藤さん。
・・・本当に華枝の友達なのか?

「・・・本当にあの子の友達なの?知らない風だけど?」
豊桜さんも同じ感想を抱いたのか、俺の考えてることをそのまま尋ねる。
「ほ、本当よ!でもなんていうか・・・特殊な事情が・・・・。」
「怪しいわねぇ・・・・。」



「ああ、こほん。俺の友達だよ。みんな、お前と神歌ちゃんを見舞いに・・・。」
・・・・・・・・・・?
あれ?

ここで、この病室に一人しかいないことに気がつく。
「神歌ちゃんは?」

「あ、うん。今検査受けに行ってるの。なんか、おなかの火傷の検査とかって・・・。」
「火傷・・・・?」
昨日、彼女は火傷なんてしていただろうか?
・・・いや、直接見たわけじゃないからなんともいえないわけだけど。

「・・・ま、そういうことならいいや。華枝。はい。お見舞いのお土産だよ。」
そういって、ケーキのたくさん詰まった箱を差し出す。

「わあ・・・・・・・・・!」
まるで宝石箱を開けた時のように、ぱあっと顔がほころぶ華枝。
気に入ったみたいだ。
「食べていいの!?」

「ああ。」
「わぁ・・・!いただきまーす!」

はぐはぐ・・・。

嬉しそうにケーキにかぶりつく華枝。
「ほら。頬にクリームつけるなんて、なんてお約束な事をするんだお前は。」
俺はそれをひょいと取って、舌に含んだ。
「ゆっくり食べろよ。」
「うん!」

そういって、しばらく華枝を眺めていると・・・。

「・・・・・・・・・・・。」
後ろの視線が気になった。

「な、なんだよ。」
女性陣が半ばあきれた顔で、あるいは好奇心の目で俺を見ていた。
「・・・・本当にシスコンなんだね。雅菜から聞いてはいたけど。」
「はい・・・。ちょっと幻滅です・・・。」
クラスメイトにそう思われるのは、非常に痛い・・・!

「すばらしいまでの妹愛よね。まあ、アレだけかわいければ、分からないでもないけど。」
・・・意外と理解してくれる先輩。

「ケーキ、私も食べたいです・・・。えっと、華枝さん、もらっても良いですか?」
「あ・・・・。う、うん。いいよ。はい。」
「わぁ・・・!私、ケーキ大好きなんです!」
「ふぁ・・・。うん!私も・・大好き!」
・・・なんて、小さな友情物語が始まってる蛍ちゃんと華枝。

「なんか、全然違うなぁ・・・。」
そして、一人謎なことをぼそぼそと口に出す神藤さん。

「むむ・・・・。」
しかし、もしここで神歌ちゃんが戻ってきて。いつもの調子で抱きついてこられたら、さらに俺のイメージは・・・。


「ああ〜!!!!」


「!!」

・・・そうか。やはりそうなるのか。
その声に、みんなが病室の入り口に振り返る。

「来てくれたんですね!?」
ああ・・・。もう勝手にしてくれ。
さあ。俺はここだよ。

「列さぁ〜んっ♪」

神歌ちゃんッ!!!



ぎゅ〜っ!!

「嬉しいです嬉しいです嬉しいですッ!!朝一番で来てくれるなんて、神歌感激っ!!」
あうあう・・・・。
病人服姿の神歌ちゃんに抱きしめられて、またしても俺に嫌な目線が・・・。

「熱いわね・・・。」
「幻滅です。」
「やっぱり付き合ってるのね。」
「つ、付き合ってるんですね〜っ///」
「良く分からないけど、熱いね〜。」

「ああ、神歌ちゃんずるい!私もー!」

むぎゅ〜っ!!

「ぐええええ・・・・・。」
さらに華枝も増えて俺を締め上げる・・・!!
き、君達、いい加減に・・・・。

「おにぃちゃん♪」
「列さん♪」

ああ・・・・なんか・・・・。
遠い夕焼けの日を、思い出すなぁ・・・・。



・・・・・・・・・・。



「ごめんなさい・・。神歌、嬉しくって、つい・・・。」
やっとの思いで引き剥がし、ベッドに寝かせた神歌ちゃん。
「ま、いいけど・・・。あまり無茶しないでよ?神歌ちゃんはけが人なんだから。」
「はい、ごめんなさい・・・。」
しおしおと謝る神歌ちゃん。

「さあ、それはいいから、はい。これ。」
俺が差し出したのは、彼女の為に買ってきた向日葵の花束。
小さく育てた、プレゼント用の向日葵だ。

「わああああ・・・・!!列さん、これ、神歌の好きな花!」
「うん。神歌ちゃんが喜ぶと思って。」
「そんな・・・!来てくれただけでも嬉しいのに、こんなものまでもらっちゃって・・・!!」
「いいんだ。気にしないで。その向日葵の花みたいに、早く元気になってね。」
「はい!神歌、早くこんな怪我治して、また列さんのうちにお泊りに行きますから!」



「・・・・・・・・・・・・(/////!!!!!」

「・・・・?」
その神歌ちゃんの言葉に、一斉に顔を赤くして、目を背けるみんな。
どうしたんだ?
「列さん!神歌がんばって直します!・・・これ、ありがとうございました!」
「あ・・・・。あ、うん。早く良くなってね。」
「はい!」

「わあ・・・・きれいだね〜。神歌ちゃん、私が花瓶に入れてきてあげる。」
そう申し出たのは、なんと華枝だった。

「え?ううん。いいよ華枝。そんなの自分で・・・。」
その言葉に、ふるふると首を振る華枝。
「神歌ちゃんは足も怪我してるんだから、歩いたりしちゃ良くならないでしょ?・・・私も、早く神歌ちゃんに良くなって欲しいもん。」
神歌ちゃんに、にこっと笑顔を向ける。

「あ・・・・。うん。じゃ、お願い。華枝・・・。」
「うん!ちょっと、待っててね〜。」

ぱたぱたと病室を出て行く華枝。
・・・っていうか、こういうのは普通、見舞いに来た奴がやるべきなんだが。

「・・・・・・・・(////」
みんな顔を赤くしたままで、俺に顔を合わせようとしない。
なんだってんだ?


「あ、そういえば神歌ちゃん。今回の怪我、俺が二人から離れた所為だよね・・・。ごめん。」
ぐっと頭を下げる。
きのうから、ずっとこういおうと思い続けてきた。
二人の怪我は、俺が二人から目を離したからだ。
だから、謝らずにはいられなかった。

「ううん。そんなことありません!神歌達が、ちょっと運がなかっただけです。」
「そうでなきゃ、あんな怪人とか、襲われるわけがないですから・・・・。」

「怪人!!!?」

その言葉に、俺だけではなく、顔を赤くしていたみんなが、一斉に反応する。

「神歌ちゃん・・・それに華枝も、怪人に襲われたって言うのか!?」
「は、はい・・・・。でも、その時はバイクに乗った男の人に助けてもらいました。」
「そ、それで、それでどうなったんだ!?」

「はい・・・。」
「神歌達がその怪人達から逃げ込んだビルに、その・・・ミサイルが、落ちてきて・・・・。」
「ミサイル!?」

・・・・なんていうか、怪人といい、ミサイルといい、嘘みたいな話だが・・・。
おれもまあ、似たような体験をしてきたからな・・・。

「華枝が残ってたのに、ミサイルが、落ちて・・・・!」
「ええええええええっ!!!?」

そんな、そんなバカな!?
だって華枝はさっきまであそこに、あんな元気に・・・・。
「でもそれを、仮面ライダーが、助けてくれたんですよ!」
「・・・・・・・・・・・・!!!!」



仮面・・・・・・・・・・ライダー。



嬉しそうに彼女は、その先を語った。
「すごいんですよ〜!」
「襲ってきた敵の仮面ライダーを、神歌を守りながら戦ってくれたんです!」
「たくさんお話もして、女の子みたいでしたけど、お友達みたいになれたんですよ!」
「正義の味方っていうから、どんな難しいこと考えてるのかって思ってたけど、本当、神歌とかと変わらなくって、でも、すごく強くて・・・・。」
「神歌、あの人のファンになっちゃいました!今もどこかで、悪と戦ってるんだろうなぁ〜・・・。」



・・・・二人を守ったのは、仮面ライダーだったのか。
仮面、ライダー・・・・。
俺に出来ないことを、やってのける。
常人を超えた力、仮面ライダー・・・・・・・・・・。


・・・・なんだか、よく分からない。
よく分からない感情の渦が、俺の中でうなりをあげる。


(でもまあ、無理もないわよね〜。あんた普通の人でしょ?そんな奴が私達の周り、うろうろしないで欲しいわけよね〜。)
(それで草加さんは怪我したみたいだし、いい迷惑よね〜。)
(ま、あんたはおとなしく、家に隠れてこの事態が収拾するのを見てるのね。私達もそのほうが都合がいいしね。)

ぐううっ、くっ・・・・!!!!

昨日のあの女の子の言葉が蘇る。
雅菜の仲間、仮面ライダー達。

普通の人間にはどうしようもない敵と戦う、仮面ライダー。
俺の大切な人たちを、守ると誓った二人を、実際に救ったのも仮面ライダー。



(よか・・・・・・・った・・・・・・列が・・・・・・無事・・・・・・・・で・・・・・・・・・・)


そして・・・・。俺が傷つけたのも・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!





ガタンッ!!

「・・・・へ!?」

話の途中でいきなり立ち上がった俺に、みんなが、神歌ちゃんも驚く。

「ごめん。やっぱり俺・・・。雅菜には会わない。」

「・・・え?」
突然の言葉に、理解が追いつかない豊桜さんと志熊さん。
「彼女には・・・・俺なんていないほうがいい!!!」


ガラララッ!!!


俺は乱暴にドアを開けると、病室の外に飛び出した!!

「れ、列さんッ!!?」

神歌ちゃんの声も聞かず、そして廊下ですれ違った華枝にも目をくれず、俺は病院を飛び出した。

もういられない。
もういられない。
普通の人間である俺には、もうどうしようもない。

これからも過酷な戦いに向き合っていくだろう彼女に、俺なんて必要ない。
いても邪魔なだけに決まってる!



・・・わかってる。
俺が、ただ『仮面ライダー』に嫉妬してるだけだということ。
俺に出来ないことをしてのけるそれに、俺はどうしようもなく妬んでいるんだ。

だからって、俺にはやっぱりどうしようもない。
俺には華枝を、神歌ちゃんを守る力さえない。

・・・・・もう、何をすればいいのか分からない。
誰か教えてくれ。
俺にはわからないんだよ。




「俺は・・・・どうすればいいんだよ・・・・!!!!!」





第五章 第七話 襲撃者達(イシス様作者)



レンナ、ノア、イクス、そして一菜を加えた一行は、街へと繰り出していた。
目的はあるのだが、ノアはまだそれを話していない。

「・・・・ねぇ、そろそろ何処に行くのか教えてよ。」

レンナが明らかな不平な声色でノアに尋ねる。
これ以上の引き伸ばしは士気に影響すると感じたノアは、遂にその目的を話した。

「行くというより、探してるって言う方が正しいかな。」
「・・・・どういう事?」


「率直に言うね。セルファを倒すために、セイバーの協力を仰ごうと思ってるの。」


「「!!?」」

二人にとってあまりにも予想外の回答に、ただ驚くばかりであった。
すぐさま反論に出たのは一菜だった。

「ちょっと!セイバーは私達に何度も襲い掛かってきた、言わば敵だよ!?」
「・・・・だから?」
「だからって・・・・・!」

ノアは大げさに溜息を出し、キッと一菜達を睨みつける。

「いい?今度の敵はあまりにも強大なの。四の五の言ってる場合?」
「だけど、セイバーってそのセルファとかいう人の部下なんでしょ?
 協力なんて・・・・・」


「もはや俺は奴の部下ではない。」


その声に弾かれるように、一菜とレンナは戦闘体勢に入り、
ノアは気づいていたのか、ただ視線をセイバーに移すだけだった。

「なにしに来たの・・・・・」
「セルファを倒すらしいな。その目的だけは俺も一緒だ。協力してやる。」
「な、何を勝手に・・・・・!!」
「いいわ。こちらからもお願いするわ。」

一方的に話を進めるノアに、レンナも一菜も不平を募らせるだけだった。
それを知ってか知らずか、ノアはレンナ達に問うた。

「じゃあ、聞くけど。私達だけでセルファを倒せると本気で思ってるの?
 敵はセルファと三人の仮面ライダー、そして大量のライダー失敗作がいるのよ?」
「それは・・・・・」
「その・・・・・」

話だけでも、セルファというのが一筋縄でいくような相手ではない。
それを理解した二人は、ただ押し黙るしかなかった。

「安心しなさい。今回はセイバーも加わってくれるんだし、戦いがグッと楽になるわ。」
「今や奴は俺にとってただの障害に過ぎぬ。我が剣の錆にしてくれる。」
「そうよ。それでこそ私の最強の剣だわ。」



空気が凍りついた。
レンナ達は何者かと、セイバーはなぜここにいるのかと問いたかった。
そこにいたのは、長い黒髪の少女。そして、セイバーの主君だった。



「サラ様っ!!?なぜここにおられるのですかっ!!?」
「別に。ただ暇だから来ただけ。」
「・・・・・今すぐ隠れ家にお戻り下さい。」
「ヤダ。」




「お も ど り く だ さ い !!」
「い や だ !!」




急に口論を始める二人を、レンナと一菜はおろおろと、ノアは興味なさそうに見ていた。
さらに、レンナと一菜は何かひそひそ話をしていた。


(ねぇ、あのサラって女の子・・・・・)
(セイバーは様付けしてるけど・・・・・ロリコン?)
(うわ〜・・・・・)


二人の目は、何か痛い物を見る目だった。
いい加減聞き飽きたのか、ノアが二人の口論に割って入る。

「いいじゃない、連れてけば。」
「わーい!わーい!」
「な・・・・・!!貴様、サラ様を危険の渦中に入れるつもりかっ!!?」
「隠れ家に残して、そこがバレて、彼女が危険な目に遭ったらどうするのよ?
 それだったらアンタが護ればいいでしょ?」
「むぐ・・・・・」

反論の機会を失ったセイバーは、ただ頭を抱えるだけだった。
やがて決心したのか、専用マシン『スラッシュ』を呼び寄せた。

「・・・・・せめてスラッシュの中にいて下さい。それが最大限の譲歩です。」
「うん。分かった。」

意外にも、サラはあっさりとセイバーの提案を受け入れた。
さすがにセイバーの主君だけあり、受け入れるべき点は把握しているようだ。
セイバーは心労から来る溜息を大げさに吐き、少しでも気を紛らわそうとした。



「話は済んだ?じゃあ行くわよ。
 ・・・・・ほら、そこの貧乳二人もぼさっとしない。」
「ひ・・・・・」
「ひんにゅう・・・・・!!」

二人にとって最も爆弾的なタブーに容赦なくノアは触れた。
当然、二人とも血相変えて捲くし立てる。

「貧乳なんて、これからの戦いには関係ないじゃないか!!」
「そうよ!!第一、貴女だっ・・・・・・て・・・・・・・・・・」

そこまで言って、二人は口の動きを止めた。


ノアを見ると、明らかに二人とは違う胸の膨らみがあった。
女の子としてはいい感じの大きさだ。

「なに?アンタ達その歳でぺったんこなの?うわ〜・・・かわいそう・・・・・」
「「同情するなーーーーーっ!!」」

二人は血の涙が出そうになった。
それでもなお、ノアは攻勢に出る。

「今でこそ機械の体だから結構大きめに作ったけど、私が人間の体のままなら将来有望だって槍使いは言ってたわ。」
「「むぐ・・・・・・」」

歩く女の子測定器の名を出されては、二人とも反撃の余地もない。

「あ、でもレンナは四年たったら少しは大きくなるって、槍使いが言ってたっけ。」
「え!!?ホント!!?」

レンナの顔に一筋の光明が差したが、すぐ後ろの殺気に顔色が青くなった。
そこには、恨めしそうな目の一菜がいた。

「レンナ・・・・ルラギッタねっ!!??」
「ち、違うよ一菜!!僕は別に・・・・・」

必死に言い繕うも、一菜は殺意の目を止めようとはしない。
そんな二人を無視して、ノアはセイバーに話しかける。

「じゃあ、セルファの下まで案内お願いね。」
「よし。」

『WARPVENT』

インティ・ファルシオンの鞘にカードを差込み、異空間へと繋がる穴が出現する。
その中に躊躇なく入っていくノア、イクス、セイバー。
やや遅れてレンナが後に続き、ぶつぶつと何かを呟いている一菜が最後に入り、
その穴は閉じられた。





繋がっていた先は、とても広大な施設だった。
大きさだけでも街一つ分ぐらいはあろうかというほどの場所、
立ち並ぶ建物は全て何かの研究棟だった。

そこは今でも活動を止めてはいないのか、明かりが絶えることはなく、
そこかしこにはライダーの失敗作と思われる者達が警護に当たっていた。

「思ってたよりもすごいわね・・・・・」
「どうするの?僕達だけで本当に大丈夫?」
「任せなさい、ちゃんと計画があるから。・・・・銃使い!!」
「了解しました。」

イクスが立ち上がり、虚空を見上げその腕を掲げた。



「ガンヴァルオス、フレームオン。」



イクスの号令を受けたコアフレームに、どこからか飛来した様々な装甲が装着されていく。
最初は4m程の大きさだったが、今や10m以上の巨大兵器に変わっていた。
コクピットが開き、そこに乗り込むイクス。

「おい。昨日はモーサドゥーグ相手に歯が立たなかった物が、役に立つのか?」
「心配ご無用。今回はパワーアップしてるわ。」



ガンヴァルオスの能力はイクスの精神エネルギーに左右される。
そのため、洗脳状態の彼女では性能を十分に引き出せないと理解したノアは対策を打ち出した。

それは各フレームに小型のジェネレーターを搭載する事だった。
コアフレームから送られて来るイクスの精神エネルギーを増幅するために、それはあった。
エネルギーを受け取ったジェネレーターは、そこからさらにエネルギーを作り出し各部位に送る。

本来の性能程ではないが、以前よりもさらなる性能アップが見込めた。



「アタック、スタート。」


イクスが操縦桿を握り、すぐさま攻撃に移った。
ガンヴァルオスの脚部に搭載されたミサイルポッドから大量のミサイルが放出される。
ミサイルは飴霰のように研究施設に降り注ぎ、辺りを業火で埋め尽くした。

敵を認識した失敗作達が、一斉にガンヴァルオス目掛けて攻撃を開始しだす。


「ちょっと!!こんな事してどうすんのさ!!?」
「銃使いは囮よ。失敗作共がガンヴァルオスに夢中になってる隙に、私達はセルファを叩く!!」
「なるほど・・・・いい作戦だ。」


ある者は剣を、ある者は弓矢を、斧を、槍を、銃を。
様々な武器や防具を身に着けたライダーの紛い物達がガンヴァルオスに立ち向かって行く。
それらを踏み潰し、撃ち砕き、粉々にしていくガンヴァルオス。
それ以上の物量をもって襲うライダー失敗作。


「さぁ、私達もモタモタしてられないわ。行くわよ!!」

ノアの号令と共に、一向は研究施設の中枢へと駆け出して行く。
倒すべき敵はただ一人、狂気の科学者Dr.セルファ。










その頃、時雨養護施設ではカシスが頻りにデータを読み漁っていた。
それは過去の何かしらの記録であった。

「・・・・あった・・・・これだ!!」

カシスが探していたのはエスカリアに関する記録だったが、
残念ながらそれを見つけることは出来なかった。
その代わり、彼に最も関わりのある人物の記録を発見した。

「これだ・・・・“アリアス家一家殺人事件”。この時の被害者の一人が・・・・
 間違いない、“ニナ アリアス”!!」



事件の内容は、いたって単純な物だった。
ごく普通の家族のアリアス家は通り魔的な犯行により、一家全員が殺害との事である。
その被害者の一人がアリアス家の三女、現在エスカリアのメイドたる少女ニナだった。



「だけど、死人が蘇るなんてそんな・・・・・・・・・・」

そこまで言って、彼は気づいた。



いた。あまりにも身近で気づかなかったが、いるではないか。
死後、蘇った後も普通の人間と同じように暮らしている者達を。



「オルフェノク・・・・・・・・・」

さらに彼の考えは加速していく。
草加 雅菜は確か、オルフェノクに襲われたとの事だった。
時間はエスカリア達がここを出た後、つまり犯人は絞るまでもなく・・・・・


「大変だ・・・・・・・・・・」


正体は不明だが、エスカリアは雅菜を襲ったオルフェノクの主人という事になる。
そんな奴が平然と、今日も此処に来る事となっている。
急いで姉を連れて此処から逃げねば・・・・・





「ふーん・・・アンタさぁ、この女調べて何知りたいのさ?」
「!!?」



すると、いきなり横から声が掛かった。
何時の間に?どこから?何者だ?
疑問が一瞬にしてカシスの頭を支配し、次に頭に残ったのはこの少年に対する未知の恐怖だった。

「まだこんなデータ残ってたんだ。魔術師殿も意外と抜けてるな〜。」
「魔術師・・・・?それはエスカリアの事か?」
「はは・・・アンタ物分りいいね。けどさ、今さら気づいても手遅れっつーの。」

その少年の声を合図にして、施設内から悲鳴が上がった。
カシスは最悪の事態を考え付いてしまった。

「姉さんっ!!?」
「まだ死んでねぇっつーの。あの女は志熊 京誘い出すための餌なわけ。
 ・・・・もちろん、アンタもな。」
「冗談。俺は大人しく捕まるつもりはねぇっ!!」

少年の無防備な鳩尾にカシスは肘鉄を叩き込む。
たっぷりと体重を乗せた一撃は少年の体を丸めさせる。
続いて、頭を掴みそのまま顔面に膝を喰らわせる。膝は的確に顎を捉え脳を揺らした。

カシスのよもやの反撃に対応出来なかった少年はそのまま仰向けに倒れてしまった。
ピクリとも動かない少年を無視し、カシスは部屋を出た。





部屋を出た先は地獄だった。
多くの研究員達が大量のオルフェノクに襲撃されていたのだ。

「くっ・・・・・・・」

あまりの残酷さに思わず目を背けてしまう。
オルフェノク達はカシスに気づいたようだ。ゆっくりとした動作で彼を捕らえようとする。

「捕まってたまるか!!」

俊敏な動きを見せ、巧みにオルフェノク達の魔手を掻い潜っていく。
通路の先には、オルフェノクに捕らわれ、連行されそうなキールがいた。

「姉さん!!どけ、てめぇらっ!!」

オルフェノクに体当たりを決め、キールとの間に割って入る。
キールはカシスが現れた事に驚きを隠せないでいた。

「カシス!?どうして・・・・・」
「話は後だ!!とにかく今は・・・・・・・・・」

カシスが言い終わる前に、彼の体は何者かに首根っこを捕まれ頭上高々と持ち上げられた。
苦しげに相手を見やると、それは先程彼が倒したはずの少年だった。

「な・・・・ぐ・・・・か・・・・・・・・・」
「アンタ、マジやるわ。ただの人間だと思って侮るんじゃなかったわ。」
「カシスっ!!」
「安心しろっての。まだ殺さねぇっつーの。」

少年の姿が変わっていく。


全身は白の体表、姿形はカリスに近い。
しかし、前頭部にはビートルアンデッドの物と思われる角が、足頭部にはスタッグビートルアンデッドの物らしき二本角が。
後頭部にはスパイダーアンデッドの物と思われる爪が。

体つきはどちらかと言えばビートルアンデッドの様にガッシリとしている。
そして、左腕はスパイダーアンデッドの物だった。



『アンタ達は魔術師殿が用意する最高の生贄。せいぜい役に立てっての。』

力任せにカシスを放り投げ、その体をオルフェノク達が取り押さえる。
咳き込むカシスを今にも泣き出しそうな表情でキールは見る。




そして、オルフェノク達の群れを、まるで王が通るが如く割いてやって来たのは、
この襲撃の黒幕、紳士の仮面を被った悪魔・・・・・・

「え・・・エスカリア!!」
「はは・・・・年上相手に呼び捨てもどうかと思うが、ふむ。
 正体が分かってはどうしようもないか。」
『魔術師殿さー、もっと情報管理は徹底しろっての。』

まるで、日常会話の様な気楽さで会話するこの二人。
その中で、キールは少年がエスカリアを魔術師と呼んだことに引っ掛かった。

「魔術師・・・・まさか・・・・・騎士団!?」
「正解でございます、キール博士。改めて自己紹介を・・・・・
 騎士団兵器開発部門担当、魔術師。此方が私の造ったトライアル、ロストです。」
『ま、騎士団じゃ戦闘狂って名前だけどさ。』

騎士団の襲撃、確かに前回も学園で堂々と戦闘を繰り広げた。
だが、まさかこんな大胆に襲撃してくるとは・・・・・・

「今回は志熊 京を完全に抹殺するため、こうしてお邪魔させて頂きました。」
「テメェッ!!」

カシスが強引にオルフェノクを振り払い、魔術師目掛け一直線に駆け出し、
その拳を当てようとして・・・・・・


『はい、残念。』


ロストという名のトライアルに阻まれた。
ロストはカシスの腕を掴んだまま、軽々と持ち上げる。

「く・・・・ちくしょう・・・・・・」
「血気盛んなのはいい事だが、もう少し状況を読み取る事だ。
 もし君が私に一太刀浴びせるとして、そうすれば大切な姉君はどうなるか・・・・・」

驚いて視線を移すと、そこにはオルフェノクに囲まれたキールが。
これでは抵抗する事は許されない。



「姉さん・・・・」





第五章 第八話 殺戮者(岡島様作者)



SB社病院施設のロビーに、一人の少女がいる。髪型は俗に言うおかっぱ頭で
目つきは鋭く怖い。そして、何故か黒いセーラー服を身に纏っている。
少女は携帯電話で何処かに連絡を取っている。

「取り合えず、異常は無いが。この病院は、でかい。正直に言うが。一人じゃつらい」

電話の相手は、当麻詩姫だった。彼女は今、ボード学園にいる

「そう、じゃ私もそっちに向かうわ。こっちは異常はないし、今日は何も起きないと思う」
「そうか、それよりアイツはまだか」
「まだこっちに向かっている途中みたい。着いたらそっちに行くように連絡を入れておく」
「わかった。それじゃ、また見回りに行ってくる」

そう言うと彼女は電話を切った。
この少女の名は武藤初音(むとう はつね)、Gのエージェントの一人である
ちなみに、ビジネスホテルで詩姫と一緒にいたのも彼女だ。
初音がロビーを立ち去った後、病院に、あの包帯姿の少女がやってきた。
そして、病院内に消えていく。

そして、病院に蒼崎志保が駆け込んできた。ちなみに彼女はここに来るまで
かなり道に迷っている。
そして志保は自分の腕時計を見ると

「ぎりぎりか・・・・・」

病院のとある階の廊下に包帯姿の少女がいた。彼女は懐中時計で時間を見ている
「時間だ」
そう言うと彼女は、時計をポケット閉まった。
そして、彼女の体に変化が起きた。黒目が灰色に変わり、そして包帯からはみ出ている
髪の毛も灰色に変わる。

「ちょっと・・・・・・・・」

彼女は廊下にいた看護士を呼び止める。そして
次の瞬間、周りにいた人間が何が起こったのかわからなかった
看護士は廊下に倒れ、床に血が流れ出る。そして少女の手は血で赤く染まる

「ゲームの始まりよ・・・・・・・・・・」

廊下にいた一人の患者が悲鳴を上げる。そして、廊下にいた人々は一斉に逃げだす

「逃がさない。まずは医師、看護士、そして患者は最後だ」

突然の事態に病院内は騒然となった。そして、志保も初音も更に病室にいる面々もこの騒ぎに気付く。
そして少女にいる階は地獄絵さながらだった。多くの人々が血を流して倒れていた。
でもまだ死んではいない。彼女は人々に致命傷を与えず、じわじわと殺そうとしているのだ。
そして少女のいる階にやって来るものがいた。仮面ライダーフェイトである

「少し遅かったわね、蒼・・・いや今はフェイトか」
「黒招霧恵(こくしょう きりえ)いやヒューマンオルフェノク、やはり生きていたのか」
「あまり良い状態じゃないけどね、貴方の所為で、能力の大半はつかえなし、それに」
包帯巻きの左手を見せながら、
「この左手の傷も、顔につけられた傷も治っていない」
「ならば、今度こそお前を葬る」
「出来るかしらね。私は新しい力を得ているわよ」
「新しい力・・・・・・・・」

霧恵の両手に双剣が出現する。ちなみにこれは新しい力ではない
そしてフェイトの手にはアベンジャーが出現する。

「始めましょうか。早くしないとここにいる人々はみんな死ぬわよ」

フェイトはアベンジャーを構え、そして
「うぉぉぉぉぉ!」
霧恵の方へ向かっていく、そして二人の双剣が交差した





第五章 第九話 走る、激戦、迷う(ウェイド作者)



一台のバイクが病院に向かっている・・・殺戮の場となりそうな病院に

水美「何で私が、お見舞いなのよ」
ウォーガ『博士が急用があり出れないのだ・・仕方が無かろう』
水美「そりゃそうだけど・・・・・」
ウォーガ『それに、雅菜様へ博士からのプレゼントをわたさなければならんし』
水美が片手で持っている箱、大きさはよくおまんじゅうが12個入っている大きさだ
水美「わかりました・・いけばいいんでしょ!?」
ウォーガ『なぜ怒るのか・・・・・』

・・なお、ウォーガが操作しているので事故は起きない・・・・。
そして、二人が向かったことで病院の助っ人となることを二人は知らない・・・・と言うか知りたくないだろう・・・・。

一方、セルファの研究所

ガンヴァルオスのフレームの起動モータが焼が切れた為(なお、ノアは計算に入れていたが予想以上に敵が多かった)、コアフレームとイクスに分かれて戦闘を行なっている二人・・と言うか一人と一機

イクスのほうではデルタマシンガン・カスタムがだい活躍である。

イクス「・・・ロックオン、ファイヤ」

バルルルルルッ!!

幾千もの銃弾が失敗作を貫く

一方ガンヴァルオスは。

ガンヴァルオス『ツインバルカン』

牽制程度の攻撃しか出来ない・・・やはり、このままでは戦えないのか?

しかも、徐々に増える敵・・・このままではやられる?

ガンヴァルオス『敵反応さらに増大・・数・・・500』

もはや・・・自分たちが1に対して敵は9である。

絶体絶命のピンチ・・・、そもそもなぜフレームのモーターが焼ききれた?
それはわからない・・・・。

なお、レンナたちは・・・。

レンナ「・・・・・・・はぐれた・・・・」

セイバーは道を完璧に知っているから音速を超えた走りで、いってしまった・・・。
なお、ノアはもう呆れている。
一菜はなおも恨みを持っているような目でレンナを見つめている。
ラグナロクは戦闘のときも『弱い奴だけしか居ないのだから・・いなくてもいいだろう』と言う始末。
耐えにかねて・・・・。

レンナ「あの・・あのくそ馬鹿セイバァァァァァァァ!!!!!!」

叫んで見たけどその剣は戻ってこない・・・あぁ・・・空しい。

なお、それに同情したのか知らないが、出てくる敵はいるが少ないし、弱い奴だった。

・・・少し同情されたくない相手に同情されたことを二人は知らない。





第五章 十話 悪魔の騎士達(斬影刃様作者)



「ちょっと風瀬くん!!」

秋奈は、病室から勢い良く走り去って行った列を見て、慌てて追いかけに行った。

「…一体何がなにやら……?」

そして、それを見ていた神歌達は呆然と立ち尽くし、和子は首を傾げていた。




丁度その頃、同じ病院で戦っていたフェイトと霧恵との戦いは正に互角で、こう着状態が続いていた。

ドガシャァッ!!
「「!!?」」

その時、突如病院の壁を壊し何者かが乱入してきた。
突然の事に、二人は剣の打ち合いを止め、その方へ向く。

「……おい、フェイトとヒューマンオルフェノクはお前等で合ってんのか?」
「捕獲対象の二名…確認…。」

そこに居たのは、紅蓮の外装を持ち背には蜘蛛の足ような物がついた異形…アザゼルと、深緑の装甲に透明な羽を生やした異形…アラストールが立っていた。

「…そうだと言ったら?」
「ん、ああ、うちの参謀の命令で捕獲しろって言われてるんだ。ああ、抵抗しても良いぜ、その方が楽しいからな♪」
「捕獲対象…抵抗確立100%…行動不能にして捕獲…。」
そう言ってアザゼルとアラストールはフェイトと霧恵目掛けて突撃してくる。




そして、更に同時刻の陣のマンションでは、

「…………暇だ…………。」

物凄く不機嫌そうな顔をした陣が別途で寝転んでいた。
実の所、彼にはこれと言った趣味が無い。いや、読書と言う趣味は持っているのだが、家にある本はすべて読んで暗記してしまった為、もう読む意味が無いのである。

「……本気で暇だ……。」




更にその頃、デモンナイトの拠点では、メフィストとハデスが培養液の中に入っている生命体を見ていた。

「……この子…もうすぐ起きるの?」
「ええ、起きますよ。」

ハデスが首を傾げていうと、メフィストは楽しそうに頷き答える。
そして、それと同時に中に入っていた生命体の六つの目が紅く光る。

「お目覚めのところ、大変失礼ですが…仕事です。ファントムを捕獲しに行ってください。ビーストverVタイプスパイダー“バイス”。」





第五章 第十一話 ”仮面ライダー”・・・彼女の場合(空豆兄様作者)





「ふにゃ・・・。」

病室のドアから、力のない声。
「あ・・・華枝。」
そこには、ひまわりを生けた花瓶を持った女の子。
この病室の主の一人、風瀬 華枝。

「おにぃちゃん、なんだかすごい勢いで出ていっちゃった。」
そういいながら、その親友、そしてもう一人の病室の主、英琉 神歌のベッドの隣に花瓶を置く。
「なにか、あったの?」

華枝の問いに、沈んだ表情になる志熊 京と豊桜 冥。
ともに、列のクラスメイトなのだが・・・。
「複雑ね。男の子ってさ。」

その二人を見て言うのは、冥の友人の神藤 和子。
「守りたいとか、自分には何も出来ないとかって、そんなに悩むことなのかなぁ・・・?」
・・・彼女には、少々人の心が読めるという能力があった。
誰に言うでもなく、なんとなく彼女はそうつぶやいた。

「列、さん・・・・。」
そう口に出す神歌。
彼女からすれば、自分と話をしているときに彼が飛び出していったのだ。
なにか気に入らないことがあったのではと、彼女は気が気ではなかった・・・。



・・・・・・・。



「あ・・・。」
目が覚めたとき、草加 雅菜はその頬に流れた涙の跡に気がつく。
「私・・・。泣いていたのか。」

「お目覚めのようですね。」
「!」

ベッドの横に、その少女はいた。
この年齢にして、この病院、そして世界有数の企業、スマートブレイン社の社長・・・木場 夕菜。

「木場・・・。」
「悲しい夢を見ていたようですね・・・。」
「・・・ああ。どうもそうらしい。あまり覚えはないけどね。」
目をこしこしとこする雅菜。

「私がここにいるのは他でもありません。あの貴女のクラスメイト、風瀬 列さんについてです。」
「!!」
その名前に、びくりと体を震わせる雅菜。

「あなたが彼を助けるために、その正体を明かしたと聞きました。」
「あ、うん・・・。」
「雅菜、あなたはこれ以上、彼に関わらないほうがいいでしょう。」

「え・・・・なんでよ!」
「それが彼のためだからですよ。」
雅菜の声を荒げた問いにも、冷静に即答する夕菜。

「いいですか?彼は私達とは違う。私達と違い、普通の日常を生きているんです。」
「それが貴女が関わることで、昨日のようなことを呼び込むのであれば、互いの為に良くない・・・。そういうことです。」

昨日のような・・・。
雅菜とともにいることで、列はオルフェノクに命を狙われ、雅菜はそれを守るために今のような負傷を追った。
「・・・・・・・・・。」

「雅菜。何も彼と二度と会うなといっているのではありません。でも、彼とは一定の距離を・・・・。」
「・・・・わたしが!」
木場の言葉をさえぎるように、雅菜は声を絞り出す。

「列と・・・・これからも一緒にいたいって思うことは、いけない・・・ことなのか?」

「あなたが、彼のことを思うなら、私はそうすべきだと思います。」
「互いに相手の私的な領域に、心に踏み込まず、一定の距離を保って。」

「私達と、彼のような人は、住む世界が違うんです。」

あまりに正しい、現実を見据えた木場の言葉。
それは一つ一つが雅菜の心に刻まれ、その現実の重さを感じずにはいられない。

「わたし・・・わたしがこれからも列を守る。それでいいだろう?!」

その提案にも、木場は首を振る。
「それは、彼にあなた自身を押し付けることなんですよ?」
「う・・・・。」

確かにそうだ。
これからも今まで以上の付き合いをしていくのであれば、仮面ライダーの関係者というだけで、列はその命を狙われるかもしれない。
それを守っていくということは、列が望む望まないに関わらず、雅菜は常に彼についていなければならない。

言い方は悪いが、それは雅菜の都合だけの「恩の押し売り」・・・。

「雅菜。彼にとってあなたという存在は、それほど重要な存在なのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

その言葉に、彼女はまた黙ってしまう。
彼にとっての大切な存在。
彼のそばにいつもいて、いつも彼を見ていた雅菜には、それが何なのかは容易に想像がつく。


そして・・・それは自分ではないということも。

「カイズィーのベルトは私達に任せて、あなたは傷の治療と、心の整理をしておいてください。」
「何が互いのためなのか、よく考えて・・・。」

「貴女は、仮面ライダーカイズィーなんです。」
木場はそういい残すと、病室から出て行った。


・・・・・・・。

「私は、仮面ライダー・・・・。」
「でも、でも私はそれ以前に。」

「一人の女の子じゃ、なかったのか・・・。」








・・・それからしばらくして。
このSB社の病院内で、仮面ライダーと異形のモノ達の戦闘は始まったのである・・・!





第五章 第十二話 道化は己を嘲笑う(イシス様作者)



何も考えたくない。
周りの音すらもうっとうしく感じる。

自分の中の得体の知れない感情が渦を巻き、彼の胸を締めつける。

こんな場所には一秒だって長く居たくない。
だけど、もう一歩も動けない。



彼は、風瀬 列は一人何をするでもなく、ただ近場の公園のベンチに腰掛けていた。








「・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺が傷つけた。
あそこに俺がいなければ、俺が雅菜を連れ出したりしなければ、こんな事にはならなかった。
雅菜は俺を守るために怪人と戦い、俺を庇って傷つき・・・・・・

全部俺の所為だ!
俺が彼女をあんな目に遭わせたんだ!
どうやって彼女に会えばいい?どうすれば許してもらえる?


・・・・・いや、何をやっても無駄だ。
だって、彼女は仮面ライダーだから・・・・・・俺の様な普通の人間じゃないんだから・・・・・
普通の人間の俺が何を言ったって、生ぬるい言葉に成り下がるだけだ・・・・・



ふと、目の前に誰かが立っているのを感じた。
誰だろうな・・・・・・
まるで鉛が入ったように重く感じる頭を上げ、目の前の人物を見ると・・・・・


「よ!久しぶりだな、列。」
「や・・・・八代・・・・・・・・・・」

クラスメートの一人がそこにいた。
八代は笑顔で俺に挨拶をしてきたけど、今の俺はそんな気分にはなれない。
暗い影を落とし、また俯いてしまった。

「???どうしたんだ、元気ないな。」
「あ・・・・まぁ・・・・な・・・・・・」

せっかくクラスメートが心配してくれてるっていうのに、曖昧な返事を返す事しかできないなんて・・・・・
どこまで情けないんだろうな、俺・・・・・・・・・

「・・・・隣、いいか?」
「・・・・あぁ・・・・・」

八代は俺の隣に腰掛け、何を言うでもなく、ただ座っているだけだった。
・・・・・ただ黙っているだけなのも悪い気がするな。

「なぁ、何で八代がここに・・・・?」
「なんでって・・・・草加さんのお見舞いだよ。志熊さんや豊桜さんに頼まれてさ。
 お前もそのつもりなんだろ?」
「!!!」


雅菜。
その名前を聞いただけで、罪悪感という名のナイフが俺の胸に深く刺さった様に思える。

俺は、雅菜と会う事を拒絶した。
あそこから逃げ出したんだ。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・何かあったのか?」

八代が心配してくれるのは素直に嬉しい。
でも、とても言えない・・・・・


雅菜が仮面ライダーだなんて、俺の所為で傷ついてしまったなんて・・・・・








(相当落ち込んでるみたいだな・・・・・・)

八代は列に何があったかは知らない。
だから、ここまで落ち込んでいる彼から事情を聞きだし、少しでも助けになれたらと思っていた。

(仕方ない。ちょっと力を使うか・・・・悪いな、列。)


彼の能力、人形操作。
それは対象が意思持たぬ物体や造られた物なら、一切の制限なく自由に操れるという物である。
やろうと思えば人間を対象にもできるが、複雑な思考を持っている人間を操る事は容易ではない。

しかし、今の列の様に精神的に弱っている者なら、操るまではいかなくとも話しをさせるように気持ちを傾けさせる事ならできる。


彼の様に様々な局面に対応できる仮面ライダーは、装備も特殊チューンされているため、
変身前の状態でもある程度能力を使う事ができる。



「・・・・その、誰にも言わないでくれるか・・・・?」
「・・・・あぁ。」

気づかれないように列を操作し、事情を話すように仕向ける事に成功させた。
そして、彼が列から聞き出した事情というのは、彼にとって驚くべきことだった・・・・・





「草加さんが仮面ライダー!!?」
「しー!声が大きいって!!」
「あ・・・・悪ぃ・・・・・・」

これは知っていた事なので、わざと驚いただけである。

「雅菜は・・・・俺の所為で怪我したんだ・・・・」
「お前の所為・・・・?どういう事だよ・・・・・」

八代の頭の中に、不吉な考えが過ぎる。
そうあって欲しくない予感が、言って欲しくない言葉が、列の口から出た。



「雅菜は・・・・俺を怪人から庇って、傷ついたんだ!!」
「!!!」



おかしいと思っていた。
いくら上級オルフェノクの弓使いとはいえ、単純に戦ったらカイズィーに勝てるはずがない。
にも拘らず、弓使いは勝利を収め、その手にカイズィーギアを得た。

考えればなんて事はない。
誰か人質にとってその隙に奪ったというのだから。
しかし、その人質というのが列だとまではさすがの彼も予想できなかった。


(すまない、列、草加さん・・・・・・・)

知らず、八代は握り拳を固く作っていた。
さらに、列の独白は続く。

「俺は雅菜には会わない。・・・だって、俺の所為で雅菜が傷ついたんだ。
 俺なんか・・・・いない方がいい・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」



こんな事なら聞くのではなかった。
列の秘密のままにさせて、関与しなければよかった。
そうすれば、こんなにも胸が痛む事はないのに・・・・・・・・・


しかし、八代は皮肉気に心の中で自嘲した。
所詮、自分は道化でしかないのに胸の痛みなど気にしてどうする。
自分の身近には、もっと苦しんでいる人がいるではないか。

そんな人を差し置いて自分だけ逃げる訳にはいかない。
なんとか彼を助けたい、どうにかして彼を日常に帰してやりたい。
八代は心の中で強く思い、そして、気づけば自然と言葉が出ていた。



「・・・・なぁ、列。お前、草加さんの事どう思う?」
「え・・・・・?」

最初、列は何を言われたのかよく分からなかった。
頭を掻きながら、八代は再度質問をする。

「言い方が悪かった。草加さんが仮面ライダーだって分かる前の事をどう思う?」
「どうって・・・・・」



学園一の天才、成績優秀で運動神経抜群。
スタイルも抜群で文句なし。

・・・・でも、それを含めても・・・・・・・・・・・



「普通の女の子と変わらないんじゃないのか?」
「・・・・・・!!」



言われて気づいた。
そう。少なくとも雅菜が仮面ライダーだって事を知る前の彼女は普通の女の子だった。
飾り気も偽りも一切ない。

「確かに草加さんは仮面ライダーで、俺達に出来ない事を平然とやってのけれる人かもしれない。
 けどな、少なくとも“仮面”を外している時は普通の人間だろ?」
「・・・・・・・・・・・」
「俺達の様な普通の人間には戦うなんて事は到底無理だ。でも、だからって何もできないなんて俺は思わないな。」

その時の八代の顔を列にはどの様に見えたのだろうか。
あるいは誇らしげに、あるいは悲しげに。なぜか八代は雅菜の苦しみを知っているのではと思えた。
温かな笑顔で彼は列の方に振り向いた。



「俺達にできる事は、彼女達の“日常”であり続ける事だと思う。
 決して特別視したりせず、対等に付き合っていく事が大事なんじゃないか?」



その言葉は列の胸に深く染み渡った。
同時に、こんな事を平然と言える友人を羨ましいと思った。
やがて、八代は照れながらまた頭を掻きだす。

「なーんて、ちょっと偉そ過ぎたかな?」
「いや、そんな事ないよ・・・・・」
「そうか?・・・まぁ、何にせよ草加さんとはちゃんと話し合った方がいいと思うぞ。
 結果がどうあれ、一度腹を割ってじっくりと話し合うべきだ。」
「・・・・・・・・そうだな。」

正直、躊躇いが無いと言えば嘘になる。
でも、彼の言うように一度ちゃんと話しておいた方がいいのかもしれない。
まだ足取りは重いけれど、それでも列は立ち上がる。

「・・・俺、雅菜に会いに行く。正直、まだどうしていいか分からないけど・・・・・」
「そっか。心配すんな、俺も着いていくよ。」

二人揃って歩き出す。
列の顔色はまだ優れないけれど、それでも先程までよりは明らかによくなっていた。





しばらく歩いていると、目の前に一人の少女が立っている事に気づいた。


不思議な少女だった。
メイド服を着た薄い銀髪の少女。そして、その腰にあったのは・・・・・

「え・・・・」

それは、雅菜が使い、怪人が奪っていったベルト。
しばらく列の思考が停止し、八代は驚愕の表情を浮かべていた。

少女の顔は激しい怒りに駆られた様であった。


「あ・・・・・」

なんで気づかなかったのか。
もし仮面ライダーと同じように、あの怪人にも人間の姿があったとしたら。
それが、今目の前にいる少女だとしたら・・・・・・・・・

「あ・・・・あぁ・・・・・・・」

体が震える。
おそらく目の前にいるのは昨日、自分を襲って雅菜を傷つけた怪物だろう。
何の躊躇いもなく、平然と人を襲い、あるいは殺せる怪物。それが再び目の前に。
恐怖が彼の体を支配していく。

それを見やりながら少女は無言で、殺意の視線を列に向け、携帯のコードを入力していく。

『9・1・3、Standing by』
『Complete』

少女の体を黄金のクロスラインが包み、その姿が変わった。
それは、雅菜や昨日の怪物が変身したのと同じ姿、仮面ライダーの姿だった。



「列!逃げるぞっ!!」
「え・・・・・」

八代の声で現実に帰ってきた。
次の瞬間には八代は列の腕を掴み、駆け出していた。

後を追おうとして、カイズィーの前に一体の小さな人形が立ち塞がる。
人形はカイズィーに振り向くと、爆発し、極光を放った。



視界を光に覆われ、収まった時には二人の姿はなかった。
怒りに拳を震わせながら、カイズィーはサイドバッシャーを呼び、それに乗る。

『Battle Mode』

サイドバッシャーはビークルモードから戦闘形態に変形し、凄まじい速さで二人の後を追い出した。





事実、今の弓使いは憤怒の化身であった。
それと言うのも、彼女の目的が“風瀬 列”の誘拐にあったからだ。
彼を連れ攫い、志熊 京の前に晒して彼女の仮面ライダーとしての正体を見せ付ける。

人質としての効果と彼女から日常を奪い去る効果があったからだ。
しかし、予定外な事に人形使いが彼の傍にいた。
しかも、人形使いは列に肩入れしている。これでは捕まえるのは容易ではない。


こうなったら方法はただ一つ。


人形使い共々、風瀬 列を殺し、その死体を志熊 京の前に晒す。
クラスメート二人の死なら、さすがのシグマも平静を繕う事など出来はしまい。

人形使いの死など任務中の“不慮の事故”で片付けてしまえばいい。
そうすれば、主も褒めてくれる。その想いだけを胸に、弓使いは殺戮の衝動に支配されていた。







後方から爆音が響いてくる。
振り向こうとして、八代から怒声が飛んだ。

「振り向くな!そんな暇があったら逃げる事に集中しろ!!」

列を連れ、八代はなるべく人気の少なく、それでいて入り組んだ道へと入って行く。
列には何がなんだか分からなかった。

「八代・・・・・?」
「少しでも複雑な、それで身を隠せる様な場所に逃げ続ける!
 どう逆立ちしたってアレには勝てねぇ!!」



確かに、人間とサイドバッシャーでは比べるまでもなく勝敗は明らかだ。
後方から響く音は移動の際のローラー音、そして光子バルカン砲の炸裂する音だった。
あれに撃ち抜かれたら、生身の人間の彼らなどただのグズグズの肉塊と成り果てるだろう。

「遠回りになるが、スマートブレイン社に逃げ込む!」
「なんで・・・・・」
「草加さんがSBの仮面ライダーなら、あそこにも他の仮面ライダーがいても不思議じゃない!
 誰でもいい、その仮面ライダーに助けてもらう!!」

危険な状況下においてもまるで冷静さを欠く事なく、むしろ今までそんな事ばかりだった様子の八代を、列は呆然と見ていた。



列には気づかれない様にしているが、弓使いの方には幻惑タイプの人形を使って進路を阻んでいる。
しかし、いつまで持つかは分からない。
弓使いがこちらに気づき、あっさりと追い詰められる前に、応援を要請しなければならない。
なにより、自分の初めての“普通”の友人、風瀬 列を殺させはしない。
確かな決意を胸に、人形使いはスマートブレインへと駆け出していった・・・・・・










雅菜の眠る病室。
彼女もまた、列と同じように思考をほとんど停止させ、横になっていた。

彼女の悩みもまた深い。
自分の正体を大切な、おそらく自分が最も心に思う人に明かしてしまった。
もはや、彼は自分の事を人としてなど見てはくれないだろう。

この後に学校で顔を合わせる事があろうとも、きっとその人は自分の事を畏怖の目で見る事となる。
それが何よりも辛く、またどうしようもない。





そんな折、病院内から悲鳴が上がった。
反射的に飛び起きるも、傷口に触り、蹲ってしまう。

「っ・・・・これは・・・・・・・・・・」


耳を澄ませば、聞こえてくるのは鋭利な物が何か軟らかい物を切り裂く音。
次は何かの飛沫、斬撃、破壊・・・・・考えるまでもなく、この病院内で戦闘がある事を証明する。


「列・・・・・!?」


もしかしたら彼もここに来ているかもしれない。
また危険な目に遭っているのかもしれない、助けにいかねば。そこまで考えて、彼女は動きを止めた。


今の彼女には変身のためのベルトがない。出て行った所でなんになる?
それに、彼はここにはいないかもしれない。だったら、何を悩む?
騒ぎは他のライダーに任せればよいではないか。そうすればいい。



俯いたまま、再び布団を被ろうとして、いきなり扉が開いた。
こんな状況で誰かが見舞いに来たのかと思ったが、相手は見知らぬ少女だった。


蒼い髪に凛々しい目つき、どこか人を思わせない雰囲気を漂わせる少女だった。
少女は表情を崩す事なく、静かに雅菜の下に歩み寄り、そして静かに尋ねた。

「草加 雅菜さんですね?」
「そうだけど・・・・貴女は・・・・・・・?」


「率直に申し上げます。私は騎士団直属のトライアル、アンジェ。コードネーム“癒し手”です。」
「!!?」


意外と言えば意外だった。
以前槍使いとやらが京を攫おうとやって来たのも急だったが、こんな状況下でもやって来るとは。
変身できないので、抵抗は無意味。それが分かっていて、雅菜は平静さを欠く事なくアンジェと名乗る少女に尋ねた。

「・・・・その騎士団のトライアルが、私に何の用?」
「戦うつもりはありません。私は主より伝言を授かり、それを貴女に伝えることが私の任務の一つです。」

あくまで淡々と、自分の成すべき事だけを語ろうとするこの少女に対し、雅菜は言いようのない悲しみを覚えた。
感情を押し込めているというより、それすらもないといった感じだ。


「伝言とは、貴女の友人の風瀬 列に関してです。現在、彼は騎士団のエージェント弓使いに命を狙われています。」
「え・・・・・・・・」



まるで、何かの悪夢の様であった。
列の命が狙われている?どうして?彼は戦いとは縁遠い人間なのに。



「弓使いは貴女から奪ったカイズィーギア、その力で彼の身柄を拘束しようとしています。
 至急応援に駆けつけねば、彼の安全は保障できません。」
「なによそれ・・・・そこまで分かってて、どうして助けようとしないの!!」

傷の痛みに構うことなく、雅菜は声を荒げた。
彼女の怒りすらも平然と受け流し、アンジェは淡々と語る。

「名目上、弓使いは任務として動いています。それを邪魔する権限は他の誰にもありません。」
「そんな・・・・・・・・・・・」


体から力が抜ける様であった。これでは、何の為に自分は彼を守ったのだ?
むざむざベルトを奪われ、その犯人が再び列の命を狙っている。
どうすればいい?どうすれば彼女を助けられる?





「そして、主は貴女の傷の治療をするよう、私を遣わしました。」
「え・・・・・・・・・・」


表情一つ変えずアンジェが呟いた言葉は、雅菜の体に何かの力を与えた。

「私達が弓使いの妨害工作をする事は出来ません。ただし、貴女がベルトを取り返す分には一向に構いません。」



つまり、このトライアルは自分の傷を治し、戦いに赴けと言っている。
行って、ベルトを取り返し、それでそうなる?
また列に自分の姿を、仮面ライダーとしての姿を見せるのか?
そうすれば、今度こそ彼は自分から離れていくだろう。しかし・・・・・・・



「後でどうなろうと、列が私の前からいなくなっても構わない・・・・ でも、彼を死なせる訳にはいかないの!!」
「それは、彼に戦略的価値があるからですか?」
「違う!!」

殺気すらも籠め、目の前の少女を睨む雅菜。俯き、か細くもはっきりと呟いた。



「大切な友達を・・・ううん、それ以上の人を、見殺しになんて出来ない・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・」



やはり無感情に、ただ自己の判断から導き出した結果だけをアンジェは告げた。

「戦闘の意思があると見なし、これより対象の治療を開始します。」


アンジェが右手を雅菜に翳すと、その掌から蒼く淡い光が放たれた。
光は優しく雅菜を包んでいき、収まった頃には、雅菜の傷は嘘の様に全快していた。


二度三度拳を握り、すぐさまベッドから飛び出し、扉に手を掛ける。
そこで、一度アンジェの方に振り向き、

「ありがとう・・・・・・」

それだけ言って、雅菜は病院を抜け出した。










「好きにやってるわね〜。」

水美が病院施設に辿り着いて、まず述べた感想がそれだった。
だが、次には凛々しい顔つきに変わり、すぐさま変身する。

「覚醒!仮面ライダーガブリエルたん!!」

彼女の体を水が渦を巻いて、その中から現れたのは蒼き鎧の戦士、仮面ライダーガブリエルだった。
ガブリエルは自身の相棒たるウォーガに跨り、今しも病院に突撃しようかという時だった。

ガブリエルの顔が意外な物を見たかの様に、数瞬呆けた顔となる。
彼女はそこに、あるはずのない景色を見た。入院していたはずの雅菜が息を切らして走ってきたからだった。

「水美ちゃん!!」
「え?草加さん、どうして・・・・・・・・」
「話は後でする!お願い、私を列の所まで連れてって!じゃないと、列が・・・・・・!!」

いきなりの事にガブリエルは目を丸くする。
事情は分からないが、雅菜が焦っているということは相当な事だろう。
ガブリエルの行動は速かった。

「後ろに乗って。すぐさま飛ばすよ!」
「・・・・!ありがとう。」

雅菜はすぐさまウォーガに跨り、ガブリエルの体に掴まって振り落とされないようにする。

「敵はカイズィーギアを持ってる。だから・・・・・・・・」
「分かった。私がベルト取り戻すまで、大人しくしててよ?」
「分かった。お願いね・・・・・・・・・」

エンジンを全開にし、雅菜を乗せてガブリエルは列の所へと疾駆していった。





第五章 第十三話 処刑者(岡島様作者)



フェイトと霧恵の戦いが始まった直後、両者が戦っているフロアに向かう武藤初音の姿があった
しかしこの病院は広く、しかもこの事態で患者達の避難が始まったことで人がごった返し
なかなかフロアにたどり着かない。そしてようやく、フロアの側までやってきた
すると彼女は、開いた右手を左胸に当て、そしてその状態で拳を作る。そして
「変身!」

一方、そのフロアでは
アザゼルはフェイトの方へ、アラストールは霧恵の方へ向かっていく
両者は共に、最初の攻撃を防御し、相手との間合いを取る
そして突然の乱入者に霧恵は嬉しそうだった。

「面白い、ゲームはこうでなくちゃ!」

すると彼女は、すばやいスピードでアザゼル達があけた穴へと向かっていく。穴は外へと続いている
彼女は、穴の前に立ち止まり、フェイトたちのほうを向く
その時、フェイトには一瞬霧恵の姿に、別の青い髪をした少女の姿がダブって見えた
そして、フェイトの脳裏に昨日の戦いの様子が浮かぶ
(今のは、確かアイスキュロス・・・・・・・・・)
そして、霧恵は

「さあ、第2ラウンドの始まりよ」

そう言うと穴から、病院の外に出て行った。アラストールも彼女を追って出て行く。
フェイトも追おうとするが

「お前の相手は、俺だ」

フェイトの行く手を遮るように向かってくるアザゼル。それに対し双剣を構えるフェイト。
両者の距離が狭まった。その時、両者の間に何者かが割り込みアザゼルを弾いたのだ。

「何!」

素早く体制を立て直すアザゼル
「お前は!」
突如、現れたのは紫色の戦士だった。
「あなたは」
フェイトはこの戦士を知っていた。戦士は言った
「ここは私が抑える、君は奴を追え」
そして、壁の穴へと向かっていくフェイト
「行かすか!」
フェイトの行く手を遮ろうとするアザゼル、その前に立ちふさがる戦士
「邪魔するなよな、アトラナ」
仮面ライダーアトラナ、それが戦士の名前だ

そして、アトラナは低めの声で言う
「よく知っているな・・・・・・・」
「アンタは有名人だからな、Gの『処刑者』」
「お前は『デモンナイツ』か」
「ああそうだ」
「ならば、この場で始末する」
その答えに、アザゼルは嬉しそうに
「おもしろい、アンタとは戦ってみたかったんだ。」
アザゼルとは反対に落ち着いた口調で
「抵抗しなければ楽に殺してやる」

アトラナの方へ向かってくるアザゼル

「抵抗するなら、どうする」

そして攻撃を仕掛けるアザゼル、それを受けとめるアトラナ

「斬刑に処す」

両者の戦いが始まる

一方、外には無数の人影があった。動きは何処か、ぎこちない。それを見ていたフェイトは

「まさかゾンビ」

よく見ると、動く土人形、すなわちゴーレムだった。その動きはゾンビのようだ
そしてアラストールがゴーレム数体と戦っている。
何処からともなく霧恵の声がする

「これが私の新しい力の一つ」

そして無数のゴーレムがフェイトの方を向き、フェイトを標的として定めた。





第五章 第十四話 リミッターアウト(ウェイド作者)



敵に囲まれたガンヴァルオスとイクス。
デルタマシンガン(改)は弾が切れ、スペアのマガジンもなくなったため。
その硬さで敵を殴り倒すしか出来ない。

イクス「敵・・・・のこりこの部屋の面積80%を閉めています」

ガンヴァルオス『危険と判断します・・撤退を』

イクス「ますたーの命がない限り撤退はしません」

このような会話が続きながら敵を殴るける、投げ飛ばす・・・が続いている。

一方、レンナたちは・・・。

レンナ「あぅ〜・・・ここどこ〜」
一菜「少なくとも・・・・・・・」
辺りを見回すと…カマキリのような腕をした猫。
ドリルを装着したネズミ。
などなど・・・さまざまな物がいました。

一菜「ただの、部屋じゃないよね・・・・」
ノア「部屋と言うか、実験所ね」

レンナ「ところで・・・・セイバーはまだ見つからないね」

先に行ってから行方不明なセイバー・・・・。
何処にいる?
・・・・場所を戻そう・・・このような会話が後2時間続きそうである。

ズガァン!
爆発・・・亜種ライダーのリーダーらしい敵がバズーカを取り出して、イクスを吹き飛ばしたのだ・・・・。
守ろうにも自分が抑えられていたガンヴァルオス。
再度バズーカの照準がイクスに向けられる――

ガンヴァルオス『マスターの生命維持困難と判断・・・システムソウルからアタックモードに移行・・・リミッターアウト』
黄色に輝く目が赤色に輝く。

ガンヴァルオス『敵数・・・100・・・ヴァリアブルミサイル・・一斉発射』

背中のバックパックから10発以上のミサイルが亜種ライダー達を消し飛ばした。
なお、天井もヒビが割れたりしている。

一方レンナ達は・・・。

レンナ「あ、セイバー!やっと見つけ」
近づこうとしたらいきなり地面から爆音が聞こえる・・・。
それどころかヒビが割れたりしている。

セイバー「なんだ、貴様等どこに行って・・・」
ノア「近づかないで!」

セイバーがレンナたちに近づこうとした瞬間・・・地面が・・・・。

ズゴォン!
抜けた。

ノア「ちょ・・・なんでこうなるの!?」
セイバー「地面はもろくないはずだが・・・・・」
レンナ「そんなこと言ってる場合!?」
一菜「早く変身しないと!」
ラグナロク『このまま落ちれば即死だな』

レンナ「・・・・覚醒!」
レンナ「変身!」

落ちる50秒前で変身完了して・・・・
ズゴォォン!
落ちた・・・頭から。

ファントムたん「いったーい!」
ブレイドたん「変身していなかったら今頃あの世ね・・・・。」

ノア「そうね」

セイバーに抱かれて降りてきたノア。
そのあと触られて部分を手では叩いたりしている。

セイバー「・・・なぜミサイルが飛んでいる?」
ファントムたん「え?」

ヒュルルルルルルルーーーーー

ズガガガガガガァン!!!

ブレイドたん「ウェ!?敵の襲撃!?」
ノア「と言うか・・ここ…イクスたちが囮になった場所じゃない」

つまり・・最初に戻ったということである・・・。

ミサイルが発射されている場所では目が赤いガンヴァルオスがひたすら敵をミサイルやらで撃ったり、拳で殴り飛ばしていた。

ファントムたん「・・・・何なのあの強さ」
ノア「・・・・・(明らかに無茶してる・・・イクスが命じたのかしら?)」
セイバー「・・・あのような技・・初めてあったときは使っていなかったぞ?」
ブレイドたん「ミサイルとかまた飛んできたよ・・・」

ラグナロク『・・・はぁ・・・・』
ドゴォン!!

・・・・・・・・。

ガンヴァルオス『敵反応ゼロ・・・・システムをソウルモードに移行、通常形態に戻ります』

目が緑色になる。
次の瞬間そこらじゅうから煙が出る・・・そして。
ドォン!
倒れた。

なお、イクスは気を取り戻してたりするが・・・・。
ガンヴァルオスが倒れたとき、ガンヴァルオスの手が頭に当たって再度気絶することになる。
ご愁傷様である。





第五章 第十五話 そして私にできるコト(ユルカ様作者)




ここは、町の中の廃ビル。と言うか亜種デュナミストの巣窟である。

二人の少女の周りを二重三重と取り囲む亜種デュナミスト…。


『美味そうな女だな…。俺達に食われに来たのか?』

「冗談。あんた達を退治しに来たんだよ。」


そう言うと、二人の少女は腕をクロスさせて…。


「「メタモルプォーセス!!」」


その言葉で、二人の少女は異形の姿へと変わる。


『な、デュナミスト!?』

「そうとも言えるし、違うとも言えるわ。」

「私達はセフィロトナンバーズ。目的のためには手段を選ばない。」


5分後…。

その場にいた全ての亜種デュナミストは2人の少女…ケテルとティフェレトによって肉片にされていた。


「弱い。弱すぎるね。」

「仕っ方、ないんじゃないの。雑魚なんだから。」


ケテルはその手に槍を、ティフェレトは双剣を握っていた。


だが、今回の話はそれとはまったく関係なく進む。(ぇ)



SB社病院施設―


「一体、何でこんなことっ!?」

「知らないわよ! 私にも分からないんだから!!」


京と冥が急いで病院施設から逃げようとしている。

和子、神歌、華枝、蛍ももちろん一緒だ。


寝耳に水。

一言で言えばそんな状況だった。


『緊急事態発生のため、全員直ちに避難してください! 繰り返します…』


その放送が流れた瞬間、病院施設内はパニック状態になった。

だが、京達はパニックに巻き込まれたわけではない。

いの一番に騒ぎに気付いた冥がその場にいる全員を連れ出したのだ。


そして、何とか外に出る6人…。


「何が…起こっているんでしょう…?」

「分からないけど…嫌な感じがする…。」

「冥、あなたも感じているの? 私もよ。」


京、冥、和子は何とかこの状況を理解しようと頭の中を整理する。

一方、残りの3人は落ち着きなど微塵も無かった。


「姉さん…大丈夫かな…。」

「ふにゅ…おにぃちゃぁん…。」

「列さん…。」


そんな6人の前に、1人の人物が姿を現す。


『…僕の仕業とかでないかと考えていないかい? 君達は!』

「「「え、エウリュディケ!!」」」


そう、京を狙うEASEのリーダー、エウリュディケ。

彼女が京の前に現れたということは…。


「っ!!」


冥がファイティングポーズを構えて、京の前に出る、が…。


『フン…。』


エウリュディケが手を動かすだけで、冥は吹き飛ばされてしまう。


「きゃっ!!」

「冥さんっ!!」


キッ、とエウリュディケを睨みつける京。だが、変身するわけにはいかない。

後ろには何の関係も無い3人(華枝、神歌、蛍)がいるのだから…。


『一緒に来てもらうよ。シグマ…そして、水無瀬 蛍!!』

「え!?」

「ん?」


言われた本人はぽかーんとしている。


「ねぇ、華枝。一体なんなのかな? 誘拐犯?」

「う〜ん。わかんないよぉ…。」


神歌と華枝はちょっと妙なことを話し始める。


『ちょっと、聞こえてるんだけど。消されたいのかい?』

「なら、私はあなたの味方をすることはできない!!」


今度は和子が華枝と神歌、蛍の前で3人を守ろうと構える。


『仕方ないな…。…出でよ。』


エウリュディケはカードを一枚取り出すと、地面に向かって投げた。

すると、緑色の植物怪人が姿を現す。


「嫌な物を出してくれますね…!」


ちょっと前に和子は魔女の改造実験体の植物怪人(デミ・パランツェ)に首を絞められ、非常に危険な思いをした。

今回エウリュディケが出した怪人は、まるでその出来事を思い出させるかのように…出したのだろうか。偶然とは考えにくい。


『やれ。』


エウリュディケは一言そう言うと、植物怪人はものすごいスピードで、その蔓を伸ばしはじめた!


「ぐぅっ!!?」


いつもならメデアで切り裂いてしまうところだが、それができない今、和子はなす術も無く、

その蔓に首を締め付けられることになってしまった。


「くっ…! このぉっ!!」


京はもう我慢できないと、エウリュディケに殴りかかった!

が、片手で押さえつけられてしまう。


『やっと動いてくれた…。この状況を作り出したかったのさ。』

「なっ…!?」

『それじゃあね、ソフォクレス、エウリピデス。せいぜいその植物と戯れているがいいさ。』


そう言うと京と共にエウリュディケは消えてしまう。


「く、くそぉぉぉ!!」


冥は自分が何もできないことの悔しさに腹を立てていた…。




「一体、私に何をする気!?」

『まぁ、落ち着いてくれ。』


虹色というか、レンナやセイバーの見た精神世界に近いこの現在の場所。


『君はこれから君にとって大切な人を助けなければならない。』

「どういうこと?」

『これを見れば分かるよ。』


エウリュディケが地面に手をかざすと、巨大な鏡のようなものが現れた。

それに映し出された映像…。それは…。


「これって…!?」


―カシスの前に現れたロスト(戦闘狂)。

―魔術師の使い魔たる、“生きる屍(リビングデッド)”が養護施設の研究棟の研究員を次々と襲っていく。

―キールの前に現れた魔術師。キールとカシスを連れて研究棟の奥へと潜っていく魔術師達…。


『見ての通りだよ。君の住んでいる場所はこの有様だ。』

「そんな…あのエスカリアさんが…騎士団…!?」

『これを見ても、君は二人を助けに行かないというのかな? シグマ。』


しばしの沈黙…。


「…行かなきゃ…。」


やっと搾り出したという声で京は言う。


『例え、罠であろうと分かっていてもかい?』

「私に何の恨みがあるのか知りませんけど、二人を傷つけようとするあの人は許せない…!!」

『じゃ、いってらっしゃい。それでもって、勝ってこい。』


気が付くと、京は時雨養護施設の前にいた。

自分の住んでいる場所…でも今は、魔術師が占拠している…。


「絶対に取り戻す…! 私の日常を! それが私にできることならば…! 変身!!」


京はシグマへと変身すると、研究棟へと入っていった…。





第五章 第十六話 悪魔は真に悪なのか?(斬影刃様作者)



「……随分少ないな。」

京が時雨養護施設に到着する少し前、四乃森 陣は暗殺者から薬を貰っていた。

「まあね、これから暫くはすぐに会えそうだったからね…それに貴方、たくさん有ると無茶するでしょ?」
「…………。」

暗殺者に質問されると、陣はただ黙りこくってしまう。
それを見た暗殺者は呆れたように溜息を吐いた後、真剣な眼差しで陣を見る。

「ねえ、陣。実は貴方に頼みたい事があるの。」
「……何だ?」
「単刀直入に言うわ。魔術師を止めて欲しいの。」

その言葉を聞き、陣は目を丸くして驚く。

「ちょっと待て、魔術師はお前の仲間だろ?」
「ええ、でも、今回の魔術師の作戦はやりすぎてるわ。だから彼を止めて欲しいの。」
「……わかった。」

陣は、静かに頷いた後、薬のビンを一つを飲み干し、養護施設へとその身を走らせた。
そして、それを暗殺者は複雑そうな顔をして見送り、

「…私も甘くなったわね…。」

誰に言うでもなくただ静かに呟いた。




そして、この間の病院内では、今だフェイトとアラストールがゴーレムを破壊していた。

「ふふ、いつまで持つかしらね?」

そして、霧恵はそんな二人を見てただ楽しそうに眺めていた。

「く、きりが無い!!」
「……敵…70%減少確認…再び10%増加。」

フェイトはアベンシャーでゴーレムを斬りつけながら悪態をつき、アラストールは冷静に分析をしながら一体一体確実に破壊してゆく。

「…現状況……勝率0.1%……ゲート展開。」

今のままでは勝つ事が難しいと判断したアラストールは、自らの後ろに大量の黒い穴を呼び出す。
そして、その黒い穴から大量の人の大きさを軽く超える緑色の蜂が現れる。

「へえ、そんなのまで在るんだぁ♪」

大量の蜂にも動じず、霧恵は楽しそうにゴーレムを蜂にぶつける。
そして、余裕の出来たアラストールはフェイトのほうを向く。

「…フェイト。」
「…悪いけど、こんな所で捕獲されるつもりはないわ!」
「…否…病院内一般人…救助…。」
「え!!?」

フェイトは、アラストールの言葉に驚いた。
まさか、自分を捕獲するなどといった人物がそのような言葉を放つとは思いもしなかったからだ。

「時間延長…生存率の低下…緊急を要する。」
「…わかったわ。」

アラストールに言われ、フェイトは再び病院内の人を助ける為に駆け出して行った。

「あら、逃げるのかしら?」

病院内へと駆け出すフェイトの姿を視認した霧恵は、ゴーレムをフェイトにぶつけようとする。
しかし、その行動はアラストールの銃撃によって遮られる。

「…貴様の相手…自分だ……。」
「…上等じゃない。」

二人は睨み合った後、互いの駒をぶつけ合った。



そして、同時刻…セルファの研究所に進入する生命体がいた。

『……キチッ…キチキチ……。』

その生命体の名はバイス…残酷なる捕獲者であった。





第五章 第十七話 友情(空豆兄様作者)





「ひ、ひう・・・!!」

風瀬 華枝の目の前には、昨日見た現実離れした現実。

緑の怪人・・・エウリュディケの生み出した植物怪人が、その従者だったエウリピデスを締め上げる。
もはや彼女は用済みとでも言うつもりなのだろうか。

かつての仲間を、エウリュディケは冷酷に処断しようとしていた。



・・・・・・・・・・。



ギリギリギリギリ・・・


「ぐ、ぐ・・!!!」
あの人が襲われている。今日兄とともにやってきた女性の一人の首を絞める。

私は、ただ見ていることしかできなくて。

そのあまりの恐怖に、足がすくみ、カラダが動かない。
人が死ぬかもしれないという危機感に、涙も流れ始める。

「か、和子、さん・・・・!!!」
口だけがわずかに動く。
彼女の名前が、口から出た。
一度聞いただけなのに、もう覚えているのが不思議だった。


「華枝!」
神歌ちゃんが、私をかばおうと前に出る。
植物の怪人は和子さんの首を締め上げる片手間、私達にも目を付け始めた。

その蔦に覆われた顔に、わずかに覗く目で私達を捉える。

「あ・・・・。う、く!!」
・・・蛍ちゃんが、さっき友達になったばかりの蛍ちゃんが、一瞬私達を見る。
でもすぐに、悔しそうな顔になり、怪人を再び睨む。

何か言いたそうだった。



「に、逃げなさい!3人とも!!!」
「・・・!」
兄のクラスメイトの豊桜さんが、私達を見て叫んだ。

「で、でも・・・・!!!」
「いいの!和子が締められてる間に、あなた達は逃げるの!はやく!!」

・・・さり気に酷いことを言っている気がした。

「ちょっと冥にはむかつくけど・・・、そ、その通りよ。私達は、私達で何とかするから!さあはやく!!」
和子さんもそう言った。
「い、いや!」




「・・・・!!」
そういったのは、蛍ちゃんだった。
「こんなのはいやです!人が死ぬかもしれないのに、私達だけ逃げるなんてそんなの、私はいやです!」

「ほ、たる、ちゃん・・・!!」

「蛍ちゃん・・・・。」
「私が、私が二人を・・・!!!!」

彼女は両手をかざす。

「う・・・・・・・・・・。」
だが、それも途中で止まる。
やはり、私達を見てとまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・蛍ちゃん、気持ちだけじゃどうにもならない時もある!あなたの気持ちは分かった。でも私達の気持ちも汲み取ってよ!」
豊桜さんが叫んだ。
「私達は、あなた達に逃げて欲しいの!風瀬君や水無瀬先輩のために、あなたたちは無事でいてもらわないとダメなの!!!」

「・・・で、でも!!!!!」

「行け!!!」
和子さんも、叫んだ。

「う、う、ううううう〜・・・・!!!!」
蛍ちゃんが、今にも泣きそうな声を出す。
でも、その足は動かない。
まだ迷っているようだ。






ギリ・・・!!

「ぐっ!!!」

植物怪人のつたが一層強く締まる。
和子さんは苦悶の表情を・・・・!

「和子さん、和子さああああああああんッ!!!」
私は、思わずその名を叫んだ。

「華枝、ちゃん・・・・!!」







バシュウウンッ!!

その時、私達の後ろから、飛び出す影があった。

ヒュウンッ!!!

その影は腕・・らしきものを振るうと、和子さんを締め上げる蔦を音もなく切り裂き、彼女を解放する!
「な、なに!?」


ガシュウウンッ・・・。

影は、その地面に着地すると、ゆっくりと立ち上がった。
それは、機械でできた人型だった。

その顔は鋼鉄のオブジェ。
狼の顔を象ったオブジェが彼の頭。
細く長く伸びた腕には、片方にはバイクのような薄く大きなタイヤがあり、もう片方には鋭い爪が伸びていた。
あの爪で、あの蔦を切り裂いたのだろうか・・・?

『マスターの命により、あなた方を守護する。』

!!!

その機械の異形が、言葉を発する。
視線は私達のほうへ向けられていた。

「神歌、たち・・・・?」
身に覚えがない、といった顔で見返す神歌ちゃん。

「チャンスよ!いきなさい!!!」
「!」

和子さんの声が、私達を我に返す。

「もう大丈夫だから・・・はやく!」

「は、はい!!!」
今度はすぐに返事が出来た。
蛍ちゃんも神歌ちゃんも、異存はないらしい。

「早く!」


私達は、その場から離れようと走り出した!!

『・・・・・・・・・・。』

ズヒュウッ!!

『む!?』
緑の怪人は、再びすごい勢いで蔦を伸ばす!
それは両腕から。
先ほど割って入った人型を避け、私達に向かって伸びる!

狙いは、私たちなの!?

「き、きゃあああっ!!!?」



バシィィィィィンッ!!!

「・・・・ぐっ!」
「あ・・・・。」


私達に伸ばされた蔦は、直前で止められた。
割って入った、和子さんによって。

「和子、さん・・・・。」
「・・・大丈夫、華枝ちゃん。」

和子さんは、伸ばされた蔦に再び拘束されてしまう・・・!

「ひ、あ、え・・・?なんで、何で私をかばうの、和子さん・・・?」
せっかくあの蔦から開放されたって言うのに、どうしてまた、それに身を晒すようなことを・・・。

「決まってるじゃない。友達だからよ。」
「とも、だち・・・・。」

確かに先ほど、彼女はそんなことを言っていた。でも、自分には全く身に覚えがない。
でも、彼女は・・・。

「あなたが覚えていなくても、あなたは私の友達なの。出会いは最悪、でもやっと心を開いてくれた、私のかけがえのない・・・ね!」

かずこ、さん・・・・!

「いきなさい!はやく!!」

「は、はい・・!」
私達は今度こそ走り出した。

二人とその人型を後ろに見送り、全力で・・・・!



『護衛対象の、安全圏離脱を確認。』


「私達も。」
「全力で行く!」








路地裏を駆け回り、都心のスマートブレイン社のほうへと逃げていく二人。
それを追うのは、「騎士団」が一人。
仮面ライダーカイズィーのベルトを手にした、「弓使い」。


「くそ、何が、どうなってるんだ・・・・!」
八代とともにあの巨大な兵器から逃げ続ける。
「さあな!でも、つかまったら俺たち、生きていられない!」

あの女に捕まったが、最後か・・・。

「大丈夫だ!」
少し暗い表情がさした俺に、八代が声をかけてくれる。
「もう少し逃げれば、SB社のほかのライダーが助けてくれるって!」
「あ、ああ・・・!」

・・・だが、俺の体力は限界に近づいていた。
そもそも、病院から飛び出してからずっと、走り続けていたのだ。
足がふらつき、わき腹に痛みだす。

だんだん、八代についていけなくなっていく・・・。

「!列!もう少しだ、がんばるんだよ!」
そんな俺に八代はすぐに気がつき、俺の手を握る。

「・・・・八代。」
「走るんだ、列!!」

・・・不思議だ。
こいつに手を握られた途端、体が少し楽になった。

・・・どうしてこいつ、俺にこんなに良くしてくれるんだろう。
何のとりえもない俺なんかの為に。
雅菜だってそうだ。
みんなどうして、俺に・・・。





「・・・友達だからな!」
「・・・・!!!」

一瞬、八代に心を読まれたのでは、と思った。
俺の考えていることに、こいつがこたえたような気がしたからだ。

「走るんだ、列・・・・!」

・・・先ほど言った言葉の続き。
考えてみれば、なんてことはない事。
でも俺は、その言葉でもう一度、こいつに救われた気がした・・・。





路地を抜け、目の前にスマートブレイン社が見える。
黒くそびえる巨大なビルに、白銀のロゴ。

「列!」
「ああ・・・!」

そして路地裏を抜けようという俺たちの眼前に、日の光があふれていく・・・!




ガシュウウン・・・・ッ!

「・・・・・・・・・・・!!!」
「う、うあああああ・っ!?」

だが、奴の足は、俺たちよりも速かった。
目的地を見抜かれていたのか、奴の乗る巨大なロボットが立ちふさがる。

「・・・・・・・・。」

それにまたがる黒と金の仮面ライダーは、ロボットの右腕を動かし、その砲塔を俺たちに向けた。
こ、ここまで来たって言うのに・・・

「ぐ・・・・!」
ぎりと唇をかみ締める八代。

「八代・・・?」
「列・・・俺から離れろ。」
「な、え!?」

奴は俺を腕で制し、奴が前に出る。
その時見えた奴の瞳は、何か・・・覚悟を決めた。そんな真剣なものだった。



(お前みたいな人形に、列はやらせない・・・。)
(・・・俺も、草加さんみたいにこいつに嫌われるかもしれないな。)

(いや。そんなことないよな。)

「八代!?」



「俺は、お前を・・・・!!!」









「や、やめなさい!」

「!?」
「お?」

「・・・・・・・・。」

見れば、SB社エントランスから、白い髪の小さな女の子がこちらに向かってやってきていた。

「わが社の前でこんな騒ぎを起こして・・・。どういうつもりなんですか、雅菜義姉さん。」

「ねえ、さん・・・・!?」
雅菜に、妹・・・?

その言葉を聞き、そのロボットはその少女の方を向く。
「・・・・!?」
無言でその右腕を向ける、黒と金のライダー。

「・・・なるほど。木場さんの言っていた、カイズィーギアを奪った犯人、というわけですか。」

「ならば私は、あなたを倒し、それを取り返すまでですっ!」

少女は懐から青と白の携帯電話を取り出し、なにやらダイヤルすると、服の下に隠していたベルトに装着する!!
すると彼女のカラダに青いラインが走り、彼女を「変身」させた!




「・・・彼女も、仮面ライダー。」

「雅菜の・・・妹。」





第五章 第十八話 狂える者との戦い(イシス様作者)



「たあぁぁぁっ!!!」


シグマが研究棟に突入と同時に、シグマに襲い掛かる“生きる屍達”。
およそ生きているなどとは口にも出せないオルフェノクの集団の毒牙を、シグマは“加速”の能力と“虎爪”の能力で切り抜けていく。
やはり“生きる屍”では、シグマを抑えきる事など到底不可能だった。





研究棟の最深部、そこに辿り着いたシグマを出迎えたのは、およそこの場に相応しくない程の優雅な佇まいの紳士。


エスカリア、いや、騎士団の魔術師。


彼の傍には“生きる屍”に拘束されているキールとカシスがいた。

「先生!!カシス君!!」
「ほう、これは意外とお早い到着ですね。」

魔術師が慇懃にお辞儀するのに対し、シグマは怒りの視線を浴びせる。

「エスカリアさん・・・・・どうしてこんな真似を!?」
「さて・・・何故と問われましても、私は騎士団の構成員ですから。殲滅対象となる者にはすべからく力を奮わせて頂きます。」
「だからって・・・・なんで先生達にこんな事を!!」

シグマはこれ以上、魔術師と会話する気など無かった。
すぐにでも飛びかかれるよう戦闘態勢を整えていく。



その魔術師の前を、まるで彼を庇いだてする様に少年が現れた。
緑の髪の死人の様な目の少年。先程エウリュディケに見せてもらった騎士団の一人。



「アンタがシグマな訳?」
「・・・・・あなたは?」
「俺?俺は騎士団のトライアル、ロスト。戦闘狂とも呼ばれる。」

気だるげな声と共に、ゆっくりとロストはシグマの前に平然と歩み寄って来る。
この少年は無視し、早々に魔術師の手からキール達を救わねばならない。
分かっていてもシグマにはそれが出来なかった。


(なんなの・・・・前に出れない・・・・・・・・)


シグマとて何度も強敵と戦ってきたので、相手の力量を見極める“目”を見に付けている。
それがシグマに本能で訴えている。



アレは危険だ、と・・・・・・・・・



やがてロストはシグマの正面に立つ。シグマはまだ動けない。

「どうしたの?この距離ならさ、さっさと殺せるでしょ?殺りなよ。」
「な・・・・・」

正気か?自分を殺せなどと。

「俺さぁ、別に相手なんて誰でもいい訳よ。俺を殺してくれるんならさ。」

その言葉は、今までシグマが聞いてきた言葉の中であまりにも恐ろしく思えただろう。
殺してくれ?真っ当な神経をしているとは思えない。

「俺はな、殺し、殺されるのが好きなんだよ。それだけが俺の生き甲斐なんだよ。アンタ分かる?」

狂気の目でシグマの瞳を覗き込もうとする。
その目に耐え切れなくなったのか、遂にシグマは腕に着けた“虎爪”を“加速”と共に振るった。
それを、瞬時に姿を変えたロストが片腕で抑える。

『そうそれ、頑張って俺を殺してみなよ。』
「くっ・・・・・・・やぁ!!!」

抑えられた腕を力ずくで引き戻し、連続で“虎爪”を振るっていく。
それを、ロストは右腕に現れた甲殻の盾、ビートルアンデッドの盾で防いでいく。

100tもの衝撃に耐えうる盾には、疾さに重きを置いたシグマの攻撃は通じない。
次第に盾を掲げるロストの方が前進していき、遂には壁際までシグマを追い詰めた。

『どうしたの?まさか、これで終わりって訳?』
「まだまだぁ!!」

今度は“虎爪”を“大鋏”に変え、盾に突き出す。
エウリュディケの剣をも叩き切る威力を持った鋏は見事に盾を打ち砕いた。

『あら?』
「今だ!!」

壊れた盾を呆然と見やるロストの隙をシグマは見逃さなかった。
腹部に渾身の蹴りを放ちロストを後退させる。
体勢を立て直した頃には、既にシグマは必殺技を放っていた。



「スカーテッド・キックッ!!!」
『がふぁっ!!』



直撃を受けたロストはそのまま大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
しばらくは細かく痙攣してたものの、やがてはピクリとも動かなくなった。





「はぁ・・・・はぁ・・・・ここまでです!先生達を開放して下さい!」

乱れる息を整えながらシグマがゆっくりと歩み寄って来る。
今のシグマの実力なら、魔術師を打ちのめした上に“生きる屍”達を屠り、キール達を救う事が出来るだろう。
それでもなお、魔術師の顔からは笑みが消えなかった。



「京さん、まだ勝負は付いていませんよ?」
「え・・・・・?」



その言葉に弾かれる様に視線を移すと、そこにはゆっくりとした動作で起き上がるトライアルの姿があった。

『いや、ホントマジで最高だわアンタ。一瞬、死ぬかと思った。』

満足げに笑い声を上げながら起き上がるロスト。
言い知れぬ圧迫感を感じるも、シグマはこれ以上ロストに時間を割く訳にはいかなかった。
“加速”の能力で一気に魔術師の所まで走り抜ける。



だが、それよりも速く、ロストがシグマの前に廻り込んだ。

「!!?」
『言い忘れてたけどさ、俺って自在に能力を変えれんだよね。今の俺、はっきり言ってアンタより速い訳。』

驚くシグマの頭を鷲摑みにし、力一杯に放り投げた。
その勢いでシグマは壁際にめり込む。

「ぐ・・・・あ・・・・・・」
『んで、今度はもの凄く力上げた訳。アンタ、まだ俺に勝てるつもり?』
「はぁ・・・はぁ・・・・諦めない!!“疾風変身”!!」



風を捲いて現れた長剣を握ると、シグマの姿が青と白を基調とした姿、ゲイルフォームに変わった。
手にした剣を構え、ロストと対峙する。

『いいねぇ・・・もっと楽しくなってきたっつーの。』

ロストもまた、その手に己の武器を握る。
柄はカリスアロー、刀身はオールオーバーとなっている。

自然体な構えのロストに対し、シグマは正当な剣士の構えである。
今にも両者がぶつかり合う、その瞬間、



「変身!!」



力強い掛け声と共に現れた漆黒の騎士に、一同の視線が注がれる。
漆黒の剣士、デュランは手にした魔剣をロストに縦一文字に振り下ろす。
それを、ロストは面倒臭げに自分の武器で受け止めた。

「くっ・・・・・・!!」
『何?いきなり邪魔するなんて、アンタバカだろ?』

デュランをも上回る力で、ロストはデュランをシグマの所まで押し返した。
体勢を立て直し魔剣を構えるデュランにシグマが声を掛ける。

「あなたは・・・・・・」
「誰でもいい。今はアイツを倒すのが先だ。」
「・・・・・・・・はい。」

並び立ちロストに向かい合うシグマとデュラン。
それを、ロストは腹の底から嗤った。

『くかかか・・・・なんだっていいさ。殺し、殺されるならさ!』










「ねぇ、これからどうするのさ?」

ファントムが心配そうにノアに声を掛ける。
失敗作ライダー達は倒したものの、ガンヴァルオスが機能停止でいささか戦力が欠け気味である。

「ま、このポンコツにしては頑張った方ね。転送!」

ノアの号令と共にガンヴァルオスは一瞬にしてその場から消え去った。
突然の事にファントムは勿論の事、ブレイドも驚いた。

「な、何!?」
「なんて事ないわ。ただガンヴァルオスを転送装置でアジトに帰しただけだから。ま、当分は修理ね。」

特に興味も無く研究棟の一つを眺めていると、ようやくイクスが起き上がった。
イクスは特にダメージを気にする事なくノアに現状報告を始めた。

「ますたー、デルタマシンガンの弾装が尽きた為、現在戦闘能力が九割減少しています。いかがいたしますか?」
「そうね・・・・・召喚!!」

再びのノアの号令と共に転送されてきたのは大き目のキャリーボックスだった。
開けると、中には大量のデルタマシンガンの弾装があった。
イクスは一つを己の重火器に装備し、残りは可能な限り身に着ける。

「これでイクスの方は安心ね。ま、デルタマシンガンと電磁シールド、それに私とのコンビネーションがあれば、鬼に金棒よ。」
「備えあれば憂い無しか・・・・ふむ、見事な物だ。」

セイバーが何故か感心していた。





すると、突然イクスがデルタマシンガンを構え引き金を弾いた。
同時に、すぐ近くで何かが弾ける音。それは銃弾同士がぶつかり炸裂した音だった。


「ふーん。僕と張り合えるガンスリンガーがいたなんてね。面白くなってきたよ。」
「何でもいい。任務を果たす。」

一同が振り向いた先、そこには三人の仮面ライダーがいた。
仮面ライダーメツ、シルス。そして、

「待っていたぞ、セイバー。俺を満足させられる相手は、やはりお前しかいない。」
「セイガー・・・・・・・・・」

二振りの剣を手にしたセイガー。
ノアの対応は素早かった。

「レンナ、一菜。アンタ達はシルスの相手を。私とイクスはメツの相手をするわ。」
「え、なんで?」
「相性の問題よ。」

それだけ言って、ノアはイクスと共にメツに向かい合う。
メツもその気なのか、ゼルエルライフルをいつでも放てる体勢に入る。


「レンナ。あのライダー、強いよ。大丈夫?」
「うん。僕も少しは強くなったし、それに、一菜がいるから怖くないよ。」
「そうだね。」

お互いに笑顔を交わした後、二人もまたシルスと対峙する。
シルスもテラシールドを構え、戦闘体勢に臨んだ。



「セイバー、今日こそ俺達の決着を着けよう。」
「いいだろう。いい加減、白黒はっきりせねばな。」

セイバーは新たな武器を、セイガーは愛剣を構え、徐々に間合いを狭めていく。
ここに、戦いの構図は定まった。










フェイトが病院施設内で目撃したのは、意外な光景だった。
蒼い髪の少女が怪我人の治療をしている。それも、何かの能力で。

「・・・・“G”の“協力者”、フェイトですね?」
「・・・・!!あなたは?」
「騎士団トライアル、アンジェ。コードネーム“癒し手”です。」



正直、フェイトは頭をハンマーで叩かれた思いだった。
いかに騎士団と同じ地で任務が可能になったとしても、こんなに早く鉢合わせになるとは思ってもみなかった。



「状況は理解していますね?怪我人の治療は私がします。貴女は負傷者の搬送をお願いします。」
「あ・・・はい・・・・・・」

言われるがまま、フェイトは怪我人をなるべく安静にアンジェの下へと運んでいく。
アンジェが手を翳すと、怪我人達の怪我は見る見る内に塞がれていった。





第五章 第十九話 紙は舞い降りる(岡島様作者)



空を病院の方へ向かって一羽の白く非常に大きな鳥が飛んでいた。
その大きさはセスナ機を一回り大きくしたくらいの大きさである
その鳥が病院へ一直線に飛んでいく
それを視界に捕らえたアラストールは
「・・・鳥?・・・・否・・・・」

鳥は戦いを続けている二人の頭上を通り越し病院の衝突する
が正にその時、その体は破裂し。
「・・・紙・・・・」
無数の紙が宙を舞い。一部の紙は病院の中に入っていく
そう、この鳥はなんと紙で出来ていたのだ
そして、宙を舞う無数の紙を掻き分けるように仮面ライダースプリアスが出現した
それを見た霧恵は

「役者がそろってきたようね。」

そしてスプリアスが地面に着地すると同時に宙を舞う紙にも変化が起きる
宙を舞っていく紙が数箇所に別れ個々に集まっていき、それはライオトルーパーの形になり
そしてあっという間に、一万人には程遠いが、かなりの量の白いライオトルーパー部隊になった
そしてスプリアスと白いライオトルーパー部隊がゴーレム達にに攻撃を開始する
白いライオトルーパーは紙で出来ているにもかかわらず、ゴーレムと互角の戦いを
繰り広げた。
大量の蜂に加えてと白いライオトルーパー部隊の登場に霧恵は
「少し、まずいかな。なら」
霧恵の手に水色の鞭が出現する
「これを使ってみようかしら」
それはアイスキュロスの武器「オレステイア」であった。

一方、病院のガラスを破り、無数の紙が洪水のように病院内に流れ込む
フェイトの元にも紙が流れ込んでくる

「これは、まさか・・・・・・・」

そして、無数の紙の中から
「助っ人参上です!」
サーチャーこと凛堂暦が現れた。

「サーチャー・・・・・・・・何で?」
「詩姫ちゃんから連絡があって来ました。」

サーチャーと凪は詩姫から連絡を受けやって来たのだ

「ちょうどよかった。怪我人を運ぶのを手伝って」
「はい」

すると、床に散らばっていた紙が集まってきて、数体の白いライオトルーパーと担架に変わる
そう、サーチャーは紙を自由自在に操る能力者である。巨大な鳥も、外で戦っている
白いライオトルーパー部隊も彼女が作り出したものである
そして、白いライオトルーパー達は怪我人を担架に乗せアンジェの下へと運んでいく
サーチャーのおかげで怪我人の搬送は捗った。





第五章 第二十話 魔獣を統べる者(斬影刃様作者)



アトラナとアザゼルの戦いは、一方的なものであった。

ヒュンッ!
「うおっ!!」

アトラナの爪を紙一重で交わす。しかし、その後すぐにロボットアームの追い討ちを受ける。
アザゼルもギリギリの所で自らの背にあるアームパーツで防御するが、そのまま吹き飛ばされ倒れる。

「ふむ、どうしたこの程度か?」
「……うっせ〜な、まだ余裕あるっつーの。」

アトラナの言葉に反応し、アザゼルはむくりと起き上がる。

「しっかし、さすが処刑者って呼ばれるだけあって強いな♪」
「……貴様、状況が分かっているのか?」

アザゼルの余裕に、アトラナは不快感を覚えて言葉をぶつける。
しかし、そんなアトラナの様子を気にしたような素振りも見せずアザゼルは笑い出す。

「ああ分かってるぜ、でも、俺は強い奴と戦うのが好きだからな。ワクワクしてるんだ♪」
「…それは貴様が単に弱者なだけだろうが。」
「…………あ?」

アトラナは拭い切れない不快感を拭う為の様にアザゼルに冷たく言い放った。
だが、その言葉を聞いた瞬間、アザゼルの空気が一変した。

「……弱者だと……。」
「違うか、現に貴様は私の攻撃を防ぐので精一杯見たいだが?」

アトラナはアザゼルの変わりように心の中で驚きを見せるが、先ほどまでのアザゼルが全力であった事は、戦っているうちに分析済みだったので焦らずに反論する。

「……弱者かどうか…見てもらおうじゃねーか…。」

その瞬間、アザゼルのアームパーツが二本増える。
そして、背にある六本のアームの先端部分の何かが開こうとしたその時、

「……ぱんち。」
「グフボホォッ!!!」

突如、アザゼルの真横に銀の鎧を付けた少女が彼に殴りかかり吹っ飛ばす。
無論、それを見たアトラナは呆然となってしまった。

「…本気は駄目だよ。」
「だからって景気良くぶん殴るなハデス!!!」

少女…ハデスはなんとものん気な口調でアザゼルに注意する。すると、先ほどの空気は何処へやらといった感じにアザゼルはハデスにガーっと吼える。

「ハデス…だと!?」

しかし、アトラナは彼らのやり取りよりも、目の前に居る少女の正体に驚いた。
彼女が知っているハデスとは、デモンナイツ最高位に位置する戦士の一人であり、Gも彼女一人に大きな損害を食らっていたのだ。
それが、まさかこんな幼い少女だとは思いもしなかったであろう。

「…メフィストが…帰って来いって…。」
「あ、今良い所なん……すんません、今すぐ戻りますからぐるぐるぱんちは勘弁してください。」

通達された命令にアザゼルは反論しようとするが、ハデスがぐるぐると腕を回した途端、態度が先ほどと逆に意味で一変し、謝りだした。

「貴様等、私が黙って帰すと思っているのか?」
「…僕と…君の実力の差…君が一番良く分かってる…。」
「……くっ!」

そう、アトラナはすでに分かってしまったのだ。
ハデスがその気になれば自分はすでにこの世に居なかった事に……。

「じゃあ、…またね。」

その言葉を最後に、ハデスはアザゼルと共に姿を消した。
アトラナは、ただそれを認める事しか出来なかった。




同時刻、和子達のお陰で蛍達は、公園まで来ていた。

「はぁ…はぁ…ここまでくれば…大丈夫かな?」
「はぁ…はぁ…うん、そうだね。」

蛍が華枝に質問すると、華枝はにっこりと笑って言葉を返す。
しかし、そんな中、神歌だけは困ったような顔で辺りを見渡していた。

「神歌ちゃん、どうしたの?」
「…ねえ、ここ本当に公園よね?」
「え、そうですよ。」

神歌の質問に、蛍は丁寧に返す。

「じゃあ、何で人が全然居ないの?」
「「……あ!」」

神歌の言葉に、二人はやっとこの公園の違和感…即ち、一般人が誰も居ない事に気が付いた。

「本当だ…何で……?」
「……ふみゅぅ…何だろ?…眠たくなってきた……。」
「…あれ、私も……。」

蛍が不思議そうに辺りを見渡していると、突如、華枝と神歌の二人は眠気に誘われた。

「え、二人ともどうしたん……!」

蛍は驚いて2人の方を振り向くと、彼女達の真上…いや、自分達の周囲に沢山の蝶が舞っている事に気が付いた。

「華枝ちゃん!神歌さん!」

蛍は叫ぶが、時すでに遅く華枝と神歌の二人は深い眠りに入っていった。

「二人とも、寝ちゃ駄目!!」
「あらあら、幸せそうに寝ているんだから起こしちゃ駄目よ。」

慌てて蛍が二人を起こそうとすると、後ろから女性の声が聞こえる。
蛍が振り向くと、そこに居たのは紫色の異形の姿をした女性と、10体の怪物の姿だった。

「貴女は誰ですか…?」
「私?私はね〜アスタロテ、魔獣使いとも呼ばれているわよ♪」

紫色の異形…アスタロテはなんとも陽気な口調で蛍に挨拶をする。

「あ、あと、彼女達は別に命に別状はないわよ。」
「…良かった。」

蛍は、相手が異形であるにも関わらず、その言葉を信じ込んだ。

「ん〜、この場合普通は疑いにかかるのが普通なんだけどね〜?」
「え、嘘なんですか?」

アスタロテが頭をポリポリかきながら何気なくいうと、蛍は泣きそうな顔で質問する。

「あ〜、嘘じゃないから泣かない、泣かない。」

それを見たアスタロテは、あちゃ〜といった感じの表情をしながら蛍を慰める。
……正直、本当に何してんだ、この人……。

「あ、はい、すいません。…えっと、貴女は何が目的なんですか?」
「ん、そうだね〜…軽くこの子達と戦ってもらえるかしら?」

そう言って、アスタロテは蜂、蜘蛛の姿をした怪物を呼び出した。

「…それは…まさか!?」
「うん、貴女が昨日倒した子達と一緒のものよ。もっとも性能はこの子達のほうが上だけどね♪」

そう、二つの怪物は昨日のものとまるで姿が違っていた。
昨日戦ったのは、蜘蛛をそのまま巨大化させたような姿だった事に対し、目の前に居る怪物は人のような姿をしていた。

「昨日のがVerTで、今日はVerUってところかしら?」
『キチキチキチキチ。』
『シャー。』

2体の怪物は、蛍にすぐに攻撃できるような態勢をする。
そして、蛍はそれを見て決意した表情をして、

「昨日誓ったんです。…たくさんの人を助けるために…私は戦うって…変身!」

蛍が叫んだ瞬間、白い光が蛍を包み、彼女は一人の戦士へと変身する。

「たくさんの人を救う為、ルクスたん推参!」
「(ふふ、とりあえず私の任務はコレで大丈夫そうね…)」

この時、ルクスは気付かなかった。アスタロテの目的がルクスの成長を促す事である事を……。





第五章 第二十一話  焔と種と喧嘩と卵と…(ユルカ様作者)



エウリュディケはまだ自分の作り出した空間の中にいた。


『しかし…あのデュランとか言う奴…。何者だ…?』


彼を不完全変身体だと見抜いたエウリュディケは少し彼に興味を持ったようだ。


『だけど、この刀は…シグマにしか渡せないよ…。と言うか、僕も持てなくなっているんだけどね…。』


目の前にある赤い刀…。時折炎を吹き出し、あらゆる者を拒もうとする…。

”地獄炎刀”…ギルティーの探す8つの武具のうちの1つだった。

…いや、”元・地獄炎刀”と言うべきか…。なぜなら、この刀…エウリュディケによって改造された代物だからだ…。


その頃…。


セフィロトナンバーズのナンバー10:北崎や八雲以上の困ったちゃん、

マルクト・キュバスは任務を実行に移そうとしていた…。


彼女の受けた任務…ファイズィーチームとブレイドチーム、合計9人の心に絶望の種を植えつけてくることだった。

絶望の種―それを植えつけられた人は、心に次々と負の感情が芽生えていき、

最終的にはその人物を再起不能にするとまで言われている。


「そ、そんな事…。させないっ!!」

「ぐちぐち言ってないでほらぁ、変身解除してあたしの物になってよぅ…。」


マルクトの前には、仮面ライダーレンゲルこと上条 美月が戦闘体制をとっていた。

そもそも、マルクトは如何にして美月を見つけたのか?

答えは簡単である。乾 いぬみがEASEで捕らえられた時に、ファイズィーギアを奪っておいたのだ。

そして、街中でファイズィーギアを専用アタッシュケースに入れておけば、ライダーの関係者が喰いつく。

それが、美月だった…というわけだ。(以上、説明終わり)


「あなたの思惑通りにはさせません!!」


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レンゲルは3枚のカードをラウズし、自身の大技を繰り出す…。


「このぉ…!!」

「あ、そ。抵抗するなら、容赦しないから…。」

「……!!」


勝負は一瞬でついた…。


あまりにすさまじい攻撃で美月はその場に崩れ落ちた…。


「あぐ…く…。」

「それじゃ…はじめましょうか♪」

「や…いやぁ……。」


マルクトはレンゲルのバックルを閉じると、レンゲルの変身は解除され美月の姿に戻る。

そして、美月の服をマルクトが掴むと、服は蒸発し美月の下着姿が露になる。


「う〜ん。これなんてどうかな?」


マルクトが取り出したのは、深緑色を基調としたドレス。

…美月はこのデザインに見覚えがあったが、ここではあえて話さない。


「着せ替え完了…。それじゃ、いただきま〜す♪」

「いや…嫌ぁ…!」







(しばらくお待ちください)







「ご馳走様…。後8人…楽しみだなぁ…。」


マルクトはその場から去っていった…。


「…つ…伝えなきゃ…。危険…すぎる…!」


美月は夕菜に連絡をしようとしたが、精神的ダメージも大きく連絡できないまま倒れてしまった…。


―上条 美月=仮面ライダーレンゲル:戦線離脱―



同時刻・SB社病院施設前―



「何とか…。」

「倒すことができたわね…。」


豊桜 冥と神藤 和子…ソフォクレスとエウリピデスは協力し、植物怪人を撃破した。

…これからの話のためにどうやって倒したのか説明すると、

冥の持つ大地銃『アンティゴネ』を使用するためには、大地からエネルギーを吸収する必要がある。

その吸収元を植物怪人にすることで、植物怪人が枯れてしまったところを、

和子の巨大砲『ヒッポリュトス』を撃ち、消滅させたというわけである。

そんな、説明的なことをしている間に冥と和子はあることに気づいて、


「「あ!!」」


と、叫んでしまいました。


『どうしたのだ?』


陣のバイクであるヴォルフも機械だからあまり驚いてはいないが、疑問を持ちかける。


「京「舞夜が!」


冥の言った言葉は、和子の言葉にかき消されていた…。


「舞夜が危ない! 魔女に狙われてるかもしれないのに!!」

「…誰?」


冥は思わず頭に浮かんだ疑問を口にした。


「あ、知らないんだっけ…?」

「知らないわよ!! だいたい、自分だけが知ってる事実を人に押し付けようとすることやめてよね!」

「(ムカ)あんただって自分が技の戦士だからって、人にまでその技術押し付けるのもどうかと思うんだけど!?」

「なっ!? あなただって力の戦士だからって、人を強引に鍛えたりしてるじゃない!!」


ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー…


『はぁ…。』


バイクなのに、ヴォルフはため息をついた。


『やっぱり人間は分からない…。』



同時刻・時雨養護施設研究棟―



「このぉ!!」

『ははっ。太刀が甘いね!』

「これならどうだ!!」

『おっと。』


シグマはデュランと共に、ロストと戦っていた。


「京…。」

「ほう…。意外とやるものですな…。」


キールは心配そうにシグマを見ていた。

対して、エスカリアはじっとシグマを見ていた。まるで獲物を狙う豹の様に…。


「(さて、そろそろ…これの出番ですかな…。)」


エスカリアは懐から、黄金の卵を取り出す。

そう、この作戦における最大の切り札を…彼は…切った…。





第五章 第二十二話 現実を見つめる(ウェイド様作者)


ヴィィィィィィン!!

まさに疾風のごとく走るウォーガ。

水美「もっと早く!列ってやつが死んだら後味が悪くなるのよ!」

ウォーガ『これが最高速度だ・・・・これ以上出せば爆発するぞ?』

二人(?)のやり取りを見ながら雅菜は列の心配をした。

もし・・あの時かまわず変身をしていれば。
そう思って仕方がない。

雅菜「列・・・無事でいて・・・・!」


一方その列はというと・・・。

サイガたん「カイズィーギア・・・あなたが使うものではないです・・返してください」

殺意ともいえるべき波動を送る・・普通の人間なら気絶するほどだ。

カイズィー=ニナ『・・・・・』

その殺意ともいえる波動すらも、まるでなんともないようにしているニナ。

そのまま優雅にサイドバッシャーから降りるニナ。

サイドバッシャーはそのまま変形をしてバイク形態となった。

そして・・最初に動いたのはサイガたんであった。

フライングアタッカー形態に変形して一気に接近する・・!

だが、ニナはその攻撃をよけ、代わりにブレイガンで反撃。
その攻撃をサイガたんはかわして。
また、反撃。

これを繰り返しである。


その戦いを見ている列。

目を背ける事はしない。
現実を・・・・それが彼にできることである。

しかし・・その場所そしてほかの戦闘地区になぞの存在が向かっていることを・・誰も知らなかった。

そして・・・レンナたちは。

ファントムたん「雷光拳!!」
ブレイドたん「ウェア!」

ガキィン!
シルス「無駄・・・・」

己の一撃を与えるファントムたんとブレイドたん

その二人の攻撃すらも受け止めるシルス

セイバー「ハァ!」
セイガー「フン!」

ガキィィィン!!

互角の戦いをするセイバーとセイガー。

イクス「デルタマシンガン・・ファイヤ」

メツ「むだむだぁ!」

ノア「反射角15度変更!」

銃撃を繰り返すメツとイクスそして指令を送るノア

セルファ「戦い続けなさい・・・そうすればこの子がよみがえる・・・お父様の傑作のこの子が・・・・」

ガラスケースの先にはまさに赤い悪魔ともいえる鎧を着ていたものが眠っていた。

それに反応するかのように近づく、バイス。

狙いはレンナことファントムだが・・・・。
それがまさかあのようなことになるとは・・・誰も思ってもいなかった。





第五章 第二十三話 ギルティーの企み(空豆兄様作者)




「・・・完成じゃ。」


魔女の館、その地下・・・。
ビアンコの研究施設にて、また新たな改造実験体が誕生した。

「注文どおりに仕上げたぞ。・・・ギルティーよ。」
「クク。良い仕事をしてくれたな。」


グググ・・・・。


ゆっくりと手術台から起き上がる改造実験体。

今までのものよりも一回り大きく、太い腕と足には獣の毛が生え、鋭い爪が手足の先に伸びている。
腕の中には、人間の細い腕もはみだして見える。
おそらく、改造に使われた人間の腕・・・。
頭は犬のような形をしており、つぎはぎだらけのそれには、鋭い眼光と、口には牙が光る。

「ガルムレ・ハウンドと名づけようかの。」
「よし・・・では、あとは英琉 神歌の捕獲か。」



『ヴガル、ルルルル、ル・・・・・。』
『ヴガ・・・・ミ・・・・。』











「時間を稼いでくれている・・・・。逃げるなら今だろ!?」
二人のライダーの戦いを見つめ続ける俺に、八代が急かす。
「あ、ああ・・・・。」
でも、戦っているのは雅菜の妹だ。
それを見捨てて逃げるなんて・・・・・・。

「列!!」
「う・・・・・・・。ぐ。」

俺も難儀な奴だと思う。
アレだけ悩んで、自分には何も出来ないって悟ったはずなのに。

俺はまだ、まだ・・・!!



ブルオオオオオオオオッ!!!


「っ!!!」

そこに・・・。


「列ーッ!!!!」

ドシャアアアッ!!!

路地裏から白いバイクが飛び出し、そしてそこから誰かが飛び降りてきた!!
それは勢いよく転がると、すぐ俺の前に躍り出て、かばうように立ち上がった。
踊る銀の髪。

「雅菜・・・・。」
「草加さん!」

「ここは任せて、二人は逃げて!」


いつも学園で聞いている彼女の声とは違う、凛とした戦士の声。
だが、今は彼女は変身できないはずだ。
そんな雅菜に、この場を任せるなんて・・・・!



「今の雅菜を置いて、逃げられるか!!」

・・・いつかと同じ台詞。
言ってから俺ははっと気がついた。

「また、そういうんだね。列。」
雅菜も気がついたのか、今度はいつもと同じ、俺の知る友達、草加 雅菜の声で笑うように言った。

「大丈夫。あの子もいるし。」
そういって指差した先・・・・彼女を乗せてきたバイクと、それを運転していた少女。
いや、仮面ライダーが、あの白いライダーとともに戦いを始めていた。

「あなたの日常は、私達が守るから。安心して・・・列。」
「雅菜・・・・。」




「・・・・・・・・・(苦戦」
カイズィーに変身したニナ。

それに立ち向かうのは、スマートブレイン社製の仮面ライダー、サイガ。
そしてデュナミストライダー、ガブリエルと、その相棒ウォーガ。


3対1・・・・さすがに旗色が悪いと踏んだニナは、再びサイドバッシャーにまたがり、バトルモードに変形。
再びその圧倒的な火力を振るい始めた・・・!

「・・・・・(滅殺」






ズブ、ズブ・・・・・。

体が沈む。

蛍が変身した仮面ライダールクスと、アスタロテの放った怪人が戦っているその横で、眠らされていた神歌の体が、暗い「闇」の中に沈んでいく。
丸い水たまりのようなその「闇」は、神歌の体をそこから伸ばした無数の手によって引き込み、沈めていく。

戦闘に夢中だった蛍は、その異常に気づくことはなく、そして同じく眠らされていた華枝も、それに気づく事はなかった・・・。





第五章 第二十四話 カイズィー復活(イシス)



フェイトと“サーチャー”−暦の協力の甲斐あって、負傷者の治療は程なくして終わった。
一人も死者が出なかった事に安堵するフェイトと暦。対し、アンジェは表情一つ変える事をしない。

「・・・・任務完了。これより撤収します。」
「え・・・・・?」

ただ淡々と、事務的に喋る少女の言っている事を理解するのに、フェイトはしばらく時間を要した。



これだけの惨劇が起きながら死者が出なかった事に、喜ばないどころか任務が終了したから帰る?
もしかしたらこの先にも死傷者が出ないという保証も無い。それなのに引き揚げると言うのか?



「待って!また誰か傷付く人が出るかもしれないのよ!?貴女の能力が必要なの!!」
「フェイト・・・・・・・・・」

フェイトの叫びに胸を押さえる暦。
だが、振り返ったアンジェやはり無表情で、さらに彼女が口にしたのは信じ難い事だった。

「それがどうしたのですか?私が主より仰せ授かった任務は、“現在の負傷者の治療”です。この先の事までは管轄外です。」
「そんな・・・・貴女は、誰が傷付こうと構わないって言うの!?」
「はい。そこまでは“騎士団”の、私の与り知らぬ所です。」

愕然とした。つまり、後は好きにしろと言っている様な物だ。

「どうして・・・・・・・」



フェイトは先程のデモンナイツの一人−アラストールについて思い返していた。
彼女は自分を捕らえようとやって来たが、彼女は自分に怪我人の救助を依頼した。
事務的な口調であっても、あれは彼女の本心なのではとさえ思えた。

だが、この少女は違う。
治療という、まさに天使が授けたその能力を人々の救済の為には使わない。
あくまでも任務、それが終われば後は知らない。


これでは、どちらが善人だか分からない。





「こーら、アンジェ!意地悪言わないの!!」

突然、威勢のよい声と共に現れた赤髪の女性がアンジェの体をきつく抱きしめた。
いきなりの事に呆然とするフェイトと暦。アンジェは無表情のままだ。

「ご主人様。発言の意図と只今の行動が理解不能です。詳細な回答を要求します。」
「もう。相変わらず、堅物ちゃんなんだから。」

ようやく抱擁からアンジェを開放する赤髪の女性。
その姿を見て、ようやく暦が我に返った。

「あ・・・・炎使いさん。」
「あら?私を知ってるんだ。ありがとね、“G”の“サーチャー”さん。」

にっこりと微笑むこの女性を暦も、もちろんフェイトも知らぬはずが無かった。


“騎士団”五指に入る、最強の攻撃力の持ち主とされる仮面ライダープロミネンス−炎使い。
彼女が本気で戦えば、ここら一帯は草木一本残らぬ焦土と化すだろう。


「出来れば私も一緒に戦いたいんだけど、能力の関係上、ちょっとね・・・・・」
「それだけではありません。今回の事件の首謀者はヒューマンオルフェノク。つまり、貴女方“G”の管轄のはずです。
 “G”と“騎士団”は任務地が一緒になる事はあっても、共闘という選択肢は無いはずです。」

申し訳なさそうにする炎使いとは対をなして、アンジェは淡々と事実だけを述べていく。

「だから、アンジェはもうちょっと愛想好く出来ないかな?」
「ご主人様。それは任務において無駄な行動と判断し、要求は呑めません。」

これ以上は何を言っても無駄と判断し、心労から来る溜息を吐く炎使いに、フェイトも暦も、苦労してるんだな、という感想を抱いていた。










「たあぁっ!!」
「はっ!!」

同時に剣を揮うシグマとデュラン。
かたや疾風を捲いた一撃、かたや剣の達人に鍛え抜かれた一撃。まともに受ければ、無事で済むはずがない。
しかし、

『くかかか・・・・・そんなもんかっつーの!!』

この狂人−ロストには毛ほどの傷も与えられなかった。


ロストの能力変化は、予想以上にシグマとデュランを苦しめる。
攻撃力が上昇したと思ったら、今度は一切の攻撃を受けつけない。さらには、捉えきれない程の速さでも動く。

それでもなお、シグマとデュランには諦めの色は見えなかった。
互いに一度ロストと距離を取り、間合いを計る。

「・・・・このままじゃ埒が開かない。一気にケリを付けるぞ。」
「・・・・・!はい!!」

シグマもデュランも、各々の必殺技の体勢に入っていく。
二人が本気だと察知したロストは、またも満足気な笑い声を立てる。

『いいねいいねぇ・・・・・それで、俺を殺してみろっての!!』

大袈裟に腕を広げ、両者の必殺技を受け止めようとする。
それに、シグマは不気味な何かを感じ、デュランは気にも留めず、それぞれ地を蹴った。


「ゲイル・スラッシュッ!!」
「シャドウインパルスッ!!」


シグマの最強技とデュランの最強技、疾風と暗黒の剣閃がロストに迫る。
ロストは一切の抵抗をする事なく、その身に二人の斬撃を受けた。

『ぐほあぁぁぁっ!!』

両の肩口からバッサリとシグマとデュランの剣が突き立っている。
ロストの肩口からは彼の体内を駆け巡る潤滑液が、まるで鮮血の様に吹き出ている。

「うっ・・・・・・・・・・」
「これで・・・・・終わりだ。」

シグマは目を背けながら、デュランは目を逸らす事なく、互いの剣を引き抜こうとする。



「えっ!!?」
「なにっ!!」

だが、既に動く事すら出来ないと思われていたロストが、その腕で二人の剣を掴んだ。
それは瀕死の者が出せる力ではない。信じられない事に、このトライアルは見た目程の負傷を負ってない。

『くかか・・・・そうだ、それだ!お前ら、最高だよ!!この殺し、殺される感覚っ!!これを待ってたんだ!!』

絶頂に達したのではと思える程の笑い声を上げるロストに、シグマは言い知れぬ恐怖を感じていく。
必死に引き抜こうとしても、ロストは掴む力を一向に緩めない。

『だが、まだ足りねぇ!!もっとだ!心臓を潰せ!骨を砕け!脳を破壊しろ!もっと俺を殺せっ!!!!』

引き離すどころか、逆にどんどん剣を自分の体に食い込ませていく。
次第に、ロストの体が修繕されていく。四体のアンデッドの細胞の作用であった。

『見たか?俺の体は何度でも再生するんだ。だから、何度でも俺を殺せ!俺を飽きさせるな!!!』

今度は修繕されていく上から強引に二人の剣を引き抜き、再びロストの肩口から潤滑液が吹き出す。
掴んだ剣を、シグマとデュランごと放り投げた。
再び距離を取り、両者共に油断なく剣を構える。ロストは自然体のままだ。

「化け物が・・・・・・」

奥歯を噛み締めながら、ジリジリとロストとの間合いを詰めようとして、異様な気配を感じた。



発生源はロストの背後、キール達を人質に取っている魔術師から、正確には、彼の手にする黄金の卵からだ。
不可解な音声と共に魔術師が何かを呟く毎に、黄金の卵は唸りを上げる。


「神は雷を矢に見立て、乱世の世に平定をもたらす・・・・・・・・・・・“黄金の矢”!!」


魔術師が卵をシグマ達に翳すと、卵からは凄まじい閃光が迸った。
閃光は周囲に高圧の電流を纏い、一直線にシグマに向かって走っていく。

「どけっ!!」
「きゃっ!??」

強引にシグマを押しのけ、デュランもすぐにその場から飛び退く。
シグマが先程まで立っていた場所に、光り輝く矢の様な物が突き立った。数瞬の間を置いて、それは炸裂した。

爆音と共に強烈なエネルギー波が巨大な穴を穿ち、その先の通路も抉り取っていく。
デュランにはこの技に見覚えがあった。何故なら、これは彼の腐れ縁とも言える女の最強技だから。

「今のは・・・・・・槍使いの“メガヴォルト”か!!」
「ほぅ・・・・・・槍使いの技を知っているのかね?」

デュランの驚きに、魔術師は驚いた様な、愉しげな笑みを漏らす。

「あいつとは腐れ縁でな・・・・・」
「なるほど・・・・・君にも興味が湧いてきたよ。君を捕らえ、隅々まで改造してあげよう。」

言いながら、魔術師は卵を頭上に掲げる。
同時に、卵は唸りを上げながら周囲に大気の渦を作り出し、真空の刃を形成していく。

「槍使いを知っているのなら、この技を知らぬ訳はあるまい。」
「く・・・・・“天津彦根”か・・・・・・」

舌打ちするデュランとは対照的に、魔術師は邪悪な笑みを浮かべながら、魔術の行使パスワードを音声入力していく。


「大空の覇者は、その翼の羽ばたきによりて、世界に災厄をもたらす・・・・・“デスブラスト”!!」


紡がれた呪文と共に、卵から真空の刃が襲ってくる。
間一髪、シグマとデュランは横に飛び退き、魔術師の魔術を回避する。
その際、床には惨たらしい傷跡が残り、シグマとデュランは両断されてしまった。

「ロスト。君はそこの彼の相手をしてやりなさい。」

魔術師がデュランに目を向けると、ロストはフラッと動いたと思ったら、次にはデュランの眼前に迫っていた。

『ひゃははははっ!!』
「ちっ!!」

繰り出される巨大な蜘蛛手を魔剣で防ぐ。それをロストは強引に握りこみ、一気にデュランを押し下げていく。
どんどんと後退していくデュラン。このままでは不利と考え力ずくで魔剣を引き離し、ロストと距離を作る。
ロストの手にも巨大剣が握られている。

『お前、さっきの攻撃で躊躇わずに俺を殺そうとしたろ?・・・・お前の方が俺を満足させてくれそうだっつーの。』
「・・・・・それ以上喋るな、化け物が。」

同時に繰り出される斬撃と斬撃、響く甲高い音。
ロストは笑いながら、デュランは無表情に剣を振り続ける。





「くっ・・・・・・・・」

デュランとロストの戦いを見やるシグマ。
初見ではあるが、デュランが強い事はよく分かっている。それでも、あのトライアルはさらに強い。
一人だけでは不利と思い、応援に駆けつけようとするが、


「貴女の目的はキール博士を助ける事でしょう?京さん。」

掛けられた声に咄嗟に振り返ると、そこにはキール達に手にした武器を振り下ろそうとする“生きる屍”の姿が。

「・・・・!!やめて!!先生達に手を出さないで!!」
「ならば、私の相手をしなさい。私に勝ち、見事キール博士やカシス君を救ってあげなさい。」

余裕の態度の魔術師。シグマは一度地を蹴り、疾風の如く駆け出した。


「ゲイル・スラッシュッ!!」


シグマは高速の斬撃を繰り出す。無論、本気ではない。
彼女の狙いは、魔術師の手にする卵である。あれが魔術の媒介だと見抜いたシグマは、卵を破壊すれば魔術師に勝てると見抜いていた。
だが、シグマの斬撃が届く前に、


「古の英雄が造りし堅固なる盾は、悪魔の息吹すら受け付ける事は叶わじ・・・・・“百腕の盾”!!」


魔術師の呼び出した高電圧シールドが防ぐ方が速かった。
それでも、シグマは剣に力を籠めていく。

「う・・・・・くぅ・・・・・・・・・」
「流石ですね・・・・・この“百腕の盾”を破る程の力を秘めているとは・・・・・・」

シグマの剣が次第に魔術師の卵に近づいていく。
それを見ながら、魔術師は口元を邪悪に吊り上げ、

「やはり、貴女は全てを滅ぼす殺戮の存在だ。」
「!!?」

意味深な言葉を呟いた。
その言葉に反応してしまい、シグマの力が弱まり、高電圧シールドに弾かれる。
軽やかに着地するも、シグマには先程の魔術師の言葉が頭から離れなかった。

「どういう意味ですか・・・・・・どういう意味なんですか!!?」
「知りたいですか?」

邪悪に吊り上げた口元を戻す事なく、魔術師は口を開いた。










「・・・・・・・・・・(殺殺殺)」

狂気に歪んだ顔で、カイズィーはサイドバッシャーの光子バルカンを撃ち放つ。
けたたましい爆音と共に辺りの地面は抉られ、SBの広場は見るも無残な状態になっていく。
その攻撃を回避しつつ、サイガとガブリエル、そしてウォーガはそれぞれの得物を用いて戦う。

「・・・・・・・・・・(殺殺殺)」

それをサイドバッシャーの右腕で防ぎ、カイズィーはコクピットのあるスイッチを押した。
同時に、サイドバッシャーが重心を低く取ったのを見て、サイガはカイズィーの次の行動に気づいた。


「皆、逃げて!!」


サイガの叫び声と同時に、サイドバッシャーの左腕からは六発の散弾型熱源誘導ミサイル−エグザップバスターが放たれた。
六発のミサイルの外殻が剥がれ、中から小型のミサイルが大量に現れた。
そして、その狙いは雅菜達だった。

「そんな!!?」

このままでは、雅菜達が危ない。
そう判断したサイガとウォーガは先回りをして、飛び交うミサイルを全て撃ち落した。
広がる爆風を割いて、サイドッバシャーの巨体が迫り来る。

「きゃあっ!!」
『うおぉっ!!』

サイドバッシャーが振るった右腕は容易くサイガとウォーガを吹き飛ばし、サイガは変身を解かれ、ウォーガは行動不能に陥った。

「・・・・・・・・・・(余裕)」

動けない二人には目も向けず、カイズィーは砲門を雅菜達に向ける。
ここまでかと観念しながらも、雅菜は列の前に立ち、そして八代もまた彼の前に立っていた。

「雅菜、八代・・・・もういいよ・・・・俺なんかの為に・・・・・・・」

列の悲痛な声は、しかしこの状況にあっても諦めの色の見えない二人の明るい声に振り払われた。

「言ったでしょ?守るって・・・・・」
「折角出来た友達を、見捨てられないんでな・・・・・・・」

どう見ても強がりにしか聞こえない二人の言葉に、カイズィーは腹を抱えて笑いたくなった。


(滑稽な友情ごっこ・・・・・でも、これまでです。人形使い、ご主人様の任務を邪魔した事を、あの世で後悔しなさい。)


徐々にバルカン砲のボタンを押そうとして・・・・・・・



「調子乗ってんじゃないわよ、このど外道が!!」
「!!??」

突如として前に現れたガブリエルに、カイズィーは全く反応出来なかった。
あの時、ガブリエルはワザとウォーガにミサイルの撃墜に行かせ、自分は必勝の機会を狙っていたのだった。
即ち、カイズィーギアを奪い取る瞬間を・・・・・・・・


「ブルースマッシュ!!」
「・・・・・・・・・・!!?」


高圧の水を纏った槍の一閃が、カイズィーギアに見事命中した。
迸る水流は容易く変身の解かれたニナを流し、カイズィーギアはガブリエルの手中に納まった。


「草加さん!これを!!」
「!!」

ガブリエルが投げたカイズィーギアは見事雅菜の手中に戻り、雅菜は安堵した表情となった。
ガブリエルに、雅菜はこの日最高の笑顔を向けた。

「ありがと・・・・後は、私がやるから。」
「困った時はお互い様ってね〜。あ、でもその笑顔は私に向ける物じゃないでしょ?」

ガブリエルの意地悪そうな笑みに、雅菜は苦笑するばかりだった。
だが、次には凛々しい顔つきに変わり、ゆっくりと立ち上がるニナを見据えた。ニナもまた、その顔は殺意に歪んでいる。


「あなただけは・・・・許さない!!」
「・・・・・・・・・・(殺殺殺殺)」

素早くベルトを着ける雅菜と、徐々に姿を変えていくニナ。


『9・1・3、Standing by』


「変身っ!!」


『Complete』


カイズィーフォンをベルトに填め、雅菜の体は黄金のクロスラインに包まれ、その姿を仮面ライダーへと変え、ニナもまた、自身の本性たるオルフェノクの姿に変わった。
カイズィーはブレイガンを構え駆け出し、エッジホッグはボウガンを構え、連続してその針を矢の如く撃ち出す。

だが、カイズィーにはその攻撃は通じない。
やはり戦闘能力で出し抜かれるならと、再び列達に照準を合わせようとして・・・・・


「おーっと、そうはいかないわよ。」
『・・・・・・・・・・(舌打ち)』

ガブリエルが列達を庇い立てする様に立ち塞がっていた。これでは八方塞だ。

「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」
『!!??』

そして、その油断を逃す程、カイズィーは甘くなかった。
瞬時にしてエッジホッグに迫り、ブレイガンをエッジホッグに突き刺した。


『・・・・・・・・・・!??』


声にならない悲鳴が聞こえてくる様な気さえした。
エッジホッグは自分の体に突き刺さるブレイガンを見やり、次にはカイズィーに目を向けた。
カイズィーは視線を合わせる事なく、ただ口を開いた。


「終わりよ・・・・・・・・・・」


ブレイガンからミッションメモリーを引き抜き、同時に穴の開いたエッジホッグの体に何発もブレイガンの銃弾を見舞った。
エッジホッグの体からは盛大に火花が散り、一撃を受ける毎に後退していく。


『Ready』


次には、カイズィーは素早くカイズィーポインターをセットし、エンターキーを押していた。


『Exceed Charge』


跳躍と同時に、カイズィーは右足のポインターに収束されたフォトンブラッドをエッジホッグに放つ。
フォトンブラッドは黄金のサークルを形成し、そこにカイズィーは素早く飛び込んだ。


「てやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『・・・・・・・・・・!!!?』


深手を負っていたエッジホッグには、カイズィーの最強技たるゴルドスマッシュを躱す余裕はなかった。
強烈な一撃をその身に受け、カイズィーはエッジホッグの後ろに立ち、エッジホッグは膝を突いていた。
そして、次第にその姿は白いメイド服の少女に戻っていく。

「・・・・・・・・・・(死死死死)」

虚ろな目で、もはや立ち上がる事も出来ぬと思われていたニナは、最後の力とばかりに何とか顔を上げた。
その見つめる先にいるのは、列とガブリエル、そして八代。
ニナは虚ろな目から、再び殺意に満ちた目となり、ゆっくりと口を開いた。
声のないはずの少女は、口の動きだけで、


き さ ま さ え い な け れ ば・・・・・・・・・・


そう呟いが、ニナに出来たのはそこまでだった。
彼女の体に黄金のΧの紋章が浮かび、次には青い炎が上がった。ニナは力なく倒れると、最後にはその体も灰になって消えた。





第五章 第二十五話 不老の魔女、そして雪上断火刀(岡島様作者)



「ここで知る必要はない!」
機械的な声が魔術師の言葉を阻む。そして、黒い法衣を着て、フードで頭部を覆っている人物が現れる
「えっ!」
その顔を見たシグマは、驚いた。その人物には顔がなかったからだ。
だがよく見ると、その人物は鏡のような仮面をつけていたのだ。
突然の事で、その場で行われていた戦闘が中断し
そして、シグマ、魔術師、デュラン、ロスト、キール、カシスの視線がその人物に注がれる
特に魔術師は、その人物の登場にかなり驚いていた。それは彼の予想の範疇を大きく超えた
事態が起こったからだ。
「なぜ、貴女がここにいる」
彼はこの人物を知っていた。
「不老の魔女・・・・・・・・・・」

不老の魔女、最近になって、その存在が確認された伝説の魔女。推定年齢は400歳以上、
記録上では高度な魔術、錬金術を駆使し、更には魔物退治を行っていたという記録も残っている。
その実態は謎が多く、最近までその存在さえ疑われていた。もっとも、存在が確認された今でも
謎だらけの人物である。騎士団も彼女の正体を未だつかめてはいない

「初めましてかな、エスカリア博士、それとも魔術師の方が良いかしら」
魔術師は、感情を押し殺しながら、あくまで冷静に答える
「私の質問に答えてませんよ。何故貴女は・・・・」
「希望を救いに来た・・・・・・・・・・」
「希望?」
「単刀直入に言うわ、キール博士達を解放し、この場から撤退しなさい」
魔術師は答える
「それは、無理な相談ですよ」
すると、不老の魔女は
「予想どうりね、なら」
そう言うと白い六角形の金属塊とりだす。それには細かな字で様々な文字が刻まれている
「実力行使に出るしかないようね」
魔術師は言う
「そんなことをすれば、貴女は騎士団を敵に回しますよ」
不老の魔女は答える
「構わない。運命を変えることが出来るなら」
彼女は、呪文を唱え始める。彼女の手にする金属塊が唸りをあげる。この金属塊は魔術師の持つ
黄金の卵と似たような能力を持っている
「光よ、我が元に集いて、邪悪なものを撃ちぬけ、アルファレイ」
金属塊を魔術師に向けて翳す。すると金属塊から一筋の光が放たれ、それは魔術師の方へと向かっていく
「百腕の盾!」
魔術師は高電圧シールドで防ぐ。
「やりますね。 しかし今は貴女の相手をしている暇はありません」
そして生きる屍達が現れ、彼女を囲む。
「貴女に通用するかは、わかりませんが少しは時間稼ぎになるでしょう」
「時間稼ぎね・・・・(時間稼ぎは終わった。後は時がたつのを待つのみ)」

そしてエウリュディケは
『変な奴が現れたみたいだけど・・・・まあいいか』
赤い刀を手に取り
『そろそろ頃合いだね』

そして
「さて邪魔が入りましたが、話の続きです。」
魔術師はシグマに話しかけた。その時
『シグマ』
「エウリュディケ!」
今度は、エウリュディケが現れ魔術師の言葉を阻む。
その手には赤い刀が握られていて更にその刀からは炎を吹き出していた。
『受け取れ』
赤い刀をシグマの方に投げつける。そして刀はシグマの足元に落ちた。
すると、刀から吹き出していた炎は消える。
『その雪上断火刀は君の刀だ。そう君にしか使えない』
「私に・・・・・・・何故?」
シグマは敵であるはずのエウリュディケが、何故、自分の手助けをするのか疑問だった
エウリュディケはその疑問には答えない
『さあ、刀を取れ、そして勝利しろ』
そう言うとエウリュディケは姿を消す。そしてシグマは雪上断火刀を手に取った。





第五章 第二十六話 閃光と音速の力(残影刃様作者)



『ひゃははははっ!!どうした、その程度か!!?』
「………っ。」

デュランは、ロストの斬撃を受け流すのに精一杯の状況であった。
そして、ロストがとどめの一撃と油断した大振りの剣をデュランは見切り、寸前で避け、一定の距離まで離れた。

『お前なら、俺を楽しませてくれると思ったんだがなぁ!!』
「…………五月蝿い。」

ロストの嗤い声を聞きながら、デュランは静かに反撃の手を組み上げていく。
そして、デュランは自らの武器である魔剣に手を添えて口を開く。

「………あんまり使いたくは無かったんだがな。」
『あん?』

その瞬間、魔剣の刀身に変化が起き、デュランは変化を待たずにロストに突進してゆく。
ロストも、意表をつかれたせいか一瞬だけ、身を怯ませる。
その隙をつき、デュランはロストの脇腹を大きく切り裂く。
その時、魔剣は既に変化を完了し、漆黒の大鎌に変化していた。

『くかかかっ、さっきのは少し驚いたけど…こんな傷なら……ん?』

嗤っていたロストは、自分の脇腹が一向に回復の兆しを見せない事に気が付き驚いた。

「……魔剣“断之型”、その形態で斬った対象の再生力を極限まで下げる事が出来る。」

デュランが、静かに説明すると、ロストは突然大声で嗤った。

「ひゃはははははははっ!!最高だぜお前!なあ、名前はなんて言うんだ!?」
「………デュラン……全てを滅する者だ……。」

こうして、二人の戦いは激しさを増していく事になる。
そして、その戦いを見る一つの影もあった。
それは、黒く小さい球体に、蝙蝠の翼と大きな目玉を取り付けたようなものであった。








その頃、蛍が戦っている公園では、蒼い法衣を身に纏った女性が大きな木の枝で戦いを見ていた。

「ふふ、監視するだけの任務だからつまらないと思ってけど…意外と面白いものね。」

女性は、とても楽しそうに笑いながら状況を整理してゆく。

「…まさか、私の他に魔女が二人も来ているなんて…本当、楽しい事が起きそうね♪」

そう、デュランとロスト、そしてシグマの戦いを監視していた物体の持ち主は彼女である。
彼女は、無数の物体の大きな目玉を通して、現在する全ての戦いの状況を把握していた。

「それにしても、“お姫様”も甘いわよね〜。周りにいる一般人に被害が及ぶからって力の解放を躊躇うなんて……。」

ローブで、顔が良く分からないが、少しだけ見える口元ははぁっとため息を吐いていた。

「それと…何がしたいのかしらビアンコ様は……。」

今度は、じっと蛍と共に逃げてきた少女二人の内一人…神歌が闇に沈んでゆくのを見てぼやいた。

「まあ、良いけどね。私…ウィッチ・シャルエはデモンナイツに所属してるんだから……。」








「…………くっ!」

同時刻、ルクスは二体のビースト相手に苦戦していた。
しかし、それは当然の事であった。
ルクスは、まだ目覚めたばかりで未だに“戦う力”が生まれていないのだから。

「ほら〜、しっかり戦わないとやられるわよ〜♪」

そんなルクスの姿を見て、アスタロテは笑いながら応援する。

「(駄目、力負けしている…。)」

ルクスもまた、自身の能力が、二体のビーストと比べて低い事に気が付いていた。
更に、二体のビーストは互いの弱点を理解し、補うように襲ってくる。
説明すると、力が強く頑丈だが遅い蜘蛛型が蜂型を守り、速く手数はあるが攻撃力の低い蜂型が蜘蛛型の隙をフォローするといった形だ。
それは、別に二体にすでにあったものではなく、アスタロテが教え込んだ戦法である。

「うん、あの子達、教えたとおりにやってるわね。」

アスタロテは、我が子の成長を喜ぶかのように笑っていた。
一方のルクスは、すでに体力が切れかけていた。
その事は、自身でも良く分かっていた。

「……でも!」

しかし、彼女の目は絶望の色を宿してはいなかった。
アスタロテに眠らされた二人の少女を助ける為に、自分は負ける訳にはいかない。
そして、そんな思いを、彼女に眠る力は裏切らなかった。

「……絶対に守るんだ!!」

瞬間、彼女の体に白い光が生まれ、彼女の身に纏っていた衣は、色は前と変わらないが、ブレイドたんのように軽く、動きやすそうな服へと変化した。

「ルクスたん・グリンフォーム!」

ルクスが叫んだ瞬間、その手には金の刃に青地に白い装飾をなされた両刃の片手剣が出現する。
そして、ルクスはそのまま蜘蛛型に突撃し、蜘蛛型に剣を振るった。
先ほどまでとの勢いの違いに、驚いていた蜘蛛型は、防御できずに胸を切り裂かれる。

『ギシャアアアアアッ!!』

蜘蛛型は大きな悲鳴を上げ、胸を押さえる。
ルクスは、その隙を見逃さずに一定の距離まで離れ、右足に大きな力を溜め込むと、そのまま高く跳び、一回転してから蜘蛛型目掛け飛び込む。

「…………ごめんね。」

ルクスは小さくそう呟きながら、必殺の蹴りを蜘蛛型に打ち込む。
すると、蜘蛛型は光と共に粒子となっていった。
すぐさま、ルクスは蜂型の方向を向く、すると、蜂型はルクスを撹乱する為にランダムに飛び回る。
そして、それを見ているルクスはまた強く願った。

「…追いつける速さが欲しい!」

その瞬間、今度は彼女の周りを緑色の風が包み込む。
そして、更に軽装な身となり、青かった部分が緑へと変化していた。
そして、その腕には大きい装甲と鋭い爪が付いていた。

「ルクスたん・ソニックフォーム!」

そう叫び、ルクスは一気に駆け出す。すると、ルクスの身はすぐに自身の最高速度まで達し、蜂型の目の前に現れる。

『!!』
「やあぁ!」

蜂型は驚愕し、そのままルクスの拳を無防備に受け、地面へと落下してゆく。
一方のルクスは、その身を大きく捻り、大気を巻き込みながら高速落下してゆく。

「ツイスト…テンペストォ!!」

蜂型が体制を立て直す隙を与えず、ルクスはそのまま蜂型の胴体を真っ二つに貫いた。
そして、蜂型のビーストも、粒子となって消えてしまった。

「…ありがとうね。」

二体のビーストの死を目にしてアスタロテは、悲しそうな目をして呟いた。

「……まだ……やりますか……。」

ルクスは、アスタロテの方を向き、疲労を顔に見せながら睨む。

「……そうね。分かった、帰る事にするわ(任務は完了したしね)。」

アスタロテは、ニッコリとルクスに微笑んだ後、後ろを向きビーストと共に去って行った。

「……助……かっ……た……。」

安心した瞬間、体中の力が抜け、ルクスの姿から蛍の姿へと戻り、後ろに倒れる。
そして、そのまま頭から倒れそうになった瞬間、蛍は誰かに支えられる感覚に陥った。

「……だ……れ……。」

蛍が、薄れ行く中で見た人物は、影で顔が見えなかったけれどどこか懐かしさを感じた。
それを見た後、そのまま蛍は眠ってしまった。

「……相変わらず、なんだね君は……。」

蛍を支えた人物…肩まで伸びた茶髪を後ろで縛り、まだ少年らしさの残っている青年は呟いた。

「……それにしても、さっきので落ちちゃったんだ…染めた色…。」

その時、蛍の髪の色はいつもの茶色ではなく、澄んだ綺麗な金色になっていた。

「まあ、こっちの方が綺麗だけどね…。」

そう呟きながら、青年は蛍を腕に抱き上げた後、ベンチに寝転がせてそのまま去って行った。





第二十七話 覚醒する焔 〜BLAZE FORM〜(ユルカ様作者)





「私の刀…。」


シグマはついさっき、エウリュディケから渡された刀をじっと見ていた。

…エウリュディケが考えていることは分からない…。

だが今は、このチャンスを最大限に生かすしかない…。


「(あの卵を破壊し、先生達を解放した後、あのロストを倒す…!)」

「何を考えているのですか…。京さん?」


シグマは魔術師の方を向き、ちょっち睨む。


「あなたが何を知っているのか、そんなことは全部後回しです! 今は私のやるべきことをやるだけです!」

「愚かですね…。自分の出生の秘密を知るいい機会じゃないですか…。」

「…!?」


魔術師のセリフにどうしても動きの止まるシグマ。


「…京さん…あなたは…。」

「やめなさい! それ以上は…!!」


キールが魔術師に飛びかかろうとするが、リビングデッドがそれを押さえ込む。


「うっ!!」

「先生っ!!」

「おとなしくしておいてください。手荒な真似はしたくないのですよ。」

「すでにしてるじゃない…!!」


やっとおとなしくなったキールを見て、魔術師は遂に語りだす。


「あなたは…人造人間(ホムンクルス)なのですよ。京さん。」

「ほ…ホムンクルス…!?」

「そして、あなたの意思に関係なく、仮面ライダーを倒す仮面ライダーとして改造されたのですよ…。」

「そんな…そんなこと…信じられない!!」


魔術師の言葉を必死に否定する京。

しかし…。


「キール博士が否定しないのが、その証拠でしょう?」

「先生…! 何とか言ってください!!」


だが、キールは何も言わない…。

それは、正しいことの裏返しなのか…?


「そんな…そんな…。」


その隙を、魔術師は見逃さなかった。


「暗き世界の魔獣よ、その瞳に宿る滅びの煌きを、我が前に立つ障害へと向けたまえ……」

「京!! 逃げて!!」

「暗黒の瞳!」


キールの言葉も遮られ、魔術師は遂に最強魔術:暗黒の瞳を発動させる…。

この穴はその位置にあるものを全て飲み込む…が、しかし…。


「な…なぜだっ!!?」


シグマは飲み込まれなかった。

よく見ると、雪上断火刀が紅く輝いている。


「聞こえる…。」


シグマには…聞こえていた。

これを渡したエウリュディケの声が…。


『例え造られた者だろうが、宇宙人だろうが、シグマはシグマだろう?』


―そうだ…。


『自分が信じる道を、歩めばいい。それが正しいか間違っているかは別として。』


―私は…私の道を進む!


『今はただ、守りたい人を守ればいいのさ。それが、君のやるべきことならば!』


―もう…迷わない!!


「烈火変身!!」

「!?」


その言葉で、シグマの体が炎に包まれる。

炎の中でシグマの姿が変わっていく…。


「はぁぁぁぁ…! たあっ!!」


キャラが違う気がしないでもないが、(違うって)シグマの新たな変身は完了した。

赤を基調としたその姿は持っている刀とも相まって、武者を思わせるかのようだ。


「仮面ライダーシグマ、ブレイズフォーム! 我、闇を燃やす焔也!!」

「フフフ…。例え”暗黒の瞳”が破られようが、私の魔術全てが破られたわけではありませんよ!」


そして、再び魔術師は魔術の行使パスワードを音声入力する。


「神は雷を矢に見立て、乱世の世に平定をもたらす…………“黄金の矢”!!」


卵から閃光が迸り、周囲に高圧の電流を纏ってシグマに向かっていく。


「はっ!!」


が、その閃光はシグマの持つ雪上断火刀によって消滅してしまう。


「くっ! ならこれは! 大空の覇者は、その翼の羽ばたきによりて、世界に災厄をもたらす……“デスブラスト”!!」


真空の刃がシグマを襲うが、余裕で全部回避してしまった。

シグマが早々と覚醒させた能力・頭脳のお陰だった。

あらゆるものを見極められる目を持つようになったシグマにとって、一度見た攻撃はほぼ確実に避けられる。

そうこうしてる間に、シグマは魔術師の卵を壊そうと近づいてきていた。


「古の英雄が造りし堅固なる盾は、悪魔の息吹すら受け付ける事は叶わじ……“百腕の盾”!!」


高電圧シールドを張る魔術師だが、今のシグマにとっては無力であった。


「業炎爆滅斬!!」


刀身が炎へと変わり、高電圧シールドを打ち破る…そして…


「なっ!!?」


魔術師の切り札である黄金の卵は、影も形も残らず消滅した。



そのころ―


『やっぱり、”ラジエルの書”は間違っていなかった…。』


エウリュディケは火傷した手を冷やしながら、モニターを見ていた。


『「自らの運命を知りつつも、希望の主は黄金の卵を打ち砕く。」…”ラジエルの書”の文どおりだ。』


どうやらこの”ラジエルの書”、預言書のようだ…。


『この先は…「罪の名を持つ者の武具は別の者により打ち砕かれる…。」か…。』


エウリュディケは”ラジエルの書”を閉じると、ため息をついた。


『この混沌の戦い…異変が起こるとすれば…今日だな…。』





第五章 第二十八話 少女達の幸せ(空豆兄様作者)



(・・・。)



突然だが。



私の両親は仲がいい。
一人娘である私への愛情もさることながら、お父さんとお母さんのおしどり夫婦っぷりも目を見張るものがある。

お父さんが家に帰れば、お母さんは抱擁でお出迎え。
ご飯を食べれば、私の前でも「あ〜ん」とかやるし、休日にはほぼ必ずデートと表して買い物に出かけ、辺りにラブオーラを振りまいてくるのだ。
とにかく、近所では知らないものがいないほどのラブラブな夫婦。

昔お父さんが贈ったエンゲージリングを、今でも出かけるときには必ずつけているというから、二人の思いは尽きる事がない。
付けられた宝石は、お母さんの誕生石・・・『トパーズ』。
婚約したときに、お父さんが買ったものらしい。


二人は幼馴染同士で、熱烈な恋愛を経て結婚した。
何で私が知っているかというと、散々あてられたノロケ話だからな訳で。



私はそんな両親を見て育ったものだから、恋愛に興味を持つのは他の同年代の女の子よりずっとずっと早かった。
幼稚園の頃から、男の子と手を繋いだりするのは躊躇われたし、一緒に遊んだりするのも少し敬遠していた。

好きでもない男の子とそんなことは出来ない――――

幼心にそんな制約をかけていたのが、幼年時代の私。




小学校に上がり、このときから私の身長は大きく伸び始める。
小さいもの順で並ばされる時は、常に一番後ろ。
見るだけで目立つほどの、大きな小学生だった。


このときから私は、男の子達の興味の対象になるようになった。
他の女子達よりもずっと大人っぽい(そう見えたのだろう)私を、男の子達は興味本位でちょっかいを出してくる。

男の子を避けるクセは抜けていなかったのか、私は男に冷たい女と思われていたので、仕返しとばかり、その行動は目に余るものがあった。
・・・身体検査が終わって教室に帰ってくる私を、男子がいっせいに襲い掛かり、・・・裸を見られそうになったこともあった。
信じられないが、本当にそんなこともやるのだ。・・・小学生というのは。



男の子の事がだんだん嫌いになる毎日。
そんな中で、お父さんとお母さんの仲のいい姿だけが、わたしを踏みとどまらせていた。

「もっと身近に男の子がいればよかったな。」

お父さんのそんな言葉が、不思議と心に残ったのを覚えてる。
身近の男の子。

恋人なんていえる人は私にはいない。
・・・それはそうだ。このとき、私は8歳。
周りにそんなことを本気で考える子は誰もいなかったし、いるはずもなかったから。

だったら、男嫌いになりつつある私に、どんな人が私の身近にいるべきなんだろう。

「あなたにも・・・おにいちゃんがいればよかったのにね。」


おにい、ちゃん・・・・・・・・。
お母さんの言葉。

兄。自分よりも先にお母さんから生まれた男性をそう指す。




おにいちゃんかぁ・・・。

恋人とは違って、気楽に一緒にいてくれる、すごく身近な異性。
そんな人がいれば、私も男の子を好きになれるだろうか・・・・・・・。







そして。




「神歌のおにいちゃんになってください。やさしそうなおにいちゃん。」




私は、列さんに出会った・・・・・・。




・・・・・・・・。




「自分のことを何も知らぬ、哀れな娘よな・・・・・・。」
その全身を、泥人形(ゴーレム)から作成した軽量型デミ・パランツェに拘束されている神歌。
縛り上げられた彼女のあごをなで上げるのは・・・魔女の館の主。

ウィッチ・ビアンコ。

「英琉 神歌。この娘を使い、お前達の目の上のコブ・・・ゼベイルを始末する。」
傍らに立つのは、仮面ライダーギルティー。

「しかし回りくどいことをするわい。おぬしの力を持ってすれば、ゼベイルを消し炭にすることなど造作もなかろうに。」
「お前達はゼベイルを始末したいといいながらも、過激なことはやらない。それはゼベイルの体そのものに用があるからではないのか?」

・・・・・・・。

ギルティーの指摘に、魔女は口を閉ざす。
「・・・図星のようだな。失敗作といいながら、お前達はゼベイルにこだわる。その理由はなんだ?」
「・・・協力関係とはいえ、それを主に言う必要は感じぬが?」

「まあいい。・・・お前達がゼベイルの確保を望むなら、それもいいだろう。」
「フン。おぬしこそ、この作戦を楽しんでいるように見えるが?」

「それは当然だ。実力のまるで違う相手を、くびり殺してもつまらぬからな。」
「脆弱な人間ども。奴らがそのか弱き力でもがき苦しむさまを見るのが、俺の数少ない娯楽だ。」

「なるほど・・・・趣味が合うのう。キヒヒヒヒヒヒヒ・・・・・。」





・・・・・・。







あの女の子は、なんだったんだろう。
灰色の怪人に変身した、メイド服姿の女の子。

華枝たちとも変わらないような歳に見えた。
そんな子も、ああやって力を手にすれば、人を平気で襲うようになるのだろうか・・・。
俺は、雅菜に倒され、灰となって崩れていくその少女の姿に、哀れみのようなものを感じた。

確かに彼女は俺を襲い、雅菜を襲い八代を襲った恐ろしい怪人だった、だけど・・・。

もっと、別の形で逢えたら良かったのに・・・・。





「列・・・無事でよかった。」
携帯電話をベルトから外し、俺の知る雅菜の姿に戻る仮面ライダー。
「あ・・・ああ。」
そのいつもと変わらない表情に、俺は安堵する。

・・・でも、まだわだかまりはあった。
俺のせいで傷ついた雅菜。
俺はそんな彼女にどんな顔を・・・。

「列。ほら、ちゃんと話しなきゃダメだろ?」
後ろで、八代がせかす。
「う、お、押すな。」

どんっと、雅菜の前に押し出される。

「・・・・・・・・・・・・・・あー。」
「・・・・・・・・。」

向かい合って立つ俺たち。
お見合いのような状態になってしまう。
かける言葉が見つからず、視線が泳ぐ。

「列。あの、その・・・・。」
先に口を開いたのは雅菜。
ただ、俺と同じ気持ちなのか、何を言うべきか迷っているように見えた。

「えと、ええとね・・・・。」



顔を赤くしてもじもじしている。
なんだか新鮮に映るわけだが・・・。

「列!」
「は、はい!!」

「私、実はこんなだけど、でも、今までと変わらないから!だから・・・!!!」

「これからも、その・・・・。今までどおり一緒に、いて欲しい。・・・・だめ、かなぁ?」




・・・・・・・・・・。
なんて事を赤い顔で言って来る雅菜。

・・・なぁんだ。こいつも。


「同じ気持ちだったんだ。」

八代に言われて、気がつかされたこと。
彼女はライダーだけど、普段は普通の女の子。
そんな彼女に俺たちが出来る事。

それは、今までどおり彼女に接することだと。

雅菜本人も、それを望んでいたんだ・・・。

「同じ・・・・なんだ。」


「でも、雅菜。俺は、お前を傷つけたんだぞ・・・?」
俺は確かめるように雅菜に尋ねる。
でも、そんなの愚問だと思った。
「じゃあ、私はあなたを命の危険に晒したのよ?」
同じようなことを俺に聞く雅菜。
「・・・そうだな。おあいこだ。」
「うん・・・。おあいこだね。」


「・・・なあ雅菜。お前が、こんな俺みたいな奴がの事を・・・・」
弱くて、何のとりえもなくて、ただの人間の俺を迷惑と思わないのなら。

「こんな俺でいいなら、俺は・・・お前のそばにいるよ。」

「列・・・・・!」



ぎゅっと、俺の手を握る雅菜。
俺の顔をまっすぐに見つめている。
俺も、そんな雅菜の顔を見たら、悩んでいたことが本当にどうでもいいことに思えてきた。

俺は俺、雅菜は雅菜。
そんな簡単なことが、今俺はやっと理解できた・・・・。




「・・・・・・・・・////」

ふと気がつくと、周りにいたみんなが何も言わなくなっていることに気がつく。


「・・・・///あ、あの。」

先ほど俺達の前に現れた女の子・・・白くてきれいな肩まで伸ばした髪が印象的な、雅菜の妹と名乗った女の子が、顔を赤くしながら俺たちに近づいてきた。

「どうしたの?」
何事かと俺は尋ねる。


「え、えーと、二人は、恋人同士なんでしょうか?」

「!!!?」
恋人!?

その言葉に一瞬色めき立つが、ちょっと考えればなるほどそうかと納得してしまう。

先ほどまでの会話。
それに手と手を握り合う俺達。
雅菜の表情・・・・。

告白が成立し、カップルになったと思われても不思議ではない、か・・・・・・・・。



「・・・はぁ。安心したと思ったら告白かよ。お前ら大したもんだよな。」
大きく息を吐き、腰を落とす八代。

「ち、違う!!!これは告白じゃない、告白じゃないぞ!!!」
今更ながら、その少女と八代に向かって否定する俺。

雅菜もなんか言え・・・って、手を放す気配がねぇぇ!!

「列・・・。」
ああああ・・・。
そんな熱っぽい顔するな!

「あ〜あ、そんな事言って、私は知らないからね〜。」
あきれたように言葉を漏らす、もう一人の仮面ライダーの少女。
昨日、散々俺をバカにした女の子だ。

「・・・ま、とにかくだ。病院に戻るか?ま、こうして見舞う予定だった草加さんはぴんぴんしてるわけだし。戻る意味もなさそうだけど?」

「い、いや、もう帰ったほうがいいかな?一緒に来た水無瀬先輩には、電話を入れておくから。」
「そうだな・・・。全く、今日は疲れたぜ・・・。」

「送っていくよ。列。」
「え?」

俺の手を握ったまま、雅菜がそう提案する。
「あのメカ・・・。サイドバッシャーはそもそも私のマシンだし。」
「そ、そうか?なら、たのもうかな・・・・。」

「おうおう、さっそく二人でツーリングかよ!」
はやす八代。
「はぁ・・・。義姉さん、すっかり人の世に溶け込んで・・・。」
妹、という少女も感嘆のため息を漏らした。

「う、うるさいよ!ほら、やってくれよ、雅菜!」
「うん・・・・。じゃ、みんな。」

雅菜は、サイドバッシャーと呼ぶサイドカーに俺を乗せ、発車させた。






・・・・・・・。

風を切るそのサイドカーの中で、俺は雅菜の横顔を見る。

(これからも、その・・・・。今までどおり一緒に、いて欲しい。・・・・だめ、かなぁ?)

先ほどの言葉を思い出す。
熱い表情と、俺の手を握り締める温もり。


告白・・・男女の結びつき。
雅菜は、俺をそういう対象としてみているのか?

俺はああやって否定はしたわけだが、彼女は一切しなかった。



雅菜の気持ち、か・・・・・・・・。




・・・俺がこうやって、先ほどまでの身の危機も忘れて、歳相応の想いに駆られた甘い気分も、俺の部屋に残された手紙の内容に



その全てが、吹き飛ぶことになる。











                     『英琉 神歌は預かった』
           『無事に返して欲しければ、今宵午前0時、街外れの森の入り口に来い』





第五章 第二十九話 繰り広げられる激闘と決着(イシス)



風が強く吹き付ける。
見上げれば、すぐそこには広い青空と、白い雲が漂っている。
見下ろせば、地上などちっぽけに思える程の高さ。道も自然に出来上がっただけの簡素な物。
僅かにでも足を踏み外せば、地上へ真っ逆さま。自分の一生が走馬灯として見る事が出来るだろう。



「いい風ね・・・・・」

険しい山道、スティール曰く『風王の冠』と呼ばれる大山脈。
そこには、ギルティーの八つの武具たる『ウィンドシールド』が安置されていた。

その情報を独自に掴んだスティールは、早速『騎士団』に応援を要請し、それに暗殺者が応じた。
破壊するのに二人いれば十分という結論に至り、今現在、二人は神聖で、それでいて魔界にも思える大山脈に挑んでいる。

並の者なら、この強い風が襲い掛かる山道を登る事すら叶わない。
だが、暗殺者とスティールはさして苦もなく登っていき、暗殺者に至っては暴風の如き風を心地よく感じてさえいる。
そんな彼女に苦笑しながらも、スティールは彼女に、『騎士団』に対する警戒を解いてはいなかった。

「随分不機嫌ね?」
「そうなるわよ。イクスちゃんを洗脳されて、いい気分なはずないでしょ。」


ここに来る前、ここ最近のイクスの様子がおかしい事に疑いを持っていたスティールは、暗殺者にその事を尋ねた。
すると、暗殺者はあっさりとイクスの洗脳を認めた。理由は、もう隠す意味も無いそうだ。


「ノアちゃんって娘がいくら可愛い娘でも、それとこれとは別。大人しく返さないのなら・・・・」
「返すわよ。近い内、必ず。あの娘から・・・・・」

僅かに殺気を籠めたスティールだったが、暗殺者はそれに応じる所か、あっさりとイクスの返還に応じると言った。
あまりの拍子抜けさに、スティールは頭がこんがらがる思いだった。

「あの娘、以前はデュナミストの事を相当嫌ってたんだけど、レンナ・・・・ファントムと出会ってから、ちょっとずつだけど変わってきてる。」
「ファントム・・・・“幻影”のデュナミストライダー・・・・(僕っ娘ね。)」
「ノアは、少しずつデュナミストの事を理解していってる。善い者もいれば、悪い者もいる。当たり前なんだけど、なかなか気づかないのよね。」

すいすいと山道を歩きながら、暗殺者は軽く微笑む。

「・・・・イクスちゃんは大丈夫なのね?」
「えぇ。改造したのは“デルタマシンガン”ぐらいだし、何個か装備を加えただけだから。安心していいわ。」
「・・・・出来たらね。」

対し、スティールはなかなか仏頂面を変えない。
そんな彼女を見て、暗殺者は微笑みながらスティールの横に並び、耳元にそっと囁いた。

「イクスちゃんのスタイルが変わってたら心配?」
「・・・・・!??な、なにをっ・・・・・・」
「貴女の好きなイクスちゃんは、胸が大きい方が好み?それとも、貧乳な方?」

明らかな動揺を見せるスティールに、暗殺者は満足気に微笑む。
スティールの趣味がばれているのは明白だ。

「そ・・・・そんな事はないわ!イクスちゃんは、イクスちゃんよ!胸が大きかろうと、小さかろうと・・・・・
 ・・・・・って、なんで貴女私の趣味を・・・・・・!!」
「ふふ。似た友達がいるからね。」
「うぅ・・・・・(あのアホ面デカ女ね。)」

何と無しに、口では暗殺者に勝てない気がすると踏んだスティールは、歩調を速めて先に登っていく。
それを、暗殺者は含みのある笑顔と共に、軽やかな足取りで後を追った。





岩肌に巧妙に隠された通路。
暗く、一切人間の手が加わっていない事が見て分かる。が、それも最初の部分だけだった。
進む毎に段々と人の手が加えられているのが明らかとなっていき、最深部の大空洞に至ってはもはや建造物とさえ言えた。


例えるなら、神殿の祭壇。


祭壇には厳重に安置された風を纏う盾が、選定者以外は寄せ付けぬとばかりに、最深部を風で満たす。
それは、山道に吹き付ける風の比ではない。油断すれば容易く風に自由を奪われ、壁という壁に体を打ちつける結果になるだろう。
それでもなお、暗殺者とスティールは歩みを緩めない。段々と祭壇に近づいていく。

「先に言っておくけど・・・・ギルティーの武具にはセキュリティとして、その武具を守るガーディアンがいるの。
 ・・・・・油断しないでね。」
「お互いに。」

やはり笑みを絶やさない暗殺者に、スティールはほとほと苦笑する他なかった。
が、それも一瞬だけ。盾からより一層強い風が吹き付けたかと思うと、その風が盾に集まっていき、何かを象っていく。


「変身!」
「覚醒!!」


同時に、暗殺者は黒姫に、スティールは仮面ライダーとしての姿に変わった。
集まった風は、巨大な腕を持った巨人を形成していく。
下半身はなく、その代わりジャイロが備わっており、その回転が巨人を宙に浮かす。
巨人が吼えたと同時に、黒姫もスティールもその場から喪失した。

「はっ!」

次には、黒姫は壁伝いに走りながら、巨人に数本のナイフを放っていた。
しかし、巨人はそれに目を向ける事なく、突如として風が巻き起こり、ナイフを全て吹き飛ばしてしまった。

「アイアンマリオネット!!」

赤い髪から銀髪に変わり、目も金色となったスティールの号令と共に、何体かの朽ちた人形が巨人に飛び掛る。
何体かは風に巻き込まれ、ズタボロに引き裂かれたが、残りの人形達は巨人にしがみついた。


「ナパームダンス!!」


スティールの号令を切欠として、朽ちた人形達が一斉に灼熱に燃え上がり、次には大爆発を起こした。

「やった!?」

勝利を確信しながら、それでも油断することなく、スティールは煙の奥の巨人の出方を窺う。
煙から現れた巨人は、片腕を一本喪失していた。同時に、吹き付ける風も弱まる。巨大な二本腕は風の制御を司るものらしい。

「はぁっ!!」

その隙を逃す黒姫ではなかった。巨人の影にナイフを突き立て、動きを封じる。
動かない巨人に駆け寄りながら、黒姫の左足には漆黒のオーラが溢れている。


「暗黒殺戮脚!」


体を捻りながら跳躍し、オーラが収束された左の後ろ回し蹴りを、巨人の残る腕に叩き込んだ。
腕は簡単に破壊され、腕を両方喪失した事により、巨人が操る風は収まる。

「さぁ・・・・・止めといきますか!」
「・・・・・・・!?待って!」

もしも黒姫が静止の声を掛けていなかったら、スティールはその攻撃の前に倒れていただろう。
巨人の胸部が展開し、中から下半身同様、巨大なジャイロが現れた。

「・・・・っ!まずっ!!」

咄嗟に二人は飛び退く。次には、ジャイロから瞬時に暴風が繰り出され、先程まで二人が立っていた場所を容易く抉り取った。
黒姫は瞬時にアイアンマリオネットにぶら下がるスティールに近寄る。

「今の・・・・槍使いの技とよく似てたわね。」
「“ウィンドシールド”の力ね。たぶん、盾が作り出した防御用の風を、あの巨人は攻撃用に転換してるのよ。」
「瞬時に繰り出せたのは、ギルティーの防具だからって所かしら。」

冷静に分析をしていると、巨人が二人を補足した。

「・・・・・貴女、何か手はある?」
「・・・・私の“メガニウムブラスター”で動きを封じ、その間にあなたが倒して。」
「分かった。私が隙を作るから、狙い、外さないでね?」

黒姫の意思を汲み取り、スティールは黒姫から距離を取った。
巨人が再び胸部から暴風を巻き起こし、それを黒姫は瞬時に移動して回避する。
背後を取った黒姫は『幽世』を取り出し、頭上に掲げた。


「黒姫最強フォーム、“黄泉荒神乃化身(よもつあらがみのけしん)!!)


漆黒の天衣に、全身には血文字が浮かび上がっている。
瘴気を纏った黒姫は、次には振り返った巨人の頭部に立っていた。

「遅いわね・・・・殺しちゃおうかしら?」

余裕の表情で微笑む黒姫に、さすがに巨人も癪に障ったのか、急上昇し天辺に立つ黒姫を天井に叩き付けようとする。
その前に、黒姫は一瞬で巨人から離れ、天井に頭をめり込ませた巨人に瘴気を放った。

瘴気が巨人を包んだかと思うと、徐々に巨人の体が崩れていく。
『幽世』の持つ腐食の力は、ギルティーのガーディアンにも十二分に効果はあった。


「メガニウムブラスター!!」


巨人が復帰する前に、スティールから放たれた銃弾が巨大な檻を形成し、巨人を瘴気ごと封じ込めた。
密閉空間の中で巨人が崩れていくのを待たずして、黒姫が宙を舞いながら檻に近づく。
その両足に瘴気を纏って。


「暗黒殺戮連脚!!」


まずは右の回し蹴り、すかさず左の後ろ回しを連続して檻に叩き込んでいく。
檻はスティールが意図的に力を弱めた為に容易く壊れ、その中の朽ちていく巨人に黒姫の最強技が決められた。
三発と持たずして、巨人はバラバラに崩れていく。破片の中には、『ウィンドシールド』らしき残骸もあった。





残骸を見渡し、ギルティーの武具が破壊されたのを確認して、ようやくスティールは安堵の溜息を吐いた。

「ふぅ・・・・疲れた〜。」
「お疲れ様。これで全部で四つ破壊した事になるかしら?」
「えぇ。後は、セイバーちゃんのにギルティーの、それから、僕っ娘が持ち出した刀に行方の知れぬ魔剣・・・・・・」

まだまだ道のりが長い事に、今度は心労から来る溜息を吐くスティールに、暗殺者は薄く微笑んだ。

「後で、可愛い娘にでも慰めてもらったら?元気、出るかも。」
「・・・・貴女って、エスパーか何か?どうして人の考えが分かるかな?」
「勘よ。女の勘。人生経験から来る、ね。」










「あはははは!!」
「っ!」
「・・・・・危険・・・・・」

霧恵の揮う『オレスティア』がスプリアスとアラストールに襲い掛かる。
何とか致命傷を避ける二人だったが、何体かの蜂と紙のライオトルーパーはその猛攻に巻き込まれ、霧散していった。

「どうしたの?これで終わりかしら?あはははは!!」

高笑いと共に鞭を揮っている霧恵だったが、そこで、何かの気配を察知した。
それは、スプリアスもアラストールも同様だった。
気配が上空から来る事を察知した三人は、急いでその場から離れる。


次の瞬間、三人の戦場に爆炎が上がった。


「これは・・・・・」
「うぅ・・・・・」
「・・・・自動追尾ミサイル攻撃・・・・・“騎士団”、槍使いと断定。」


アラストールの言葉通り、上空からの狙撃者は槍使いだった。


ジンに変身した槍使いは己の槍の一本たる『グングニール』を発射し、三人の戦闘を一時中断させる。
爆風は、霧恵のゴーレムもアラストールの蜂も、そして暦の紙製のライオトルーパーも巻き込む。
重装甲の為、ジンが着地した地面は軽く凹んだ。

「ふふふふ・・・・可愛い娘が三人も・・・・・これは、私の為に神様が用意してくれたのよ!!」

高らかに叫ぶジンに、アラストールは頭に疑問符が、スプリアスは堂々とそんな事が言えるジンに少し羨望の眼差しを。
そして、霧恵は何やらこの珍状況を楽しんでいる様であった。

「へ〜。私を誘惑する気なの?・・・・・・いいわ、やってみなさいよ。」

ジンの性格を熟知した上で、霧恵は挑発をしてみた。
そして、その効果は予想以上の物だったらしい。嬉しさにジンは全身が震えている。

「うふふ・・・・まさか、この街に“攻め”のタイプの女の子がいるなんて・・・・・これは、勝負しかないわ!!あなたと私で勝負よ!!」
「ふーん・・・・別にいいわよ。」
「勝った方が、負けた方のご主人様になれるのよ!そして、敗者は勝者を、“ご主人様”と呼ぶの!!く〜・・・・・・・も、萌える!!」

一人勝手に盛り上がってるジンだったが、以外にも霧恵はその謎勝負に興味を示した。
意味ありげに微笑みながらジンに返す。

「いいわよ。私が勝って、あなたをペット扱いするのも面白そう。」
「す・・・・素晴らしいわ!!あなた最高!エクセレント!勝っても負けても美味しいわ!!
 ・・・・・・けど、やるからには勝ーーーーつ!!勝って、あなたに首輪を付けて、きゃんきゃん鳴かせてあげるわーーーー!!」

大絶叫と共に『天津彦根』を手に取り、霧恵目掛けて突っ込む。槍は既に高速回転を済ませている。
対し、霧恵は『オレスティア』の真の力をジンで試す事にした。
『オレスティア』から冷気が発せられ、空気を冷やしていく。そして、極寒の鞭と暴風の槍の技が放たれた。


「氷雪の舞!!」
「ビーハイブテンペストー!!」


二人の技がぶつかり、辺りを強烈な衝撃波が襲う。
それに飛ばされないように、スプリアスとアラストールは何とか踏ん張った。
ジンと霧恵は無傷。そして、何時の間にかジンは『天津彦根』ともう一本に槍を手にしていた。

「へ〜。二刀流で来るんだ。」

ジンの右手には『天津彦根』が、そして左手には彼女の最強武器たる『ヴァジュラ』が握られていた。
余裕の笑みと共に、ジンが真空の刃を解き放つ。

「はぁっ!」

それを、霧恵は極寒の鞭で叩き潰す。だが、次に霧恵は回避行動を取らざるを得なかった。
なぜなら、ジンは『天津彦根』を囮にして、『ヴァジュラ』のエネルギー充填を済ませていたのだから。


「メガヴォルト!!」


『ヴァジュラ』は、巨大なレールガンを槍として改造した、ジン専用の最強武器である。
先端が展開し、中には既に帯電した高電圧の弾丸が備わっていた。弾丸は一直線に霧恵目掛けて撃ち出される。
どうにか回避するも、霧恵の立ち位置には大きな穴が穿たれていた。それに怯むどころか、逆に霧恵は満足気な笑い声を上げる。

「あはははは!あなた最高!・・・・いいわ、ますます勝ちたくなった。勝って、あなたを跪かせてあげる。」
「いいわ〜。こんな萌えるシチュエーション、なかなか無い!!」

酷く歪んだ戦いだったが、戦いその物は神域に達していた。ジンが揮う二振りの巨大な槍を、霧恵は手にした鞭で全て捌いていく。
どちらが優勢でどちらが劣勢なのか、判別の付かない程であった。










魔術師は目の前に立つ、灼熱の力を使いこなすシグマを見ていた。
何か、呆然と、それでいて驚いた目で・・・・・

「終わりです。あの卵がなければ、あなたに勝算はありません。さぁ、先生達を開放してください!」
「・・・・・・・・・・・・・」

業火の刀−『雪上断火刀』を魔術師に突きつける。いざとなれば、ある程度の覚悟をしているというのが分かる程、今のシグマは本気だった。
魔術師はその事を理解し、満足気に笑みを浮かべながら意外な一言を放った。

「いいでしょう。キール博士とカシス君を解放しましょう。」
「え?」

シグマが驚いているのを他所に、キール達はあっさりと解放された。
嬉しい反面、魔術師に何かしらの腹積もりがあるものだと、シグマは警戒を解かない。
凛とした目で睨むシグマを見て、魔術師は満足そうに語りだした。

「今回の実験でいいデータも採れた。そして、改めて理解しましたよ。やはり、あなたは我々の“敵”だ。」

それだけ言って、魔術師はリビングデッドを引き連れ、研究棟を後にした。





『あぁん?魔術師殿、帰っちまったっつーの。』
「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・・」

ロストとデュランは互いの得物をぶつけ合い、鍔迫り合いで鎬を削っていた。
しかし、首を魔術師の去る方向に向けているロストとは対照的に、デュランはその息も荒い。
既に彼の体は限界に近づいていた。意識を集中していないと、今にも倒れそうな程に。

『・・・・・なんか、お前の剣技って、どっかで見た事あるっつーの。』
「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・」

デュランはロストの言葉に反応する程の余裕もない。それに構わず、ロストはじっくりと考え、唐突に思い出した。
デュランの魔剣を蜘蛛手で掴み、それを自分の左肩に突き立てた。

「・・・・!!」
『思い出した!剣使いの技とよく似てんだよ、お前の剣技!!そうだ、そうだ!!』

思い出せた事で頭の突っ掛かりが晴れたのだろう。ロストは大声で嗤っている。
デュランは一瞬、自分の正体が発覚したのかと警戒したが、そうでない事に取りあえず安堵した。

『あいつ、マジで強かったよな〜。一度殺されてみたかったんだがな〜・・・・・』

うんうんと唸りながら呟いたと思うと、またもやロストは狂気の声を上げた。

『でもよ、あんなにあっさり死んじまうなんてよ!超バカだよな〜!!くかかかかか!!!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」

その言葉に、殆ど動かないはずのデュランの体に何かの力を与えた。目の前は不思議と赤くなっていき、自分でも分からない感情が渦を巻く。
体の痛みが気にもならないくらいに、死を巻き起こす風の様に動ける気さえした。

『どうせ死んじまうんなら、俺が殺しときゃよかったっつーの。あ〜あ、バカらし。』
「・・・・・・・・・・黙れ。」
『あ?』

気づけば、デュランは自分でも驚く程の力でロストを殴り飛ばしていた。
魔剣はロストの体を離れ、ロストの肩からは潤滑液が血の様に勢いよく噴き出す。


「黙れ・・・・・黙れ・・・・・・・・黙れぇぇぇぇぇ!!!」


辺りに響くほどの大声で、デュランはロストの頭目掛けて魔剣を振り下ろす。
が、それは容易くロストに掴まれた。

『・・・・なんかよく分かんねぇけど、さっきより俺を殺す気になったか?・・・・・くかかかか。いいねぇ、いいねぇ・・・・・』
「黙れぇ!!貴様だけは殺す!殺してやる!!」
『くかかかか!!!殺すだってよぉ!?殺される身としては、最高の言葉だっつーの!!』

これ以上、デュランはロストの声を聞く気など無かった。
早々に殺す。鬼神の如き形相でロストを睨み、魔剣で相手の欠片も残さず殺す。
が、押し切れない。それがデュランの心をさらに掻き乱していく。

『まぁ、今日はもう帰るわ。今度会う時までに完璧に変身出来る様にしろっての。殺し、殺されるのはその後だ。』
「くぅ・・・・・・・・・!!!」

あっさりと不完全変身の事すらも見破り、ロストはデュランの前から喪失していた。


次には、瞬時にシグマの目の前に立っていた。咄嗟に刀を揮うシグマだが、それをロストは右腕で掴む。
右手が徐々に焼き焦げ、朽ちていくのも構わず、ロストはシグマを見下ろした。

『魔術師殿を倒すなんてアンタ、マジ強ぇわ。次に殺し、殺されるのが楽しみだっつーの。』
「・・・・・・・・!」
『じゃあな。それと、忘れない方がいいぜ?アンタはあくまでも仮面ライダーを倒す存在。
 つまり、殺すのが大好きなんだよ・・・・その点は、俺と同じだな。」
「・・・・!?違う!私は・・・・・・・・!!」

だが、既にそこにロストの姿はなかった。
しばらく呆然とロストの右腕の残骸を見た後、シグマはきつく奥歯を噛み締めた。
自分はロストとは違う。そんな感情を拭い去る為に・・・・・・・・・





第五章 第三十話 魔獣達襲来(ウェイド様作者)



場所は変わり…。
セルファの秘密研究所。

メツ「遅い遅い!・・僕を捕まえれないなんて亀だね」

ノア「ッチ・・・イクス!デルタマシンガンモードシュート!」

舌打ちをしてイクスに命じる、ノア・・内心あせっているのだろう。

イクス「了解・・・」

デルタマシンガンが二つに別れ、そこから大きさなど関係ないようなリボルバーが出現する。

イクス「発射」

リボルバーの弾のメツがいた場所を貫く。

イクス「二弾目・・リロード・・・」

メツ「面白い・・そうこなくちゃ!」

戦いを楽しむメツに対して命令に従うイクス。
だからこそ、空から振る者たちに気がついてなかったのかもしれない。

いっぽうセイバーとセイガーだが。

技も何も無くただきりあっているだけなので省略。

ファントムたん「雷光拳!!」



雷を帯びたこぶしでシルスを殴ろうとするが、全てよけられてしまう。

それどころか反撃を食らいそうになるときも。

ブレイドたん「ファントムたん!ここはあの技で」
ファントムたん「わかった!」

ラグナロクを召喚してかまえるファントムたん。

ブレイドたんはJフォームに変身する。


ファントムたん「行くぞ・・・!舞え!!」

一気にシルスに近づき、シルスを上空に切り上げる。

ブレイドたん「ウェイ!」

それを叩き落すブレイドたん。

ファントムたん「はぁ!」

落ちてきたシルスを真横に吹き飛ばすファントムたん。

そのまま二人は蹴りのポーズに入る・・・・。

『サンダー+キック+マッハ』ライドニングソニック』

ブレイドたん「ウェェェェェイ!!」

ファントムたん「はぁぁぁぁぁぁ!!」

二つの力が一つの巨大な渦となりシルスに向かう・・その時!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・!!!!!

突如空から無数の光が落ちてきたのだ。

ファントムたん「!?」

思わず、合体技が解けてしまう。

そのままブレイドたんとファントムたんは後方に急いで逃げようとするが。

爆風に巻き込まれた。

セイバーたちは驚愕した・・・隕石が50個もあるのだ。
そして、隕石が割れ・・・・異型の者が姿を現す。
蜘蛛・・タランチュラが。

タランチュラ「ギュシャァァァァァァァァ!!!!!!!」
それも・・一匹ではない・・無数の虫が・・
ライダーである7人そしてノアに向かう・・・・





第五章 第三十一話 戦いに終結を(岡島様作者)



「あっ」
シグマは気づく
「さっきの人は」
そう、不老の魔女の事だ。辺りを見渡すが姿はない。
ただ彼女がさっきまでいたと思われる場所には灰が散らばっているだけだった
「あの人は一体?」

研究棟から外に出た魔術師達の前に不老の魔女は姿を現れた。
魔術師は「彼女が現れなければ」と思っていたがそういう感情は抑えて言った
「今回の事は、大目に見ましょう。しかし今度は邪魔したら・・・・・・・」
すると彼女は機械的な声で
「約束できないわ。もっともしばらく私の出番はないけどね(少なくとも志熊京に関しては)」
魔術師は
「そうですか・・・・・」
すると魔術師は何かを思い出したかのように
「あなたは希望を救いに来たと言っていた。希望とは志熊京の事ですか?」
「そうよ・・・・・」
すると、魔術師は、邪悪な笑みを見せながら
「希望ですか・・・・・彼女には希望なんてありませんよ。彼女は殺戮の存在です」
すると不老の魔女は
「あなたには見えていない。いや見ようとしないだけ・・・・・・・」
不老の魔女は続ける
「それに私には、あなたの方が殺戮者に見える。」
魔術師は黙り込む。
「復讐を忘れろとは言わない。でも今一度、あなたは鏡を見るべきね。」
彼女は自分の仮面を指差しながら
「この仮面のように作り物の鏡ではなく、心の鏡をね。」
そう言うと彼女は魔術師に背を向け、
「そこに映るのは、ウェルトラーノ=ゼ=ラ=エスカリアという人間の姿か、あるいは貴方が殺したくて仕方ない怪物たちの姿か」
と言って立ち去った。
「心の鏡ですか・・・・・それにしても」
魔術師は一応、不老の魔女とは初対面のはずである。なのに初めてという感じがしない。以前から彼女と会っているような
そんな気がしていた。

一方、霧恵とジンの酷く歪んだ戦いは膠着状態になっていた。
突如、霧恵に向かって光の矢が飛んでくる。

「ん?」

矢に気づきそれを弾く霧恵、そして矢が飛んできた方を見る。そこには
怪我人の搬送を終えたフェイトの姿があった
その手にはアルテミスがあり、更にこっちに来いという様な手招きをしている。

「なるほど」
事を察した霧恵はジン、
「勝負はおあずけよ」
「え〜〜〜〜〜」
「それじゃ」
そう言うと霧恵は、フェイトの方へと向かっていく
「ちょっと待って!(おあずけなんて、冗談じゃないわ!この後、私が勝って、彼女をペットにしてあんな事やこんな事をしようってのに)」
霧恵を追うとするジンであったが、突如地面から巨大なゴーレムが出現し、ジンの行く手を阻む。

そして、フェイトと霧恵が対峙する。

「まずはあなたとの決着をつけなきゃね」

フェイトは無言でアベンジャーを構える。霧恵はオレスティアを手に
「いくわよ!」
フェイトに襲いかかった。

ぶつかり合う、両者の武器、双剣アベンジャーと水色の鞭のオレステイア
それは霧恵の振るう鞭をアベンジャーが弾くという感じだ。
この状態が、しばらく続く両者一歩も引かない状態。
埒が明かないと感じた霧恵は攻撃をやめ間合いを取った。

オレスティアが冷気を発しはじめる。彼女は氷雪の舞で一気に決着を着けるつもりだ

フェイトは
「強制解呪・・・・・・・・」
と呟く
すると、二本の剣の内、一本が青白く輝きだす
「うぉぉぉぉぉ!」
そして、フェイトは霧恵の方へ向かっていく

「氷雪の舞!」
技が発動する瞬間、フェイトは青白く輝く剣を前へ突き出した

「何!」
氷雪の舞が発動しなかった。
アベンジャーの必殺技「強制解呪」これは、あらゆる魔術を無効化する技である。魔術だけではなくライダーの変身や
必殺技(キックなどの肉体を使うものは除く)を無効化できる。タイミングがよければ技の発動そのものを無効化できる。

技の不発に、あっけにとられる霧恵にフェイトのもう片方の剣が迫る。
だが、アベンジャーが彼女の体を切り裂く事はなかった。刃が彼女の迫ったまさにその時
光が眩い光包まれ、そして光が消えると霧恵の姿もフェイトの姿もなかった。

そして、病院から離れたところに志保の姿があった。
彼女は体の所々を怪我している。
「イタタタ・・・」
周りを見渡す。
「ここは何処よ?」
遠くにさっきまでいたSB社病院施設が見えた
「ずいぶん遠くに飛ばされたわね」

そして、霧恵も同様だった。彼女のいる場所は志保のいる場所の病院をはさんで
ちょうど反対方向である。
「何、今の?まあいいか」
霧恵はそのままどこかへ立ち去っていく

病院施設では、霧恵がいなくなった事で、ゴーレムたちは土にかえり
唐突であるが戦いは終結する
だが槍使いは
「何処行ったの!私との勝負はまだよ〜〜〜〜〜!」
しばらく騒いでいた。





第五章 第三十二話 混沌の名を持つ者(残影刃様作者)



ロストが立ち去り、暗殺者の頼まれごとを終えたデュランは、呆然と立ち尽くしていた。それは、ロストに師を侮辱された怒りに耐えるためなのか?
それとも自分に対する無力感からなのか?………ただ、デュランは立ち尽くしているだけだった。

「…………あの?」

そんな彼に対し、シグマが恐る恐る話しかける。
デュランは、何の言葉も無く京の方を振り向いた。

「助けてもらってありがとうございました。」
「…………別に………。」

シグマがぺこりとお辞儀して感謝の言葉を言うが、デュランは何とも抑揚の無い声で軽く流す。

「でも、貴方の加勢が無かったら私は……」
「ただ頼まれただけだ。別にお前を助けようとして助けたわけじゃない。」

デュランの言い放った言葉に、シグマは困惑した顔をする。
そして、それを聞いていたカシスがデュランに噛み付く。

「おい、助けてもらった俺が言う言葉じゃないけど、そんな言い方ねえじゃないか!!」
「……事実を言ったまでだ。」
「何だと!!」

冷たく言い放ったデュランの言葉に、カシスは怒りの感情を隠そうともせずに、デュランの胸倉を掴む。
それを見たシグマは慌てて二人に駆け寄る。
こちら騒ぎは、まだ収まりそうも無かった。








同時刻、風王の冠の神殿で、今だ暗殺者とスティールは体を休めていた。

「それにしても、その行方不明の魔剣に関しては本当に情報無しなの?」
「ええ、最後のギルティーの武具…ヘル・ZERO・ブレードは一番厄介な剣で、当人のギルティーでさえ手を焼いている剣なの。」

スティールが簡単に説明すると、暗殺者はほぅっと関心を持ちながら説明を聞く。

「あの剣に関して詳しい事はギルティー以外知らないし、散らばった後は他のと違って全く力の反応を見せないのよ。」
「つまり、その武具に関してはエネルギー反応を感知出来ないから、情報を集めるしかないわけね?」
「……なるほどな。」

暗殺者の質問に、スティールは2回ほど頷く。
しかし、その次の瞬間、聞こえてきた声に、二人は顔に緊張の色を見せ超えのほうを向く。
すると、そこに居たのはボロボロのマントで身を包んだ男が柱の上に立っていた。

「……一体誰なのかしら?少なくとも敵か味方か位は答えてほしいわね?」

暗殺者は、男の動きに注意しながら質問を投げかける。
すると、男は少し考えた後、

「そうだな、今のところ私には君を敵にする気は無いのだが。」
「……だが?」

暗殺者は、男の奇妙な発言を反復して聞き返す。

「……君の相方とは昔、色々あってね……。」

その言葉を聞いた暗殺者は、スティールの方を向く。
すると、スティールはまるで亡霊にでも遭ったかのように顔を青ざめている。
そして、その表情はすぐに憎しみへと姿を変える。

「何で、……何で貴方が存在しているの“カオス”!!」
「久方ぶりだな、スティール。」

スティールの叫びと共に、風王の冠の荒ぶる風が、男、カオスのマントのローブを剥がす。
その顔には、ライダーとしての仮面を付けており、その仮面の色はまるで血のようで、その眼は光一つ宿らぬ黒となっていた。

「そんなこと聞いていない!教えなさい!どうして“デスティニー様が倒した”貴方が生きているの!!」
「その事に関しては黙秘権を使わせてもらおう。」

スティールは怒りの感情をぶつけながら質問すると、カオスは何の感情も込めずに質問を拒んだ。

「ふざけないで!貴方との…貴方との戦いの傷さえなければデスティニー様は……なのに、何で貴方が生きているの!!」
「生きている事に関しては答えられないが、別に私もあの件で無傷だった訳ではないんだがね……。」

あまりに唐突な展開に、流石の暗殺者も困惑の表情が見て取れる。
そんな彼女に気付いたカオスは、

「自己紹介が遅れたな、私はカオス。現在はデモンナイツ最高幹部“フォースデモン”が一人“混沌”のカオスだ。
以後、見知っておいてくれ……。」
「「な!!?」」

その言葉に、二人は互いに違う所に驚きの表情を見せる。
暗殺者は親友であった剣使いの敵の組織の幹部であった事に、
スティールは、カオスのその淡白なリアクションに、

「さて、そんな事はさて置き……周りの事には気が付いたかね?」
「周り……!?」

カオスに言われ、二人は周りを見ると何時の間にか神殿…いや、自分達を狙って無数の異形が登ってきていた。
それは、レンナ達に襲ってきたモノと同じ生物だった。

「油断したわね…こんなに近くに来るまで気付かなかったなんて……。」
「仕方ないだろう。あれは見た目よりも気配が希薄だ。……いかな人間でも感知不能だろう。」

暗殺者が舌打ちすると、カオスは当たり前のように説明する。

「これも貴方の仕業!?」
「いや、少しコレに心当たりはあるが私の仕業ではない。」

スティールがまたも噛み付くように質問するが、カオスは気にせず質問に答える。

「さて、流石にこの数を君達で片付けるのは一苦労だろう…協力しようか?」
「誰が貴方なんかと!!」
「……少し聞いて良いかしら?」

カオスの提案に、スティールは反対するが、暗殺者は少し考えながらカオスに質問する。

「何かな?」
「それは貴方に“何のメリット”があるのかしら?」

暗殺者が考えていたのは、カオスが自分達を助けて得られるメリットがあるのかどうかだった。
しかし、いくら考えても敵対関係に当たる自分達を助けるメリットは無く、むしろデメリットが目立っていたからだ。

「ああ、そんな事かね、終わった後一つ質問がしたいのだけだ。」
「質問?」
「ああ、別にその質問に答えられなくても構わない…ただ聞いてほしいだけだ。」

カオスの奇妙な言葉に、少し暗殺者も警戒するが、

「わかったわ、協力をお願いするわ。」
「暗殺者!!」
「それでは交渉成立だ。…危険だから柱の上にでも居てくれ。」

カオスが始めて楽しそうに話し、暗殺者はスティールを無理やり掴んで柱の上に立った。
そして、カオスは柱から降り、無数の異形の中心に移動する。

「さて、……それでは消えてもらおうか…。」

カオスが静かに呟き、彼は一体の異形に黒いエネルギー体を飛ばす。
すると、その異形から感染するように全ての異形が黒く染まる。

「…ワールド・オブ・デス。」

…チュドドドドドドドオオォォォオ………………………………オオオオオオオオン

カオスがそう呟いた瞬間、全ての異形が破裂してゆく。
無数の破裂音が約1分続き、全ての音が鳴り終えると辺りには一匹も異形は存在せず、居るのはカオスと柱に逃げた暗殺者とスティールのみだった。

「さて、それでは私の質問に答えてもらえるかな?」
「……わかったわ。」

暗殺者は、カオスの強大すぎる力に恐れながらも、それを表情に見せず頷いた。

「私の質問は単純だ……“仮面ライダーとは何だ?”」
「……え?」

あまりにも想定外の言葉に、暗殺者はぽかんと口を開ける。
この間も、スティールはカオスを睨み続けている。

「そんな事……考えた事もなかったわ……。」
「ふむ、やはり君もすぐには答えられなかったか……。」

カオスは残念そうに唸りながら、何かに気付いたのか、後ろを向く。
その方向はちょうどセルファの研究所の方角であった。

「ん、どうやらバイスは失敗したか……仕方ない、様子を見に行くか…。」
「ん、終わったの〜?」

カオスがセルファの研究所に行こうとすると、突如、上から声が聞こえる。
その声を聞き、カオスだけではなく暗殺者達も上を向く。
そこには、背に大きな羽を持った深い蒼色の外装をした少女がにっこりと笑っていた。

「またせてすまなかったね、カイム。」
「ん、別にわたし気にしてないよ♪」

カイムと言われた少女は、にっこりと笑った後、暗殺者達のほうを向く。

「ねえ、殺さないの?」
「いや、今は殺さないよ。……では、また何時か……。」
「待ちなさっ!」

スティールの言葉を気にせず、カオスはカイムの腕を掴み空に飛び去ろうとする。

「ああ、最後に一つだけ…今、私には欲しいものがある。それは幻竜レンナ…ファントムだ。」
「な!?」

その言葉を最後に、カオスはカイムと共に空へと消えて行った。
そして、それを暗殺者とスティールは見ている事しか出来なかった。








コレより少し後、蛍をベンチに寝かせた青年はぶらりと街を、屋根の上から移動していた。
青年の外見を前回より説明すると、背は170より少し低く、顔も幼い為、青年と言うよりも少年といったほうが正しいのだが、彼が高三のため、一応青年と称しておこう。
そして、髪は茶色で肩より少し長く、後ろで括っている。
そして、服装は学生服の上に緑色のマントを羽織っているという。奇妙な服装だった。

「さてっと、これからどうしようかな……?」

青年が街を見渡す。すると、青年の目に、ある女性が目に入った。
その女性とは、列を探している秋奈だった。

「……秋奈…。」

青年は、懐かしむように呟く。
しかし、青年はそのまま秋奈から目を逸らし別のほうを向く。
すると、今度は別に懐かしいわけでもなく、不振な少年を見つけて眉をひそめる。
それは、街外れの森に向かう列の姿だった。





第五章 第三十三話 いつも近くに居たキミ(空豆兄様作者)




居ても立ってもいられなかった。



雅菜の制止も振り切り、俺は手紙の指定された時間も確認せずに、その場所へと走った。


神歌ちゃんが・・・!
神歌ちゃんが誘拐されたなんて、そんな・・・!!!!


(「わああああ・・・・!!列さん、これ、神歌の好きな花!)
(うん。神歌ちゃんが喜ぶと思って。)
(そんな・・・!来てくれただけでも嬉しいのに、こんなものまでもらっちゃって・・・!!)
(いいんだ。気にしないで。その向日葵の花みたいに、早く元気になってね。)
(はい!神歌、早くこんな怪我治して、また列さんのうちにお泊りに行きますから!)




神歌ちゃん・・・。
見舞いに持っていったひまわりの花を見て、あんなに喜んでいたのに・・・。

小学校で植えた、あのひまわりが大好きだった神歌ちゃん・・・。

クッ!!

今朝の病院のやり取りを思い出して、また胸が締め付けられる。
人目もくれず、俺はただ走った。

街外れの森へ。

俺の住むマンションから、学園へ向かう方向とは逆の方向。
それは、神歌ちゃんの家のある方向。
そして、スマートブレイン社から直線方向。

交差する場所にある、大きな公園を走り抜ける。



まさかここに、俺の大事な妹が襲われ、眠っているとは・・・気づくはずもなかった。



公園の向こうは、本当に民家がまばらになってくる。
この先は、幽霊が出るという噂の、誰も近づかない森がある。
そしてその森の中には、遠い昔に建てられた大きな屋敷があるという。

周囲の人間はそれを幽霊屋敷と呼び、子供さえそこへ近づくものは居ない。
俺や華枝も、そう言い聞かされてきた。

手紙に指定されていたのはその場所だ。
・・・確かに人気はなく、誘拐に使うにはいい場所かもしれない。


人家はいよいよなくなってくる。

緑も深くなってきて、人の手の入らぬ森の方へ・・・。






「まって、待って!!」

「!!」

突然の声に、びくりと体を震わせた。
俺は走り続けていた足を止め、後ろを振り向いた。

「・・・はぁ、はぁ、やっと気づいたわね。風瀬君。」
「・・・・っ、水無瀬・・・先輩じゃないですか。」

俺を呼び止めたのは、今朝病院で別れた水無瀬先輩だった。
息も荒く、俺と同じように走ってきたいたのだと見て取れる。

って、俺も気づけば息が大きく上がっている。
それさえ忘れるほどに、夢中で走っていたわけか・・・。

「何度呼んでも気づいてくれないんだもの・・・。はぁ、たくさん走ったわね・・・。」
「は、はぁ、はぁ・・・。どうしたんですか、こんなところに・・・。」

「どうしたのか、はこっちの台詞よ。いきなり病室から出て行ったと思ったら、今度は全然違う方に走って行ってるし・・・。いったいどうしたの?」
「あ、ああ・・・・。」

俺は、俺の部屋に届いた脅迫状の話をした。



「・・・・それはまたバイオレンスね。私があなたを追って病院を出てから、一体何があったって言うのかしら・・・。」
少しうつむいて考えるような仕草を見せると、先輩は携帯電話を取り出す。
「蛍と連絡が取れないのよ。まあ、華枝ちゃんと豊桜さんも一緒だし、あまり心配してないけどね。」
「同じ病院に居て、どうして神歌ちゃんだけが・・。」


「俺が・・・・あの場を離れてさえいなければ!」
「・・・風瀬、君?」

「俺は、やっぱりダメな奴だ・・・!!その時の感情に流されて、本当に肝心な時には大事な人一人守れない、非力な・・・!!!!」
「風瀬君、落ち着くのよ!取り乱しちゃダメ!!」

俺の肩を掴み、先輩が体をがくがくと揺らす・・・!

「そんなこと言っても今はどうしようもないわ!・・・落ち着いて考えるのよ。風瀬君。」
「過ぎたことを悔やむのは後からでも出来るわ。今は、今あなたにできることをしなくては・・・!」

「は、はい・・・・。」

はぁ・・・息をつく。

そうだ・・・。そんなの後回しでいい。
今はただ、神歌ちゃんを助けることを・・・!!



「うん。・・・で、風瀬君。もちろん私も協力するわ。そこで、なんだけど。その手紙って、今もってる?」
「あ・・・・。はい。コレです。」

俺はポケットに詰め込んだその脅迫状を、先輩に見せる。

「ふうん・・・・。簡潔だこと。それに予想通り・・・。」
「予想、通り?」

・・・気になることを言う。

「道の真ん中で話すのもあれよね。そこに入りましょうか。」
そういって、先輩はすぐ近くの廃屋を指差した。





玄関の鍵は開いていた。
水無瀬先輩は、遠慮も無しにずんずんと入っていく。

庭のある・・・少し大きな家だった。
横を見ると、そこにはとっくに茶色にかれた、背の高い花があった。
太い茎や大きな頭を見るところ、それはきっと向日葵だったと想像された。

玄関をくぐり、中に入る。
人の手が入らなくなってから時間がたっているようで、どこも埃だらけだった。
「こっちはリビングね・・・。ここで話しましょう。すこし、長い話になるかもしれない。」
先を行く水無瀬先輩が、俺を手招きし、ソファーの並ぶリビングへといざなった。





「この脅迫状はおかしいわ。」

「おかしい・・・ですか?」
ソファーに腰掛けた水無瀬先輩が言う。

向かいのテーブルには、その脅迫状が置かれる。

「まず第一に、目的がはっきりしない。誘拐といえば身代金の要求があるものでしょう?」
「なのにコレには、それについてはまるで触れられていない。」

「はぁ・・・。たしかに。」

「まだあるわ。脅迫状というのは、普通その親に送るものじゃない?でもこれは、貴方宛に送られてきた。」
「そ、そうですね・・・。どういうことなんでしょう。」

神歌ちゃんの、親か・・・。

・・・・・・・。

「とにかくコレはただ事じゃないようね。」
「はい・・・。」
「犯人に心当たりは?」

「いえ、なにも・・・。」
「あなたと神歌ちゃんの関係を知っていて、こんなことをしたんでしょう?学校の人間なんじゃないの?」

「そんな、わかりませんよ。」
「それじゃあ・・・。やっぱりこの指定された時間まで、待つしかないのかしら・・・。」

「でも、それじゃ神歌ちゃんがどんな目にあわされるか・・・!!!」
「落ち着いて。人質って言うのは、無事だから価値があるの。少なくとも時間までは彼女は無事でいると思う。」

「ですが・・・・。」
「もう、こっちは手がかり無しなんだから。待つしかないでしょ。相手が誰にしても、今夜分かる。」
「は、はい・・・・。」

でも、やっぱり不安だ。
神歌ちゃん・・・。




「それにしても・・・。ね、風瀬君。」
「は、はい?」

「今日一緒に病院に行ったでしょ?」
「はい。」
「病室に入った時、違和感を感じたの。・・・直感なんだけど。」

「違和感・・・ですか?」
「うん。華枝ちゃんと神歌ちゃんが同じ病室で、そして私達が今日あの病室の一番初めの客だった。」
「はい。」



「・・・おかしいのよ。自分の娘が怪我をして病院の担ぎ込まれたのよ?どうして親が一緒にいないの?」

・・・・・・・・・・・・・!

そ、そうだ。
あの時、病室に居たのは華枝だけ。
一緒に入院したはずの神歌ちゃん。そのご両親が、来てないなんておかしいんだ。

「貴方達の両親は既に他界されたって言うのは知ってるわ。でも、神歌ちゃんはそんな事一度も聞いたことがない。」
「あ、で、でも、忙しくてこられなかったとか、夜のうちに顔を出して、朝には帰ったとか・・・。」

「・・・にしてもよ。神歌ちゃんはそんな事一言も言ってなかったでしょ?あなたが来た時、すごく嬉しそうだったもの。」
「そ、そうですね・・・。」

「風瀬君。あなたは彼女と長い付き合いなんでしょ?彼女の家とか、知らないの?」
「・・・へ?神歌ちゃんの家なんていって、どうするんですか?」
「なにいってるの!娘が誘拐されたのよ!?伝えるのが当然でしょ!?」

「そ、そうですよね。・・・・・・・。」

何でそんな当たり前の事に頭が回らなかったのか、一瞬考えてしまう。
他にも警察に届けるとか、いろいろ出来ることは他にもあったはずだ。
でもそれも、神歌ちゃんの両親を通したほうが都合がいいだろう。

・・・・でも。

「あれ?俺・・・・。神歌ちゃんの家、知らないですよ?」

「・・・はぁ?君、彼女とは長い付き合いでしょ?家に遊びに行ったこと、一度もないの?」



「・・・ない。ないです・・・。いつも遊びに来てるのは神歌ちゃんで、学校に行くときに迎えに来るのも神歌ちゃんで・・・。」
「彼女、風邪で学校休んだとかないの?お見舞いに行ったとか、プリント届けたとか・・・。」
「神歌ちゃん、健康優良児なもので・・・。」

「・・・そんなこともあるのね。いつも近くに居る人ほど、意外に事情を知らないっていうの。」


近くに居る人ほど・・・。

そうかもしれない。

いつも神歌ちゃんは、俺たちのそばに当たり前のように居た。
いつだって俺たちの元にやってきて、明るく笑って、それで・・・。

だから、安心していたんだ。
何があっても彼女は、俺や華枝と一緒にいてくれるって。
それで彼女の事、なにも知ろうとしなかった。

こんなきっかけで、気がつくなんて・・・。


「それってさ、彼女へのキモチも、そうなんじゃない?」
「え?キモチ・・・ですか?」

水無瀬先輩がにんまりと、意地悪い笑みを浮かべた。

「近くに居すぎて気づかない・・・。そういうのもあるよね。」
「そ、それって・・・・。」

「神歌ちゃんの事、誰よりも大事に思ってるんでしょ?それって恋だよね。」
「こ、恋・・・・・?」



ちがう。そんなんじゃない。
そんな言葉で片付けられるようなものじゃないんだ。


(・・・神歌は、神歌はそんな列さんの支えになりたいんです。)


彼女のキモチは知ってる。でも、俺は彼女の・・・。



「助けてあげよう。神歌ちゃんの事。」
「あ・・・はい!」

先輩にそういわれて、俺は思わず返事を返した。

それだけは、何を言われても変わらない。
神歌ちゃんをさらった奴がどんな奴かは分からないけど、必ず助け出す!






・・・そう決意をしたとき、リビングの窓から見える庭に立つ、枯れた向日葵が目に入った。

大きな頭をたれてこちらを見るその姿は、どこか寂しそうにも見えた・・・・。





第五章 第三十四話 動くべき今(ユルカ様作者)



『こんな展開にしたのは誰なんだろうねぇ…。』


エウリュディケは預言書を持っているのにもかかわらず、こんなことを呟いた。


『イェソドもどこ行っちゃったんだか…。』


話は昨日の夜に遡る…。


『これが、ダークソードのコピーから作り出した君達の武器だ。』

「これが…ですか…。」

「なんか、剣じゃないのも一部ありますけど…。」


ゲブラーは眼を輝かせて話し、ティフェレトは首をかしげながら話す。

台の上に置かれていたのは、剣、斧、矛、楯、籠手、鉄球、杯、刀…。

一部じゃなく、ほとんどが剣じゃない…。


『そんなことはともかく。この武器は本物のダークソードと同じ波動を持っている。』

「…デュナミスト達を撹乱させるつもりですか…?」

『こうでもしないと騎士団は動かない…。僕の狙いは組織同士がぶつかり合ってくれればいいのだから…。』


淡々とエウリュディケが話しているのに対し、セフィロトナンバーズは皆思案顔…。


「…ところで…ご主人様。私達が10人に対し、武器が8個なのはどういうわけで?」


場の空気を変えようと、コクマーが問う。


『誰がどの武器を取るかは、ジャンケンで決める。』


―ジャンケンで決める………。

しばらくの間10人の頭に先ほどのエウリュディケの言葉がエコーして聞こえた…。


で、ジャンケンで仕方なく決めた結果こうなった…。

 ナンバー1:ケテル・ドッグ・・・・・・・黒矛ドライアム
 ナンバー2:コクマー・キャット・・・・・なし
 ナンバー3:ビナー・ドラゴン・・・・・・黒楯ヨゴ
 ナンバー4:ケセド・ラビット・・・・・・黒籠手コズー
 ナンバー5:ゲブラー・ホース・・・・・・黒杯タ・カラ
 ナンバー6:ティフェレト・ビートル・・・黒剣ダイソード
 ナンバー7:ネツァー・スタッグ・・・・・黒斧ガバリュオーグ
 ナンバー8:ホド・マンティス・・・・・・黒鉄球ブロンブル
 ナンバー9:イェソド・スパイダー・・・・なし
ナンバー10:マルクト・キュバス・・・・・黒刀サンジュオウ


『これはあくまでも仮だからね。最終的武器は実績で判定させてもらうよ。』

「よーし! 早く実績を上げて武器をもらうぞー!!」


あっという間に全員の目の前からイェソドが姿を消した…。


『気の早い娘だなぁ…。僕の血から生まれた中ではなかなかの行動力だ…。』


―回想終わり


『かなり時間がたつのに、連絡をよこさないとは…。まぁいいか。裏切ろうにも裏切ることなど出来ないのだから…。』

「ご主人様。マルクトより伝令。レンゲルに種を生みつけた模様…。」

『そうか…。じゃ、僕は出かけてくるよ…。』

「どちらへ?」

『ビナーとホドを連れて、問題のヒューマンオルフェノクに会うんだよ。』


そう言うと、エウリュディケはモニタールームを出て行った…。



―その頃…



「喧嘩はダメですよ〜!」

「てめえこっちが下手にでてみりゃ付け上がりやがって…!!」

「…フン。」


シグマはデュランとカシスの喧嘩をどう止めようか困っていた。

と同時に、シグマの頭に大きな疑問が浮かんだ…。


「あの…ただ頼まれただけだって…誰に頼まれたんですか…?」

「…知る必要は無い。」


軽く避わすデュラン。シグマはさらに問う。


「…貴方の名前は…?」

「………デュラン……全てを滅する者だ……。」


そう言うとデュランはつかつかと歩いてその場を去ってしまった。

と、同時にシグマも変身を解き、京の姿へと戻る。


「デュラン…。」


京は先ほど聞いた名を呟いていた…。



そして時同じくして…。



「うう〜。結局あの子見つからなかった…。」


槍使いは霧恵を探していましたが、見つからなかったようです。

そこに…。


「おおお〜!!?」


ちょうど可愛い子を見つけたようです。立ち直りが早いですねぇ。


「じゃあ、どうやっていただいちゃおうかなぁ…。」

「僕にどうするつもり?」


槍使いが考えているその後ろから声が聞こえました。

先ほど槍使いが狙いをつけていた子です…。


「な、何で…!?」

「僕はイェソド・スパイダー。セフィロトナンバーズが一人として…あなたを倒します…。」





第五章 第三十五話 爆炎の戦乙女(イシス)



決意も新たに、列と秋奈は神歌を救出すべく、ドアノブに手を掛けようとした時だった。

「・・・・!しっ!」
「・・・・・!?」

急に秋奈は列の口元を押さえ、ドアから引き剥がす。
何が何だかと混乱している列に、秋奈がそっと耳元に囁いた。

(・・・・誰か来るわ。)
(え・・・・それって・・・・・)
(まだ分からない。犯人なのか、それとも私達を追って来た誰かなのか・・・・)

秋奈の言葉に、列の緊張も次第に高まっていく。
その実、秋奈に引き寄せられた折に彼女の豊かな胸が当たってしまっている事で、列の緊張は色々な物が混じった変な物となっていた。
当然、まさか「当たってますよ」なんて言えないし、言う場面でもないので、ここは黙っておく。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

ようやく秋奈も列から離れ、やはり緊張した面持ちでドアを睨む。


「・・・・列?いるんでしょ?」

「・・・・まさ・・・・」
「待って。まだよ・・・・」

聞き覚えのある声に、列は思わずドアに近付こうとするが、それを秋奈が止めさせる。

「・・・あなた・・・・本当に雅菜ちゃん?」
「秋奈先輩!?・・・・そうです。」
「そう・・・・だったら、この質問に答えれるわよね?」

質問、と聞いて、次第に廃屋を中心として緊迫した空気に埋め尽くされる。
列も、そして外にいる雅菜であろう人物も、秋奈の言葉を静かに待った。


「雅菜ちゃんは、風瀬君の事どう思ってるの?」


「・・・・え!?あの、それは、えと・・・・・・//////////////」
「・・・・・・・・・・」

こんな時になんて質問をするんだと、列は顔を真っ赤にした。
また、扉の反対側にいるであろう雅菜と思われる人物も、秋奈の質問にしどろもどろになる。
その反応を受け、秋奈は二三度、満足気に頷いた。

「うん、確かに雅菜ちゃんね。入って。」
「・・・・どうも。////////////////」

秋奈によって扉は開けられ、雅菜が顔を赤くしながら入ってくる。
ちなみに、列も雅菜が自分をチラチラ見ては赤面するのを見て、つられて赤面した。

「ま、冗談はともかくとして・・・・雅菜ちゃんはどうしてここに?」
「はい・・・・最初、列から神歌ちゃんが攫われたって連絡してきて・・・・私は何かの罠だって忠告したんですが・・・・」

そう言って、雅菜はキッと列を睨み、列はその鋭い眼光にたじろぐ。
秋奈は二人の様子を見て呆れた様な溜息を吐き、次には真剣な表情に戻る。

「確かに列君の動揺も仕方ないけど、雅菜ちゃんもどうするつもり?私達は無力な小市民なのよ?」
「それは・・・・・・・・・・・・」

秋奈の当然の疑問への回答に雅菜は数瞬だけ躊躇したが、列の姿を視界に収め、意を決して口を開いた。


「私は、仮面ライダーなんです。」





雅菜が秋奈に通されて廃屋へと足を踏み入れたのを、近場の木の影から誰かが見ていた。
それは、廃屋にいる全員が知っている人物。学園でも美少年として有名な、八代 みつる。

だが、彼の視線は普段の温厚そうな彼からは想像も付かない程の鋭さを孕んでいる。

それもそのはず。
今の彼は“八代 みつる”として動いているのではなく、“騎士団”のエージェント、“人形使い”として動いているからだ。

彼は何も言わず、ただ鋭い視線を廃屋に向けているだけだった。
しかし、中の会話は全て彼の耳に入っている。
それは、その廃屋の中にいる人物、風瀬 列に、彼が密かに忍ばせた小型の人形のお陰であった。










「どうしたの?僕があまりにも速過ぎて目で追えないの?」

余裕綽々と言った顔で、イェソドは槍使いに微笑み掛ける。
彼女としては、自分の力を見せ付けようとしただけだったのだが、この相手にだけはそうはいかなかった。

「可愛い娘が・・・・私の真後ろに・・・・これって、君が私を頂いちゃうって事?」
「・・・・・・・・・は?」

興奮して体中を振るわせる槍使いに、イェソドは頭に疑問符を何個も浮かべながら首を傾げた。
槍使いは興奮し過ぎで、口元から涎が一向に止まらない。
イェソドは思いっ切りドン引きした。

「な、なんなのさ!僕が怖くないの!?」
「え?怖いよ。」

簡潔に「怖い」と答えた槍使いに、イェソドは少し呆けた表情になるが、要は自分を恐れていると思い、少し心の中で満足気に笑った。

「だってぇ、私、ヤる方は慣れてるけど、ヤられるのって初めてだから・・・・・//////////////」
「・・・・・・・・・・・・」

しかし、実際は全く話が噛み合ってないと理解し、段々と頭にキた。
槍使いは赤面したままウネウネと動いている。

「でも、君がヤりたいって言うんなら・・・お姉さん、我慢するから・・・・///////////////」
「う・・・・うるさい!うるさい!うるさーーーーーーーい!!!」
「!!?」

イェソドは絶叫しながら拳を全力で振りかぶり、それを槍使い目掛けて放つ。
槍使いは咄嗟にバク転しながら距離を取り、何とか回避する。
イェソドの拳は槍使いを捉えれこそしなかったものの、勢いは弱まらず先程まで槍使いが立っていた地面を捉える。
地面は呆気なく砕かれた。命中していたらどうなっていたかは答えるまでもない。

「な、なに!?もしかして、怒っちゃった?」
「当たり前だ!僕は真剣にあなたを倒しに来たのに、これじゃあ僕が馬鹿みたいじゃないか!!」
「え?君って、ヤるよりヤられる方が好きなの!?」
「そんな事言ってなーーーーーい!!」

さらに声量を上げながら、イェソドは槍使いに突撃して行く。
槍使いもさすがに身の危険を感じ、槍型のネックレスを取り出す。


「変身!!」


槍使いの体を重装甲が覆い、背中には三本の巨大な槍が備わる。
この瞬間、彼女は仮面ライダージンへと変わった。

「ちょっと大人しくしててね・・・・ビーハイブテンペストーーーー!!」

ジンは背中に背負った槍の一本、『天津彦根』を手に取り、瞬時に高速回転を加え、真空の刃を精製していく。
激しい轟きを放つ槍を、ジンは一気にイェソドに振り向けた。

真空の刃はイェソドに向かって、幾重にも襲い掛かる。
直撃すれば、無事で済む者などいない。だが、イェソドはその威力を知っていながら、あえて避けず、右手を向けた。


「かかった!!」
「!?」


刃がイェソドを捉える瞬間、それは現実として起こった。
真空の刃は彼女を切り裂かず、全て彼女を前にして消え去っていく。
いや、注意深く見れば、空気の渦が全て彼女に入り込んでいく。

結局、ジンの得意技は一切彼女を傷付ける事なく、互いに無傷で終わっただけだった。

「さぁ、どうする?まだやる?無駄だと思うけど。」
「・・・・・・・」

ジンは槍を握ったまま呆然とイェソドを見ていた。
しかし、それもほんの僅かな間だけ。次には変身を解き、彼女にしては珍しく、神妙な面持ちとなった。

「分かった。私の負けよ。」
「物分りがいいね。じゃあ、これから止めを差すけど、何か言い残す事でもある?」
「ある。そのね・・・・・・・・・」

槍使いは少し俯き、モジモジしながらイェソドに赤くなった顔で語り掛ける。


「そのね・・・・お尻は痛そうだから、最後にして欲しいな・・・・////////////////」
「・・・・・・・・・・」


その一言で、遂にイェソドに限界が来た。
つまり、最初から二人の間にまともな会話など成立していなかった。

「いい加減に・・・・・・・・・・」


「しなさーーーーーーーーーーーーーい!!」
「いたぁっ!!??」

イェソドが動こうとした瞬間、無防備な槍使いの頭にかなり痛そうなゲンコツが炸裂する。
無論、イェソドの仕業ではない。彼女が動くよりも速く、誰かがやった事だ。

頭を抱え蹲る槍使いは、涙目になりながら顔を上げる。
そして、上げるんじゃなかったと後悔した。

「あわ・・・・わ・・・・お師匠・・・・・様・・・・・・・・・・」
「やーりーつーかーいー!少しは危機感持って任務をしなさいって言ったでしょう!!」
「な、何がですかぁ・・・・・?」
「いい!?そこにいる彼女は私達の敵なの!ちゃんと分かってる!?」

一気に捲くし立てられる様に怒鳴られ、槍使いは子猫の様にブルブルと震える。
槍使いを怒鳴りつける人物−炎使いは際限なく怒鳴り続ける。
傍らに控える少女−アンジェもまた、静かに槍使いを咎める。

「槍使い様。何故ヒューマンルフェノクと戦ったのですか?あれは“G”の管轄のはずですよ。勝手な行動は困ります。」
「え・・・・アンジェちゃん、見てたの?じゃあ、まさか・・・・・」
「えぇ、そうよ。私も見てたわよぉ・・・・あなたが勝手に戦うもんだから、私まで大恥かいちゃったじゃない!!」
「ひぃーーーーーー!!お、お許しをーーーーーーーーーーー!!」

炎使いは自分よりも大柄な槍使いを何の問題もなく掴み上げると、子供にやる様にお尻を叩き出す。
一回叩かれる度に、槍使いの悲鳴が上がった。


「・・・・もーーーー!!僕を無視するなーーーーー!!」


完全に蚊帳の外扱いされていたイェソドが大声を上げ、自分の存在をアピールする。
それを聞き届け、炎使いはイェソドに目を向け、槍使いをその場に落とした。

「ふぎゃっ!」

何度も叩かれて痛むお尻に、さらに尻餅を着いてしまい、槍使いはまた蹲った。
目からは痛みで涙は止まらず、しかも炎使いはもちろん、アンジェに至っては治療もせずイェソドを見ているので、余計に泣けてきた。

炎使いはさっきまでと違い、凛々しい視線をイェソドに向ける。
その凛と立つ姿は、男女問わず魅了される事だろう。

「あなたが何者かは知らないわ。でも、何が目的で槍使いに襲い掛かって来たの?」
「ふん・・・当然、倒すためだよ。“騎士団”のメンバーを倒したとあったら、僕はもっと認められるからね。」
「・・・・そう。最初からあなたを相手にする気は無かったけど、ますますやる気が無くなったわ。そこをどきなさい。」
「・・・・あなた、僕の事舐めてるの?」

炎使いから完全に無視すると宣言され、イェソドは殺気を包み隠さず放ち続ける。
それを感じ取っても、炎使いは別段表情を変えなかった。

「戦わない理由は二つ。一つは私達にはやる事があるの。」
「・・・・もう一つは?」
「・・・・あなたじゃ私には勝てない。」

もうその場にいるのも我慢出来なかった。
イェソドの頭の中では、炎使いをどう殺すかしかなかった。
先程同様、イェソドは視認も叶わぬ速度で炎使いに迫り、力一杯握り締めた拳を振るう。


「・・・・どうしたの?遅いわよ。暗殺者に比べたら、止まって見えるわ。」
「く・・・・・くっそぉ・・・・・!!」


イェソドは悔しさに歯軋りするが、どうにも出来なかった。
炎使いはあろう事か、イェソドの拳を握り締めていた。
イェソドすら上回る力で、炎使いは拳を掴んだまま彼女を持ち上げる。

「もっと鍛えておきなさーーーーーーーーい!!!」
「うわぁぁぁぁ!!」

そして、グルグル回しだした。
イェソドの視界はグチャグチャになっていき、何が何だか理解出来ない状態になる。
しばらく回し続け、今度は全力で放り投げた。

「うわっ!!」

受身も取れず、イェソドは地面にしこたま体をぶつけ、さらに地面を転がっていく。
炎使いがそんな彼女を別段、興味も無く見ていると感じたイェソドは、奥歯を噛み締めながら瞬時に立ち上がる。

「ふーん。気合だけは十分ね・・・・いいよ、少し相手してあげる。」

言うと、炎使いは右手のルビーの指輪に口付けをする。


「変身っ!!」


途端、彼女を中心に業火が燃え盛る。
炎は彼女を包み、彼女を真紅の装甲を纏った姿に変貌させる。
両の腕には炎が宿り、触れただけで灰になってしまいそうな勢いがあった。

「ぷ・・・あはは!無駄だよ!エネルギー攻撃は僕には一切通じないんだよ?」
「だったら、ためしてあげようじゃなーーーーーーい!!」
「!!?」

何の小細工も無かった。
炎使いが変身した姿−仮面ライダープロミネンスは炎を纏った腕を振り上げながら、イェソドに殴り掛かった。

「ぐぅっ!?」
「はぁぁぁぁぁっ!!」

両腕を交差し、プロミネンスの拳を防ぎに掛かる。
しかし、衝撃を完全に殺しきれず、数メートル後ろに退がってしまった。
その後を追う様に、プロミネンスから放たれた炎はイェソドに迫っていく。

「このぉぉぉぉぉっ!!」

イェソドは吸収能力を発動させ、何とか襲い来る炎を全て掻き消した。
だが、その瞬間、彼女はその場に膝を突いた。

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・・・」

体中が熱く感じる。
呼吸が上手く出来ない。体内に吸収したはずのエネルギーが消化しきれない。
吸収した腕を見れば、イェソドの手は焼き焦げていた。

「吸収能力か・・・・少し厄介かな。」

イェソドは、悔しかったが認めねばならなかった。
もしも、吸収能力を持ってない他のセフィロトナンバーズだったら、跡形も無く消え去っていただろうと。
そして、プロミネンスの力は、自分の吸収能力を遥かに上回っていた事を。

「まだやるつもり?もうこっちは時間ないから、お開きにさせてもらうよ!!」
「!!!」

プロミネンスは拳を力一杯握り締めると、自分の立つ地面を全力で殴った。
その威力に地面はイェソドが殴った時以上に壊れ、また火柱が上がる。
火柱も最初は一本だったが、次第に二本、三本と増えていき、イェソドに迫っていく。

「くっ!うわっ!」

迫り来る火柱をどうにか避わそうと必死に動き回るが、最後の一本が目前にそびえる。
回避しきれないと直感したイェソドは、賭けではあったが吸収能力を発動させる。

「ぐぐ・・・・・くっそーーーー!!」

体中が熱く感じるが、これを乗り切れなければ自分が死ぬだけだ。
それを頭の中で全力で否定し、自分の出せる限界まで能力を発動させる。


「・・・・・っ、だぁっ!!・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・」


何とか火柱を吸収した頃には、プロミネンスの姿も槍使いの姿も、そしてアンジェの姿もなかった。
しかし、イェソドはそんな事を気にする程の余裕はない。
悔しそうに自分の両腕を見ると、それは肘先まで焼き焦げていた。

「僕が・・・負けた・・・・?そんな・・・・馬鹿な・・・・!!」

認めたくない。しかし、認めなければならない。
自分はセフィロトナンバーズとして生み出された、仕える主人の最強の従者のはずだった。
それが、こんな惨めな姿を晒すなんて。

「・・・・次は・・・・負けない・・・・負けたくない・・・・・・!!」

あまり力の入らない焼けた指先を必死に動かし、地面を抉っていく。
と、俯いていた目線が、すぐ近くに落ちていた手紙を見た。
疑問に思いながら、どうにか腕を動かしてその手紙を開くと・・・・・・


『今度は、可愛い服をいっぱい着せて、愛を語らいましょう♪もちろん、私はヤる方がいいな。
 でも、君が望むなら、ヤられてもいいよ☆』


あまりにもふざけた文面を読み、イェソドは先程まで入らなかった力が腕に宿っていく。
書いたのは誰だと考えれば、さっきまでいた槍使いとしか考えられない。

「僕は・・・・真剣に任務に取り組みたかったのに・・・・・“騎士団”・・・・どこまで僕をコケにするんだ・・・・!!」

わなわなと肩を震わせていたが、次には目を吊り上げ、槍使いが残した手紙を無残に破きだした。

「うがーーーーーー!!」

後には、イェソドの絶叫だけが木霊した。





第五章 第三十六話 遅れてきた者、探す者、迷う者(岡島様作者)



戦闘が終わった後で詩姫は病院に到着した。
到着後、初音と合流する

「遅い!」
「ごめんなさい。ちょっと道が混んでて・・・・・・・」
「まったく・・・・・・・まあいい、状況を話す」

そして、初音はここで起きた事を話した。

「黒招霧恵が生きていたなんて・・・・・・・」
と詩姫が言うと
「私は奴が生きていると思っていた。あの子に奴は殺せない・・・・・・・」
「えっ?」
「あの子は、奴の過去を知ったから・・・・・」
「そっか・・・・・・・」
詩姫は暗い表情でしばし黙り込む。そして
「それで志保は?」
「今、屋上でサーチャーが探している。それよりもアイツはいつになったら来るんだ」

その時、詩姫の携帯電話が鳴る。それは本部からの連絡だった
その連絡内容を聞いた時、彼女は驚愕の表情を浮かべた。

病院の屋上で、サーチャーと凪の姿があった。
サーチャーは眼鏡を外し、周りを見渡す。彼女の目には不思議な力がある
「どう?」
と凪が声をかけると
「ダメですね・・・・・・志保ちゃんの姿を見つける事が出来ません」
とサーチャーが眼鏡をかけながら言った。

「志保ちゃんはこの街にいないか。あるいは・・・・・・・」
「何?」
「この街には私の目にノイズがかかっていて見えない場所が何カ所かあるんです」
「じゃあ・・・・そこに・・・・・」
「おそらくは」

その頃、志保は道に迷っていた。謎の力で遠くに飛ばされた志保は何とか病院に戻ろうとしたが
慣れない場所のため完全に道に迷っていた。人気が無く、しかも携帯電話も故障して
連絡を取る事も出来ない。
体の痛みは治まって来ているが、怪我はまだ治っていない。
なお彼女のいる場所は街外れの森の近くで、列達がいる場所の近くでもある

そして彼女は列達のいる廃屋の近くにやって来た

廃屋の様子を見ていた八代みつるは、志保の姿に気付いた。
「あいつは確か」
Gから送られてきたデータに載っていた事を思い出す。Gからデータは
同じ場所で活動する事になるエージェント達に配られる。
データには協力者の事も載っている。

やがて、廃屋から列達が出てくる。そして志保は道を聞こうと声をかけた





第五章 第三十七話 「恐れる心」(残影剣様作者)


「……きて……起きて……。」
「……ん……んんっ!」

……私を呼んでいる……誰だろう?
そう思って私は意識を取り戻した。

「あ、よかったぁ。大丈夫、蛍ちゃん?」
「…あ、……華枝…ちゃん…おはようございます。」

華枝ちゃんの顔を見て、私は思わずいつもの調子で挨拶してしまった。
…少し、恥ずかしいです。

「うん、おはようございますぅ…。」

華枝ちゃんも、挨拶を返してくれた。
…なんだか、とても嬉しかった。

「えっと、心配かけてすいませんでした。……あの、どうしたんですか?」

さっきからじっと私の事を見てくる華枝ちゃんの様子に、思わず質問してしまった。

「うん、…綺麗な髪だな〜って思って…。でも、何で金髪になってるの?」
「あ、ありがとうござ………え………?」

華枝ちゃんはなんて言ったの……?
……金髪……って、言った……?
私は見たくないと思いながら自分の髪を見てみる。
そこには確かに金色に“戻っている”髪があった。

「蛍ちゃん?どうしたの?」
「何で……戻っているの…?」



金になった自分の髪を見て、私は幼稚園の頃の事を思い出した。

姉さんやお母さん、お父さん……家族とは違う髪の色。その事から、私はいつも苛められていた。

でも、苛められる事よりも家族と違う…それが一番嫌だった。

そんなある日、姉さん達と同じ髪の色になりたい……そう強く願ったあの日から髪の色は姉さんと同じ茶色い髪になった。

嬉しかった。
けど、同時に怖くもなった……何時かまた元の金髪に戻るんじゃないか…?
また、家族と違ってしまうんじゃないかって……。

そして、今の私の髪は元に……。







「蛍ちゃん、大丈夫…?」

私が綺麗な髪の事を褒めたら、蛍ちゃんは突然震えてしまった。
…私、へんなこと言っちゃったのかな?

「いや……。」
「……え…?」
「いや…見ないで……見ないで下さい!」

突然、蛍ちゃんは震えた声で叫んできた。

「蛍ちゃん、どうしたの!?」

私は驚きながら、蛍ちゃんをなだめようとした。

「いや…姉さんと違うのは……一人だけ仲間外れは…いや……。」
「!!」



怯える蛍ちゃんの呟いた言葉に、私は少し驚いた。

それと同時に、蛍ちゃんと自分の姿が重なった。

いつもおにぃちゃんと神歌ちゃんと一緒に居て一人ぼっちが嫌な私……。

もし、私だけ取り残されたら私も蛍ちゃんと同じ気持ちになっていると思った。

……だから、

「大丈夫だよ。」

そっと抱きしめた。

「……え…?」

蛍ちゃんは、少し驚いた声をあげる。

「蛍ちゃんは、仲間外れじゃないよ……。」
「でも…私…姉さん達と全然違う……。」
「蛍ちゃんのおねぇちゃんはそんな事気にしてる…?」
「…気にして…ません……。」
「だったら、蛍ちゃんは仲間外れじゃないよ……蛍ちゃんのおねぇちゃんは、蛍ちゃんの事仲間外れにしてないよ。」
「華枝…ちゃん……うん……うん!」








「すみませんでした。いきなり取り乱しちゃって/////」

うぅ、恥ずかしい所見られちゃったな/////

「ううん、気にしないで。」
「…華枝ちゃんって大人なんですね。」
「ふぇぇ!そ、そんな事ないよ!!」
「そんな事ありますよ。さっきだって私の事を慰めてくれて…私ももう少し大人になりたいです。」

私が素直に褒めていると、華枝ちゃんはどんどん顔を真っ赤にして照れてしまっている。
その姿が、可愛らしくてつい笑ってしまう。

「ふふ、……あれ?そう言えば神歌さんはどうしたんですか?」
「あ!そうだった、あのね、さっきから探してるのに見つからないの!?」

あ、なるほど……って、ええ!!

「た、大変です!」
「そうなんだよ!どうしよう!!」

あわわ、どうしよう…とにかく、早く見つけないと……

……ヒュウゥゥゥゥン

……あれ?
何だろう、「風」が語りかけてくる……。
これもルクスの力なのかな?

「ふぇ、どうしたの蛍ちゃん。」
「……こっちです、行きましょう華枝ちゃん。」
「ふぇ!?」

私は華枝ちゃんの腕を掴んで森へと目指していった。








「……はぁ…がっ…あぐっ!」

暗殺者の頼まれ事を終えた後、俺は人目のつかない廃ビルに身を隠した。

「がっ…あ……ぐっ…がぁ。」

理由は簡単だ……こんな無様な姿を誰にも見せたくはなかったから……

―――――どうした、早くここから出て全てを斬れ、潰せ、壊せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!

「う…る…さい、黙れ!」

俺は聞こえてくる悪魔の囁きを悪態をつきながら止めど無く溢れてくる衝動を抑える。

そして、俺は偶然目の前の鏡を見た。

その姿は、確かに俺の形を保っていた………“ただ一点”を除いて……。

「……っ!!」

ガシャァンッ!!

その一点を見た瞬間、俺は鏡を殴り割っていた。

「…はぁ……はぁ…あがぁっ!!」

俺は、身を焦がすような痛みに耐えながら、そこから動けなかった。





第五章 第三十八話 「結界」(空豆兄様作者)








「む・・・・・?」
「どうした、ビアンコよ。」

魔女の館の地下に広がる研究施設で・・・。

「どうやら客が来たらしい。監視役のゴーレムが報告してきおった。」
「ほう・・・?お早いご到着だな。もちろん、お前たちの言う「ゼベイル」なのだろうな?」

「そのようじゃが・・・。他にも何人もいるようじゃ。」
「助っ人を連れてきたか?くくく。確かにあの手紙には「一人で来い」とは書かなかったからな。」


「ガルムレ・ハウンドの調整は終わっているのだろう?」
「うむ・・・。」

そういうと、二人は目の前にある巨大なケイジを見上げる。
「こいつを解き放ったが最後、確実にゼベイルの元へ向かうじゃろう。」
「殺しあうために、な。」

「英琉 神歌もその場に立ち会わさねばならん。そうさのう・・・。ハウンドの背中にでもくくりつけておくか。」
「生体拘束具というのは、こういうときに便利だな・・・。軽量デミ・パランツェ。量産しておくのがいいかもしれないぞ?」

「心配せずとも、こずえのやつがせっせと育てて増やしておるわい。」
「この館の使用人か・・・。ただの人間だというのに、お前の研究に協力するとは、酔狂な女だ。」


「しかし他の連中に、我の作戦の邪魔をされると面倒だな・・・。奴を連れて行くぞ。外の邪魔な連中を足止めしてくる。」
「うむ。任せたわい。」

「うむ・・・。」

ギルティーは黒い影に身を包むと、その姿を消す。

「奴か・・・。初の出動じゃな。私の製作した仮面ライダー・・・。6号になるのかのう?」




「・・・おばあさま。」
「おまえたちか・・・・。」

ギルティーの消えた後に、3人の少女たちが魔女の元にやってくる。
それは言うまでもなく、魔女の製作した最強の仮面ライダー姉妹である。

「ギルティーのお使いは、骨折り損だったようじゃな?」
「・・・ったくあの野郎。なんだかよくわからないが、8つの武具だぁ?そんなわけのわからないもの探してどうするって言うんだ。」
姉妹の一人、ラフエイアが悪態をつく。

「前に話したでしょう?ギルティーが必要とする、8つの武器です。それを手に入れたとき、ギルティーは強大な力を手に入れる。
「オレ達に得はないじゃねぇか。」
「だって、ギルティーはボク達に協力してくれてるんだもん。だから、ボクたちもギルティーを手伝ってあげるの。そうでしょ?おばあさま。」

「そうじゃの。ウルエイア。」
そういうと、魔女はその小さな少女、ウルエイアの頭をやさしくなでる。
うれしそうに目を細めるウルエイア。


「さて、お前たちにはこれから、この館の防衛任務についてもらう。」
「・・・・!防衛、ですか?」


「そうじゃ。今この館には、かつてないほどの侵入者が集まっておる。」
「それも、明らかな意思を持ってこの館に入ろうとする者もおる・・・。」

「『騎士団』・・・ですか。」
「そのとおりじゃガブエイア。そこで・・・。」


「まず森の入り口に入ろうとしている3名。これはギルティーが用意した手紙に呼ばれてやってきた、ゼベイルの可能性が高い。」
「・・・・・・・・・・!!」

3人の注目が集まる。
仮面ライダーゼベイル・・・。魔女のライダーでありながら、ここを抜け出した裏切り者。
そして、自分たちの姉妹であるライダーの一人、ミクエイアを傷つけた者。
それに対する復讐の念は、今ここにいる3人の誰もが持っている。

そのゼベイルに相対する役目。我こそが、と名乗り出たいに違いなかった。

「ここには、ギルティーの用意したガルムレ・ハウンドがあたる予定じゃ。・・・本当にそこにゼベイルがいればの。」

「ガルムレ・ハウンドは、正確にゼベイルの居場所がわかるということですか?」
「そういうことじゃ。万が一ここにゼベイルがいなかった場合、ここにはギルティーがあたることになるじゃろう。」

「・・・なんだよ。オレ達に行かせてくれないのか。」

「これはギルティーの作戦じゃ。断る理由もないし、従っておればよい。」
「なに。お前たちには別の仕事もある。黙って奴のすることを見ておれ。」
「お前たちの憎きゼベイルが、絶望のふちに落ちていくさまを、間近で見られるであろうからな・・・。」

キヒヒと、また気味の悪い笑い声を発する魔女。




「そのガルムレ・ハウンドって奴、そんなに強いのか?ゼベイルを倒せるほど。」

「キヒヒヒ・・さてな。アレはあくまで布石に過ぎん。ゼベイルを倒すためのな。」
「噛ませ犬ってわけかよ。回りくどいことしやがる・・・。」

「ギルティーはそれを楽しんでおる節がある。まあ、私もそうじゃがの。キヒヒヒヒ・・・!」


「で、私たちの具体的な配置はどうなるのでしょう?」

「うむ。まずはガブエイアよ。お前には新たな改造実験体をつける。ここの絶対防衛線を張ってもらうぞ。」
「はい。私の能力は、もとよりそのために。」
「それと、お前は対『騎士団』の有効手段じゃ。他のものの位置に奴らが現れたら、そこに向かってくれ。」
「承知しました。おばあさま。」

「ウルエイアは『結界』の発生後、その外に出ようとするものを排除せよ。逃げ道の封鎖じゃ。」
「は〜い!・・・って、『結界』?」
「『シュロスゲフォールン』・・・。すぐに分かる。とにかく、お前はこの館の半径2キロ以内に配置しておればよい。」
「は〜い。」

「ラフエイアよ。お前は森の入り口以外の場所から入ってくる侵入者の迎撃じゃ。」
「あいよ。・・・ま、軽く片付けて、ギルティーの手並みでも見せてもらうとするか。」

一通りの指示が終わると、ウルエイアとラフエイアは施設から出て行く。
そして、ガブエイアだけがその場に残った。

「・・・おばあさま。」
「・・・・収穫か?」

その言葉にうなずくと、ガブエイアはその手のひらを開いて見せた。
・・・そこには、なにやら光る小さなゴマの粒のようなものがあった。

「・・・よく見つけられたのう。」
「ウルエイアの『複眼機能』のおかげです。超高速でも周囲を見渡すことのできるあの子の目と、それに異常なパワー反応を察知するラフエイアの『勘』。」
「それらのおかげで、これを見落とさずにすみました。」

「『ナノクリスタル』・・・。ギルティーの捜し求めるもののひとつじゃな。」
「あの二人には、これはただの珍しい鉱石なので、おばあさまも珍しがって頂けるだろうと言って置きました。」
「よしよし・・・本当にお前は気が利くのう。ガブエイア。」

「は・・・・。」

「これでまた、『バエル』の完成に近づくな。」

「ナノクリスタルとやら・・・。ギルティーの言う『黒き月』の稼動がなければ役にはたたんらしいが・・・。」
「要はその黒き月とナノクリスタルの関係を解明し、そのメカニズムを再現すればすむこと。」
「私の知識、そして失われた古代の技術であるあの『ガイストヴィーゲ』を以って、必ず解明してくれようぞ・・・!」

「ガイストヴィーゲ・・・。ミクエイアをアレから切り離すのですか?・・・ギルティーは『魔装置』と呼んでいましたが。」
「心配せずともよい。ミクエイアの傷もそろそろ通常の治療で事が足りるわ。」

「そうですか・・・。わかりました。」
「それと、お前にもうひとつ頼みたいことがある。」
「あ、はい。」




「『バエル』のベルトの実験体を・・・確保してきてほしいのじゃ。」

「そうじゃな・・・健康な成人男性が望ましい。」
「それと、強い意思を持つもの。・・・こうでないと、ベルトに耐えられないであろうからな。」

「わかりました。」





・・・・・・・






館の外に姿を現す、仮面ライダーギルティー。
「行くぞ。仮面ライダー・・・サムエイアよ。」

「はい。ギルティー様。」

その隣には、また新たな仮面ライダーが伴われていた。
赤と赤紫の毒々しい配色。その声は男性のものらしかった。

このライダーこそ、ギルティーがビアンコに協力を持ちかけたときに提供したデュナミストを、ビアンコが改造して作り上げた作品。
改造デュナミストライダーだったのだ。







「雅菜ちゃんが、仮面・・・ライダーですって!?」

その雅菜の告白に、目を大きく見開く先輩。
・・・それはそうだろう。
俺だって初めて雅菜の「変身」を見たときは、ひどく驚いたし。

「あの、人知れず謎の生命体と激しいバトルを繰り広げてるって言う、都市伝説の・・・?」
「あ、はぁ、たぶん・・・。」
「信じられない・・・。私の情報網にも、雅菜ちゃんがそうだなんて少しも。」

「本当ですよ。俺、雅菜が変身して戦ってるの、目の前で見ましたから。」
「風瀬君・・・?」


俺は話す。
雅菜の代わりに。俺の見たことを。
その話は、さっきまでの自分の体験をも含まれていて・・・。


「・・・そんなに、私達の身近にあったんだ。仮面ライダーの戦いが。」
「そういえば、神歌ちゃんが話していたわね。・・・仮面ライダーに助けられたって。」
今日の病院でのやりとりのことだ。


「とにかく、そういうことなんです。・・・あまり追求しないでもらえると、助かります。」
雅菜がそういう。
「そうね。おいそれと話すようなことじゃないみたいだし・・・。わかった。このことは私の胸の中にしまっておく。」
「すみません・・・。」



「で、とにかく雅菜がいれば、たいていの相手には対応出来ると思います。」
「警察に届ける必要はないというわけね。・・・あとは、神歌ちゃんの居場所ね。」

「神歌ちゃんを誘拐した相手に心当たりがない以上、その指定された場所に行ってみるしかないんじゃ?」

「そうね・・・。まだ指定の時間には早いけど、行って見ましょう。・・・風瀬君。」
「ええ。行きましょう。」

俺は率先して居間の戸を開ける。
玄関から差し込む光は既になく、空は暗くなってきていた。


「うわ、暗い!・・・ちょっと風瀬君、はやく廊下に出てよ。」
「あ、はい。」

・・・改めてこの家の内装を見る。
玄関からまっすぐに伸びた廊下は、突き当りの扉まで伸びており、その脇にはリビングや洗面所につながる扉が左右にある。
よくあるレイアウトだとは思ったが・・・ひとつだけ、異質な部分があった。

廊下の突き当たりの扉の隣には階段があるのだが、その入り口が玄関から見て、裏になっている。
つまり、家に入った時点では、階段の入り口が見えないのだ。
当然リビングから出た視点でも、それは見ることはできない。

それはまるで、階段が、客からその入り口を見せないようにしているように見えた。

「風瀬君!」
「!」

また水無瀬先輩に声をかけられ、俺は我に返る。


「何してるの?早く行くわよ。」
「は、はい・・・。」

俺はその階段に妙に気になるものを感じつつも、玄関を出た。
「列・・・?何か気になった?」

そんな俺の様子に、雅菜が気がついたのか尋ねてくる。
「いや、なんでもないよ。」
そう返した。




庭の枯れた向日葵。
そして、入り口の見えない階段。

後ろ髪をひかれつつも、俺はここを後にした。








俺たち3人が廃屋を出ると、外は暗く、世界は夜を迎えようとしていた。
そういえば今日は移動ばかりで、食事をろくに摂っていないな・・・。





「すみません。」

「?」
そこに、一人の女の子が声をかけてきた。
メガネをかけた、長身の女性。

そういえば病院であった神藤さんもこんな感じだったかな・・・。
でも、彼女に比べるとぱっと見たときの印象は地味で、服装も暗い色にまとめられている。
大人びた澄ました表情。
でもまだ幼さの残る顔つきからして、俺たちとそう歳は変わらないようだが・・・?


「どうしたのかしら?」
先輩が、すっと前に歩み出る。

「お尋ねします。あの・・・・。スマートブレインの病院施設にはどういけばいいのでしょう?わたし、この辺は初めてで、ぜんぜん分からなくって・・・。」
「SB社の病院施設!・・・偶然ねぇ。私たちもそこから来たの。」
「・・・・!!!!そうなんですか!?なんともないんですか?そこから逃げてきたんじゃないんですか?」

「?」
彼女の顔は必死さに満ちていた。
なんなんだろう。
そんなに驚くようなことなのだろうか。

「どうしたの?病院で何かあったの?」
少し不安そうな顔になる先輩。
穏やかな口調から、少し緊張が混じったものに変わる。

「あ・・・・。いえ、なんでもないです。きっと大丈夫でしょうから。」
・・・なにやら含んだ言い方をする彼女。
「すごい気になるんだけど・・・・。ふむ。」

「?なんですか?」

そこで、その女の子の顔をじろじろと見始める。
「あ〜!思い出した!」

「へ?」
「ど、どうしたんですか?」
驚くオレと雅菜。
本人は・・・特に気にしてない様子。

「あなた、うちの学校の生徒でしょ!確か休校になる直前に転入手続きに来た!」
「え?!あ、はい・・・。よくわかりますね・・・・。」

「私は新聞部部長だもの。校内の情報は、常に集めておかないとね!」
「・・・さすがに、名前までは分からないけどさ。」

「私は、蒼崎 志保です。」
「そっか。わたしは水無瀬 秋奈。校内じゃちょっとは知られた新聞部の部長さんよ。」

「・・・・!」
先輩が名前を口にした時、蒼崎さんが少し驚いたような顔をする。
でも、それも一瞬のことで、すぐにまた彼女のすました表情に戻った。

「あっちに大きな公園があったでしょう?あれの敷地を通り抜けて、あそこに見えるSB社の本社ビルを目印に歩けば、大きな通りに出るから。」
「そこからなら、もう分かると思うけど。」

二人の会話が一段楽したなと思ったとき、オレが彼女のそもそもの質問に答えた。
「あぁ・・・はい。分かります。公園を通り抜けるんですね。」
「そう。」

「・・・あ、俺は風瀬 列って言います。先輩の部の後輩になります。」
ついでに自己紹介しておく。
「私は草加 雅菜。・・・同じ学年で転入生がいるって聞いてたけど、あなただったみたいね。」
「学校で分からないことがあったら、私にも聞いて。力になるから。」

「ありがとうございます。それでは私はこれで・・・。」

そう言って、蒼崎さんは去っていった。

「なかなかかわいい子だったわね。どっちかというと美人系。」
「・・・そこで、何で俺に言うんですか。」
「いや、別に?」

「・・・・・・・。」

こら雅菜。なぜオレをにらむ。

「それはいいから!早く森の入り口に・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「!!!?」
「!!」
「っ!!!!!」

今一瞬、例えようのない違和感が体を走った。
先輩も雅菜も同じものを感じたようで、同じように声を漏らした。

「今の・・・何!?」
「風瀬君も感じた?雅菜ちゃんも?」
「は、はい・・・。今のは、いったい・・・。」
「分からない、分からないけど・・・。」
「なにか、いやな予感がする・・・・!」





「・・・『シュロスゲフォールン』展開完了しました。」
「ご苦労。これでこの半径2キロは誰も出入りできない。」

「では・・・。邪魔者を狩るとしよう。サムエイア。」
「はい。」




バッ!!!!


そういうギルティーの後ろから、大きな影が飛び出した!
「では探すがいい。ガルムレ・ハウンドよ。」
「お前の獲物を。ゼベイルを!」

ガルムレ・ハウンドはその背に、蔦に覆われた少女を背負っている。
英琉 神歌。

それはすぐに向きを変え、森の入り口とは違うほうへ走り出した!
「ほう・・・。そっちか。」





・・・・・・・・・。




「かんじた?今の。」
「そうね。・・・かなりよくない感じね。」

「何らかの空間閉鎖術の一種。西洋の魔術の結界みたいなものね。」
「読書家さんは言うことが違うわねー・・・。エウリピデス。」

「誰もここから出さないつもりらしい。・・・やばい。華枝ちゃんが危ない。」

魔女の森に独自に入り込んでいたEASEの二人。

口論から我に返ると、一緒に戦っていた狼のロボットは姿を消していた。
華枝を守りたいと思うエウリピデスは、彼女の発するエウリピデスの生体エナジーの反応を、ソフォクレス・・・豊桜 冥に追跡させていたのだ。

「まあ、私も放っておけないって思ったし。華枝ちゃんってさ。」








「こっちだよ、こっち。」
蛍ちゃんに案内されて、神歌ちゃんのいるという方へ向かう。
入ってはいけないといわれている森の中。
神歌ちゃんは、こんなところに連れて行かれたの・・・?

ザザザザザ・・・・!!!!


「・・・・・!!!」
「?華枝ちゃん、どうしたの?」

「寒気が・・・寒気がする。」
「寒気?」

「さっきのへんな違和感とは違うの。また別の・・・・。」




「何かが、何かがこっちに来る・・・!!!!」





第五章 第三十九話 「偽りの命」(ユルカ様作者)


魔女の森の方向に飛ばされた蒼崎 志保…。

その全く反対方向に飛ばされたのは、黒招 霧恵…ヒューマンオルフェノクである。


「…フェイト…! この決着は必ずつけるわよ…!!」

『やれやれ。勇ましい娘だ…。』


霧恵の前に、エウリュディケが姿を現す。

その後ろには、ビナー・ドラゴン、ホド・マンティスの二人がいつでも戦える状態で待機していた。


「何なの…。アンタは…。」

『…僕はエウリュディケ。EASEという組織のリーダーだよ。』

「で、そのリーダーが何の用なの?」


霧恵は不機嫌な顔でエウリュディケに問う。

隙あらば、エウリュディケを倒しそうな勢いだ。


『君と取引をしようかと思ってね。』

「悪いけど、わけの分からない奴からの取引なんて…お断りよ!」


霧恵はエウリュディケに向かってオレステイアの冷気を放った。

…が、エウリュディケは次の瞬間、霧恵の真後ろに移動していた。


『ここにいる僕は実体じゃない。攻撃は無駄だよ。』

「取引するのにそんな臆病で良いわけ…?」


首を傾げながら霧恵は言う。


『交渉事は臆病なくらいがちょうど良い。』

「分かったわよ。で、私に何をして欲しいのよ。」


霧恵はエウリュディケの内側から物凄い力を感じていた。


「(力を蓄えて…こいつの魂を私の物にすれば…フェイトに必ず勝てる…。)」


そんな霧恵の心を読んでいるのか、エウリュディケは交渉を始める。


『君の先ほどの武器は…僕の従者が使っていたものだ。その魂は君が吸収した。』

「そうよ…。」

『君はフェイトを倒したい。だが今のままでは不足だというのも分かるだろう?』

「………。」

『そこでだ。この魂をあげるかわりに僕に協力してもらいたい。』

「…!!」


エウリュディケはその手に魂の宝玉(オーブ)を持っていた。

どうやらオーブにしなければ、逃げてしまいそうな位の力を持つ魂であると言える。


「………。」


だが、霧恵はそう簡単には受け取らない。


『協力といっても、一般的なアイデンティティーだ。フェイトを倒したいのは僕も同じだからね。』

「フェイトは私が倒す…!」

『僕の配下二人もオマケにつけるよ。キメラライダーの力は伊達じゃないからね。』


そう言って、エウリュディケは霧恵にオーブを渡す。

瞬く間にそのオーブは霧恵に吸収され、霧恵は言い知れぬ快感に浸った。


「これは…!! 凄い…力…。」

『…気に入ってもらえたかな。』

「ええ…。」

『僕の配下二人はフェイトとその関係者をモデルにしている。役に立つはずだよ。』


そう言うと、エウリュディケはその姿を消した。


「待ってなさい…フェイト。この新しい力で、あなたに苦渋を味合わせてあげるわ…!」



ほぼ同時刻―時雨養護施設・研究棟―



京は…ロストに言われた言葉が、頭の中から離れなかった。


―アンタはあくまでも仮面ライダーを倒す存在。
―つまり、殺すのが大好きなんだよ……その点は、俺と同じだな。


違う…! 絶対に違う…!!

必死に否定しようとしても、自分は造られた者…偽りの命であることが、彼女を苦しめる…。


「京…。話したいことがあるの…。」

「先生…。」

「…エスカリアの…魔術師の言う通り…。あなたは人に造られた人…。…偽りの命を持つ者…。」

「………そんな…。」


キールの告白に京は泣きそうになる…。


「でもね…仮面ライダーにするつもりは無かったの…。私はそれを止められなかった…。」

「え…?」

「Dr.セルファ…。彼女は私を利用しただけだった…。彼女のせいで…あなたは仮面ライダーになってしまった!」

「…!!」


キールの告白は続く。


「私は…あなたの様な娘が欲しかった…。神を冒涜する行為をしてもかまわない筈だった…。でも、普通の女の子のままでいて欲しかった

!!」

「先生…。」

「自分で造り出したあなたを何度も殺そうと思った…。でもそれはできなかった…。だからせめて記憶をすり替えて、あなたを育てた…。」

「………。」

「いい加減にしろよ、姉さん。」

「カシス君…。」


カシスもこのことは知っていた。しかしカシスは受け入れた。

姉も苦しんでいるのが…自分にも分かったからだった。


「偽りの命なんて言ってるが、笑ったり泣いたりしている、お前の何が偽りなんだ!?」

「あ…。」

「俺は…そんなお前を受け入れる…。」

「は…はい…。」


京は嬉しかった。

例え偽りの命であっても、大事な人は彼女を怪物とは思わない。

それが、彼女にとっての救いだった…。



ほぼ同時刻―廃ビル―



「ぐっ…ぐぅっ…うっ…!」


陣は身を焦がすような痛みに堪えていた。

…彼の左目は…異常だった。

その眼球は黒く、瞳の色は血の様に真っ赤だった。


「…が…あがっ…あ…!」


そこに…彼にとっては天使の救いの手か、はたまた悪魔の恐怖の手なのか…。

エウリュディケが…陣の前に姿を現したのである。


「なんだ…お前は…。」

『その苦しみを…消してあげようか?』

「…!?」


―こいつは何を言っている…?

陣は頭の中に疑問符が浮かんだ。


『…それとも、その姿のままで人前に出る気かい…?』

「…!」


痛いところを突かれて、陣は黙ってしまう。

だが、陣はすでに答えを決めていた。


「…俺は…。」

『ん…?』

「俺は…その苦しみと引き換えに…己を失うことはしない!」

『……予想通りの答えだよ。』

「…変…身…!!」


陣は自らの痛みを堪え、デュランに変身する…、が…。


『…苦しくしてあげるよ…。君がその道を選んだんだからね…!』


エウリュディケがデュランに手をかざすと…。


「ぐ…!? ぐあぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


デュランは陣の姿に戻り、倒れてしまった…。

エウリュディケは陣の痛みを最大限に増幅させたのだ…。


『…この力は惜しい…。…望み通りに…己を失わないまま…僕の物にするとしようか…。』


エウリュディケは陣を転送すると、自身もその場から消え去った…。





第五章 第四十話 「新たなる敵、銀城 齋鮟」(イシス作者)


「結界・・・・・ね。」

ぽつりと、炎使いは結界を手でなぞりながら呟いた。

「こんな高度な結界を張れるなんて・・・・敵は相当の戦力を所持してるわね。」
「は!てやぁっ!!とりゃぁあっ!」

そう言いながらも、炎使いの心配は別な所にあった。

「アンジェだけ先に人形使い君とこに向わせたけど・・・・大丈夫かしら?」
「ぜぇ、ぜぇ・・・・うりゃりゃあっ!!」
「・・・・槍使い、まだ終らない?」
「な、はぁ、はぁ・・・む、無理ですよお師匠様ぁ!この結界堅過ぎです!!」

ジンに変身した槍使いは先程から天津彦根とヴァジュラを結界に向って揮っていたが、それは全く効果がない。
変化があるとすれば、さすがのジンもスタミナ切れしそうというくらいか。

「なるべく急いでね。アンジェや人形使い君心配だから。」
「な、ならお師匠様も手伝ってくださいよ!!」
「あのねぇ、こんな高レベルな結界、私でも壊せないわよ。」
「なら、何で私にやらせるんですか!?」
「??修行の為に決まってるじゃない。」

至極当然の事の様に言う炎使いに、ジンは観念する他なかった。

「う・・・・うおぉおおおおおおおおっ!!!」

雄叫びを上げて二本の槍を揮い続けるジンに対し、炎使いは近くの木に寄り添い、手持ちの手提げ鞄から一冊の本を取り出す。
栞を挟んであるページを開き、後は無言で小説の文面に目を落としていく。










“シュロスゲフォールン”が森を包んだのと、ロストがその中に入ったのは同時だった。

「あれ・・・・?出られないっての。」

どれだけ力を籠めても、何か固い壁の様な物が阻んで来る。
これではここから出られない。その事を理解した途端、ロストはそれ以上押す事をしなかった。

「退路断たれた・・・・つまり、ここに敵がいるんだな・・・・くかかかか。」

それが彼にとって何を意味するかなど一つしかない。彼の唯一の趣味、目的しか。

「ここで俺は殺し、殺されるのか・・・・いいねぇ・・・・・」

思い返せば、随分と真意を掴みかねる命令を下された物だが、これはこれで悪くない。
そう、時間は志熊 京の排除に失敗した後まで戻る。


(ロスト。君はこれから魔女がいると思われる森へと向かってくれ。)
(はぁ?構わないけどさぁ、あそこって魔術師殿の管轄外だろ?)
(なに、少し用事があってね。そこでアンジェと合流すればそれでよい。)


「しかし、アンジェと合流してどうすんだか・・・・・訳分かんねぇ・・・・」

もっとも、理解する必要などないのは百も承知である。
ただ、彼の命令に従っていれば、自分にとって何かしらの娯楽が与えられるはず。
それさえあれば十分だった。

これから待つ彼なりの楽しみに期待を寄せていたが、それは耳に入って来た木の葉が枝や何かに擦れる音で遮られた。



「と、来たな。」

音のする方向へ視線だけ向けると、茂みを掻き分けながら一人の少女が現れる。
蒼い髪にアイスブルーの瞳を持つ、ロストの妹。

「アンジェ、よくここが分かったな?」
「はい。私とお兄様は何かしらの力で繋がっているよう、魔術師様に設計されていますので。」
「は。魔術師殿も酔狂だねぇ・・・・・」

アンジェは周囲を見渡すと、ただ淡々と事態だけを述べていく。

「結界ですね。それも、かなり高度な物です。」
「んな事どうでもいいんだよ。それより、お前に会った後どうすりゃいいんだっての。」
「そこまでは私も把握しておりません。ただ、“お兄様に会えばよい”と。」
「は?俺もお前に会えばそれでいいって魔術師殿が言ってたぞ?」

普段は気の会わない、とは言っても、ただロストが一方的にアンジェを邪険に扱ってるだけなのだが、
今回ばかりはさすがに二人とも同じ疑問に駆られた。

「・・・・どういうこったよ?」
「分かりません。魔術師様のお考えですから、何かあるはずなのですが・・・・・」

珍しく神妙に考え込むロストだったが、ふと目の前がぼやけて来たのに気付いた。


「あ・・・・れ・・・・・?」


おかしい。体が一切反応しない。そればかりか、意識自体が薄れていく。
まるで、自分が消えていく。そんな感覚を抱きながら、ロストの意識はそこで切れた。



「お兄様?」

ロストと同じ様にアンジェも彼女なりに考えていたが、兄の倒れる姿を見た途端、そこまでの考えを打ち切った。
駆け寄ろうとした刹那、アンジェにも異変が生じた。


「あっ・・・・・・・!」


頭痛に似ていたが、それは頭痛と比べるのも馬鹿らしく思えるくらいの痛みを伴った。
アンジェの頭の中を、様々な騒音が鳴り響いていく。それがアンジェから冷静な思考を奪っていく。

そして、アンジェもまた意識を断たれたのか、ゆっくりと頭を垂らしていく。



しばらく同じ体勢でいたアンジェはようやく顔を上げ出し、眼下に倒れるロストを“紅い目”で見下ろしながら、
不気味に口元を吊り上げた。


「・・・・ロストよ、君はしばらくそこで寝ていたまえ。私は今から彼女に演技指導をせねばならない。」


死体同然の様に何ら反応を見せぬロストを一瞥した後、アンジェは静かに歩き出した。





まるで何かに惹かれる様に、アンジェはゆっくりと歩き出す。
何が楽しいのか、その顔は笑顔を貼り付けていた。

「ようやく私も舞台に立てるとは・・・魔術師殿の研究も大分進んでいるようだ。」

その声色も普段のアンジェとは思えぬ程、楽しげな色を含んでいた。

「さぁ、アンジェ。到着したよ。急で悪いが、早速実技に移ろうか。」

少女の笑みに、少女の物とは思えぬ口振り。そして、血の様な紅い目。
それらを携え、アンジェは目の前の茂みを潜り抜け、その場に現れた。

「ひっ!?」
「きゃっ!!」

同時に、二人の少女の小さな悲鳴がアンジェに再び変化を齎した。
アンジェは“アイスブルー”の瞳で、目の前にいる二人の少女を見詰めていた。










『風王の冠』の大神殿を後にしようとする暗殺者とスティール。
二人の表情は決して優れた物ではなかった。

『デモンナイツ』最高幹部『フォースデモン』の一人、カオス。
その圧倒的な存在感に、流石の暗殺者も困惑せざるを得なかった。

(なかなか・・・・事は上手く運ばない物ね。)

無論、如何なる相手であっても倒す。それが『騎士団』に属する彼女の在り方だ。


と、自身の決意を改めて認識していた暗殺者の歩みが止まった。

「・・・?どうしたの?」
「・・・・・・・」

いぶかしむスティールだが、暗殺者は答えない。
代わりに、大神殿に高く聳える柱の一本の影に、殺気さえ籠めた声を投げ掛けた。

「・・・・そこにいる者、出て来なさい。」

これにはスティールも警戒を強める他なかった。
油断なく柱の影を見やると、そこから人影が近付いて来た。


中ぐらいの身長の、白髪と白髭を豊かに蓄えた老人だった。
頭には黒地に赤のラインが入ったシルクハットを被り、着ている物はタキシードスーツである。
手にはステッキが握られており、その頭頂部には黒い宝玉とそれを囲む様に銀の環があった。


「くくく・・・・変わらぬな、その殺気。貴様とこうして会うのは二年振りにもなろうかと言うのに・・・・」
「まさか、生きていたとは思わなかったわ。銀城 齋鮟・・・・・!!」

しわがれながらも威厳のある声で笑う齋鮟という名の老人と、語調を強めさらに殺気を籠める暗殺者。
明らかにただならぬ雰囲気の二人に、スティールは困惑していた。

「な、何なの、アイツは・・・・」
「あまり多くは言えないけど、奴は“騎士団”の殲滅対象の中でも、最も危険な人物の一人よ。」
「な・・・・・!?」
「くくく・・・・久々の再会。ここは、二人だけの時間と行こうではないか。」

笑いながら、齋鮟は手にしたステッキをスティールへ向ける。

「・・・・!いけない、あれを見ちゃダメ!!」

咄嗟に身構えようしたスティールだったが、黒い宝玉から放たれた光が目に入った途端、動きが固まった。
暗殺者は事前に目を隠していたお陰で、その影響を受けずに済んだ様だ。

「スティール、大丈夫!?」
「いや・・・デスティニー様・・・・いや・・・・いやぁああああっ!!」
「スティール!しっかりして!!」

頭を抱えその場に膝を突き、スティールは喚き散らす。
暗殺者の呼び声も届かないのか、スティールは目に涙さえ浮かべて泣き叫んでいた。

「くく・・・そ奴は今、己の中の“恐怖”を見ておる。そう易々とは逃れられぬぞ。」
「・・・・相変わらず性根の腐った奴ね。」

殺気の全てを齋鮟へと向け、今にも飛び掛かれるよう全身に力を籠めていく。
それを察しても、齋鮟は何ら動きを見せない。

「今日は貴様と事を起こす気はない。今日は、“王”からの伝言が目的じゃ。」
「・・・・・・・」
「儂はやめろと言ったのだがな。そんな事をすれば、貴様ら“騎士団”を敵に回す事になる。」
「能書きはいいわ。早く用件だけ言いなさい。」

既に暗殺者の手にはナイフが握られている。
それを認め、齋鮟は満足気にくっくと喉を鳴らしながら口を開いた。


「儂等は今、“アビス”や“破滅の使徒”を目覚めさせ、この世に終わりをもたらそうとしておる。」


「どの道、私達を敵に回さずにはいられないわ。だけど、何故そんな事を?」
「くくく・・・・貴様なら分かるだろう。“王”が何を望んでおるかを。」
「・・・・・」

何も語らぬ暗殺者に代わって、齋鮟は心底愉快そうに語り続ける。

「“王”は常にこの世に疑問を抱いていた。その疑問を解消するには・・・・」
「世界を終らせ、争いのない世界を創造する・・・・そんなの、何の解決にもならないわ。」
「どうかな?“王”はそれを望まれておる。」
「・・・あなたが唆した。違う?」
「さて、どうかのう?“王”が常々何を思い、何を望んでいたか。
 それを一番よく知っておるのは、他でもない貴様だ。フェオニール。」

そこで、とうとう暗殺者が動いた。
無言のまま、手にしたナイフを四本、素早く齋鮟目掛けて投げる。
狙いは全て急所。それは必中するものと思われていた。


「・・・・・!?」


だが、実際には齋鮟を庇い立てする様に現れた青年が、暗殺者のナイフを全て弾いてしまった。
それも、全て素手である。青年の腕には、傷一つ見当たらなかった。

鋭い目付きに石の様な灰色の髪を肩口まで伸ばしている。
端正な顔立ちをしていて、着込んでいるスーツが青年をさらに引き立てる。

「今日は挨拶だけじゃ。引き揚げるぞ、ディーン。」
「・・・・・・・・・・・」

ディーンという名の青年は無口なのか、一切口を開く事はなかった。
ディーンは無表情のまま、齋鮟は終始異様な笑みを貼り付けながら、自信の影に沈んで行く。

暗殺者は、それを黙って見ている他なかった。



「大丈夫?しっかりして。」
「う・・・・・あ、暗殺者・・・・・・・・・・・」
「よかった。何とか大丈夫そうね。」
「・・・・!そうだ、さっきの奴は・・・・」
「安心して。奴はもういないわ。」
「そう・・・・嫌な物を見た・・・・デスティニー様が命を懸けて“黒き月”を封印した事・・・・」

膝を突いたままのスティールに寄り添いながら、暗殺者は心の中に疑問を抱いていた。


(世界の破壊、そして創造。あなたは、本当にそんな事を望んでるの?カイン・・・・・)










「な・・・何者ですか、あなた達は?」

アンジェは珍しく混乱していた。
先程までいた兄の姿はなく、自分も突如頭痛に襲われたと思えば、気付けば目の前は先程とは別位置。
挙句、目の前には見知らぬ少女が二人いた。

「あ、私は水無瀬 蛍です。」
「・・・・・」

アンジェは絶句した。
こうして自分の目の前に現れた以上、敵としか考えていなかっただけに、
まさか本当に名乗って来るとは思っていなかったからだ。

だが、名乗った蛍に対してもう一人の少女−華枝の方は蛍の後ろに隠れ、一切口を開かなかった。
見れば、全身が震えている。

「・・・そこのあなた。心拍数の乱れを感知しました。少し休まれてはいかがでしょうか?」
「え・・・君、そんな事分かるの?」
「はい。私はその様な特技がありますので。」

ここは曖昧に特技と誤魔化したのは、アンジェが二人に自分の存在をなるべく
教えないようにという考慮からである。

「君、すごいんだ・・・・あの、お名前は何ですか?」
「・・・・アンジェ。それが私の名前です。」
「アンジェ・・・・?」

そこで、初めて華枝が口を開いた。

「・・・・綺麗な名前。天使みたい。」
「天使・・・・・・それはあくまでも名前だけです。私は天使などではありません。
 それより、あなたの名は?」
「あ・・・・風瀬・・・・華枝。」
「蛍・・・・そして華枝。記憶しました。」

一度言葉を区切り、それからアンジェははっきりと宣言した。

「ここは危険な場所です。あなた達二人がここにいる事は推奨出来ません。
 今すぐ引き返すのを最善の選択である事と提案します。」
「ダ、ダメ!ここには神歌ちゃんがいるの!」
「神歌?それはあなた方のご友人でしょうか?それならあなた達が行く必要はありません。
 もしもその神歌さんがここにいるなら、警察にでも任せれば・・・・・・」
「ダメェ!!」

珍しく声を張り上げた華枝に、蛍も、そしてアンジェも驚きを隠せなかった。

「神歌ちゃん・・・もしかしたら一人で怖い思いをしてるかも・・・そんなの・・・ダメ・・・・
 だから、助けに行かなきゃ・・・・・・・!!」

本気だ。彼女の瞳から、アンジェはそう思わざるを得なかった。
これでは説得は無意味。そう判断したアンジェは、渋々ながら提案を改める。

「・・・分かりました。では、私も同行してその神歌さんを探す。それで宜しいですか?」
「わぁ・・・・うん!」
「アンジェちゃん、ありがとう!」

嬉しそうに微笑む華枝と、アンジェの手を取りぶんぶんと振る蛍。
アンジェはこの二人の行動に頭が混乱する思いだった。

(何故この二人は見ず知らずの私にここまで・・・・・)

騙されやすいのか人がいいのか。どちらにせよ、アンジェは自分と同い年くらいの
存在と触れ合った事などなかったと思い返していた。



「・・・・あ。そういえば、さっき華枝ちゃんが言ってた何かって、アンジェちゃんの事?」
「ふえ?・・・・違う。もっと、もっと怖いの・・・・」

「・・・・・!?」

再び震えだす華枝と、内臓されたセンサーが高速で自分達に近付いてくるのをアンジェが
察知したのは、ほぼ同時だった。

「危ない!!」
「きゃっ!」
「ア、アンジェちゃん!?」

「ぐぅっ!」

咄嗟に二人を押し退け、自分も避難しようとしたが、獣のスピードはアンジェの
回避速度を容易く上回っていた。
獣が振るった爪はアンジェが防御しようとした右手を切り裂く。
アンジェの右手からは、血が止め処なく流れていった。

「い、いやぁ・・・いやぁああっ!!!!」
「アンジェちゃん!!」
「・・・・心配、いりません。」

涙を見せながら取り乱す華枝。対し、蛍も動揺してはいたが、冷静な判断力を失っていない分、華枝よりはマシだ。
アンジェは無傷の左手を負傷した右手に当てると、深い爪痕を刻んだ右手は嘘の様に治っていく。
瞬時にして傷は癒え、アンジェの右手は何ら異常を残さぬ状態となった。

「アンジェ・・・・ちゃん?」
「・・・私の事は後です。それより今は・・・・・・・・・・」

『グルルルルルッ・・・・・・』
「ほう。ゼベイルを追ってここまで来れば、中々に愉快な事となっているようだ。」


「・・・・“騎士団”並びに“デュナミストナイツ”最優先殲滅対象、仮面ライダーギルティーと判断。」
「私が分かるか?木偶。これはいい。」

巨躯を誇る獣−ガルムレ・ハウンドの傍を、漆黒のマントを羽織ったギルティーが宙に漂う。
そのあまりの威圧感に、蛍もアンジェも気圧されそうになる。

そして、その影響を一番受けていたのは華枝だった。
既に膝は笑い、目からは涙が毀れ、ガルムレ・ハウンドの背に自分の親友が・・・・
英琉 神歌がいる事など、全く気付く余地すらなかった。





第五章 第四十一話「フェイト」(岡島様作者)


数ヶ月前

地面に倒れる志保、その体から地面に血が流れる
(これじゃ・・・・・・・・・・正義の味方なんて)
そして彼女は目を閉じた
そこに近づく女性、髪形はショートカットに服装はワイシャツに長ズボン、その手には鞄
女性は地面に倒れている志保を見ると
「致命傷だな・・・・・だがまだ死なせるわけには行かない」

そして現在

列たちと分かれた後、病院施設へと向かっていた志保であったが、
「・・・・・!」
突如、彼女を列たちが感じたのと同じ違和感を感じ足を止める。それが何であるか、彼女にはすぐにわかった
「これは結界!」
そして、いやな予感が彼女を襲う。そして彼女の頭に列たちのことが浮かぶ
「あの人たちが危ない」
彼女は来た道を引き返した。

一方、病院施設では
詩姫達が未だ事後処理に行っていた。その時、詩姫の携帯電話が鳴る。ディスプレイに標示される名前
それを確認すると彼女は電話に出る。その相手は
「どこにいるの真姫」
蒼月 真姫(そうげつ まき)Gの三人目のエージェントである。
「いや、今街についたところなんだけど・・・・・」
突如、初音が携帯電話を取り上げる。
「あっ」
「借りるぞ」
と初音は一言いうと電話に向かって
「おい・・・・・・・・・」
「あっ初音・・・・」
そして初音は息を大きく吸い込むと
「おい、お前!遅いぞ!いったい何処で油うっていた!」
とてつもない大声で、言った。その大きさは携帯電話を壊しそうなほどの大きさで
詩姫は耳を塞ぎ、そして、遠くにいた凪や暦にもその声は聞こえていた。
「だって・・・・・道が混むわ、道に迷うわ大変だったんだから」
「どうだか・・・・・・・・」
彼女は持っている携帯に力を込める。電話を握りつぶしそうな雰囲気だ

「それより、街外れの森に強い結界が張られていてやばい雰囲気なのよ、ちょっと様子を見ていくから」
ちなみに真姫のいる場所は森から少し離れた場所で森の様子を見ることが出来る
「ちょっと遅れるから」
「おい待て」
「それと、来る途中、シンを見かけた」
「人の話を・・・・・・・てっ、シン!」
初音はシンという言葉で大きく反応した
「えっ!」
詩姫も反応する
「あいつもこの街に向かっているみたいだったけど」
そこまでいって突然電話が切れた
「もしもし!」
初音は真姫の携帯に電話をかけるが電話は繋がらなかった。
そして携帯電話を返す初音、そして詩姫は
「シンって、まさか彼が」
「アイツが、この街に来てるみたいだ」
詩姫は額に手を当て
「まずいわね。ここには騎士団がいる。彼らにシンが生きてる事がばれたら」
「確かに、まあ騎士団もアイツの死には自信があるし、変身後の姿も変わっているから、直ぐにはばれないと思うが」

その頃
「電池切れか・・・」
ポニーテールの髪型に白い半そでのシャツの上から黒いジャンバーを羽織り
下はジーパンといった格好をしている少女、蒼月真姫
彼女は携帯電話をポケットに入れると側に止めてある自分のバイクに乗り、森へと向かっていった。

一方、何処かの廃墟、中に数人の男達がいる
そこにやって来る一人の少年、髪は、そこそこの長さであるが、少々ボサボサな感じ
服装は白いシャンバーに黒いトレーナ、下は濃い色のジーパン
男達は、少年に気付くと
「何だ、てめぇ」
少年は答えない。男達の中の一人が突然
「ひっ!」
顔が引きつり、震え始める
「どうした」
別の男が、尋ねると、その男は少年を指差し
「こっ・・・こいつは化け物だ・・・・」
すると少年は
「あんた等もだろ。さっさと変身しろよデュナミストども。全員、殺してやるからよ・・・」
男達は怪物へと変身する、そう彼らは亜種デュナミスト、そして彼らは少年に襲いかかる。

数分後
少年は外に出てきた。そして廃墟には、肉片だけが残されていた。


そして、列たちの元に急いで向かう志保
だが
「・・・・・!」
再び彼女は足を止める。何かが近づいてくる。そう感じたからだ
それは、高速で彼女の元に近づいてくる。そして彼女の元に現れたのは
「こんばんわっ!」
魔女がつくった4人の仮面ライダー少女の1人、仮面ライダーウルエイアたんだった
「普通の人間かぁ」
「誰あんた」
別に志保は逃げようとしていた訳ではないが、ウルエイアから見れば、その姿は逃亡者のように見えた
「ねぇ、ボクと遊ぼうよ」
突如、
「グッ・・・・・・・!」
腹部への一撃、更にその直後、背部からの一撃、そして志保はうつむせに倒れる
「つまんないなぁ、普通の人間じゃ」
そして、立ち上がる志保、そして立ち上がりながら彼女は呟く
「セット・・・・・」
その姿にウルエイアは
「あははは〜、まだ立てるんだね、それじゃ」
更に攻撃を加えようとするウルエイア、だがその攻撃は当たる事はなかった
「うわっ!」
志保の体にバリアのような物が展開しウルエイアを弾いたのだ
「なに、なんなの」
ウルエイアは、油断していた。志保が普通の人間だと思っていたからだ。
そして彼女は見た志保の腰にベルトが現れている事を
「もしかして、君は」
その形状は変わっているが典型的な変身ベルト
そして、志保は右手を開いた形で手の甲を相手に向ける形で前に突き出し、
「変身!」
かけ声と共に拳を握る。
そして、ベルトから光が放たれ、彼女は変身した。
彼女の腰にベルトが出現した。
「仮面ライダーだったんだね」
そして彼女は名乗る
「フェイト・・・・・仮面ライダーフェイトよ」
そして、ウルエイアは
「あははは〜、おもしろくなってきたね」





第五章 四十二話 「死の炎」(残影剣様作者)


フェイトがウルエイアと戦っている同時刻、
陣を連れ去ったエウリュディケは、施設の装置を使って彼の肉体状態を診ていた。
そして、その診査結果を見て頷く。

『・・・なるほど、興味深いデータだな・・・。』

エウリュディケは口元を歪ませながら一人語りだす。

『このデータが本当だとすると、激痛の原因は異端細胞の侵食か・・・。』

ここで説明しておくと、仮面ライダーには単純に三つのパターンが存在する。
一つ目は、いぬみ達のように装着する装備タイプのライダー。
二つ目は、京達のように体自体を変化させる変化タイプのライダー。
そして三つ目は、一菜達のように異なる存在と一つになる融合タイプのライダー。

陣は、この三つの内、最後のものの特異パターンであるとエウリュディケは推測した。

『何と融合しようとしているかは解らないが・・・とりあえず、ライダーに変身する度にその“何か”に近づくといった所か・・・まるでジョーカー化みたいだな?』

ふと、彼女が言った比喩は、的を射ているとしか言えなかった。
彼の状況はまさに、以前の一菜がキングフォームを使用する時とほぼ同じだったからだ。

『そうなると、変身後の激痛を取るのは難しいか・・・まあ、人間時の侵食なら抑制装置を着ければ問題は無いか・・・。』

そう言って彼女が手の中で弄んでいるのは、銀色のロザリオだった。
それは、陣がいつも大事に首に掛けている物だったのだが、エウリュディケの興味を引き、ついでに調べたものだった。

『誰が作ったのかは知らないけど・・・よく出来た抑制装置だ・・・でも、少し出力が足りないかな・・・?』

そう、実はそのロザリオは侵食を抑える抑制装置だった。
しかし、製作者の予想を裏切り侵食は強く、結果として彼の体を蝕んでいたのだ。

『まあ僕なら出力を上げる改造が出来るし・・・問題は無いけどね・・・。』

そう言って彼女は、彼をどうしようかと狂気を含んだ笑みで彼を見ていた。










―同時刻、郊外の森

「あ〜、暇だ・・・。」

侵入者の迎撃を命じられたラフエイアは、一向に誰も来ない事に苛立ちを感じていた。
元々、強襲型として改造されたせいか彼女自身も自分から攻めに行くほうが性にあっているようだ。

「くそ、ウルエイアの方は誰かいるみたいだし・・・本当に誰か来ねーかなー?」

ヒュンッ

そんな事をぼやいた瞬間、彼女の頭を打ち抜こうと、凶弾が迫った。
しかし、いち早く気付いた彼女は、その凶弾を地面ごと巻き込んで叩き伏せた。

「いきなり不意打ちなんてやるじゃねえか・・・誰だ、出で来いよ!!」

ラフエイアが大声で叫ぶ。
すると、近くの木の陰から一人の少女が現れた。

「へぇ、気配を悟らせないでよくココまで近づいたな・・・誰だ?」
「・・・アラストール・・・。」

そう、ラフエイアを撃った少女は深緑の狙撃手アラストールだった。
彼女は、病院での戦闘を終えた後、すぐに本部に帰還し、新たな指令により魔女の本部へと赴いたのである。

「そうかアラストールか・・・丁度いい、さっきからイライラしていたんだ・・・その鬱憤、お前で晴らしてやる!!」

ラフエイアは、疼く戦闘本能を隠そうともせずアラストールに向かってゆく。
そして、アラストールはラフエイアを倒すために銃を構えた。










その数分後、所戻ってエウリュディケの施設。

「・・・っ。」

エウリュディケによって気絶させられた陣は、先ほど身体検査していた場所ではなく、広い空間で目が覚めた。

「ここは・・・?」
『目が覚めたみたいだね。』
「・・・!!」

最初はぼやけ気味だった頭が、スピーカーから聞こえるエウリュディケの声を聞き、はっきりと覚醒する。

『そう警戒しないで貰えるかな?』
「・・・出来る訳ないだろ・・・。」

エウリュディケを敵と見なし、陣は険しい顔をして変身の体勢をとる。

『やれやれ、好戦的だね・・・まあ、丁度いい気もするけどね。』

エウリュディケがそう言うと、空間の中に、10体の怪人が出現する。

『君の力・・・試させて貰うよ!』
「五月蝿い・・・変身。」

陣は静かにカードをベルトに差し込み、漆黒の剣士“デュラン”となり怪物達に突撃して行った。






・・・ヒュッ、ザシュッ!

「・・・8・・・。」

デュランの黒い一閃が、容赦なく8体目の怪人の体を両断した。

『へぇ・・・コレは想定外だな・・・。』

それをモニターで見ていたエウリュディケは、驚いた様子でデュランの姿を見る。

ズヒュウッ!!

8体目、植物型の怪人がデュラン目掛けて蔦を伸ばす。
しかし、デュランはギリギリの距離まで蔦を誘い、姿勢を低くして避ける。

ズバッ

そして、その一瞬の隙を突き、蔦を両断する。
だが、怪人は切れた蔦を更に伸ばそうとする。
しかし、デュランはすぐに“剣”では斬れぬ事を理解し、

「・・・断乃型。」

ザッ、バシュッ、ズシャッ!!

“剣”から“鎌”へと魔剣を変え、植物型の怪人を分解する。

「・・・9・・・。」

今まで倒した数を呟きながら、デュランは最後の怪人の方を見る。
最後の怪人は、エウリュディケが試作中の物で、植物怪人を大型化したような姿だった。

「・・・攻撃力の強化・・・いや、生命力の強化か・・・。」

その容姿を見て、デュランは冷静に相手の特性を予測する。
怪人は、大量の蔦をデュランに目掛けて伸ばす。
デュランは、最初に来た蔦を鎌で斬り、残りは直感に任せ全て回避した。

「・・・この形態じゃあれだけの数を斬れないか・・・。」

そう、鎌の形態は攻撃力なら高いが、どうしても小回りが利かないという弱点を持つ。
しかし、仮に剣の形態に戻しても相手の再生能力を看破できない。

「・・・なら手は一つ」

デュランは、すぐに魔剣を剣の形態に戻し突撃する。
怪人は、好機と思い全ての蔦をデュランに伸ばした。
しかし、それはデュランにとって予想道理の行動だった。

ヒュンッ、バッ!!

一瞬、無数の黒い閃光が走り、蔦は見るも無残に千切れ飛ぶ。
そして、その隙を突きデュランは手に持った剣を有るだけの力で怪人向けて投げつけた。
怪人は、予想もつかない攻撃に怯み、その胴に剣を受け入れてしまった。
剣の勢いは収まらず、そのまま怪人を壁に突き刺す。

だが、コレだけでは怪人は死なない。
それを理解しているデュランは、最後の詰めに取り掛かる。

デュランは、ベルトの右にあるトリガーを押す。
すると、デュランの右足に黒い炎が巻きついた。
しかし彼は、右足の変化に気にする事無く怪人目掛けて走りだす。
怪人は蔦を蘇生させようとするが、剣の力か、上手く蘇生できない。
そしてデュランは体を捻りながら跳躍し、一言呟いた。

「・・・黒焔脚。」

その一言と共に、強力な炎を纏った回し蹴りが怪人の首を千切り飛ばした。
そして、その場に固定されていた胴体と千切れ飛んだ首はそのまま燃え上がり、灰も残らず消えていった。

「・・・The End。」






『いやはや、あれだけ居たのにもう終わりか・・・。』

エウリュディケは残念そうに言うが、その心の中は歓喜で満ちていた。
彼女は、デュランは不完全な能力を、強力な武器によって補っていると思っていた。

しかし、その認識は間違いだった。
彼の切札は、魔剣では無く、元々持つ天性の直感と幾多の地獄とも言える戦いを越えて得た経験によって作り出された戦術理論だった。
感覚と知識により敵の攻撃を予測し、更に敵に対して有効な手段をすぐに理解し実行する。

確かにデュランの戦闘能力は高いとは言えない、しかし彼が彼女の部下であるセフィロトナンバーズと戦ったとしても恐らくは彼が勝利するだろう。
例え大きくても生まれたばかりで原石である彼女達では、彼女達よりも小さいが磨きぬかれた宝石であるデュランには勝てない。
つまり、エウリュディケの想像以上に彼は利用価値のある存在だったという事だ。

『さて、彼をどうやって僕の物にしようかな?』

そう呟く彼女の表情は、新しい玩具を得た子供にも、良からぬ事を企む魔女にも見えた。





第五章 最終話 「限界突破」前編(空豆兄さん作)



恐怖におびえる子羊を思い出した。


牧場に現れた狼。
襲われる仲間、逃げ惑う羊たち。
その中でたった一匹、物陰に隠れてそれをやり過ごそうとする子羊。

周りがまったく見えない恐怖と、自分ただ一人だけ・・・という孤独さ。
それらに押しつぶされ、動くことも鳴くことも出来ない、無力な獣。




「うあ、あぁ、ぁぁぁ・・・・・・・・・!!」

・・・彼女が、そういう風に見えた。
先ほど知り合ったばかりの少女、風瀬 華枝が。




・・・・・・・・・・・・。





「クッ、ククククク・・・!」

「みつけたぞ。「ゼベイル」。」
見上げるような巨体の獣に寄り添うように浮かぶ、黒衣の男・・・仮面ライダーギルティー。
その男が、言葉を発した。


「ゼ、ベイル・・・?」
あまり耳にしない単語。
しかし、彼女の頭の中には、その言葉の意味が残されている。
それは、『騎士団』の収集したデータの中にある、この近辺に出現する仮面ライダーの一人。


「検索・・・。一致。仮面ライダーゼベイル。」
「『騎士団』の観察対象となっている、正体不明の仮面ライダーです。」

「きし・・・・・・だん?それに、仮面ライダー・・・・って・・・・。」
アンジェの隣に立って、二人の会話を聞く蛍。

その内容にわずかに震えを覚える。

蛍自身が、その秘めた「力」を振るうための姿、仮面ライダー。
そして目の前にいる二人は、どういうわけか「それ」を知っていたのだから。

(仮面ライダー・・・。この間助けてあげた、「槍使い」さんとも違う・・・。)



「ほう・・・。そうか。お前たちはまだその正体を知らないのか。」

「現在、調査中です。ですが、先ほどのあなたの言葉からは、すでにその情報を知っていなければ発言できない意を含んでいます。」
「仮面ライダーギルティー。あなたは知っているのですね?ゼベイルの正体を。」

「それをお前が知ってどうするのだ。木偶。」
「『騎士団』の今後の参考にさせていただきます。」

「フ、フフ・・・。それは無駄だ。」
「その笑みの理由は、私を今この場で始末するから、という古典的回答でしょうか。」
「残念ながら私は、先ほど見た通り高い治癒能力を有しています。いくらあなたでも、私の生命活動を停止させることは困難のはずです。」

「違うな。・・・なぜなら、これからその情報は意味を成さなくなるからだ!」

バッ!!!

宙を浮くギルティーは、その黒衣のマントの中から、白く光を放つ氷の刃を抜き放った!

「こ、氷の剣!?」
蛍の驚きの声。
「解析・・・・。『騎士団』の探索していた古代のデュナミストライダー、「ルシファード」の8つの武具のひとつ、『アイスコフィン』と一致。」
「いかにも。そしてこれをどうするか。」


ヒュウッ!!

「!!?」
ギルティーは、その手にした剣を横薙ぎに振りぬいた。
飛び散る小さな氷の粒子、それと共に放たれる冷気・・・。

「眼前の愚者、冷厳なる凍気の牢獄に封印せん・・・『フロストプリズン』。」

カッ!!

ギルティーが其の呪を唱えたとき、アイスコフィンから放たれた氷の粒子が、アンジェと蛍の周りに舞い降りる。
やがてそれが地に落ちると、青く輝く魔方陣を成す。

そして。


ビャキキキキキキッ!!!

「!!!!」
「きゃあっ!!!?」

そこから鋭利な氷の塊が発生、二人のまわりに円状に囲む。
それは3メートルもの高さにも及び、二人の視界を完全に遮った。

「お前たちはそこにいるがいい。我の邪魔をされては面白くないのでな・・・。」


「計測・・・、通常とは異なる組成の氷の構造物。破壊、または溶解を誘発するのは困難と判断します。」
「そんな・・・。これ、壊せないって事ですか!?」

「華枝ちゃんは!?華枝ちゃんはなんともないの!!?」
「華枝の鼓動をこの氷の壁の向こうから感知。私たちだけが隔離された模様。」

「華枝ちゃん!!にげてぇぇ!!!!」




「あぁ・・・・・・ぁ・・・?」
震えていた華枝が、その蛍の声でようやく自分の周囲の異変に気づく。
「ひ・・・・っ!?」

ひざを抱えて震え上がっていた華枝。
顔を上げれば、先ほどまで一緒にいた二人が、どこにも其の姿を見えなくしている。



「邪魔者は消えた・・・。あとはお前の本当の姿を見せろ。」
いるのは、あの黒衣の男だけ。


「う、あ・・・・。蛍ちゃん、アンジェちゃん・・・?」

「ふむ。魔女の話の通り、今のこいつはただの臆病者か。」
「あ・・・・、私、一人・・・・・・。」



おびえた瞳で辺りを見回す華枝。

「暗い・・・・夜・・・・。」

「誰も、いない・・・・・。」
見上げるそこには、夜の闇より深いマントをまとう仮面ライダーギルティーがあるのみ。

「臆病者のお前に用はない・・・。『ゼベイル』を出せ。」

「ゼベイル・・・・・。ゼベイルって・・・・!!」

「そうだ。もう一人のお前・・・・ゼベイルだ!!」





「違う!!!」
華枝は、それに対し叫んだ。

「違う・・・?何が違うというのだ。」
「私の体は、私一人のものだもの!・・・だから、もう一人の、もう一人の私、なんて・・・・・。」





「私、なんて・・・・・・・・・。」

「声が弱くなってきたぞ・・・?お前もなんとなく気がついているのだろう。自分ではない、「自分」の存在を。」
「私じゃない、私・・・・。」

「そうだ。「お前」以外の「お前」だ。」
「魔女に囚われ、生み出してしまった人間ではないお前だ。」


「人間じゃ・・・ない・・・・・?」



ギルティーの言葉が、華枝の中に入ってくる。
それは、思い出したくない記憶を呼び起こす呼び水となる。

魔女に誘拐され、体をいじられ、戦うための力を植えつけられてしまった記憶が。


「う・・・・・・あ・・・・・・・・・!!!!!」

蘇る。
今度ははっきりと、「この戦い」が始まるきっかけとなったあのポーラーアンデッドとの戦いの時よりも。



「漆黒の闇をまとい、夜空を醜く舞うお前のもう一つの姿を、この我に示してみよ!!」



ギルティーの声が遠くに聞こえる。
意識が遠くなる。

物事は目に見えているのに、体の感覚だけが引き剥がされ、吹き抜ける夜風も踏みしめる大地の感覚もない。
自分が自分でない感じ。



(・・・・・・・・いいの。)

そして聞こえる、もう一つの「自分」の声。

(・・・辛い思いをしなくても、いいの。)

それは華枝にやさしく訴える。

(辛い思いも怖い思いも、それは私が背負うものだから。)
(あなたはただ、静かで穏やかな日々をすごしてくれればいい。)

(戦いは、私の役目だから!!)


その声が聞こえた時、また華枝の意識は深い闇の中に落ちていく。
それは心地よい眠りにも似て。
忌まわしい記憶も、なりを潜めて・・・・。



・・・そして、再び黒き「蝿」は蘇る。


バッ!!!

華枝・・・いや舞夜の体は闇をまとい、黒い仮面ライダーの姿へと変身する!

「私は仮面ライダーゼベイル!!夜を舞い、闇に蠢く悪を討つ!!」






「・・・ようやくお出ましか。ゼベイル。」
その出現に、ギルティーは満足したような笑みを浮かべる。
「私を呼び出して、いったいどういうつもりなの?」

「くくく・・・。ゼベイルよ!お前の求める英琉 神歌は、ここにいる。」

「な、なんですって!!?」
ギルティーは、先ほどから鼻息の荒い魔女の改造実験体、ガルムレ・ハウンドを親指でさす。

その首に、首輪のように巻きつく緑の蔦。
それは背中まで伸び、何かをたれ下げているように見えた。

「・・・・まさか!!」

「そういうことだ。見るがいい。」

ぱちんと、ギルティーが指を鳴らす。
するとハウンドの首の蔦がじゅるじゅると動きだし、背中のほうにあった「それ」が持ち上げられ、前の方へ垂れ下がった。

「・・・・・・・・・・・。」

「それ」は、緑の蔦に巻き上げられ、意識を失っている一人の少女だった。
そしてそれはゼベイルのよく知る人物でもあった。


「神歌・・・ちゃんッ!!!」

「クククク・・・・。」
驚くゼベイルを見て、満足そうに笑むギルティー。

「人質だって言うの!?なんて卑劣なッ!!!」
「・・・人質だとすれば、どうするのかな?」

「何があっても、助け出すッ!!!」
「神歌ちゃんは私にとっても、華枝にとっても、にいさんにとっても大切な人なんだッ!!」

「そうだ。それでいい。素晴らしいぞ、その闘志。」


「だからこそ・・・、その後に待つ絶望の表情が楽しみになる。」



「なんですって・・・・?」

ぱちん。

再びギルティーが指を鳴らす。
すると神歌を縛り上げる緑の蔦はガルムレ・ハウンドから離れ、彼女を抱えたまま手近な樹に巻きついていく。

「彼女には特等席で見物いただこう。仮面ライダーゼベイルの、最期をな!」
「神歌、ちゃん・・・!!」


「・・・さあ、ガルムレ・ハウンドよ!今こそその牙を解き放て!」
「ゼベイルを・・・殺せぇッ!!!!」


『ヴガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』

ギルティーの声に反応し、ハウンドは猛った。





第五章 最終話 「限界突破」後編(空豆兄さん作)



ダンッ!!!

ハウンドが地を蹴った!

通常の人間よりも一回りも大きいその巨体が、枯葉を舞い散らせ迫る!
振りかぶるその腕には、5本の鋭い刃物のような爪が光る!

「・・・・・・・・!」

ブゥォンッ!

振り下ろされた爪を、ゼベイルはその背の羽根を震わせ飛び上がりかわすッ!

ダァンッ!!

だが、その動きにすぐさま追従し再び地を蹴るハウンド!
「は、速いッ!!」

その勢いで、あっという間にゼベイルの目の前に躍り出ると、両腕を振りかぶり再びその爪を振るう!
『ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』
「あああああ・・・・・っ!!!?」

ドシャアアアアアッ!!!!!

空気を震わす轟音と共に振り下ろされたその一撃は、その衝撃で地の枯葉を舞い上げた。



「クク・・・・。存外あっけない。失敗作のライダーなど、こんなものか。」
その始終を見ていたギルティーは、そうつぶやいた。



『ガルル、ルゥ・・・・・。』

ギギギ、ギギギ・・・・!!!

ゼベイルを仕留めたはずのその両腕が、きしむ音と共に震え始める。
「・・・・なんだと?」


「だあああああああああああああああああああああッ!!!!!」

ガシィィィィィンッ!!!


『ヴガアアアアアッ!!!?』
叫び声と共に、ハウンドの両腕がはじかれる!

その下にいたのは、白い装甲に身を包んだゼベイルの新フォーム。
フォーム・ヒッポリュトス!

両腕の分厚い装甲が、ハウンドの両腕の一撃を受け止めていたのだ。


「それがミクエイアを倒した新フォームか。だが・・・。」



「このまま、その腹にこいつを叩き込んでやるからッ!!」
押しのけたその太い腕の脇を縫って、ゼベイルは右腕の巨大砲「ヒッポリュトス」を向ける!


『ヴガアアアアアッ!!!!』

ダンッ!!

「っ!!?」
それに反応し、弾かれるようにゼベイルから離れるハウンド。
魔女の森の木の陰を伝い、ゼベイルの周辺を回り始める!

「くっ、このおおおっ!!!」

ズドオオオンッ!!!

ハウンドに向かってヒッポリュトスを放つゼベイル!
その砲弾は、木を駆ける巨大な獣めがけて飛ぶ・・・。

バゴオオンッ!!!


・・・が、それは木に阻まれ、命中することはなかった。
「あいつ、木を盾に!」
『ヴガルルルオオオオッ!!』

ズドンッ!ズドンッ!!ズドンッ!!!

立て続けにヒッポリュトスを放つが、やはりそれは命中することはなかった。
木と木の間を抜ける一瞬を狙うには、相手の動きはあまりに速い。


「ククク・・・無駄だ無駄だ。魔女の作る改造実験体は、常にお前の最新の戦闘データから作られる。」
「同じ手は、二度と通用しないのだ!」

フォーム・ヒッポリュトスは強大な火力と防御力を得られる代わりに、その反応速度を犠牲にしている。
今のままでは、相手のスピードについていくことは不可能・・・ッ!

「く・・・、それなら!」
ゼベイルはその装甲を解くと、今度はその目の前に巨大な剣を呼び出し、それと融合する!
「フォームアップ!メデアアアアアアアアアアッ!!!!!」

両腕に剣、そして全身に小さな刃を備える、ゼベイルの近接戦闘フォーム。
ゼベイルの叫びと共に、それは具現化し、彼女の力となる!

「これで、勝負ッ!」


ダシュッ!!

ゼベイルも地を蹴る!
木々の間を抜けるハウンドに追従していく。
身軽になったその剣のフォームは、先ほどまでは不可能だったそれを可能にした!

見る見る追いつくその大きな背中。
体毛に覆われたその体には、ところどころ肌色の部分が露出して見えた。

人体改造によって生まれた、悲しい改造実験体。
望むはずもなかった、戦闘兵器への転生。

哀れむ気持ちもある。
なぜなら彼女、ゼベイルもまた同じだから。
だからこそ、この相手がもう救いようがないことも理解している。

自分だけは特別だった。

しかし、だからこそ。
この相手は。
魔女の生み出した改造実験体たちは。

「私の手で、倒すッ!!!」

それが、改造されてしまった人たちを、唯一救う方法だと信じて・・・!


ビュウッ!!

右腕のブレードを、その大きな背中に振るいおろした!


ザギィィンッ!!

『グガアアアアアアアアアアアッ!!!』

一閃はハウンドの背中を切り裂き、バランスを崩したその巨体は地に倒れ込む。
ハウンドは顔から倒れこみ、その勢いで顔は地面を引きずっていく。

「動きが・・・止まった!」
その様子を見て、ゼベイルも足を止める。

あの程度でやられるはずはない・・・。

ゼベイルは油断なく構え、その巨体が起き上がるのを待った。

『グガ、ガ・・・・・・』

地面を引きずった頭を手で抑え、ガルムレ・ハウンドはゆっくりと起き上がった。
 
『グガアアア・・・・アアア・・・・・・・・!!』

ブチブチブチッ!!

「っ!何!?」
その時、ガルムレ・ハウンドはその顔を縛り付けるつぎはぎの糸を引きちぎり始めた・・・!!
糸が引き抜かれ、縫い目だらけだったその顔の皮膚が、徐々に剥がれ落ちていく。

ビシャリ、ビシャリと生々しい音を立て、その剥がれ落ちた皮膚の下があらわになっていく。
ゼベイルはその衝撃的な光景を見守ることしか出来ずに・・・。

むくく・・・。

やがて、その「頭」のあった部分が盛り上がり始める。
そこには別の何かが入っているかのように、それは体を食い破るように、そこから出たがっているように・・・。
ガルムレ・ハウンドの体は蠢動を始めた。


・・・・・・。


「クク・・・。そろそろ、頃合か。」

そう、この戦いを見下ろす仮面ライダーギルティーは、誰へともなく言葉を出した。



メキメキ・・・メキバキ・・・

不気味な音を立てて蠢動していたガルムレ・ハウンドのその部分が、ついに破られる。


バリィッ!!

『アアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』



「・・・・・・・・・!!!」
そこから現れたのは、人間・・・いや、人間だった「モノ」だった。

ガルムレ・ハウンドの首のあった部分から、人間の上半身が2つ、生えてきたのだ・・・!
それは30前の、若い男女に見えた。
男は腰から上が生え出しており、女は肩から上が生え出ている。

どちらも、その目に生気はなく、涎を垂らし、野獣のように吼え猛っていた。
それは開放された喜びか、醜い姿をさらした嘆きか。
その、一匹となった二人は、ただただ、空の月に吼えた。


「改造実験体の、ベースになった人間なの・・・!?」



・・・・・・・・・。



「・・・静かに、なりましたね。」
氷の牢に閉じ込められた、水無瀬 蛍がつぶやく。

「まもなく、この氷の組成の解析を完了。脱出法が検討できそうです。」
機械的な反応を返すのは、同じく閉じ込められた騎士団が一人、『癒し手』のアンジェ。

「そ、そうなんですか!?じゃあ、早くしないと!外で華枝ちゃんがどんな目にあってるか・・・!!」
「理解しています。作業効率、5%向上させます。」
「どういうことしてるのかわかんないですけど・・・。がんばってくださいっ!」




・・・・・・・・。




『ウアアアアア・・・・』
『オオオオオオオオオ・・・。』


その叫びは、時間が経つごとに嘆きの声へと変わっていく。
二人は泣いていた。

記憶のない彼らに、なぜそのようなことが出来るのかはわからない。
だが、それでも彼らは泣いていた。

「・・・・なんて、悲しい声・・・。」
その声に、ゼベイルも感じ入る。

彼らも同じ人間で、改造を望んでいた訳ではなくて・・・。

そう思うと、先ほど決意したばかりの心が鈍る。
こんなかわいそうな人たちを、私は倒さなくてはならないのか、と。




「どうした?ゼベイル。動きが止まっているぞ?」

「!!」
そこへ、あの漆黒のライダーの声。
「そいつらの姿に、情けをかけようというのか?思っていたよりも甘い奴よ。」
「魔女を倒すためになら、お前は手段を選ばないと思っていたのだが・・・。ククク。」

「お・・・お前ッ!!」
「そいつらは所詮は改造実験体。感情など既にないわ。我の命令に忠実に従う、卑しい下僕よ!」

月に吠えるガルムレ・ハウンドを見下ろす形で出現する、ギルティー・・。
「この人たちは、お前たちのせいでッ!!!」

「ククク。吠えるなゼベイル。ではお前の甘さを、我が消してやろう・・・。」
「甘さを、消す・・・・?」

ばっ、と、ギルティーはその腕を伸ばす。

「ハウンドよ。命令だ。」

『!』
主の声に、反応するハウンド。
その実行すべき命令が発せられるのを待つ・・・。








「英琉 神歌を、殺せ!!!!」


『!!!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!』

ダシュッ!!!

ハウンドはすぐに、その場を駆け出した!!


「っ!!!!お、お前っっ!!!」
「ハハハハハハ!!!我にすごんでいる場合ではあるまい!!!」

・・・その通りだった。
改造実験体であるハウンドは、ギルティーに従い、ためらいなく神歌を殺す。

「う・・・くそっ!!!!」

バッ!!!

ゼベイルはその背の羽根を広げ、すぐにハウンドを追った!!




ザザザザザザ・・・・・!!!!

地を蹴り、木の葉を舞い上げ、ハウンドは駆けた。
その速度は先ほどまでの戦闘が示すとおり、野生の獣のような敏捷さを誇る。

森の木をかわし、それはあっという間に神歌に迫る。
軽量型デミ・パランツェによって木に拘束された、ゼベイルの大切な人に。

(ダメ・・・!!!あいつの方が、速い・・・!!!!)

それを上空から追うのがゼベイル。
森の木々の中では、ゼベイルの最高速を叩き出せる飛行は不可能。
しかもギルティーに気を取られた一瞬の隙が、ゼベイルとハウンドに絶望的な距離の差を生んでいた。

『アアアアアアアアアアアアアア!!!』
『ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

もはや、神歌の赤い髪をたたえた姿は目の前であった。

振り上げられるハウンドの左手。
走る勢いもそのままに、その腕は無情にも神歌に向かって振るわれた――――――――






・・・・・。

だめだ!!!

もどかしい、もどかしい・・・!!!
私の速さではアイツに届かない!!

私の甘さが、この結果を生んだ!!

このままじゃ私のせいで、神歌ちゃんが死んでしまう・・・・。
私の、華枝の、兄さんの大切な人が死んでしまう・・・!!



キィン・・・・。

ゼベイルの体の中の「何か」が、動き始める。




私は、神歌ちゃんを救いたい・・・・!!
私たち兄妹の大切な人である神歌ちゃんを、私はこの手で守りたい!!!


キィン、ィン、ィン・・・・・



だから!!!
私の体よ、風を裂け!!!
夜を貫き、私は黒き閃光となる!!

地をかける獣よりも、空を舞う鳥よりも速く!!!

もっと速く、もっと速く、もっと速く!!!!!!!




キィン、ィン、ィン・・・

ギィィィィィィィィィィンッ!!!!!!



ゼベイルの体内の「その装置」は、ゼベイルの思いに応えた・・・!!






・・・・・・・・・・。



ビクゥンッ!!!

「ウウッ!!!」
「っ!和子!!?」

華枝を追って魔女の森に入ったEASEの二人。
そのうちの一人、神藤和子・・・エウリピデスが突然何かを感じ取り、その場にうずくまってしまった!

「だ、だめ・・・・。舞夜・・・!!!」
「いきなりどうしたの!しっかりして、和子!!」

同じくEASEのメンバーであるソフォクレスは、そのうずくまった仲間を気遣い、しゃがみこむが・・・。

「だめだ・・・!!その力を”同時に”解放しては・・・・・!!!!」



・・・・・・・・・・・。




その瞬間、ゼベイルの体はさらに黒く輝いた。

ゼベイルの全身を纏っていた刃は姿を消し、それはエウリピデスの大剣「メデア」としてゼベイルの横に浮かんだ。
さらに、その体内に宿すもう一つの力、巨大砲「ヒッポリュトス」も浮かび上がった。
その二つの像は、ゆっくりとゼベイルの中に入っていき、その姿を変えていく・・・!!

ゼベイルの背中に出現する、大砲「ヒッポリュトス」。
しかしそれは武器としてではなく、自らの飛行を強化する、大型の推進器として顕現する。
そして大剣「メデア」は、その飛行を補助する鋭利な翼としてヒッポリュトスと一体化した。

それはエウリピデスから与えられた2つの能力を同時に解放し、持ち味だったゼベイルの速度を爆発的に強化させた、ゼベイルの新たなフォーム・・・!!

フォーム・E(エウリピデス)!!!!









「神歌ちゃあああああああああああああんッ!!!!!」








ビクンッ!!

・・・・何故か。
その神歌の命を奪うはずだった爪は、その寸前で止められた。
ゼベイルの必死の叫びに呼応するように・・・。

『ミ・・・・』
そして、ハウンドから生える男性が、声を漏らした。
先ほどまでの咆哮ではなく、人間の声を。

『ミ・・・ミ・・・』




『ミ・・・ミカ・・・・。』








「うああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

ズダアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

『・・・・・・ッ!!!』

その一瞬、黒い閃光がその伸ばされた体毛に包まれた太い左腕に走った。

ズッ・・・


ハウンドと神歌の間に降り立つゼベイル。
背中には、その小さな体に不釣合いなほどのブースターを備える。
その、今までのゼベイルをはるかに超えた閃光の一撃は、ハウンドの腕を切り落としていた!!

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

再び獣の声を上げるハウンド。

「もう・・・!!あなたを解放してあげるから・・・!!!!」
切り落とされた腕を押さえ、のたうつハウンドに向かって、ゼベイルは飛んだ!!

ガシイッ!!

『!!!?』

その腹に向かって飛び、ハウンドを抱え、森の上へと飛び出すッ!!

『アアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

「ええええええええええええええいっ!!!」
ゼベイルはその勢いのまま、空中高くに向かってハウンドを投げ出した!!


ブゥオオオオオオオオ・・・・・・!!!!

背中の推進器が唸りを上げる。
出力を高め、ゼベイルの放つ「その言葉」を待つ。

「ラピッドブレイク・・・オーバードライブ!!」



バウッ!!!!!

ゼベイルのその声ともに背中の推進器が点火。
怪物じみたスピードで脚を突き出し、まっすぐにその対象へと突っ込んでいく!!!



そして、空中に投げ出されたハウンドに、回避も反応すら許さない。

「でやああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

バシュウウウウウウウウウウウウウウンッ!!!

突撃したゼベイルに、その体を引き裂かれるガルムレ・ハウンド。


『ミ・・・・・。』

『カ・・・・・・・・・・・・・・・。』

・・・・その声は、誰にも届くことは無く。



ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

ハウンドは、空中で四散した。



・・・・。



「・・・・・・・・・。」


シュウウウウ・・・・。

ハウンドが死んだ事により、先ほどゼベイルが切り落とした左腕も、消滅していく。
灰となって崩れていくその中に、何かが残る。
それは、光る宝石のようだった。



「・・・・いいぞ。これでいい・・・・。」
「クククク・・・。」



・・・・。



「あ、あれ・・・・・?」
目の醒めた神歌は、自分が落ち葉のベッドで眠っていた事に気付く。
「なんで、神歌は・・・・?」

きょとんとあたりを見回す。

「誰かに、呼ばれたような・・・・。」
わずかな記憶を思い起こすが、その理由は分からない。
だが、自分が眠っている間、彼女は誰かに呼ばれた気がしていた。

「・・・・・・あ。」

わけも分からずあたりを見渡す中で、神歌は何かを見つけた。

「指輪・・・・・?」
「これ、どこかで、みたような・・・・・。」

神歌は、どこか懐かしいものを覚えるそれを、手に取った。





・・・・・・・・。





「ど、どうしたの和子!さっきうずくまったと思ったら、いきなり起き上がって走り出して!!」
「舞夜が、舞夜がこの先にいるの!」

何かに呼ばれるように、彼女はまっすぐ森を進む。
その姿は、明らかに焦燥を帯びていた。

「舞夜!舞夜!!!」
先の見えない暗い森の奥へ、名前を呼ぶ和子。
返事を待つ前に、その脚はさらに奥へと進んでいく。

「もう、なんだって言うの・・・。この先に、何があるの!」
後ろから文句を言いながらついてくる豊桜 冥の声も無視し、神藤 和子は奥へ奥へと・・・。


「・・・・・和子?」

「!!!」
その声は、自分の進む先の、すぐ横から聞こえた。

「舞夜!」
和子の振り向いた先、そこに立っていたのは、黒き蠅。
夜の闇を舞う仮面ライダーゼベイルだった。

「舞夜、よかった、無事だったのね・・・。」
その姿にうれしそうに笑むと、その小さな体を抱きしめる。
「和子・・・。」

舞夜は、華枝のもう一人の人格は、その変身を解くと、力なく笑った。
「・・・舞夜?」




「・・・ごめんね。」




ブシュッ!!!!

「・・・・・・・・・・・・?」

それは、突然の出来事だった。
舞夜がその言葉をつぶやいたとき、その全身から真っ赤な鮮血が噴出したのだ。

和子の眼鏡を赤く染める、舞夜の血。
「・・・・・あ。」

しばらくあっけに取られていた和子が、声を漏らす。
「あ・・・・・・。」


「いや・・・・。」

「いやあああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」





第五章 エピローグT 「覚悟」(ユルカさん作)



―EASE地下戦闘訓練場


「ハァ…ハァ…ハァ…」


変身を解いた陣は、自分の体が以前よりも軽くなったことを感じていた。


「どういう…ことだ…?」

『…知らなくてもいいのさ。今はね。』


陣の前にエウリュディケが姿を現す。


「そこをどけ。」

『君は…「デモンナイツ」を知っているね?』

「!!」


要求をはぐらかされた事よりも、それを知っていたことのほうが陣は驚きだった。


『顔に出るねぇ。…君はデモンナイツを倒す。僕はそれをサポートする。それでいいじゃないか。』

「断る。俺は…俺の力で…奴らを倒す!」

『悪いが…もう遅すぎるんだ。君は…僕に抗うことは出来ない…。』

「何を…!?」


陣はそれ以上喋れなかった…。

いや、動かそうとしてもピクリとも動かない。


『君は…「デモンナイツ」を倒すための…僕の大切な剣の一つだ…。』

「俺は…『デモンナイツ』を倒すための…剣…。」


陣はエウリュディケの台詞を反復してしまう。

その目は以前、木場 夕菜達が操られた時と同じように、虚ろな瞳になっていた…。


『僕を守るための剣となれ……総てを断つ剣に…。』

「俺は…デュラン…全てを断つ者……。」

『デュラン…僕の言うことを聞いてくれるね?』


陣はエウリュディケに跪いた。


「了解…しました…。俺は…貴女様を守る……全てを断つ者:仮面ライダーデュラン…です…。」


その腕にはこれまで陣の腕には無かった、銀でできた鎖のブレスレットがあった…。





―豊桜 冥の家(と言うか隠れ家)




「舞夜…! 死なないで…!」


あの後何故か結界が無くなり、(和子によれば何らかの力が働いたとの事)

豊桜 冥と神藤 和子の二人は風瀬 舞夜を連れてここまでやって来た。

そして、和子は自身の能力をフル活用し、何とか舞夜の命を救い出そうとしていた…。

…和子の能力は、腕にさまざまな超能力を身につけている事だった。

暖めて癒す、電撃を流す、思考を読む、などなど。

無論ここで使っているのは、相手の体を温めて癒す…である。


「………。」


冥は和子から全ての事情を聞いた。

最初はとても信じられなかったが、今思うとそれが組織の裏切りに繋がったのかもしれない…。

そして、病院での会話で列と話がかみ合わなかったこともわかる。

列は表(風瀬 華枝)だけを、和子は裏(風瀬 舞夜)だけを見ていたのだから…。


「大丈夫よ…。」

「え…?」

「彼女は死なない…。あなたが…和子が…信じている限り…!」

「ええ…!」


しかし、和子の心象は複雑だった。

自分の救った命が、自分の与えた能力のせいで危機に瀕してしまうとは…。

いざとなったら、和子は自分の命をも捨てる覚悟で、舞夜を助けようと考えていた…。

そして冥は、列に連絡しようと電話の受話器を取った…。





―時雨養護施設





カシス・時雨は悩んでいた。

どうしてあの時、自分は…その正体を見せなかったのか…。

カシスは京を守るため、姉に呼ばれてこの地へと来た。

彼の正体は…メガロドンオルフェノク。

簡単に言えばサメのオルフェノクなのだが、激情態があまりにも巨大なために目撃者は巨大サメを見たと思ってしまうらしい。

彼も以前のSB社に追われていた裏切り者のオルフェノク(オリジナル)だった。

それを助けてくれたのは、SB社前社長:花形だった。

母国フランスで新たなベルトの研究を進め、カシスは見事新たなベルトの開発に成功した。

しかし、悪用されるのを防ぐために封印し続けてきたのだ。

…だがもう、封印する意味も無い。自分以外このベルトは扱えないのだから。


「俺は…京を守る……絶対に…!」


彼が持ってきたアタッシュケース…その中にはギリシャ文字のΞ(クシー)を模したベルトが収められていた…。





―EASEモニタールーム





エウリュディケは陣を自室へと案内すると、このモニタールームへ二人の従者を連れてきた。

セフィロトナンバーズのナンバー1:ケテル・ドッグとナンバー2:コクマー・キャットである。


『二人とも、僕と一緒に作戦に参加してもらいたい。』

「どういった作戦で〜?」


赤と水色のツートンカラーの服を着た少女:ケテルがめんどくさそうに言う。


『欲しい物があるんでね…。』

「草加 雅菜ですか? それとも志熊 京?」


黒のボディに所々、黄色のワンポイントの服を着た少女:コクマーが疑問を投げかける。


『いや、そのどちらも自分のものにする作戦さ…。』


次のエウリュディケの台詞は恐ろしいものだった…。


『風瀬 列を…僕の手中に収める。』





第五章 エピローグU 「蒼い瞳と紅い瞳」(イシス作)


闇を象徴した漆黒のマントを羽織るライダーの造りだした極寒の牢獄(フロストプリズン)の中では、
途方に暮れ氷の壁面を眺める蛍と、表情を一切変えずにいるアンジェがいた。
アンジェはしばらく氷の表面を手で触れて何かを確認していたようだ。

「・・・解析、終了。」
「あ・・・どうでした?」

自分とは違って感情に乏しい少女ながら、蛍は不思議とアンジェに信頼が置けた。
包み隠さず、ただ事実だけを述べる彼女の在り方がそうさせているのかもしれない。

「破壊方法は幾つかありますが、現在の状況では不可能でしょう。通信で応援を要請する事が最前の判断とします。」
「出来るんですか?」

蛍はスカートのポケットに入れておいた携帯を取り出す。
森の中という事もあって、ディスプレイには圏外の二文字が過酷な状況に追い討ちをかけるように映っていた。

「私には通信機能が内臓されております。なんとか交信を試みてみます。」

蒼い髪に隠れた米神に当たる箇所に、アンジェの人差し指と中指が綺麗に伸びた。





やはりノイズが酷い。森という条件下とこの牢獄の影響であろう。
それでも通信を続け、炎使い、あるいは魔術師への連絡を試み続ける。

「・・・・・・・・!」

だが、返ってきたのはより一層強力なノイズだった。それも、自分の頭の奥底からである。
機械のように振舞う少女は、危うく悲鳴を上げそうになった。
今にも頭が粉々になってしまうほどの強烈な頭痛と、砂嵐で埋め尽くされた視界。
ぶれたビジョンが見せるのは、氷の壁面ではなかった。誰かの微笑みだ。

心から神にでも感謝しているのが、見えるのは口元だけだというのに、何故かハッキリと分かった。
それも一人ではない、あと二人いる。だが、それが誰なのかは視界の砂嵐の所為で確認出来ない。


やがて、アンジェの世界が一方的に閉じられた。





「ゼベイルを倒す事はままならなかったか・・・まぁいい。」

ギルティーの声には苛立ちも落胆もなく、むしろ最初からこうなる事が分かっていたかのようだった。
いずれ、ここもあまり歓迎したくない連中が押し寄せて来るだろう。これ以上ここにいる理由はない。

ギルティーはマントをはためかせながら宙を舞うと、自身が造りだした氷の牢獄の真上で滞空した。

「あの木偶はともかく・・・もう一人の小娘。奴からは何か特別な物を感じる。我の物にするのもいい。」

邪悪な笑みを仮面の下に隠しながら、再度ギルティーの前に魔方陣が浮かぶ。
彼ほどの実力者となると、氷の牢獄とアンジェを消し炭に変え、蛍だけを生かすよう、精密な攻撃も可能だった。
今にも地獄の炎が疾駆しようかと思われた刹那、周囲の音を敏感に感じ取る彼の耳に、異質な音が届いた。





「これは・・・!?」

小枝が折れるような、乾いた音。それは真下に位置する、極寒の檻からの物だった。
さらに、見る見るうちに牢獄に亀裂が走り出す。
この亀裂は内側からの物としか考えれないが、その内側からこそがもっともありえない。

中にいるのは特別な力をもったとは言え、まだ未熟な少女と、治療しか出来ぬはずの改造実験体(トライアル)のはずだ。
だが、ギルティーの驚きを他所に亀裂はさらに深まり、遂には爆音を纏い、牢獄は粉砕された。

中から、急に世界が一変した事で呆然としている蛍と、その細腕を氷の壁面に触れていた
であろう姿勢のまま微動だにしない、アンジェが姿を見せた。

「まさか・・・あの木偶がやったとでも言うのか?」

蛍の中の未知の力が破壊したならともかく、治癒を目的とするアンジェでは不可能のはずだ。
無言で二人、特にアンジェを見下ろすと、その視線に気付いたアンジェも彼を見上げる。

「!!」

蒼いショートヘアーの下から覗いた“紅い目”が暗黒の化身たるライダーを見つめている。
無表情一辺倒のはずの少女の瞳には、不気味に感情が渦巻いているようにも見える。

怒りなどではない、それは歓喜だった。
歪んだ歓喜を瞳に携え、少女の姿をした“何か”は、小さな唇の端を吊り上げる。

ギルティーが初めて見た少女の笑みからは、いい感情が湧いてこない。
ただ言えるのは、ここで屠らねば、いずれ強大な敵として現れる事だ。

「だが・・・時間切れか。」

忌々しげに、ここへ近付いてくる者達の気配を鋭敏に感じ取り、一瞬だけその方向へ視線を走らせる。
次に真下へと移した時には、少女は“蒼い瞳”に戻っていた。

「ただの木偶ではなかったか。“騎士団”・・・奴らは何をしようとしている?」

誰に聞くでもない問いを闇へと投げかけ、黒いマントを翻す。
圧倒的な存在感を誇った暗黒のライダーの姿は、既に消えうせていた。





「仮面ライダーギルティー。反応、消失。」

この場の最大の脅威が去った事で、アンジェの警戒レベルが一気に引き下げられた。
しばらく虚空を眺めていたが、乱れない動きでもう一人の道連れへと振り返る。
蛍は外に解放されて、驚きのあまり何度も瞬きをしていた。

「すごい・・・すごいです、アンジェちゃん!」

驚きはすぐに歓喜へと変わり、言葉だけでは足りないのか、身体全体でそれを表現する。
何の前触れもなくアンジェに抱きついたが、アンジェが蛍の取った行動に不可解さを覚えたのは仕方ない。
なにせ、蛍自身もよく分からず喜びのあまりに抱きついたのだからだ。理屈で説明出来る物ではない。

「蛍。言葉と行動が伴っていません。平静を取り戻し適切な振る舞いをするよう要求します。」
「だってだって、アンジェちゃん、あの氷を全部壊しちゃったんですよ!?どうやったんですか?」

蛍とアンジェの会話は何一つ噛み合っていない。
しかし、アンジェは蛍の言葉を、会話内容を聞き逃さず記憶してしまう機能のお陰で、無視出来ない内容も拾う事が出来た。

(私が壊した?おかしい・・・私の能力は“治療”。破壊の機能は一切備わっていない。まして、あの牢獄を・・・・)

蛍がこんな時に嘘を吐ける人間でないのは、アンジェでも分かる。
だが、彼女の言う事は本来、不可能な事なのだ。それが今、こうして現実に存在している。

(私は何をしたんだ?いや、そもそも“私だったのか”?)

表情には見せなかったが、アンジェは珍しく慌てて自身の活動履歴を漁る。
そこには、ほんの一瞬ではあったが、確かに意識を失っていたと思われる瞬間が存在していた。
時間は氷の牢獄を破壊した時と、完全に符号している。

(魔術師様はこの事をご存知なのだろうか?)

抱擁されたまま思考に没頭していて、自分達に近付いてくる気配に気付けなかったのはアンジェの失態だった。
もしもそれが敵対するような存在であったなら、二人ともここで命を散らす破目になっただろう。





「蛍!!!」

夜の森に悲痛な声が響き渡り、弾かれたように少女達が振り向くと、そこには三人の人影があった。
蛍は三人の中央、長い茶髪をした少女に目を奪われてしまう。

「姉さん!?」

喜びよりも、どうしてという驚きの方が強い反応を蛍は示す。
動揺する蛍へと、姉の秋奈はおもむろに歩み寄っていく。
ただし、表情は怒り心頭に達していた。
秋奈は蛍の小さな両肩を掴むと、激しい剣幕で攻め立てる。

「なんでここに蛍がいるの!?」
「そ・・・それ・・・は・・・」
「ここはとても危ない場所なのよ!?なのにどうして・・・・!!」

それ以上は言葉にならず、蛍をきつく抱きしめる。
身体全体が小さく震えているのが分かる。それが、余計に蛍の心を締め付けた。

「ごめんね、蛍・・・怖かったでしょう・・・」
「う、ううん・・・姉さんは悪くないよ・・・・私が勝手に動き回った所為なの・・・」

ようやく秋奈は抱擁をやめ、蛍と目を合わせる。

「でも、蛍はどうしてここに?何か大切な用があったの?」
「え、う・・・・」

咎めるつもりもなく、優しい声色で秋奈は語りかけるが、蛍は返答に詰まった。
たった一人の姉を、ここで起きた怪異に巻き込む訳にはいかないからだ。


「蛍は私と華枝と共に、この森で英琉 神歌なる少女を捜索していました。」

助け舟を出したのは、今まで黙していたアンジェだった。

「華枝!?華枝もここにいたのか!?」

妹の名が耳に入り、この中で唯一の男性、風瀬 列が声を張り上げた。
狼狽する列とは反対に、アンジェは表情を変えず話を続ける。

「はい。ただし、華枝とは途中ではぐれてしまい、現在、行方が知れません。」
「そ、そんな・・・・」
「蛍。本当なの?」
「え!?う、うん・・・アンジェちゃんの言う通りだよ・・・」

詳細には語らなかったものの、事実に反する事は何一つ言っていない。
望んだ回答が得られず、列は肩を落とし、あわやその場で倒れそうになった。
蛍も姉に嘘を吐くのは気が引けたが、姉を巻き込まない為と自分に言い聞かせる。

アンジェは列達を素通りすると、静かに自分を見下ろす草加 雅菜へと歩み寄った。
腰にカイズィーギアが着けている事で、彼女の警戒心の高さを窺い知れる。

「後の事はあなたに任せます。私はこれにて撤退いたします。」
「え・・・ちょっと待って!あなたは華枝ちゃんや神歌ちゃんを探さないって言うの!?」

声を荒立てて食って掛かるが、アンジェは怯まない。

「私はやむを得ず蛍と華枝に協力し、英琉 神歌なる少女を捜索していただけです。
 これ以上の協力をする理由が私にはありませんし、報告の為、帰投するのが私の最優先事項です。」
「そんな・・・そんな無責任な話、ないだろ!!!」
「列・・・」
「風瀬君・・・・」

相手が少女で、言っている事がもっともでも、列は納得が出来なかった。
振り絞った叫びに、雅菜と秋奈は言葉を失ってしまう。

「・・・言ったはずです。私が協力をする理由が・・・ガガ・・・が・・・・GA・・・・」
「アンジェちゃん・・・?」

蓄音機から出た耳障りな音のような声が、アンジェの口から出た。
一瞬だったが少女の動きが止まり、今度は列へと歩み寄る。

「・・・そう落ち込む事でもないぞ、少年。」
「え・・・?」

少女の口調が変わった。無機質な物から、今度は感情の籠もった物になる。
ただし、感じられたのはこの場に似つかわしくない、“歓喜”だった。
“紅い目”をしたアンジェは、どこか芝居がかった声色を列に掛けた。

「華枝は生きているよ。途中まで一緒だったのだし、いなくなってからもしばらくは彼女の生体反応を感じれた。
 今は・・・そうだね。誰かが匿ったかして、ここじゃないどこかにいるんじゃないかな?」
「ほ、本当なのか!?どうしてそんな事・・・」
「勘だよ。だが、彼女が一番無事な選択はそれであろう?」

その瞳には不思議な魔力を帯び、引き込まれてしまいそうになる。
列はアンジェから片時も目を離さず、また彼女の言葉を一言一句聞き逃さない覚悟で聞き入った。

「君に出来る事は信じる事さ。華枝の無事をね。」
「信じる・・・」
「そう。君が信じないで、誰が信じるのかね?それが君の台本さ。」

甘い囁きの如く、列だけでなく、雅菜も、秋奈もアンジェの言葉を疑おうとしなかった。
ただ一人、蛍を除いては。蛍は列に優しい声色で語るアンジェに違和感を感じ、背筋が震えた。

(違う・・・アンジェちゃんじゃない・・・・)

心の隅で、元に戻って欲しいと願ったのが叶ったのか、アンジェの不可思議な声はそれ以上発せられなかった。

「!?」

“蒼い瞳”にまた戻った少女は、いきなり列から飛び退いた。

(私は何故この男の前にいる?)

次第に少女は警戒を高めているのも知らず、列は消え入りそうな声を出す。

「分かったよ・・・俺、信じるよ。華枝の無事を。君の言う通り誰かが助けてくれたのかも
 しれないし、まだ森で迷子になってるのかも・・・でも、華枝は無事だって、信じるから。」
「・・・私が?」
「うん、そうだけど・・・?」

さっきまでの荒い語調ではなく、女の子と接する時の声色に戻る列。
しかし、アンジェには彼の言う事が全く理解出来ていなかった。

(私が言った・・・?何を?駄目だ・・・これ以上ここにいる事は出来ない・・・)

この場に残る事は、さらに自分を混乱させるしかないと判断し、アンジェは列達に背を向けて歩き出す。

「アンジェちゃん!!」

呼び止めたのは蛍だ。秋奈から離れ、アンジェへと駆け寄った。

「あの・・・また会えますか?」
「・・・・・」

しばらく無言の間が続く。答える理由もなかったし、答えたとしても、「保証は出来ない」と返すだけだ。
だが、アンジェの口から無意識に出たのは、そのどちらでもなかった。

「・・・ええ。また。」
「わぁ・・・!うん!約束ですよ!」

嬉しさいっぱいに蒼い髪の少女の手を取り、上下に動かす。
ひとしきりそれが終ると、アンジェは今度こそ皆に背を向けて歩き出した。やはり、表情は変わっていない。





アンジェが列達の前から去っていくのを、人形使いは木陰からジッと見守っていた。
雅菜もいる以上、自分も必要ないだろう。もう何も期待する物もないと歩きだした途端、
ジーンズのポケットに入れておいた携帯が震動した。

「・・・もしもし。」
『私よ。』
「暗殺者か。」

“風王の冠”でギルティーの八つの武具の一つ、“ウィンドシールド”を破壊し終えた暗殺者からだった。
電話越しにも関わらず、彼女の声は不思議と艶やかである。

『“ウィンドシールド”は無事破壊。魔術師、炎使い、槍使い、戦闘狂も引き揚げたわ。
 あなたも戻ってらっしゃい。』
「はいよ。こっちも報告だ。弓使いが死んだ。」

弓使い―ニナ・アリアスは魔術師の命令を受けて風瀬 列を人質に志熊 京に対する切り札にしようとしたが、
自分が列を庇った事と、最後はカイズィーのゴルドスマッシュで灰へと帰していった。

「どうしたもんかね・・・魔術師の怒る姿が目に浮かぶよ。」
『それはあなたの所為じゃないわ。今回の彼の作戦は行き過ぎた。』
「そうかな・・・」
『私からも言っておくわ。安心なさい。』

自分の育ての親とも言える彼女の言う事だ。こういう時は誰の言葉よりも信頼出来た。
ここで、それまで優しい声色から、厳しい口調になった暗殺者の声が入ってくる。

『ここからは厄介な問題。まず、“デモンナイツ”最高幹部、カオスというライダーと遭遇した。』
「なに!?」

かつて、世話になった剣使いの仇の組織。
その最高幹部の名に、人形使いの携帯を持つ手が震える。

『さらに、銀城 齋鮟にも会ったわ。』
「なんだって!?アイツ、死んだんじゃ・・・アンタが倒したんじゃ!?」
『でも生きていた。これは推測だけど、奴はここで何か企んでいる。そして、奴の背後には・・・』
「まさか・・・カインがいるのか・・・?」

“カイン”の名を呟く人形使いの声は、完全に怯えたものだった。

『彼は危険よ。倒せるのは私しかいない。』
「・・・倒すのか?」

やや間を置いてからの質問に、暗殺者は答えを遅らせる。
しかし、返す時のその声は、様々な感情が入り混じっていた。
怒りだけではない。そこには、愛しむような響きも含まれている。

「殺す。彼を殺せるのは私だけ。そして、殺していいのも私だけよ。」





SB本社ビル、木場 夕菜は書類に目を落としていた。
表情は落胆の一色と言ってもいいだろう。

(いぬみさんがあんな状態で・・・美月ちゃんも・・・・)

エウリュディケに利用されたいぬみはまだ目を覚まさず、さらに美月も謎の襲撃で意識をうしなっていた。
特に、美月は悪夢でも見ているように、しきりにうなされ続けている。

敵はこれまで以上に強大。ある意味、最悪の敵達の勢揃いと言える。
まったく歓迎できる物ではないが、起きてしまった物は仕方ない。
こちらも強力な仲間を揃えて、立ち向かわねばならない。

「京さん以外のライダー少女。他に協力してくれるとすれば、レンナさん。
こちらは一菜さんに任せても大丈夫ですよね。他には・・・・・・」

思案に耽る夕菜を邪魔したのは、社長室の扉を壊さんばかりに開け放った北崎 沙耶だった。

「大変大変!しゃっちょさん、大変だよー!」
「・・・北崎さん。私は今忙しいのです。出来れば手短に。」

面倒臭げに夕菜は突き放すが、沙耶は知ってか知らずか、特にその事で反論はしなかった。
もっとも、今の沙耶の顔は珍しく慌てふためいている。

「うん、あのね・・・いぬみちゃんと美月ちゃんがいなくなっちゃったの!」
「な!?詳しくお話ください!!」
「今手短にって言ったばかりじゃないのー!!」
「いいから早く!!!」

少しだけ沙耶はヘソを曲げたが、事態が深刻な為、それ以上は言及しない。
その豊満な胸の谷間に手を伸ばすと、中から黒いリモコンが出てきた。

「ど、どこから出してるんですか!///////////」

顔を赤くする夕菜を無視し、沙耶はリモコンのスイッチを押す。
目の前に大型のディスプレイが現れると、そこに鮮明な解像度の映像が再生された。





場所はSBの大型病院。その中でも特にセキュリティの高い一区画だ。
そこではいぬみと美月が最新設備での治療を受けている。

画面が切り替わると、次に映ったのはいぬみと美月の病室だった。
特に変化もない、いぬみの静かな寝息と、悪夢にうなされているような美月の呻き声。
それ以外、特におかしな物は何もない。

「な・・・・!?」

夕菜の驚きが漏れたのと、病室に誰かが入って来たのは同時だった。
灰色の髪を肩まで伸ばしたスーツの男。そして、修道女の服をした桃色の髪をどこかの令嬢のように揃えた少女。
男はおもむろにいぬみと美月に近付くと、有無を言わさず二人を肩に担いだ。

いぬみはまだ意識も戻らず、美月も悪夢を見ている事から、二人とも自分がどうなっているのかは分からなかった。
当然、二人に異常が起きれば警報が鳴るように仕組まれている。
けたたましい警報が鳴り響き、病院内は何者も逃さぬ収容所となった。

あと一分もせぬ内に、待機していたライオトルーパーの部隊が侵入者を捕らえるだろう。
すると、警報に慌てた様子もなく、修道服の少女が監視カメラに気付いた。
途端、カメラからの映像が途絶えて、画面には砂嵐だけが映る。

「この後、すぐに駆け付けたんだけど・・・誰もいなかったんだって・・・」
「そんな・・・いぬみさん・・・美月ちゃん・・・・」





第五章 エピローグV 「おぞましき異形達、そして消滅」(イシス作)


蜘蛛にも似たその魔物達の牙が、長い脚が、戦場を蹂躙していく。
グロテスクな容貌の怪物達は研究所だけでなく、そこで戦うファントム、セイバー、ブレイド、イクス、セイガー、メツ、シルス達にも襲い掛かった。

「なんなのコイツら!?」
「分からない!でも、今は・・・・ウェイ!」

飛び掛った蜘蛛をブレイドの剣戟が縦に両断してしまう。
いまだ戸惑うファントムだったが状況はそれを許さず、腹を括って蜘蛛達を迎え撃つ事に専念した。

ブレイドは剣戟、ファントムは格闘戦で蜘蛛達を相手にしていく。
異形の乱入で戦いを中断されたイクスとメツは、互いの得物で正確に蜘蛛の頭部を撃ち抜いていた。
盾役のシルスは蜘蛛達の攻撃から主君であるセルファを守り抜いていく。



「はぁあああああああああっ!!!」
「ぐっ!?」

鬼気迫るセイバーの斬撃が自身のクローンたるセイガーを弾き飛ばした。
“双刀丸”で防御するも、双剣を手にする腕が痺れたままだ。

「ちっ・・・強くなったな、セイバー!」

忌々しげにセイガーが剣を揮うが片方を、ルシファードの八つの武具の一つ“魔剣ダークソード”との契約によって
強化された新たな剣の片割れ、“轟黒剣:グラル・デスリオル”が叩き折ってしまう。
そこで相対する者に生じた隙を逃す“剣”の称号を持つライダーではない。
すかさず“白世剣:インティ・ファルシオン”が、残りの剣を粉微塵に粉砕しながらセイガーを切り伏せた。

「ぐぁああああああっ!!」

ボロボロの壁面に叩き付けられたセイガーの喉元に、すかさずセイバーの黒轟剣が突き付けられる。

「俺の勝ちだ。」
「ぐぅ・・・!」

ただ事実だけを口にし、黒轟剣に徐々に力が籠められていく。
あと少しでセイガーの首が赤い放物線を描きながら宙を舞おうとした。

「ぬっ!?」

それを阻むように、蜘蛛の群れが“剣”のライダーに躍り掛かる。

「邪魔をするな!!」

激昂した叫びを上げながら、荒々しくも美しい剣戟が蜘蛛達を細切れに変えていく。
しかし、如何せん数が多すぎる。既にセイバーはセイガーを仕留める機会を逸していた。





バイスは崩壊しかかった研究所の屋上からこの惨劇を見守っていた。
主にファントムの動きを観察していた複眼が、怪しく輝きだす。

今が好機だ。何故あの蜘蛛達がここを襲っているかは知らないが、これを利用しない手はない。
幸いにも、ここにいる誰もがあの化け物達を相手にするので精一杯だ。
仕事は一瞬で済む。それこそ疾風の如く行動し、素早くファントムを攫ってしまう。

誰も自分の気配に気付いていない事に内心ほくそ笑み、バイスの脚が動こうとする。

『ギギッ!?』

突如、バイスの動きがピタリと止まってしまった。任務の事も忘れ後ろを振り返る。
いつの間にそこにいたのか、それとも最初からずっといたのか。

「ふぅ・・・・」

ややハスキーな溜息と一緒に紫煙がたっぷりと吐き出される。
すっかり短くなった煙草を地面に落とすと、履いている軍靴で容赦なくそれを踏み躙ってしまう。

老人のような白髪を軍帽で覆い、着衣は軍服。軍帽の下の切れ長の目は
さながらナイフである。驚く事に、今バイスの目の前にいるのは女だった。

「・・・・貴様に怨恨はないが、これも仕事なのでな。」

淡々した言葉と共に、女はバイスに向かってゆっくり歩き出す。
ただそれだけなのに、バイスは震撼した。


殺される。


不意にそんな恐怖が過ぎった。死を前にして抗える者がいない事を、
まさか今身を持って実感しようとは。任務だけを遂行し、結果失敗していた方が
どれほどマシか。不自然にバイスは自分の肌が寒気を感じている事に気付いた。
まるで死の風に怯えてしまったかのようである。

『ギッ!』

もはや覚悟を決めるしかない。バイスの口から圧縮された酸弾が軍服の女へと
吐き出される。女は咄嗟に横に回避するが、その間にバイスは屋上から飛び降りようとしていた。

これでいい。僅かに時間さえ稼げればいいのだ。
一瞬でも目の前から“死”が遠ざかってくれれば、後は任務に専念するだけでよい。

ここからなら落下の速度もあって、より早くファントムに襲撃を掛けられるはず。
落下の衝撃など、下で無尽蔵に溢れ返る蜘蛛達をクッション代わりにすればいい。
“逃避”と“任務遂行”を兼ねた、最善の選択であった。

バイスの多脚に力が籠もり、地を蹴り付け屋上から飛び降りようとする。


『ギッ?』


だが、脚に力が入らなかった。嫌な予感がして複眼を自分の脚に向け、
そして恐怖に再び震え上がる。


脚がなかった。


一本たりとも残っていない。全て綺麗に付け根から無くなっていた。

『ギギッ!?』
「ふー・・・・」

死の溜息が紫煙と一緒に自分に吐き出されたのを察し、バイスはさらに震撼する。
軍服の女は目の前に回りこんでいた。どれほどの速さなのだろうか。
この時、バイスの脳が女の認識を改める。


ただの“死”ではない。もはやコイツは“死神”だ。


怯えるバイスの複眼が、死神が手にしている得物にようやく気付けた。
骨で組まれた、無骨な大剣。まさに死神が手にするには相応しい代物だ。
その大剣に付着している血は、紛れもなく自分の物だった。

「貴様にファントムを渡す訳にはいかなくてな。クライアントは奴も、そしてセイバーもご所望だ。」

死神が大剣を振り上げる。重さなど感じさせない動作は、強靭な腕力がある事の裏付けにならない。


最後に、耳に届く何かが裂けた音。
バイスは不思議と冷静に、自分の首が落ちたのだなと理解した。





絨毯のように異形達は研究所に敷き詰めていく。
どれだけ倒してもそれ以上の数が押し寄せてしまい、もはや手の打ちようのない状況だった。

さらに、蜘蛛達が増えれば増える程に、地鳴りが響き出す。
彼等の脚が地面を踏み付けた事による物なのか。しかし、とてもそうとは思えない、
言葉では言い表せないような不吉な靄のような物が胸に突っ掛かる。

まるで、この蜘蛛も地鳴りすらもまだ前座に過ぎぬ。
真の災厄はこれからだと言わんばかりの―――



大口を開けて疾走する蜘蛛の口中を正確に打ち抜く“銃”の称号のライダーの後ろに
隠れているノアは、ここらが潮時と察し少しだけ声を荒げて叫んだ。

「ファントム!ブレイド!セイバー!撤退するわよ!!」
「うん!いつまでもこんな所にいられないよ!」
「分かった!」

ファントムとブレイドは潔くノアの提案に乗り、彼女の元へと駆け寄る。
しかし、セイバーは襲い掛かる蜘蛛達を斬り伏せながら、真っ向から食い下がった。

「馬鹿を言うな!あと少しでセルファを倒せるのだぞ!?」
「そっちこそ馬鹿言うんじゃない!このままじゃ私達の方が先にお終いよ!」
「な・・・!」

息巻くセイバーだったが、ノアの怒声はそれ以上の物で、流石の“剣”のライダーも一瞬だけ怯んでしまう。



この時、セイバーはセイガーをあと少しで倒せた事、そしてセルファを倒す事に躍起になり過ぎていて、
彼にしては不注意なほど周囲の状況を把握出来ていなかった。
如何にこの場にライダーが何人かいるとは言っても、既に周りを蜘蛛の怪物達に完全に包囲された状態になっている。

地鳴りも既に異形達の行進では済まないほどの激しさになりつつある。
これ以上、ここにいる事は危険と判断するのが適切だった。



「アンタの目的はそこの娘を守る事でしょ!?こっちもヤバイけど、セルファもヤバイの!
 今回は痛み分けって事で我慢なさい!!」
「サラ様・・・」

一瞬だけ、セイバーの視線が愛機“スラッシュ”に匿っている主君たる少女へと動く。
このままではいくら“スラッシュ”に護られているとは言っても、いずれ中から引き摺り出され、
無残に食い貪られてしまうのは想像に容易い。そんな惨たらしい結果など、望むはずがない。
私怨よりも大切な少女の命を優先させたセイバーは、潔くスラッシュと共にノアの元へと駆け寄った。

『WARPVENT!』

インティ・ファルシオンの鞘にカードを読み込ませると、セイバー達の姿は一瞬にして掻き消えてしまう。
蜘蛛の群れがさっきまでノア達のいた場所に殺到したのは、それから一分も経たずしてであった。



「セルファ様。ここはもう限界です。」
「撤退、推奨。」

律儀なメツとただ必要最低限だけを口にするシルスの提案を、セルファも飲み込まずにはいられない状況である。
何もかも予想しなかったハプニングばかりに、忌々しく唇を噛んでしまう。

「仕方ないわね・・・セイガー!」

忠実な従者の名を張り上げると、セイガーは根元から折れた“双刀丸”を手に、危なげな足取りで現れた。
彼の身体に刻まれている夥しい切創を目にして、セルファは全てを察する。

「・・・ここは放棄する。あなたの治療も必要になるわ。」
「・・・はっ。」
「セルファ様。“あれ”はいかがいたしましょうか?」

“あれ”という言葉に、セルファの眉根が狭まる。
一瞬の間を置いて、狂気の科学者にしては珍しく弱気な声が出た。

「・・・仕方ないわ。“あの子”は放棄するしかない・・・・この状況では、救いだす事も・・・」
「・・・了解しました。」

まるで我が子を慈しむような声色の奥底にある心情を三人のライダーは鋭敏に察し、
それ以上何も言わず、すぐに撤退の準備に取り掛かった。





蜘蛛は研究所の周囲だけでなく、徐々に建物内部にもその驚異を広げつつある。
研究所の中でも一際巨大なセルファのラボ。そのさらに最深部に“それ”はあった。

堅牢な造りのカプセルの中に何があるのかは分からない。
しかし、そこから滲み出る狂気の波長にも似た空気は、それだけでこれが危険な代物で
ある事を、もしも誰かがこの場にいればそれを容易く感じ取れるだろう。


「・・・・なかなかの物ね。これならおばあさまも喜ぶわ。」


いつからそこにいたのか。金髪の女はカプセルを前にして、漂う狂気にむしろ歓喜さえ感じていた。
右手を翳し綺麗に人差し指と中指を伸ばすと、カプセルの下部が突然消えていく。
いや、正確には下からどんどん影に沈んでいたのだ。

「回収完了。」

カプセルは深い闇同然の影へと消えてしまい、金髪の女―魔女の最強のライダーの一人である
ガブエイア―はそれで役目を終えて研究所から退散していった。





直視も憚られる異形が跋扈し、研究所を蹂躙していく。
地鳴りは既に地面のあちこちに激しい亀裂を生じさせ、建築物を崩壊させていく。

それからしばらくして、研究所は謎の発光に見舞われ、巨大なクレーターと化した。
クレーターには瓦礫の山も、蜘蛛の死体もない。


何もかも消滅していた。





第五章 エピローグW 「突入、そして脱出」(岡島さん作)


白いシャンバーを羽織った少年は廃墟から出ると突如、立ち止まる

「この感じ・・・・・・・・雲の上の奴らだ」

少年は興奮した様子で、バイクに乗り走り出す


数分後、森の入り口付近

森の入り口付近に、蒼月真姫の姿があった。

「この状況、一体何が」

とりあえず状況を把握しようとしたが、無駄だった。

「とにかく中に入ってみるか、でも・・・・・・・・」

この結界が自分には破壊できない事は目に見えていた。

「やれるだけの事はしてみるか・・・・・・・」

その時だった。ものすごい音が聞こえたのは

「何?!」

それは鉄板を鉄の棒で思いっきり叩いているような音だった
思わず真姫は音のするほうへ
そこには、白いシャンバーの少年の姿があった。

「あいつは」

少年は真姫の知る人物だった。
そして彼は、剣のような物を手に見えない何かを思いっきり何度も叩いていた。

「くそ・・・・・・・・なかなか割れねぇ・・・・・・・」

少年の手にしているのは、柄の部分は典型的な剣の形をしているのだが
刀身に当たる部分は長細い長方形の鉄板のようになっていて、刃がなく
表面には文字のような物が書かれている。
それは、見えない何かにぶつかる度に、ぼんやりと輝いている。
真姫は少年に話しかけた

「シン」
「お前か・・・・・・・」
「何してるの?」
「このバリアをぶっ壊すんだよ」
注*バリアではなく結界です。

ここで、真姫は少年、シンが持っている武器が何なのか思い出した。

(あれバリアブレイカーよね。バカな質問したなぁ)

バリアブレイカー、それは様々な偏向シールドや結界を破壊する事に特化した剣である
それ故に、それ以外戦闘では、あまり役に立たない。
しかも、それにも限度があり、巨大な結界だと人が通れるくらいの穴を空けられるくらいで
また強度が高ければ高いほど、破壊には時間と体力がいる。

「この、この、この!」

シンは一心不乱に結界にバリアブレイカーを結界に叩き付ける。
やがて、ガラスにひびが入るような音が聞こえ始める。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

止めと言わんばかりの一撃が振り下ろされた。
すると、大きなガラス板が砕け散ったような轟音がした
そう結界の一部が破壊されたのだ。

「割れた!」

シンはそう言うと結界の中に、そしてその後を追うよう真姫も中に入る。
二人が結界に入った後、結界は修復されていく。
そしてシンは、バリアブレイカーをどこかにしまうと、森の中へと

「ちょっと!シン」

真姫は呼び止めるが、シンは答えず、森の中に入って行き、
彼女はシンを見失う。

「まあいいか。アイツ死なないし」

真姫はシンの事は放っておき、探索を開始した。
やがて彼女は騒がしい音を聞きつける。

「随分騒がしいわね」

彼女は導かれているように、音のほうに

「あれは・・・・・・・・・」

そこでは、フェイトとウルエイアとの戦いが行われていた。






フェイトとウルエイアの両者の戦いは、ウルエイアの一方的なものとなっていた。
双剣アベンジャーを手に、応戦する。

「この!」

だがアベンジャーで切りかかるも

「おそいよ」

と簡単に避けられ、更にはウルエイアからの一撃が来る

「ク・・・・・・・・」

アベンジャーで防御する。
この繰り返しで、そのうち、攻撃に転じる事も出来なくなり防御が精一杯の状況となった。
そして、こんな状況が長くは続けられる訳がない。事実、フェイトの体力も
限界に近づいていて、更に

「飽きてきたなぁ〜」

ウルエイアも飽きが来ている。

「もう、終わりにするね」
「!」

それは明るい口調だったが、フェイトには重く突き刺さる。
そしてウルエイアは、一気に止めを刺そうとする。
だが、突如としてウルエイアの背後に何かが現れた。

「え?」

ウルエイアが気付いた瞬間、その体に蹴りが命中する

「!」

その一撃に、ウルエイアは体のバランスを少々崩すも直ぐに立て直し
振り返る、そこには緑を基調とした色でスマートな形状の強化装甲服のようなもの
を身に纏った者がいた。
その頭部にはバッタを思わせる形のヘルメット、そして腕にはキーボードのような物がついている。
フェイトは呟く

「仮面ライダーレイティア・・・・・」

そしてレイティアは、ウルエイアに向かって言った

「私が相手をしてあげようか?」

そして右腕からは刃物が飛び出す
フェイトとの遊びに飽きが来ていたウルエイアは新しい遊び相手が現れた事に
うれしそうに答える

「うん」

そして、両者の戦いが始まる。

一方、シンは森の中で立ち止まり目を閉じている
そして、目を見開くと

「どういうことだ。気配が消えちまってる」

彼は再び目を閉じ意識を集中させるだが結果は同じ

「ちっ、逃げられたか」

そう呟くと、彼は森の入り口へと向かう。

(『奴ら』がいないならこんな所にいる必要はないな。)

そして彼は呟く

「森は苦手だ」

そして、森に入り口はと言うと

「穴がふさがっている」

結界は修復されていた。
シンは、どこからともなくバリアブレイカーを取り出すと、再び結界の破壊を始めた。

その頃、

ウルエイアとレイティアとの戦いは、両者のスピードは、ほぼ同じで
その早さゆえにその戦いは目視が難しい。
そして戦いは互いの攻撃がぶつけ合い。一見、互角のように見える。

「全然、きいてないよ」
(こいつ硬い)

問題はウルエイアの高い防御力だった。レイティアは右腕の刃物を使い攻撃していたが
ほとんど効果がなかった。
その上、レイティアは防御力を犠牲にして、現在のスピードを出している。
故に、相手にダメージを与えられない状況では、確実に負ける。

(そろそろ頃合かな)

レイティアは、最初こそ勝とうと思ったが、今は負けるつもりもなければ、
勝つつもりはない。そもそも目的は一つ
突如、レイティアは間合いを取りフェイトの側に

「?」

そしてウルエイアに向かって手をかざすと

「風よ、吹け!」

次の瞬間、凄まじい突風が吹き、土埃が舞う。風はウルエイアの動きを封じ
土埃はまるで煙幕のように視界を封じる。
そして、風が止み、視界が戻ったときにはフェイトとレイティアの姿はなかった。

その頃

「この、この、この、この、このぉ!」
シンによる結界の破壊が続く、

「割れろ、割れろ、割れろぉ!」

入るときに比べて、鬼気迫るところがある。まるで八つ当たりのようだ。
そして修復したてのせいか、それとも獲物を逃したことへの怒りが、彼の力となっているのか、
どちらかはわからないが、結界の破壊が入るときに比べて早い。

「くたばれぇぇぇぇぇぇぇ!」

再び轟音と共に、結界に穴が開く、そこからシンは結界の外に出る。
その直後、彼の側をものすごいスピードの何かが、通り過ぎた。

「今のは・・・・・・・・・・」

そう呟いたのちシンはその場から立ち去った。その背後では、結界が修復されていった。

「どこに行っちゃったのかな〜」
ウルエイアは二人を探し、空を飛ぶ。しかし見つけることは出来なかった。





第五章 エピローグX 「白い死神」(岡島さん作)


そして、森から離れた人気のない場所では、フェイトとレイティアの姿があった
そう、あの時、レイティアは風を起こすことで、一時的にだがウルエイアの動きを封じたのち、フェイトを連れて、あの場から離脱し、そしてシンの開けた穴を結界の外に脱出した。

「ここまで来れば、大丈夫・・・・・・・・・」

次の瞬間、レイティアの形状に変化が起きる。全体的にがっちりとした感じになり、色も灰色に

「時間切れか」

そう言うと腕のキーボードを操作する。
するとレイティアは、蒼月真姫へと姿を変える。
一方、フェイトはと言うと、

「真姫・・・・・・・ありがとう」
真姫は答える
「これでも、私はGの一員だからね。当然のこと・・・・・・・・」
だが真姫の場合は下心がある。
そしてフェイトは

「でも、行かなきゃ」
と言い、フラフラな足取りで再び森のほうに

「ちょっと志保!」
「行かなきゃ、まだあそこには・・・・・・・・・」

彼女は列たちのことが心配だった。だがその時、変身が解け、志保へと戻る。
そして、志保の意識は遠のいていく。病院での戦い、ウルエイアとの戦いでの
疲れがここに来て一気に出たのだ。

「志保!」
真姫は倒れるその体を受け止めた。

そして、病院施設、屋上

「見つけました!」

とサーチャーが声を上げた。彼女は志保を見つけたのだ。そして志保が倒れた事も知った

「行きましょう」

と一緒に居た凪に声をかけ、そして、二人は駆け出した。

その頃
森を離れたシンは、バイクを走らせていた。そして、結界の一部を破壊したことと
夜風に当たったことでさっきまで高ぶっていた感情は随分クールダウンしている。

「さて、どこに行くか・・・・・・・・・・」

一応、彼はこの町の今日から入居と言う形でアパートを借りていて、鍵ももらっている
したがって最終的にはアパートに行けばいいのだが、彼はそういう気分にはなれなかった

「ん?」

シンは何かを感じバイクを止める。

「いるな・・・・・・・・」

彼はバイクから降りると路地裏に入っていく

奥に入っていくと、突如シンの前に一人の男が立ちふざがる。
そして更には背後一人、そして左右に一人ずつと気がつくとシンは囲まれていた。
男達は、全員、その目には狂気を宿し、はっきり言って尋常じゃない様子だった。
シンは、自分の周りにいる者達が何者なのか直ぐにわかった。それと同時に彼の中で
殺意がわく。それはシンの感情を再び高ぶらせる。

「さっさと変身しろよ・・・・・」

少年が言い放つと同時に、彼の周りにいた男達は全員、異形の存在へと変貌を開始した。
すなわち、彼らは亜種デュナミストだった。
彼らが変身していく姿を見て、シンはますます感情を高ぶらせた。
そしてシンはジャンバーの右腕の部分をすこしまくり、その腕についている
ブレスレットをあらわにさせると、左手でそれをつかむ。
すると、ブレスレットが腕からはずれ、そして彼はそれを手にしたまま

「覚醒・・・・・・・・・」

そして彼は、それを腰に押し付ける。
すると、ブレスレットは光に包まれ、その形状は変化し、ベルトのような物に変わる。
次に彼の全身に光に包まれ、その体は変貌を遂げる。
その姿は、仮面ライダーフェイトそっくりだった。大きな違いは色だった
シンが変身したフェイトは全身が白い色をしていた。

亜種デュナミスト達はシンの変貌に驚きながらも、白いフェイトに襲い掛かる。
一方白いフェイトの手には巨大な鎌、いわゆる処刑鎌が出現する。
そして彼は、呟く

「消えちまえ・・・・・・・・・」

直ぐに勝負は決した

路地裏には、肉片と化した亜種デュナミストとそして、処刑鎌を手に路地裏に立つ
白いフェイトの姿があった。
その姿はまるで、死神のようであった。





第五章 エピローグY 「それぞれの思惑」(残影剣さん作)


 蛍とアンジェが再開の約束をしている時、遠く離れた木の陰からそれを見守る少年が居た。
 それは、蛍をベンチに寝かせた少年だった。
 少年の視線の先には、満面の笑みを作る蛍の姿があり、少年はそれを見て微笑んだ。

「…とりあえず、もう大丈夫か…」

 蛍の笑顔を見た少年は、微笑みながら呟いた。

「…探したでゴザルよ、奇術師殿」
「あ、影さん」

 暫く少年が眺めていると、声を掛けられその人物の名を呟く。
 そして、奇術師と呼ばれた少年は辺りを見回した後、渋い顔をする。

「…姿ぐらい現して下さいよ」

 そう、自分を呼んだ人物の姿が無かったからだ。

「そうは言っても拙者は影、故に早々姿は見せれんでゴザル」
「…分かりました、その事については追求しません。…で、何か用ですか?」

 奇術師は、鋭い視線を何処に居るか分からぬ影に対して向ける。すると、影は真剣な声色で一言。

「頼みたい事が一つ…“閃光の馬”の封印を外して欲しいのでゴザル」

 奇術師の表情は一変し、次の瞬間とても嫌そうな声を出す。

「……ちょっと待って下さい。何であのジャジャ馬の封印を解くんですか?」
「いや、アレの主が見つかってな…」
「え!…誰ですか、その不幸な人物は?」

 影は、うむっと言ってから一言。

「水無瀬 蛍でゴザル」
「納得出来ません!!」

 その叫びように影は不意に驚いてしまう。彼がここまで動揺する事が珍しかったからだ。

「何で蛍ちゃんにあのジャジャ馬を使わせるんですか!?」
「うむ、モニターで戦いを見せてやったらルクスの戦いに大きな反応を示したのだ」
「だからって…蛍ちゃんが怪我したら如何するつもりですか!?」
「如何して貰いたい?」

 影が質問すると暫しの沈黙が流れ、一回頷くと奇術師は爽やかな笑顔と共に一言。

「とりあえず(自主規制)して(自主規制)の上、(自主規制)してから死んで下さい」
「そんな爽やかに怖い事をアッサリ言わないで欲しいでゴザル!!」

 その余りにもグロテスクな内容を聞き、影は鳥肌を立てながら叫ぶ。

「やだなぁ、冗談ですよ」
「…冗談に思えない位、途轍もない悪意を感じたのでゴザルが…」

 冷汗を流しながら影が言うと、奇術師は真剣な表情に戻って一言。

「…とりあえず用件は分かりました…アイツの封印はちゃんと解きに行きます。…ですが」
「彼女やその姉に危険が迫るような事をすれば容赦は無いと?」
「…………はい」

 重たい空気が二人の周りに流れる。

「…分かっているでゴザル…大切な者を思う気持ちは良く理解しているつもりでゴザルからね」
「なら、良いです」

 その対話を最後に、二人は別れてその場から離れた。






 同時刻、カオスとカイムの二人は崩壊してゆくセルファ研究所を眺めていた。

「やれやれ、一足遅かったようだね」
「そうみたいだね〜。…どうする、追いかける?」

 小首を傾げながら質問するカイムを、カオスは優しく撫でる。

「いや、今日は此処でお開きにしよう…丁度迎えも来たみたいだしね」

 カオスが視線を後ろに向けると、そこにはハデスが立っていた。

「あ、ハデス〜」
「…メフィストが…帰って来てって…」
「分かった。じゃあ、一緒に帰ろうか」

 すると、ハデスは頷きカオスの左腕にくっ付く。

「あ〜!ハデスずる〜い!わたしも〜!」
「……流石に予想外だね、この展開は…」

 両手を塞がれたカオスは、軽くため息を吐く。
 しかし、すぐに真剣な雰囲気を纏わせ口を開いた。

「グリフォン…居るね」

 すると、カオスの後ろに一陣の風が巻き起こり、軽くウェイブの掛かった緑の長髪と緋色の瞳を持ち、白いスーツを来た麗しい女性が立っていた。

「はい、此処に…」
「…八神獣…今手が空いているのは居るかな?」
「…キマイラ、サイクロプスの2名が近日中には…」
「そうか…」

 カオスは、その深紅の仮面の下で狂気に満ちた笑みを作る。

「…さあ、次の舞台は決まった。“鍵”なる少女はどうするだろうね」






 ところ戻って魔女の森の中、アンナと再開の約束を誓った蛍は満面の笑みを浮かべていた。
 そんな彼女を見て、秋奈は複雑そうな笑みを浮かべていた。

「可愛いけど…変わった娘と友達になったわね〜」
「先輩…そのコメントはどうかと思います…」

 列は肩を落としながら秋奈を見る。
 そんな中、雅菜は一人アンジェの事について考えていた。

(あの娘…私を治療した…何で水無瀬先輩の妹と…まさかあの娘も…て、考えすぎかな?)

 雅菜は、蛍も仮面ライダーじゃないかと考えたがすぐにその考えを振り払う。
 丁度その時、草が揺れる音が聞こえ、全員が警戒しながら音の聞こえる方向に視線を向けた。

「…あれ、列さん?」
「神歌ちゃん!!!?」

 草むらの中から出て来た少女を神歌だと認めた列は、物凄い勢いで近づき抱きしめた。

「れ、列さん////」
「良かった…無事だったんだね…」
「それは良いけどさ〜、私の隣に居る女の子が凄い睨んでるから離れたら〜?」
「に、睨んでなんかいません!!」

 苦笑している秋奈の隣で二人に強烈な視線を向けていた雅菜は、顔を真っ赤にして反論する。
 そして、列は自分のした行動を理解し、顔を真っ赤にして慌てて離れた。

「ご、ごめん///////」
「い、いえ、嬉しかったですから//////」

 居心地の悪い空気が流れたその時、列の携帯に着信音がなり、慌てて列は携帯を手に取る。

「はい……豊桜さん?……華枝が!」

 列の叫びを聞き、その場に居る全員が列の近くに駆け寄る。

「…うん…分かった。すぐ行く!」
「華枝ちゃん、見つかったの?」

 列は、焦った表情を秋奈に向けながら口を開いた。

「はい!豊桜さんが見つけてくれたみたいです…俺、行ってきます!!」
「あ!ちょっと!!ああもう!草加さん行くわよ!!」
「は、はい!!」
「あ、待って下さい姉さん!!」
「神歌達も行きます!」

 秋奈と雅菜は、慌てて列を追い。それを追うように蛍と神歌も走り出した。
 その時、蛍は一つの思いが脳裏を過ぎっていた。

(華枝ちゃんが危険な目にあっていたのに…私、何にも出来なかった……)

 その思いが、彼女に一つの決意を生んだ。

(強くならなきゃ…友達を…大切な人を守れる様に……)





第五章 エピローグZ 「Crack」(空豆兄さん作)


「はぁ・・・ここどこだろ。」
「うぅ・・・お腹すいたなぁ〜・・。」
迷子で空腹の私の手の中にあるのは、先ほど拾った指輪だけ。

「これ・・・、どこかで見た気がする・・・う〜ん・・・。」
指輪のことを思い出そうとしつつ、真夜中の森の中を歩き回る。

そう。何故か私は森の中にいる。
なぜここにいるのか、自分に何があったのか、まるで覚えがないのだ。
あの時、私は大きな公園にいたはずなのに。
華枝・・・それに蛍ちゃんはどうしただろう。

列さんも・・・。どうしたかな・・・。

はぁ、とため息をつきつつ、落ち葉を踏みしめ、先へ先へと歩く。

・・・そういえば。
右足が、もう痛くない。
昨日病院に担ぎ込まれた原因である、右足の怪我が・・・。
・・・よく考えたら、わたし、病院から逃げるときも普通に走っていたなぁ・・・。
そんなに腕のいいお医者さんだったのかな?

あ。
それともう一つ。

私は服の裾をめくり上げ、おなかを確認する。
「痛くない・・・・。」
今朝診てもらったばかりのはずの、お腹の火傷。
これももう、治っているみたいだ。

「・・・ま、いいか。」
そんな些細な事より、早くここから出ないと。
私は、とにかく先へと進んだ・・・・。




・・・・・・。


わずかに、話し声が聞こえた。
私はそちらに向かって、深い草むらを掻き分ける。
そして、その向こうに見えたものは・・・・。

「・・・あれ、列さん?」
「神歌ちゃん!!!?」


・・・わたしは、列さんの熱い抱擁を受ける事になった///


そのすぐ後に列さんにかかってきた電話から、迷子になっていたらしい華枝の無事が告げられた。
森で迷子になっていた華枝を助けていたのは、列さんのクラスメイトの豊桜 冥さんだったらしい。

私たちは森を抜け、電話で打ち合わせた場所へと向かう。
豊桜さんと待ち合わせた場所、近くの公園へと。



私、列さん、列さんの部の部長さんである水無瀬先輩、その妹の蛍ちゃん、それに草加 雅菜さん。
これら5人でその公園へと向かう。

その途中、水無瀬 秋奈さん・・・列さんの先輩に声をかけられた。
「神歌ちゃん、無事でよかったわね。」
「え?あ・・・はい。」

無事?
森で迷子になっていた事だろうか?

「風瀬君ね、あなたが誘拐されたって聞いて、すごく焦ってたわ。あんな必死な風瀬君見たの、初めてだった。」

「え・・・・誘拐!?」

どういうことだろう。
私はただ、気がついたら森にいただけのはずだ。
誘拐された覚えなんて・・・。

「・・・覚えてないのね。ずっと、気を失っていたのかしら。」
「は、はい・・・。そういうことだと思います。」
頭の中で整理がつかない。
とりあえずの返事を水無瀬先輩に返す。

「・・・・・・・・・。」
それを見て、水無瀬先輩は少し考えるような仕草を見せた。

「ねえ神歌ちゃん。ちょっと立ち入ったことを聞いてもいい?」
「あ、はい。なんでしょう・・・。」

「病院に、あなたの両親は来てくれたの?」

「・・・へ?」

発せられたのは、思いもよらない質問。
「いいえ・・・。神歌のお見舞いに来てくれたのは、列さんたちだけですけど・・・。」
「・・・そう。忙しいのかしら?ご両親。」

「あ・・・。いえ、そういうことじゃないと思いますけど・・・。」
「・・・それは変ね。自分たちの一人娘が怪我をしたのに、お見舞いにも来ないなんて。」

・・・そういえば、そうだ。
何でお父さんとお母さんは、お見舞いに来てくれなかったんだろう・・・。

「そ、そうですね、なんでなんでしょう・・・・。」
わかんない。

水無瀬先輩の言う事はとても正しい、一般論だと思う。
でも、神歌のお父さんとお母さんは来なくて、でも神歌は、それをなんとも思わなくて・・。
何かおかしい、なにかおかしい・・・・。

「華枝!!」

「!!」
「っ!」

そんな私たちの考えを打ち切るように、列さんの声が聞こえた。
見れば、豊桜さんがつれてきた華枝を、ぎゅっと抱きしめる列さんの姿。

いいなぁ・・・・。



「やれやれ。これで一件落着ね。」
ふうと息をつく水無瀬先輩。

「はい。・・・先輩、雅菜、それに豊桜さん、ありがとう・・・。」
華枝から離れ、ぐっと頭を下げる列さん。

「ううん。華枝ちゃんも、神歌ちゃんも無事でよかった。」
そう、列さんのクラスメイトの雅菜さんが言う。

どうやら、私たちがいなくなった事は、列さんたちには大きな騒ぎになっていたみたい・・・。
当事者に自覚がないって、ちょっと問題なのかもしれない。

「風瀬君、あまり華枝ちゃんに無理させないでね?今、体弱ってるみたいだから・・・。」
「そうなの?豊桜さん。」

「うん・・・。え。えっと、その、森で迷って、疲れちゃってるのよ。」
「そうか・・・。すぐに寝かせるよ。ありがとう。」
「うん。」

「えーと、一緒にいた神藤さんにも、よろしく言っておいて。」
「っ!!あ、うん・・・。」
(和子、大丈夫かな・・・。華枝ちゃんを治しきったと思ったら、死んだみたいに眠っちゃって・・・。)

列さんのその言葉に、豊桜さんの顔が、少し曇ったように見えた・・・。




「さあ、今日はみんな疲れたでしょ。今日は解散!明日からまた、学校よ!」
「う・・・っ。そういえば、今日は日曜日だった・・・。」

・・・そうだった。
うなだれる列さんの言うとおり、今日は日曜日。
しかも既に時間は12時を回り、日付は変わっている。

もともと列さんの家にお泊りするはずの連休が、とんだ事になってしまっていた・・・。

「早く帰って、明日に備えましょう、みんな。」
「そうですね・・・。ほら、華枝。家に帰ろう。」
「にゅ・・・・。」
列さんの腕に抱かれる華枝は、もう今にも眠りそうな顔をしていた。

「あらあら、華枝ちゃん眠そうじゃない。」
「列、家まで送ってあげようか?」
そう提案したのは、草加さん。
彼女が引いていたサイドカーを見せる。

・・・そっか。列さん、送ってもらうのか・・・。
じゃ、私はひとりで帰ろうかな・・・。

「う〜ん・・・。雅菜、気持ちだけもらっておくよ。」
「俺は、神歌ちゃんも心配だから、神歌ちゃんもうちに連れて行く。」

「!!!!」
「ふぇ!?」
「っ!!?」

「れ・・・列さん?」

「神歌ちゃん、今日は怖い目にあっただろうから、今日はうちで寝ていくといいよ。」
「制服も、昨日着てきたのがあるしね。」

は、はぅ・・・・。
どうして、どうして列さんは、いつも神歌の喜ぶことを言ってくれるんだろう・・・!

「嬉しいッ!列さんッ!!」

がばーっ!!!

「う、うああああああっ!!!?」

その胸にわきあがった感情の任せるまま、私は列さんに飛び込んでいく。
華枝がビックリして目を覚ましていたけど、気にしないの。
やっぱり列さんは、私の大好きな列さんなんだから・・・♪



「じゃあみんな、今日はありがとう。おやすみ〜。」
「おやすみなさ〜い♪」
「おやすみぃ・・・。」

「おやすみ〜、寝坊しちゃダメよ!」
「また明日です〜♪華枝ちゃん、神歌ちゃん!」
「おやすみなさい。」
「お休み、列・・・。」

私たちは手を振って、みんなに別れを告げる。

そして、わたしたち3人は、列さんのマンションへの帰路についた。


・・・・・・・・。


「散々なお休みだったね。」
帰宅途中、列さんが口を開く。
華枝はというと、既に列さんの背中で寝息を立てていた。

「はい。・・・でも、今日列さんと寝られるんなら、神歌構いません♪」
「い!いや・・・一緒に寝るとは言ってないでしょ!」

焦る列さん。
そんな列さんを見て、また私は満足する。
私の望む日常が、また戻ってきたんだって・・・。

「俺、すごく心配したんだよ?神歌ちゃんをさらったって、うちに手紙が来てたんだ。」
「え・・・えぇ?!そうなんですか?!」
・・・だから、誘拐されたって、列さんたちは思ってたんだ。

「うん・・・。でも、無事でよかった。犯人は結局分からなかったけど、神歌ちゃんが無事で何よりだよ。」
「神歌ちゃんが森から出てきたとき、俺、すごく嬉しくて・・・。」
「は、はい、神歌、抱き着かれてビックリしました・・・///」

「はは・・・。俺も、夢中だったから。」
照れた笑いを見せる列さん。
列さんは、やっぱり神歌や華枝の事になると、見境なくなっちゃうんだから。
そんな列さんと、ずっと一緒にいられたらなぁ・・・。

・・・あ。
「そういえば・・・神歌、森でこんなものを見つけたんです。」
先ほど森で拾った指輪を、ポケットから取り出す。

琥珀色の宝石をつけた指輪。
神歌には、少し大きい。

「へぇ・・・。キレイな宝石だね。」
「はい。少しくすんでますけど、洗えばもっときれいになりますよ。」
「それ、なんていう宝石なの?俺、ちょっとそういうの疎くて・・・。」

「ふふ。これはトパーズですよ。」
「トパーズ?」
「はい。この宝石は、太陽の神に色付けされたとも言われる、落日の宝石なんです。」
「悪意から、誠実さを守るといわれているんですよ。」

「へぇ・・・。神歌ちゃん、よく知ってるね・・・。さすが女の子だ!」
その言葉に、私は首を横に振る。

「神歌がよく知ってるのは、このトパーズだけです。」
「小さい頃、お父さんとお母さんによく聞かされたので。」
「へぇ・・・なんでなのかな?」

「お父さんがお母さんと婚約するとき、その時送ったエンゲージ・リングがトパーズだったんです。」
「お母さんの、誕生石だったので。」

「なるほどね・・・。そのときのお話を、神歌ちゃんは聞かされたんだ?」
「はい。お父さん、よく言ってました。」

「お母さんにプレゼントしたエンゲージ・リングは、自分が文字を彫ったこの世に一つだけのものなんだって。」
「文字を彫って、プレゼントしたんだ?仲がいいんだね・・・。なんて書いたんだろ?」
「それも何度も聞かされました!そんな難しい字じゃないんです。ええと、確か・・・・・・。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!


その時、私の体に悪寒が走った。
何か予感めいたものを感じたのか、私は目の色を変えてその指輪の裏側を覗き込んだ・・・。



「・・・・・ッ!!!」

「・・・・神歌ちゃん?」



「どうしたの?・・・顔が、真っ青だよ?」



「神歌・・・。」
「え?」
「神歌・・・・、行かなくちゃ・・・。」
「神歌、ちゃん?」

ダッ!!

「ッ!神歌ちゃんッ!!?」



確かめなくちゃ。

確かめなくちゃ。

確かめなくちゃ!!


私の中に沸いた恐ろしい予感。
それらが間違いと信じたいために。
私は列さんの声も聞かず、私の家へ駆け出した。

もう何もかも忘れて、ただ家のほうへ。



真夜中の街を、夢中で走った。
公園へ戻り、再び森の方へ。
森の入り口の手前に、私の家はある。

このあたりは家が少なく、この時間に明々と電気をつけているのは、神歌の家だけだった。



「ただいま!」

玄関を開け放つ。

そこには、いつもと変わらない私の日常があった。

明るい玄関。
誇り一つない廊下。
青々とした観葉植物。
大きな廊下の突き当りには、背中を向けた階段。
階段の向こうには、キッチンがある。

私は、リビングへと足を運ぶ。
電気がついているという事は、お父さんもお母さんも起きているということだ。

廊下をくぐり、リビングへ顔を出した。




「お帰り、神歌。」
「お帰りなさい、神歌。」



・・・両親がいた。
いつもと同じように、二人よりそって。
やっぱり、いつもどおり仲のいい両親だ。
こんな時間まで一緒にいるなんて。

「どうしたんだい?神歌。」
「そうよ。今日は列さんのうちで泊まってくる予定だったでしょう?」
「あんなに喜んで出かけていったじゃないか。まったく、本当に神歌は列君が好きなんだな。」
「本当よね〜。私も神歌くらいのときは、お父さんにべったりだったもの♪」
「はっはっは。今でも父さんは母さんを大好きだぞ♪」

「はぁ・・・。」
大きくため息。

結婚して、私が生まれた後も、ずっとこの調子だという両親。
いつものように仲睦まじい両親を前に、脱力しつつも、私は言葉をつむぐ。
「あ、うん、えっと、気になることがあって・・・。」

やっぱり私は、このことを聞かずにはいられない。

「あの・・・、お母さん。あの指輪、見せて。」
「指輪?」
「ああ。父さんが母さんにあげた婚約指輪だろう。」

ああ、とお母さんがうなずき、その手を差し出す。
「はい、神歌。」

母の手には、あのトパーズの指輪が輝いていた。
・・・何のこともない。
あの婚約指輪はいつものとおり、母はその指輪をつけている。
だから、それが私の手の中にあるはずがない・・・・。

「そう・・だよね。」
私はうなずく。

「神歌は、昔からこの指輪を欲しがっていたからな。」
「あわてなくても、神歌が婚約したらあげますよ♪」

「うん・・・。そうだよね。」
「指輪に刻まれた文字・・・RtoM。お父さんとお母さんのイニシャルが刻まれてるんだよね。」

「そうそう。ちょうど神歌と列君と同じだ。」
「お父さんが作ってくれた、世界で一つだけの指輪なのよ。」

「神歌がもらったあとは、将来できるだろう神歌の子供が婚約したときに、また神歌があげるんだぞ。」
「素敵ね・・・。私たちの指輪は、そうやってずっと受け継がれていくのね・・・♪」

楽しそうに指輪について語る両親。
でも、でも・・・。じゃあこれはどう説明すればいいんだろう。

私は、持っている。
あってはならないものを。



「世界に一つだけ・・・。でも、神歌、今日これを見つけたの。」
そういって。
「・・・・・・?」

私は両親に、リングの裏にRtoMと刻まれた、トパーズの指輪を見せた。
「これ・・・お母さんのつけてる指輪だよね?」















ピシィッ!!!!



「うぐっ!!!!」

電話をかけようとした、矢先だった。

華枝を部屋に寝かせ、俺もまた、明日の準備を済ませ、○○ちゃんに連絡しようと携帯電話を開いたその時、俺の頭を激しい痛みが襲った。
「う・・・ぐ・・・。」
だんだんそれは治まり、それが何故か頭がすっきりし、晴れやかな気分へとなっていく。

なんだったんだろう?
風邪じゃないし、怪我でもない。

・・・まぁ、考えてもしょうがない。
明日は学校だ。
華枝の朝ごはんも作らないといけないし、早く寝ないと。

俺は部屋の電気を落とし、手にしていた携帯電話を閉じて、ベッドに・・・。

・・・・・・・・・?

携帯、電話?
自分で閉じたその携帯電話を見て、ふと考えた。

・・・俺は、誰に電話をかけようとしていた?

・・・・変だ。思い出せない。
時間を見れば、午前1時。
こんな時間に俺は、誰に電話をかけようとしてたんだ?

「ふぁ・・・・。」

漏れるあくび。
・・・もう、肉体も限界か・・・。
かんがえるのは、明日でいいや・・・。

携帯電話をベッドの枕元に置き、俺はベッドにもぐりこむ・・・。


ぴんぽー・・・・・・・・ん。


・・・小さな、チャイムの音が聞こえた。
玄関から部屋を隔てたこの距離では、下手をすれば聞き取れないほどの、弱々しい音。
「誰だ・・・。」

俺は面倒に思いながらも、もそもそとベッドから這い出て、おぼつかない足取りで玄関に向かった。



「はい・・・。どなた・・・・。」

ガチャリと鍵を開き、ドアを開く。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

秋の寒い夜風の下、ドアの向こうに立っていたのは、見知らぬ美少女だった。
下をうつむき、何も言わずにただ立っている。

身長は、俺より少し低いくらい。
女の子でこんなに大きい子って珍しくないか?
赤い髪が印象的。
スタイルもいいし・・・。

でも、何でこんなかわいい子が、俺のうちの前に?

「あ、あの・・・・。」
その少女が、不安げに俺を見る。
・・・その視線は、迷子の子犬のような、弱々しいものだった。
頼るものもなく、すがるような瞳。

・・・でも、俺は彼女に見覚えが・・・。
見覚えが・・・。
・・・・。

・・・・・やっぱり、ないと思った。

「えっと・・・・、会ったこと、あったっけ?」
つい、そう口に出した。

「っ!!!!!」
その言葉に、彼女は大きく目を見開いた。
色を失ったその目は黒くにごり、すぐに伏せられた。

「・・・・ごめん・・・なさいっ!」








(○○は、悪い子ですッ!)






・・・・・・・・あ。

その子が、そう言葉を搾り出したとき、何かが頭を掠めた。

最近、同じことがあった気がして。

それで俺は。

次の瞬間に、彼女が走って逃げ出す気がして。

だから。



ぐっ!!



・・・気がつけば、俺はその細い腕を掴んでいた。

「え・・・・・?」
まさか捕まえられるとは思っていなかったのだろう。
彼女の大きな目は開き、驚きの表情で俺を見ていた。

「・・・・神歌、ちゃん。」

・・・次の瞬間には、自然に口が動いた。
俺は、神歌ちゃんの名前を呼んだのだ。

「列・・・さんッ!!!」
神歌ちゃんがおれの胸に飛び込んでくる。

・・・かすかに、嗚咽が聞こえた。
俺は何も言わずに、彼女を部屋へと導きいれた。

「ありがとう・・ございます・・・・。」




そう小さく礼を言う彼女の頭を、俺はそっと撫でてあげた。





第五章 エピローグ[ 『銃 対 拳(どっかで聞いたような!?)』 (空豆兄さん作)


ガシャコッ!

音とともに抜ける薬莢。
次弾を叩き込み、その少女の銃は再び命を吹き込まれる。

橙色の髪は森を駆ける少女とともに踊り、青い瞳はその相手の一挙一動を見つめ、視界から離さない。
「標的・・・・停止。狙撃、再開。」
木々という隠れ蓑を利用し、至高の狙撃手たるその少女・・・アラストールは、自分を追う敵の隙を付き、狙撃体制に入った!

ドゥンッ!!!

再び放たれる銃弾。
それはこの木々の生い茂る森林の中にも関わらず、その標的へまっすぐ飛んでいく・・・!

「!!!」
「そこかぁッ!!!」

バチィンッ!!

・・・が、背後から狙ったはずの銃弾も、今戦っている相手・・・翠の仮面ライダーの豪腕によって阻まれてしまう。
「うあああああああっ!!!隠れてコソコソ撃ってるんじゃねぇェェェッ!!!」

ブゥゥンッ!!!


ドガアアアアアアアアッ!!!

「・・・・・!!!」
標的の振るうその腕の一撃で、自分を隠す木々が弾け飛んでいく。
少女はすぐさまそこから飛びのき、標的から距離を置くべく走り出した!


こいつは、今までの奴とは違う。

アラストールは、そう感じていた。

今までの標的は、威圧的ではあっても、鈍重で、勘の悪いものばかりだった。
それでも、普通の人間からすればそれは恐るべき怪物・・・亜種デュナミストであり、容易に倒せる相手ではなかったのだが。
しかし彼女は、静止した標的であるならば、3km先のものさえ正確に撃ち抜く。
その腕をもってすれば、それらの怪物たちは赤子の手をひねるようなものだった。

だが、この敵は違う。
どんな死角から撃っても、あいつは恐るべき反応と勘で、その銃弾を止めてしまう。
さらに彼女の愛銃は、一撃の威力に重きを置くため、連射が効かない。

本来ならば一撃で仕留められるその銃弾を、止める敵。
アラストールは、思わぬ苦戦を強いられる・・・・。



「チィッ、ちょろちょろしやがって・・・!!」
アラストールを追うのは、魔女の誇る最強の仮面ライダーの一人、ラフエイア。
剛力を誇り、接近戦を好む猛者である。

彼女の能力は、その腕に装着した巨大なガントレットから見て取れる通り、怪力にある。
だがそれ以上に優れているのは、周辺のエネルギーの流れを感じ取る『勘』である。

飛び道具を持たない彼女ならではの能力というべきか、ラフエイアは、飛んでくる物体が空気を裂くその流れを感知できる。
そして、接近戦で鍛え上げられた身体反応速度。
その二つをもって、ラフエイアはアラストールの銃弾を完全に回避することが出来た。

後は得意の接近戦にさえ持ち込むことが出来れば、ラフエイアの勝利は確定する。
・・・・だが、アラストールの動きには、ラフエイアではわずかに及ばず、何度も攻撃を許す羽目になっていたのだ。



「チクショウ、このままじゃ・・・」

「・・・・戦闘、長期戦。」

互いに決め手のないこの二人の戦いは、長く続くかに思われた・・・。



・・・だが。

「周囲、結界。逃げ場、なし・・・。」
アラストールに逃げ道は無い。
侵入者を逃がさないための結界。シュロスゲフォールン。

このまま長期戦に持ち込み、結果ラフエイアを撃破したとしても、その疲労で魔女の館への侵入は叶わない。
回復を待ったとしても、自分にいける場所はあまりに限られる。
他の敵に捜索されれば、あっという間に見つかってしまうだろう。

そして逃げ場のない自分は、いずれ倒される・・・。

ならば、それを防ぐためには。
一刻も早くこの相手を撃破し、それを気付かれるまえに館に侵入すること・・・・!


アラストールの腹は決まった。

「・・・切り札。実行。」


「はぁ・・・ふぅ・・・・。」
大きく深呼吸。

その「切り札」のために意識を高めていく・・・。

うまく行くか分からない。
実戦で使うのは、これが初めて。
でも、今手持ちの装備であいつを倒すには、この方法しかない。

だから彼女はその一点に、今もてる全てを賭けた・・・・!!


・・・・・・・。


「はぁ、はぁ・・・・。やっと、見つけたぜ・・・。」

木々をなぎ倒し、その少女を追い続けたラフエイア。
自分が倒すべき敵は、今自分の十数メートル先で、銃を構えていた。

「ちょろちょろせず、真正面から勝負する気になったのか?・・・いい度胸だと、褒めてやりたいくらいだぜ。」
「・・・・・・・・。」

「何もいわないつもりかよ・・・。いいぜ。永久に黙らせてやるッ!」

ダシュッ!!!

ラフエイアが駆けた!!
その右腕に、走る勢いとその自身のエネルギーをこめて!
「叩き潰してやるぜェェェッ!!!!」

ラフエイアのガントレット、「ソルネリウス」の指の間から、そのまばゆい光がこぼれる!
「食らいやがれェェェッ!!!」

それはラフエイアのもつ、唯一最強の必殺技・・・!!!
「ヴェルデ・プレッシャアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

その腕は大きく上へ振り上げられ、アラストールを眼前にとらえると、一気に振り下ろされた!!!!
少女は銃を構えたまま、身動き一つしない・・・。

「覚悟決めたか、うぉるァァァァァァァァッ!!!!」

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!

砕かれる地面、吹き上がる土煙。
木々は吹き飛び、ラフエイアの周囲5メートルは大きくえぐられる。

この一撃を受ければ最後、相手は跡形もなく吹き飛ぶはず・・・。

だが。

(手ごたえが・・・ねぇ!?)

その翠の拳が砕いたのは、森の地面・・・だけ?!


スチャ・・・。

振り下ろした拳が地面を突いた、その姿のままのラフエイア。
その額に、銃身の長いライフルが突きつけられた。

「・・・・・・・・・・!?」
「奇襲、成功。」



いなくなったはずのアラストールが、その場に現れたのである。
「空間移動、成功・・・・。」




アラストールの秘められた能力・・・空間移動。

それほどの長距離、そして任意に容易に発動できるレベルではないにしろ、彼女にはそれが備わっていた。
それを発動させるために、己の意識を高めていたアラストール・・・。

ラフエイアのその技のインパクトの瞬間、彼女は空間を転移しその場から姿を消し、再び現れたときにラフエイアを捕らえられるように至近距離に出現したのだ。
それも、彼女の反応も勘も役に立たない、超至近距離の射撃を行うために・・・・!



「これで・・・。最期。」
「ちっ・・・やるじゃねぇか。空間移動とは、コソコソ逃げるのもここに極まりだな。」

「自分に、実戦に「これ」を使用・・・お前、最初。」
「相手の能力を把握せず、突撃を実行は・・・大きな失敗。」

「ヘッ。そりゃそうだ。てめえがこんなに逃げるのが得意だと分かってたら、あんな技使わなかったぜ。」
「後悔・・・先にたたず。」

そう会話を締めくくるとアラストールは、自分の愛銃「クリティカルヒット」の引き金を引き絞る・・・!


「・・・だがよ。てめぇだって、俺の能力の全てを把握したわけじゃないんだぜ?」

「・・・・・・・?」

銃口を突きつけられて尚、まだ余裕をみせるラフエイア。
「時間稼ぎは、無意味・・・!」
その余裕の態度に、一瞬いらだったアラストールは、ぐっとその引き金を絞った!


ぐっ・・・。






ボゴッ!!!

「!?」

ガシッ!!

「うああっ!!?」
突如、地面から生えた土で出来た腕に、その脚を掴まれる!!

ボゴボゴボゴ・・・!!

『グオハァァァァ・・・!!』

さらに生え出るそれは、土塊で出来た人形・・・魔女の泥人形(ゴーレム)ッ!!

どしんっ!

「うぐっ!」
脚を掴まれ、バランスを崩して尻餅をつくアラストール!

「・・・忘れたか?ここはオレたちの庭だぜ?」
「この森の土は、ゴーレムを作り出すのに適した土壌だ。」
「・・・つまりてめぇらは、この森全てを敵に回しているのと同じだったってこった!!」

『グフゥ、グフゥ・・・!』
『グハアアアアア、アアアア・・!!!』

「ぐああああ、う・・・ぅ!!!」
さらに何体も現れるゴーレムに、その身を自由を奪われていくアラストール!

「いい格好だな?あぁ?」

「ここで生まれるゴーレムは、人間をコピーしちゃいねぇ、ただのバカの土の人形だが・・・。」
「並の人間なんかより、ずっと力はある。それに囲まれちゃあ、てめぇも身動き取れねーだろう!!!」



グッ・・・・!!!

立場が逆転した、二人の少女。
拳の少女のその握り締める右手が、再び輝き始める・・・!!

「そこのゴーレムもろとも・・・粉々になりやがれェッ!!!」



・・・直撃は、死を意味する。
その破壊力は、今自分のたっているこの場所から想像がつく。
だが今ここで死ぬ事は、彼女の任務に含まれてはいなかった。

任務達成が困難な場合でも、必ず実行しなければいけない、根源的な命令。



それは・・・・生還を。



(現在の状況で、もっとも確実に、「死」から逃れる方法を・・・・!!!)


「くたばれェェェェェッ!!!!!!」

振りぬかれる翠の拳・・・!!!!


「うっ・・・・」
「うあああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

バギャアアアンッ!!!

『グフオオオアアアアッ!!?』

普段の彼女からは想像もつかない絶叫とともに、アラストールはその渾身の力を持って、銃を持つ右腕を掴むゴーレムを振り払った!!
そして・・・・!!!


「なにぃっ!!?」
「ええええええええええええええいいっ!!!!」
その勢いで、その腕に持つ銃をラフエイアの右手に向け、引き金を引いた!!!!






ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!

「ぐううううううううっ!!!!!!?」
『グオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・・・・・』

ヴェルデ・プレッシャーの衝撃はアラストールの銃弾で弾け、その威力は拡散し、少女を縛るゴーレムたちは霧散していく・・・!!
そしてラフエイアは、その巻き起こった閃光の中に、空間移動を行い、消えうせるアラストールを見た。

(ヘッ・・・!また、逃げるのかよ・・・ッ!!!)




・・・・・・・・。




「ハァ、ハァ、ハァ・・・・!!」
ひざを付き、両手を地に着けるアラストール。
あの場のとっさの空間移動は成功、アラストールは危機から脱した。

が・・・。

「過剰の負荷・・・・。」

その右手にあった愛銃「クリティカルヒット」は、ラフエイアの拳圧で銃口がつぶされ、さらに破裂したような状態に変わっていた。
「早い話、全壊・・・・・。」




銃の少女は、それを愛おしそうに抱きしめると、再び立ち上がった。

「現在の状況・・・武装、なし。体力、なし、休息の必要を認める。」
「任務遂行は困難・・・。」


ふうとため息をつくと、少女は周囲の様子を探り始める。

「・・・周辺の閉鎖空間の消失を確認。」

二人が戦闘を行っている間に、この森を包む結界は消失していたようだ。
何かが破壊したのか、あるいはすでにその必要がなくなったのか・・・・。

しかし、ということは脱出も可能な状態になったということだ。



「一時、帰還・・・・。」
迷わずアラストールは、この森にきびすを返す。

次またここに、戻ってくるために。

生還という命令を、果たすために・・・。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。






神歌ちゃんが、うちにやってきてから一週間が経っていた。
つまりは、再びの月曜日。

彼女はあれから、学校に行かなくなっていた。
理由は・・・。おそらくオレと同じような事が、他の人間にも起こっているからだろう。

事実、神歌ちゃんと親友である華枝さえも、そうだった。
さらに不思議な事に、華枝の話によると、教室の出席簿から彼女の名前が消えており、そして誰も神歌ちゃんの事は覚えていないというのだ・・・。

このことをオレは、情報通である新聞部の部長・・・つまりは水無瀬 秋奈先輩に相談する。
神歌ちゃんのことを思い出すと、秋奈先輩は大きく考え込んだ。

こんな不思議な事が起きるなんて・・・と。



うちに泊まりこむ神歌ちゃんは、ご両親に連絡を取ろうとはしなかった。
彼女本人は、承諾済みだというけれど・・・・。本当だろうか?

だが、俺が確認するといっても、彼女は頑なにそれを拒んでいた。

神歌ちゃんは、何かを隠しているのは間違いないと思うのだが・・・。


ただ、はっきりと言えるのは、俺は彼女が心配で、何か悩みがあるのなら力になってあげたい。
神歌ちゃんの力になってあげたい。

この想いだけだった。






・・・・朝が来る。
神歌ちゃんに起こされ、神歌ちゃんの作った料理を頂き、神歌ちゃんの弁当を持って学園へ。

なんかすっかり溶け込まれてしまったが・・・。

今日も、数々の疑念を抱きつつ学校へ。
最近は何かとばたばたしていたが、この一週間は平和そのものだった。

ライダーもその怪人たちもなりを潜め、どこかに言ってしまったのではないか、と思ったが・・・。
こんな言葉もある。

「嵐の前の静けさ」、と・・・・。




オリジナルライダー・リレー企画
2006年12月14日(木) 00時31分05秒 公開
■この作品の著作権はオリジナルライダー・リレー企画さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
第五章の完全版、ようやく出来上がりました。
第六章も頑張って盛り上げていきましょう!

この作品の感想をお寄せください。
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空豆兄さんへ:わかりました。
列君にはちょっと行動を
空けておいてもらわないといけないんですよね…フフフ…。(不気味)
10 ユルカ ■2006-10-03 19:11:13 softbank219181050030.bbtec.net
空豆兄さん>
すみません説明不足は此方でした。
フェイトブレスの特殊効果無効は特殊効果を破壊するのではなく封印。
つまり時間が経てば直ります。
フードの男は特殊効果を粉砕しますが。
ふむ、了解では、フェイトVSウルエイアでフェイトちゃんを撤退させる目的で(真人本人はその気なしでも)戦わせますか(明らかに腕輪便りですが)
真人本人は声が聞こえたから森に入ったことで(森に張られている結界は彼が通った部分だけ一時崩壊)
これでいいでしょうか?
10 ハイペリオン ■2006-10-02 18:22:29 dahlia.aitai.ne.jp
>ハイペリオンさんへ

結界装置って・・・。描写不足であるなら謝りますけど、魔女の森の結界を発生させているのは、ギルティーと一緒にいた(最終話の時点では別行動)、仮面ライダーサムエイアです。彼の能力がその結界を作り出す事なのです。
えーと、それで装置を壊すというのは、彼と戦う、という事になっていくのですが・・・。
幸い彼の手は空いているし、戦う事に関しては構いませんけど、結界を発生出来なくなるのは困りますねぇ・・・。サムエイアの唯一の能力であり、「空間閉鎖の結界」は、まだ彼の能力の初歩に過ぎませんので。

>ユルカさんへ

えーと、列はこの後、森から自力で這い出てきた神歌ちゃんを助けて、自宅へ一緒に戻る・・・という予定です。とりあえず、彼の目的は神歌ちゃんの救出なので、そこを落ち着かせてから、色々行動させてあげてください。

神歌ちゃんは、フリーがいいですね。・・・彼女の今後を察してもらえると、助かります。

参考のために書いておきますが、華枝は・・・。神藤たんと豊桜さんの二人に保護される、という形で。列には見せられないだろうから、連絡先を知っている豊桜さんから知らされる形かなー?
10 空豆兄 ■2006-10-02 17:28:18 p1250-ipad06toyamahon.toyama.ocn.ne.jp
ユルカさんへ:今までの順番で行くのなら、
ユルカさん→イシスさん→岡島さん→自分(残影剣)→空豆兄さん
の順に成るのでしょうが…ハイペリオンさんがフェイトVSラフエイア等の戦いに参戦する事を考えるとハイペリオンさんに最初にエピローグを書いて貰った方が良いと思います。
10 残影剣 ■2006-10-02 13:05:17 zaqdb73fca7.zaq.ne.jp
残影剣さんへ:良いですけど…ぶつかったらそう簡単には決着つかなさそうかも…。
…で、誰からエピローグ書きます?
10 ユルカ ■2006-10-02 11:49:29 softbank219181050030.bbtec.net
とりあえず、エウリュディケサイドの面々に加えてあげて下さい(エッ)
エウリュディケって話術が巧みそうだから陣君じゃ断るの難しそうだし(笑)
でも、そうなると今度はシグマの敵になるんですね…一度は味方として登場した人物が敵になってしまうとなると…京ちゃん辛いでしょうね…。

ユルカさんへ:次の章で京ちゃんにハデスをぶつけたいのですが、良いでしょうか?
10 残影剣 ■2006-10-02 10:12:08 zaqdb73fca7.zaq.ne.jp
空豆兄さんへ:列君に何か予定ありますかね?もし無ければ…。
残影剣さんへ:陣君どうしましょうか?(ぇ)
10 ユルカ ■2006-10-02 09:55:37 softbank219181050030.bbtec.net
乱入は構わないですが、エピローグなのですぐに撤退させて第六章に繋がるようなお話になりますよ?
とりあえず、私はいぬみちゃんと美月ちゃんを手駒にさせてもらいます(何
10 イシス ■2006-10-02 08:02:27 softbank218180135046.bbtec.net
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