仮面ライダーセレナ第六話「転校生/炎の殺意」 |
ここまでの仮面ライダーセレナは こんにちは、要巻奈です。 この“仮面ライダーセレナ”は、改造人間だった鷹音ちゃんが新たに手に入れた力“セレナ”を使って悪いキメラから、普通の人達や罪のないキメラを守る為の戦いを描く物語らしいです。 そう言えば土曜日に諸事情から研究所にメンテナンスに出掛けたのですが、夕方頃に帰ってきてみたらビックリ。 なんと玄関で鷹音ちゃんがお腹からもの凄い音を鳴らしつつ、目を回して倒れて居るではありませんか! 近くに落ちていたセレナに事情を聞いた所、『今朝研究所で自分が受けた改造で新たに得た力を使ったが、不完全な改造による不具合が原因で、変身を解除した瞬間に空腹から気絶してしまった』だとか。 それを聞いた私は、慌てて冷蔵庫からウィ○インゼリーを六パック取り出し鷹音ちゃんの口に流し込みました。 そして、何とか目を覚ました物の、未だ強い空腹感を訴える鷹音ちゃんの為に、取り敢えず通常の三倍の料理を作ってあげたのです。 それを完食して満腹になった鷹音ちゃんは、その場で爆睡。 そのままでは体に良くないので部屋に運んでちゃんと布団に寝かせてあげる私なのでした。 その後、私はセレナの改造を完全にする為に、セレナを持って私は再び研究所に向かったのです。 終わり P・S クロさんは研究所の面接に受かったようです。 朝、窓からはカーテン越しに日光が差し込んできている。 “ピピピピッ、ピピピピッ” ボンヤリした意識の中、枕元から何かが鳴る音が聞こえてくる。 「う〜ん・・・あと五分」 無視して布団代わりにしているタオルケットに潜り込む。 それでも音は鳴り続けていたが、しばらく経つと音が止まり、代わりにアニメの女の子っぽい甘ったるい声が聞こえてくる。 『ねぇ、起きてよ』 「・・・」 無視。 『起きてったら、もう朝だよ』 「・・・・・・」 それでも無視。 『もう、どーしても起きないつもり?』 「・・・・・・・・・」 やっぱり無視。 『そっちがその気なら私にだって考えがあるんだからね』 「・・・・・・・・・・・・」 断固無視! 『えーと、その、い、いい加減に起きないと、そ、添い寝しちゃうんだかr“プチッ”「ンがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 いい加減にキレた私は、タオルケットをはね飛ばしながらガバリと起き上がり、言い終わる前にその声を発していると思しき物体を鷲掴み、思いっきり壁に投げつけた。 “ガシャァン!”と派手な音がするが、そのあと“カシャン”と床に当たる音がした事から察するに、砕けては居ない様だ。 「ハァ、ハァ・・・全く・・・朝は任せておけと言ってたから任せてみれば・・・。 何なの、今のキモイ三文芝居は? おまけに声まで作って・・・」 そう言いながら今し方ブン投げた物体を見る。 「セレナ!」 ご存じ日々嫌な感じに成長している変身ベルト“セレナ”である。 ちょっと前に、目覚まし時計が“何故か”粉砕されていたので、困っていたら『パワーアップした私に任せてください』とか言う物だから、代わりをして貰ったのだ。 『いえ、アラームを鳴らしても起きない物ですから、私なりに研究した“萌え”とやらを応用してみたのですが・・・萌えましたか?』 声を元に戻して答えるセレナ。 「そんな訳無いでしょ!? むしろ鳥肌立ったよ!! ああ言うのはせめて男の子相手に言うべきだって。 全く、朝から気分が悪い・・・」 『なるほど、では今度からは婦女子が萌えそうな物を選んで研究します』 「やめて、嫌な予感がするから。 ・・・で、今は何時?」 考えてみれば今日は月曜日、普通に学校が有る日だ。 過程はどう有れ、起きたのは間違いじゃない。 『7:32です』 「あらら、もうそんな時間・・・ってヤバイ!」 急げば“7:50”のHRには十分間に合うだろうが、のんびり朝食を摂っている時間も、髪のお手入れをしているも無い。 「急がなきゃ!」 さっさとパジャマを脱ぎ、制服に着替える。 机の上の鞄を引っ掴み、居間に急ぐ。 「ま、巻奈さん!」 「はいはい、これをどうぞ」 台所から出てきた巻奈さんはそう言って、温かいタッパーを渡してくる。 「フレンチトーストです。 学校に向かいながら食べてくださいね。 ただし傷むので、早めにどうぞ」 「サンキュー!」 お礼を言いながら玄関に向かい、靴を履いて外に出る。 「んじゃ、行ってきます!!」 「いってらっしゃい」 巻奈さんの言葉を背中で聞きながら、タッパーからフレンチトーストを一枚取り出し咥える。 その温かさと柔らかさ、そして甘さを味わいながら、私はフレンチトーストを咥えたまま咀嚼しつつ学校に向かって走り出した。 *** 「あーん、遅刻遅刻ぅ〜」 住宅街を四枚目のフレンチトーストを咥えながら喋りつつ、走る私。 本当はそこまでヤバイ訳でもないのだが、パン系の物を咥えながらこう言うと、何か素敵な出会いがありそうなので取り敢えず喋ってみた。 ふと前方に交差が見えてきた。 取り敢えずダッシュ。 そして交差に差し掛かった時、横から誰かが飛び出してくる。 「ぶっ!?」 「ごはぁ!?」 ぶつかりお互いに吹き飛ばされる。 宙を舞うフレンチトースト。 「いったたたたたた・・・」 「ううぅ・・・」 私はその場に尻餅をつき、相手は塀に叩き付けられた様だ。 “ポトリ”と私の頭に吹き飛んだフレンチトーストが被さる。 「ちょっと、何処見て歩いてんのさ!」 「そっちこそ交差では気を付けろよ!」 お互いに文句を言い合う。 向き合い、そこで気付く。 「ん?それ・・・ウチの制服じゃん」 私は頭からフレンチトーストを取り、囓りながらながら指摘する。 御旗高校の男子用制服を来た、同い年位の男子だ。 染めているのか色素が薄いのか、髪がやや赤みがかっている。 「え?君は」 「ってああ!こんな事やってる場合じゃ無い! じゃあね!」 少年A(名前を知らないので適当)が何か言っている用だが、スルーして走り出す。 さっきも言った用に決してヤバイ訳ではないのだが、かと言ってそこまで余裕が有る訳でもないのだ。 「あ、ちょっと!」 腕時計を確認すると、現在“7:43”。 走れば大丈夫な時間だ。 そう認識すると、私は少年Aに向けて後ろ手を振りながら学校に向かって再び走り出した。 *** 鷹音が走り去ってしまい、その場には制服姿の少年が残された。 「はぁ、全くヤレヤレだな・・・。 初日からこんなラブコメめいた展開に巻き込まれるとは・・・。 しかし、あの身体能力・・・人間にしては強すぎるが、キメラにしては些か・・・」 言いながら腕時計を確認する。 「うわ、ヤバイかも。 俺も少し急ぐか・・・」 そう言って彼も鷹音が走って行った方向に走り出した。 *** 「ふぃー、間に合ったよ」 現在“7:46”。 普通にHRに間に合った私は、タッパーから最後のフレンチトーストを取りだし、囓りながら一息ついた。 そんな私に誰かが近付いてくる。 「赤坂さん、教室で物を食べるはあまり感心しない」 「およ?ミミちゃんさんではないか」 声を掛けてきたのは私のクラスの学級委員“甘地美嶺(あまちみみね)”。 眼鏡をかけた、いかにも学級委員っぽい見た目をしていて、“ミミちゃん”とか“ミミさん”と呼ばれて親しまれている。 結構真面目な性格だが、それほど堅物と言う訳でもないので割と好かれているのだ。 「もうすぐ先生も来るし、早く食べるか仕舞うかして」 「りょーかい」 夏場は傷みやすいのでさっさと食べる事にする。 二つ折りにして二口で食べ切る。 「これでおk?」 「うん、大丈夫」 そう言って微笑むと、ミミちゃんは自分の席に戻っていった。 その数十秒後に我らがクラスの担任である数学の坂田が入ってくる。 「えー、今日はまず、皆に新しい仲間を紹介する、入ってきなさい!」 普通に転校生と言えば良いじゃないか。 「はい」 坂田の声に応えて教室の扉が開き、そこから一人の男の子が入ってくる。 それなりに整った顔立ちで、女子の何人かは目を輝かせていた。 そして教卓の前まで来る。 「じゃあ、自己紹介をしてくれ」 「分かりました」 そう言って黒板の前に立つと、チョークを持って字を書き始める。 上から順に“獅”“堂”“灰”“斗”と書くと、こちらを向く。 「東京の方から来ました“獅堂灰斗(しどうかいと)”と言います。 もうすぐ夏休みですが、これからよろしく」 そう言って軽く頭を下げる。 彼の言葉に私は夏休みと同時に、期末テストの事も意識してしまう。 (そう言えばもう残り7日、ってもう一週間じゃねーか! 昨日以外、まともにテスト勉強をした記憶が無い・・・) そう、昨日は殆どの時間をテスト勉強に費やしており、イマイチ休日っぽくなかった。 と軽く鬱に入りながら、ボンヤリ転校生を見ているとふとその顔に見覚えがある事に気付く。 やや赤みがかった髪、ついさっき見た様な・・・。 (ああ、さっきの・・・。 転校生だったんだ) ここで「あぁ――――!!」とか叫んだりはしない。 それはラブコメのヒロインの仕事だ。 私には関係無い。 数学の坂田が彼について簡単な説明をしているのを軽く聞き流していたが、最後の言葉にはつい耳を傾けてしまう。 「最後に、本人の希望だからこの場で話すが、彼はキメラだそうだ。 しかし、あまり気にせず接してやって欲しい。 キメラだって人間なんだからな」 その言葉には全く同意だ。 しかし、周りはそうで無いのか教室全体がざわめき出す。 「じゃあ獅堂、そこの空いている席に座ってくれ」 そう言って教室の廊下側の一番後ろの席を指さす坂田。 「はい」 (流石にすぐ近くにはならないか・・・) そこまでお約束ではないかと思っていると、獅堂灰斗と一瞬だが目が合う。 彼は一瞬驚いた様な顔をしたが、すぐに真顔に戻り、席に向かっていった。 (まぁ、仲良くしてみるか) 心の中でそう決める私であった。 *** 「はぁ・・・・・・」 帰り道、私は一人で歩いていた。 私は少し落ち込んでいた。 学校でしてしまった、否、出来なかった事が原因だ。 「まさか私がこんなにヘタレだったとは・・・」 ** あの後、1時間目の授業を終え、休み時間に入って仲良くなる為の第一歩として話し掛けようとしたのだが、転校生の運命なのか教室中、いや他のクラスからも質問をしに来た人が彼の周りに群がっていた。 その時は人集りの中に入っていく勇気がもてなかった為、諦めて席に退散。 2時間目が終わっても状況は変わらず断念。 話し掛けてきてくれた柚乃っちとテレビの話題で時間を潰した。 3時間目、減っては来たがまだ群がっている。 やっぱり柚乃っちと時間を潰したが、今度は柚乃っちのカードゲームに関する熱弁を黙って聞いて過ごした。 正直、言ってる事の30%も理解できなかった。 昼休み、席を見たら学食に行ったのか居なくなっていた。 私が学食から帰っても彼は帰ってきていなかった。 授業直前になってようやく戻って来たので、接触は無理だった。 そして5時間目、本日最後の休み時間。 人も少なくなってきたので話し掛けてみようと思ったのだが、どう話を切り出せば良いのか、何を話せば良いのか分からない。 高校に入学した時に痛感した事だが、私は記憶が無い影響か自分から人と接するのがあまり上手くない。 話題を探そうにも探す為の記憶が、経験を生かそうにもその為の経験が圧倒的に足りないのだ。 頭じゃなくて心が覚えている、何て都合の良い話も無く、柚乃っちが話し掛けてくれるまで、改造人間だと言う事も手伝い、誰かと仲良くなろうと努力しても空回るばかりだった。 帰りのHRが終わり、皆が帰りだした時。 何とか「この町の事について分からない事は無いか」と言う話題を考えついた私は、いざ話し掛けよう、と言う段になって足が止まってしまった。 何というか・・・恥ずかしくなったのだ、初対面(?)の男の子に話し掛けるのが。 どうやら私は自分で思っていた以上にシャイで内弁慶だったらしい。 ** 「くそぅ、私はやっぱりヘタレチキンなのか? ・・・っと、アレ?」 落ち込みながらも顔を上げると前方に人影が見えた。 黒の長髪で背の低い女の子だ。 小学生か中学生位だろうか。 どことなくアニメのキャラっぽい黒い衣装を着て、体の割に大きな袋を抱えている。 コスプレイヤーか何かだろうか、大通りではないと言えこんな町中で物好きな。 そのレイヤー(仮)は道の真ん中でオロオロと辺りを見回して居る。 放っておくのも何なので、声を掛けてみる。 「あのー、すいません。 何かお困りでしょうか?」 「あ、ええと、この辺で要研究所のb、って鷹音さんじゃん!」 突然馴れ馴れしくなるレイヤー(仮)。 「ええと、私にはコスプレイヤーの知り合いは居ませんけど・・・」 「何言ってるのさ。 鷹音さんの変身した姿だってコスプレみたいな物じゃないか」 「ど、どこでその話を!? と言うかどちら様ですか?」 私が変身する事を知る者は余り多くない筈だ。 「え?僕だよ、僕」 少し傷ついた様な顔をするレイヤー(仮)。 「僕?」 そう言えばこの声は何処かで聞いた事があるような・・・。 この声で一人称が僕の知り合い・・・えーと。 ある可能性に思い当たる。 「ひょっとして・・・クロ?」 「おお、分かってくれたんだ!」 何か感激しているレイヤー(仮)もといクロ。 そうだと判って見ると、衣装もカラスをイメージしている様にも見えてくる。 「え?アレ?クロはもっと・・・こう・・・カラスだったじゃん。 戦闘態だってカラスの着ぐるみ見たいな感じだったじゃん! おかしくない!?」 当然の疑問をぶつける。 今のクロはどう見てもカラスっぽい衣装を纏った中学生以下のコスプレイヤーと言った感じだ。 「ああ、これか。 これは所長が 『マスコットにするならもっと可愛い方が良い。 労働力にするにしても、外に物を運んだり、買い出しに言って貰う事もあるだろうから、人間っぽい見た目の方が良いな。 総合すると可愛い女の子の姿が好ましいと言う事だ。 幸いキミはメスのようだし不都合はあるまい、あっはっはっはっは!』 とか宣って僕の変身制御装置に、戦闘態の形成に干渉する機能を付けたんだ」 と言いながら首に巻き付いたチョーカーを見せるクロ。 「あ、あのオッサンは・・・」 呆れて物も言えない。 確かにクロはマスコット兼労働力として雇われたとは聞いていたが、こうなっていたとは・・・。 というか変身に干渉する機能を付加するとか、どう考えても技術の無駄遣いだろう。 「と言うかクロってメスだったんだね。 “僕”とか言ってるからオスだと思ってた」 「所長は『ボクっ娘萌え!』とかぼざいてたよ」 「・・・・・・」 本当に何も言えなくなる。 「・・・ねぇ、その姿に不満はないの?」 「ん?ああ、まぁ、最初は少し戸惑ったけど別に本来の姿が変わった訳じゃ無いし、これでも前より強くなったからさ」 「え?そうなんだ」 強くなったとは意外だ。 「まぁその事は置いといて、研究所まで連れてってくれない? スーパーとホームセンターまで買い出しに行って来たんだけど、途中で地図を落として帰り道が分からなくなってね」 気まずそうに言うクロ。 「うん、分かった。 じゃあ、着いてきて」 「おお、ありがとう!」 そして二人(?)で連れ立って研究所に向かうのだった。 *** 彼は電話をかけながら大通りを歩いていた。 「ええ、はぁ、なるほど。 では、今までの行動パターンから次のターゲットはそこで間違いないと? ・・・・・・はい、了解しました」 道行く人々は誰も気にも留めない。 「では、こちらの判断で処分しても? ・・・・・・・・・はい、ありがとうございます。 それでは」 彼は電話を切ると、持っていた鞄にしまう。 「待っていろ、ゴミ共。 俺が根こそぎ焼き尽くしてやるよ・・・」 誰にも聞こえない声で呟き、一瞬だけ憎悪と愉悦に顔を歪ませる。 すぐに表情を戻すと、彼は人混みの中に紛れていった。 *** 「鷹音さーん、ありがとなー!」 手を振りながら礼を言ってくるクロに手を振り替えす。 もう転校生に関してはまた明日頑張ろうと決め、気を取り直し私は家に移動した。 ポケットから鍵を取り出し、開けて中に入る。 「巻奈さん、ただいまー」 取り敢えず居間に向かうと、巻奈さんがソファに座ってテレビを見ていた。 「あ、お帰りなさい」 私が入ってきた事に気付き、振り返って声を掛けてくる。 『お帰りなさい、マスター』 机の上に置かれているセレナも反応する。 「うん、セレナもただいま。 何見てるの?」 「ニュースですよ。 最近、旗岬町周辺の会社やラボで、窃盗事件が多発してるみたいで」 『しかもその殆どが普通の人間には不可能だと思われる状況で実行されている様です』 私もテレビに目を向けるが、その話はもう終わってしまったらしく、今は旗岬東動物園でパンダの赤ん坊が生まれたと言う内容を放送している。 「へぇ、やっぱり改造人間絡みなのかな。 でもレーダーには反応してないんだよね?」 『いずれの被害も現在の感知範囲から外れたポイントで発生していますから』 「少しずつ拡がってはいるんですけどね。 まだ旗岬町をカバーするので精一杯と言った感じです」 「そっか・・・。 そう言えばさっきクロに会ったよ」 『クロさんに? それでどうでしたか? お元気でしたか?』 真っ先にセレナが食い付いてくる。 セレナは結構クロの事を気にかけている様だ。 「うん、道に迷ってたけど、元気ではあったよ。 なんか萌えキャラっぽく成ってたけど」 『はぁ!?』 珍しく大声をだすセレナ。 「何か所長が自分の趣味で制御装置に手を加えたんだって」 『・・・・・・』 呆気にとられているのか黙り込んでいる。 「お父さんってば・・・」 巻奈さんも気まずそうに俯いている。 因みに巻奈さんは所長の事を“お父さん”と呼んでいる。 一応生みの親だしね。 『あのアホが・・・ッ』 珍しく、と言うか初めてセレナが怒っているのを見た。 やっぱりAIでも友達に変な事をされるのは嫌なんだろうか。 慌ててフォローする。 「で、でも本人は満更でも無かったみたいだよ。 前より強くなったって言ってたし」 『そう・・・ですか・・・』 本人が納得している以上口を挟むべきでないと判断したのか、歯切れは悪い物の、落ち着くセレナ。 「まぁ、何かあったらその時は相談に乗るなり、所長を“狩る”なりすれば良いじゃん」 『そうですね』 私の提案に納得するセレナ。 「お父さんを“狩る”時は私にも言ってください。 協力しますから」 「りょ、了解・・・」 巻奈さんも何か恐い笑顔で賛成した。 何か気圧されてしまう。 「じゃ、じゃあ、私は夕飯まで部屋に居るよ。 勉強してるから」 「はい、頑張ってください」 『せいぜい足掻いてください。 泣いても笑ってもあと一週間ですから』 わざわざ嫌な言い方をしてくるセレナを無視して私は自室に向かった。 *** 夜の9時過ぎ、夏とは言えもう日も沈み、星が輝く時間。 既に夕食も食べ終わり、私は勉強机に向かっていた。 古文に頭を悩ませていると、突然机の横に掛けた鞄から電子音が鳴り出した。 何事かと思って鞄を探ると、鳴っているのは夕食後、緊急時の為に鞄に突っ込んで置いたセレナの様だった。 「うん?もしかして何か感知したの?」 『ええ、町内にある要研究所の別棟にキメラが侵入した様です』 「分かった、すぐに行こう」 台所で皿洗いをしている巻奈さんに一声掛ける。 「巻奈さん、改造人間が出たみたい。 ひょっとしたら連続窃盗事件の犯人かも。 捕まえに行ってくるね」 そしてセレナを片手に部屋着のまま外に出る。 「気を付けてくださいね!!」 後ろから巻奈さんが声を掛けてくるのを聞きながら、格納庫に向かう。 また五分程掛けて格納庫に辿り着く。 「ハァ〜・・・ねぇ、思ったんだけど、戦いのたびに五分掛けて格納庫に来るのって無駄じゃない?」 『もっと急げば良いんじゃないですか?』 「アンタって本当にAI?」 馬鹿な遣り取りをしつつ、ポケットから鍵と携帯電話を取り出しマシンアクセラーの収納スペースに入れる。 そして変身する。 誰かが見てる訳でもないので、かけ声もポーズもする気になれなかった。 『変身するならもっとヒーローっぽくするべきでは?』 「アンタが前回突っ込んでくれたせいでやる気が出なくなったんだよ。 ・・・まぁそれは置いといて」 そう言いながらマシンアクセラーに跨る。 すぐにシステムとエンジンが起動し、レーダーに白と赤の光点が表示される。 そして格納庫のシャッターが開く。 「んじゃ、行きますか」 私はアクセルを捻り、格納庫から走り出した。 *** 特にトラブルもなく研究所の別棟裏口に到着する。 見える部分に電気が点いた部屋は無い。 今日はもう閉まっている様だ。 「へぇ〜あの研究所って他に所にもこんな大きな建物持ってたんだね」 バイクから降り、ロックを掛けながら言う私。 『あそこは兵器の研究・開発。 ここは各種資料の保管棟及び実験施設だそうです。 今日はもう所員は皆帰っているようですね』 そんな区分があるとは知らなかった。 「じゃあ、犯人は資料か実験材料が目的なのかな」 『それは本人に聞いてみない事には・・・目標を感知しました。 12時の方向、約90メートルです。 立地データと重ねると、メインの資料保管庫か大型倉庫の辺りですね』 「よし、捕り物開始と行きますか」 そして私は矢印が示す方向に向かった。 そして二つの大きな建物前に着いた。 左が資料庫、右が大型倉庫だ。 大型倉庫は学校の体育館の様にも見える。 あちこちに向けて太い連絡通路らしき物が見える。 「どっちにいるんだろう」 『・・・・・・右の方ですね』 距離に関してはここまで近付くと相対的に誤差が大きくなるので言えませんが」 「分かった!」 セレナの助言に従い右の大型倉庫に突入する(扉はスティンガンで切り抜きました)。 倉庫の中は殆どがらんどうの空間だった。 見回すと隅の方には資材らしき物が積まれているが、それでも空っぽな印象が強い。 また、周りの壁には今通り抜けた扉以外にも幾つか扉があり、恐らくその先には他の建物に通じた連絡通路が有るのだろう。 よく見るとフォークリフトなんかも置いてある。 電灯は消えており、上の方の窓から月明かりが入ってくるので、辛うじて視界が確保できている。 そんながらんどうな倉庫の隅の資材の山の所で、何者かがごそごそと何かをしている。 こちらには気付いては居ない様だ。 「ん?何だろう」 取り敢えずブレイガンモードのスティンガンを向けながらセレナに小声で聞く。 『居残っている所員かも知れませんし、噂の窃盗キメラかも知れません』 こっそり近付いていく。 そのうちその影が何か言っているのが聞こえた。 「う〜ん、やっぱりもうめぼしい物は無いのかなぁ」 やがて姿も見える様になってきた。 暗いが、それは黄色いコスチュームを纏っている様にも見え、人間の様な形ではあるが少なくとも普通の人間ではない。 お尻からは尻尾の様な物が生えていて、それが動いている。 背中には黒いバックを背負っている。 恐らく改造人間だろうと当たりを付け、声を掛ける事にした。 「動かないで。 動いたら撃つよ」 銃口を向けながら警告する。 「!?」 その影は“ビクリ”と反応すると硬直する。 「両手を挙げて、ゆっくりこっちを向いて」 言われた通りにこちらを向く。 その姿はやはり只の人間ではなく、所々の特徴はキツネの様にも見える。 さしずめ“フォックスファクター”と言った感じだろうか。 体つきから女性だと言う事が分かる。 「貴女はここで何をしていたの?」 「え、え〜と、ちょっと捜し物を・・・」 私の質問に気まずそうに答えるフォックスファクター。 「何を探していたの?」 「・・・・・・」 フォックスファクターは答えない。 銃口を彼女の頭に押しつける。 それに怯えた様に目を閉じた。 しかし次の瞬間、彼女の背後で尻尾が動き、何かを床に叩き付けたのが見えた。 そして叩き付けられた何かから強烈な光が発せられる。 「うっ!?」 バイザー越しでも眩しくて思わず目を閉じてしまう。 『閃光弾です』 そして腹部に感じる衝撃。 吹き飛ばされた私は仰向けに倒れてしまう。 逃げられたかと思い、すぐに起きると今度は横殴りの衝撃が私の頭を襲う。 (何が!?) 怯んだ私を更に連続して襲う衝撃。 一撃の威力はそれほどでも無いが、アーマー越しに着実にダメージを食らっていく。 何とかフォックスファクターの方も見ると、彼女は逃げずに腕を振っている。 そして彼女が腕を振る度に衝撃が私を襲う。 『恐らく鞭かそれに類する武器を使っているのでしょう』 よく見ると、何か紐状の物が動いているのが見えた。 迫り来るそれをスティンガンで防ごうとするが、早すぎて切り払えない。 おまけに暗くてはっきり見えない。 (一撃の威力はそれほどでもない。 何か盾の様な物が有れば、一部分だけガードして突っ込めるのに) そう考えて思い当たる。 私は右のボックスからスティックを引き抜き、相手から隠す様にしてスティンガンに差し込む。 一瞬で再構成されるスティンガン、もといニムブルクロウ。 その大きめの手甲の部分で顔をガードし、フォックスファクターが居る方に向けてダッシュする。 鞭の間合いの内側に入り、攻撃がやんだ所で私はクロウを振りかぶり、斬りつけた。 しかし、フォックスファクターはそれをジャンプで躱し、更に私の顔を踏み台にして後ろに跳んでいく。 「ふげっ!」 尻餅をつく私にセレナが話し掛けてくる。 「わ、私を踏み台にしただと!?」 『今の動きから察するに、この前と同じくスピード型のキメラですね』 それを聞いた私はすぐにニムブルモードにチェンジ、振り返ったフォックスファクターと向き合う。 「あやや、姿が変わりましたね〜。 ウチに対抗して速度を上げたって感じですか? さすが白い人、他のキメラを倒してきただけの事はありますね」 どうやら誰かから私の事を聞いている様だ。 「貴女はCCC団なの?」 「ウチを倒したら教えたげますよ!」 そう言って再び攻撃してくる。 暗闇に目が慣れてきた事と、ニムブルモードになって反応速度が上がったせいか、何とか鞭を見切れる様になってきた。 が、鞭は不規則な軌道を描く為、タイミングの予測がしにくい。 その為、避ける事は出来ても、近づけずに攻めあぐねていた。 『マスター、左です!』 突然のセレナからの警告に、私は反射的にクロウで防御する。 何とか間に合いクロウに当たる鞭。 しかし予想外な事に、鞭は弾かれずにそのままクロウに巻き付き、私とフォックスファクターは鞭で綱引きの様な状態になってしまう。 向こうにとっても計算外の事だったらしく、慌てて鞭を引っ張っている。 鞭は解けず、モードチェンジでパワーが下がっている私は踏ん張りがきかずに、段々引き寄せられてしまう。 が、そこで一つ作戦を思いついた私は早速実行に移す事にした。 引き寄せられながら、鞭の端を持ち、それをクロウに改めて縛り付ける事で外れない様にする。 更に右手でベルトを操作し、デフォルトモードにチェンジ。 パワーが戻った私は、その場で踏ん張りに拮抗する。 「うぬぬぬぬぬぬぬ・・・」 「むぐぐぐぐぐぐぐ・・・」 完全に綱引きだ。 そして目一杯拮抗した所で、私は突然クロウを外した。 「え?わきゃああああああああ!!?」 拮抗していた力を失い、自分の勢いで後ろに跳んでいくフォックスファクター。 その隙を逃さずもう一度チェンジしながら駆け出す私。 加速した私は、尻餅をついたフォックスファクターが起き上がる前に距離を詰め、速度の乗ったドロップキックを放つ。 「おごおおおおおおおぉぉ!?」 壁まで吹っ飛ぶフォックスファクターを追いかけて再びダッシュする。 そして壁に叩き付けられ崩れ落ちたフォックスファクターの上に馬乗りになり、デフォルトモードにチェンジ。 途中で回収したニムブルクロウを突きつける。 「ま、参った・・・」 降参するフォックスファクター。 それを聞いて私は一息ついた。 「さて、じゃあ私の質問に答えて貰うよ」 マウントポジションを解きつ、壁にもたれかからせたフォックスファクターに刃を突きつけながら問いかける。 渋々頷くフォックスファクター。 「まず、貴女はCCC団?」 「そうだよ、上の人に頼まれてウチはここに忍び込んだんだ」 「じゃあ、最近の連続窃盗事件は貴女の仕業」 「それも正解。 この周辺のキメラ関連の施設や企業なんかが標的」 なるほど、じゃあ一連の事件はこれで解決と言う事か。 「一体何を探していたの?」 「この第三封印特区の関連資料を集めていたんだ。 上の人は有るキメラを探してるらしくて。 管理している側の資料から何か分からないか、って事らしい」 「第三・・・封印特区? 何それ」 「アレ?知らんの?」 訝しげな様子のフォックスファクター。 「知らないから聞いてるんだけど・・・」 世間では常識なのだろうか。 記憶喪失が恨めしい。 「まぁ、知ってるのは一部のキメラだけだろうし、一般人が知らないのも仕方ないかもね」 ちょっとホッとした。 「その封印特区って何?」 「簡単に言えばキメラを纏めておく為に、政府が指定・開発した地区って所ですかね。 この区域はその三番目。 だから第三封印特区」 「そんな物が有ったなんて。 なんでそんな事・・・」 「表向きは一般人とキメラの余計な軋轢を防ぐ為の予防策って事らしいですよ。 でも本当は別の目的も有るんじゃないかって言われてる」 含みがある様な言い方をするフォックスファクター。 「そ、その目的って・・・?」 恐る恐る聞いてみる私。 「それは・・・・・・『“ヴィーム”マスター!左方から高熱源体接近、下がってください!』 「!?」 フォックスファクターが口を開いたその時、ブザー音と供にセレナの鋭い声が私の耳に突き刺さる。 「?」 その声に反射的に後ろに跳ぶ私を、訝しむフォックスファクター。 「ど・・・」 次の瞬間、左の空いていた扉から飛来した炎の塊が、フォックスファクターを飲み込んだ。 *** 猛烈な勢いで燃える炎が倉庫を赤く照らす。 「う・・・あ・・・」 思わず脱力して両膝をつく。 目の前で起こった現象を理解する事を、脳が拒絶していた。 「何・・・・・・が?」 悲鳴すら上げずに燃えるフォックスファクター。 不思議な事に、炎は床や資材などには一向に燃え移らず、フォックスファクターの体と彼女が背負っていたバッグのみを燃やし続けている。 「本当に甘いな、貴様は」 火球が飛んできた方向から声が聞こえてきた。 呆然としたまま、声の聞こえた方に顔を向ける。 声は空いていた扉の方から聞こえてくる。 後ろの下がった為、扉の向こうは死角になっているが、中から赤い光が漏れているのが見える。 (・・・火?) はっきり動いてくれない頭でボンヤリとそんな事を考える。 足音と供に、漏れ出る光は段々強くなってくる。 その光を放っている“何か”が近付いているようだ。 そして“それ”は姿を現した。 それは一言で言えばそれは赤いライオン人間だった。 二メートルを軽く超す身長。 野性味を感じさせる逞しい体の各所に纏った、オレンジ色の模様の入った赤い装甲。 (ライオンの改造人間・・・?) だが、それにはライオンと言い切るのは躊躇われるような、大きな特徴がある。 ライオンの物を模したような頭部の周りから生えているのは、獅子の鬣ではなく燃えさかる炎だった。 それが周りを赤々と照らしているのだ。 『該当データ有りました。 かつての戦いで世界で20体程確認された、自然物を操るキメラ、通称“エレメントシリーズ”の三番目の個体。 識別コードは“フレイムファクター”です』 (フレイム・・・ファクター) セレナの言葉を心の中で反芻する。 “フレイムファクター”は、燃え続けるフォックスファクターを一瞥すると、右手の上に直径20センチ程の炎の玉を出現させ、握り潰した。 そこから飛び散った火の粉は、それぞれが30センチ程の火球に変貌し、彼の周りを浮遊。 そして、彼が指を鳴らした瞬間、フォックスファクターに殺到し、巨大な火柱を生み出した。 その様を見届けたフレイムファクターは、私の方を向いて口を開く。 「全く、いつまでゴミなんかと喋っているつもりなんだ? 任せるつもりだったが、じれったくて手を出してしまったぞ」 若い、男の声だった。 その言葉を聞いた瞬間、急速に思考がはっきりし、胸の奥に灯がともる。 「・・・・・・」 「何故黙っている? 獲物を取った事を怒っているのか? それは悪かったが、チンタラしている貴様も悪いぞ」 フォックスファクターを燃やした事を、まるでちょっとした手柄を奪ってしまった事のように言う彼。 「・・・・・・で・・・・・・だよ・・・」 「ん?」 「なんで殺したって言ってるんだ!!!」 堪えきれず感情が爆発してしまう。 「アイツは降参していた! 話を聞いたら力を封印して捕縛するつもりだった!! 殺す必要なんて無かったじゃないか!!!」 私の怒声を聞いても、彼は「何を言っているんだ」と言った表情を浮かべるだけだ。 「ふん、ゴミは燃やす。 当たり前の事だろうが。 それに所詮ゴミの言った事だ、降参したというのも貴様を油断させる為の演技だったかも知れんぞ?」 「さっきからゴミゴミって、何の事だよ! アイツの事を言ってるの!!?」 「正確にはそこの燃えているゴミの様な、“力”を使って人に仇成す輩のことだ。 そんな奴等には生きている価値も無い。 むしろ死ぬべきだ。 それにこうして処分しておけば、他のゴミ共への抑止にもなる」 「でもその人達にだってやり直すチャンスは有っても良いはずでしょ!!? アンタにそれを奪う権利があるって言うの!!!?」 「有る」 そう答え、彼は右腕を見せる。 その手首には赤いリングが巻かれている。 「俺は政府直属の対キメラ特殊部隊”スティンガー”、その二番隊隊長を勤めている。 俺達には、人の害となるキメラを独自の裁量で処分する権利が与えられている。 今回そいつを処分したのは上からの命令だったがな」 『恐らく嘘ではないでしょう。 あのタイプの制御リングは一部の特殊なキメラにしか支給され無い物です』 フレイムファクターの言葉を疑う私に、セレナの助言が待ったを掛ける。 「そんな・・・だからってこんな簡単に殺して良いはず・・・」 政府が、国が権利を与えていると聞いて揺らいでしまう私。 「そこが甘いと言うんだ。 人に害をなした瞬間から、コイツらはもう人間じゃない。 只の敵で、ゴミだ」 『堪えてください、マスター。 今のマスターでは万に一つも勝ち目はありません』 「・・・・・・・・・」 どう言い返せば良いのか分からなかった。 それでも私の心は納得しない、コイツの行動を許してしまえばこれからも沢山の改造人間が殺される。 たとえ一時、力に酔って調子に乗ってしまっても、それを正してやり直すチャンスが有ったって良いと思うのだ。 絶対に許されない人だって居るかも知れない。 でも全ての改造人間が許されない訳じゃ無い筈だ。 だが、コイツはそんな改造人間全てを殺すと言っている。 「あ・・・う、あ、あああああああああああああああ!!!!!!」 『マスター!?』 怒りと、何か別の感情が爆発する。 気がつけば私は先程のセレナの警告も忘れ、フレイムファクターに向かって叫びながら駆けだしていた。 「やれやれ、貴様と事を構えるつもりは無いんだがな・・・」 相手が何か言っている様だが、暴走した頭では上手く理解できなかったので無視した。 フレイムファクターとの距離を詰め、左腕のニムブルクロウを振りかぶり、貫く様に突き出す。 左腕に伝わる手応え、倒したと思った。 だがそこで猛烈な熱さを感じる。 慌てて腕を引き抜くと、私が今貫いた物を見る。 それは――――― 「嘘・・・何で・・・・・・」 先程フレイムファクターに焼かれ、今や殆ど炭の塊と化しているフォックスファクターの亡骸だった。 直後、フォックスファクターが大爆発し、私は爆風に吹き飛ばされ、勢いで物の山に突っ込む。 崩れた山の中から何とか這い出した時には、もうフレイムファクターは何処にも居なかった。 辺りは今の爆発でうっすらと粉塵が舞い、倉庫の中に納められていた資材等は、皆滅茶苦茶に散乱している。 「セレナ!」 『ダメです、感知できません。 既に変身を解いているのでしょう』 逃げられた、否、見逃して貰った? (違う) 恐らくは戦う気すらなかったのだろう。 それどころかアイツは私の味方のつもりだったのかも知れない。 実際、さっきのは戦いなんて呼べる様な物じゃなかった。 一方的に突っかかって勝手に吹き飛ばされただけだ。 「・・・クソ」 床を叩く。 悔しかった、相手にすらされなかった事が。 「くそっ」 さっきより強く叩く。 悔しかった、あの改造人間を死なせてしまった事が。 「くそぉ!」 床が割れる程に殴りつける。 悔しかった、アイツを相手に最後まで思いを主張し通す事が出来なかった事が。 「くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くっそぉおおおおお――――!!!」 何度も床を殴る。 悔しすぎてもう考えがまとまらない。 「うう・・・」 “ポタリ”と床に水滴が垂れる。 涙だった。 バイザーの内側を流れて床に落ちた様だ。 その一滴を皮切りに、堰を切った様に両目から止めどなく涙が溢れ出す。 「う・・・ううぅ、うあぁ・・・・・」 バイザーと床を濡らしていく涙。 『マスター・・・』 そのまま蹲る。 「うえええぇぇぇ―――ん・・・」 そして蹲ったまま、私はしばらく子供の様に泣きじゃくり続けた。 *** 倉庫から出て、彼は外に置いておいた鞄から服を取り出し、変身を解いた。 手早く服を着て、鞄を手にその場を後にする。 彼はこの後の事について頭を悩ませた。 あの倉庫は元々の用途が用途だけに、あの程度の爆発で壊れたりはしないだろう。 しかしあそこにあった資材や資料はそうも行かない筈だ。 最近はあまり貴重な物は入れられていないと聞いては居たが、それでもタダではないだろう。 それに大掛かりな掃除も必要なはずだ。 (最後に爆発させたのはやり過ぎだったか・・・) 密かに後悔するがもう遅い。 (これは始末書物だな) 後悔とは別に彼の頭を占める事があった。 先程、自分があしらった白い少女。 事前に呼んだ資料では“セレナ”と書かれていたか。 余計な感傷を挟まない為に、本名と顔は知らされていないが、それ以外の背景は概ね把握している。 彼女がキメラで、以前の記憶を失っており、更にかつては“自分と同じ”エレメントシリーズの一体だったと言う事も。 彼はかつての彼女を知っていた。 と言っても人間としての彼女ではなく、風を操るキメラ“コンドルファクター”としての彼女だが。 そして彼女が“組織”で受けた仕打ちもだ。 それを思えば、彼女が自分以上に“悪のキメラ”を憎んでいてもおかしくは無いと考えていた。 だがさっきの彼女は、記憶を失っているとは言え、ヤツらにチャンスをあげたい等と甘い事を言っていた。 それに対して感じたのは苛立ちと、ほんの僅かの期待。 (もしもアイツが記憶を取り戻したら・・・) その時彼女はどうなるのだろうか。 自分と同じ結果を出すのか、それとも或いは・・・・・・。 (今俺が考えてもどうにもならんか) そう考えて思考を打ち切る。 (それよりこの件をどう報告するか、だ・・・) いずれにせよ始末書は免れないだろう、と憂鬱になりながら彼はこの町での活動拠点に向かっていった。 |
@PF
2009年04月03日(金) 01時19分34秒 公開 ■この作品の著作権は@PFさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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もう少しで月曜日になる……なんだろう、このやるせなさ。orz >セレナ もう変“身”ベルトじゃなくて変“態”ベルトに改名しちゃいなYO! DX変態ベルト、セレナ! 税込み3490円! みたいな? というか、鷹音ちゃんを起こすのになぜ“萌え”を選択したんだぜ……w >曲がり角でごっつんこ な ん と い う ラ ブ コ メ ! >マスコット・クロ とりあえず登場もしていない所長さんがどんどん変態キャラになっていくのはいいんでしょうか?w だが『ボクっ娘萌え!』には全力で同意します。 >動いたら撃つ☆YO 外道だ! バックを取って銃を突きつけるとか、本気で外道だ!? しかし鷹音ちゃんはフォームチェンジを上手いこと使ってるなぁ……。 >ELEMENTS 『剣』後期OPですね、わかります。(違 冗談は置いといて、鷹音ちゃんの過去に関わるキャラがようやく登場。 ……ようやく? セレナってまだ六話じゃね? 早くね? ……面白いからいっか!(ぉ で、フレイムファクターさんはどうもキメラのことがめちゃめちゃ嫌いみたいですネ。 今後どういう感じで鷹音ちゃんとバトるのか。 でわー、今回はー、この辺でー。 >ディケOPのPV付きCDを手に入れ損なった ふはははは、オイラは手に入れたモンねーっだ。 いーだろー、羨ましいだろーw 【 このあと、YPは@PFさんにふるぼっこにされたという…… 】 |
50点 | YP | ■2009-04-05 21:43:17 | i121-118-1-40.s11.a028.ap.plala.or.jp |
>慌てて冷蔵庫からウィダ○ンゼリーを六パック取り出し鷹音ちゃんの口に流し込みました。 やめてー。それは下手すれば窒息死するわー。(棒読み 世の中には自分で凍らせたこんにゃくゼリーを子供に与えて殺しといて それで会社に損害賠償請求する害虫レベルのバカもいるんだからー。(謎 つーわけで、人間もっと自己責任という言葉を知るべきだと思う、オレ、さんぢょ。 >何なの、今のキモイ三文芝居は? 相変わらずステキAIで好きだなーセレナちん♪ 一家に一台! 【 それはさすがにどうかと 】 >住宅街を四枚目のフレンチトーストを咥えながら喋りつつ、走る私。 いやその鷹音ちんいかにキミがハラペコキャラかつ 朝はちゃんと食うべきとは言え、フレンチトーストで4枚は食べすぎw ……太るぞマジで? そしてくわえて走るパンはすなわち転校生の召喚アイテム(ぇ、 ほらきた謎の転校生、謎の転校生=敵か味方かわからん存在、ってのは いいとして……って、灰斗くん、「鷹音ちん=コンドルファクター」の構図には 気づいてへんわけやね。まぁ今回は鷹音ちゃんとフラグ立ててるわけでも ないから今気づいても確かに微妙ですが、コレがこの先どう効いてくるか…… とりあえず互いの正体しらずに親交深めていくのはお約束ですねー。 >というか変身に干渉する機能を付加するとか、どう考えても技術の無駄遣いだろう。 「洗練された技術に、如何に無駄な要素を付加できるかどうかが科学者の 才能であり業なのよっっ!」と、広瀬博士とか某ネットワークの人たちとかが オイラの脳内で申しました。(ぉ >そして彼女が“組織”で受けた仕打ちもだ。 このセリフでえっちな方面を想像した俺様は鷹音ちんにぶん殴られる前に逃げるので、ではまた。(ぉぃ |
50点 | 八兎ジャック(祝!偽書ゲッターロボ連載再開決定♪) | ■2009-04-04 23:52:35 | 35.234.210.220.megaegg.ne.jp |
ども、DarkMoonNightです。感想行くぜ!! >あらすじ 巻奈さんがやると響鬼みたいだ!!そして、ドンだけ消耗してんだよ鷹音ちゃん・・・・・・ >朝 吹いたwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwやべぇ、AIセレナが可愛く見えてきた・・・・・・あ、鷹音ちゃんたちも可愛い(巻奈さんは綺麗です)よ? >学校 お約束のパターンだが、へたれな鷹音ちゃんが面白いぜっっ!!しかし、気になるのは柚乃っちの話す内容でもあるんだぜっっ!! >クロちゃん ・・・・・・うん、気持ちはわかるんだ・・・・・・けれど、そんなことに力を使うなら、セレナの改良が先でしょうがっっ!!このままじゃ鷹音ちゃんの食費でやばいことになるぞっっ!!しっかりしろ所長!! >フレイムファクター 言っていることはわかるんですけどね・・・・・・セレナの言い分も正しいものがある。 いずれ改心することになるのか・・・・・・?正体はなんとなく想像つきますけどね。 というか、最後で鷹音ちゃんのお兄さんみたいなイメージがわいた俺は何なんだ!? それでは今回はこの辺で・・・・・・ |
50点 | DarkMoonNight | ■2009-04-02 10:42:58 | p4077-ipad04yosemiya.okinawa.ocn.ne.jp |
合計 | 130点 |