仮面ライダー珀羅 『炎の獅子と氷の月精《後編》』 |
● 香織「よかったぁ、間に合いそう。」 香織は神社の近くの雑木林を歩いていた。 木が生い茂っているため、周りは暗くちょっと怖い気もしたがここを抜ければ神社まではもうすぐだ。 先ほど購入した本を大事に抱えて進んで行く。 《・・・・・・・ャ・・・・》 香織「?」 ふと何か音が聞こえて香織は立ち止まる。 《・・・ニャー・・・・・》 香織「ねこちゃん?」 耳を澄ませて見ると微かに鳴き声が聞こえた。 声の聞こえる方を見ると木の陰から長い二つの尻尾が見え隠れしている。 香織「・・・・?」 何だろうかと近寄ってみるとそれは木から飛び出してきた。 猫又《・・ギニャー・・・・!》 香織「っ!?!?」 人の丈より大きな猫・・・いや、猫のような形をした化け物だった。 その全身の毛は針のように逆立ち、長い爪は獲物を仕留めるナイフのように鋭かった。 香織「ぁ・・・ぁぁ・・・」 その化け物は足が震えて動けなくなった目の前の標的に向かって襲い掛かった。 猫又《ギニャァァァァア!!!!》 香織「きゃぁぁああっ!?」 パシュンッ! 猫又《ギッ!?》 その刹那、氷のつぶてが飛んで来て獣の顔を捉える。 混乱した獣はそこからぱっと飛び退く。 香織「え・・・何が・・・『さっ』きゃっ・・」 雪乃「香織、こっちよ。」 香織「せ、先輩!?」 香織が唖然としていると先ほど分かれた雪乃がその手を引き木の陰まで連れてゆく。 雪乃「驚いたわね、襲われてるのがあなただったなんて。」 香織「あ、ありがとうございました・・・でも、先輩どうして・・・・」 雪乃「ちょっとお仕事でね。これから見ることを内緒にしていてくれると助かるんだけど。」 香織「え・・は、はい・・・・」 雪乃「それじゃ、あなたはここに隠れてて。危ないから。」ぱっ 香織「っ!先輩、どうするんですか!?」 木の陰から雪乃が踊り出て周辺をうろつく猫又の前に出る。 猫又「ギニャーーーー!!」 雪乃「こうするの・・・」シュルルルルルル カチッ 雪乃はどこから取り出したのか、とても長い数珠を腰に巻きつける。 精神を集中・・・自身の霊力、周辺の霊気の調整を一瞬で行うと静かに言った。 雪乃「・・・変神!」 サァァアアアアアアアアアアアアアア 突如巻き起こる季節外れの豪雪が、雪乃を包み込む。 香織「えっ!?せ、先輩・・・!?」 月華「氷神月華・・・・見参よ・・・!」 月に照らされた氷のように華やかな美しさを放つ白く輝く鎧・・・・・ 背中にはダイヤモンドのように煌びやかに光っている氷の羽 そして手するのは刃が鋭い氷で出来た長い槍。 『氷神月華‐乙型‐』・・・防御を重視する法士甲武の“甲型”を雪乃自身がアレンジ改良した砲戦特化の武装法術である。 月華「さぁ、行きましょうか。」たっ 月華は地を蹴り宙に踊り出る。 そしてくるりと身を捻ると獣に向け槍を突き出した。 月華「砲焉弾雨の陣!」サッ・・・シュバババババババ!!!! 猫又「ギッ!?」 月華が槍を円を描くように回転させると空中に術式が浮かび上がりそこから無数の氷の矢が獣に向かって飛んで行く。 だが、獣の方も反射的に脇に逸れ、氷の矢は何も無い地表を貫いた。 月華「やっぱり足が早いのを一人で相手にするのはキツイわね。」 月華は水晶で出来た笛のようなものを取り出す。 そして、それを鎧越しに口元に充てると・・・・・・何も聞こえない(ぉ 猫又「ギニャ?」 月華「ふふ、今日は何分で来れるかしら。」 ○ 緩和休題 ピクッ 玉緋「ん?」 突然、玉緋の髪・・・両側の頭頂の辺りから少し大きめの“耳”が飛び出る。 ネコ耳ならぬキツネ耳というやつだ。 燎子「どうかしたk・・・・っ!?」 玉緋が何か反応を見せるとそちらを向いた燎子が固まる。 それもある一部のパーツに目を釘付けにして・・・・・ 玉緋「・・・お嬢のやつ、結構近くでやっているな・・・・」ピクピクッ かなり特殊な周波数で出してあるようだがその音は玉緋の耳にもバッチリ届いていた。 キツネはイヌ科であるため余計に分かりやすいのかもしれない。 玉緋(一応アレも完成している・・・・いい機会だ、行ってみるか・・・・) 玉緋「燎子、お嬢を待っているならこちらから行った方が早いかもしれないぞ。一緒に来るか・・・って、どうした?」 玉緋が燎子の方を向くとようやく異変に気付く。 燎子は何やらもの凄く目を輝かせて自分・・・・主に耳をじっと見ていた。 燎子「ソ、ソレちょっと触っていいか?」 玉緋「っ!?・・・ぬ、ぬ・・・・・・」 燎子「・・・・・・・」キラキラキラッ 玉緋「・・・・・・・」ピクピク お目々をキラキラさせている燎子さんにびみょーーーーーーーーーな表情の玉緋さん。 それもそのはず、プライドが高い玉緋さん的には耳を触られるのはなんとも気が引けるのだ。 普段耳が出てないのはうまく人に化けるためでもあるが大事な所故隠しているせいもある。 燎子「・・・・・・・」キラキラキラッ 玉緋「・・・・・・・」ピクピク なにやらお互いに無言のやり取りをしているようである。 ちなみに玉緋はその間始終『みみ☆ぴく』だった。 玉緋「・・・はぁ・・好きにしろ・・・・」 燎子「うぅぉおおおおおお!!!ぃよっしゃぁああああああ!!!!」ふにふに 戦いの果て、勝利したのは燎子の方であった。 やはり燎子さんにはモノ凄い目力が・・・・・・・なんか違うかな? ● 到着 シュタッ 紫苑「遅くなりました、お嬢さま。」 月華「ふふ、ジャスト二分なら紅茶が仕上がるのより早いわよ?」 月華が犬笛で呼び寄せたのは戌の式、紫苑だった。 彼女は矢倉邸で一緒に暮らす専属のメイドさん、雪乃が生まれてから最も長く傍にいる者でもある。 月華「紫苑、準備はいい?」 紫苑「はい、先に仕掛けます!」 紫苑は抱えた特注モップ(ぉ)を地に着けると一直線に走り出す。 それに反応して猫又も身を低くする。 紫苑「はぁっ!!」ブンッ! 猫又「ギニャッ!」サッ 紫苑「せぁっ!!」ブンッ! 猫又「ギニャッ!」サッ 第一撃は猫又が斜めに逸れて回避、第二撃はそれに続くように紫苑はモップを縦に滑らせるがそれも回避。 合わせて、六回の攻撃の後紫苑はモップを地面から離し横薙ぎに払う。 猫又「ギニャッ!」サッ だがそれも獣が上空に飛び上がるという形で避けられることになる。 しかし宙に浮いたということはそれと同時に・・・・・ 月華「流石ね、いい位置だわ。」しゅっ 太い木の枝にちょこんと座り氷の杖を獣に向けた月華がもう片方の手で取り出した霊札を地面に向かって投げつける。 そこに六角形の陣が浮かび上がり六角柱の光が獣を捕らえた・・・空中ではどうやっても避けられまい。 それは先ほど紫苑が描いた術の効力を上げる為の法陣であった。 カァアアアアアアア!! 月華「百華斉法・・・・」 猫又「ギニャッ!?」 月華「砲華氷結界(アイシクルバスター)!!」 ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 猫又「ギッ・・・・・」 月華の操れる最大出力の冷気を撃ち出す法術、杖の先から放たれた冷気は獣を一瞬で氷付けにし氷の柱に閉じ込めた。 猫又「・・・・・・・・・」 香織「す、すごい・・・」 月華「もうすぐだから待ってて。」 木の陰に隠れていた香織も顔を覗かせその出来上がったオブジェに感嘆していた。 だが、月華が最後の仕上げにそれを滅しようとしたとき・・・異変は起きた。 《へぇ、悪くはないけどまだ・・・足りないかな。》 ゾォッ・・・・ 月華「え・・・・・?」 猫又「ギギャ?!?!?!?ガァアアアアア?!??!!?」ドドドド ゴォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオ・・・・・・ 突如、氷の中の猫又の霊気が跳ね上がりその形を変えてゆく。 猫のような姿は虎のような姿へ・・・・より獰猛に、より禍々しく変貌して行く。 妖虎「グルルルルルルル!!!!」ガンッ! 獣は氷を砕き地面に降り立つ。 月華「これは・・・・・!?」 妖虎「グォオオオオオオオ!!」ガンッ! 月華「きゃっ!?」 林を縦横無尽に駆け巡るその獣は月華に肉迫すると爪を振るう。 月華は衝撃で後ろに吹き飛んでゆく。 紫苑「お嬢様っ!!」 回り込んだ紫苑が月華を受け止めて地面に着地する。 紫苑「お嬢様、大丈夫ですか!?」 月華「え、ええ・・・でも、ちょっとマズイわね。これは・・・」 姿が変わってから相手はより積極的に攻撃を仕掛けてくるようになった。 乙型は雪乃の特長に合わせて砲撃戦仕様になっている。 逆に言えば体つきの小さい雪乃はどうやっても格闘戦には不向きなのである。 紫苑も居るが冢杏や蚩尤達ほどのパワー型ではないため当たり負けしてしまうだろう。 ○ 燎子「あ、あの白いのが先輩だってのか?」 玉緋に連れられて燎子は雑木林にやってきていた。 燎子は月華達の戦いの様子に固唾を呑んでいる。 玉緋「そうだ、特別な術を使って鎧を着込んでいるがな。」 燎子「はぁ・・・やっぱ先輩はなんか凄ぇ・・・」 玉緋「オレの見たところお前もそれだけの霊力はあるぞ?」 妖虎「グルァアアアアアアア!!」ダッ!! 紫苑「くっ・・・!」 月華「いけない!向こうには・・・!」 月華と紫苑を跳ね除ける獣。 二人が見えなくなると代わりに獣は真っ直ぐ突進し始める。 燎子「アイツどこに向かって・・・・なっ!?」 香織「は・・・わわ・・・・!?」 燎子「何で香織があんなとこに居んだ!?・・・クソッ!!」 獣が向かってゆく一本の木の陰から見えるのは怯えて動けずにいる親友・・ その姿が目に入った瞬間、燎子はただ走っていた。 燎子「クソッ!このままじゃ、間に合わ『ヴゥン』!?」 燎子の体が一瞬仰け反るとその眼が緋色に変わった。 そのまま走り続ける燎子はどこから取り出したのか長い数珠を腰に巻きつけ叫んだ。 燎子(?)『時間がないんだろ、行くぞ・・・変神!』カッ! ○ 香織「わわわわ・・・・」 妖虎「ガァアアアアアア!!」ガバッ 獣が飛び上がる。 もうダメだと香織は目を瞑りその場にしゃがみ込んだ。 香織(燎子ちゃんっ・・・!) 「うぉらぁあああああああああ!!」どげしっ! 妖虎「ゲァッ!?!?」 だがそこに突然何かが突っ込んで来て獣の腹を抉るように蹴り飛ばす。 衝撃で吹き飛ぶ獣は近くの木にぶつかり少しひるんでいた。 香織「え・・・・先輩・・・?」 「大丈夫か、香織!?」 香織「そ、その声・・燎子ちゃん・・・!?」 目を開いた香織が見たのは橙色の鎧姿。 また雪乃かと思ったのだが聞こえてきた声は彼女の親友、燎子のものだった。 「声?・・・うわっ!?なんだこりゃ!?」 燎子は体を見てみると全身が見たこともない鎧に覆われている。 その橙色の鎧は所々から上がる炎が毛皮のように身を包んでいてどことなく獣のような感じがする。 例えるなら獅子のような雄々しさを持った姿だ。 これが玉緋の新しい憑依法術『炎神鈴音(リオン)』であった。 玉緋(そいつを守るんだろう?戦うなら鎧があったほうがいい。) 鈴音「タマさんか・・・そういうことなら使わせてもらうぜ。」 玉緋(た、タマ・・・・?) 鈴音「玉緋の【玉】の字とってタマさん・・・・可愛いだろ?(ネコっぽくて)」 玉緋(まったく・・・お前らと来たら・・・・まぁ、いい。それより・・・) 目の前の香織が先だ。 香織「燎子ちゃん、あの・・・あのね、私・・・」 彼女は話したがっていた燎子が現れ、混乱しつつも何か言おうとしている。 鈴音「ち、ちょっと待て・・ストップだ。」 香織「え・・?」 香織の言葉を燎子が遮る。 そう、初めから自分が不器用だっただけで彼女は何も言う必要はないのだ。 鈴音「あー、その・・・なんだ・・・」 言いたいことは山ほどある、様々な言葉が頭の中を駆け回っていたが・・・上手くまとめられず、結局燎子は一言だけ 鈴音「今度は後ろ取られるなんてヘマしない・・・だから、しっかりそこで見ててくれ。」 燎子らしい単純な言葉、しかしそこには燎子の気持ちがきちんと詰まっていた。 香織「燎子ちゃん・・・うん!」 鈴音「ごめんな・・・・・・・ありがと。」 香織の顔がぱぁっと明るくなって何度も何度も頷いていた。 それを見てようやく燎子の胸の中につかえていたものがとれた気がした。 鈴音「交代だ、“ゆっきー先輩”!香織を頼む!」 月華「ふふ、そういうことならお任せしようかしら。下がるわよ、紫苑。」 紫苑「わかりました。」 月華と入れ替わりに鈴音が虎の前に立つ。 すると神社の方から二体の獅子が飛来してきた。 赤獅子「燎子さん、私たちもお手伝いしますよー。お狐様だけじゃ頼りないですからね。」 白獅子「わかりますか?こっちがセキで私がビャクです。」 鈴音「お前ら・・・助かる!」 玉緋(まぁ、居ないよりは役に立つ。) 鈴音「よし、行くぜ!!」 掛け声と共に鈴音が走り出す。 鈴音「でぁあっ!!」ブンッ! 妖虎「ガルルルルルル!!」サッ・・ザンッ! 鈴音の拳を交わした妖虎は今度は長い爪で切りかかってくる。 ガシッ! 妖虎「ガルッ!?」 鈴音「なぁ、なんとなくだがコイツ・・・なんか苦しんでないか?」 爪の一本を掴み、鈴音は相手の動きを止める。 虎は振り放そうとしているが燎子はぴくりとも動かない。 玉緋(霊力が器に入りきれていない、苦しいだろうな。言っておくが助けたいなら倒すしかないぞ。) 鈴音「そっか・・・・ならよ!!」ブゥゥン!! 妖虎「グァッ!?」 鈴音は一本背負いのようにして妖虎を投げ上げると腰の日本刀『紅鬼灯』を引き抜き言った。 鈴音「セキ、ビャク!上げてくれ!即効で片付けるぞ!」 赤白獅子「「合点承知です!」」 指示を受けた二匹の獅子は妖虎に向かって空中で体当たりをする その繰り返し行われる攻撃で妖虎は空高くまで弾き上げられた。 赤獅子「ビャク、パスです!」ダンッ! 妖虎「ガァッ!?」 白獅子「はいっ!そろそろですよ兄者!」ダンッ! 赤獅子「オーケィです、行きますよ燎子さん!」ダァン!! タイミングを見計らって最長というところで赤獅子が妖虎を叩き落とす。 それは猛スピードで落下してゆき、ちょうど鈴音の真上に向かって落ちてくる。 一方地上、鈴音は刀を下段で構えて精神を集中していた。 鈴音「一刀両断・・・・!」リィン・・・・カッ!! 刀が揺れると淡い鈴の音が響き、鎧からさらに激しい炎が上がる。 特に背中の辺りの出力が上がり翼のようにそれが揺れ動くと鈴音は大地を蹴り上げ大きく跳躍する。 そして刀に炎が灯ると、一閃・・・・! 鈴音「熱風咆哮斬(フレイムレイヴ)!!」リィィィンンッッ!! 妖虎「っ!?」 ドガァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァア!!!!! 真っ二つに獣が裂かれると、それと同時に巻き起こった炎が凄まじい爆発を起こした。 ○ 蓬縁神社 燎子「(ごくり)・・・・お、おい・・・香織・・・こいつは・・・」 香織「う、うん・・・・・・・・」 「「可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♡(はぁと」」(でれぇっ) 色々片が付き、二人は香織の持ってきた『超かわええわん☆にゃべ特盛』をベンチに並んで座り鑑賞していた。 今夜は満月で回りも明るく、外灯さえ灯っていれば屋外でも十分本が読める。 香織は頬を紅潮させ少し興奮しているようで、燎子に至ってはもう萌え死にしそうなくらいでっれでれになっている。 雪乃「どれどれ・・・・あら、ホントに可愛いわね。どう紫苑、あなたもお鍋に入って見ない?」 紫苑「遠慮しておきます。」 後ろから覗く雪乃がそう言うとさっぱりした返事が返ってくる。 待機状態でも大型犬くらいの大きさはあるため鍋なんかには入らない。 代わりに『ドラム缶in野外』とか言うのをさせられることになるのは後の話(ぉ 玉緋「沈んでいたのが嘘のようだな・・・・まぁ、それが何よりだが・・・」 やり残した掃除を片付ける玉緋は遠くから微笑ましくその様子を見守っていた。 目線の先にはにっと八重歯を見せながら笑う燎子の姿・・・そこにはここに来たの時の暗い雰囲気はもうない。 玉緋「フウ、お前の孫は元気にやっているぞ。」 見上げる月に向かって玉緋が報告するように呟くと・・・それは少し輝いたような気がした。 玉緋は少しだけ口元を綻ばせるとまた掃除に戻る・・・・ ● あらかたの掃除を終えようとしていた頃、玉緋は神木の陰に出来た深い暗闇へと目を向ける。 玉緋「・・・・そこにいるやついい加減出て来たらどうだ・・・」 《へぇ、やはりキミにはわかるか。》 闇の中から一枚の仮面がすっと浮かび上がる。 それは神々しくもどこか不気味で・・・・存在しているのか、いないのか曖昧な調子のその仮面に玉緋は見覚えがあった。 玉緋「お前は・・・あの時・・・!」 忘れもしない・・・・そいつは昔自分を封印したその仮面だった。 《やぁ、キツネさん。随分力をつけたみたいだね。》 玉緋「おかげさまでな・・・お前、何者だ?」 月読《ボクの名はツクヨミ【月読】・・・れっきとした神族だよ。最も、この世界のではないけどね。》 玉緋「何・・・?」 月読《凶星に破壊されたずっと前の世界の神ってことさ。ほら、ボクにはもう精神しか残ってない。》 それは霊体で自身を地上に降ろすことも出来ないほど存在が弱いということだった。 だがそんな状態になっても感じる何とも言いがたい妙なプレッシャーからは元々そうとう上位の神だったことが伺える。 玉緋「その前の世界の神が何のようだ。」 月読《手伝って欲しいことがあるんだよ。昔からこの世界の神は色々縛りが効いてるからろくに動けないし、ボクもこの体じゃ大したことは出来ない・・・せいぜい・・・・》 玉緋「死霊を変生させるくらい・・・か?」 月読《・・・・・へぇ・・・・》 その仮面を睨みつけながら玉緋が言ってのけた。 表情こそ分からないがその声色は僅かながら変化したように感じられた。 月読《気づいてたのかい。流石だね・・・・でもまぁまぁ、キミ達の力は分かったよ。》 玉緋「ふんっ、お前のような怪しい奴の言うことをこの八神の守護神、空狐玉緋が聞くと思うのか?」 月読《そうかい?ボクはこの世界の為を思って動いてるんだけどな・・・キミ達も真の凶星とは戦いたくないだろう?》 玉緋「真の凶星・・・だと?」 玉緋がその言葉に反応を見せると仮面は話を進める。 月読《今の凶星は力を分けられているんだ。ボクの弟の働きでね。弟、スサノオ【素盞嗚】は開闢(かいびゃく)の化身・・・光と闇、陰と陽、天と地、海と陸・・・混沌(カオス)を切り裂き、始まりの道を分かち開く・・・新たな世界を築く創生の神だった。遥か昔のまだ“創造”と“破壊”だけで“維持”という道がなかった時だ。ボクら創生側の神と破壊側の凶星とで激しい戦いがあった・・・・スサノオはその戦いで自らの魂と引き換えに凶星の力を割いたんだ。》 玉緋「あの羅喉でもまだ半分というのか・・・!」 月読《羅喉・・・キミ達が戦ったラーフのことだね、奴もだけどもう一つの方が危険なんだよ・・・・ケイトゥ、計都とも呼ばれるもう片方は元の姿に戻りたがっているんだよ。》 玉緋「・・・どうやって戻るつもりだ?」 月読《この世界には阿修羅という神族がいるだろう?あれはこの世界に逃れて生き延びたボクらの姉、アマテラス【天照】の一族なのさ・・・・ケイトゥはおそらく弟の魂を目覚めさせる媒介としてそれを使ってくるだろうね。》 玉緋「阿修羅族・・羅刹天・・・・いや、アイツか・・・」 月読《心当たりがありそうだね。キミたちにも弟が目覚めるのを止めて欲しいんだよ。たとえ“その阿修羅を殺してでも”ね。その分の力は持ってるはずだよ?》 その緋色の眼がギョロリと動く。 この仮面が自分の運命を変え、神になるように施した理由がようやく分かった。 そして仮面はそれを当たり前のように言ってのけたのが玉緋には・・・・・・ 玉緋「ふんっ、やはり気に食わんな。」 月読《・・・・・どうしてだい?ことの重大さがわからない立場でもないだろう?》 玉緋「・・・・・・・」 暫く仮面をじっと見ると、今度は集まっている燎子達の方に顔を向ける。 玉緋「この立場だからこそだ。例えお前から与えられたものだろうと今のオレの力は壊す為のものじゃない・・・人々の幸せ・・・繋がり、絆を護る為のものだ。お前が何を恐れているかは知らん、オレはただ護りたいものを護る。」 月読《・・・・ふぅん・・・・》 調子こそあまり変わらなかったが、自分の力を分け与えた言わば子供に裏切られたのだ。 言霊には微かな落胆の色が混じっていた。 月読《警告はしたよ・・・・・?》すぅ・・・ 仮面がまた闇の中に下がって行きそして見えなくなる。 玉緋「・・・・・・・」 玉緋「始まるか・・・・・」 仮面の消えた暗闇を見つめ玉緋は静かに呟いた。 |
青嵐昇華
2010年08月25日(水) 22時17分34秒 公開 ■この作品の著作権は青嵐昇華さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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合計 | 970点 |