| 仮面ライダーイズモ〜第二章「アンバランスなデートして」〜 |
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どうも。はじめましての方ははじめまして。その他の方はお久しぶりです。“プシュケー”です。 本名は天原夢芽（あまはらゆめ）というのですけれども、今は訳あって、そう名乗っています。 “プシュケー”ってなんぞ、という方もいらっしゃると思われるので、説明しますと、 元々の意味は、ギリシア語で“心”とか、“魂”とかそんな感じで、ローマ字で書くと“psyche”。“サイケ”という言葉の語源という説もあるらしいです。 サイケ、と聞くと、イっちゃってる人っぽいですが、内面はいたって普通の少女です。 外見は、少しばかりアレですが……。 おっと、誤解しないで下さい。これは私の容姿が残念という意味ではありません。 自分で言うのもアレですが、結構可愛いと思います。 体付きは、その、ちょっとばかり貧相かもしれませんが、成長期なのでこれからに期待です。 伸びしろは十分にあります。あるに決まってます！ あい・びりーぶ・いん・ふゅーちゃー。信じてます！ と、自己紹介はこんなところにしておきましょうか。 それで、今、私が何をしているかといいますと。 「どうしたよ、プシュケーちゃん。ぼーっとなんかして」 そう、隣を歩く男性が低い声で尋ねてきました。 彼の名前は草薙龍人（くさなぎりゅうと）さん。ファントムさん曰く、極度のロリコンで危険人物らしいです。 ※ちなみにファントムさんは“変態仮面野郎”で、一応、私の保護者です。 私は考え事をしていただけです、と笑いました。 今、何をしているか？ それは俗に言う“デート”というやつです。 ここで、またまた誤解してはいけないのは、別に私は、草薙さんに恋愛感情を抱いている訳ではないということです。 さらに誤解してはいけないのは、「べ、べつに、草薙さんのことが好きなわけじゃないんだから！」 という、いわゆる“ツンデレ”なるものではないということです。 ツンデレなんて都合のいい幻想です。現実を踏みしめ、果てしない未来へと手を伸ばして下さい。 では、なぜ私がデートをしているのか？ それは数週間前に起こった“とある事件”を解決する際、草薙さんの力をお借りしたので、 何かお礼できることはないかとお聞きしたところ、私とデートしたいという回答が返ってきたからです。 そんなことでしたらと、別に減るものでもないのでOKしたわけです。 もっとも、ファントムさんは危険だと抗議してきましたが……。 おそらく邪魔をしてきそうなので、予防線を張ろうとしましたが、 先日、ファントムさんが、予約購入したPCゲーム『魔法使いI惨』なるものをプレイして以来、抜け殻のようになってしまいました。 ……よっぽどひどいゲームだったのでしょうか？ と、まあそんなわけで、私たちは市街の中心部でデートをしていました。 「なあ、よかったのかい？ プシュケーちゃん。俺なんかの誘いに付いて来ちゃってさ」 そう、どこかばつが悪そうな顔で尋ねてきます。 いやがる私を無理矢理連れ回しているのでは、とでも思っているのでしょうか？ もし、そうだとしたら、それは大間違いです。 “この能力”を手にしてから、私はもう、非日常の世界でしか、生きることが出来ないと思っていました。 ですが、ファントムさんは路頭を迷う私を拾い、日常を生きられるよう計らってくれました。 この草薙さんもそうです。二人とも、私の秘密を知った上でなお、普通の少女として扱ってくれます。 ですから、私はちっとも嫌ではありません。むしろ嬉しい限りです。 草薙さんを安心させるべく、笑顔でそんなことはない、と否定しようとしたその時でした。 「俺は、ロリだって平気で喰っちまうような男だぜ！」 「なあっ！？」 サムズアップし、満面の笑みを浮かべながら口にした、先ほどの美談を徹底的にぶちこわしやがった言葉に、私は絶句しました。 今、この男が言いやがりました言葉を反芻します。 “私を喰う”。それは、食料的な意味？ それとも性――。 「――ひっ！！」 そこで、私の思考は停止し、脳内で警鐘が鳴り響き、生理的恐怖から総毛立ちます。 マズいです！ やばいです！ オトメクライシスです！！ 危険な男が手を伸ばせば届く場所にいるだけに、クライシスビートが止まりません。 不覚です。ファントムさんの忠告に耳を傾けるべきでした。 「冗談だよ、冗談」 危険を感じたハリネズミのように身を固くする私に、くつくつと笑いながら草薙さんが言います。 私をからかっていたということでしょうか？ いえ、油断は出来ません。 守ってくれる存在がいない今、自分の操は自分で守らねばならないのですから。 この草薙龍人という男を、危険人物リスト“変態項”に書き込んでおきましょう。 場所はファントムさんと同列。変態度Sの場所に。 「そんな恐い顔しなさんな。可愛いお顔が台無しだぜ。あれかい？ お腹が減ったのか？ だったらもうちょっと待ってな。もうすぐ、“良い店”に着くから」 「良い店？ そこはどのような店ですか？」 先ほどの事もあって、やや刺々しく尋ねます。 行き先がどこか、確認する必要があります。いかがわしい場所に連れ込もうとするものなら―― 「ああ、それは、ラブ――」 と、そこまで耳に入ったところで、私は渾身のローキックを放ちました――が。 「――痛ッ！」 逆に蹴りを放った私がダメージを受けてしまいました。 まるで、岩のような堅さです。 「スマン。あまりにもプシュケーちゃんのローが鋭いから、いつもの癖でカットしちまった」 ポリポリと、頬を掻きながら草薙さんが謝罪の言葉を口にし、 「それにしても、なんでいきなり蹴りを？」 首を傾げ、そんなふざけたことを言いやがりました。 「あなたがふざけた事を言ったからです！！」 鈍い痛みに涙目になりながら、激昂します。 「何か変なこと言ったか、俺？」 「言いました！ もう一度、先ほどの卑猥な台詞を反芻してみて下さい」 あくまでとぼけるつもりでしょうか？ 最低な男です。 さあ、先ほどの続きを言いやがりなさい。 言ったが最後、次は“アレ”を狙います。 いかに、草薙さんが格闘技に優れているとて、あの琉球空手の技法までは習得していないでしょう。 たとえそれが、私の乙女心を傷つけてしまうことになろうとも、私は一歩も引きません！ 覚悟を決め、殺気を込めて睨み付けると、草薙さんは口を開き、 「ラブラブカップルで賑わう、最近出来た喫茶店」 と、言いました――あれ？ 「へ？」 思わず、そんな間抜けな声が漏れます。 「俺、モテないから。せめてデートの時くらい、そういう気分に浸りたくてさ……」 草薙さんが、哀愁を漂わせながら力なく笑います。 その目には一粒の涙が……。 なんといいますか。罪悪感が私の心を苛みます。 「え、あの、その……」 どうしましょう。かける言葉が見つかりません。 「だよなあ。大の男が、自分より一回り下の娘を連れ回して恋人気分を味わおうだなんて、情けねえよなあ」 暗いです。負のオーラが見えます。このままでは自殺しかねません。 ど、どうしましょう。こんな時、いったいどうすればいいのでしょうか？ 「あっ！」 私はあることを閃きました。ですが、これは……。 これを実行すれば、私の大事な何かが音を立てて崩れてしまうことになるやもしれません。 ですが、これは草薙さんを疑ってしまった私の失態です。 多少の無茶は承知の上です。 ごくり、とつばを飲み込み、大きく深呼吸をし、そして、 「そんなことないよぉ。プシュケー、そこに行きたぁい。早く行こう。おにいちゃん」 と、言いました。 ええ、言いましたとも。 一人称が自分の名前とか――ぶん殴りたくなりますね。 「うおおおおおおおおっ！！」 私がそう言うと、草薙さんは咆哮し、天に拳を突き上げました。 「わわ、びっくりしたじゃない。おどろかせないでよぉ、おにいちゃん」 わわ、ですって。何と痛々しい台詞でしょうか。 自分の口が発しているとはとても信じられません。 「ご、ごめんな。プシュケーちゃん」 「うんうん。気にしないで。ちょおっとびっくりしただけ。ぜんぜん平気だよ♪」 歯の浮くような猫なで声が、自然と口から紡ぎ出されています。 不覚にも、ファントムさんが持っているギャルゲーにはまってしまったばかりに、そういった台詞がポンポンと思いついてしまいます。 仕方ないじゃないですか、最近のギャルゲーは話が凝っていて、普通にサウンドノベルとして楽しめるんですから。 「だからぁ、気にしちゃあ、めっ！ はやくそのお店に行こう。おにいちゃん♪」 そう言って、草薙さんの腕にしがみつく私。……もはや救いようもありませんね。 「応！ 楽しみにしといてくれ。“おにいちゃん”が何でもおごっちゃる！」 「やったあ！ プシュケー、ちょーたのしみー♪」 「ところでプシュケーちゃん？」 「なあに？」 「んで、さっきの台詞のどのへんが卑猥なんだ？」 「…………！？」 そこに戻りますか！？ 「えっと。それは……」 マズいです！ 本当のことを言えば私、何でもすぐにエロ方向に結びつける、いやらしい子だと思われてしまいます。 ただでさえ、ファントムさんという変態とつるむことが多いだけに、同類だと思われる危険性があるというのに。 もし、キャラ設定に“実はエロい”とでも追加されたら、設定更新の遅さも相まって、しばらくの間、ウソ設定が放置されることになります。 そうなってしまったら、目も当てられません。 「えっと、それは……あっ！ そうだ！！ ねえ、おにいちゃん。そのお店ってなにがおいしいの？」 「……ん？ その店はパフェが人気らしいぜ」 「えっ！？ ホント！ 私、パフェ大好きなの♪ 早く行こう！」 「おいおい、そんなに引っ張るなよ。はははっ」 強引ですが、話題を逸らすことに成功したようです。 このまま、上手いこと誘導し、後はごり押しで忘れさせることにしましょう。 それにしても、デートというものは軽はずみで受けるようなものではありませんね。勉強になりました。はあ……。 ◆ なんだかんだで喫茶店に着いたわけですが、それにしても、異様に疲れました。 慣れない敬語を使い続けると、疲れるという話を聞きますが、慣れない“妹キャラ語” ※造語：ギャルゲー等に出てくる、ロリ系妹キャラが使用する言語。 をリアルで使用した場合はその比ではないのですね。 ホント、声優さんはすごいと思った今日この頃。私は可愛らしい制服のウェイトレスさんに案内された直後、即行で椅子にへばりつきました。 草薙さんがなにやら注文をしていますが、まるで耳に入ってきません。 もう、完全にグロッキー状態です。 あまりの疲労に、私は気付きませんでした。 自分が今、最大のミスを犯してしまったことに。 今はまだ――――。 ◆ 「お待たせ致しました」 そう言って、ドン、とテーブルに置かれた“物体”に、私は目が点になりました。 「なんです、これ？」 理解の範疇を超えたものを眼前に突きつけられ、口調が妹キャラ語から普段のものへと変わっていることに気付かないほどに、それはあまりにも衝撃的でした。 「ん？ 何って、“パフェ”だけど」 「パフェ？」 「そう、パフェ。語源は、フランス語のパルフェ」 「はあ」 「カトレアちゃんは俺の嫁」 「ファントムさんは、里伽子さんが嫁だと言っていました」 思考が働かず、ずれたツッコミとなってしまいます。 “それ”は、パフェというには、あまりにも巨大すぎました。 私の顔くらいはあるんじゃないかという大きさのグラスに、伸ばし棒のようなソフトクリームが注がれ、 その下には何層にも渡って、フルーツやらフレークやらヨーグルトやらが化石のように埋まっています。 「さすがに、二人で食べるには多すぎやしませんか？」 そう、尋ねると、 「いや、それプシュケーちゃんの分だぜ」 「はい？」 思わず耳を疑いました。 イマ、コノヒトハ、ナントイッタノデスカ？ 「いや、こいつはプシュケーちゃんの分。パフェ、好きなんだろう？ 遠慮せず、好きなだけ食いな」 草薙さんが長めの犬歯をむき出しにしながら、大口を弓にして笑います。 たしかに、パフェは好きです。時としてメフィストフェレスとなりますが……。 あの野郎ときましたら、文字通り、甘い誘惑で私を誑かすんです。 それでもって、幸福の代償として私に、カロリーという絶望を――ひいぃ！ 目の前のそれは、美味しいとかカロリーとかそういったものとは別次元の存在です。 なんといいますか、漂う冷気が、私に恐怖すら与えます。 こんな異形の怪物を私に食せと！？ 冗談じゃありません！ これをペロリと食べられる女子がいるとしたら、見てみたいものです。 ◆ 「――くしゅん！」 「光ちゃん、風邪？」 「うんうん、違うよ。あ！ そうそう、詠美ちゃん。最近出来た喫茶店のパフェが――」 「ひ、ひいぃ！」 ◆ 「えっと、これはさすがに一人じゃあ……」 身の危険を感じ、丁重にお断りしようとしたその時でした。 「お待たせ致しました」 そんな声が耳に入り、ドスンという重い音ともに、さらにあり得ないものがテーブル上に出現しました。 「…………」 私は言葉を失いました。 “これ”の放つ存在感は、先ほどのパフェなど、「雑魚にすぎん！」と言わんばかりのものでした。 漂う冷気も比ではありません。 先ほどのパフェが『青龍』だとするならば、これは氷系能力最上位の妖怪『呪氷使い』の『凍矢さん』です。 『魔闘凍霊拳』など、『魔笛霰弾射』の前ではとてもとても。ふう……。 ハッ！ いけません。現実逃避していました。 出現した物体は、“氷塊”でした。 ……そうとしか表現できません。 一体、この氷塊をどうするのでしょうか？ あれでしょうか？ 武道の達人である草薙さんが、今から試し割りを披露してくださるのでしょうか？ それとも、どこぞの提督のように、防衛システムを破壊するのに利用するのでしょうか？ そんな意味不明なことしか思いつかないほど、私は壊れていました。 「あのう。それ、どうするつもりですか？」 おそるおそる、氷塊の用途について尋ねると、 「はあ？ んなもん、食うにきまってんじゃねえか」 「へ？」 食う？ 食べるというのですか、これを？ 人間の食べ物だったんですか、これ。 「あの、それは何なのですか？」 「何って。かき氷だけど」 「はあ！？」 しれっと、なに当然なこと聞いてんだこいつ、みたいな目で、私を見ながら草薙さんが言います。 ……私がおかしいのでしょうか？ ゼントラーディ語で言えば、『デカルチャー』です。 目を点にし、すっかりおいてけぼりな私を無視し、草薙さんが、赤い液体を氷塊の上にドバドバと掛けていました。 おそらく、イチゴシロップでしょうね。 そしてさらにその上から、胸焼けがしそうなくらい大量のコンデンスミルクを掛け、大きなスプーンを握りしめ、 「いっただっきまあす！！」 それを氷塊へと突き刺しました。 ◆ 目の前で起こっていることが信じられませんでした。 氷塊が物凄いスピードで、見る見る内に消えていくんです。 あの巨大な塊が、草薙さんの右手で煌めくスプーンによって掘削され、大口に次々と放り込まれていくんです。 止まりません。草薙さんの手が、口が。勢いが全く衰えません。 アイスクリーム頭痛？ なにそれ？ 美味しそう。といった具合に。 機械のように淡々と、黙々と、それでいて速く、美味しそうに。 満面のような笑みを浮かべたまま、氷塊を食していきます。 ありえません。わずか十数分であの氷塊が消えてしまいました。 「ふう、美味かった！ あれ？ なんだよ。全然食べてないじゃんか？ 遠慮しなくていいんだぜ」 そう言って、私に食べるよう促してきますが。あの怪物じみた食べっぷりに、 二、三口にしたところでお腹いっぱいになって――むしろ具合悪くなってしまいました。 「あの、私は小食なんです」 「いかんなあ。もっと食べなきゃ、おっきくなれないぜ」 私の身体を値踏みするように視線を上下させ（特に胸付近を注視し）、草薙さんが言います。 普段でしたら、余計なお世話です！ とDDTでもかましてやりたいところですが、 今回はそんな気など、これっぽっちも起きません。 「こんなに苦しいのなら、胸などいらぬ！！」って感じです。 ……ウソです。おっきくなりたいです。 「そんな顔すんなって。しゃあねえなあ。じゃあ、俺が食ってやんよ」 そう言って、草薙さんは私が食べていたパフェを自分の方へと寄せました。 ……そんなに露骨に嫌な顔をしてしまっていたのでしょうか？ あまりに規格外のものだったとはいえ、せっかく奢って下さったものを無下に扱ってしまったわけで若干心が痛みます。 それに、せっかくのデートなのに、楽しそうにしていないわけですから。 やっぱり、もうちょっとだけ貰おうかなあ、と思い、スプーンを取ろうとした時でした。 「あれ？」 手元に置いたと思っていたのですが、そこには何もありませんでした。 変ですね？ 一体、どこに置いたんでしたっけ？ 目を閉じて、ううん、と唸り、記憶を辿っていきます。 ええと、確か――ハッ！ 思い出しました！ 私の記憶が確かならスプーンは……。 バッ、と勢いよく正面を見ます。 そこにあるのは、彫りの深い、大味な草薙さんの顔。 その一部、拳が余裕では入りそうな大口に咥えられた――私のスプーン！！ つまり、それの意味するものは――。 私と草薙さんの視線が交差し、 「フヒヒwww 間接ちゅー」 「――――――っ！？」 瞬間。私の顔に熱がどんどん溜まっていくのを感じ、 「こ、の……へんたいっ！！」 無意識に、草薙さんの顔面へと拳を叩き込んでいました。 ◆ 「ふっ……、さすがはプシュケーちゃんだぜ」 洗面所で、鼻にティッシュを突っ込みながら、顔やら服やらに付いたアイスやヨーグルトを拭いながら、龍人は思う。 ――実に良いパンチだったと。 あの体勢で、伸びのあるストレートを出せるプシュケーの技量には、恐ろしさすら感じる。 これに、“重さ”が加われば、一体、どれほどのものになるだろうか……。 ムチムチロリ巨乳になったプシュケーを想像し、もう片方の鼻穴から血を垂らす。 ティッシュをもう片方の鼻に突っ込みつつさらに思う。 ――それではいけないと。 プシュケーちゃんはちんまくて、ぺったんこであるからこそいいのだ。いや、そうでなければならない。 と、プシュケーの裡に秘めた、ほのかな思いを打ち砕くようなことを思考する。 ここで誤解してはいけないことがある。 それは、決して、プシュケーの幼児体型に“萌え”の感情を抱いている訳ではないということだ。 ならば何に萌えるのか――龍人は思う。 「はあはあ、はあはあ」 ……両の鼻穴がふさがっているので口呼吸になっているだけである。他意はない。 自分は、つるぺたに萌える訳ではない。つるぺたな女の子が、体型の事を指摘され、 「う、うるさい！」などとムキになって怒ったり、「やっぱり大きい方がいいのかなあ」などと気にしたりするのに萌えるのだ。 どこぞの人間と魔族のハーフのように、貧乳は希少価値などと言って、 堂々と振る舞うなど、愚の骨頂である。 さらに言うならば、先ほどのような、照れや恥ずかしさのあまり、すぐに真っ赤になる姿は「最高だった！」と声を大にして言いたいものだ。 そう。あのような照れ隠しの一撃を甘んじて受けることこそ、男のロマン。 男児の本懐と言っても過言ではないと思う。 「ま、なんにせよ、あの子が、“夢芽ちゃん”が元気になってよかったわ。 “あの時”はどうなる事かと思ったけどな」 龍人は思いを馳せる。プシュケーとの“天原夢芽”という少女との出会いに。 「もう、“あの時”のように暴走することは――」 『本当に“無い”と言えるのか？』 低い男声が響く。 ここには龍人以外にだれもいない。 否、居る。 たった一つ“龍人の中”に居る。名は―― 「よう。ホント、嫌味ったらしいことしか言わねえし、変なときしか現れねえのな。お前って奴ぁよ。『オロチ』」 居る。『オロチ』という存在が、龍人の肉体と精神を糧に生きている。 『あの怪異はクサナギ、お前の愛する人間を――』 「黙れ！！」 『操り、壊し、そして――』 「黙れと言ってるぞ。オロチ」 低く、威圧的な声で草薙は言う。 「確かに夢芽ちゃんは危険だ。かなり“やべえ能力”をもってやがる。 一瞬で千。万。その気になりゃあ、億単位の人間を殺せるくれえ、やべえのをな。 しかも、夢芽ちゃんは不安定。いつ暴発するかわかんねえ。 もし、危険だと判断したら、夢芽ちゃんは俺が――」 一拍の呼吸。 「殺す――とでも言うと思ったか？ ふざけろ！！ オロチ、俺はお前に言ったな。この世に『正義』も『悪』もない。『わがまま』だけで出来ているってな。 可愛い女の子をぶっ殺して得られる平和ってのは『正義』か？ 可愛い女の子を見捨てないのは『悪』か？ んなもん知るか。答えなんざあ、ハナからねえんだよ。 だから俺はやりたいようにやる。夢芽ちゃんは殺さない。平和も守る。 わがままを――『意地』を通させてもらうぜ」 『綺麗事だな』 「何度も言わすな。なっちまえば綺麗事じゃあなくなるんだよ」 『ふん。ならば好きにしろ。そして絶望するがいい。貴様の理想が崩れ去るのが先か、 我が貴様を喰らうのが先か。楽しみだな』 くつくつとオロチは嗤う。 「言ってろ。せいぜいあがいてやんよ。それがたとえ、神様が決めたことだとしても、 俺は絶対退かねえ。抗ってやる。神様に喧嘩売ってやるよ」 拳を握り、龍人は言う。 オロチの声はもう聞こえない。 くしゃくしゃと髪を掻き、ふう、と重い息を吐く。 「……ったく、憧れのヒーローってなあ、裏じゃあ結構キツいもんだな。 まあ、子供に夢を与えんのがヒーローの役目だ。そういうドライなのは映さねえもんか。 まあ――」 口を弓にして犬歯をむき出させ、龍人は言う。 「それを全部可能にすんのが、ヒーローだけどな」 ◆ 「おまたせ、プシュケーちゃん」 ――沈黙。 ただ黙って刺々しい視線を送るプシュケーに、龍人は苦笑する。 「別に、全く怒っていませんよ。私は」 だいぶ怒っているな、と龍人は思う。 プシュケーの目は全く笑っていない。むしろ殺気を放っている。 「悪い悪い。今度改めてまた、デートに誘うから許してくれ――」 「…………」 「……ませんね」 テーブルに肘をつき、ガンを飛ばすプシュケーに、龍人の声が尻すぼみになる。 「……と、……ティー」 「はい？」 「アップルパイとレモンティー。それで今回は“とくべつに”許してあげましょう」 「は、ははあ」 “とくべつに”の部分を強調した高圧的な声に、龍人がひれ伏す。 そして、さっと手を挙げ、ウェイトレスを呼び、 「アップルパイとレモンティーをキングサイズ――」 ガツン、という音をたて、スプーンの柄がテーブルに突き立つ。 そのスプーンが、龍人の右目を指し、 「抉りますよ」 「すみません。ノーマルサイズで！」 ぼそり、とプシュケーの口から出た言葉に、龍人は戦慄し、即座に訂正する。 引きつった笑みを浮かべ、注文を繰り返すウェイトレスの声は龍人の耳には入っていない。 プシュケーの目は本気であったと、龍人は確信する。 そして、もし、今度ふざけたら、スプーン一杯分のグロテスクな目に遭うことは間違いないだろうと、本能的に理解する。 「くわばらくわばらっと。なあ、プシュケーちゃん」 「……なんですか？」 「……頼むから機嫌直してくれよ。ごほん、こっからはちょっちシリアスだ。 いや、今度はマジ。そのジト目は勘弁してくれ。 ええとだなあ。『ラドクリア』に、何か動きはあるか？」 一瞬、プシュケーの顔に驚きが浮かぶ。だが、すぐ元の表情に戻り、答える。 「詳しい事はまだわかりませんが、怪物を一体生み出したとのことです」 「怪物？」 オウム返しに龍人が問う。 「はい。これも詳しい事はわかりませんが、ファントムさんの話では、『ハルピュイア』だそうです」 「ハルピュイア？ なんじゃそりゃあ？」 龍人の疑問に、ええと、と前置きしプシュケーが答える。 「私もあまり詳しくないのですが。ギリシア神話に出てくる、顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が鳥の怪物のことです」 「ほう。今度は鳥さんか。そいつはやりにくいなあ。相手が空の上に居たんじゃあ。攻撃しようがねえし」 「草薙さんの場合、相手が女だからやりにくいんじゃないですか？」 プシュケーの皮肉に、頬を掻きながら龍人は苦笑する。 「あともう一ついいかい？」 「……？ 何です？」 「今度の件、『ミノス』って奴は関わってるか？」 「ミノス……ですか？」 「ああ。知ってるのか？」 「はい。ファントムさんの話では、陰でラドクリアの警護と鉄砲玉のようなことをしているらしいですから、 必然的に関わっているのではと。でも、どうして？」 プシュケーの疑問に、口を半月に歪めて龍人は答える。 「ああ。ちょっとした、“落とし前”ってやつさ」 |
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豪翔
2009年01月03日(土) 11時05分59秒 公開 ■この作品の著作権は豪翔さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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| いま〜未来の〜扉を〜開けると〜き〜♪ 明けましておめでとうございます。(遅 ＞つるぺったん それは奥ゆかしい体型というんだZEっ☆ ＞「俺は、ロリだって平気で喰っちまうような男だぜ！」 アーッ！？ 冗談もほどほどにしとかないと光ちゃんが泣きますよｗ ＞「俺、モテないから。せめてデートの時くらい、そういう気分に浸りたくてさ……」 またまた光ちゃんが泣き(ｒｙ デート誘ってあげればいいのに・・・・ 背後霊同士で超険悪ムードになりそうですがｗ ＞THE漢・草薙龍人 ＞夢芽ちゃんは殺さない。平和も守る。わがままを――『意地』を通させてもらうぜ 昔某ルル山さんが俺は男にギャップは求めてねぇよ、と言ってましたが・・・かっくぃー！！ フェイントだよ！女性のギャップは萌えポイント、しかし漢のギャップさらにその上をゆく『燃え』ポイント！！ 草薙龍人は男の子、アニキと呼ばせていただきます。 ＞抉りますよ が・・・・が・・・眼球 抉子(がんきゅうえぐりこ)ぉおおおおおおお！？！？！？？！(ﾅﾆ 年も明けましたが今年も頑張ってください。 では、次回も楽しみにしております。 |
50点 | 青嵐昇華 | ■2009-01-08 23:29:52 | i60-35-77-6.s02.a040.ap.plala.or.jp |
| どうも、イシスです。東方アレンジの買い過ぎで財布がヤバイです。 ちなみに最近のお気に入りは謙虚な騎士です。 まぁそんなこたぁともかく、感想いきますよー！ プシュケーちゃんと龍人さんとのデート(？)でしたね。 人ではないプシュケーちゃんにはやっぱり元の日常生活が大事になりますよねぇ。 しっかし、龍人さんはどんだけ規格外のデザートを頼んでやがりますかw 私も最近になって甘いものをよく食べるようにはなりましたが、あまり大きいのは苦手です。 今回の敵はハルピュイアですか。空中戦とかどう戦うのでしょうね。 さらにあのミノスまで出てくるらしいですし。こちらは龍人さんが戦うみたいですね。 これはもしかしたら、現段階での最強決定戦みたいなものかもしれません。 それにしても、相変わらず龍人さんはロリコンといいますか、何と言いますか･･･w 私は逆にお姉さん系は好きですね。胸もある方がいい！でも一番好きなのはお腹と太股。 いや、私の趣味嗜好なんてどうでもいいですね。大体、これもコロコロ変わりますし。 それと、ファントムさんは･･･ご愁傷様です。その内にアペンドディスク出るみたいですし。 んでは、今回はこれで。おーるぼわーる。 |
50点 | イシス | ■2009-01-07 00:55:59 | 219-117-191-196.cnc.jp |
| あけてしまいましておはようございまス！ひだりです。 『レイキ』には何度か感想を下さったのに、こちらには中々書けずにすまんこってす。 さて今回メインなのは、天原夢芽＝プシュケーちゃん。 このプシュケーちゃん……というか、ギリシア神話に登場するプシュケー。 先日ひだりがwiki地獄(リンクからリンクからリンクへ飛ぶいわゆる無限ループ)に陥っていた折に偶然読んだことがあるのですが、神･エロスに愛され、エロスを愛し、その仲を引き裂かれても数々の試練に立ち向かった(冥府の川とか渡っちゃったり。マジパねぇ)、強き女性なんですよね。 まあその「強さ」とはベクトルが違いますが、こちらのプシュケーちゃんも中々に強かなガールのようで。しかもロリぷに。 そんな彼女とデートが出来る草薙さんは特別な存在なのでしょう。今では私がおじい(ry。 ＞自分は、つるぺた(中略)ではないと思う。 作為的な略し方は無視してくださって結構デスガ。 とりあえず、草薙さんの価値観に全面的に同意させていただきたい！！ そう、俺たちは貧乳少女がそのかわいそうな胸の奥に灯す、上昇志向の炎に萌えて……否、燃えているのだッ！！とか。 ていうか草薙さんカッコイイなあ。 萌えにも燃えにも「自分」と言う一本筋が通っていて尊敬できるナイスガイです。たとえロリコンでも。いやさロリコンだからこそ。 さておき、話は派手に横にそれるのですが、 ＞『魔法使いI惨』 いやあ……だいぶひどい有様のようで。 目の前ににんじんをぶら下げてケツに火をつけた生き馬の目を射抜くこの萌え業界、よくもまあアレでイケると思ったな制作会社！ とまあ、見えてる地雷を踏む趣味は無いので伝聞のみの情報ですが……実際に期待してた人々のダメージは……ｵｵｳ。 そんなひだりが最近気にかけているのは「地雷は見えているけど絵に釣られて踏む」ゆずソフトさんの新作『天神乱漫』。 まだ発売日も決定してませんが、絵が、絵が好みなんです！むりりん最高！こぶいち最高！どっちがどっちかわからないけど！ 取り乱しました。今夜はこのへんで失礼をー。次はいつ出現するか分からない、サボりの常習犯ひだりでした。 |
50点 | ひだり | ■2009-01-05 05:14:24 | p3226-ipbfp01takakise.saga.ocn.ne.jp |
| 合計 | 240点 | |||