仮面ライダーザベル 第七話
「うあぁぁ!」

 資材を崩しながら吹き飛ばされる光。

(光、しっかりしろ!)
 
意識を途切れさせまいと声をかけるザベル。
剣を杖代わりにして立ち上がると前方から
泰然とした歩調で悪魔が近づいてくる。

(やはり力の差がありすぎる! 光ここは逃げろ!)
「そんなことできるか!」
 
両足に力を込めて走り出す光。
悪魔は悠然と待ち構え、迫る刃を迎え撃つ。
だらりと下げたような構え。
 光の剣が届く寸前、刃先が霞むほどの速さと
風圧をまとって弾き返した。
両者はほぼ同じ長さの剣だが、
まるで鉄塊で打ちつけられたような衝撃が光の全身を駆け巡る。
アスファルトに足裏を擦りながら止まると、
悪魔が見下すように光を睨みつけていた。




「ふあぁぁ……」

 光が口をあんぐりとあくびする。
首を回して、まどろみからの脱出を試みている。

「退屈そうだな」
 駿二も同じく眠たそうな目。

「ああ、退屈だ……」

 光が頬杖をついて頷く。

「やっぱこの時期の授業はきついよな。ついついうとうとしちまう」」
「……それも、あるけどな……」

 お前いつも寝てるだろ、という突っ込みを心の中でしておく。
 光は別のことを考えていた。
悪魔のこと。
最近は事件も起こらず平和な日々。
なりを潜めたかのように悪魔の動きがなかった。
むしろ喜ばしいことなのだが、光の中では
もやもやとした気分となっている。
いつのまにか生活サイクルに
悪魔との戦闘がすっかり組み込まれていた。
 駿二が細めた瞳で光を見る。
ため息をもらすところを見るに
何か訳ありにも感じる。

「あたしも暇なんだけど、何か面白いことしてよ」

 と、割って入る優香。
彼女も事件の情報がなくなったことに不満があるようだ。

「新聞のネタになるのはごめんです」

 駿二、肩をすくめて軽く流す。

「じゃ、光くんに頼もうかな」
「……なぜそうなる」
「その退屈そうな顔になにかありそうだから」

 鋭いのそうでないのか、
よく分からない根拠をもってにじり寄る優香。
間合いを取る光。いましも接戦が起こりそうな雰囲気を横目に、

「で、鈴ちゃんあいつなんかしたの?」

 鈴に尋ねてみる駿二。鈴は光とは逆のすました、表情の読めない顔。

「さあ……?」
 
一言だけ呟いて光眺めていた。




 真っ暗な夜道。
等間隔に築かれた街灯がか細く周辺を照らしている。

「く、来るなっ……!」

 警官が自転車を立ち漕きしながら全速力で走っている。
何度も背後を振り向きながら危なげに道をひた走る。
後方では街灯に何かが現れ、そして消える。
目を凝らせば見えそうな、異形の姿が警官へと迫る。
どれくらい走ったか、いつもの巡回コースを大きく外れ、
ようやく立ち止まる。
荒く息づきながら背後を確認し、異形の怪物が立っていた。
闇夜にくっきりと浮かぶ刃の双眸。
 警官は震える手を拳銃に添える。
異形がそれよりも早く手にした水晶球を警官に向ける。
淡く輝く水晶。
次の瞬間、警官が声もなく水晶球に吸い込まれた。
 異形は水晶球をしまい、残像を残してその場から消失した。
後には自転車が一台残されていた。




 光の自室、ポリンと遊びながら
学校と同じように退屈を紛らわしていた。

「今日は悪魔の出現もなさそうだな」

特に用もなく窓の外を見つめる。
どこか残念そうな響きである。

「光様の強さに恐れをなしたのですよ!」

 と、ポリン。
宙を浮きながら我がことのようにはしゃぐ。

「そう? いや、まあ確かに強くなったって感じだけどさっ」

 思わずにやける光。反面浮かない顔の鈴。

「もっと強い奴が出てきてもいけるんじゃないかなぁ」
「そういうこと言って、本当に強い悪魔が出てきたらどうするの?」
「そりゃ倒すさ。大丈夫だってっ、
これまで何度も悪魔を倒してきたし、仲間だって出来たんだから」

 光の声が弾む。
確かにその通り。しかし、危ない場面も多々あれば油断は禁物である。
気持ちを引き締めるべきなのだが、
ポリンと遊ぶ光を見る限り
分かってくれるか怪しい。
 鈴がザベルに視線を向け助け舟を求める。
つっかえ棒にぶら下がったまま一言もなし。
普段の彼なら小言の一つや二つありそうだが。

「ちょっと飲み物もって来るな」

 光が部屋を出て行く。
廊下を歩く足音を聞きながら、

「ねえ、ザベルちゃん……」

 ザベルは閉じていた目を開き、体を振り子のように揺らす。

「ほっとけ。ああいうのは言葉で言っても分からんさ」

 ザベルは放置を主張。
一度痛い目にあえばいい、そう言って口を紡ぐ。
ザベルも意見を変える気はないなだろう。
鈴は小さくため息をついた。




「昨日、警官が一人行方不明になったらしいってよ」

 駿二がそう言った。
道に自転車だけが放置されていたからだ。
目撃者はなし。それどころか
警官以外にも何人かいなくなっているらしい。

「悪魔の仕業かなぁ……」
「なんか言ったか?」
「えっ、いやなんでもない」

 授業が終わったら行ってみよう。光は誰となしに頷く。
心なしか、気持ちも逸る。
鈴はそんな光の様子を見逃さなかった。
 一日の授業が終わり、そそくさと帰り支度をする光。
鈴が近づき小声で話しかける。

「光……」
「ん? なに?」
「悪魔のことだけど……」
「ああ、ちょっと探してみるよ」
「それはいいけど……でも、何か嫌な感じがして……」
「平気だって。先に戻ってザベルと行くから」
「あっ、光……」

 光は呼び止めようとする鈴を置いて教室を出て行ってしまう。
残った鈴は不安の表情でそれを見送っていた。




 ザベルを伴って人の襲われた現場近くへと到着。
ザベルは人形のふりをして鞄に収まっている。
閑散とした道。出歩く人間はいない。

「どっから探してみるか」
「誰もいないんだ。適当に歩いてみればどうだ」
「それもそうだな」

 光は目的地を決めず歩き出す。
どうも敵の出現を待ちわびている感じがする。
 ザベルは肩をすくめる。
思ったとおりちょっといさめた程度では聞きそうになかった。
少し歩き、曲がり角へ差し掛かると、

「あれ、光君?」
「げっ……高橋……?」

 先から現れた優香に思わず唸る。

「何よ、げっ、て」
「あ、いや、それよりなんでこんなところにいるんだよ」
「私は行方不明の事件で調べにきてみんだけど」

 そういえば真っ先に教室を飛び出す姿を見た気がする。

「光君はなにしてるの? 家こっちだっけ? 
あ、でも着替えてるし」」

 光は目をそらし思案する。
とりあえず相手に合わせてみる。

「えっと、俺もその事件が気になったりしちゃったり……?」
「へえほんと? じゃ一緒に調べようじゃない」

 優香は特に疑うことなく協力を求める。
 どうするか。もし悪魔に会ったとしても
彼女がいたら戦うことが出来ない。
どうにか言い訳を考え、

「ちょっと待って、メールが……
あ〜用事が出来ちまった。家に帰んないと……」
「そう? 残念。あたしはもう少し調べるから」
「ああ……そっちも気をつけろよ」

 歩き出す優香。
だが、やはり危険だ。すぐに帰る様言うべきか。
しかしそうすると、さっきの台詞は失敗だったかも。

「後ろからばれぬようついてったらどうだ?」
「あ−そうしてみるか……」
 
ザベルの提案にのり優香の後を追う。
人の目が多い工場付近や家の周辺を散策している辺り
警戒はしているようだ。
しかし尾行などしたこともない光。
見つからぬように慎重に行き過ぎて距離が開いていく。
そしてある角を曲ると、突然彼女の姿が消えた。

「おいっ、高橋の奴何処いった!?」
「その先の工場……悪魔の気配だっ」

 すると工場の入り口からにわかに光が漏れ出した。
急ぎ駆けつけ、工場の門の前に到着すると、悪魔の後姿があった。
 悪魔が光に気づきゆっくりと振り返る。
その姿は豹に酷似している。
真紅のマントを身に纏い、左手に水晶のような石を持っている。
たたずむ姿はこれまでの悪魔と異質な気配を漂わせていた。

「お前がみんなを!」
 
光が叫ぶ。対してザベルが珍しく焦りをにじませる。

「光……退けっ」
「なに言ってんだ! 出来るわけないだろ!?」

 ザベルにしてはありえない台詞。

「分からんのか! あいつの強さを!」

 ザベルがさらに声を荒げる。
端から見れば独り言しか見えない光の姿を悪魔は睨みながら、

「……悪魔を狩る人間とは貴様のことか?」
「……そうだ!」
「ほう、やっと出てきたか。
我が名はオーゼ、悪魔貴族オーゼなり! 貴様に勝負を挑む!」
「悪魔貴族……!」

 ザベルが良く口にする単語。彼以外の初めての貴族。
普通の悪魔よりも強いというが、退くわけにはいかない。

「ザベルいくぞ!」
「……どうしても戦う気か」
「当たり前だ!」
「ええいっ、仕方ない!」

 ザベルが鞄から飛び出す。

「何だ貴様は」
「我が名は悪魔貴族ザベルっ」

 ザベルが名乗る。しかしいつものような余裕が感じられない。

「貴様が……? まあよい戦ってみれば分かること」

 オーゼが右手に直剣を生み出す。
 光も変身する。
オーゼがそれに僅かな驚きを見せる。
確かに変わっている。
だが、すぐに平静に戻り、

「人間はこの中だ。貴様が勝てば開放してやろう」

 左手の水晶球を持つ腕を上げる。
光が屈折し内部が歪む水晶。
その中に捕らえた人々、そして優香もいた。

「お前もソールってのをを奪うつもりか!」
「そんなもの興味ない。私が求めるは強者との戦いのみ。
こいつらはお前を呼び出すために捕まえただけのこと」

 オーゼが直剣を垂直に掲げる。全身から溢れる闘気。
周りの空気がピリピリと肌を突き刺すようである。
光も剣を生み出し構える。
 僅かな沈黙。光が先手を打つべく駆け出した。
真っ向から切りかかる。下段からの斬撃。
 オーゼは剣を持ち上げて受け止める。
体を反転させ、左側面から斬りつける。
しかしまたもや受け止められる。
続いて連続で打ち込むもすべて防がれる。
腕だけが別の生き物のように動き、
一度もその場から動いていない。
両眼も宙を見据えたままである。
その目が突然光に向けられた。
刃の瞳、剣が振り払われる。
巨岩がぶつかったように後方へ弾き飛ばされる

「うあぁぁ!」

 資材を崩しながら吹き飛ばされる光。

(光、しっかりしろ!)
 
意識を保とうと声をかけるザベル
剣を杖代わりにして立ち上がると
前方から泰然とした歩調で悪魔が近づいてくる。

(やはり力の差がありすぎる! 光ここは逃げろ!)
「そんなことできるか!」
 
両足に力を込めて走り出す光。
悪魔は悠然と待ち構え、迫る刃を迎え撃つ。
だらりと下げたような構えだが、
光の剣が届く寸前、風圧を纏わせながら弾き返した。
 光とほぼ同じ長さの剣だが、
まるで鉄塊で打ちつけられたような衝撃が全身を駆け巡る。
アスファルトに足裏を擦りながら止まると、
悪魔が見下すように光を睨みつけていた。
ゆっくりと近づくオーゼ。手に持つ水晶の奥で人の姿が揺らめく

(おい、あいつの持つ水晶球に気をつけろよ。
割れたら中の人間が最悪死ぬかもしれんぞ)
「分かったっ……!」

 だが、正攻法は難しい。奪い取るのも至難。
下手をして割っては元も子もない。
兎にも角にも、まずは動きを止めねば。
 低い姿勢から駆け出す。
下段から振り上げるもたやすく受け止められる。
今度は止まらず、相手の死角に入るよう動き回る。
速さで撹乱しながら隙をうかがう。
縦横無尽、しかしそのことごとくがすべて無にされる。
相手はほんのわずかに体をさばく程度で確実に光の動きを追っている。

「この程度か?」
「なに! ――うっ!?」

 刹那、オーゼの姿が消えて剣撃を空振りする。
正確にはわずかな残像を残して高速移動した。
 光の目では追えない。ザベルも捕らえきれない。

(後ろだ!)

 ようやく感じた気配に振りかえる。
胸部に受ける重厚な衝撃。
資材を撒き散らしながら転がる。
装甲が深く抉られている。
もう一歩踏み込まれていたら、
肉の部分まで削られていただろう。
オーゼが立ち止まる。
濁った黄土色の煙が徐々に晴れていくとその先に光はいない。
奥の倉庫を確認し歩みを進めていく。
 光は二階部分に置かれた資材に身を潜めていた。
不意打ちとは情けないが、それでも人質を何とかするには
これぐらいはしないととても太刀打ちできない。
入ってきた瞬間に炎の魔法を打ち込む。
当たらずとも意識がそれれば、その隙に水晶球を奪う作戦だ。
 できるだけ呼吸を、ゆっくりと行う。
少しでも高まる緊張を和らげ、タイミングを計る。
夕闇に伸びる相手の影が見えてきた。
手に意識を集中させ、構える。
一歩、二歩と入り口に近づき、
体が見えた瞬間、手に火球を生み出し放った、が――

「ゴウライっ!」

 オーゼが眼前にエネルギーの塊を作り出し、剣で打ち放つ。
炎よりも熱く焦がす雷球が周囲の大気を感電させながら照らす。
過たず光目掛け飛来、火球をたやすく飲み込み、光に直撃する。

「うあぁぁぁ!」

 辺りの資材諸々を爆砕させながら、光が手すりから落下する。

「ふん、つまらん小細工だ。もっと私を楽しませろっ」
「くそ……!」
 
立ち上がり、剣を掲げながら突進する。
構えも何もない破れかぶれの姿勢で向う。

「シンライっ!」

 獣が吼えると、オーゼの周囲がにわかに帯電し、
取り囲むように放電する。
さながら雷の盾をまともに浴び、全身を焼かれていく。
白煙をあげながら崩れる光。なんとか膝をついてオーゼを睨む。

「まだ……まだっ」
「その心意気はよし。
しかし腕は未熟以外何者でもない。
貴様はそれで悪魔をどうしようとしていたのだ?」

 以前にも聞かれた気がする。光は荒く息を吐きながら、

「お前達から街の人たちを守るためだ!」

 オーゼが苦笑、いや、失笑する。

「なにがおかしい!」
「その体たらくでか」
「うるさい! お前らこそ勝手なことしやがって!」
「他の悪魔のことなど私は知らん。私が欲するのは力だ。
いついかなるときも己の力を極め、他者を倒し、頂を目差す。
力こそ全て! しかし貴様はそのざまで正義感を振りかざし
守るとほざく貴様の姿、なんとおこがましい。
しかも、ザベルの名を騙る愚かな悪魔の力を借りてまで。
生死をかけた戦いにおいて、力なき者に剣を振るう資格なし!」

 獣の恫喝に光は二の句を継げない。
確かにこの状況、彼の言うとおりである。
人質を助けようとしながら、攻撃は相手にかすりもしない。
力量の差は圧倒的過ぎる。
 また、ザベルも苦虫を噛み潰したように唸る。
相手の戯言に惑わされぬよう諭すべきだったが、
出会った悪魔が言っていた様に本当のザベルなら
この悪魔すら倒せたのではないか。実は自分は違うのかと思うと
なにも言葉に出来なかった。

「さて、話も終わりだ。その意気に免じ、
一刀のもとに両断してくれる!」
「あっ……!」

 オーゼが水晶球を放り投げた。
光が反射的に飛びつく。
オーゼの脇を抜け腕を伸ばす。
千切れんばかりに伸ばし、世界がスローになったかのように、
水晶球はゆっくり落下する。
あと少し、もう少し、指先まで力を込めるが、
無常にも僅かに足りない。
だめか――! 光の嘆いたその瞬間、

「ポリンスライディングー!」

 場違いな声と共に光る物体が水晶球を支え、
そのまま地面につぶされた。

「ポリン――!?」
「光っ」

 外から駆けつけてくるのは鈴、呆然とそれを見る光。

「仲間か。それにシュプライトーをつれているとはおかしな奴ら――」

 オーゼが背後に殺気を感じて振り返る。
刹那、剣と弾丸が衝突する。さらに二発、三発。
全て弾き返し、火花の散る先を見やる。
ライフルを構え疾走する悪魔目掛け水平切り。
悪魔は宙を一回転、刃をかわして光たちの側に降り立つ。

「おまえ……たしかボーグアイ……」
「なにやら面白い奴と戦ってんな。」
「ほう、貴様も仲間か?」
「仲間? んなわけねぇだろっ」
「ふんっ、まあよい、少しは楽しませてくれると良いのだがな」
「後悔するなよ!」

 ボーグアイがライフルについた魔道具をエメラルドに輝かせる。
銃口に真空の螺旋が渦巻き、銃弾と共に放たれる。

「ゴウライっ!」

 オーゼが雷球で相殺。周囲に撒かれる放電の残滓と突風。
戦士の勘か、接近を控え、アウトレンジで仕掛ける。
残像を後に残して迫るオーゼ。
的確に銃弾を弾き、牙をむいて横殴りの剣撃。
間一髪、低い姿勢から横転して回避。
適切な距離を保とうと場所を移す。
あとを追うオーゼ。残された光たち。

「光……?」

 鈴は目を回すポリンを抱き上げながら呟く。
光は水晶球を手近の麻袋に置き、

「……なにやってんだ俺。勝手に突っ走って、このざまかよっ」

 盛大にため息、ついたと思えば壁に向っていきなり頭突き。

「なにしてるの光っ?」
「気合いれてるのさっ。そうだよ、
へたすりゃ死んじまうようなことしてんだ。
気持ち、入れ替えないとさ……!」

(……どうやら……大丈夫なようだな)
ザベルは結果的に荒療治が成功したことに確かめる。
自身の悩みもあったがひとまず頭の隅に追いやり、

(それで、どうする?)
「もちろん、ボーグアイを助けにいかなくちゃ」
(まあ、そう言うだろうと思ったわ)

 駆け出す光の背に鈴が語りかける。

「光、私は戦うこと出来ないけど……」
「分かってる。いてくれるだけで、心強いよっ」





「はぁっ!」
 
ボーグアイが風圧を纏う刺突を避けるが
皮膚には掠めるたびに傷ができる。
距離をとれぬまま構わず至近弾を放つ瞬間、
刀身が銃口を絡め取り軌道をそらされる。
発砲音、修正して再び相手の頭部をロックオン。
だがオーゼが微細な手首の運動で剣を一回転、
またもや軌道を変えられ、地面に穴が穿たれる。

「ちっ!」
 
ボーグアイの舌打ち。ライフルの長物では
敵の動きを封じることもかなわない。
ならば魔法だ。銃床の魔道具を輝かせる。
 オーゼの目が勝機に煌めく。
僅かな隙。集中された意識の一本線がぶれた感覚を察知して体当たり。
よろけるボーグアイ、魔道具の輝きが薄れていく。

「シンライっ!」

 雷鳴の如き咆哮、電光がボーグアイを飲み込む。
数秒、再び闇に戻り、焦げた異臭を放ちながらボーグアイが倒れる。

「終わりだ」
「くっ……!」

 鼻先に突き出される刃。
逃れることかなわない状況。
死を覚悟する。しかし、

「うおぉぉぉ!」

 暗闇から迫る紅い人影。刀身に紫炎がなびく。

「あいつ……!」
「……おもしろい!」

 豹が獲物の再来に笑みを浮かべる。
雷球の発生、光目掛けて打ち出す。
対して火球を作り投擲。衝突、熱風が撒き散らされる。
オーゼが上空を見る。上段に構え落下する光。

「でえぇぇぃぃ!」
 
燃えさかる剣の一撃。しかし止められる。
拮抗、いやわずかに押される。

「こっ……のぉぉ!」
(これは……!)

 光の内から湧き上がる力を感じるザベル。
ソールの高鳴りというべきか。
 オーゼが片手から両手に持ち替える。
一閃、オーゼがたたらを踏む。
 光も膝をつく。満身創痍、渾身の一撃にこれ以上は動けない。
だが、オーゼは仕掛けることなく剣を収める。

「両手で受けなければ危うかったか。
その力、実に見事。次に会うときまで、精進するのだな」

 後方に跳躍。工場の屋根に飛び乗り、そのまま姿を消す。
静寂、にわかに工場内で騒ぎが起こる。
どうやら人質が戻ったようだ。

見つかるとまずい。光たちは急いで場所を移していった。




「助かったよボーグアイ」
「礼なんざいらん。お前を助けにきたわけじゃないからな」

 ボーグアイ、背を向けて帰ろうとする。
まるで照れているようにもみえる。
闇にまぎれるように退散していった。

「今日はありがとう鈴」
「えっ?」
「鈴が来なかったらあのまま捕まっていた人が
どうなってたか分からないかったからさ……」
「いいよ、気にしないで。戦うことは出来ないけど、それ以外で
光の助けになることができるようにがんばるから」

 二人が微笑む中、ザベルが静かに虚空を見据えていた。

「ザベル様どうかしましたか?」

 ポリンが質問するがザベルは答えない。
今後あのような悪魔が出現したとき
今のままで勝利し続けることができるのか。
いかにして己の正体を突き止めるべきか。
課題は多い。

「ザベル様、二人とも行っちゃいますよ〜」

 力、そう何はともあれ、
あの悪魔に対抗できるくらいの力が手にする必要があるのだ。

「ざ〜べ〜る〜さ〜ま!」

 鍵は先ほど光が見せたソールの強さ。
感情で変化するソール。

「ザベル様? ザベル様??」

 人間だからあれほどの力が出せるのか、
光が特別なのか、それを調べるのも――

「ザベルさま――」
「ええい! さっきからうるさい!」
「ひゃあ! すいません……!」
「もういい、考えるのも面倒だわ。いくぞ!」
「はいです!」
「――というか、なぜ私を無視して帰ろうとしてるのだお前達は〜!」

 
文句を垂れながら光たちを追うザベルとポリン。
言われて気づいた光と鈴が立ち止まって
ザベルたちを苦笑しながら待っていた。

アジモ
2009年04月12日(日) 23時41分30秒 公開
■この作品の著作権はアジモさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ども、アジモです

最初の敵側の悪魔貴族の登場です。
力を求める武人気質の男であり
現状の力ではまず勝てない相手です。

また話も動き始めますのでお楽しみに

では短いですがこの辺で……

この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ


<<戻る
感想記事削除PASSWORD
PASSWORD 編集 削除