仮面ライダーセレナ第壱拾弐話「庇い合い/助け合い」 |
前回の仮面ライダーセレナは 赤坂鷹音は改造人間である! 彼女は要健一郎の製作した、性悪デバイス“セレナコア”を使って仮面ライダーセレナに変身する事が出来るのだ! 前回、とうとう物語始まって以来の強敵、期末テストの結果が発表された。 そこで判明したのは鷹音の学年順位が約50番という衝撃の事実だった! その事実にショックを受けた灰斗は、鷹音と柚乃に対して猛抗議。 灰斗「やい!こう言うタイプのキャラは頭が悪いのがおきまりじゃないのか!?」 @PF「仕様です」 灰斗「(´・ω・`)ショボーン…」 何だかんだで柚乃が繰り出した伝家の宝刀マネーパワーで機嫌を直した灰斗は、これからはスーパー土方を利用しようと心に深く刻むのであった。 微かに漂う鉄さびのような血の匂い。 人々の悲鳴と、投げ惑う足音。 遠くの方からは救急車と思しきサイレンの音が聞こえてくる。 周りの建物には切り裂かれた跡が幾つも刻まれ、電柱や標識、街路樹は切り倒されていた。 「これは…」 『目標はこの先です』 言われなくても分かる。 正面に目を懲らせば、緑色の何者かが両手から生えた鎌を振るい、その度に恐怖からか周りの人達から悲鳴が上がっているのが分かる。 「!」 いや違う、アレは驚いてるんじゃなくて――― 「あの改造人間…人を斬ってる!?」 『今までのキメラとは傾向が違いますね』 確かに今までの改造人間は、何だかんだで積極的に人を傷付けようとする事はなかった。 大抵は攫う為の過程でやむを得ずだったり、抵抗されて偶々…と言った事ばかりだった。 でもあの改造人間は違う、誰かを攫うでもなく、ただ人を斬っているだけなのだ。 そしてその改造人間は、私が居る方向とは逆方向に移動しながら人を襲っていた。 やがて改造人間が一組のカップルらしき男女を追い詰め、男を弾き飛ばした後、女の方に斬り掛かろうとした瞬間、横から割り込む影があった。 大柄な茶色の体に、頭から映えた二本の角、恐らくそっちも改造人間なのだろう。 「あれって…」 『恐らく民間のキメラですね。 あの暴れているキメラを止める為に変身したのでしょう。 吹き飛ばされた男の姿が見えない所から察するに、変身したのはカップルの片割れでしょうか。 あそこまでハッキリ人を襲っているキメラに対して、誰も出てこない方がむしろ不自然ではありますが…あの様子では長く保ちませんね。 戦い方がなっていません』 確かに、跡から現れた改造人間は戦いに慣れて居なさそうだった。 攻撃は直線的で闇雲だし、回避が大げさすぎる。 アレでは無駄に体力を消耗してしまうし、反撃のチャンスも掴みにくい。 負けるのは時間の問題だろう。 しかし戦いに不慣れなのにわざわざ立ち向かうと言う事は、あの改造人間は戦わざる終えない状態に置かれていると言う事だ。 正義感から見過ごせなくなったのか、或いは大切な人が襲われて、その人を守る為にやむを得ず変身したと言った所だろうか。 いずれにせよ見捨てる訳には行かない。 見れば既に茶色い改造人間は膝を付き、緑色の方は鎌を振り上げていた。 「って!ヤバイよ、話してないでとにかく助けなきゃ! って道がこの状態じゃバイクは無理か…」 焦りながらも、バイクを止めてぼやく。 あちこちに散乱した、斬られた電柱やら街路樹やらが邪魔でバイクでは上手く進めなさそうだ。 少なくともバイク歴約一ヶ月の私では無理だ。 『マスター、バイクは止めてニムブルモードで行きましょう』 「あいよ!(くそっ、間に合え!)」 私はすぐにバイクから降りて、ニムブルモードへ変身、セレナと話し込んで見す見す茶色い改造人間のピンチを見過ごしかけた事を後悔しながら、その機動力を生かして最短距離で二人の改造人間が戦っている場へ全速力で向かった。 *** (くそぅ…何でこんな事に) 角の生えた鹿型の茶色のキメラ=ディアーファクターこと“鹿山伸一”は、連続して繰り出される斬撃を必死に避けながら心の中で毒突いていた。 今の彼の思考を占めるのは、“どうしてこんな事に成ってしまったのか?”と言う事だけだった。 *** 今日彼は付き合って数ヶ月の恋人とデートに来ていた。 朝彼女と待ち合わせをして、一緒に映画を見て、レストランで昼食を摂った所までは良かった。 だが、昼食を食べ終わり、レストランから出てこれから一緒に買い物に行こうとした時、近くを歩いていたサングラスを掛けた男が突如キメラに変身したのだ。 (!き、キメラ!?何でこんな所に…。 と、とにかく優華さんだけは守らなきゃ) 突然の事に、多くの人達が呆然と固まっている中、いち早く立ち直った伸一は自分の傍らに居る優華の手を握りしめ、いつでも逃げ出せるよう身構えた。 そんな彼等の目の前で、男が変化した両腕から巨大な鎌を生やしたカマキリのような緑色のキメラ=マンティスファクターは、いきなり鎌を振るい近くを歩いていた人を切り裂いた。 胸から腹までを切り裂かれ、裂け目から血が噴き出す。 「え?………あ…れ…“ドサッ”」 斬られたその人は何が起こったのか理解出来なかったのか、数秒ほど呆然したあと、崩れ落ちるように倒れ伏した。 ピクリとも動かないその体は、生きているのか死んでいるのかも分からない。 「クカカカカカカカカカッ!たまんねぇなぁ、オイ!人を斬る感触ってのはよォ!!」 そしてマンティスファクターは大きな複眼の埋まった頭部で辺りをグルリと見回すと 「おやおや、まだいっぱい居るじゃねぇか、次は何奴を斬ってやろうかな?クカカカ!」 マンティスファクターの哄笑を切っ掛けに爆発的に広がる恐慌。 「(今だ!)逃げよう!」 「キャッ!……し…伸君!?」 あらかじめ身構えていた伸一は、彼女の手を引きながら周りの人に先んじて真っ先に逃げ出した。 その直後に周りの人間が、マンティスファクターから少しでも離れようと悲鳴を上げながら逃げ惑う。 「逃げんなよ、オラッ!」 無造作に再度鎌が振るわれる。 標的になった不幸な女性は、背中を切り裂かれ倒れる。 だが倒れる女性を無視して、他の人は脇目もふらずマンティスファクターから逃げていた。 「クカカカカッ!鬼ごっこか?良いぜぇ、そう言うのも好きだぜ、俺はよ」 人間を圧倒的に超える俊足で、マンティスファクターは一組の親子連れに接近 「つ〜かまえた」 母親に手を引かれた男の子に向かって三たび振るわれる鎌。 「っ!」 「お、お母さん!」 だが、鎌が当たる寸前、母親は子供を抱き寄せ、庇うようにマンティスファクターに背を向けた。 当然の如く、本来の標的であった子供を庇った母親の背中は切り裂かれる。 そのまま子供と一緒に倒れ込んでしまう。 マンティスファクターはそんな親子に目を向け 「おやおや〜?ママが守ってくれたみたいだね〜。 良かったでちゅね〜?ボク〜」 「うぅ…」 涙ぐむ子供。 「ハッ、ママの健闘に免じて見逃してやるよ、ガキ」 彼は親子を嘲笑うと、それ以降興味を失ったかのように、親子に背を向ける。 「さてさて、鬼ごっこの続きと行こうかぁ!」 そう叫ぶマンティスファクターは鎌を振り回して電柱や街路樹を切り倒しながら、逃げ惑う人達に襲いかかっていったのだった。 “うわああぁぁぁ!”“きゃあああぁぁぁ!”“助けてくれぇ!” (ゴメン…ゴメンよ!) 背後から聞こえる悲鳴を無視して、伸一は走り続けた。 自分にはアイツに立ち向かえるかも知れない力がある。 だけど実際には立ち向かわずに、こうして逃げている。 その事による罪悪感が、伸一の心を酷く苛んでいた。 彼がこうして何もせずに逃げているのは、マンティスファクターと戦うのが嫌だからではない。 一応それも有るのだが、伸一が戦う事を拒否する何よりの理由は、彼の恋人の優華にあった。 (でも、優華さんの前で変身する訳には…) そう、彼は優華に自分がキメラだと言う事を話していないのだ。 現状、世間一般のキメラという存在に対するイメージは決して良い物とは言えない。 CCC団の活動も原因ではあるが、何よりキメラが人間でありながら人間を遙かに超えた力を持つと言う事実が、無用の恐怖と嫌悪を生み出しているのだ。 だが実の所、一般人よりもキメラとなった人の方がキメラという枠組みに対する嫌悪の感情が強いと言う事は余り知られていない。 一般人にとってキメラは結局“得体の知れない脅威”に過ぎず、頭では深刻な問題だと理解していても直接的に深く関わらない限り、ある意味では他人事であるのに対して、キメラ達自身にとっては自分自身が“得体の知れない物”に変貌してしまったと言う事になる。 当事者どころの騒ぎではない深刻な問題なのだ。 彼等キメラは、改造されたとは言っても元は人間だ。 本来、人間の精神とは“人間”の体に適応した物であって、“人間でない”体に宿るという状態は、イレギュラー以外の何物でもない。 一部の例外はある物の、“人間”としての記憶を持ち、成長した精神を、“人間でない”体に宿せば、“人間”の精神がその状態に平然と受け入れられる訳がないのだ。 そしてそうなった者達の反応は大別して二つの分かれる。 キメラとしての自分を拒絶するか、キメラで有る事に適応して“変化”するか―――だ。 伸一は前者だった。 良くも悪くも普通の人間だった彼は、キメラとしての自分を受け入れる事が出来なかったのだ。 彼はキメラで有る事を恐れていたし、他の人も受け入れてくれないだろうと考えている。 だから彼は周りの人間に対して自分の正体を隠していた。 それは恋人である優華に対しても例外ではなかった。 なによりもボンヤリとだが未だ覚えている、洗脳されていた間に犯した罪が、己を受け入れる事を許してくれないのだ。 そしてそれは今も変わらず、彼はこうして恋人の手を引いて必死に逃げているのだった。 「…………」 ふと自分が手を握りしめている恋人を伺う。 「ハッ、ハッ、ふぅ、ハァ……」 もう大分息が切れているようだ。 無理もない、キメラである自分はともかく炎天下でイキナリの全力疾走は普通の女の子には堪えるだろう。 「大丈夫?」 「フゥ、ハッ、だいっ、じょっ…ッ…ハァ」 (しまった、走っている所に話し掛けたら余計疲れるじゃないか!) 自分は割と余裕だったので、失念していた。 “走って息が切れる”と言う経験をここ数年していなかった事もその原因かも知れない。 こう言う些細(?)な部分でも、自分がもう人間じゃない事を思い知らされて軽く鬱になる。 いっそのこと抱え上げて自分が全速力で走ろうか――――と思った瞬間 「きゃあっ!“ベシャッ”」 掴んだ手からすっぽ抜ける感触と悲鳴、そして何かが地面に叩き付けられる音がした。 「優華さん!?」 数メートル行きすぎた所で慌てて振り返ると、案の定彼女は地面に倒れていて、何とか起き上がろうとしている所だった。 「いったーい…」 深刻な事態では無さそうなのでホッとしながら駆け寄る。 「優華さん、大丈「クカカカカッ、追いついたぁ!」!!」 だが突如掛かる影、その数瞬後、透明な翅を広げたマンティスファクターが彼等の間に割り込むように落ちてきた。 「クカカ!残念だったなぁ、鬼ごっこはお前らの負けらしい。 取り敢えずこの女の方から斬るとしようか、クカカカカカカッ!」 「あ……」 笑いながらジリジリと怯える優華に近付いて行くマンティスファクター。 「……う、あ(た、助けなきゃ…)」 そう思っているのに、伸一は固まってしまう。 目の前で恋人が傷付けられようとしているのに、助けなきゃいけないのに足は動かず、声を出す事すら出来なかった。 伸一が煩悶していたその時、彼は優華がマンティスファクターの体越しに自分に目を向けたのに気付いた。 そして目が合う。 ひょっとして彼女は自分に助けを求めているのでは?―――最初伸一はそう思ったが、その瞳に恐怖が浮かんでいない事に気付き、思い直した。 (まさか…僕に逃げろって言いたいのか!?) 思い違いかも知れない、本当は助けを求めているのかも知れない。 だが、伸一は彼女の瞳に強い意志を見て取った時、彼女が自分を逃がそうとしていると言う意志を感じてしまった。 それと同時に湧き上がったのは、強烈な情け無さと怒りだった。 (何をしているんだ僕は!!) 目の前で大切な人が襲われそうになっているのに、未だ迷っていた自分への怒り。 あまつさえその大切な人に逆に守られようとしている自分の情けなさ。 その思いは臨界を越え―――彼は踏み出した。 「おい!」 「ん〜?何だ?」 突然掛けられた声に振り向くマンティスファクター。 「その人から離れろ」 「あん?」 「し、伸君!何で!?」 伸一が自分からマンティスファクターの気を引くような行動に出た事に焦ったような声を出す優華。 「ゴメン、優華さん。でも、僕は逃げない。 僕が優華さんを守る!」 「伸君…」 「オイオイ、俺をシカトしてんじゃねぇよ。 兄ちゃん、ヒーローごっこはお家でやってくれねぇか。 それとも何か?彼女より先に斬ってほしいってか? 慌てなくても、この女の後にちゃんと斬ってやるから大人しく待ってろよ、クカカカカ!“ガスッ!”」 「ぐあっ!」 「し、伸君!」 マンティスファクターは鎌の腹で伸一を振り払い、数メートル先の店のショーウインドウに叩き付けた。 崩れ落ちる伸一に、優華が上擦った声を掛ける。 そして叩き付けた当の本人は、再び優華に向かって歩を進め始めた。 「はっは、大人しくしてな、直ぐだからよ?」 「…く……あ…さ…させるかああああぁぁぁぁぁ!!!」 叫びながら身を起こした伸一は、全身が軋むのにも構わず、マンティスファクターに向かって突撃する。 「ん〜?兄ちゃん、いい加減に…なッ!?」 「え…?」 鬱陶しそうに振り向いたマンティスファクターと優華は、目の前で起こった現象に驚愕した。 突然、マンティスファクターに突進する伸一の体が茶色に染まりながら二回り程大きくなり、体の各所に装甲が装着される。 頭部には枝分かれした一対の巨大な角が生え、顔は馬のように伸び、足の先が蹄の様な形に変化。 変化が完了した時には、伸一は鹿の様な印象を受ける姿のキメラ=ディアーファクターに変貌していた。 キメラとしての力をフルに発揮できる戦闘態へと変化を完了した伸一は、変化前を遙かに超える速度に加速、一瞬にも満たない時間でマンティスファクターとの距離を詰め、その大きな角で突き刺さんばかりに頭から激突した。 「だァらッ!!!」 「ッつ…あ!?!?」 ディアーファクターの突撃を受け、吹き飛ぶマンティスファクター。 だが、吹き飛んだ彼は空中で翅を広げて体制を立て直し、危なげもなく着地する。 「いつつ…今のは少し効いたぜ」 「ハァ、ハァ、ハァ…ハァ…」 変身の負担のせいか、はたまた緊張しているのか、ディアーファクターの息は荒い。 「まさかお仲間だったとはな。 しっかし、来たのが風使いでもスティンガーの炎使いでも無けりゃ、まして仮面ライダーでも無ぇ、こんな小物とは――ツいてねぇなぁ。 まぁ封印特区だし、ハズレも多いとは分かっちゃいたが…」 対するマンティスファクターは、口振りにも動きにも大したダメージは見られず余裕の態度だ。 「伸…君、なの?」 呆然とした優華の声がディアーファクターに耳に届いた。 「…ゴメン、今まで黙ってて。 後で幾らでも謝るし、聞きたい事は何でも答えるから、今は逃げて!」 「……」 優華は無言で立ち上がると、近くの建物の影に隠れていった。 あわよくば、助けも呼んでくれるだろう。 だが、この場を切り抜けても、もう以前のような関係には戻れない。 そう考えると、伸一は泣きたくなった。 「おうおう、格好良いねぇ、さながらお姫様を守るナイトって所か? でも、肝心のお姫様はどう思ってるんだろうなぁ?」 マンティスファクターに言葉に、心の奥が僅かに悲鳴を上げるが、今の目的を再確認して無理矢理にでも心を奮い立たせる。 「優華さんには手出しはさせない…!」 「クカカカカカカ!見返りを求めない孤高のヒーローって奴か?カッチョイー! だ〜が!小物の分際で俺の邪魔をした代償は大きい……ぜっ!!」 「っ!」 嗤いながら無造作に振られるマンティスファクターの鎌を、ディアーファクターは後に身を投げ出して何とか避ける。 「おお!今のを躱すか。反応は上々みてぇだな。 どうだ、お前俺等の仲間にならねぇか?鍛えりゃそれなりのモンには成りそうだしな」 「……」 無言で再度突撃を仕掛けるディアーファクター。 「ハッ、それが答えかよ?」 マンティスファクターはそれを紙一重で躱し―― 「じゃあ…死ね“ヒュカッ”」 すれ違いざまにディアーファクターの首に鎌を振り下ろした。 「!…ッあ!?」 間一髪察知して姿勢を更に下げつつ横に跳ぶ事で、斬首は回避する物の、右側の角が中程から斬り飛ばされてしまった。 「お、今のは首ちょんぱの積もりだったんだがな、やっぱ反応は良いねぇ。 じゃあ―――」 「くっ……」 「もっと頑張れ」 *** ――――そして現在に至る 体勢を立て直す暇もなく連続で繰り出される斬撃。 「ホラホラホラぁ!もっと根性見せろや!」 「――――ッ!」 それをディアーファクターはなり振り構わず何とか躱して行く。 何とか隙を見付けて攻撃しようとしても 「ハッ、見え見えだぜ!」 「くぅ!」 アッサリ躱され、カウンターで切り裂かれそうになるばかりだった。 そして――― 「クカカ!動きが大げさ過ぎんだよ!!」 「え…しまっ――っぐぅ!」 左肩目掛けて大振りに振り下ろされた鎌を右に横に跳んで避けた時、ディアーファクターは自分の避けた先に向かってもう片方の鎌が迫っている事に気付いた。 だが気付いた時にはもう遅く、足が宙に浮いている状態では進路変更する事も出来ない。 無理矢理体を捻って直撃だけは避けた物の、脇腹辺りを深く切り裂かれてしまった。 「く、ううぅ…」 ダメージで碌に受け身も取れず、地面に転がってしまい、立とうとしても足に力が入ず膝を突いてしまう。 跪くディアーファクターの傷口から漏れ出す血と火花。 この程度の傷は、しばらくすれば塞がるだろうが、相手がトドメを刺すには十分すぎる時間が掛かるだろう。 傷口を押さえて痛みを堪えるディアーファクターの姿を見て、マンティスファクターは笑い声を上げる。 「クカカカカカカカカカァ!経験値が足りてねぇなぁ、ナイト君よぉ! おまけに戦闘態の動きに馴染んでねぇ見たいじゃねぇか? 大方自分の意志で変身したのも今日が初めてなんじゃねぇのかぁ?」 「……」 無言で俯くディアーファクター。 「クカカカカカ、図星かよ。 キメラだってバレて彼女に嫌われたく無いってかぁ?」 「―――っ!」 その言葉に反応してディアーファクターがマンティスファクターを睨む。 “ギリッ”とディアーファクターが奥歯を噛み締める音が小さく響いた。 「おお、恐い恐い。 ま、それで肝心な時に彼女を守れないってんじゃぁ本末転倒だけどなぁ、クカカカ!」 「……」 「クカカ、痛いとこ突かれてダンマリか? ……しゃあねぇ、サクッと行くから迷わず成仏しな」 マンティスファクターが鎌を振り上げる。 (あぁ、ここで僕も終わりか…。優華さん、逃げられたかな。 僕が死んだら少しは泣いてくれると、嬉しいな) ディアーファクターは鎌の刃を見つめ、死を意識しながらボンヤリとそんな事を考えた。 「じゃあな」 そして鎌がディアーファクターの頭部目掛けて振り下ろされ――― 「やめてぇ!!!」 「「!?」」 突如響いた大声にマンティスファクターは思わず鎌を止めてしまう。 「…何だ?」 二体のキメラが声のした方向に目を向けると、そこには 「ゆ、優華さん!?」 逃げたはずの優華がディアーファクターに向かって駆けて来ていた。 「な、何で!!?」 当然ディアーファクターは泡を食って驚く。 「な……?」 余程その光景が予想外だったのか、マンティスファクターも唖然として固まっている。 そんな彼等を知ってか知らずか、優華は二体のキメラの間に割り込み、ディアーファクターを庇うように両腕を広げてマンティスファクターを睨み付けた。 「……オイ、こりゃ一体どう言う事だ? お前、どう言うつもりだ?」 「見て分からないの?この人は殺らせないって事よ」 「優華さん…」 「オイオイオイ、お前、自分が庇ってるのが何か分かってんのか? キメラだぞ、キ・メ・ラ。 人間じゃねぇ、化け物だ、俺と同じな」 イマイチ気が乗り直していないのか、些か気が抜けたような声だ。 「アンタなんかと一緒にしないで、この“人”は私の大切な人なんだから!」 「え……」 その言葉にディアーファクターは衝撃を受ける。 さっきまで、拒絶され遠ざけられる事も覚悟していたのに、この言葉は彼にとって余りに予想外すぎた。 だが、ディアーファクターにとって、だからこそこの状況は尚のこと看過できない物となった。 「優華さん!無茶だ、逃げてよ!!」 「ヤダ!伸君と一緒じゃなきゃ逃げない!」 「でも…!」 「伸君はさっき私を助けてくれた、だから今度は私が助ける! それに私伸君に聞きたい事いっぱいあるし、まだ謝って貰ってない!」 その声は僅かに涙に濡れて、膝もよく見ると震えていた。 「……」 彼は焦った、自分の恋人がよもやココまで頑固な人柄だったとは知らなかった。 彼女の気持ちは泣きたくなる位嬉しい、嬉しいのだが。 (うう…どうしよう、あのまま逃げてくれていたら良かったのに…) その場合、自分は恐らく死んでいただろうが、彼女だけは逃がす事が出来たはずだ。 (傷の修復は大分進んだ、僕一人だけなら何とか逃げられるけど…) だが、その案は即座に却下。 (ダメだ!むしろ僕を犠牲にしてでも優華さんを逃がさないと…!) とは言え、この思惑もたった今優華自身によってご破算に成ってしまっている。 (クソ!とにかくアイツが呆気にとられている間に優華さんの前に…) そう思って動こうとするが――― 「あ〜あ〜、茶番は終わりましたか〜?」 「「!」(しまった!)」 気を取り直したマンティスファクターの声に、ディアーファクターは固まり、優華は身構える。 「まったく、物好きな奴も居たもんだ…。 化け物の男を必死に庇う少女、お涙頂戴の三文芝居だね〜、クカカッ! 美女と野獣でも気取ってんのか?」 「……」 呆れたようなマンティスファクターの声。 だがそこには僅かながらの蔑みも含まれていた。 馬鹿にされて怒ったのか、優華の体が少しだけ震えた。 「だがな、たかが人間如きが割り込んだ所で、死体が一つ増えるだけなんだよ!」 「ひっ…」 (くそ、どうする!?) 凄みながら鎌を振り上げるマンティスファクターに優華は怯えるが、それでも逃げ出さない。 その時―― 「ライダぁ――――」(何だ?) ディアーファクターの耳に微かに聞こえる女の子の声。 前を見ると、お互いに集中しきっているマンティスファクターと優華は気付いていないようだった。 「ま、負けないもん!」 「クカカ、良かったな彼氏ぃ。健気な彼女じゃねぇか! じゃ、一緒にあの世に送ってやるから、あっちで精々乳繰り合ってろ」 再び鎌が振り下ろされようとしたその瞬間 「キイイィィィィィ――――――ック!!!!」 「は?ぶぎゃぼっ!?」 ディアーファクターの上斜め後方、マンティスファクターから見たら上斜め前方の方角から橙色の影が流星の如く飛来し、マンティスファクターの顔面にその足をめり込ませていた。 その一撃でマンティスファクターは見事に吹き飛び、彼を蹴った当の本人は吹き飛ぶ直前に反動で後方に跳び、空中で宙返りして着地する。 「ほっ“スタッ”っと…大丈夫ですか!?」 「あ、あぁ…」 「大丈夫…です」 「良かった〜」 “彼女”は彼等の返答に余程ホッとしたのか、胸を撫で下ろして肩からも力が抜けていた。 「あの…貴女は一体?」 その人物は一見すると異様な風体だった。 背丈は中学か高校生程度、全身に橙色のラインが入った白い甲冑のようなアーマーを纏い、頭部には兜の代わりにバイザーの着いたヘッドギア、その後方から白銀の髪をなびかせている。 声は背丈通りに十代の女の子と言った感じだ。 「えーと、私は…仮面ライダー!仮面ライダーセレナって呼んでください」 『まだまだ駆け出しのヘッポコライダーですが』 「うっさいわ!」 「え?今の声って…?」 彼女の言葉に割り込む声に優華が疑問を挟む。 年齢はよく分からないが、どことなく機械の合成音の様にも聞こえる声だった。 「あ、気にしないでくd『私はこのスーツの制御補助AI“セレナ”です』くっ!」 「はぁ…」 「AI…ですか」 『ええ、私が“仮面ライダーセレナ”の戦力の殆ど担っていると言っても過言ではありません。 役割の比率的に“私:マスター”=“7:3”位でしょうか?』 「アンタ私の事その程度に思ってたの!?」 『いえいえ、本当ならもっとマスター分を下げても良いかもと思っていますから』 「余計酷いわ!」 「……」 「……」 目の前で突然始まった少女とAIの言い合いに、呆然とするディアーファクターと優華だった。 「…あ……えーと…ゴホン!」 そんな彼等の視線に気付いたのか突然居住まいを正す少女。 「と、とにかく!アイツは私がどうにかしますから、貴方達は逃げてください!」 「え…でも君一人じゃ」 「良いからさっさと逃げてください!」 「いや、でも…」 「いいから!!」 「あ…うん」 食い下がろうとするディアーファクターの意見を切り捨て、起き上がろうとするマンティスファクターに向き直る白い少女。 「行くよっ、伸君」 「う、うん…わっ、そんなに引っ張らないで!イタタタタ!きっ、傷口が…」 優華に手を引かれながらディアーファクター=伸一は白い少女、いや“仮面ライダーセレナ”を見た。 (仮面ライダー…か) 仮面ライダー。 かつてE・Vのキメラ達から人々を守る為戦った、仮面の戦士達。 正義のヒーロー。 そして自分と優華の命を救った恩人。 伸一の胸に去来する安心感と期待…そしてほんの僅かの羨望と嫉妬。 (ってダメダメ!命の恩人にこんな事思っちゃ!) 嫌な考えを振り払った。 だがそれでも心の何処かで彼女を悪く思う自分が居る。 再び彼女を見る。 マンティスファクターに向かうその後ろ姿が、今の伸一には何故だか見る事すら許されない眩しい物に見えた。 To be continued… |
@PF
2009年05月28日(木) 13時58分19秒 公開 ■この作品の著作権は@PFさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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