仮面ライダー電王たん・蝶害電/仮面ライダークロノスたん・序章あ〜る |
「げふげふー!さぁ〜て、思いっきり暴れて過去を弄くりまわしてやるぜー!」 おもっくそ読者のための説明的なセリフを言う不審者が特撮のメッカである大橋(レンゲルが始めて出てきてブレイドとカリスをボコッたところ、もしくは我らが良ちゃんとツンデレヒーロー侑斗が愛理さん守るために共闘したところね)に突如として現れた。 その足元には男性が一人、白目を向いて口から泡を吹いてぶっ倒れている。 勿論、この不審者がただの変態ではないことはその姿――背中にたくさんの薪を背負った狸の着ぐるみを着ている――からも明々白々である。 不審者の正体は異魔人とも暇人ともジョンともレノンとも呼ばれる未来人、イマジンである。 その格好から察するに童話「かちかち山」の「狸」のイメージで実体化したのであろうラクーンイマジンたんは、背中の薪を一本手にした。 「ぐふぐふー!燃えろよ燃えろっ、バァーニングッ!!」 言って薪を一振り。 途端に薪の先端からは空気さえも歪ませんとするほどの熱気を熱気を伴った熱球が現れ、振りに合わせて一直線に飛んでいく。 「どがぁぁぁぁああっ!!」という轟音とともにビルの外壁には結構大きめの穴が穿たれ、コンクリートの破片が路上へと落ちていき二次災害を引き起こす。 「アァーハッハッハッハ!そら、もう一発!ぐふぐふー!!」 人々は悪事の限りを尽くすラクーンイマジンたんに恐れをなし、散り散りになって悲鳴を上げながら逃げ出した。 そんな人々の悲鳴をBGMに破壊活動を続行しようとしていたラクーンイマジンたんだったが、そこへ邪魔が入ることになる。 何もない空中に捻じれのような穴のようなものが現れた。 ガカカカカカッ!! そこから飛び出してきたものは、まず電車の枕木とレール。 けたたましい音を発しながら、大橋の隣に沿うようにぴったりと並んで、空中に浮かんでいる。 ぱらりらぱらりら〜♪ ぱらりらぱらりら〜♪ 次いで現れたのは、暴走族のテーマミュージックのようなガラの悪い音楽を流す列車。 この時代でも誰もが見慣れたフォルム、新幹線型の列車だった。 もちろん普通の電車ではない。 これは“時の列車”と呼ばれる特殊なもので、言ってみればタイムマシンのようなものである。 漆黒に塗装された電車――クロノスライナー――は宙に浮くレールの上をきっちり走行し、大橋の隣でピタリと止まる。 備え付けられた自動扉がうぃーーーっと開き、駅員風の格好をした少女が「ぃよっこら、せ」と言いながら下車した。 少女――クロノスたん・プラットフォームは右手にライダーパスを持ったまま、ビシィッ!!とラクーンイマジンたんを指さした。 「待て待て待てぇい!過去に渡って悪事を働き、未来を破滅に導かんとする悪いイマジン。このアタシが相手だよ!」 「げぇっ!?あれだけ邪魔するなと言ったのに、しつこいヤツだ!」 「ふっふーん、こちとらしつこさ売りにしてやってるんでねぇ。何百回でも何千回でも邪魔しちゃうもんねー」 クロノスたんはのほほ〜〜んとした笑みを顔に浮かべ、ベルトの白いフォームスイッチを押した。 「んじゃまぁ、いっちょやりますか」 ミュージックホーンが鳴り響き、クロノスたんはライダーパスをターミナルバックルにセタッチする。 「ぁ、へ〜んしんっ」 (気の抜けるような言い方は止めろッ!) ≪――Lance Form――≫ 別の声にツッコミを受けつつ、ターミナルバックルからは白い光が輝いた。 一瞬にして駅員風の姿から軽装の白騎士の姿に変貌する。 クロノスたん・ランスフォームは少し周りを見て、やれやれといった風に言った。 「ふぅ……ざっと見ただけでも放火に器物損壊、傷害罪か。まったく救いようがないな。覚悟はいいか?」 「うるせぇ!誰が邪魔しろと――「返事はイエスでいい!!」って、人の話聞けよ!?」 ツッコミ入れるラクーンイマジンたんの言葉を何事もなかったかのようにスルーし、クロノスたんはクロノガッシャーを連結させながら迫る。 迎え撃とうと薪を振りまくるラクーンイマジンたんだったがその命中率はさほどよろしくないようで、クロノスたんには火の粉一つ浴びせられないでいた。 いつの間にか完成していたクロノガッシャー・ランスモードを肩に担ぎながら、幅もあり距離もある大橋を走り抜ける。 射程距離内に入ると、素早く振るった。 「はぁっ!!」 「げひーーっ!?」 火球を撃てば自身も巻き添えを食らうという位置から抜け出せない――巧みにその距離を保ち攻めるクロノスたん――のせいで、怒涛の如き突き、横薙ぎ、袈裟斬りを回避する手立てはラクーンイマジンたんにはなかった。 「ふん!はぁ!そらっ!もう一発!!」 「かめっ!?ぎそくっ!?じょるのっ!?じっぱぁ!?」 では一体ラクーンイマジンたんはどうなるのかというと、ご覧のとおり一方的な的である。 もはや戦いというよりかはリンチに近い、おおよそ正義の味方がとる戦法とは言いがたい。 一方的なボコり攻撃に打ちのめされ(……)、息も絶え絶えなラクーンイマジンたんは上半身を蹴り飛ばされゴロゴロと転がった。 「ぐは……っ!?これがっ、これがやられ役の宿命なのか!?名もなき雑魚イマジンは、こうやって圧倒的な力の前に屈服するしかないのか!?」 そうだ、これがやられ役(しかもチョイ役)の宿命である。 彼は定められたレールの上を走り続け、もうじき終点に着こうとしているのだ。 お疲れさん、君のことは十秒ぐらいは覚えておくよ。 「―――って、ちょっと待て作者ぁっ!そりゃいくらなんでも酷いって!?」 うっせぇ、人の領分に入り込んでくんなザコキャラの分際で。 そんな悪い子にはお仕置きだ。 クロノスたんよ、やっておしまい。 「さて、刑の執行といこうか。お前は………そうだな、滅多切りの刑がいい」 「滅多切りの刑って、お前ネーミングセンス小学生並み――「返事はイエスでいい!!」せめてツッコミぐらいさせろよっ、お前は鬼か!?」 「鬼?違うな。私は鶴だ!!」 (そーいうこと言ってるんじゃないと思うけどねー) ≪――Full Charge――≫ 言ってるうちに準備していたのか、既にクロノガッシャーにはフリーエネルギーが充填されていた。 バリバリッと二箇所のオーラソードにフリーエネルギーが集まる。 立ち上がったラクーンイマジンたんめがけて、クロノスたんはクロノガッシャーを幾度となく存分に振るいまくった。 「はぁぁぁぁあっ!!!」 斬るKILL斬る伐る斬る突く伐る斬る突く斬る切る斬るKILL斬る斬る突く切る伐る斬るKILL――!! 「これはっ!ちょと!正義の!味方のっ!必殺技じゃないぃぃぃぃぃぃーーーっ!!?」 どっがぁぁぁぁんっ!! ただひたすらに滅多切り、身体のそこかしこを滅多切り、たまに滅多突き、やっぱり身体を滅多切り。 まさに必殺技名そのまんま、エクストリームスラッシュ(Extreme Slash――超意訳すると、極端な斬撃)がラクーンイマジンたんを襲う。 もしこれがとあるゲームの世界だったら「無双ラァーーーーン舞ッッ!!!」とか言ってても違和感はないかもしれない。 哀れなセリフを残して、ラクーンイマジンたんはクロノガッシャーの錆となるのであった。 こうしたクロノスたんの活躍によって、無事に(?)過去は守られたわけである。 仮面ライダー電王たん・蝶害電 仮面ライダークロノスたん・序章あ〜る “題名の“あーる”っていうのは“Return(帰還)”だったり“Regeneration(再生)”だったり“Rebirth(復活)”とかいう大層なモンではなく、何となくつけただけで深い意味はありません編” こっぼ〜れてく〜(Wow!Wow!)♪ 砂〜のよう〜に(Yeah!Yeah!)♪ 止められ―――― 「うぅ〜〜ん、もう朝かぁ……むにゃむにゃ……」 スミレは目覚まし代わりの携帯アラームをピッ!と切る。 布団から手だけを出して携帯をいじるその姿は、さながら現代社会に迷い込んだナマケモノそのものだった。 そのままごそごそと布団に引きこもって二度寝をしようと、―― 「って、起きんかこの馬鹿モノがッッ!!!」 「ぁじゃぱぁーっ!?」 オリヴィエの一撃、さながらデンライダーキックのような飛び蹴りがスミレに炸裂した。 もっともオリヴィエだって本気で放ったわけではないので威力はさほどないが、その蹴りはスミレの意識を半強制的に覚醒させるには充分な一撃だった。 布団からごろごろと蹴りだされたスミレはうつ伏せのままぼっさぼさの頭をかきつつ、たいそう眠そうに一言。 「何だよぉ〜、寝かせてよぉ〜。時間まであと10分はあるんだからさぁ〜」 「知るか。大体、お前は生活リズムが不規則不健康不摂生極まりない!早寝早起きという言葉を知らんのか?」 「知ってるよ?んでもさぁ、ギリギリまで寝てたいじゃん」 「お前はそうやって毎日毎日ぐぅたらぐぅたらと―――」 「やれやれ……オリヴィエってば小姑みたいだね」 「―――んなぁっ!!?」 嘆息しつつスミレはパジャマからぱぱっと着替えた。 背後でオリヴィエが「小姑……私が小姑……?」とか言っているのは、この際どうでもいい。 季節は二月の頭、朝はまだまだ冷えこむ時期である。 どうせもうすぐ見たい特撮番組の時間だし、オリヴィエの蹴りで意識は覚醒していたので二度寝は無理だと思われたからだ。 着替え終わると一旦台所へ行き、すぐに戻ってくる。 「はい、朝ごはん」 「待ってたぞ」 スミレがお盆にのせて持ってきたのは、白い球体に赤黒いタレとほんの少しの焦げ目が突いたもの――――みたらし団子である。 近くにある“甘味処 たちばな”という店で買ったものだが、オリヴィエはこのみたらし団子がたいそうお気に入りだった。 しかも身体の割によく食べる。 スミレはお猪口に入れたお茶とみたらし団子を机の上に置き、自分の湯飲みに入れたお茶をずずずと啜りながらテレビをつけた。 時刻は七時二十九分、あと一分足らずで番組の時間だ。 ♪〜♪♪〜♪〜♪♪〜♪♪♪〜♪♪〜♪ 「お!始まった!!」 「はむはむもぐもぐ……何だソレは?」 テレビから流れてくるのは軽快な音楽。 結構騒々しいとは思うが、決して耳障りなものではない。 オリヴィエの問いにも答えず、スミレはリモコンを操作してテレビの下に備え付けてあるDVDレコーダーを稼動させた。 ハードディスクに番組を録画しつつ、真剣な顔つきでテレビに食い入るように見入っている。 ぶっちゃけこれだけ真剣な顔つきのスミレを見たのは、オリヴィエが契約して一週間ほど経つが始めてのことだ。 一体何を見ているのかと思い、オリヴィエも視線をテレビにやる。 画面には赤青黄色に緑とピンク、個性的な五人組が映っていた。 「これはねー、カルト的人気を誇る特撮の戦隊モノ。今年は戦隊枠もライダー枠も秀逸だからねぇ、日曜の朝はホント忙しいよ」 「ほぅ……どんな話なんだ?」 オリヴィエは少しの興味で聞いたのだが、それがまずかった。 スミレの瞳がきらりーん!と星型に光る。 「このオルレンジャーっていうのは進化した人類だっていうオルフェノクに色々と不幸な事情だったり偶然だったりでなっちゃった五人の若者が愛と正義と友情と地上の平和のために表向きは大企業であるスマー○ブレ○ンと戦うお話だよ子供向け番組と思って侮るなかれ大人も唸らせるようなハード&シリアス路線とお腹がよじれるようなコメディ路線とをお互いの長所を一切損なうことなく融合させた名作でね、他にも変身前のアクションのキレがあっていい感じだし最近のライダーとか戦隊とかの特撮番組にありがちなスポンサーのテコ入れによるどう見ても「ハハハハこやつめ、ハハハハh……はぁ!?」っていう路線変更もないし。美男美女ばっかりっていうのは最近の風潮だからまぁこの際置いとくとして、それを差し引いてもカルピスの原液みたいに濃ゆいキャラクターの人気があるんだよねー。特にイソギンチャクオルフェノクのイエローシーアネモネの人気だ抜群に高くてねちなみにあたしもファンなんだけど、口癖の「ぬ〜〜っふっふっふっふ」が流行語大賞にノミネートされんじゃないかって噂が流れるぐらいなんだよもしかしたらサイドストーリーとかスピンオフなんかも作られるかもね。それからリーダーはレッドイーグルっていうバンダナの人なんだけど、これが典型的なヒーロー気質でね辛く悲しい過去を背負いながらも仲間や大切な人のためにそれを乗り越えていくっていう34話と35話は長年の戦隊モノ史上でも一、ニを争う名場面だと思うよね〜それから敵組織の幹部とかも個性的なんだけど特にレッドイーグルの親友がオルフェノクじゃない第三勢力として登場した話はネットじゃ祭りが起こるほどだったなぁ名前はブラックドラゴンていってねゴーイングマイウェイな性格で主人公のレッドイーグルとはことあるごとに対立してお互いの正体に気づかないまま戦うんだよホントは気づいてるんだけど「認められないだけなんじゃないか?」っていう意見もチラホラとあるし公式でもその辺は曖昧にはぐらかされてるんだけどね。話を戻すけどブラックドラゴンの突き抜けた漢っぷりにノックアウトされた大きいお友だちがこれまた大勢いるとか何とか―――」 「わ、わかったもういいわかった!?これが名作だということはじゅーぶん伝わった!!」 「―――ぁ、そう?ま、まだまだ魅力はあるんだけどね。大まかに言ったらこんな感じのお話だよ」 「これで、概要……?(汗」 一気にまくし立てるスミレにドン引きしつつ、オリヴィエは顔にちび○る子ちゃんばりの大きな縦線を引いて汗をかいた。 テレビから聞こえてくる五人の名乗り、「「「「「超越戦隊!オルレンジャー!!」」」」」という音がやけに耳に響く。 オープニングテーマが流れ出し、スミレの目はより真剣なものになってテレビに釘付けになった。 オリヴィエもスミレの肩にちょこんとよじ登ると、二人一緒にテレビを見る……って、日曜の朝っぱらから何やってんだお前ら。 (しかしSB社にオルフェノクか……どうやらこの時代では今のところ、『パラダイス・ロスト計画』は実行されていないようだな) オリヴィエは少しだけそんなことを考えた。 未来では無数のオルフェノクもいた。 しかしこの時代ではさしたる深刻な事態は彼女の耳には入ってこなかった。 安心するのは早計だが少し希望の光が灯っている、オリヴィエはそう考えた。 ちなみにこの後、「仮面ライダーリュミエール」、「LEANGLE-REVERSE!」の二本を見終わるまでスミレとオリヴィエは微動だにしなかった。 番組が終わるとスミレは「どっこいしょ」と立ち上がり、肩に乗っているオリヴィエに聞いた。 「どう?結構面白いでしょ?」 「たまにはこういう娯楽番組を見るのも悪くないな。誰かさんみたいにのめりこみ過ぎるのは問題だが」 「まったまたぁ〜。オリヴィエだって真剣な顔して見てたくせに」 「だっ、誰が!わっ、私は、その―――そう!娯楽番組の中にも見え隠れするいつの時代でも不滅の「正義」を見出しただけで、別にそんなに楽しかったわけじゃ……」 「はいはい。そーいぅことにしといてあげるよ、ふふふ」 スミレはわざとらしくニヤニヤと笑う。 「わっ、笑うなぁッッ!!何がおかしいッッ!?」 「べっつにぃ〜?」 笑ったままスミレは部屋を出て行った。 オリヴィエは肩をぜぇぜぇと揺らしながら、息を整える。 やがてサラリーマンのように愚痴り始めた。 「まったく、アイツは何を考えてるんだ!私たちにはイマジンによる時空改竄を防ぐという重大な使命があるんだぞ!?それをいい歳こいてやれ「特撮」だの「アニメ」だのと……気合が足りん証拠だ!弛んどる!!」 ぶつくさぶつくさと文句を言うが、その様子は普段と違って落ち着きがない。 テレビの下に備えて付けてあったDVDレコーダーの前を行ったり来たり。 スミレは番組ごとにHD-DVDを入れ替えていた。 趣味にはどんな金銭的ダメージも過剰労働もいとわないスミレのことだ、きっと第一話からコンプリートしているはずである。 ちらり 視線がレコーダーとリモコンに移る。 そして再び行ったり来たり。 窓から差し込む陽の光がぽかぽかとして心地よい。 ちらり またまた視線が移動した。 やがて視線を泳がせつつも、オリヴィエは近づいていく。 「……そもそもこんなものがあるからスミレも自堕落な生活に慣れてしまったんだそうに違いない仕方ないこの私が“はぁどでぃすくでぃぶぃでぃ”なるものを没収してやろう決して独り占めしたいとかもう一度見たいとかそんなんじゃないぞこれはスミレのためであってだな――――」 一体誰に言い訳しているのか。 オリヴィエはぴっぴっとつたない様子でリモコンを操作した。 うぃぃぃ〜〜〜んっ、とレコーダーはDVDを吐き出す。 真円型の薄いディスク、何の変哲もない市販用のHD-DVDだ。 ところがこのときのオリヴィエには、それが輝く宝物に見えたんだとか。 ごくり…… 息を呑む。 オリヴィエはそぉ〜〜っとスミレ特製HD-DVD近づいていき、ゆっくりと手を伸ばして…… 「――――って、私は一体何をッ!?」 正気に戻ったのか、オリヴィエは伸ばしていた手を引っ込める。 何を血迷っていたのかと、激しく後悔した。 自己正当化までしてこのHDVDを手に入れようとは、まるで盗人ではないか。 そもそもこんなHDVDなんかに何の価値が……でも欲しいなぁ、見たいなぁ……いやいや、こんなことは悪党のすること……でもでも、……いやいやしかし…… ちらり 懲りずに視線はお宝へ。 そしていつの間にか手も伸びている。 あと少し、あと少しで指が触れる……10cm……5cm……1cm……ゼr 「WAWAWA忘れ物〜〜♪」 「うっひょぉっ!!??」 いきなり背後から聞こえてきた声に飛び上がった。 もんの凄いスピードで机の上に飛んでいく。 冷や汗まみれだったが、何事もなかったかのようにオリヴィエはそっぽを向いた。 スミレはニヤニヤ笑いながら聞いた。 「おんやぁ?そんなに汗かいて、一体なぁ〜〜にしてたのかなぁ〜〜?」 「べっ、べべべべ別になんでもない!それより一体何しに戻ってきた!?」 「いやぁ、ちゃんと録画したらケースに戻しとかないとねぇ。間違えて別の番組録画なんてしちゃったら、目も当てられないよ」 「そ、そうか」 がさごそとスミレはケースにディスクをしまっていく。 ちらちらとオリヴィエはその様子を見つつ、スミレが顔を上げるたびに視線をそらした。 やがてケースにしまい終えたスミレは、それぞれに振り分けられた場所へと直していく。 「さぁ〜〜て、今度こそ朝ごっはん〜♪」 たたた、と走ってスミレは出て行―――こうとして、ぴたりと足を止める。 「どうした?」 振り向いて、口元を手で隠しながらオリヴィエに言う。 「いやぁ〜、正義の味方が人のものを勝手に見ようとするのは、どうかと思うよねぇ?」 こいつ鬼だ。 「くぁwせdrftgyふじこ!!??」 手で隠してはいるが表情でわかる、絶対笑ってる。 しかも馬鹿にするような笑いではなく、心底生暖かい笑みだった。 そう、例えるならエロ本を見つけられた男子高校生を見る母親のような……そんな感じである。 オリヴィエは「あわわわわわ……」と情けない声を漏らしつつ、一世一代の勇気をしぼり出して聞いた。 「……ぃ……」 「い?」 「……いつから、見て、いた……?」 「えぇ〜っとねぇ、「まったく、アイツは〜〜弛んどる!!」から見てたよ?」 最初ッからかよ。 「〜〜〜〜〜〜〜〜くぁwせdrftgyふじこッッ!?///」 ★ そんなこととは関係ないところで、イマジンの魔の手は今日も人々を襲う。 「お前の望みを言え。どんな望みも叶えて「女の子にモテたい!!」……やけにあっさりと言うなお前」 イマジンが憑依した男は、不完全体である砂状のイマジンにほんの少しも臆することなく言った。 眼の幅ほどもある涙を流しながら、契約者の男はシャウトする。 「女の子にモテたい!!彼女いない暦=年齢はもう嫌や!!周りの連中があっさり大人の階段を三段飛ばしで上っていくのに、ワシだけいつまでも童「自主規制」なんて地獄やーーっ!!女の子にモテモテになって「18禁指定」なことや「20歳以下謁見禁止」なことしたいんやぁぁぁっ!!」 「……なんつー欲望まみれな男だ……まぁいい、女を連れてくればいいんだな?」 呆れ返るイマジン。 彼らにしては珍しく契約内容を確認しようとするが、そこに契約者の男は口を挟む。 イマジンの目の前に手を突き出す。 「いいやっ、違う!!」 「はぁ!?」 「俺は三次元には興味はない、あんなの疲れるだけだ!興味はないが、しかしこの子だけは特別ッ!!」 突き出した手にはチラシが握られていた。 それは“オルレンジャーキャスト・スペシャルトークショー”と書かれている。 イマジンはそれに目をやりながら、聞き返す。 「……これがどうした?」 「俺はピンクサーバル役の役者だけは大好きだ。初めて彼女を見たときから俺の童「だから自主規制だってば」は彼女に捧げると決めていた!彼女をつれて来い!!」 「あーはいはい、おっけおっけ」 すっげー投げやりな態度でイマジンは返事をした。 「はぁぁぁぁぁ……」とものごっついため息を吐きながら、イマジンは実体化する。 その姿は鼠の着ぐるみを着たようなラットイマジンたん、手には笛を持っており頭にはシルクハットをかぶっている。 「はぁぁぁぁぁ……俺ってホンッット、ついてねぇなぁ……(泣」 ラットイマジンたんは部屋の窓から跳びだした。 家屋の屋根を走りぬけ、目的地へと向かう。 流した涙がまぶしいぜ。 ★ 「というわけで(どういうわけだ)これから最後にキャストの皆さんと記念撮影に入りたいと思いまーす。希望の方は整理券を受け取って、順番にならんでくださーい!」 「黒野さんは、誰と記念撮影するの?」 「当然イエローシアネモネ!むひょひょひょひょ!」 問題の“オルレンジャーキャスト・スペシャルトークショー”に、スミレは絵美里と一緒に来ていた。 機嫌を損ねたオリヴィエのため、わざわざチケットを取って来たのである……というのは嘘で、彼女が来たかったから来ただけだ。 オリヴィエはちょこんと肩に乗っかっている。 絵美里はこういうのに興味はないかと思われたが、スミレが誘うと「暇だから」ということであっさりやって来た。 まぁ三人ともそれなりに楽しんでいたのでよかったのだろう。 スミレは整理券を貰って列に並ぶ。 「あぅ〜〜、やっぱり一段と長いねぇ」 「ホントだね。凄い人気なんだね」 イエローシーアネモネの列は他の列よりも頭一つ分抜きん出ていた、これもイエローシアネモネの人気を示す一例にすぎないのだろう。 まるでカタツムリのようなペースで進む列の真ん中ぐらいにスミレと絵美里は位置していた。 肩に乗っかっていたオリヴィエに、スミレは優しい口調で聞いた。 「どう?機嫌直した?」 「………………………(ぷい、とそっぽを向く」 「やれやれ、素直じゃないねぇ」 未だにへそを曲げているオリヴィエに苦笑いしつつ、帰ったら一から何か見せてやろうと思うスミレであった。 そうこうしているうちに列も随分進み、いよいよあと数人。 スミレの胸のどきどきボルテージは上がりっぱなし、はっきり言って浮かれていた。 そこに、――― 「スミレ、イマジンの気配だ!?」 「えぇ〜〜っ?こんなときにぃ!?」 「油断するな、近いぞ!」 オリヴィエは先ほどまでの不機嫌はどこへやら、キョロキョロと辺りを見回し始めた。 如何せん人が多いので、そう簡単には見つけられない。 スミレはポケットからライダーパスを取り出すと、オリヴィエ同様キョロキョロと周りを見回す。 「どこ?いないよ!?」 「よく探せ!必ず近くにいるはず―――」 「黒野さん、あれ!!」 そう言ったのは絵美里、それと同時に周りから「きゃーーっ!?」だの「ばっ、ばけもの!?」だのと悲鳴が聞こえる。 慌ててスミレはステージの上を見た。 ステージの上にいるのは合計で五人。 「一人足りない!?」 ステージ上にいたのはキャストと司会を含めた六人だったはずだ。 スミレの言葉が表すように、一人足りないのである。 オリヴィエは天井を指さして言った。 「スミレ、上だ!!」 言われて上を見たスミレが見たものは、人間の足とイマジンの足。 それもすぐに引っ込んでしまう。 おそらくもう脱出しようとしているに違いない。 「追おう、オリヴィエ!」 「あぁ!」 絵美里が何か言っているのも聞かず、二人は会場を飛び出す。 やはりキョロキョロと周囲を見渡すと、近くの民家の上を走る鼠が見えた。 しかし鼠ではありえない、人よりも大きな鼠など聞いたこともない。 あれがラットイマジンたん、背中にはピンクサーバル役の女優を背負って走っている。 「あぁーもう!アイツのせいで記念写真撮れないじゃん!!」 「言ってる場合か!追うぞ!!」 「うぃ!」 愚痴りながらスミレは後を追った。 もちろん体力はへっぽこなのでオリヴィエにバトンタッチ。 一瞬にしてポニーテールになり、白が瞳と髪の一部に刻まれる。 「む?……何だぁ、アイツぁ?」 さて、逃亡するラットイマジンたんも追走してくるオリヴィエ in スミレに気づいていた。 正真正銘イマジンである彼の後を付かず離れず追跡可能ということは、追っ手は少なくともイマジンかそれに比肩する存在であるということが容易に推測できる。 ラットイマジンたんは舌打ちすると、急いで契約者の元に向かった。 仮にイマジンだったとしても、過去に飛んでしまえば追跡は不可能である。 ラットイマジンたんが叶えた願いと同じ願いを叶えたとしても、強くイメージする契約者の記憶が寸分違わぬものでなければ同一の過去にはタイムリープはできない。 イマジンでないとしたら、それはなおさらだ。 つまり時間跳躍しさえすれば、もう邪魔者はいないということである。 ラットイマジンたんはどうにか距離を少しづつ離し、契約者の待つ部屋に辿り着いた。 背中に背負った女優をおろす。 「あとはお前の好きにしろ」 「うっひょーーー!とうとう俺の時代が―――」 「契約完了だ!」 契約者がぬか喜びしている間に、ラットイマジンたんはずばっと契約者の身体を鯖の開きのように開く。 緑色のようなぐにょぐにょとした3D酔いしそうな身体は時を越える門となり、ラットイマジンたんはそこに飛び込む。 ラットイマジンたんが完全に入り込むと扉は閉じ、あとには契約者と女優だけが残された。 「な、何だったんだ今の……?まぁいい、これで俺も大人の階段を駆け上がるのじゃ!!いっただきまー――――」 「止めんかこの馬鹿モンッッ!!」 「――――げふぅっ!?」 契約者はルパンダイブ(一瞬にしてパンツ一丁になりながら飛びかかること)しようとして、ドアを蹴破って入ってきたオリヴィエに蹴り飛ばされる。 ごろごろどがっしゃーん!と部屋の壁にぶち当たり倒れ伏した。 オリヴィエはずかずかと土足で上がりこみ、ブランクライダーチケットを契約者の額にかざす。 浮かんだ日付は200X年02月XX日。 しかし契約者のイメージが不完全なのか、浮かび上がってくるのは日付だけだった。 イマジンの姿が浮かび上がってこない。 これでは過去に飛べない。 「おい、この日付に覚えはあるか?」 「ひぃっ、なな何なんだよアンタ!」 「答えろ!!」 気合一喝、オリヴィエの鋭い視線にパンツ一丁の契約者は震え上がった。 ガタガタと怯えるばかりで一向に答えが返ってこない。 オリヴィエが忌々しげに「……ちっ!」と舌打ちする傍ら、スミレがライダーチケットの日付を見て言った。 (この日付、って……) 「覚えがあるのか?」 (うん、オルレンジャーの初回放送日だよ!間違いない) 「なるほど。おい、この日はオルレンジャーの初回放送日で間違いないな?」 オリヴィエは契約者に強く過去をイメージさせるため、スミレから聞いたことをそのまま言った。 契約者はコクコクと頷く。 途端、ライダーチケットにラットイマジンの全身像が浮かび上がる。 「よし、行くぞ!」 (あ、ちょっと待ってオリヴィエ。その前に―――) スミレは一旦オリヴィエを身体から出すと、振り向いた。 つかつかつか―――とゆっくり女優の元まで歩いていき、携帯を取り出す。 カメラを起動して、ボタンを一押し。 ぱしゃり 「これでおっけー。よし、行くよオリヴィエ!」 (お前、転んでもタダでは起きないんだな……) ★ 200X年02月XX日。 男は何の気なしにテレビを見ていた。 先日女にフラれたばかりである、何か気を紛らわすものが欲しかったのだろう。 「ちくしょー!顔がキモイ顔がキモイって男は顔じゃねぇーぞ!!」 魂を込めた愚痴をこぼすが、だからといってどうなるというわけでもない。 己の行動に虚しさを覚えていると、ふとテレビに目が止まる。 画面に映っていたのは好みの女像にどんぴしゃの女性だった。 男は思った。 「そうか……俺は今までむざむざとフラれてきたわけじゃなかったんだ!彼女に出会うため、これが運命だったのか!?」 ……妄想はなはだしいが、とにもかくにも男はそう思い込んだ。 これが強い記憶となって男の胸にはしまわれていたわけである。 だが、それも崩れ去ろうとしていた。 「おらおらおらぁ!!ワケのわからん願いなんか言いやがってよぉ!ざけんじゃねぇーぞ!?」 「なっ、何だよアンタはぁ!?」 突如として現れたラットイマジンたんに、男はイチャモン付けられていた。 ラットイマジンたんは契約の内容がよほど頭にきていたのか(当たり前っちゃ、当たり前だが)、男の胸倉を掴みあげる。 その力は当たり前のように人間よりも強く、首が絞められていった。 「ぐ、苦し……」 「はん、まぁいいや。こうして過去に来ちまえばこっちのモンだしよ。てワケでぇ、ビバ!デェストロォイッ!!」 ラットイマジンたんはそう言うと、部屋を飛び出し破壊活動をを始めた。 持っているものは笛だけだったので素手による破壊だったが、それでも脅威には変わりない。 電柱を押し倒し、壁に穴を開け、車のタイヤを鋭い歯でかじってパンクさせる――――て、地味な活動ばかりだなオイ(汗 「これからだぜぇ?ビバ!デェストロォォーーイッ!!」 そう言ってラットイマジンたんはかぶっていたシルクハットを通行中の車に投げつける。 シルクハットはくるくると回転しながら車にぶつかったかと思うと、何と車を紙切れのように切断してしまった。 どうやらふちの部分が鋭利な刃になっているらしい。 「そぉら、もう一発ゥ!!」 ブーメランのように手元に帰ってきたシルクハットを、今度は別の車めがけて投げる。 もう一台、スクラップができあがると思われた――――が、 ぱらりらぱらりら〜♪ ぱらりらぱらりら〜♪ 「んなぁ!?」 ガラの悪い音楽を流す列車がどこからともなく現れ、シルクハットをはじき返した。 時の列車・クロノスライナーには傷一つついていない。 自動扉が開き、中からスミレが変身したクロノスたん・プラットフォームが降りてくる。 「アンタのせいでせっかくの記念撮影チャンスが台無しだよ!この怨み、はらさでおくべきかぁ〜〜!!」 「正義の見方がそんなことでいいのかよ!?」 「アタシは正義の味方である前に、オルレンジャーの一ファンだよ!ファンの怨念、思い知るがいいさ!!」 珍しくスミレは燃えて、燃え上がっていた。 オリヴィエが憑いていない状態であるにも関わらず、その表情は真剣そのものちょっと怖い。 普段からこれぐらい気合が入っていればなぁと、クロノスライナーの中から様子をうかがっていたオリヴィエは思った。 スミレは叫ぶ! 「オリヴィエ!」 ≪――Lance Form――≫ いつもどおりの流れでライダーパスをセタッチ、過剰オーラエネルギーでできたオーラフェザーを舞わせてクロノスたんは白騎士風のランスフォームへと変身した。 しかしオリヴィエの様子も今日はちょっとおかしい。 「やれやれだ……だが、スミレの言うことは私にもわかるぞ。一大イベントを邪魔した罪は重い!!」 「って、お前もかよっ!?」 クロノスたんはクロノガッシャー一を放り投げた。 「一つ!非道な時空改変を、憎み!!」 クロノガッシャー二を手に取る。 「二つ!不可解な事件を、追って!!」 クロノガッシャー三を連結する。 「三つ!未来の力(時の列車)で、追跡!!」 クロノガッシャー四を繋げた。 「四つ!よからぬイマジンの企みを!!」 クロノガッシャー一が落下し、連結して一気にランスモードが完成する。 「五つ!一気に一網打尽!!」 どこぞの赤鬼イマジンのように、クロノスたんは「ばばーーん!」と大きく見栄をきった。 「仮面ライダークロノスたん、ここに参上!!」 (行っけー、オリヴィエ!やっちゃえ、オリヴィエ!!) 「……ぁー、お前らやる気あんの?」 オリヴィエは普段こんなことしないし、すればからかうであろうスミレも今回ばかりは何も言わないどころか激励する。 ラットイマジンたんのツッコミさえも、今のクロノスたんには聞こえていない。 二人は怒りに燃えていた、千載一遇の機会をふいにされてしまったことに対して。 「黙れ、この極悪非道の残虐無道イマジンめが!貴様は国家反逆罪だ!」 「何でそこまで言われなきゃなんねーんだよっ!?」 「口答えするな、返事はイエスでいい!!」 一気に駆け出したクロノスたんは、怒りの一撃をお見舞いする。 普通プッツンすると照準なんかがめちゃくちゃになるものだが、こと槍の扱いにおいてはクロノスたん――というよりオリヴィエ――にはそれは当てはまらないようだった。 的確に突きまくり斬りまくる、クロノガッシャーの扱いが普段よりも冴えているような気さえする。 しかしラットイマジンたんも中々強かった。 全ての攻撃とはいかないものの、手にしたシルクハットのひさしの部分で回避可能なものは回避していく。 「おらぁ!!」 「はぁっ!!」 客観的に見たところ、若干クロノスたんの方が有利だった。 リーチの差、身体能力、武器扱いの腕前。 その全てにおいてラットイマジンたんは少々劣っていると言わざるを得ない。 「ふん!!」 「ぐふっ……!?」 大きく振り回したクロノガッシャーが、ラットイマジンたんを殴り飛ばす。 ゴロゴロと転がり、ラットイマジンたんは膝に手を当てながら立ち上がった。 「ぐ、ぅ……中々やるじゃねぇか」 「格下に褒められても嬉しくともなんともないな」 「格下、ねぇ?」 ラットイマジンたんは少し不敵な笑みを浮かべながら話を続ける。 だがクロノスたんは話を聞く耳持たず、距離を詰めるべく歩いていく。 「知ってるか?俺ァ「ハーメルンの笛吹き男」って話のイメージから生まれたイマジンなんだ」 「それがどうした?」 「どうやら身体の方は俺より強くても、頭の方はダメダメみてぇだな。おかしいたぁ思わなかったのか?あの女(ピンクサーバル役の女優)が何で一切抵抗もしなかった、か」 「なに?」 (オリヴィエ、なんかヤバイ感じだよ。ここはいったん距離をとって―――) 不穏な気配のラットイマジンを見て、スミレは一時後退の指示を出した。 だが、オリヴィエは聞かない。 「違うな。この場合、一気に片付ければいいだけの話だ!!」 ゆっくりと進めていた歩を、ダッシュに変える。 クロノガッシャーを肩に担ぎ上げて、取り出したるはライダーパス。 宣言どおり一気にケリをつけるつもりだった。 しかし、そうは問屋が卸さない。 「甘ぇんだよ!!」 ばばっ!と、やけに芝居がかった動作でラットイマジンたんが取り出したのは、笛。 縦笛ではなく横笛、フルートのような感じだ。 ラットイマジンたんはそれを咥えると、一気に笛を吹いた。 ぱ〜ぱらぷっぷ〜♪ ぴっぴるぴ〜♪ 「んぐ――――ッ!?」 (どっ、どうしたの!?) 「かっ、身体が動かん!」 (えぇーーーーーっ!?) ピタリとクロノスたんの動きは止まってしまった。 これこそラットイマジンたんの特殊能力である。 モチーフとなった「ハーメルンの笛吹き男」と同様、笛を吹くことで対象の身体を操ることができるのである。 おそらくはこの能力で、女優の身体の自由も奪ったのだろう。 ラットイマジンたんは器用にも笛を吹きつつ、クロノスたんを小馬鹿にしながら話しかけた。 「へっへへへ。強いやつが生き残るんじゃねぇ、最終的にはココ(頭)を上手く使うやつが生き残るんだよ」 「ぐっ………!?」 クロノスたんはぎりりと睨みつけるが、ラットイマジンたんはふざけたように笛を吹き続けている。 「んじゃま、自滅してもらうとするか」 「――――――!?」 (ぁ痛っ!?) そう言って笛を吹くと、突如としてクロノスたんの右手が自身の頬をぶん殴る。 その勢いで身体がよろけるが、操られている四肢は地面に倒れこむことすら許さずたったままだ。 その後もラットイマジンたんが笛を吹くたびにダメージが与えられていった。 クロノガッシャーも手から離れ、がしゃりと地に落ちる。 自分で自分の腹を殴ったり、壁に思い切り体当たりさせられたり、シルクハットに自分から当たりに行ったりと、こんな具合である。 「くそっ、この外道めが……!!」 「言いたきゃ何とでも言え、邪魔するお前が悪い。そら、次はあっちだ!」 足が勝手に動き、クロノスたんは停車してあるトラックの荷台に思い切りぶつかった。 このままいいようにしてやられるかと思ったが、ここでスミレがオリヴィエに話しかける。 (オリヴィエ、アタシに考えがあるんだけど――――) 「何だ?」 (うん、実はね……かくかくしかじかこれこれうまうま) 「……あまり乗り気はしないが、仕方ないな」 (頼んだよ、成功するかどうかはオリヴィエにかかってるんだから!) 「……わかった」 言って、クロノスたんは顔を上げた。 その目に宿る闘志は、微塵もそがれてはいない。 「なに粋がってやがる!!」 ラットイマジンたんはシルクハットを投げた。 当然クロノスたんに回避手段はない、真正面から受ける結果となった。 「うぁっ……ぅ!?」 どさっと吹き飛ばされたその姿は、既にランスフォームからプラットフォームへと戻っていた。 身体にオリヴィエは宿っておらず、その意識はスミレのもの。 姿も白騎士風の姿から駅員風のものに変わっていた。 それを見たラットイマジンたんは嘲笑する。 「ははんっ、お前が何モンかはよく知らねぇが、そろそろグロッキーみてぇだなぁ?」 「うっ、ぅぁ……」 スミレは辛うじて自由に動く首を持ち上げた。 その表情はラットイマジンたんの指摘どおり満身創痍、ウ○トラマンなら胸のカラータイマーが赤に染まり激しく鳴りまくっていることだろう。 ラットイマジンたんは笛を吹いてスミレを無理矢理起き上がらせ、シルクハットを投げつけた。 「おらぁ!!」 「うぁぁぁぁあっ!?」 シルクハットは狂いなくその全てがクロノスたんに直撃する。 投げながらゆっくりと近づいてきたラットイマジンたんはスミレの首に手を伸ばした。 「じゃぁな」 「――――――、………………」 もはや笛を吹く必要もないと判断したのだろう、ラットイマジンたんは片方の手でスミレの首を掴んでその身体を持ち上げる。 ゆっくりと首が絞まっていく。 しかしスミレはうめき声ひとつ上げなかった。 「はん、やせ我慢はうめぇみたいだな」 「やせ、我慢?違うよ。これで――――」 にやり、と不敵な笑い。 「―――アタシたちの勝ちだね!」 「あぁん?」 「何言ってやがる」と言いかけて、ラットイマジンはおかしな事実に気がついた。 いつの間にか足元には大量の砂がある。 砂――――――砂!!? 「オリヴィエ!!」 「任せろ!!」 スミレが叫んだ。 すると砂は一気に盛り上がり、上半身下半身が分かれたイマジン――オリヴィエ――の姿となってラットイマジンたんに立ち向かう。 「何だとォッ!?だが、砂野郎如きに何が―――」 「狙いはお前じゃない!!」 迫るオリヴィエに一瞬パニックになりかけ、すぐにラットイマジンたんは冷静さを取り戻した。 いくら不意を突いたとはいえ、オリヴィエは不完全体のイマジン。 過去世界では実体を持てないただの砂、そんなものに殴りかかられたとしても痛くも痒くもない。 ラットイマジンたんの指摘どおり、それはスミレも承知だった。 だからオリヴィエに指示したのは別のこと。 「これがなければ、恐るるに足りんな!」 「しまっ――――!?」 言ってオリヴィエが掠め取ったのは、ラットイマジンたんが持っていた笛。 至近距離でなおかつ笛からどちらか片方の手を離させなければ笛は奪い取れない。 故にスミレはいったんオリヴィエを身体から追い出し、不完全体として過去世界に放り出したのだ。 ラットイマジンたんに気づかれないように足元に潜ませ、近づくのを待つ。 仮にラットイマジンたんが反射的に反撃したとしても不完全体イマジンであるオリヴィエの身体は砂となって崩れるだけ、それはそれで目潰しになる。 この策の問題はラットイマジンたんが接近し自身の手で止めを刺そうとしなければ成り立たないことだ。 スミレは自身の命を賭けのチップに使ったことになる。 こういう策を思いつくことも、土壇場での度胸があることも、オリヴィエは素直に感心していた。 さて、笛を取り上げればこっちのモンである。 「もっかい、変身!!」 ≪――Lance Form――≫ 砂状態のオリヴィエが飛んでいき、すぐさまランスフォームへと変わる。 首を掴んでいる手をぎりぎりと握りしめ返しあっさり振りほどくと、戦利品である笛も握りつぶした。 (じゃ、あとよろし、く……――――) 「……ゆっくり休め」 スミレは言って、気絶してしまった。 切れた唇から流れる血を手の甲で漢らしくぬぐうと、ラットイマジンたんを睨みつける。 凄まじいほどの怒気に気圧され、思わず「うっ……」と後ずさりしてしまった。 頭を指さしながら、極力落ち着き払ってクロノスたんは言った。 「強いものが生き残るのではない、最終的にはココ(頭)を上手く使うものが生き残る――――だったか?成るほど、一理あるな。いやはや、今回は勉強させてもらったよ」 「ぐっ……!」 「これはその礼だ!!」 落ちていたクロノガッシャーを拾い上げ、勢いよく斬りつけた。 クロノガッシャーの射程距離内では圧倒的にクロノスたんの有利、体力も消耗しているはずだったがそんなことは関係ないと言わんばかりに攻め続けた。 怒涛の攻めにあっという間に形勢逆転、とうとうラットイマジンたんを追い詰めた。 武器であるシルクハットは通用せず、切り札の笛ももはやない。 窮地に追い込まれたラットイマジンたんに、もはやなす術はない。 「お前を楽に殺したのでは私の気がすまん、徹底的に叩きのめしてやる!返事はイエスでいい!!」 ≪――Full Charge――≫ クロノガッシャーにフリーエネルギーが充填され、オリヴィエはひたすらラットイマジンたんを斬りまくった。 斬るKILL斬る伐る斬る伐る斬る斬る切る斬るKILL斬る斬る切る伐る斬るKILL斬るKILL斬る伐る斬る伐る斬る斬る切る斬るKILL斬る斬る切る伐る斬るKILL――!! 「はぁぁぁぁぁあっ!!!」 「ぐぁっ!うげっ!?あばちゃーーーっ!?」 エクストリームスラッシュを受けてなお、ラットイマジンたんは息をしていた。 しかしエクストリームスラッシュに耐え切る防御力を有しているわけではない。 一撃一撃が必殺の威力を持っていたエクストリームスラッシュだったが、クロノスたんはわざと急所を外したのだ。 再びライダーパスを取り出すと、ターミナルバックルの前にかざす。 ≪――Full Charge――≫ 「止めだッ!!」 槍投げ選手顔負けの、立派なフォームでの素早い投擲。 クロノガッシャーは槍というより矢のような勢いで、真っ直ぐラットイマジンたんめがけて飛んでいく。 ぐさりと串刺しになり、クロノガッシャーが変質したオーラフェザーによってラットイマジンたんは拘束される。 先ほどはクロノスたんが身動き取れない状況に追い詰められたが、今度は逆というわけだ。 クロノスたんは天高く跳び上がり、右脚を突き出す。 「デンライダアァァァァァーーーーーッ、キィィィィーーーーッック!!」 「うっ、ぎゃぁぁぁぁああああーーーーっっ!!??」 見事ラットイマジンたんの胸にクロノスたんの一撃がきまり、ラットイマジンは蹴り飛ばされた。 よろよろと起き上がるがその身体からは火花が飛び散り、やがて大爆発を起こす。 こうしてまた一つ、クロノスたんの手によって悪党が成敗された。 ★ ぺたり 「ぁ痛っ、痛いよオリヴィエ〜〜〜……」 「我慢しろ」 ラットイマジンたんを倒したあと現代に直帰した二人は、スミレの自室にて治療していた。 今回はいつにもまして激しく動き体力を消耗した。 スミレの身体はボロボロ(擦り傷と打ち身と切り傷に全身筋肉痛)で立てなかったため、結局オリヴィエが憑依したまま自宅に帰ったのである。 ちなみにイマジンによる犯行なので警察には手が出せないと判断したオリヴィエは、契約者に脅しをかけた。 「今度イマジンの誘いなどに乗ってみろ、にぎり潰してすり潰して叩き潰してちょん切ってやる覚悟しておけ、返事はイエスでいい」 契約者はガクガクブルブルと震えていたらしい。 ピンクサーバル役の女優はその内スタッフが見つけられるようにこっそり会場の椅子に座らせて帰ってきた。 ショックで気絶していたのだろう、目を覚まさなかったのが幸いした。 「これで湿布は終わり、っだ!」 「あぎゃぁぁぁぁああっ!!?」 バシン!とオリヴィエは叩きつけるように湿布をスミレの背中に貼り付けた。 叩かれた瞬間に走った激痛にスミレはのけぞる。 ぴくぴくと身体が痙攣しているが、大丈夫なんだろうか? 「……残念だったな。記念撮影できなくて」 「……そだね」 結局あのあと自宅に直帰したのだが、“オルレンジャーキャスト・スペシャルトークショー”は中止になったと絵美里に聞いた。 そりゃまぁあんな事件が起きれば当然である。 こればっかりはどうしようもなかった。 オリヴィエはすぐそばに居てずっと見ていた、うきうきわくわくと喜びに踊るスミレの瞳を。 それを自分と同じイマジンによって台無しにされてしまったのだ。 そんな道理はないと頭ではわかっていてもどこか申し訳なく感じ、オリヴィエは傷心のスミレを慰めてやった。 「オリヴィエ」 「ん?」 「その――――アタシこそごめんね、朝は意地悪しちゃって……あとで一緒に“オルレンジャー”を一話から見よっか?」 スミレは殊勝な顔つきで言った。 今回は悪いことをしたなと思っていた。 最初は楽しんでもらおうと一緒にテレビを見始めたのだが、ついつい調子に乗ってしまった。 自分のいた時代とは異なる時代で、やっと見つけた娯楽をネタにからかわれてはオリヴィエが拗ねるのも無理はない。 そう、彼女は今まで一人だったのだ。 元の時代には友達なり家族なりもいたはず、それを捨ててまでこの時代に来たのだから。 「……そうだな、みたらし団子でも食べながら一緒に見るか」 オリヴィエはスミレの思いを汲み取ったのか、笑って返事をした。 スミレもにっこりのほほんと笑い返す。 身体はめちゃくちゃ痛かったが、心はポカポカとあったかい気持ちになれた。 「でもさ、みたらし団子はもうないよ?」 「なにぃ!?今すぐ買って来いッ!!」 「やだよ身体痛いもんっ!」 「そんな惰弱なことでどうする!立て!走れ!行け!」 「ぜぇ〜〜〜っったいヤダッ!!」 一気に心が冷えた気がした。 彼女たちの“時”を守る戦いは、まだまだ続く――――かもしれないね。 To be continued……? |
YP
2008年04月13日(日) 23時29分57秒 公開 ■この作品の著作権はYPさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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