仮面ライダーザベル 第八話
 夜の街、きらびやかな光。
人々の道行を照らす輝きは同時に来い闇を生みだす。
闇の中をもぞもぞと動く影。おぼつかぬ足取り、
それは出来るだけ光に当たらぬよう移動していた。



 
夜道をジャージ姿で一人歩く駿二。
手にはコンビニで購入した品が入った袋を持っている。
 歩きながら、何か面白いことでもないかと思考中。
友人と会えばくだらない会話をするか、
ゲームセンターなどで遊ぶなど、
お決まりのパターンばかりである。
 ここらで一つあっと驚くようなことでも起きないか、
なんて途中で道を変えながら考えていた。
 急に街灯の数が減り、人気のなくなる道。
不審者の出そうな雰囲気だが、家に帰るならこちらの方が近い。
 駿二はすでに慣れた道を進む。
慣れてしまえば大抵なんでもないのだと思っていたが、
ところが今日に限り、その何かが起こった。
 前方の街灯にもたれかかる人物を発見。
周囲の闇の濃さが余計に引き立てる。さながら幽鬼を思わせる。
 駿二は僅かに身震いしながら、
努めて平静を装って素通りしようとする。
が、立ちはだかるように、人物がいきなり倒れこんだ。

「うぉ……! お……お? ……なあ、あんた大丈夫か?」

 駿二は奇妙な姿勢で固まっていたが、
様子がおかしいことに気づき
倒れた人物の側へしゃがみ込む。
浅く、時折か細いうめき声を発していた。
 暗くて判別しづらい変わった民族衣装のような服は
ところどころ擦り切れている。
穏やかならぬ状態であることは明白であった。
 救急車を呼ぶか、携帯を取り出しながら
相手の容態を確認しようとし、奇妙な点に気づく。

「耳……か?」

 駿二は相手の頭部に手を触れる。
それはどうみても獣の耳であった。




「くそっ! あの女どこに行きやがった!」

 地を揺らすようながなり声。
まるで火山が噴火でもするような轟音

「かしらぁ! 少しは落ち着いてくださいよ!」

 手下の一人――フロッグデモス・アクアンが
無駄と分かっていても諌めようとする。

「うるせぇっ!」
 
頭と呼ばれた悪魔は、予想通り話を聞くことなく
フロッグデモスを殴り飛ばす。
 ブルート一味の頭――ブルート。粗野で暴力的なこの悪魔。
それでも深呼吸をして自身を落ち着かせる。
 なぜこんなことになったのか。
ザベルの下についていた連中が
いきなり現れては、一味を壊滅させられそうになったのが始まりだ。
恐らく情報を売ったのがあの女だ。
せっかく生かしておいたのに、飼い犬にかまれたとはこのこと。
また新たな問題もある。
先にこちらに行かせた手下からなんの連絡もない。
全員始末されたか、そのまま逃げ出したか。
なんにせよ、こうもコケにされては腹の虫は収まらない。
 ブルートはこれまでのことを思い返し、またも怒りが沸騰してきた。
手下はこんどは近づかない、というより近づけない。

「いいかっ! あの女を俺の目の前に連れて来いっ! 
逆らったらどうなるか思い去らせてやるっ!」

 ブルートの号令に手下が逃げるように散らばっていった。




「ああ……じゃあ明日な」
 
光の自室にて、彼が携帯の通話をきる。
なにがあったのかいぶかしげな表情である。

「どうかしたの?」
 
鈴がポリンと遊びながら尋ねる。

「駿二がな、明日見てもらいたいものがあるんだと」
「ふうん、なんなの?」
「それが直接見てくれってさ。
というわけで、明日あいつの家にいってくるよ」
「分かった。あ、私も優ちゃんと出かけるから」
「ポリンも亀さんと遊んでくるですっ」

 ポリンは手を上げて二人に伝える。
亀とはローダスのこと。すっかり仲良くなったようである。
秋もたびたび訪れては遊んでいるようだ。
とはいえ、今のところ森の中で談笑するぐらいだが。

「そうすると……」

 光は天井の方へ視界を向ける。
つっかえ棒にぶら下がるザベル。
視線に気づき、

「そうだなぁ……たまにはお前についていくぞ」
「なにっ?」
「毎日、ぶら下がるか飛んでるかでは芸がない。
よってお前についていく。
その友達が言う見せたいものを見てみたいしな」
「え〜……」

 ザベルのことを駿二にばれるわけにはいかない。
当然拒否するべき。しかしこいつのことだ。
間違いなくついてくる。

「う〜ん、おとなしくしてるか?」
「無論だ。子供みたいにはしゃぐようなことはせん」

 とても信じられない台詞だが、
とりあえず彼の言葉を信じることにした。
こうして二人と二体のそれぞれの予定が決まり、夜が更けていった。




 翌日、光は駿二の家に到着した。
鞄を提げ、脇のポケットに人形のふりをしたザベル。

「なあ飽きてきたんだが」
「早っ。着いたばかりじゃないか」
「ぬぅ〜、ならばはよせい」
「たくっ……」

 光は敷地内を進んでいく
インターホンを鳴らし、

「よっ。ちょっとこっちに着てくれ」

 玄関を開け光を迎える駿二。
彼はサンダルを履き、裏へ案内する。
 この辺は昔ながらの古い家が多い。
駿二の自宅も光の家のと似た和風の一軒家。
庭を通り見えてくる小さな蔵。駿二の亡き祖父の所有物。
今はほとんど手付かずの状態。
 
「今はほとんど入る奴いなくてちょうど良かったぜ」
「なにがあるんだよ」
「まあ……見てもらった方が早いかな」

 急に神妙な面持ちで答えながら入っていく。続く光。
たびたび使用するためか、以外にも綺麗に片付いている。
そして古びた裸電球がぶらさがっている。
明かりをつけて奥へ。

「これなんだがよ……」

 脇へよって光を前に。
誰かが眠っている。
なぜこんなところに、という疑問が湧き、相手を凝視。
どこか違和感を感じ、そして思わず声を上げてしまいそうになる。
毛布をかけられ頭だけが出ている。
 髪の毛からのぞく丸みをおびた耳。
尖り気味の鼻。浅黒い肌。何処となく人間の顔に見え、
しかし明らかに違う存在。
今までの経験から光は悪魔であると気づく。
 ザベルもこっそりとその眠っている悪魔を見ているが、
特に驚いた様子はない。じっとその寝姿を眺めている。


「何だと思う?」
「いや、何だと言われても……」

 正直には言えない。分からない振りをしておくのが無難。

「まあ、わかんねぇよな」
「そもそもなんでここで寝てるんだよ」
「あー……いきなり倒れてきてな。
救急車を呼ぼうとしたんだがよ、その耳からしてどうにも
人間には見えないじゃないか。でもうわ言みたいに
人の言葉を話してたからよ……」

 光は悪魔の顔を覗き込む。
ゆっくりした呼吸で眠るその表情はやはり人間に似ている。
こういう種類の悪魔もいるということだろうか。
それはザベルに聞いてみればいいとして、
暗がりで会えば案外分からないものかもしれない。

「で、俺にどうしろっていうんだ?」
「それを一緒に考えようってことさ」

 駿二は光の肩をポン、と叩く。
表情はいつもの飄々としたものに戻っている。
さて、どうしたものか。
悪魔がらみはザベルに相談したほうがいいだろう。
ちらりと彼を確認。しっかり大人しくしているようでなにより。

「まずはこのあ――人が起きてから考えよう」
「分かった。それまで俺の部屋にでも行ってよう」

 駿二と光は蔵を出ようとする。
しかしザベルは鞄から抜け出すと、
光の耳元に寄り呟いた。

「少しこの悪魔の側にいる」

 思わず振り返る光。奥へと飛んでいくザベル。

「どうかしたか?」
「いや、なんでもないっ」

 外で待つ駿二から、ザベルを隠すように
移動しながら外へ出て行った。




 駅前、様々な店が軒を連ねる通りを鈴と優香が歩いていた。

「今日はあんまり良いものがなかったねぇ」
 
と呟く優香。そう言いながらも
しっかりと大量に購入した品を手にしている。
逆に鈴は小さ目の袋を一つ提げているだけ。

「そろそろお昼だけどどうする?」
「そうだねぇ……どこで食べようか」

 二人、通りにある飲食店のどれかに入ろうと
入り口の縦看板を値踏み。
するとにわかに強風が吹いてきた。続いて悲鳴。
声の方角から逃げ惑う人々。 
そしてその先には真っ黒な体躯の異形が暴れていた。

「なにあれ、なんかの撮影?」
「優ちゃん逃げようっ」

 状況を飲み込めない優香を引っ張る鈴。
しかし我先にと逃出す群衆にもまれて思うように進めない。
 
「優ちゃんこっちにっ」

 鈴は優香を伴い脇道へと避難、建物の側に隠れる。
ここで隠れていればやり過ごせるかもしれない。
 まずは悪魔が出現を光に連絡しようとする。
携帯を手にしたところで、そういえば今日は
駿二の自宅に行っていることを思い出す。
今からだと到着まで大分時間が掛かる。
その間に悪魔が立ち去る可能性はあるが、
とにかく連絡だけはいれないと。
 鈴が通話ボタンを押そうとしたその時、二人の頭上に影が射す。
眼前に落下する物体。ズシっ、と路面に着地。
二人は驚き身を竦ませる。
落下してきた何かは背後の気配を感じ取り振り返る。

「ん? なんだお前か」
「あ、ボーグアイさん……」
 
ボーグアイは騒ぎに耳を傾けながら、

「今日はあいつらはいないのか。まあどうでもいいがな」

 光とザベルがいないことを確認して悪魔へとさっさと駆け出した。
全く状況の分からない優香は、

「ねえ、今の知り合い?」
「……一応」

 鈴はなんて答えるべきか困っていた。




「おい」
「ああ!? なんだてめぇ」
 
悪魔――カラスに似たクロウデモス・ノワーレが振り向く。
ボーグアイはライフルを肩に担ぎ、

「昼寝の邪魔だ。やるならよそでやってくれ」
「けっ! 知るかそんなもん。
ああそうだ、この辺で怪我した女の悪魔見なかったか?
正直にいわねぇと……わかるな?」

 クロウデモスの低くドスを聞かせた声。
ボーグアイは肩をすくめ、

「知るかそんなもん」

 クロウデモスと同じで台詞。
悪魔の舌打ち、武器を構える。

「やれやれ」

 ボーグアイはめんどくさそうに両手でライフルを持つ。
ふと、相手の胸の部分、バッジのようなものを確認。

「お前ブルート一味か」
「ああ? だったらどうするよ」
「俺はハンターだからな。大歓迎って奴だ」
「なるほど、仲間をやったのも貴様だな。頭の前に突き出してやる!」
「ほう、ようやくブルートも来たか」
「会いたいなら歓迎してやるぜ!」
 
クロウデモス、反りかえった刀を片手に翼を大きく広げる。
助走、ふわりと浮かぶ。そして羽ばたき一直線に飛翔。
 ボーグアイ、引き金に指をかけ
銃弾で迎え撃つ。空気を切り裂く凶弾。
クロウデモス、体を僅かに傾け、掠らせながらも接近。
ボーグアイ、横転で回避、横薙ぎが空を斬る。
視界には悪魔の上昇、反転、急降下の移動。
 ボーグアイ、銃口を定めるが相手が僅かに早い。再び横転、回避。
クロウデモスの上昇。
 ボーグアイ、魔道具を使用。
エメラルドの輝き。周囲に風が発生。大気が回転。
 クロウデモスの翼に風が絡まる。
挙動がぶれる。体勢を維持、動きが鈍る。
 ボーグアイ、立て膝をついて肩越しに狙撃。
胴体にすぐさま発砲。魔法の風を突破。
しかし僅かに弾道がそれる。
翼を貫通。落下しかけるも一瞬。
 クロウデモス、すぐさま上昇し、風の範囲を脱出。
腰から杖の魔道具を取り出して発動。
横薙ぎに振り、風の刃を飛ばす。
 ボーグアイ、周囲の風を停止。前面に展開。
相殺、弾けるような衝撃。後方に吹き飛ぶ。
急ぎ立ち上がり、相手が飛び去るのを確認。

「ちっ逃げたか」

 ライフルで肩叩き。

「あの、助かりました」

 鈴、近づき礼の述べる。
ボーグアイは気にすることなく、

「あ? ああ、別に助けたわけじゃ――」
「ねぇ鈴ちゃん! 何これ! 本物? 気ぐるみじゃないよね!」

 突然優香のはしゃぐ声。
ボーグアイの周囲を回る。つついて、触って、撫でてみる。

「なんだこいつは?」
「……友達です」
「おい、いいかげんしろ」

 呆気に取られながらもボーグアイ、優香の服をつまんで持ち上げる。

「うひゃ! ちょっと下ろしなさいよ!」
 
ボーグアイ、素直に下ろす。むしろ放り投げる。
倒れそうになるのをこらえる優香。

「あぶないじゃない!」
「知るか。じゃあな」
 
ボーグアイ、走り去る。
風が渦巻き飛ぶように跳ね上がって姿が建物の奥に消える。
残された二人。優香が尋ねる。

「で、本当にあれなに?」
「一応、知り合い……」

 鈴は説明が大変だな、と思った。




 同じ頃――

「ずっとここにいて退屈だったりしないですか?」
 
秋がローダスへ尋ねる。
ローダスは頬を掻きながら、

「まあ、少しはね。
でも、人前でこの姿を見せたら驚かせちゃうから、
我慢しておかないと」
 
森は広く、人も近づかない。
隠れるにはいいところ。
しかしそれでもずっと薄暗い場所にいるのは辛いであろう。
ずっとここにいろと言われたら、
檻に閉じ込められた気分になる。

「でも今日はいい考えがあるんです」
「そこでポリンの出番ですよ!」

 秋の提案にあわせ、
ポリンが光の軌跡を作りながら胸を張る。

「どういうことだい?」
「こういうことなのです!」

 両手をローダスにかざす。
にわかに光が収束していき、両手に光が集まる。
それをローダスに向け放つ。
光がローダスを包み込みその姿を消していく。

「これは……すごいじゃないかっ」

 ローダスがいた場所には何もない。
しかし声だけはする。
 ポリンの透明化の魔法である。
普通のシュプライトーには使えることのできない力も
はぐれものである彼女だから使用できる。

「成功だねっ」

 秋が嬉しそうにはしゃぐ。
どうすればローダスを森からだせるか考えた。
 そして鈴からポリンがこのような力を
持っていることを聞き、早速試してみたもである。

「そうかこれなら森の外をうろついても大丈夫だね」
「はい。それでこれから散歩にいってみませんか?」
「うん、いってみよう」

 ローダスが立ち上がる。
歩行するとローダスの輪郭がわずかに周囲に浮かび上がる。

「ローダスさん、姿が……」
「ポリンがへたくそでごめんなさいです」
「気にしないでよ。激しく動かなきゃ大丈夫さ」

 それに遠めからはばれることもないとそのまま歩いていく。
そして森の入り口に差し掛かるところで、悲鳴が聞こえる。

「どうやら、散歩はまた今度になりそうだっ」
「ローダスさん……がんばってください!」

 秋は見えない姿に語りかけた。




「ゲコ〜、殴られたところがまだいてぇ〜。
全くすぐキレるんだからよ〜」

 蛙に似た悪魔――フロッグデモス・アクアンが
頬をさすりながら愚痴をこぼす。
前方には異形の怪物に逃げる人々。
 フロッグデモスは蟹股の姿勢になり両手を地に着く。
ぐっ、と力をこめて一足飛び。
弧を描いて人々の前に着地。
 口中を動かし何かを吐き出す。
放水。次々に人に当てていく。衝撃に転がる人たち。
辺り一面水浸し。

「けっ、憂さ晴らしにもなりゃしねぇ」
フロッグデモスは腰から杖を取り出す。
倒れた人人からソールを抜き取ろうとして、

「待て!」
「むっ!? なんだお前?」
「人間に危害を加える気ならおいらが相手になるぞ!」
「へ〜そりゃいい。こっちを相手する方が良さそうだ」

 フロッグデモス、四足で構える。
ローダス、斧を上段に構える。
フロッグデモスは口を動かし、水鉄砲。
今度は散弾のように粒を放つ。
 ローダス、斧を盾にして顔へのダメージを防ぐ。
水の弾丸が手足にぶつかる。衝撃に体が揺らぐ。
 フロッグデモスが飛び掛る。
手にした武器は同じ斧。
頭上目掛けて振り下ろし。
 ローダスは受け止める。
以外にも力強い一撃。
 フロッグデモスが宙で回転。
身軽な動き。後方へと着地。
ローダス走る。斧の叩きつけ。
 フロッグデモス、姿勢そのまま横っ飛び。
空振り、相手は背後に位置。
 フロッグデモスの水散弾。
背中にまともに受け前から倒れる。
鎧でダメージはそれほどない。
背中に殺気、転がる。アスファルトを叩くフロッグデモス。
 ローダス、懐から魔道具を取り出す。
腕は未熟のためそれほど効果的か不明。
 前面に向ける、放たれる吹雪。

「ゲコッ! 寒い……!」

 フロッグデモスが身悶える。効果は抜群のようだ。
この隙に斧を構えて前進。

「やばい!」

 フロッグデモス、震えながらも水鉄砲。
今度は放水。斧で防ぐ。勢いに動きを止められる。
 フロッグデモス、その間にに撤退。

「ふう……逃げられちゃったか」
「ローダスさん大丈夫ですか!」

 駆け寄る秋とポリン。

「ああ、何ともないよ。
人目につくとまずいね。
ポリン、僕の姿を消してもらえるかな?」
「はいですっ」

 ポリン、集中し魔法でローダスの姿を消す。
傍目から秋が一人でいる状態。

「とりあえず、光君たちに連絡しておこう」
「じゃあ私が連絡しておきますね」

 秋は携帯を手にし光たちへと連絡した。。




 光が帰宅後、相次いで連絡。
鈴と秋から悪魔の出現。
駿二が助けた悪魔のことも気がかり。
おまけに優香にも悪魔のことを知られたという。
そんなてんやわんやな状況で、駿二からの電話。

「光かっ、あの助けた奴がいなくなっちまったんだよ」
 
ダメ押しの一声。光はため息が漏れそうなのをこらえる。

「ほんとかよ。何時っ?」
「わかんねぇさっきまではいたんだが……
ただあの怪我ならそう遠くにはいってないと思うんだ」
「分かった、探してみる。また後でな」
「ああ、すまない」

 電話が切れる。光、鈴の部屋へ移動。
ノックをして鈴の返事、ドアを開ける。

「どうしたの?」
「駿二が助けた悪魔がいなくなったらしいんだよ」
「じゃあ探しに行かないと」
「ああ、今から俺も探しに行くよ」
「うん、あ、二人ともいなくなるのもまずいよね……。
私は残ってるから」
「分かった。見つかったら連絡するよ」

 光、ドアを閉める。さて次はザベルを叩き起こしに――

「行くぞ光」」
「おう!? いつのまに……」
「例の悪魔を探すんだろ? 早くしろ」

 いつにもましてやる気。光の準備も待たず行動開始。

「待てって。ずいぶんと張り切ってるじゃないか」
「あの悪魔、私の記憶に……あるような気がするのでな」
 
光の驚き。言葉をかけようとするがザベルは夜空を飛翔していく。
仕方なくまずは捜索を開始することから始めた。




「はぁ……はぁ……。思わず出ていてしまったけど、どうすれば……」

 悪魔が暗がりの道半ばで立ち止まる。
体がだるく傷がうずく。しかしよく見ると傷の治療がしてある。
ブルートが来ているかもしれない現状。
あそこにいた方が安全だったかもと思う。

「どうすれば……」

 自問、手負いの身で単身逃亡、なんになるか。
魔道具を持つ手に力がはいる。
自分ではこれは使えない。
仕えし主の形見。あんな低俗な輩に渡すわけには行かない。

「ぐっ……」

 脇腹を押さえ呻く。どこかで休もう。
体を引きずりながら歩き、鉄道高架下のトンネルに身を潜ませ座る。

「かっー鼻がいてー!」

 突然張り上げた声が反対側より響く。
悪魔が体を強張らせて身を起こす。

「へへっ、ようやく見つけたぜ」

 現れたのは犬に似た悪魔――ドッグデモス・ナーズ。
お目当てを見つけてニヤリとする。
悪魔が立ち上がって逃走。
傷がうずいて倒れそうになる。

「やめとけやめとけ。怪我するだけだぜ」
「誰があなた達に!」

 悪魔が激昂。荒い息、霞む眼。

「しかたねぇな。まあつれて来いって言われてるんで大人しくしろよ」

 ドッグデモス、剣を手に前進。
悪魔は這うように逃亡。
距離が縮む。だめなのか。
己の無能を悔やむ。
いや、抵抗するべきだ。それが主の恩に報いる方法。
 悪魔が短刀を抜き、這った姿勢で構える。
ドッグデモス、無駄なあがきと、ほくそ笑む。
剣を握りなおし、しかし、両耳が駆ける音を捉える。
悪魔の背後、誰かが駆け寄る。
遅れて悪魔が振り返る。

「はぁ、はぁ、ほんとにいたぞっ……」
「どうも及び出ない奴がいるがな」

 光が荒い息をつく。
傍らでザベルが暗闇でもはっきりと認識。
凶悪な顔、悲痛な顔。
光はそれほど夜目は聞かない。街灯が照らす光を頼りにじっと確認。

「仲間……には見えないよな」

 剣を片手に眼光するどく睨むドッグデモス。
いかにももわかりやすい。

「あいつ、あんたの仲間か?」
「……違う」

側に座る悪魔に一応聞いてみると、予想通りの答え。

「おい、こいつ怪我してんだ。物騒なもん仕舞ってくれよ」
「よく分からんが……ごめんだね。ついでにお前も消してやるっ」
「ふんっ、やる気みたいだな。さっさと片付けてしまうか」
「ああっ」

 ザベルが光に取り付く。黒き旋風、変身、戦闘態勢。

「なんと――!」

 悪魔の驚愕。唯の人間ではないのか。
ドッグデモスが犬歯むき出し低い姿勢。

「安全なところに隠れてて」

 光がマリスに呟く。横を素通り、剣を構える。
ドッグデモスが低姿勢から走る。素早く間合いをつめる。
足元へ薙ぎ払い。光、後方へ短く跳躍。
 地面に降り立ち左手に火球を生み出し投擲。
ドッグデモス、横へ転がり回避。
アスファルトに着弾、周囲を一瞬照らす。
 ドッグデモスが同じように間合いをつめる。
切り上げ、光は捌いて回避。右手の剣で反撃。
相手の防御。そのまま打ち合い、剣と剣の金属音が響く
数合の打ち合い、ドッグデモスの旗色が悪くなる。
焦り、たまらず大振りな水平切り。
光は膝を曲げて回避、切り上げ。
ドッグデモスは反らすも胴を切られる。しかし浅い。
大きく後方へと逃げる。

「ちっ……頭に報告だ。憶えてろよ!」

 ドッグデモスの捨て台詞、足早に去っていく。
光は辺りを見渡し、悪魔を探す。
すると自ら姿を現す。

「なあ、なんで襲われてたんだ?」

 光はできるだけ刺激しないように逆に尋ねる。
しかし以前警戒に様子。
逃げないのは助けてもらったからか。

(なあ、お前が聞いてみろよ。
何か関係あるんだろ?)
(とはいえ……今言ったところで、どうせ信じぬだろうと思うが……)
(まあいいからやってみろって)
(……仕方ないな)

 変身解除。ザベルが前に出る。

「なんだ……? 誰だお前は……」
「……悪魔貴族ザベル」
「ザベル……? まさか……?」

 さらに警戒、後ずさり。失敗だったか?
逃出しそうそうな悪魔の体がぐらつき膝をつく。

「おいっ大丈夫か!?」
 
光が近づき支えようとする。

「やはり駄目だったな」

 ザベルの呟き。当然といった反応。

「それより、この悪魔をどこかに――」
「おい光……」

 光が飛び上がりながら声のした方に振り返る。
 いきなり暗がりから現れた駿二。相手の驚愕にゆれる瞳。
遅れて気づく。片割らに浮かぶザベル。

「なんだそいつ……。それにさっきの姿は……」

 大分前から見られてた。光は硬直する。

「えっと、これは……」
 
光、どう答えるか、言葉に詰まる。
悪魔の浅い呼吸音をBGMに両者がたたずんでいた。

アジモ
2009年05月17日(日) 06時45分43秒 公開
■この作品の著作権はアジモさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです、アジモです

気づけば一ヶ月も経ってしまいました。
不覚です。気をつけねばなりませんね。

重要そうなキャラも出てきましたが、
まとまったコメントは次回で書きます。

それではこの辺で……

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