仮面ライダー貫鬼 その三 |
「闘う弟子」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 夜八時。 「ほりさわ」の看板を下げる時間。 今日も夜空の星がきれいだ。 堀沢 美由紀は、暖簾を下ろすとき、いつもぼおっと星空を見上げる。 山が近いこの村は、いつも星がよく見える。 美しいその空は、常に彼女の心を捉えて離さない・・・のだが。 「・・・・・・・・・。」 今日の彼女の顔は、心持ち不安そうだった。 ・・・とはいえ、いつも無表情な彼女からそれを汲み取るのは、父親でさえ難しい。 そんな彼女に声をかけるのは、 「やあ、今夜も星がきれいだね・・・。美由紀。」 ここの支部の、管の鬼だった。 ぽんと肩に手を置き、自然に距離を縮めようとする。 「・・・・・・・・。」 美由紀はほんの少しだけ、口を「へ」の字に曲げた。 「ぱっ。」 その手を払い落とす。 「ええ・・・・?」 「あー。さむいさむい。」 彼女はのれんを手に、さっさと店内に戻ってしまった。 「え、えええ・・・・・?」 一人取り残されてしまう、サカマキ・・・・。 ひゅるるる〜・・・。 「ちっ。秋風が、しみるなぁ・・・。」 「フンッ!!」 大剣を構えた青い鬼は、腰を低く落とし一気に駆け出した! 閃鬼さんの得意とする、高速戦闘である。 高速で地を駆けるその姿は、閃鬼さんの肌の色と相まって青い残像としか映らない。 地に落ちる落ち葉を掻き上げ、猛烈な勢いで二人の異形に突っ込んでいく! 戦いの前に発した、「一分で敵を倒す」、というのは伊達ではない。 あの人は常に、その予告した時間に敵を仕留める。 速攻にして確実。 あの人の仕事は、いつも無駄が無い。 鬼として、ほぼ最高の到達点に達しているのだ。 「フアアアアアアアアアアアア・・・・ッ!!!」 音撃弦「閃光」を怪童子に向かって振りぬく・・・!! ザグウウッ!!! 『ウ、グアアアアアアアッ!!?』 舞い散る落ち葉と共に閃いた一撃は、完全に童子を両断する!! その腹から白い液体を噴出し、怪童子は倒れ伏した。 「次・・・・・!」 ザアアアア・・・・・っ! 「!!?」 その時、閃鬼さんが走った後に舞いあがった木の葉が、その視界をさえぎった・・・! 怪童子を切り裂き、妖姫に向かって方向を変えようと足を止めた瞬間、それは彼の眼前を覆い尽くす! 「しまった・・・!!」 『・・・・・!!!』 その瞬間を、姫は見逃さない。 ブゥンッ!! 振り上げたその白い腕を、動きの止まった閃鬼さんに向かって降ろす!! ドスッ!! 「ぐ・・・・!!!」 鋭い先端の白骨の指は、その脚を切り裂いた!! 「閃鬼さん!!!!」 『くあ・・・・!!』 ダッ!!! しかし姫は、それ以上の攻撃をしようとせず、逃げを打った。 木々の間を駆け、闇の中に消えていく・・・! 「くそ、にがさ・・・・うッ!!」 腿を抱えてうずくまる閃鬼さん。 「閃鬼さんッ!!」 あわてて駆け寄る。 「ぐ・・・・油断したな。まだ俺も、修練が足りんな。」 「大丈夫ですか、閃鬼さん・・・。」 「この傷じゃしばらくは動けん。鬼の再生能力も、歳によって衰えるからな・・・。」 足の傷を診る。 妖姫の爪が深々と突き刺さった傷は、確かにちょっとやそっとじゃ治りそうに無い・・・。 「・・・お前が行け。」 「・・・・え。」 「お前が、行けって言ってるんだ。」 「閃鬼さん・・・それは俺に、戦えって事ですか・・・・?」 「決まってるだろう。俺は動けないから、なぁ。」 「このままだと姫に逃げられる。だったら・・・お前が行くしかない。」 「いや、でも、良いんですか・・・・!?」 「バカヤロウ!!!!喋ってる暇があったら奴をさっさと追いかけろ!!このダメ弟子がぁあ!!!」 ビクッ!! 「は、はいぃぃっ!!!」 俺はその怒号に追われるように、姫の消えた先へ駆けていった。 ・・・ああもう、情けない。 「・・・手間の、かかる・・・。」 前からそうなのだが、俺はああして閃鬼さんに怒鳴られると、何も考えられなくなってしまう。 こういうところも、何とか直して・・・。 ああいや、今はそれ所じゃない。 きっかけはどうあれ、こうして追いかけ始めたということは、覚悟を決めなきゃいけないな・・・。 たったったったっ・・・・。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・。」 何も考えずに全力で走ってきたけど・・・。 奴は・・・姫はどこだ?! ヒュウッ!! 「!!」 ガスガスガスッ!!! 進行方向に飛んできた白い何かを、とっさに横に飛びのき、走る勢いを殺してかわした。 草むらに飛び込み、その地面に刺さったそれを見る。 白く、先端が円錐のような形をしたそれは・・・・・人の骨、しかも指の先の骨に見える。 だがそれにしては少し大きい・・・。 ・・・これは、姫の指か!? ヒュヒュヒュウウッ!!! 「っ!!!!」 空気を切る音だけで、それは飛来する。 闇の中に白々と、姫の骨格の指先が!! 「ぐ、くう・・・。」 その攻撃をかわし、骨格の飛来してきた方向へと何とか近づこうとする。 ・・・閃鬼さんは動けない、だったら俺がやるしかない! 『・・・鬼の子か。』 「!!」 闇の中から、姫の声が響く。 若い、男性の声が・・・。 『あの子のお父様の仇を、お前で取らせてもらうぞ。』 『死ね・・・・!!』 バサッ!!! 「!!!」 俺の進もうとしていた方向から、姫が姿を現す!! その大きな長い腕を振り、俺の首を狙う・・・!! ビュウウンッ!!! 「っ!!!!」 俺は必死でそれをしゃがんでかわした! 『む・・・・!!!!』 そのまま俺は前転、なんとか姫から距離を取り、立ち上がった。 『元気のいいことだ・・・。良いえさになる。鬼の子を食らえば、あの子もさぞ成長することだろう・・・。』 メキメキとその腕に、先ほど撃ち出し、欠けてしまっていた指が再生する。 「く・・・・・・・・・・。」 殺気をビリビリ感じる。 先ほどまでの指鉄砲の比じゃない・・・! あれは俺の様子見・・・。 というより、閃鬼さんが追いかけてきたと思ったのだろう。 それで姿を見せずに、飛び道具を使って攻撃を仕掛けてきたんだ。 そして相手が俺と分かるや否や、敵の態度は一変した。 姿をさらけ出し、俺の命を直接狙ってきている・・・! ようするに、なめられているんだ。俺は・・・。 『フアアアアアッ!!!』 目の前に迫る妖姫。 ・・・バカにするな!! 確かに、俺はああして師匠に追い立てられる半人前の鬼だ。 だが俺だって、俺にだって成し遂げたいことがあるんだ!! あの日俺を助けてくれた閃鬼さんのように、俺も、俺も。 ああやって人助けがしたいって、そう願ったんだ!!! だから・・・・・!!!! ガシャッ。 俺は左腕の音錠を開く。 ギャイイィィーンッ・・・・。 ドクン・・・! 「・・・・・・・・・!!」 その弦をかき鳴らすと、俺の中の「鬼」が目覚めはじめた。 音錠を額にかざし、そこに鬼面が浮かび上がる。 俺の体は、閃鬼さんと同じように全身が光に包まれ・・・・。 『うあああああっ!!!』 至近距離でそれを目の当たりにしたため、再び目を押さえる妖姫・・・!! 「おおおおおお・・・・っ、ズアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」 気合一閃、俺は光を振り払う。 俺は・・・「鬼」になった!! 「変身体」と呼ばれる姿に変身する。 「鬼」の名を冠しないものの、その姿は鬼そのものである。 その違いは、音撃武器の有無だけ・・・といっても差し支えない。 あとはその技術。 清めの音により、マカモウを浄化する技術。 それだけが俺には欠けているのだが・・・。 それは今は良い。 今は、今は俺の初陣! 鬼として自立するための、第一歩だ・・・・!!!! ドォンッ!! 左足を大きく踏み出し、踏ん張り、右の拳を妖姫の腹に向かって下から抉り込むように叩き込む!!! 『う・・・・?!』 ドガアアッ!!! ・・・・・・・・・・。 命中すれば、人間さえ四散させるその拳。 右手に走る確かな手ごたえ。 ・・・命中はした。だが・・・。 その一撃は、交差された両腕で防がれてしまっていた! 大きな、人間の骨格のような妖姫の腕は、俺の鬼の拳を受け止めている・・・! 『残念・・・。』 ビュウッ!!! 妖姫は俺の拳を振り払うと、その手を振り下ろした!! ザギィィンッ!!! 「ぐうううっ!!?」 胸に痛みが走る。 鬼の体に変わっても、痛覚は変わらない。 鋭い凶器で肉をえぐられた感覚・・・。 そんな生身の自分を想像して気分が・・・・悪くなる。 ガツッ!! 「うぐッ!!!」 胸を裂かれ、その痛みに動けない俺に、妖姫は容赦なく攻撃をしかけてくる! 長い腕から繰り出すその拳は、俺のあごを捉え、吹き飛ばす! ドシャアッ!! 「ぐ・・・・・ああっ!!!」 地面の落ち葉がクッションになり、叩きつけられたダメージは少なくてすむ。 で、でも・・・・・・・・・。 『ハハハハハァ・・・・。』 迫る妖姫・・・。 その腕を誇示するかのように大きく広げ、俺を威嚇する・・・! ガク、ガクガク・・・・。 膝が、笑い始める。 握り締めた拳も力が抜けていき、徐々に頭は白くなっていく・・・・。 こ、こ、こわ・・・。 怖い・・・・!!! 遠くから見ているのと、実際に立ち会うのじゃえらい違いだ! 思っていたより奴らの動きは早いし、戦いの痛みもこんなに・・・・。 ぐ、ぐぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 恐怖で体が固まる。 何も考えられなくなる。 まるで、閃鬼さんに怒られてるときみたいに・・・・。 (バカヤロウ!!!!喋ってる暇があったら奴をさっさと追いかけろ!!このダメ弟子がぁあ!!!) 「!!!!!!」 ビュウッ!! 再び振りかぶる妖姫の腕! その腕は通常の腕よりも長く、その遠心力から生み出される一撃は、大振りながらも恐ろしい威力を秘める。 俺の胸を狙って、再度の攻撃・・・! 俺は・・・。 俺は、俺は! ダメ弟子なんかじゃ、あるもんかァァァァッ!!!! 振り下ろされた白骨の腕を、左の拳を突き出す!! ガシィィィィッ!! 『うっ!!!?』 思わぬ反撃にあい、妖姫はその動きを止めた! 振り下ろす勢いと、俺の拳の勢いをもってしても、その腕は砕けない。 おそらく、衝撃に強いというガシャドクロの肋骨と同じ組成なのだろう。 だがそれも、ガシャドクロと同じく一部分。つまり、こいつは腕だけが衝撃に強いという話・・・・!! ジャキィィッ!! 俺はその右手の甲から、鬼の爪を突き出す! コレは鬼の切り札。 手の甲の皮膚の一部を変化させ、鋭利な刃物に変える、必殺の隠し武器・・・・!!!! 「うらああああああああああああああッ!!!」 俺はそれを、力の限りつきだした!! ドスウウウッ!! 『ぐ、あ・・・・・・・・・・・・・・っ!!!』 深々と突き刺さる鬼の爪。 どう考えても致命傷。 爪を通じて、肉を切り裂く感覚が伝わってきた。 ぐ・・・・。 その未知の感覚に、また一瞬我を忘れかけるが、俺は急いでそれを引き抜いた。 『ぐ、あ、あああああああああ・・・・・・・。』 ズドォォォォンッ!!! 腹から白い液体を噴出し、爆散する妖姫。 あ、あ、あ・・・・。 ばさっ。 情けないことに、俺はそのまま尻餅をついてしまう。 はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁ・・・。 た、倒すことが出来た・・・。 おれが、あいつらを・・・・。 「はぁ、閃鬼さんの、おかげ、かな・・・。」 もしあの時、閃鬼さんの叱咤を思い出さなかったら・・・。 「・・・・・・・・・・。」 バキバキバキバキッ・・・!! 「!!!」 俺の背後の木々が倒れる音がする。 とても大きくて重いものが、落ち葉を、倒れた木を踏み潰す。 「ハァ・・・・!ハァ・・・・・!!」 一気に息が荒くなる。 恐怖が俺を包み込む。 背後に潜む、巨大な影に。 『ガハアアアアアアア・・・・・。』 その圧倒的な存在感を、背中越しに感じる。 姫や童子を相手にしていた時とは比べ物にならない。 それは親を殺された怒りか、獲物を見つけた喜びか、俺たちの探すマカモウ・・・ガシャドクロ。 奴の雄叫びが、山中に響いた。 『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』 「突き刺さる言葉」 ズシィィン・・・・。 背後から響く地鳴り。 ・・・そこにいるのは分かっている。 でも、恐怖からそれは躊躇われた。 俺が奴の方を見ること・・・それは奴との戦いの開始を意味する。 バキバキバキ・・・・ 木を倒す音がすぐそこに迫る。 恐怖にかられて、このまま何もせずにやられるのが望みか? ・・・そんなわけが無い。 俺はここまで、こいつを倒すために来たんだ。 だから、何もせずに逃げるわけには行かないんだ。 俺はゆっくりと、後ろを振り向いた。 『ガハアアアア・・・・・。』 そこには、先ほど「ほりさわ」で見せてもらったTDBの画像と全く同じ怪物が、俺を見下ろしていた。 白骨の魔化魍・・・ガシャドクロ。 大きな頭蓋骨の中の白い光が、まるで目のように俺を捉える。 吐き出される息からは、猛烈な腐臭がした。 「・・・・・・・・・・・・。」 恐怖で膝が笑う。 こいつは、大きい・・・・。 人間サイズの姫や童子などかわいい方だ。 自分よりも圧倒的な大きさを誇るそれが、殺意を持って襲い掛かってくる。 それが、どんなに恐ろしいことか・・・。 ・・・・・でも、俺は立ち止まるわけにはいかない。 コレが、俺の選んだ道だから。 苦難の道だと、分かっていたことだから・・・。 だから!! ぐ・・・ッ!! 俺は腰を低く落とし、拳を握り締め、戦闘態勢に入った! 『ガアアアアアアッ!!!』 ぶぅん・・・ッ!! 「!!」 ドシャアアアアッ!! ガシャドクロが振り下ろした右腕は、俺の立っていた場所の地面をえぐった!! 俺は、あわてて飛びのいたので無事だったが・・・。 いくらあんな単調な攻撃でも、俺にとってはあの大きさこそが脅威。 あの指先一本触れただけでも、致命傷となるに違いない。 『ガアアアアア・・・・ッ!!』 ズシィン、ズシィン・・・。 四つんばいのガシャドクロは、逃げ回る俺に向かって、距離を詰めようと迫る! しかし動きは鈍い。 おまけにこの森の中じゃ、木々に動きを制限されて、まともに動くことは出来ないはず。 ・・・・・やれるかもしれない。 ひょっとしたら、俺一人でも。 弱点は分かってる。 あの胸の中の胃袋だ。 アレを突きさえすれば音撃無しでも! ・・・・・・・・・・。 閃鬼さんは足を怪我して動けないんだ。 だったら、俺がやるしかない。そうだ! 「よし!!」 俺は駆け出す! 木の蔭から陰へと、ガシャドクロの視界からなるべく消えるように近づいていく。 『ガアアアア・・・・・。』 バキバキバキバキッ! 邪魔な木々を押しのけ、何とか俺を捕まえようとするガシャドクロ。 だが俺は、その木を倒している隙にまた別の木の蔭へ逃れ、奴の思うようにはさせない。 このまま近づいて、奴の胸元に飛び込む! あのでかい身体、まして四つんばいのあの姿なら、足元からの攻撃に弱いはずだ! 肋骨を鬼の爪で裂き、拳で胃袋を砕いてやる!! 『ガアア・・・ガハアアア・・・・』 『グアオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 痺れを切らしたのか、突然ガシャドクロは両腕を振り乱し、暴れ始める。 「っ!!!」 振り回される長い腕は、周囲の木々をなぎ倒していく!! その豪力で砕かれた細い木は、辺りに飛び散って轟音を立てる! ガシィィィッッ! 折られた木と、立っている木がぶつかり合う音。 そんなものにぶつかったら、いくら鬼の身体でも無事ですまない。 飛んでくる木や、折られた木を身を屈めてやり過ごす。 ああやって暴れられたら、こちらは近づけない・・・・! 『ガアアッ!!!グアアアアアアアアアアッ!!!!』 ズシャズシャズシャ・・・!!! 辺りにすっかり木がなくなったのを確認すると、ガシャドクロは俺のいる場所に向かってまっすぐやってくる! 倒木の下で、それが収まるのを見守っているときに、俺にはその姿がはっきりと見えた。 ここでじっとしてたらやられる・・・! バキバキバキ・・・!! 木々を踏み潰し、ガシャドクロが迫る! 俺は立ち上がり、その場から離れようと・・・! 『ガハアアアアアアアアアアアア・・・・・・。』 ガシャドクロが、歩きながらその口を大きく開ける。 あれは・・・、そうだ!! バシュバシュバシュバシュッ!!! 「来た!!」 開けられた口から放たれる、白い弾丸。 それは、今まで奴が食べた人間の骨。 消化しきれない人骨を、ガシャドクロは飛び道具として使用する・・・! ガスガスガスガスッ!! 「うううっ!!!」 ・・・あらかじめ情報を知っておいて良かった。 思わず体を伏せ、俺の顔面に飛んでくる白い弾丸をやり過ごした! 『ガハアアア・・・・・!!』 その隙にも、奴は近づいてくる。 俺はとにかく早くこの場から離れようと、もう一度体を起こす! バシュバシュバシュ・・・・・! 「ぐっ!!」 倒れてる木に手をかけ、その場を逃れる! 『ガハアアアア・・・・・・!!』 ガスガスガスガスッ!!! そこに再び放たれたガシャドクロの弾丸は、駆け出そうとした俺の足元に突き刺さる!! 「・・・・っ!!!」 思わず足を止めてしまう。 ・・・そしてそれは、俺にとって致命的な一瞬だった。 グアアアアッ!! 「あっ!!?」 ガシィィィィッ!!!! その時伸ばされたガシャドクロの手に、俺は身体をつかまれてしまった!! 『ガハアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』 歓喜とも狂喜ともとれる雄叫び。 俺を掴みあげ、夜空に吼える。 「くっ、くそ!離せえっ!!!」 俺は必死にそれから逃れようと身体に力を入れる。 「く、う、うあああああああああっ!!!!」 ・・・だが、鬼の力をもってしても、その大きな手はびくともしない! 『ガアアアアアアアア・・・・・・・・。』 ミシッ!! 「!!!ぐあああああああああああああっ!!!!!」 ガシャドクロがわずかに手に力を入れた瞬間、俺の身体が悲鳴を上げた。 腕が妙な方に曲げられる感覚、内臓が圧迫される苦痛、頭の中に火花が散り、白くなっていく・・・・・。 ・・・・このまま握りつぶされるのか、または食われてしまうのか、ろくな事にならない、な・・・。 猛烈な肉の腐った匂いが、鼻に付く。 奴の顔が、近い。 らんらんと光る、巨大な頭蓋骨の中の目が俺を見ている。 大きく口を開け、また腐臭は強くなった。 ・・・食べられる。 あの鋭い歯で、俺は両断されてしまう・・・。 はは・・・。鬼が魔化魍に食われてちゃ、笑い話にもならないな・・・ ミシシッ!!! 「うああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」 再びその手に力が込められた。 あまりの激痛に、消えそうになった意識がはっきりする。 『ガアアア・・・ガハアアアアアア・・・・・・!』 そのまま奴は、俺を口元に運ぶ。 意識のあるまま、食いちぎる気かよ・・・!! あまりの腐臭に顔をしかめる。 口がいよいよ近くなる。 「なん、で・・・・・・・・・・・・・。」 最後に口から出たのは、その自分の運命を呪う言葉だった。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・。 ズダァァァァンッ!!!!!!! 「・・・・・・・っ!!?」 豪快な切断音が響いた。 流麗な切断ではなく、力任せに叩き折った、というのが正しいのかもしれない。 それに気がついたとき、俺はその掴まれた腕ごと地面に落ちようとしていた・・・!!! 『ガハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』 「・・・・・・・・・・・。」 切られた腕を押さえ、のけぞるガシャドクロ。 その悲鳴は木々を揺らし、眠っていた野鳥も逃げ出すほどに・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2分。」 その眼前に立ち尽くす青い鬼は、ただそれだけ、つぶやいた。 ダンッ!! 手にした大剣を地面に突き立てると、大きな傷の残っているはずの脚を踏ん張り、跳んだ! その勢いのまま右の拳を突き上げる!!! バゴォォォォンッ!!!! 『ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』 その強烈な一撃は、ガシャドクロの顎を文字通り「砕いた」。 飛び散る白い破片、そして歯。 それらは地面の落ちるとすぐに、土や枯葉などの自然物に還る。 その強烈な衝撃で、四つんばいの魔化魍の身体は後ろへと倒れていく・・・・! ズゥゥゥウンッ!!!! 地響きを立て、木の葉が舞いあがる。 膝を曲げたまま仰向けに倒れるガシャドクロ。 骨の身体にも痛覚があるのか、その砕かれた顎を残った左手が抑える。 「・・・・・・・。」 鬼は再び大剣を手にし、倒れた魔化魍の体をよじ登っていく。 脈を打ち、蠢動するガシャドクロの胃袋。 今までに何人もの人間を取り込んできた、人骨の壷。 それを守る肋骨の上に、青い鬼は立った。 『ガ・・・・・!!!!』 ガシャドクロは、その唯一の弱点を狙う相手に気がつき、巨大な左手を伸ばす!! 「・・・・・・・・・・!」 ガシイィッ!!! ・・・それを、片手で受け止める鬼。 『ガ・・・・・・・・!!!』 力をこめるガシャドクロ。 体格だけならば、両者には大人と子供以上の圧倒的な差がある。 相手にとっては自分の身体の半分ほどもある拳。 それをその鬼は、こちらの多少の体勢の無理があるとはいえ、片手で拮抗させている・・・・!!! 「・・・フンッ!!」 ミキッ! 『ガ!!!』 ガシャドクロの太い指に、鬼の指が食い込む! そして。 バキャアアアアンッ!!!! 『ガ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!』 その腕を、捻じ折った。 顎を砕かれているため、悲鳴すら上げられないガシャドクロ。 「・・・仕上げだ。」 鬼はその大きな腕を投げ捨てると、手にした大剣を使って肋骨を切り裂く。 衝撃に強く、太鼓の音撃を以ってしても砕けないというガシャドクロの肋骨も、音撃弦の刃の前にはあっさりと切り開かれていく。 ドスッ!! そして、その胃袋に弦は突き立てられた。 「音撃斬・・・列閃光舞(れっせんこうぶ)」 ギュイイイイイーーーーーーーーンッ!!!! ・・・・・・・・・。 その戒めから開放された時、見えたのは俺の師の姿だった。 俺が苦しめられたその魔化魍を、圧倒的な強さで退治してしまった。 俺は、ただ見惚れた。 あの日と同じように。 そして同時に、俺は2年前のあの日から、何も変わっていないんじゃないか・・・そう思った。 俺の元に歩み寄ってくる閃鬼さん。 鬼の身体能力のおかげで、俺の怪我は自己修復されている。 若い鬼の特性だ。 俺は立ち上がると、閃鬼さんに向かって走った。 お礼を言わなきゃ。 また命の危機を助けてもらったんだから。 本当にこの人には助けられてばかりだ。 言葉だけじゃこの礼の気持ちは伝えきれないけど、それでも言わずにはいられない。 俺が駆け寄ってくるのを見て、閃鬼さんは足を止めた。 「閃鬼さん!ありがとうございました!」 「・・・・・・・・・・・・・。」 バキィィィッ!!!! ・・・・・・え。 頭が揺れた。 足元はもつれ、自分が立っている感覚が無い。 その衝撃は体を突き抜け、俺はしりもちをついた。 頬に残る痛みは、自分が閃鬼さんに殴られたという事実を、呆けた頭にゆっくりと伝えた。 「・・・何がありがとうございますだ。お前は、俺が来なかったらどうなっていたか分かっているのか!!!!」 「・・・・。」 発せられる怒号。 閃鬼さんは、怒っている。 「お前はなんで一人で戦おうとした?魔化魍は音撃でしか倒せないと、口をすっぱくして教えたろうが!!!」 それは・・・・そうです。 呆けた頭には、そんな馬鹿な考えしか浮かばない。 「姫を倒してすぐ戻ってくればいいものをお前は!!!・・・・だからお前は、いつまでもダメなんだ。」 だって・・・閃鬼さんは怪我をしていたから。 俺が一人でやらなくちゃって・・・。 「・・・姫を倒したことは誉めてやろうと思っていたが、それも無しだな・・・・。津浪。」 「は、はい。」 名前を呼ばれて、反射的に言葉を返した。 「キャンプ用具は俺が片付けておく。お前は「ほりさわ」まで走って帰れ。」 「は・・・・ええ!?」 この山の中から、あそこまで!? 「当然だろう。自分勝手に突っ走ってヘマやって、俺の手をわずわらせたんだ。罰せられるのは当然だろう・・・?」 罰・・・。 そうだな・・・。 それは・・・・そうだ。 「は・・・はい。」 「おう。じゃあな。早く帰れよ。」 そう言って、後ろに手を振り、去っていく閃鬼さん。 「は・・・・・・・・・・。」 呆然と見送る。 「・・・・津浪。」 そこに、閃鬼さんが足を止めて俺を呼ぶ。 「あ・・・・はい。」 「お前はいつか、本当に一人で戦わなければいけない。」 「その時・・・助けてくれる奴はいないんだぞ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 そんな事、わかってる。 わかってる・・・・。 「・・・・・・はい。」 俺は言葉少なに、返事を返した。 俺の初陣は、つらい出来事に終始した、苦いものになったのだった・・・。 |
空豆兄
2009年03月27日(金) 04時25分40秒 公開 ■この作品の著作権は空豆兄さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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