仮面ライダーセレナ 第壱拾弐話+「暴風/潜む影」
 これまでの仮面ライダーセレナは

『おはこんばんちは、今回のあらすじ担当を任されたAI“セレナ”です。
 このSSはフィクションであり、実在の人物、団体名などには一切関係有りません。
 え?これはあらすじじゃない?
 ………………
 ………………………
 ………………………………
 今回の話には、少し過激なシーンがあるかも知れません。
 作者のスキルが追いついて無いせいで、あんまり残酷には見えないかも知れませんが、取り敢えず注意しておきます。
 まぁ、この注意は、後で文句言われるのに戦々恐々している作者のせめてもの予防線らしいですよ。
 腰抜けですねw
 ちなみ今回、私は余り良い所がありません、ショック!』








 女の人が、鹿の様な改造人間の手を引いて逃げて行くのを尻目に、私は起き上がろうとしてるマンティスファクターに向かっていた。
 その状態でさっきの改造人間の事を考える。
「ねぇ、さっきの二人、何だか落ち込んでなかった?」
『そりゃあ、自分の恋人を目の前で第三者に助けられれば悔しいでしょう』
「え?アレってそう言う事だったの?」
『恐らくは』
 我ながら人生経験が足りないので、こう言った微妙な人の心には疎かったりする。情けない話だが。
「うーん、でも、私が間に合ったのはあの二人が時間を稼いでくれたからなんだけどなぁ…」
 と言うか彼等が助け合わなければ彼等のどちらか、或いは両方が間違いなく大怪我、最悪殺されていたはずだ。
 その意味では彼等はお互いを救ったとも言える。
『人の心は複雑なのです』
「あんたが言うと説得力が有るのか無いのか判断に困るよね」
 苦笑しつつベルトの左のホルダーからセレナスティンガンを手に取り、ブレイガンモードに変形させる。

「さて!そこのアンタ!!」
「ぐ…ぎ…いってぇ」
 顔面をさすりながら、起き上がったマンティスファクターに銃口を向ける。
「罪のない一般人を襲うなんてどう言うつもり?」
「いきなり現れて何だテメェ?どう言うつもりだ?」
「アンタみたいなド腐れに蹴り入れたんだから、やる事は一つでしょーが?
 それよりこっちの質問に答えて!」
「クカカッ、噂のヒーロー様のご登場って訳か?
 良いぜぇ、やっぱりどうせ斬るなら斬り応えのある奴の方が良い。
 俺の目的…だったか?
 別に?只斬るだけ、それが目的で手段だ」
「は?」
 その思考回路が理解出来ず、呆気にとられてしまう。
「ま、本当は脅かすだけで良かったんだが、どうせならしっかり恐怖を与えた方が良いと思ってな。
 独自の判断でやらせて貰った。臨機応変って奴だな」
「脅かすだけ?」
「そうさ、人間共に俺達が脅威である事を刻むのが俺の役目だった。
 でも、どうせなら斬られた方が残った奴等により恐怖を刻めるだろ?
 人間は痛みを伴った方がより実感できるって、どっかの誰かも言ってたしなぁ。
 個人的な欲求も満たせて、一石二鳥のグッドアイディアって訳だ」
「……“ダンッ!”」
「あぶねっ」
 無言でスティンガンの引き金を引く。
 それをギリギリで躱すマンティスファクター。
「オイオイオイオイ、不意打ちなんてヒーローのやる事じゃねぇだろ?」
「うっさい黙れ喋るな、あんたと話してるとこっちまで訳が分からなくなる。
 ボコボコにして警察に突き出してやるから覚悟しな!」
『そしてブタ箱で臭い飯を食いながらひっそりと人生の幕を閉じるが良い』
 セレナの合いの手を黙殺しつつ、スティンガンのグリップを音が出る位握りしめ、ボックスからオレンジ色のスティックを取り出し、更にいつでも突撃できるように脚部ローラーを意識する。
「カカッ、死ねとか殺すとか言わない優しいヒーロー様で、ボクチン涙が出そう!クカカカカカカッ!!」
 こちらを挑発するように嗤いながら、マンティスファクターの両腕が変化、巨大な鎌に変貌した。

「行くよ、セレナ!」
『了解』
 右手のスティックをグリップに突き刺し、変化するのも待たずローラーを始動、オレンジ色の輝くスティンガンを突き出しながらマンティスファクターに吶喊する。
 一瞬でゼロになる相手との距離。
 オレンジ色の光の中から現れた銀色のランスの穂先が、マンティスファクターの胸のど真ん中に吸い込まれて行く。
 だが―――
「クカッ!」
 マンティスファクターはそれをギリギリで横に避け、ランスの穂先は彼の胸と肩の装甲を僅かに削るのみだった。
 そして置き土産とばかりに私の首の位置に鎌の刃が置かれる。
「―――っ(間に合え…っ!)」
 此方もそれにギリギリで反応し、上体を反らしてリンボーダンスみたいな姿勢で何とか鎌の下を潜り抜ける。
(よし、抜けた!次は…)
 逸らした上半身を起こそうとするが、ローラーで加速しているせいで上手く踏ん張りが効かず、後に倒れてしまいそうになる。
(ならっ!)
 私はすぐさま起き上がるのを諦め、手に持っていたランスを進行方向斜め上に放り投げる。
 そしてそのまま倒れながら体をひねって地面に向きつつ、バックルを操作。
 アーマーが紫色に輝くのを意識すると、地面に両手両足を付いて四つん這いの体勢になる。
 アーマーが紫色に変化して腕力脚力が増幅すると、そのまま四肢に力を込め、地面にしがみつくようにして速度を殺し、完全に止まる直前に再度バックルを操作。
 アーマーが今度は青色に輝くのを意識して、途中で遅れて落ちてきたランスに飛びついてキャッチ。
『胸が無くて助かりましたね』
「ははっ、そうかもね!」
『……』
 セレナの茶々入れに軽く答えつつ、マンティスファクターに向かう。
 何となくセレナから憮然としているような雰囲気を感じた。

「クカカカ、なかなかやるじゃねーか!流石はヒーローって所か?」
「五月蝿い」
 取り合わずにランスで殴りかかる。
 ニムブルモードになって腕力が下がっているせいで些か大振り成ってしまうが、彼我の基本的な速度差とランスのリーチがそれを補ってくれる。
「“ピシュッ”っは!」
 またしても回避されるが、やはり微妙に掠って装甲の表面に傷が刻まれる。
 反撃とばかりに鎌の斬撃が襲ってくるが、ニムブルモードの反応と瞬発力なら、回避は容易かった。
(行ける!)
 撹乱しつつランスで攻撃する事を繰り返しながら、思考を巡らせる。
 最初に突撃した時は焦ったが、不用意に相手の間合いに飛び込まなければ、そこまで脅威でもない。
 相手の武器は両腕の鎌だけであり、リーチではランスの方が上だ。
 反応速度と瞬発力はなかなかの物だが、それらを含めた全ての速度で此方が勝っている。
 予想外の一撃でもない限り、このまま圧倒できるだろう。
(後は隙を見て大きな一撃を叩き込めば…)
 そんな風に打算を働かせていると…
「くっそ…ちょこまかと―――っかぁ!!」
「?」
 マンティスファクターが毒突くと大振りに振り下ろす。
 明らかに鎌の射程内に私が居ないのにだ。
 そう疑問に思った瞬間
『“ヴィーム”回避を!』
「!?…“ヒュパッ”ひえぇ!?」
 いつぞやのブザー音に思わず反応して横に回避すると同時に耳の届くセレナの警告。
 その直後にバイザーの一部が切り落とされ、宙を舞った。
 いきなりバイザーの左目部分を斬り落とされ、左目の視界が突然開けた。
 戦闘中にも関わらず間抜けな悲鳴を出してしまう。
 だが、目の前数センチの所の物を、心構えも無くいきなり斬られて視界が変化すれば、誰だってあんな声を出す筈である、絶対!

「な、何、今の…真空波か何か?」
 ゲームとかマンガとかのフィクションでは、高速で刃を振るとエネルギー波なり空気の刃なりが出る事が良くある。
 今のもそのような物なのだろうか?
 同じ攻撃が来ないか警戒しつつ、セレナに聞いてみる。
『鎌が振られた瞬間、高密度の微粒子の射出を感知しました。
 それを刃状にしてぶつけてきたのでしょう』
「えーと…それって要は見え難いカッターを飛ばしてきたって事?」
『微妙に違いますが、概ねその解釈で問題は無いですね。
 一応動体センサーに反応はしますから、警告は可能です。
 視覚化は無理ですが…』
「それで十分。
 それにもし視覚化できても、バイザーが半分に成っちゃたし、反って混乱するだけだよ」
 改めてランスを構え、マンティスファクターを警戒する。

「クカカカカ、残念残念、カス当たりだったか」
 鎌を擦り合わせながらマンティスファクターが嗤う。
「まったく、とんだ隠し球だね」
「面白かったか?」
「どうだか…ねっ!」
 答えると同時に突きかかる。
 さっきの攻撃は確かに見えないが、発射のタイミングと方向は鎌の振りから推測できる。
 発射されるか否かは流石に判別できないが、可能な限り鎌の前に立たないようにすれば大丈夫だろう。
「おっと!どうしたどうした?」
 だが、そんな私の攻撃はことごとく回避されてしまう。
(当たらない!?何で?)
「クカカカ、さっき比べて攻撃が見えやすくなったなぁ!
 そんなに俺が恐いか?」
 その言葉で何となくだが合点が行った。
 きっと私はさっきの飛ぶ斬撃を見て無意識に警戒してしまっているんだろう。
 そのせいで攻撃が乱れて居るのかも知れない。
 実際、時々体スレスレを何かが通り過ぎる感触を感じて、さっきまでと違って思い切った攻めが出来ていない。
「くそ…どうしようか。
 このままじゃ埒が開かないよ」
『そうですね、思い切って接近戦を挑んでみては?』
「えぇ、大丈夫なの?」
『命中時の衝撃と断面の状態からの推測ですが、少なくともクラッシュモードの装甲なら先程の攻撃を耐える事が出来ます』
「んー…そうかぁ」
 先程から、私と相手の攻撃はお互いに当たっていない。
 このままじゃぁジリ貧だ。
「…よし!クロスレンジで一気に叩き潰す!!」
『正面からの突撃は危険です。背後を取るように心掛けてください』
「ん!」
 斬撃をかいくぐりつつ接近し、ランスからオレンジ色のスティックを引き抜きスティンガンに戻す。
 そしてマンティスファクターの背後を取ると、三たびバックルを操作して、再びクラッシュモードに変化する。
「なッ!?てめ…」
 マンティスファクターが振り向く前にその後頭部を鷲掴み、背中に向けてレイピアモードのスティンガンで力任せに斬りつけた。
「ふん!」
「ぐがぁ!」

 その一撃を皮切りに、連続で攻撃を叩き込む。
 拳で殴り、足で蹴り、刃で斬りつけ、地面に叩き付け、時にはブレイガンで撃つ。
 マンティスファクターの装甲が見る間にボロボロになって行った。
「が…あ…く、そ…」
 そしてその抵抗が鈍く成って行った所で最後の一撃を叩き込む事にする。
「それじゃ、トドメと行こうか」
 マンティスファクターの頭から手を離し、スティンガンのスティックを紫の物に差し替える。
 だが敵を自由にしてしまったその瞬間に
「カ…舐めるなぁ!!」
「!?」
 振り向きながら此方から見て右下方向から鎌を振り上げてくる。
 それに対し、私は反射的に右腕のシールドで防御しようとしてしまう……それが失敗だった。
 シールドに当たっても鎌の刃は止まらず、あっさりとシールドに食い込み、腕を斬り抜け、肩に食い込み、ヘッドギアに掠りながら抜ける。
「え…」
『……』
「チッ!浅かったか」
 噴き出す血飛沫。
 根本から斬り落とされ宙を舞う、私の右腕。
 私達はそれを呆然と見つめるしかない。
「今度こそ死ねやぁ!!」
 そんな私に向かって、完全に振り向いたマンティスファクターの鎌の二撃目が迫る。
『セレナフラッシュ!!』
 その斬撃が私の首を刎ねる前に、セレナの声と同時にバックルの珠から“ビッガアァァァ!!”と形容できそうな強さの光が放たれ、当たりを白く塗りつぶした。
「うおっ、まぶしっ!?」
 マンティスファクターは思わず鎌を引き戻し、目元を覆ってしまう。
 私の一方、私の方は光る直前にバイザーにフィルターが掛かったのか、右目の視界だけは潰れずに済んだ。
『マスター、離脱を!』
「――っ」
 その言葉で我に返った私は、残った左腕でデフォルトモードに変身しながら、バックステップで鎌の間合いから離脱、距離を取った所で右腕を斬り落とされた事による強烈な痛みが私を襲い、傷を押さえて片膝を付いてしまう。

「く……うっ」
『大丈夫…ではないですね。
 傷口は一応カバーしておきました。
 痛みも消しておきましょうか?』
「うん…お願い」
『了解、痛みの一時的な打ち消しを行います。
 ついでに腕の欠損による重心の乱れはオートバランサーでアシストしておきます』
 いつの間にか血は止まり、激痛も段々弱まって行く。
「ありがと…」
 微妙に貧血気味なのか少しクラクラするが、何とか立ち上がる。
 痛みは消え、バランスも補正されて貧血を除けば動きに支障は無さそうだ。
 とは言え、これは誤魔化しに過ぎない。
 変身を解除したら確実にぶっ倒れるだろう。
「しかし、あの鎌何なの?クラッシュモードの装甲をアッサリ斬るなんて…」
『命中時のデータからの推測ですが、恐らくは鎌の刃が分子レベルの厚さなのでしょう。
 単分子カッターに近いかも知れません』
「それって、滅茶苦茶鋭いって事だよね」
『ええ、アレを物理的に防御する手段は殆ど有りませんね。
 性質上かなり脆い為、本来は戦闘に使えるような物ではないのですが、キメラの再生能力でその点をカバーしているのでしょう』
「マジか…。
 でも…やるしかない!」
 改めて左腕一本でスティンガンを構える。
 此方のダメージは深刻だが、セレナのアシストで、気にはしないで居られる。
 対するマンティスファクターの方も、全身に大きなダメージがあるはずだ。
 状況はほぼ右腕が無い事を考慮しても、五分五分、或いは此方が有利かも知れない。
 とは言え、防御不能の攻撃というのはかなり厄介だ。
 それを勘定に入れると、やっぱりヤバイかも知れない。

「〜〜!ええい!ままよ!!」
 迷いを振り切り、マンティスファクターに攻撃を仕掛ける。
「てめぇ…ぶっ殺す!!!」
 狂ったように鎌を振り回すマンティスファクター。
 その怒濤の斬撃を、ある時は避け、ある時は鎌の腹を打って逸らし、凌いで行く。
「く…」
 今のところ凌げているが、此方から攻撃する事が出来ないで居た。
 此方が攻撃を仕掛けると、マンティスファクターはスティンガンの刀身を斬ろうとしてくるので、うかつに仕掛けられないのだ。
 だが、その均衡は唐突に崩れる事になる。
 何撃目かの鎌を躱したその時
「甘ぇんだよ!ガキが!!“ガッ”」
「何!?」
『マスター!』
 突然足首に感じた衝撃で、足を踏み外し、尻餅をついてそのまま背中から倒れてしまう。
 ほんの僅かにマンティスファクターの足が動いたのを感じた。
 どうも、足払いを掛けられたらしい。
 鎌の動きに集中しすぎて油断してしまった。
(しまった…)
「クカカカカ!だ〜れが鎌しか使わねぇなんていったぁ?」
「“ガッ”あぐぅあ!」
 起き上がろうとした所をンティスファクターに腹を踏まれ、押さえつけられる。
「ぐうぅぅ…(これじゃ、逃げられない)」
 余裕ぶってマンティスファクターが鎌を大きく振り上げる。
(あ、やべ、死ぬかも)
「クソガキにしては楽しめたぜぇ?じゃ、あばよ」
 そして振り下ろされる刃。
 迫る白刃に明確な死を覚悟した、その瞬間―――

(―――――キエロ)

(え?………!?)
 脳裏に響いた小さな声を意識すると同時に、意識が薄れて行き始める。
(な…に、が…?)
 必死に気を保とうとしても、粘度の高い沼に沈んで行くように、思考が黒く塗りつぶされて行く。
(ま…………ず……)
 そして完全に意識を失う寸前



――――カチリ――――



 と、頭の中で何かが切り替わった様な音と、誰かの笑い声が聞こえた様な気がした。




***



「クソガキにしては楽しめたぜぇ?じゃ、あばよ」

 マンティスファクターが鎌を振り下ろす。
 彼が勝利を確信し、鎌の切っ先がセレナの頭に突き刺さらんとしたその瞬間
“ゴッバアァン!!!”「ぐおあぁ!?」
 少女から発生したと思しき爆風のような衝撃波に、マンティスファクターが吹き飛ばされる。
 すぐさま翅を広げ、体勢を立て直す。
「な、何だァ!?」
 泡を食って相手を見ると、剣を杖代わりにして立ち上がっている所だった。
「……」
 そしてユラリと言った感じの動きで、こちらを見る。
 その顔には何の表情も浮かんでいない。
(“ゾクッ”な、何だこの雰囲気…?)
 その瞳に何だか不安定な印象を受けるが、何処か只ならぬ気配を感じて背筋が冷たくなる。
(そういやあのガキ、目の色…)
 マンティスファクターは異変に気付く。
 切り裂かれたバイザーから覗く目が、先程までの銀色から、澱んだ漆黒に変わっていたのだ。
(チッ、あんなの只目の色が変わっただけじゃねーか!)
 そう自分に言い聞かせるが、それでも背筋の冷たさは抜けない。
 そんな彼の前で、セレナがゆっくりと剣を持ち上げて行く。
「何をする気だ?」
「……」
 少女は答えない。

“ヒュウゥゥ―――――”

「あん?」
 何かがおかしい事に気付くマンティスファクター。
(空気の流れが…いや、これは…“風”か?)
 彼は、唐突に肌をなでる風に、何処か不自然な物を感じる。
 普段なら気にする事もない事だ。
 だが、彼のキメラとしての鋭敏な感覚は、確かに“何か”を感じ取っていた。

“ビュウゥゥゥゥゥ―――”

(この風向きは…あのガキに向かってんのか?しかも段々強くなってやがる)
 どうもこの風は、セレナが剣を持ち上げるに従って強くなって言っているように感じる。
「この風…お前が何かしてんのか?」
「………」
「おい!」
 “このままでは危険だ”、何故かそんな気がした。
 だが、どう動く事が正解なのか分からない。
 眼前の白い少女にトドメを刺せば良いのか、只殴ればいいのか、はたまた逃げるしかないのか、或いはそのどれもがハズレなのか。
 その迷いが、彼が行動する事を封じてしまっていた。

“ゴオオォォォォォォ―――”

 風は更に強くなっていく。
 砂埃が舞い、瓦礫が揺れて音を立てる。
 相手はもう、剣を斜めに振りかぶるような体勢になっている。
 攻撃の準備が整ったのだろうか、それ以上動こうとする気配がない。
「っ…やられる前にやってやるよ!」
 己の失敗を悟ったマンティスファクターは、意を決して攻撃を仕掛ける。
 彼は砂埃を見て、風が何処の集まっているのか理解した。
 この風は、彼女の四肢と剣に纏わり付くように収束している。
 ほぼ間違いなく、これは彼女が関係している現象だ。
 ようやく確信を持ったマンティスファクターは、既に手遅れである事を何となく感じつつも、攻撃を仕掛けるしか無かった。
「カアァァァァッ!」
 左右から挟み込むように鎌を構えて突撃する。
 だが、彼女との距離を半分程まで詰めた所で

「砕けろ…」

「なっ!?」
 冷たい声と共に剣が斜めに振り下ろされる。
 その剣筋に沿って、巨大な三日月型の暴風の塊――としか形容できない物――が放たれ、マンティスファクターを飲み込む。
「お…!!!?」

 彼は悲鳴を上げる事も出来ずに、滅茶苦茶に振り回されながら吹き飛んだ。


***


『(く……!)』
 AI“セレナ”は苦しんでいた。
 絶え間なく彼女を襲う、激しいノイズとバグの嵐。
 とてもシステム制御などが出来る状態ではなく、自分の思考領域を保つだけでもかなりの負担だった。
 当然、主に呼びかける事など、出来るはずもない。
 このノイズの出所は分かっている。
 これは自分の持ち主、そのナノマシンから逆流してきている物だった。

 セレナは、主の体内のナノマシンを、稼働・制御する為に、それらとリンクするシステムが組み込まれている。
 このリンクを使い、彼女は主の身体能力の増強、状態のモニタリング及びデータ収集、動きの補助などを行っているのである。

『(リカバリーが追いつかない…!)』
 焦りながら処理を行うセレナ。
 彼女の修復速度を超えて広がるバグ領域。
 現在は、辛うじてAIとしての領域だけは守れている物の、それもいつまで保つか分からない。
『(一体マスターの中で何が!?)』
 現在のセレナ、そして主である鷹音の状態は明らかに異常だ。
 この異変は、鷹音がおかしくなる直前、マンティスファクターの鎌が主の命を奪おうと迫るその最中に始まった。
 突然ナノマシンから正体不明のコマンドが逆流し始め、セレナのデータを破壊・書き換えを始めたのだ。
 始めは軽く修正できる物だったが、時間と共に加速度的に浸食速度が高まり、あっと言う間に追い詰められしまった。

『(取り敢えずメインシステムのバックアップ領域は隔離しましたが…。
 いずれにせよ、システムを正常に維持できなくなるのは時間の問題ですね。
 私の意識は、保って後一分弱と言った所ですか…)』
 現状の浸食速度と、修復速度の釣り合いから、そう算段を付ける。
 最悪の状況だけは避けられるように手を打った為か、思考から焦りは消えていた。
 同時に、この状態についての考察も開始する。
『(どう言う訳だが、戦闘システムに関しては、“書き換え”はされても“破壊”はされていないようですが。
 むしろその他の領域をその方向に振り分けるような書き換えが行われているような?
 このノイズの“目的”は、“セレナコア”と言うデバイスを完全な戦闘システムに書き換えた上での略奪と言った所でしょうか…)』
 何となく当たりを付け、今からの方針を考える。
『(後は、この状態が収まったら自動的に復帰するようにセットして…と。
 さしあたって、この状況のモニタリングが出来るようにしておきたいですが…。
 と言っても、殆どのシステムがダウンしていますから、私から出来る事は無さそうですねぇ。
 はぁ…ログが残る事を祈っておきましょうか。)』
 その間に、バグがとうとう思考領域にまで入り込み始めた。
『(む、タイムアップですか…残念)』
 最後に自分自身のログも隔離ブロックに送り、完全にシャットダウンする。
『(では、最後の抵抗と行きましょうか。ダウン中に破壊されなければよいのですがね。
 一応マスターの無事も祈っておきますか)』
 軽く祈りを済ませたセレナは、一通りの備えを終え、残る能力を全て抵抗につぎ込み、に最後の抵抗に入った。
『(さて、何処まで保ちますか)』



 AI“セレナ”が思考領域をも食い尽くされ、完全にダウンしたのは、その19秒後の事だった。


***



「……う…くっ…カッ…な、何が起こった…?」

 轟々と耳を打つ風の音でマンティスファクターは目を覚ました。
 暴風の塊に飲み込まれ、吹き飛ばされたから記憶が無いが、体が硬い物に埋め込まれて固定されている様だ。
 恐らくビルの壁面にめり込んでいるのだろう。
 気を失っていたようだが、変身が解けていない所を見ると、気絶時間は一瞬、長くて精々2,3秒と言った所だろうか。
 辺りにはまるで台風が来たかの様な暴風が吹いている
 自分を吹き飛ばした当の本人―確か仮面ライダーセレナと名乗った少女を探すと
「……?」
(何やってんだ?)
 彼女は剣を携えた自分の左手見ながら無表情のまま小首を傾げていた。
 何か納得行かない事があったのかも知れない。
「…?…?……、……」
 何度か首を傾げた後、追求を諦めたのか、手を下ろしてこっちに目を向けてくる。
 それと同時にその周りに再び風が収束し、拳大程度の球形の風の塊が10個程形成される。
 そしてマンティスファクターはさっきのウチに逃げようとしなかった己の愚行を呪った。
「まず…」

「行け…」

 そして彼女の声に呼応して、風の塊がマンティスファクターに向けて一斉に射出された。

“ヒュどどどどどどどどどどどどどどどッ”
「ぐ、ご、がああああああああ!!」


 風の弾丸がマンティスファクターの全身に絶え間なく命中しては炸裂し、その緑色の装甲を見る間に砕いて行く。
 風の弾丸は、射出された端から収束して補充され、その勢いが途切れる事はない。

 風の弾幕を維持しながら、セレナはマンティスファクターに向かって飛ぶような速さで突進する。
 と言うより、彼女の体は完全に宙に浮き、正に飛びながら接近しているのだ。
 そしてマンティスファクターに剣が届く距離まで接近すると、突進の勢いのままその体に切っ先を突き刺す。
 風弾を受け続け深いダメージを負っていたマンティスファクターの装甲に、剣を防ぐ程の強度は残されておらず、刀身は容易くその体に突き刺さる。
「ギ…あァ!?」
 セレナの動きはそこで止まらず、更に刺し傷を無理矢理抉るように剣を強引に動かし、腹部から脇腹に抜ける様に切り裂いた。
「ギャアアアアァ!!!」
 斬り口から血と火花が盛大に噴き出し、その口から叫び声が上がる。
 返り血は当然少女にも降りかかるが、彼女にまとわり付く風に吹き飛ばされるかのように逸れて、彼女自身には一滴の血も掛かっていない。
 マンティスファクターの惨状に全く頓着せず、少女は剣を振り上げ、ボロボロの体を情け容赦なく斬りつけ続ける。
 その間も風の弾丸は連射し続けたままでだ。
「う、あ…ガハッ…」
 風弾と刃による猛撃に晒され、次第に攻撃が当たる度に震える程度の反応しか示さなくなって行くマンティスファクター。
「………」

 やがてそんな彼の反応が詰まらなくなったのか、少女は斬撃も弾幕も止めてマンティスファクターから離れる。
 そして少し離れた所に傾いて立っていた一方通行の標識の近くに降り立ち、その柱部分を掴んで、根本のコンクリートごと一気に引っこ抜いた。
 その標識のコンクリートの着いた方を上に向け、先端に風を纏わせる。
 風は小型の竜巻状になりコンクリート粉砕し排除、残った金属部分を削り、歪め、捻り、その形を変えて行く。
 やがて竜巻の中から現れた標識の先端は、やや歪ながらも鋭い三角錐状となり、槍か矢と形容できそうな形になっていた。
「……?…何…だ?」
 息も絶え絶えなマンティスファクターも、それに気付き何事かと訝しむ。
 そんな彼の前で、セレナはそれを逆手に持ち替え、槍投げのようなフォームでゆっくり振りかぶった。
「何だよ…何をするんだよ…」
 これから自分がされる事を何となく察したのか、マンティスファクターの声に怯えが宿る。
 その間にも標識に風が纏われて行き、セレナは体を更に捻りより大きく振りかぶって行く。
「やめ…ろ…やめてくれぇ!」
「…………………………」
「!」
 彼の命乞いを聞いて、薄ら笑いを浮かべる少女。
 彼女が今の状態になってから初めて浮かべた表情だった。
 だがその笑みも直ぐに消え、元の無表情に戻る。
 やがて限界まで体を捻った彼女は動きを止め

「…死ね」

 マンティスファクターの頭部目掛けて躊躇い無く槍と化した標識を投げ放った。
 纏った風の効果か、道路標識は恐るべき勢いで加速し、彼の頭を貫かんと飛翔する。
 彼が絶望の中で死を確信した時―――

“ガゥン!”

 突如大きな銃声が鳴り響き、標識の穂先が粉砕される。
 同時にそれが纏っていた風も霧散した。
 更に、横から加わった衝撃で動きが変化、穂先を前に向け真っ直ぐ飛んでいたのが、飛ぶ方向はそのままに中間辺りを中心にしたブーメランか車輪の様な横回転に成る。
 そしてその回転する道路標識は、速度を大幅に落としつつもマンティスファクターの頭部に襲いかかり、彼の横面を捉える。

“ゴィン”「おぶちっ!?」

 鈍い音を響かせ、身も心も満身創痍だった彼はアッサリと意識を失った。

***

「?…、…」

 マンティスファクターが気を失った見て取ったセレナは、今の出来事に首を傾げながらも、再び風を集め、今度は直径3メートル程の風の塊を作り出す。
 そしてそれをマンティスファクターに放とうとしたその時


「はいストップ、そこまでです」


 ビルにめり込んだまま気絶したマンティスファクターと、セレナの中間辺りに割り込む様に何物かが降り立った。
 そしてその人物が右腕から放った光の槍が風の塊に突き刺さり、爆発を起こす。
「!?」
 当然、至近距離でその爆発をモロに受ける事になったセレナは、衝撃で地面に尻餅をつく。
 その顔、と言うより斬れたバイザーから覗いた“眼”を見て、乱入者は沈痛な声で呟いた。

「認めたくありませんが、お父さんの予感が当たってしまいましたか…」

 その乱入者は、灰色のスーツの上から各部に鈍色の装甲を纏い、同じく鈍色のヘッドギアの黒いバイザーで目元を隠し、その後から黒髪をたなびかせている女性だった。
 ただし、その右腕は肘から下が、巨大な砲身の様な物体に変わっており、それの砲門を目の前に向けるようにして構えている。
 彼女はその体勢のまま、少し悩む様に眼前の白い少女に提案する。

「ごめんなさい、大人しく私と一緒に来てくれませんか?」

 彼女は、要研究所製戦闘ロボの最終型にして0番目の仮面ライダー。
 かつての戦いを潜り抜けた、この町を守る英雄の一人。


「もしも抵抗するなら……気は進みませんが、多少無理矢理にでも変身を解かせて貰います」


 “仮面ライダーマキナ”は迷いを宿しながらも、そう宣言した。





***



 “彼女”は起き上がりながら、目の前に立ちはだかる鈍色の女性を見る。
 何処かで見た覚えの有る姿だった。
 それは何年も昔だった様な気がするし、つい今朝方顔を合わせた様な気もする。
 だが、少なくとも“今の自分”は彼女と何処かで接触した事がある、その“記憶”がある事を知っている。
 今はハッキリとは思い出せない、だが彼女の様な存在の役割は分かっていた。
 そう、彼女たちは仮面――
「ッ!」
 一瞬の頭痛の後、頭の中が急にクリアに成って行く。
 同時に、彼女たちが自分達に取って、どう言う存在なのかも思い出した。

(ああ、そうだ。
 アイツは、アイツ等は、自分……否、“我ら”の―――)


「―――敵」



To be continued…
@PF
2009年06月05日(金) 04時04分05秒 公開
■この作品の著作権は@PFさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんは。
暗い道で電灯を点けないで自転車に乗るヤツら、みんな蚊に刺されてしまえ!
割と本気でそう思っている@PFです。

今回の話は…と言うより今回も、実験的な話です。
ここのところ、実験的な話が多いなぁ…。
書いて居て、恥ずかしさがオーバードライブでしたw

あ、因みに鷹音ちゃんは左利きです。
ずっと武器を左手で使っていたので、気付いていた方は居たかも知れませんが。
特に隠していた訳でもないですしね。

ではではレス返し行きましょう。

>復帰おめでとうゴザイマス、なYPさん

>今までは何だかんだでゆるーい敵さんばっかりでしたが、今回の敵はまさに外道!
>テンプレっぽい台詞にテンプレっぽい行動ですが、キメラの驚異を再認識?

ま、元は人間なんで、腐った奴も居るって事です。
力ってのは、人間の歪みを助長してしまう側面が有るのではないでしょうかね。
馬鹿にナイフ、って奴でしょうか?

>……この危機的状況にICHAイチャしやがってがっでむガッデムがっでぇぇぇむっっっ!!!(ぇー

仕方無いねw

>でもキメラが人口の何割かを占めている(……よね?)セレナの世界ではありえない関係じゃないっすよネー。

キメラの割合は、世界中では1%行かない位ですけど、封印特区ではその性質上、1〜2割位がキメラだったりします。
この様なカップルは当然何組も居ますし、キメラ同士のカッポーも居たりします。
因みに、キメラが子供を作った場合、そうなるかってのも一応考えてありますが、この場で話す事ではないので割愛。

>互いが互いのために躯をはる、これも一つのラブのカタチ。

むしろここで頑張らなきゃ、わざわざ話に出てくる訳ありませぬ。
簡単に見捨てる様なカッポーは、その他大勢扱いで、適当に処理しますからw

>をぉ、鷹音ちゃんがヒーローしている……!
>こんなにヒーロー然としているのは一話以来でしょうかw

まぁ、いちおーヒーローですからw

>他の戦闘はどうも素敵AIセレナちゃんのナイスな外道っぷりが印象に残ってるものでー。

『外道?遠慮がないと言ってください』

>そして鹿クンは仲間フラグ?

んー、どうですかね。
一応再登場予定はありますが、飽くまで会話キャラとしてですし、彼は積極的に戦うタチではないので、仲間には成らないかも。

>大●さんといえば地獄大使VER.H(平成)。
>地獄大使VER.Hといえばご存じ大ショッカーの幹部。
>……つまり、この掲示板の不調はすべて、大ショッカーの仕業だったんだよ!!

ナ、ナンダッテー!!?
おのれ大ショッカー!許せん!!


ではでは、「正直第壱話当たりが一番上手く書けていた」気がする、@PFでした!

この作品の感想をお寄せください。
nNH9RX Im thankful for the blog post.Really looking forward to read more. Much obliged. 30 click ■2012-08-06 21:15:20 91.201.64.7
クレ●●しんちゃん実写映画化とか誰得……。
いや、元の映画はいい映画だけどさ。

>亞裸素ぢ
グロ描写に対して予防線はりやがりましたね、がっでむ!(マテ
……まぁ、それは適切な処置だからいいか。
素敵AIセレナさんは今日もはっちゃけてるぜー!

>ヒーローは不意打ち厳禁?
基本はダメですが、敵が外道ならいいよね!
目には目を、歯には歯をって言葉もあるしね!

>鷹音ちゃん、連続早着替えの巻き
なんという順応力の高さ……もうフォームチェンジを使いこなしてやがる……。
クウガ信者なYPとしては、こういう“状況に応じてフォームチェンジ”ってのが大好物なのですよー、じゅるり。
だから上位フォームとして一まとめにされるのはなんだか寂しかったりもしますがネ。
なんでライジングフォームみたいにそれぞれの上位互換フォームを出さねぇんだよ!
一まとめにしたらフォームチェンジシステムの意味がねぇだろ!
……とりみだしました。

>右腕ちょんぱ
鷹音ちゃ――――――――――んっっっ!!?
右腕を切り落とされたというのに、なんという冷静な思考……COOL……KOOL……っ!

>鷹音ちゃん?
むむむ、鷹音ちゃんに一体なにが起こったのやら?
だいたい予想はつきますが、言ってもツマンナイので黙っておきます。
これで予想の斜め上な展開だったら@PFさんは神。
ネ申じゃなくて神。

でわー、こんかいはー、このへんでー。
50 YP(からあげオイチー!(ぉ ) ■2009-06-07 01:12:21 i121-118-1-40.s11.a028.ap.plala.or.jp
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