仮面ライダー影月外伝 『十二支物語 二〇〇九年版〜氷神月華と紅白の獅子〜《前編》』 |
ガサッ・・・・・ガサガサッ・・・・・ 暗い夜の静寂の中、埃っぽい一室に不気味にうごめく影一つ・・・・・・ 「あっれぇ・・・・・確かこの辺にあったと思うんだがなぁ・・・」 微かな月影を頼りに部屋の中を這い回り、手当たりしだいに置いてある道具類をあさっている。 暫くそんなことをしていると小さな箱を見つけた。 漆の塗ってある木製の箱、古ぼけた札で封がしてあった。 「ん?なんだこりゃ・・・・・」 ビリビリビリッ・・・・ それが何なのかはわからないがとりあえず開けてみる。(小学生ですかアンタ・・・) 暗くてよくは見えないが中には二つ木の彫り物・・・・獅子の置物らしいものが入っていた。 「よく見えねぇな・・・・・おっ!」 いいものを発見した――――‐たいまつだ。 居酒屋で貰ったマッチに火をつけ、それをたいまつに写す。 冬の乾燥した空気がたいまつの炎の勢いを強めている。 バッ!! 「おわっ!?」 たいまつに火が灯った瞬間、その箱の中にあった何かに火が燃え移る。 慌てて踏みつけ他に燃え移るのは防いだものの、それは黒焦げでもうダメになっていた。 燃えカスから察するに何かのお札のようだった。 「・・・・あれ?」 いつの間にか、中に入っていた置物もなくなっている。 札と一緒に燃えてしまったのだろうか・・・・ 「・・・・・・・・・」 暫しの沈黙・・・・・・ 「ま、いっか。冷えてきたし帰ろ帰ろ。」 男は何も見なかったことにしていそいそとその場を後にした・・・・・・ これがのちのち起こる騒ぎの原因になろうとは、このときは思いもしなかった。 『グルルルルル・・・・・・・』 時刻は未の刻(午後二時ごろ) 冬の凍えるような寒さも、昇る太陽の日射しにより幾分か緩和されている。 八神市の北北東にある小さな保育園・・・その広場のブランコにはそこの園児とは違う二人の少女が座っていた。 いつものようにボランティアでおやつのたこ焼きを作りに来た二人だったが、少し早く着き過ぎたようで園児はまだお昼寝の時間だった。 紗魅「新年のあいさつ?」 檬瑠「うん、みんなでコウブさまのお家にあいさつに行くって、一昨日シユウに聞いた・・」 紗魅「あー、なんか言ってたような・・・・」 昨日の夕方だったか・・・・・ 寝転がってテレビを見ているときに台所の方から蚩尤が何か言っていたのを思い出した。 丁度は『ドM‐ワンぐらんぷり』とかいうお笑い番組を見ていたまっ最中、ど突かれて恍惚な表情を浮かべる漫才師達にゲラゲラと笑いっぱなしのころであったため完全に右から左へと流してしまっていた。 檬瑠「久しぶりにみんなでお正月できるね。」 紗魅「ん、せやなぁ〜。」 檬瑠「・・・楽しみだなぁ。」 紗魅「今年はぎょうさんお年玉期待できそうやもんなぁ〜。モ〜ルンもやらしいなぁ〜、くぬくぬ♪」 檬瑠「ち、違うよ〜・・・そうじゃなくて・・・」 紗魅「あっはっはっは、分かってるってぇ〜♪」 檬瑠「・・・も〜・・」 期待通りの反応をしてくれるのでからかう紗魅の方はニヤニヤと満足そうな顔をしている。 ヒジでぐいぐいと押される檬瑠はちょっと困った表情だ。 紗魅「ごめんごめん。・・・ホント今年はいい正月が迎えられそうやわ。ウチも楽しみやで。」 檬瑠「うん。」 紗魅「そんでいつ頃やっけ?・・・やっぱ夜からかな?朝までフィーバーみたいな・・・」 檬瑠「えぇっと・・あれ・・・いつだったかな・・・・シユウに聞いてこようか?」 紗魅「シュ〜ちゃんやったら居らへんで。出張とかでちょっと遠くの保育園にな。」 檬瑠「え、そうなんだ。」 紗魅「まぁ、宴会には間に合うんやろ・・・ウチも色々準備しとかなな〜。」 檬瑠「準備って?」 紗魅「んふふ〜、ナ・イ・ショ・や(はぁと)」 そうこうしている家に数日経ち、気が付けばもう二〇〇九年。 ここは蓬縁神社、町の東方の小高い丘の上に立ち昔からこの八神の大地を見守ってきた由緒正しき神社である。 そして今日は一月一日・・・・元旦であり、日ごろの静けさが嘘のようにわいわいと参拝客で賑わっていたりする。 古ぼけたお賽銭箱や売店の前にはたくさんの人が並んでいた。 チャリン・・・・パンパンッ・・・・・ 玉緋《えーっと・・・『今年こそ彼女が出来ますように。《五円》』・・・ナメているのかっ!五円でご縁が結べるなら誰も苦労はしない!だいたいそれくらい自分でなんとかしろ!!・・・・次。》 兎魄「は〜い、家内安全のお守りですね。三百円になりま〜す。・・・お次どうぞ〜。」 この神社に住む町の神さま、空狐玉緋は卯の式の兎魄と共に年の初めにやってくる一年で最も忙しいイベントにてんてこ舞いしていた。 玉緋《『息子が大学に合格しますように。《五百円》』・・・・うーん、まぁ・・・そうだな。その息子の頑張りにもよるがオレも応援しよう。少なからず効能はあるだろう・・・・次。》 兎魄「おみくじは一回百円で〜す。・・・・はい、どうぞ〜。」 玉緋《『今年も豊作になりますように。《千円》』・・・大体オレは農業では幅広く通じているからな、頑張れ!特に大豆(油揚げの原料)を頑張れ!!・・・・次。》 兎魄「あ、トイレは御神木を右に行ったところの奥にありますよん。」 この土地一帯を管理している玉緋は運気アップの言霊を次々に授けていく。 巫女さん歴○○年の兎魄の方もテキパキと巫女さんワークをこなしている。 ふわふわ 『あけましておめでとうございます、空狐様。』 玉緋《あぁ、おめでとう。・・・どうだ、お前のとこの山、少しは落ち着いたか?》 『はい、ご友人のお猿様のおかげでひねくれ者の動物霊達も大分まとまりましたよ。』 玉緋《そうか。まぁ、今年もよろしくしてやってくれ。》 『はい、こちらこそ・・・・それでは私はこれで・・・・・』 年末年始でこの神社を訪れる人の数は玉緋さんの年齢のおよそ十倍くらいである。 しかも、下級の神や精霊達もあいさつに来たりしてその忙しさと言ったらもう・・・ 玉緋《・・・・キツイ・・・・・・・》 神さまの仕事をするのは今年が初めての玉緋さん、力の使い過ぎでお疲れのようだった。 こんなハードな仕事を毎年やってた前任は今更ながら凄いと思ったりもする。 玉緋《ふぅ・・・少し休け・・・・》 チャリン・・・・パンパンッ・・・・ 玉緋《・・・・・・すまんが、少し休ませてくれ・・・来年はかなら・・・・》 『病気の友達が早く元気になりますように。《三百円》』 なんと健気なことか・・・・・・ 玉緋《ぅっ・・・う、どこまで効くかわからんが・・・・強い想いは形になる。想い続けてあげてくれ。》 空間に溶け込んでいる状態なので涙腺があるかどうかも怪しいがそれでもウルッときた(気がする。) こういうお願い事もあるのだ。とても休んでなんかいられない。 玉緋は「こんじょだこんじょ!!」と自分を奮い立たせる。 ・・・・・・よし、頑張っていこう。 チャリン・・・・パンパンッ・・・・ しかし、待ったをかけずに次々に投げ入れられるお賽銭・・・・ 玉緋《『今年一年も健康で過ごせますように、あともう少し目立ちたい。《百円》』・・とりあえず、餅はよく噛んで食うように。・・・あと、人はそれぞれがその人生(ストーリー)の主役だ。他と比べる必要はまったくないと思・・・・》 チャリン・・・・パンパンッ・・・・ 次々に送られてくるお願い事・・・・・ 玉緋《『今年こそ身長が10pくらい伸びますように。《百円》』・・・・む、むぅ・・・いや・・・・その・・・牛乳に相・・・・》 チャリン・・・・パンパンッ・・・・ 思うほど簡単ではなく、対応が間に合わない・・・・ 玉緋《『後輩がデレますように。《千円》』・・・ひ、必死なのはわか・・・・》 チャリン・・・・パンパンッ・・・・ その中でも特に強烈だったのが・・・・ 玉緋《『今年も計画通りに行きますように。/十周年目も楽しめますように。/今年はいぢめられませんように。/いい“しめ縄”が手に入りますように。《四百円》』・・四ついっぺんにだと!?》 ポンッ!! 玉緋「うがーーーーーーーーーーーー!!!!」 突然、売店の横の方で白い煙があがるり、何処からともなく銀髪の巫女さんが飛び出す。 発狂したかのように何か叫んでいる。 玉緋「仕事多い!!間に合わんしぜんぜん終わらん!!これじゃ師匠の家にもいけない!!」 兎魄「あっ、こらギョクぴ〜!実体化すると神さまパワー使えないでしょん!?戻った戻ったぁ〜!」 それに気付いたもう一人の巫女さんは窓口から顔を出して言った。 玉緋「・・・うぅー・・・・・・」 兎魄「そんなフウちゃんみたいに唸ってもダメよん。さぁ、頑張りましょ。」 頑張ると言っても今日は元旦、参拝客が途切れるということはまずない。 今日は悠麻の家に顔を出すことになっていたのだが・・・・・ この時期の神さま&巫女さんは忙し過ぎてとてもとても外出できる状況ではない。 こうしている間にも賽銭箱の方ではチャリンチャリン言っている。 玉緋「・・・はぁ・・・・・・・仕方ないか。トハク、今回は諦めよう・・・・」 参拝に来る人達のためにも仕事を放棄するわけにもゆくまい。 ゆっくり会って話せるのは久しぶりで楽しみにしていた分、ガッカリもする。 しかし、一方の卯の式は不思議と落胆する様子もない・・・・ 玉緋「どうした?」 兎魄「んふふ。ここで諦めるトハクちゃんじゃないわよぉん♪」 玉緋「・・・は?」 遼那「兎魄さん、準備出来ましたよ。」 何のことだと聞こうとするより早く、神社脇の更衣所から巫女さんの格好をした遼那、湊、淳が出てくる。 その後には辰の式、顛吼の姿もあった。 玉緋「?な、何で・・・・」 兎魄「そういえばギョクぴ〜帰って来たの去年の途中だったから知らなかったかしらん?」 蓬縁神社と霧島の家は共に四神の戦士達を支援するもの、いわば同士である。 その繋がりは昔から代々続いてきたもので何か行事がある時はかならず、その当主に協力してもらって来たものだ。 だから、玉緋も宗雲の代までのことは知っていたが、いかんせん空狐に昇格し神社を離れたのが十七年も昔になる。 当然、楓も玉緋もいない巫女さん分の足りない状況を打破するべく、毎年湊や淳が手伝いに来てくれていたことなど知るよしもなかった。 湊「よぉしっ、張り切っていこ〜♪」 淳「遼那ちゃんは初めてだったわよね、わからないことがあったら何でも聞いてね。」 遼那「はい、よろしくお願いします!」 湊は経験者・・・というか“昔”の本業だったからか、巫女装束を纏った姿はなかなか様になっている。 遼那の方は初めてということもあり少し緊張しているようでそれなりの初々しさが出ていた。(今日は髪を結ばずロングのままにしている。) 淳は数年のブランクがあるが、それを感じさせないほど着こなしが自然で本物同然のオーラが出ている。 このお正月の聖戦を戦い抜けられそうな援軍だった。 兎魄「テンコーくん、もうすぐゲンちゃんも来るわよん。」 顛吼「は、はぁ・・・しかし兎魄殿、主(湊の方)を働かせて私が何もしないのは・・・・」 湊「行っておいでよ。みんな一緒なのにひとりだけ行かないのってなんか寂しいって。」 兎魄「たしかに十二色の色鉛筆が一本でも欠けるとなんかこう残念な気分になるわよねん♪」 いや、その例えはどうかと・・・・ね。 辰正「いやー、眼福眼福。」 いつの間にか玉緋の横には辰正の姿があった。 なんかインスタントカメラを持ってパシャパシャやっている。 玉緋「なんでお前がいる。」 辰正「んー、今日は一日霧島さん家でメシ呼ばれてるんだがな。絢斗はずっと台所だし、慎坊はなんか昨日からいないみたいだし・・・テレビ見るのも飽きたから巫女さん拝みに来た。」 玉緋「帰れ。」 兎魄「まぁ、何にしてもこれで人手は十分ねんっ♪」 玉緋「ん?・・・・ちょと待て!代わりが出来たのはお前だけじゃないか!?」 今更気付いたところでもう遅い。 既にお迎えの巳の式、皎妍はやって来てしまっている。 皎妍「ハクちゃんいるかしらぁん。」 兎魄「あ、ゲンちゃん。・・・・じゃ、テンコーくん行くわよぉん。」 顛吼「も、申し訳ありません・・・・・」 湊「いってらっしゃ〜い。」 玉緋「ちょ、お前ら・・・・・」 皎妍「年末年始は神社も忙しいから大変ね、それじゃギョクぴ〜頑張ってねぇん。」 ・・・・・行ってしまった。 三人の巫女さん達は早速仕事に取り掛かりはじめる。 後に残されたのはぽかーんとした玉緋さんと働く巫女さんを堂々と撮影しまくるダメ親父だけだった。 玉緋「・・・・オレはー、涙を流さないー・・・だっだっだー・・御稲荷だからー、土地神だからー・・だっだっだー・・」 檬瑠「もう誰か来てるかな。」 あの後、兎魄から連絡が入りお昼過ぎくらいとは聞いていたのだが・・・・ 遼那も家にいないし待ちきれなくて早めに出発してしまった。 悠麻の家に続く道をひとりとことこ歩く檬瑠。 一月ということもあり外は寒いがクリスマスプレゼントに遼那から貰ったネズミ色のもふもふジャンバーがあるから平気だ。 檬瑠「みんなで集まるのも久しぶりだなぁ・・・」 蚩尤「よぉ、もう甲武様のとこ行ってるのか?」 檬瑠「あ、シユウ。」 暫く歩くと後の方から声がする。 振り返ると丑の式、蚩尤が駆けて来ていた。 今年は彼の年、正月早々縁起がいい人にあった。(ぇ 蚩尤「紗魅のやつ見なかったか?」 檬瑠「あれ、一緒じゃなかったの?」 蚩尤「あぁ、俺さっき出張から帰ったばかりなんだが家にいなかったんだ。」 檬瑠「あ、じゃあもう行ってるのかも・・・」 どのみち向こうで会うのだから先に進もうということで二人は歩き出す。 昔の旅の時の話や最近の保育園での話など様々な会話をしながら歩くのだが・・・ 歩幅がかなり違うので檬瑠は併走するのが大変そうだ。 蚩尤「んー・・・・あ、そういえば。」 檬瑠「どうしたの?」 急に立ち止まった蚩尤に檬瑠も立ち止まる。 蚩尤「よっと。」 檬瑠「わわっ!」 いきなり持ち上げられびっくりする檬瑠。 何かと思えば蚩尤のしっかりした肩の上に座っていた。 蚩尤「よく、こうやって肩車したよなぁー。懐かしい。」 檬瑠「そ、それはチョコやシャミだよ。」 蚩尤「そうだったか?まぁ、ついでだし甲武さまの家まで乗っけてってやるよ。」 檬瑠「・・・・うーん・・・・」 檬瑠「じゃあ・・お言葉に甘えようかな・・・・」 冢杏、紗魅はもちろん園児たちにも評判のシュ〜ちゃん肩車。 檬瑠も前々から乗ってみたかったりした。 実際乗ってみるとこれがどうしてなかなかよい乗り心地。 そんなこんなで檬瑠は予定よりも少し早く悠麻の家に到着した。 ピンポーン 檬瑠「あけましておめでとうございます。」 悠麻「明けましておめでとう。・・よく来てくれたな。檬瑠、蚩尤。」 蚩尤「明けましておめでとうございます、甲武様。」 親しき仲にも礼儀あり、まずはお正月の挨拶。 それが済むと悠麻は二人を笑顔で迎え入れた。 悠麻「寒かっただろう・・・さ、中に入ってくれ。」 《子》《丑》到着。 家の中に入った二人はだだっ広い和室に案内された。 まるで旅館の宴会場のような広さで空調もよく効いている。 檬瑠「あ、まだ誰も来てない・・・・」 悠麻「お前達が一番乗りだぞ。」 蚩尤「んー、家にも居なかったから先にいってるのかと思ったんだがなぁ・・」 ピンポーン 数分話をしているとチャイムの音が屋敷に響いた。 檬瑠「あ、シャミかも・・・・」 檬瑠は悠麻と一緒にお出迎えに玄関へ向かう。 ドアを開けると檬瑠の目線の高さには誰かの足があった。 見上げるとちょくちょく見かける顔があった。 絢斗「よぉ、明けましておめでとう。」 檬瑠「おめでとうございます。・・・でも、なんでケントが?」 絢斗「ちょっと頼まれものがあってな。届けに来たんだ。」 絢斗は丸い大きな寿司桶を抱えていた。 悠麻「わざわざすまんな。連絡をもらえれば取りにいったんだが・・・・」 絢斗「別にかまやしねぇって・・・暇だったし。しかし、こんなんでよかったのか?」 悠麻「あぁ。用意しようにもトメさんが里帰りしていて・・・」 絢斗「なるほ・・・・へっくしっ!・・うぅ、寒・・・・・」 悠麻「上がっていってくれ、ハーブティーを淹れよう。暖まるぞ。」 絢斗「・・・あー・・・そうさせてもらう。」 《寅》到着・・・・なのだろうか? 絢斗「おぉ、暖房効いてる効いてる。ウチじゃもったいなくてせいぜいコタツだからなぁ。」 絢斗はショ・ミーンのささやかな幸せに浸っていた。 さっきまで水仕事をしていたので余計にこの温かさが素敵に思えてくる。 檬瑠「そういえばフィナは昨日チョコのところにお泊りしてたよね。」 絢斗「あぁ、二人ともまだコタツで暴睡してるぜ。」 除夜の鐘を聴こうと二人して起きていたらしい。 そして、年越しそばを食べた直後やりきったという表情でそのまま果てたそうな。 絢斗「あ、でもそろそろ起こさないとな・・・」 檬瑠「じゃあ、モールが呼んでこようか?」 悠麻「いや、冢杏はなかなか起きないからな。紫苑に行ってもらおう。」 昔旅していた時も度々居眠りする冢杏を紫苑がよく起こしていたものだ。 起こせる確立はどの人間(式神)よりも高いだろう。 悠麻は庭の花に水やりをしていた紫苑に言って湊の家に向かってもらった。 絢斗「慎弥は昨日から出かけてるみてぇだし・・・遼那も湊も淳姉さんもどっか行ってていねぇし・・・ ・・・俺も新年会までここ居ようかなぁ。」 檬瑠「あ、ハルナ達今日は・・・・・・」 ピンポーン 話をしているとまたチャイムの音が屋敷に響いた。 兎魄「あけおめ〜♪」 顛吼「あ、明けましておめでとうございます・・」 皎妍「おけましておめでとぉ。」 《卯》《辰》《巳》到着。 絢斗「おぉ、顛吼。そういえばお前もいなかったな・・・どこいってたんだ?」 顛吼「今朝方から蓬え『スト〜ップ!(ぺしっ!)』・・・?」 顛吼がそれ以上何か言う前に兎魄はバッテンシールをその口に貼り付ける。 (どこから用意したんでしょうね・・・・) 顛吼「・・・む・・むぐ・・?」 兎魄「言っちゃったら面白くないでしょん♪」 絢斗「な、何の話っすか・・・?」 皎妍「うふふ・・・ナイショ。」 悠麻「・・・向こうで待っていてもよかったんだが・・・」 兎魄「いいのいいの♪人手は十分だから。」 ピンポーン まだ玄関近くにいる時、再びチャイムが鳴る。 奔霄「よっ、大将。あけましておめでとー。」 悠麻「明けましておめでとう。」 奔霄「ふぅ、余裕で間に合ったな・・・ま、俺が遅れるなんてありえねぇけど。」 《午》到着。 皎妍「あら珍し、てっきり最初に来るかと思ってたのに。」 奔霄「いやー、流石にちょっと遠かったぜ・・・・疲れたー・・」 檬瑠「どこか行ってたの?」 奔霄「あぁ、昨日の夜から北海道に・・・・ほい、お土産に獲れたてのカニ。今朝早くにあがったばかりだから新鮮だぜ。」 奔霄はニコニコしながら発泡スチロールの箱に入った大きな蟹を見せる。 それがとても立派なもので一同は思わず「おぉ。」と声を漏らした。 兎魄「わぉっ♪法師様ぁ、後で厨房借りるわねんっ♪」 悠麻「あぁ、好きに使ってくれ。」 ピンポーン 捺冕「すっかり遅くなっちゃったね。」 袁猩「ま、間に合ったぁ〜・・・・」 颯晴「まったく・・・・・」 《未》《申》《酉》到着。 捺冕「すっかり遅くなっちゃったね。」 袁猩「まぁ、間に合ったからいいじゃんいいじゃん。」 颯晴「まったく・・・・・」 悠麻「む、どうしたんだ?」 見ると三人とも衣服のあちらこちらに枯葉がついている。 捺冕「今日集まるのを袁猩君が忘れてたんですよ。探し回って大変でした。」 袁猩「いやー、ごめんごめん。」 颯晴「山の中に籠りきってるからこうなるんだ。」 檬瑠(まだ来ないのかなぁ・・・・) 紗魅が一向に来ないことに檬瑠はだんだん心配になってきた。 紗魅は結構さっぱりした性格だ。(悪く言えばおおざっぱ) もしや今日の新年会のことを忘れているのではないか。 だが連絡の取ろうにも家にいない以上方法がない。 こんなことなら待ち合わせして一緒に来ればよかった・・・・・・ ピンポーン 檬瑠「あっ!」 噂をすれば何とやらというし、もしかしたらとドアを開けると・・・・ フィナ「あけましておめでとうございますですぅ〜♪」 紫苑「主、フィナと冢杏を連れてきました。・・・・そういえばまだ言ってませんでしたね。明けましておめでとうございます。」 冢杏「・・・あけましておめでと〜・・・・むぅ、まだ眠いよぉ〜・・・」 《戌》《亥》到着。 身体が冷えているだろうと今来た全員に紅茶とお菓子を差し出し一息つく。 暫くして悠麻が動き出した。 悠麻「では、そろそろ出ようか。」 蚩尤「どこに行くんですか?」 悠麻「蓬縁神社だ。正月は神社も忙しいからな、こちらから顔を出しに行った方がいいだろう。」 皎妍「うふふ・・今頃ギョクぴ〜置いてかれたと思っていじけてるだろうから・・・みんなで押しかけたらきっとビックリするわねぇん。」 悠麻「・・・・言ってなかったのか?」 兎魄「だってそっちの方が面白いじゃない♪」 今日そういう話になっていたのを知っていたのはごく少数だけ。 連絡係の兎魄さんがプロデュースしたちょっとしたサプライズ企画だったわけだ。 檬瑠「あ、あの・・・まだシャミが・・・・」 悠麻「あぁ、紗魅なら先に行っているぞ。」 檬瑠「え?」 紗魅「あけましておめでと〜さん。」 蓬縁神社へ続く長い石段、その下したにはずらりと屋台が並んでいる。 その中の一つに紗魅のたこ焼きの屋台があった。 檬瑠「シャミ!」 紗魅「ん?どなんしたん?」 檬瑠「どなんって・・・ぜんぜん来ないから忘れてるのかと・・・・」 紗魅「いやいや、チョコちゃんとかフィナちゃんやないんやしそんな抜けてへんがな〜。」 紗魅が笑いながら毒を吐く。 冢杏「むぅ〜、心外だなぁ〜。」(ギリギリまで寝てましたその1) フィナ「しんがいですぅ〜。」(ギリギリまで寝てましたその2) だが、この場合あながち間違いではなかったようだ。(ぉ 紗魅「まぁまぁ、おいといて・・・・・ショ〜ちゃん、例のものは〜?」 奔霄「ほいよ。頼まれてた品だ。」 紗魅「おぉ、これやこれ♪」 紗魅はその小包を明けると手際よく調理を始める。 細かく切ったそれを生地に入れて鉄板で焼き、タコを入れ手際よくひっくり返しキレイな丸を作ってゆく。 お皿に乗せソース、カツオ節、そしてとろ〜り溶けた例の品をかけたら出来上がり。 紗魅「テレレレッレッレ〜♪シャ〜ミン特製すぺしゃるたこ焼き〜♪」(だみ声) 某猫型ロボット(旧式)の真似をしながら紗魅は出来立てホヤホヤのそれを差し出した。 紗魅「ほい、モ〜ルン。どうぞ、召し上がれ♪」 檬瑠「あ・・・これ・・・・」 とてもいい匂い・・・・わかる、これはただのたこ焼きではない。 実は奔霄に頼んで北海道から取り寄せた産地直送チーズ使用の“すぺしゃるば〜じょん”だったのだ。 檬瑠「・・・わぁ・・おいしい!」 紗魅「そうやろそうやろ〜。」 うんうん頷きながら紗魅が言う。 ここ数日チーズ(檬瑠の大好物)にあう生地を試行錯誤して作っていたらしい。 流石に屋台を悠麻の家へ持っていくのはどうかと思って直接電話したところどのみちここに来るというのでここで待っていたのだ 檬瑠「あっ、言ってた準備ってこれの・・・・」 紗魅「まぁな。ウチからのお年玉ってことで・・・・去年はいろいろお世話になりましたさかい。」 檬瑠「シャミ・・・・ありがとう。」 紗魅「そんなええって。・・・何はともあれ今年もよろしゅうな(はぁと)」 檬瑠「うん!」 《猫》、もとい《寅》到着。 そして、ここにようやく十二式(+わん)が集結した。 人数もそろい、みんなでぞろぞろと石段を昇り神社へと足を踏み入れる。 丁度お昼頃の時間帯で朝に比べると参拝客達も少なくなってきていた。 「お守りは300円になります。はい、ありがとうございました。」 絢斗「ん?」 神社に入ってすぐのところ、売り場の方で聞き慣れた声がした。 悠麻「どうした?」 絢斗「あぁ、いや・・・・ちょっと先行っててくれ。」 悠麻と十三人の式には先に行ってもらい絢斗は声のした方へと歩く。 (去ってゆく兎魄と皎妍がニヤニヤクスクスと笑っていたのが少し気になったが・・・) するとやっぱりそこでよく見知った人物が売り子をしていた。 遼那「はい、こちらのキーホルダーをお二つですね。」 絢斗「うぉっ!?遼那!?」 遼那「あ、絢斗。」 兎魄が秘密にしていたのはこれかとようやく分かった それにしてもあの人達周りの人で遊ぶのが好きだなぁ・・・・ 絢斗「しかし、驚いた・・・・・」 遼那「変かな・・・・」 絢斗「い、いや!その・・・似合ってる・・・」 というかストライクど真ん中過ぎてどうしよう。 自分には巫女さん属性はないと思っていたが、これがまたなんとも・・・ 記憶にはほとんど残っていないが微かに感じる似た雰囲気に惹き付けられるような感覚がする。 どこの光源氏だお前は(ぉ 絢斗「マテマテ、俺は別にマザコンとかそんなんじゃない。」 遼那「マザ・・・?」 絢斗「っ!?あ、いやいやいやいや、なんでもない。・・・・・・お、おみくじでもするかな。」 遼那「はい、棚の番号を選んでね。」 絢斗「あー、それじゃ・・・」 適当に番号を選ぶとその棚から遼那がおみくじを取り出して絢斗に手渡す。 絢斗「えーっと・・・『四凶』・・・・・・・・四凶!?!?!?」 そして絢斗がその場でおみくじを開けると遼那の方もどれどれと覗き込む。 遼那「えぇっと。《健康運(×)疲労が四割り増しになるぞ。ゲェッヒッヒ!》、《仕事運(×)損な役回りが回ってきそうだなぁ。ヒャッハッハ!》、《勉強運(×)勉強?何だソレは、ウマイのか?ガッハッハ!》、《金運(×)そんなに欲しければ鋼の刃をくれてやろう。カッカッカ!》・・・・・・・・だって、あ、でも他は・・・」 絢斗「・・・・・・」ダッ!! 遼那「あっ・・・」 超速効で厄払い用の木へ走る絢斗。 鬼気迫る様子で枝にそのおみくじを何重にも何重にも結びつける。 そして戻って来るまでの間はわずか10秒。 絢斗「はぁ・・・はぁ・・・!!誰だあんな不吉なおみくじ作ったのはぁああああああ!!!!」 湊「へっくち!」 他の売り場にいた湊が小さくくしゃみをする。 湊「むぅ、風邪引いたかなぁ。でも毎年これが終わったらお汁粉出るんだよねぇ〜♪頑張ろ〜♪」 湊はフンフンと鼻歌まじりでお仕事に戻った。 絢斗「正月早々なんつうもん引いちまったんだ俺は・・・・」 遼那「・・・・・もう。」 《恋愛運(◎)愛があれば何でも出来る!元気ですかぁ!》 絢斗の方はよく見ずに括り付けてしまったようだが遼那はちゃんと最後まで目を通していた。 四凶ってだけあって四つは最悪だが、もう一つはそれに反比例するようにちょっといい感じだったのだ。 遼那(そそっかしいんだからぁ・・・・・・ふふ。) 遼那「ほら、元気だして。おみくじなんて当たるも八卦当たらぬも八卦なんだから。」 絢斗「そ、そうだな・・・」 みんなも@、A、B、C、Dの棚からおみくじ選んでみよう。 その他の番号なんて選んじゃ駄目だからねっ! あんたの為に用意した特別なおみくじなんて全然ないんだからっ! 「んふふ〜、ビックリしたでしょう♪」 「まったく・・・・悪戯好きというのはオレよりお前らの方が相応しい気がしてきた・・・」 絢斗「お・・・」 心身ともに疲れきったようにうなだれて歩く巫女さんを囲んで悠麻達が帰って来た。 その人には以前絢斗も会ったことがある。 絢斗「よう、確か祭りのときあったっけ。」 玉緋「・・そうだな。」 悠麻「そういえば紹介がまだだったな。」 玉緋「コホンッ・・・」 悠麻に言われると小さく一回咳払いをし、出来るだけ威厳を持って言った。 玉緋「空狐玉緋だ。このあたりを管理している。」 今は人の姿をしているが一応は神さま、すっごく偉いのです。 仲間(年長コンビ)から弄られまくってる様子からはとても想像できないが・・・ 遼那「あ、大蛇の時助けてくれたのって・・・」 悠麻「あぁ、《影月》は玉緋の術だ。」 絢斗「ふーん、あんただったのか。」 玉緋「フフフ、驚いただろう?」 ちょっと楽しそうに玉緋が言う。 最近はめったに人を化かさないので嬉しいのだろう。 絢斗「まぁ、家の油揚げがいつもなくなってるのはあんたの仕業って分かったのには驚いたな。」 玉緋「なっ・・・・え?」 辰正「へー、知ってたのか。お前。」 絢斗「まぁな・・・って、うわっ、親父!?湊ん家にいるんじゃなかったのかよ!?何でいる・・・」 某天然外道のお姉さんのように気配もさせず急に登場する親父。 するとこのダメ親父はえっへんと胸を張って答える。 辰正「何故いるかだと?愚問だな息子よ・・・・何を隠そう俺は巫女さんの達人だ!!あ、着せるのは別に上手くもないんだが脱がせるのなら『ガンッ!!!!』・・・っ!!?!?」バタッ 突如突風が吹き荒れ、御神木のごく太の枝が折れ、ありえないスピードで飛んで来て直撃。 そのままダメ親父をノックダウンした。 絢斗「・・・・・とりあえず、遼那。親父に近づかないように。あとで湊と淳姉さんにも言っといてくれ・・・」 遼那「う、うん・・・・・・」 苦笑いの遼那。 タキシードの仮面の人よろしく今まで影ながら助けていた仮面道士。 その中の人がまさかこんなのだったとは・・(ぉ 悠麻「・・・・大丈夫ですか?」 辰正「ぐぉぉぉぉぉぉ・・・・・」 絢斗「これに懲りたら少しは大人しくしてるんだな。」 玉緋(お盆でもないのに・・・・流石といったところか・・・・) 頭を抱えて悶絶している親父は別にどうでもいいので放っておくにして・・・・ 兎魄「そろそろお昼にしましょうかしらねん。」 玉緋「ん、もうそんな時間か・・・・オレはいいからお前らで行って来い。」 時刻はもうお昼を回っている。 そろそろ昼食の時間だが・・・いつお参りする人が来るかわからないので玉緋は外に出られない。 悠麻「・・・・・絢斗。」 絢斗「あ、そういや差し入れあったんだ。ほら。」 玉緋「ん?・・・・・・っ!?」 そう言って絢斗が取り出したのは大きめの寿司桶。 風呂敷を取ると中には狐色の楕円形のモノがぎっしり詰まっていた。 ピクッ!! 玉緋「おおっ!!」 興奮のあまり玉緋は飛び出した銀色の狐耳をパタパタさせている。 それは以前食べたことのある特別な稲荷寿司。 そぼろやタマゴなどを混ぜ込んだ五目飯を特製タレに漬け込んだ甘辛アゲでつつんだ豪華版だ。 玉緋「これは坊主がか?」 絢斗「あぁ、材料は悠麻に持ってきて貰ったから俺はつくっただけだぜ。」 悠麻「年末年始の神社の忙しさは知っている、外には出れないだろうと思ってな。」 玉緋「し・・ししょぉ・・・・(うるうる)」 本日心身ともにお疲れの玉緋さん。 ムチばっかり喰らってたところに突然アメを与えられたもんだから 普段絶対流さないような目幅の涙を流して感動していた。 絢斗「冷めるもんじゃねぇけど。早めに食った方がいいぞ。」 玉緋「あ、あぁ・・・・すまんな・・・」 寿司桶を受け・・・・・取ろうとした瞬間だった。 ゴォオオオオオオオオ!! 玉緋「っ!?」 バチッと一瞬妙な気がしたと思うとこちらの方に大きな赤い影と白い影が走って来た。 絢斗「のわっ!?」 それは玉緋と絢斗の間を乱暴に駆け抜ける。 二人はギリギリのところでそれを回避した。 玉緋「・・・・なっ、あいつらは・・・・・!!」 玉緋は今通り過ぎて行ったものに見覚えのあった。 しかし、いったいどうしてあれが出てきたのだろうか・・・・ 嫌な予感がした。 絢斗「・・・っ!?ぎゃあああああ!!!」 思っていた矢先にすぐ近くで悲鳴が起きた。 玉緋「どうした!?」 絢斗「今ので寿司の桶ぶっ飛ばされちまった!!」 玉緋「・・・・・・・・・」 玉緋「なにぃいいいいいいいいいいいい!?!?!?!?!?!?」 その声は町内中に響き渡ったという・・・・・・・・後半へ続く |
青嵐昇華
2009年01月02日(金) 20時57分03秒 公開 ■この作品の著作権は青嵐昇華さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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