仮面ライダーセレナ 番外篇1・後編「吸血鬼と彷徨う”伝説”/一期一会(或いは一つの説明回)」 |
『月とは、太陽系で最も地球に近く、地球の周りを公転している天体である。 昔から東洋では陰陽の“陰”の象徴として人間の女性に関連するとされ、西洋では人の狂気や“魔”の象徴とされていました。満月の夜に人狼は変身し、吸血鬼の力は高まり、魔女は黒ミサやサバトを行うとされています。 また、満月の夜は犯罪の発生率が上がると言う説も出ているそうです。 とは言え、月と“魔”の関係には近年に付け足された物も多く、犯罪率も明確な統計は明らかになっておらず、俗説の域を出ては居ません。 ですが、只の俗説や後付だったとしても、そういった物を関連付けさせたくなるような何かが月に有るのも、また事実なのかも知れませんね。 では本編を…と言いたい所ですがその前に一つ注意を。 今回の話はほぼ説明で占められています。 内容もこれからの“仮面ライダーセレナ”の進行に殆ど関係無い内容且つ、一部のライダーファンなら知っているかも知れない情報が大部分です。 その事を踏まえた上で、じっくり読むなり、適当に読み飛ばすなりしてくださると良いです。 また、足りない情報や、余計な情報、知りたい情報、論法が飛躍しておかしい所などが有りましたら感想欄にお書きください。 “書き手の意図を逸脱しない範囲で対応・修正させて戴きます”と作者が言っていました。 では今度こそ本編をどうぞ!』 *** 「いやー悪いね!こんなに奢って貰って!」 「いえ…」 あれから10分後、言葉通り“一瞬の痛み”と“ちょっとしたくすぐったさ”と共に“何か”を注入されて動けるように成った私は、助けてくれた女の人と共に少し離れた公園に来ていた。 「んくっんくっ…ふぃー、美味―い!やっぱりお茶は人間の生み出した文化の極みだね! 月も綺麗だし言う事なしだわ」 「それはどうなんでしょう…」 今ベンチに座っている私の隣には、ハイテンションでお茶を何本も一気飲みしている女の人と、消費されたお茶の空き缶が幾つも有った。 そんだけ飲むんなら専門店行けば同じ値段でもっと高級なお茶飲めるんじゃね?って位の量だ。因みに全部私が買った。 あまり背の高くない彼女が、表情を崩して夢中でお茶を飲んでいる姿は何となく微笑ましい気もするけど、ついさっきまで命を落としかねない自体に巻き込まれていたと思うと、和む気にはなれない。 「テンション低いわね…私何か悪い事言ったかしら?」 「え…そう言う訳じゃ無くて、ちょっと面食らったというか…」 申し訳なさそうに私を伺うこの人の名前は“早桐茶夜(はやぎりさよ)”さん。 私を助けてくれた仮面ライダーの中の人であり、人間とは違う生物種“レジェンドルガ”に属する女性である……らしい。 あと、どうも重度のお茶中毒っぽい。 * 事の顛末を簡単に説明すると、あれからお互いの簡単な自己紹介をした後、近くの公園に移動して、そこで私が曲がりなりにも助けて貰ったお礼をしたいと申し出た訳だ。 「じゃあ、ちょっと奢って貰おうかな」 その言葉に私はどんな高級料理を要求されるのか、戦々恐々としていたけど、帰ってきた答えは 「代金は――自販機のお茶で良いわ」 (良かった、思ったより安く済みそうだ) ホッとしながら三つ並んだ自販機の前で私は財布から小銭を取り出し、茶夜さんにどれが良いか聞く。 すると予想外の答えが帰ってきた。 「全部」 「へ?」 「だから、“茶”とつく物全部」 「え…ちょ…えーと……ハイ…」 緑茶麦茶烏龍茶紅茶ブレンド茶、その他諸々、似たようなお茶でも名前が違っていれば両方とも請求された。 ペットボトルと缶があればヤッパリ両方要求される。 自販機は三つ、その全てにあったお茶をコンプリートしてベンチの上に山積みにすると、茶夜さんは“ヒャッハァー!お茶だァ――!”と気持ち悪い叫び声を上げながら、片っ端から飲み干していった。 ガブ飲みじゃなくて、缶ビールを一気飲みするオッサンみたいな感じ(同じか?)。 因みに出費はギリギリ二千円行かなかったくらい。 元々買い物の為に多めにお金を持ってたから問題は無かったけど、まさかこんな使い方をするとは思わなかった…。 * 「で、何の話だったかしら?」 「まだ何にも話してませんよ。 因みに私が聞きたい事は、さっきの怪人達と貴女の正体、それ周りの関係です」 「あらら、そだっけ」 茶夜さんは苦笑いしながらベンチに腰掛けると、空き缶を除けて私にも座るように促してきた。 因みにライグキバットは『疲』と呟きながらリュックの中に入ったっきり出てこない。 「んじゃ、そうだね…何処から話そうか。 まず私がどんな活動をしているか、からかな」 「……」 「そうね、私は基本的に世界各地を転々としながら、トレジャーハンターの真似事をしたり、現地の人の頼みで用心棒やら討伐クエストみたいな事やらして路銀を稼いでるわ。 あとは人を襲ってる人外共を見付けてはシメたりとか」 「何処かに住んでいないんですか?」 「私にも目的があるからね。その為に使える物や知識がないかの探索は大事なのよ」 「つまりホームレス見たいな物と?」 「誰が住所不定者か…旅人と言いなさい。 書類上の住所はあるし、お金だって有るし、その気になればちゃんとした家だって買えるんだから、ほら!」 そう言って茶夜さんはリュックから幾つか通帳のような物を取り出して、その中の一つを私に押し付けてきた。 「どれどれ……、………(゚Д゚) 」 「どう?」 「えと…何だか数字が九桁くらい有る気がするんですけど」 「ええ、言って置くけど飽くまでそれは日本の銀行に預けてある分で、私の全財産じゃないからね」 「……」 お茶、奢る必要なかったかも知れないなぁ(泣) 「私がホームレスじゃないって分かってくれた?」 「要は道楽家の金持ちって事ですね…」 「ぐっ!」 私のささやか(?)な嫌味に、茶夜さんは傷ついた様に動きが止まる。 「道楽かどうかはともかく、茶夜さんが世界を旅してまで探してる物って何ですか? そんなに凄い物なんですか?」 「…凄い物と言うより凄い物を作り出せる存在って言うべきね。 ポーンとナイト、古の戦いにおいてのファンガイア繁栄の功労者、そして私達レジェンドルガが滅亡一歩手前にまで追い詰められた原因を作った存在」 レジェンドルガ――自分の種族を滅ぼされかけたと言っても、茶夜さんの表情と言葉には怒りも憎しみも籠もってないように、私には聞こえた。 と、そもそも私は基本的な事が分かっていなかった。 「そういえばそのファンガイアって何ですか? ヴァンパイアの間違いとかじゃないんですよね?」 「ああ、まだ其処も話してなかったわね。 じゃあ、次はファンガイアについてで良いかしら?」 「じゃあそれでお願いします」 「細かく話すと長くなりすぎるから掻い摘んで話すけど、OK?」 「ええ」 「分かったわ」 +++ 茶夜さん曰く、世界には通常の生き物とは少し外れた理を生きる13の生物群「魔族」が存在し、現在は分かっている分では一種が絶滅、三種がほぼ絶滅同然、一種が種族ごと封印状態、現在繁栄してると言えるのは「ファンガイア族」と「人間」の二種のみ。 他の種族はファンガイアに支配されているか、そうで無ければ人間ともファンガイアとも関わらないように隠れ住んでいるか、既に滅んだのかもよく分からない状態だと言う。 彼等をそこまで追いやった「ファンガイア族」は、「人間」と既に絶滅した「ゴブリン族」、そして現在封印されて居る「レジェンドルガ族」を除く10の魔族の頂点に立つ種族なんだとか。 ステンドグラスの様な体色が特徴で、特殊な牙を相手に突き刺して「ライフエナジー」と言うエネルギーを啜るらしく、この特徴が色々と歪んで伝わったのが「吸血鬼」伝承の元だという説がある。 基本的に組織だって動く事は少ないけど、一応はチェックメイト・フォーと言う、4体の最上級ファンガイアによって統べられているらしい。 因みに人間は地上の覇者ではある物の、ヒエラルキーとしては最下層で、他の魔族にはライフエナジー供給源、つまり餌扱いされているんだと。 しかしやはり絶対数の差は大きく、力が強いと言っても魔族の殆どは武装した人間の軍隊を無双ゲーみたいに蹴散らす程の力は持っておらず、更に王を中心とせずに個人個人で団結するという発想が薄い為、古来より人間を完全に支配するには至らなかった。 一言で言えば数の暴力である。 だがファンガイア達は人間と同じ姿になる事が出来、いつしかそれを利用して人間社会に紛れて生活するように成って行き、数年前まではファンガイアは裏で人間を襲って居たらしいんだけど、現在はE・Vが現れる少し前に起きた事件が切っ掛けで、親人間派が台頭、現在は人間との共存体勢を構築している最中なんだそうだ。 とは言え、当時はライフエナジーの供給の問題も有ったから、相当数の反対意見も有ったらしいんだけど、現在は人工のライフエナジーや、合意の上で死なない程度に人間からライフエナジーを集めて販売するサービスなどの制度が整備されて、今ではわざわざ数で大きく上回る人間にケンカを売るファンガイアはごくごく少数派に成った。 その共存実現の裏には、一人の仮面ライダーの活躍があったらしい。 何か格好いいなぁ…。 でも、いつの時代、どんな制度にもアウトローは付き物で、さっきのファンガイア達みたいに、隠れて人間を喰い殺しているファンガイアも後を絶たないのが現状らしい。 共存を謳う割にファンガイアの存在が知られていないのは、いきなり彼等の存在を公表しても余計な混乱を招きかねないとして、ファンガイアと対魔族組織のお偉方が各国の上層部と結託して情報を隠蔽しているから。 しかしそれじゃいつまでたっても状況は変わらないので、敢えて情報隠蔽緩くしつつ、噂や都市伝説の形で魔族の存在を密かに流布、混乱が小さいだろう頃合いをみて公表する算段なんだと。 確かに「裏で人間を食べていた化け物が存在し、つい最近人間と仲良くなりました」何ていきなり言っても、普通の人は混乱するか疑心暗鬼に陥るのが普通かも知れない。 因みにその一環として、ファンガイアと人間の戦いを描いた準フィクション作品を製作。 現在ではフィクション系仮面ライダーシリーズに数えられている作品で、私も名前だけは知っていた。 セレナが良くやるゲームにも参戦してるし。 +++ 「ま、こんな物かしら?掻い摘んでも長くなったかもね」 「あの…」 「なぁに?」 「ファンガイアはライフエナジーって物を人間から吸うらしいですけど、吸われた人間って…」 「死ぬわよ」 「……」 「ライフエナジーってのは読んで字の如くLife(生命)のEnergy(エネルギー)だからね、無くなれば命を落とすのは道理よ。 因みにファンガイアに吸われた人間はガラスみたいに“色”が無くなって、最終的には砕けて消滅してしまうの」 「え……それって」 じゃあ、私がファンガイアを発見した時、見えたガラスの像って… 「まさかあれ…人間だったんですか!?」 「あら、被害は出てたの?…悪い事したかな」 私の目の前で人が死んでいた。そう分かったら私は急に恐くなってきた。 「ちょっと大丈夫!?顔色悪いわよ?」 「っ!あ、だ、だいじょぶです」 「その様子だと吸われた人間を見たらしいわね。 でもそれは貴女の責任じゃない、貴女には戦う力は無いんだから」 「……」 私には本来なら戦う力が有った。それを極めて軽い気持ちで置いてきた。 あの時私がセレナを持っていたら、そして悲鳴を聞いて直ぐに変身して駆けつけていたら、ひょっとしたら間に合ったかも知れないんだ。 「その様子、訳ありみたいね。 さっき“診た”時も普通の人間とはかなり違ってたし…それ関係かしら。 まぁ、余計な詮索はしない主義だから、それより次は私達“レジェンドルガ”の話でもしましょうか」 強引に話題を変えようとする茶夜さん。私に気を使ってくれたらしい。 人間じゃないって言うけど、きっと良い人なんだと思う。 取り敢えず好意に甘える事にした。 「あはは……じゃあ、お願いします」 「はいよ」 +++ レジェンドルガはかつてファンガイアと激しく争った魔族で、単体での戦闘力はファンガイアに比べて高く、オマケに種族共通の特徴として、「他種族の恐怖をこよなく愛する」性癖と「ウイルスのように他種族を己の血に染める」力を持つ、非常に厄介な種族である。 他種族を染める力は、一部で言われる吸血鬼の「血を吸った相手を吸血鬼にする」と言う特性の元ネタの一つかも知れないってのが茶夜さんの推測。 外見の特徴としては、伝説の存在を模していて、これが偶然なのか、レジェンドルガの姿の方が伝説の生き物の元ネタに成ったのか、茶夜さん本人もよく分からないらしい。 更に現在レジェンドルガは茶夜さんを除いて全て封印された状態で、人間の魔族研究家にもレジェンドルガの事を知っている人は稀で、彼等の事を研究している人となると、有る例外を除いてほぼ皆無との事。 で、レジェンドルガが眠りに就いたのは、今から四,五百年程前に起きたファンガイアとの決戦で負けた事が原因で、開戦当初は優勢だったレジェンドルガだったけど、ファンガイアの王が投入した“赤と黒の鎧”、その力によって激闘の末、レジェンドルガの王は封印された。 更にその鎧は途方もなく恐ろしい力を発揮し、只の一撃で大量のファンガイアを巻き込んでレジェンドルガ族を壊滅にまで追いやったらしい。 そしてその鎧を作ったのが、ファンガイア一族随一の双子の技巧匠“ポーン”と“ナイト”なのだと。 +++ 「ま、私は王様が封印された時にさっさと逃げ出したから無事だったんだけどねー。 だからあの鎧の本当の力を直接は見てないの。 逃げた先で遠くの方で何か大きな力が発動するのと、沢山の“気配”が一度に消えるのを感じただけ。抽象的な言い方でゴメンね」 「止められたりはしなかったんですか?」 「んむ?」 「逃げるの、止められたりしなかったんですか?」 「…まぁ、レジェンドルガなんてどいつもこいつも自分達が世界で一番高貴で強いなんて思い込んでる高慢ちきばっかりだしね、だから王様が封印された時のショックはとても大きかったみたい。 そんなビビったヤツらが相手なら、例え同族でも負ける気はしないわ」 「つまり力尽くで逃げ出したと?」 「そゆこと、それで私はファンガイアの掃討から逃れる為に、逃げた先で自分を封印したの」 何だか色々事情が有るみたいだ。 そう言えばレジェンドルガは「他種族の恐怖をこよなく愛する」とか「自分達が世界で一番高貴で強いなんて思い込んでる高慢ちき」だって茶夜さんは言ってるけれど、その茶夜さん自身は多少威圧的な所はあれど、それらの言葉に当てはまらない様に見える。 私はその事を茶夜さんに聞いてみた。 すると茶夜さんは少しだけ苦い顔をした後、大きく溜息をつくと、口を開いた。 「ん〜、私も自分がおかしいなーって自覚はあるのよ。 そのせいで色々有ったし、ヤンチャもしたし。 取り敢えず、理由も無しに人を襲ったりはしないから……今はね」 「今は?」 「そんなこんなで無事に逃げ出した私が、自分を封印して、目が覚めたのが今から20年以上前。 本当はもうちょっと長く寝てるはずだったんだけどね」 「(はぐらかされた…)何か異常でもあったんですか?」 「うん、私達の王様が…起こされたみたいなのよ」 「えっ!?」 「レジェンドルガの王は存在するだけで私達に影響を与える。 封印が解けた時の波動で、比較的浅かった私の眠りが醒めてしまったのよ。 かと言って普通の外的刺激で醒めるような寝方はしてなかった筈だから、何処で何があって目覚めたのか未だに分かってないけど、レジェンドルガの王が蘇って居る事だけは確実ね。 …でも起きてみれば王様の気配はパッタリと感じなくなってるし、多分封印が解けただけで復活自体はまだなんだと思う。 だから発散された波動も弱くて私以外のレジェンドルガは目を覚ましていないわ。 一体、どんな状態に成っているのやら…。 まぁ、何らかの変化は有った筈だし、何れは見つけ出すつもりだけど」 「見付けてどうするんですか?」 「ん?始末するわよ」 「王様をですか!?普通そう言うのって復活させたいんじゃ…」 「いやいや、むしろ私は私以外のレジェンドルガは皆死ねって思ってるわよ。 さっきも言ったけど、私は普通のレジェンドルガと違ってたからね、ヤツ等が復活するとむしろ私は生き辛くなっちゃうわけ。 王様の本格的な復活が近付けば、各地に眠ってるレジェンドルガも反応して目を覚ます。 そうなると私に取っては都合が悪いから、出来れば復活前に見付けてキュッ!とね、絞めておきたいのよ。目覚めていないレジェンドルガの発見と始末もね。 その為の準備も色々してきたし」 「それがあの仮面ライダーなんですか?」 あのライダーの力は、端から見ても結構強力だった。 仮にも一種族全てとその王を倒す為の物なんだから、生半可な性能じゃないんだろう。 しかも変身を解いた時の台詞から察するに、まだまだ全力ではないようだったし。 「そ、私自身の力を解析して組み込んだ試作品。 少し前に人間に協力して作ってもらった物よ。 以前から収集してた他のライダーシステムとかを参考にして、大分私独自の改造を施してあるけどね」 「自分で改造って…頭良いんですねぇ。それに他のライダーシステムって…」 「こんなナリでも普通の人間よりは長生きしてるしね。 時間だけはあったし一握りの向上心さえあれば幾らでも知識やアイテムは溜まる物よ」 「時間…歳は幾つなんですか?」 「少なくとも眠りから覚めてから20年は経ってるわね、詳しい年齢は教えられないけど!」 「は、はい…」 台詞の後半の方は、何だか威圧感が籠もっていた。 歳は聞くなって事かな…。まぁ、誰にでも聞かれたくない事って有るよね! 「あ、言って置くけど人間以外の魔族は、人間に比べてとても寿命が長いんだからね? 百歳程度じゃ子供扱いする種族もあるくらいなんだから!」 「い、イエスマム」 つまり百歳は軽くオーバーしてるって事か…。 まぁ、眠りについたのが四,五百年って事だから、体年齢はともかく実年齢はそれ以上だってのは確かだろうなぁ。 “そう言う種族”なんだから気にする必要ないと思うんだけど…。 ひょっとして人間に換算したら背丈通りに高校生くらいの可能性だって有るし。 それでも雰囲気が大人っぽくも有るのは、やっぱり過ごした年月が年月だからかも知れない。 ま、本人が気にしてるっぽいように、普通に老人クラスの可能性だって有るけどね(笑) * 「さて…話しすぎたわね。最後は何だか変な話になっちゃったし。 お茶ももう無くなったし、貴女もお家の人が心配するといけないから早く帰った方が良いかもね。 お茶ありがと、ご馳走様」 そう言って茶夜さんは、いつの間にか全て空に成っていた缶を無造作にポイポイと放り投げて行く。 そして投げられた缶は、狙い違わず全て向かい側に置かれていたゴミ箱に入っていった。 缶を全て投げ終えた茶夜さんは、リュックのファスナーを閉め、背中に背負うと、私に背を向けようとする。 「じゃ、行こうかしらね」 「あ、待って下さい!」 「ん?まだ話してない事有ったっけ?」 茶夜さんが不思議そうな顔で私を見る。 「はい…むしろ一番聞きたい事です」 「ふむ、何かしら?」 「…茶夜さんは…何で戦ったんですか?」 すると私の質問が意外だったのか、茶夜さんは目をパチクリさせ、首を傾げた。 「人助け…って答えだけじゃ物足りないかしら?」 「…聞き方を変えます、茶夜さんは何の為に戦っているんですか? 茶夜さんの戦う理由って何なんですか? 貴女が自分達の王様を倒したい理由は何なんですか?」 「……」 私の問いを聞いた茶夜さんは、顎に手を当てながら何かを見定めるように、私に向ける視線を鋭くした。 「それを聞いてどうするの?私が戦って貴女が助かった、その結果だけじゃ不満? レジェンドルガの王が単純に私の邪魔だからって理由じゃ納得できない?」 「…はい、命の恩人にこんな態度は失礼だとは思いますけど、でも、知りたいんです」 そう言った私を茶夜さんは品定めするようにジッと見つめてきた。 その視線にたじろぎそうになった時、ようやく茶夜さんは私から視線を外し、ヤレヤレとでも言いたげに喋り始めた。 「ふーん…そうね、貴女が満足するかは分からないけど……。 まず一つは、私が魔族と戦っているのは、私自身の生命維持に必要なライフエナジーを集める為。 私もライフエナジーが必要なタイプの魔族だからね、何かから補充しないといけない訳」 「……」 「…そして私がレジェンドルガに仇成そうとしている理由は… 『本当の「私」を手に入れる為』……かな。 ポーンとナイトを探しているのも、ライグシステムを開発したのも、もっと言ってしまえば私が今こうして生きているのも、全てその為よ」 「……?」 「これ以上は言えないわ」 (本当の私?手に入れる?) 何だか抽象的すぎてよく分からない。 でもこれ以上は聞くなと言う空気を感じて私は二の句を継げなかった。 「今度こそじゃあね」 「あ、あの、今日話した事って…「別に誰かに喋っても良いわよ」え?」 「話す前に喋るなって感じの事を言いはしたけれど、別に知ったからって危険が降りかかる情報でもないしね。まぁ、私を狙う刺客とかを差し向けられたりしたら面倒だけど。 あぁ、そう考えたらヤッパリ黙って居てくれた方が良いのか」 ドッチだよ…。 「じゃあ、信用できる人以外には話さないようにします」 「うん、それが良いかしら、じゃ、今d「鷹音さ〜〜ん!」あら、誰か叫んでるわね。 夜なんだから近所迷惑じゃないの」 「この声……クロかな、私を捜してる?」 「どうやら貴女のお迎えのようね。ややこしい事になる前に退散するとしますか」 「あ、じゃあ、さようなら」 「ん、さよなら〜」 「あ、それと…! 最後に…改めて、ありがとうございました!」 「…」 茶夜さんは一瞬だけ固まると、振り向かず、ややギクシャクと後ろ手を振りながら、公園の出入口のマウンテンバイクに早足で歩いていった。 後ろから見た耳が少し赤くなっていたように見えたのは、私の気のせいだろうか。 私もアイスの入った袋を持ち、茶夜さんとは反対側の出入口に向かう。 遅くなってしまったし、心配して来てくれたであろうクロの所に行ってあげなければ。 遠くの方から大きな翼が羽ばたく音が聞こえる。 「おぉーい!鷹音さーん、生きてたら返事してくれーぃ!」 「…はーい!」 私が返事をすると、バサバサと音を立てながら少女モードのクロが空から降りてきた。 そしてその羽ばたきで公園の砂が舞った。 「あぁ―――!良かったぁ、無事だった…」 「うわぷっ!?げほげほっ…こ、こんな町中を変身して飛ぶなんて何考えてるの、それにあんな大きな声出したら近所迷惑でしょ?」 眼や喉に入った砂に咳き込みながら、私はクロに文句を言う。 悪意があっての事じゃないとは分かっているので、流石に怒鳴ったりはしないけど、それでもクロはしゅんとしてしまった。 「う…ごめんなさい…でもさ!巻奈さんが一方的にボクを迎えに追い出した上 『鷹音ちゃんが変質者に悪戯でもされてたら貴女をさばいて焼き鳥にしますね♪』 なんて笑って包丁をなぞりながら言ってきたんだよ!? 形振り構わず必死にも成るよ!」 「あー…久しぶりの出番だったから自己主張してた訳じゃ無いんだ」 「何の話っ!?」 よく見たらクロは半泣きだった。よっぽど巻奈さんが恐かったんだろうか。 「うっ…ぐしゅ…まぁ、無事で良かった、ボクの命的な意味でも」 「ん、遅れてゴメン」 「何か有ったの?」 「うーん、帰ってから話すよ」 そう言いながら私はサッサと家に向かって歩き出す。 「あっ、待ってよー」 置いてかれたクロも慌てて私の後に駆け寄ってきた。 「あ、じゃあ、一個持って」 「うん?おわ!?なんじゃこのアイスの量!」 「全部私のオヤツ」 「ボクの分は?」 「知らない」 「えぇ〜〜!」 そんな風に他愛のない話をクロとしながら、私は我が家へと帰って行った。 * 帰り道のちょっとした出来事 「仕方無いなぁ、じゃあ、これをあげよう」 「くえ?」 「じゃーん!」 自分の分のアイスが無くてションボリしているクロに、取り出したるは『超(スゥパァ)トルコ(以下略 なんかもう一個入ってた。 「えっ、良いの?わーい!」 「食べるのは帰ってからね」 「うん!…楽しみだなぁ」 (バカめ!) 素直に喜ぶクロ。 どうやら契約書は良く読まずにハンコを押すタイプのようだ。流石ケダモノ。 大体そんな感じ *** シャ――――――…… 月夜の河川敷を赤いマウンテンバイクが走って行く。 それを漕いでいるのは大きなリュックを背負った、三色の髪の人間…ではなく人間の姿をしたレジェンドルガ=茶夜だ。 「んー、収穫無しかと思ってたけど、まさか最後に“大当たり”の子に会うとは思わなかったわね。 むしろ大当たりすぎて何も出来なかったけど」 『…放?』 彼女の呟きに、リュックのファスナーが動き、中からライグキバットが飛び出し、茶夜に何かを問いかける。 「まあね、確かに迷ったわよ。 要研究所の秘蔵っ子、世界で唯一の“壊れたキメラ”、前に資料を見た事があるしね。 彼女を通して渡りが着けられれば、確かに入る情報は一気に増えたかも知れない。 でも下手にがっついてヤブ蛇になるのはゴメンよ。流石にあそこに所属している“英雄”と“破壊神”を相手にするリスクは避けたいし。 彼等がレジェンドルガだってだけで戦いを挑んで来るような人柄の可能性だって捨てきれない。 万が一にでも戦う事になったら、片方だけでも分が悪いかもだし、同時に相手にするとなれば絶望的よ。取り返しのつかない賭けは、“その時”までは出来るだけ避けたいのよねぇ」 『…了』 「一応名刺は渡したんだから、何か有ったら鷹音ちゃんが教えてくれる事を祈りましょ。 結構良い子っぽかったし、私に必要かもと判断した情報は教えてくれるかも知れないわ」 『納』 シャ――――――…… そして追従するように飛んでいたライグキバットはマウンテンバイクのカゴに入り込み、コロンと横になってその機械の瞳に満月を映す。 その相棒の向いた方向を追うように、茶夜もペダルを漕ぎながら月を見上げた。 そして怪しく輝く満月のその表面に、ほんの一瞬だけ目玉のような模様が浮かんだのを幻視した。 瞬間、茶夜が握るハンドルのグリップがギリッと音を立てる。 「ちょっと…急がないといけないかもね」 『賛』 声の質がそれまでの気易い物から、硬質で真剣な物に変わる。 「復活は近いか…。我が忌まわしき同胞、そして愚かなる我等が王。 負け犬の亡霊共め、今度こそ本当に滅ぼしてやる…」 月から顔を下ろし、鋭い目つきで前方を見据える。 そして誰に言うでもなくボソリと呟いた。 「私の望みを……約束を果たす為に」 『……』 それきり口を噤む茶夜に、ライグキバットも何も言わない。 一人と一機を乗せたマウンテンバイクが、月夜の河川敷を駆け抜けていった。 ……続くかも? 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@PF
2009年12月23日(水) 23時46分43秒 公開 ■この作品の著作権は@PFさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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vTeTUo Say, you got a nice blog.Really looking forward to read more. Fantastic. | -20点 | Cheap Seo Services | ■2012-08-08 21:52:06 | 91.201.64.7 |
ヒィーハァー! こんなに出遅れて感想書くだなんて、どうかしてるZE!!(挨拶 >茶 オレンジペコーとかダージリンなんて上流階級のお飲み物。 漢は黙って麦茶一気飲み、良い子は真似しちゃダメダゾ。 しかし名は体を現すといいますけれども、“茶”夜だからお茶ジャンキーとか? …………ははっ、真坂ネー、ンなワケないですヨネー。 >「どれどれ……、………(゚Д゚)」 ライダー少女といえど、格差には勝てなかったのか……。 せちがらい世の中、どうかしてるZE!? >ポーンとナイト はて、茶夜さんの目的はなんじゃらほいっ、と。 この二人(?)を探してるってことは、キバエンペやダキバに準ずるものを作らせるのが目的なんでせぅかネー。 仮にそうだとして、使い道なんてホリケソ(ぉ)をシメるぐらいしか思い付きませんががが。 その先に何があるかは『待て(いつかわからない)次回!』っつーことっすね。 >クロ なにこれアホ可愛い。 クロー!俺だー!結婚してくれー!(爆 んじゃまぁ、説明回ってこともあるんで、今回はこの辺でー。 クロー!おr(ry |
50点 | YP(体力ゲージが赤信号) | ■2010-01-13 19:05:53 | proxyb113.docomo.ne.jp |
ヘロゥ!ひだりです。コトシトモモヨロシク。 『レイキ』へのご感想アリガトゴザマシタ。こちらこそ遅くなりましたけど感想スタートぅー。 >早桐茶夜 =ライグたんなお茶ホリック富豪ームレス。なんつーデタラメなプロフィールか。 さっぱりとした自由人な風情で、加えてちょっと照れ屋さん?なのでしょうか。 飄々と、淡々と己=レジェンドルガの情勢を語りながらも、その裏に覗く『望み』だとか『約束』だとか。 それは『本当の「私」を手に入れる』のが『約束』と言う意味なのか。 あるいは『望み』の為に『本当の「私」を手に入れる』のか。ひだり脳では読み切れナイッ! 今回の番外篇では彼女の深い部分にまでは踏み込んでいない感じですが、今後の展開で彼女の本性・本質が晒される事になると、また今の印象とは違ったものを抱くことになるんでしょうなぁ。楽しみデス。 ……えー、自他共に認めてらっしゃる説明回のようなので、短文で申し訳ないのですがこんなところで。実に申し訳ない。俺にもっと人の揚げ足を取る力があれば!(もう充分です) 次回は普通に『セレナ』ですかな?なんにしろ楽しみ極まるワケですがががっ。 そんな感じでサヨウナラ。今年も最初から最後までよいお年を! P.S.クロがアホ可愛い件について。これは加虐心をくすぐってやまない。 |
50点 | ひだり | ■2010-01-02 03:54:51 | p3212-ipbfp202takakise.saga.ocn.ne.jp |
こんにちは。 事故にあったと伺って驚きました。お体の具合は大丈夫ですか? どうかお体をお大事に・・・。 新作楽しみにしておりました。 感想を投稿させていただきます。 >「だから、“茶”とつく物全部」 彼女のお茶に対する愛着はかなりのものですね。 でも、息抜きとかで飲むお茶は格別に美味しいですよね。自分も作品を書いている間とか仕事の休憩中に飲むお茶はなぜか美味しく感じますし・・・。 ルーベット「茶夜殿、トパーズ殿の淹れる紅茶や緑茶は格別に美味しいですぞっ!Vライナーにお立ち寄りの際にはぜひ御馳走いたしますぞ♪」 >レジェンドルガなんてどいつもこいつも自分達が世界で一番高貴で強いなんて思い込んでる高慢ちきばっかりだしね なるほど・・・新しいレジェンドルガの情報はとても面白いものですね。 お話を何度も読み返してみましたが、世界観とか種族にこだわりを持たれている設定がとても興味深い内容です。 >「こんなナリでも普通の人間よりは長生きしてるしね。時間だけはあったし一握りの向上心さえあれば幾らでも知識やアイテムは溜まる物よ」 興味を持つこと、それがまず何より大切なことですよね。 向上心をもって色々と考えて行動することで予想もつかなかったものを生み出したりすることが楽しかったりしますよね。 マモン「知識やアイテム…茶夜の考え、少しでも兄貴やアスモにも分けてほしいくらいだぜ。あの二人は戦闘じゃ負け知らずだけど、頭悪すぎるからな…足し算引き算もできないし、漢字も読めないし・・・(涙)」 >『本当の「私」を手に入れる為』 意味深な発言ですね。 この言葉の真意…それはやはりポーンとナイトが大きくかかわってくるのでしょうか?この後の展開が楽しみです。 >「復活は近いか…。我が忌まわしき同胞、そして愚かなる我等が王。 負け犬の亡霊共め、今度こそ本当に滅ぼしてやる…」 レジェンドルガに並々ならない恨みや負の感情むきだしの様子ですね・・・。 過去に何があったかわかりませんが、相当因縁深い出来事があったご様子で。 彼女のクエストがどのような未来につながるのか、興味深く感じられます。 ルシファー「茶夜さんよ、セブンズヘブンに興味は・・・あるわけねぇか。でもまあ、レジェンドルガを滅ぼすなんて面白そうな話じゃねぇか。まあ、亡霊に地獄に引っ張られないように気をつけておきな」 マモン「それって・・・俺たちもろ亡霊なんだし・・・もしかして狙われる可能性大なのか?」 そして、感想にありました「チェックメイト・フォー」ですが、彼らは消された時間出身です。 次回も応援しております!! |
50点 | 鴎 | ■2009-12-23 19:31:36 | lo34.008.geragera.co.jp |
合計 | 130点 |