仮面ライダーセレナ第壱拾六話後編「復活の黒/英雄の憂鬱」 |
コレまでの仮面ライダーセレナは 性別の壁 ↓ 男 | 女 男 | 女 ***** クラブファクターBは色んな意味で打ちのめされていた。 (何なんだよアレ、英雄って言うからどんなモンだと思ったら何かヤンキーじゃね!? 微妙にシスコン入ってる気がするし!) “英雄・仮面ライダーフォルテ”――前大戦中多くのキメラ、そしてE・Vの首魁を打倒したその存在が、キメラ達に与える印象は基本的に畏怖か嫌悪である ……と世間一般の普通人には思われがちなのだが、その実むしろ逆だったりする。 そも、キメラへの対応が当初の「撃破」から「捕縛」に転換されたのは、フォルテがストームファクターとの戦いによって結果的に「キメラ=人間」の認識を世に広めたからだ。 その為、現存するキメラ…前大戦で無力化され洗脳を解かれたキメラに取って、仮面ライダーフォルテは命の恩人と言っても過言ではなく、感謝や憧れを抱く者は少なくない。その活躍から畏怖も同時に抱かれている事が多い為、一般人の認識が全て間違っている訳でもないが、それ以上に一般人とはまた違った意味でキメラやその家族にとっても英雄と言える存在なのだ。 その存在は一種の 肖像権?有名税です(キリッ ―閑話休題― つまり現在進行で、クラブファクターBの中にあったヒーロー像がガラガラと音を多立て崩れ落ち、妹思いの乱暴なあんちゃんの像として再構築され始めているという訳だ。 そして… (強さも思ってた程でもない…のか?) 苦し紛れの牽制、それでどうにかなると思って繰り出した物ではなかったが、実際には距離を離させる事に成功している。 彼の逸話から鎧袖一触でぶっ飛ばされる物と思っていたが、そう言う訳でもない。 (ヤッパリ実戦から離れすぎてたからか?それにどうも不調が有るっぽいが…なら――) ――思った程絶望的ではない 現にこうして姉と自分を引き離す為に小細工を労してきた事も、その結論を補強する。 (けどさぁ…) そう、絶望的“では”ない 無いのだが―― (だけど…アッチの方が強いのは変わらないんだよな) 押し合いをすればアッサリ投げられ、先程殴られた時の踏み込みは辛うじて残像が見えた程度だ。 思ったよりマシなだけで、状況が好転したとも言えない。無鉄砲な姉をフォローしているせいか、喋り方や態度の割にネガティブなBは、必死に頭を巡らせる。 (フォルテはきっと何かの不調を抱えてる、とにかく時間を稼いで突破口を探すしかない。 そして出来るなら姉ちゃんと合流を…) Bが出した作戦…と言うより作戦を立てる為に立てたその指針は、奇しくも今のフォルテに対して一番有効な作戦であった。 尤も、それが功を奏するかは、また別の話なのだが。 *** 「やあぁぁぁぁぁっ!!」“メキリ…” 「っ…だっかっらっ!効かないってんでしょうがぁ!!」 「ほいさっ!」 渾身の左ストレートをヒビに叩き込んだ私は、すぐさまバックステップで振り下ろされたハサミを回避した。打っては避け、避けては打つッ! クラブファクター達を分断してから早数分、さっきからずっとこの繰り返し、Aのハサミは当たったら痛いけど大振りな上に掛け声まで出してくれるなら避けるのはそこまで難しくは無い。まぁ、フェイントが恐いから常に気は張ってるんだけれども。 「効かないってんなら大人しく食らい続けてよね!ケチ!」 「寄ってきた時がアンタをぶっ飛ばすチャンスなんだから聞けない相談よ!」 そりゃそうだ、そもそも私の意見だって何処の子供だって位滅茶苦茶だし。 言ってみただけである。 と、丁度そこへセレナが口を挟んでくる。 『マスター、今の威力ならあと三発で目標ダメージに達します。但し敵の治癒能力を加味すると、平均371.4秒で必要数が一発増えると思ってください』 「了解っ」 朗報かどうかは分からないけど、少なくとも悪い知らせじゃない。 明確な目標が見えてやる気が出てきた私は、テンション高めで再度Aに突撃をかける。今も竜兄が一緒に戦ってくれてると思うと気分が高揚して、何でも出来そうな気がしてくる。 でもそこでセレナがやや暗い声で私を呼ぶのを聞いて、足を止めた。 『……マスター…』 「ん?」 『…いえ、何でもありません』 「??」 むぅ、だったら止めないで欲しい…まぁ、言わないで置くけど。 とにかくゴールは目前だ、一気にやろう! そう心を奮い立たせると、私は今の最大速力でクラブファクターA――正確にはその左脇のヒビに向かっていった。 ……… …………… ………………… ………………………… 『(可笑しい……。 フォルテの姿を見てから、マスターの脳波ノイズ強度とナノマシンの稼働率が飛躍的に上昇している……。 マスターに自覚出来るような影響は無いみたいですが、ただテンションが上がっているだけ…というのは楽観的が過ぎるかもしれません。 一体何が起きているのでしょうか、杞憂で済めば一番なのですがね…)』 *** 「いくぜっ!!」 「こなくそぉ!!!」” フォルテが駆けだした瞬間、クラブファクターBは両腕のハサミを微妙に高さをずらしつつ外側から抱き込むように振り回した。どうせ狙えないのなら範囲を優先した攻撃を放ち、体勢を崩す、あわよくば上手く当てるか距離を離させる腹積もりだ。先程の一連の行動を見るに、少なくとも完全に躱しつつ攻撃して来るのは難しそうだとBは判断していた。 だがその思惑は丸きり外れる事となる。丁度両ハサミの間、その空間にフォルテが両腕をクロス、両拳を反対側の肩に着けるようにした体勢を取り―― 「ふんっ!!」 掛け声と共に、両拳が外側に開かれるように放たれた。それらはそれぞれの方向から迫ってきていたハサミに叩き付けられ、その甲殻にヒビを入れつつ弾き飛ばしてしまう。 「んなっ!?」 真正面から弾かれるのは、彼にとって想定外だったが、これはパワーで完全に負けている事を失念していたBの失策だった。 そして衝撃によりBは両腕が外側に吹っ飛ばされた体勢になり、両者とも翼を広げた鳥のようなポーズとなる。 「オラッ!!」 「ぐぶぅ!」 そんなお互いの滑稽とも見えるポーズを笑う暇もなく、防御も反撃もままならないBの顔に、その勢いのまま突撃してきたフォルテの頭部がぶち当たる。 甲殻の上からとは言え、気を抜けば見失いかねない程の速度が乗った頭突きだ。Bの視界に星が飛び、思考も一瞬止まってしまう。 「お寝んねにゃまだ早いぜぇっ!」 「くっ!?」 フォルテはそんなBの頭を左手でおもむろに鷲掴みにすると右拳を思い切り引き絞り、突き出した(ヒーローっぽさ?なにそれ?美味しいの?)。 「オォラァ!!!」/「くぅあぁっ!!!」 気合い一声、甲殻を砕かん勢いで放たれた拳がBの胸部のど真ん中に叩き込まれる。 しかし視界を封じられたBが破れかぶれに振り回したハサミがフォルテの拳が届くよりも一瞬早くその胸部装甲を抉り、その体勢を崩した為に、実際の効果はヒビを入れて軽く陥没させる程度に留まる。 「ちぃっ!!」 「ぐ……でぁ!!」 離れ様にハイキックを打ち込むフォルテ。側頭部に蹴りを食らったBは怯みはしたが、今度は倒れず反撃のハサミを振り下ろした。フォルテはバク転でそれを躱し、すぐさま腕力で身体を跳ね上げ立ち上がると、3,4歩程の距離を挟んでお互いが向き合う様なポジションに収まった。 「ゲフッ…ガハッ……っく」 「ッ……フン、思ったより根性有るじゃねぇか」 早くも塞がりつつある胸の傷を軽く撫でると、フォルテは咳き込むBに向かって賞賛とも取れる言葉を投げる。 「…そっちは英雄なんて大層な肩書きの割にそれほどでもないな」 「ハッ、そうかい!悪かったなぁっ!!」 嗤い、フォルテが駆ける。 次の瞬間にはお互いがお互いの射程距離に入り、その瞬間、漆黒の拳と緑のハサミが同時に放たれた。 *** 「やッ!…っち」 放った拳がハサミでない方の腕に阻まれ、鈍い音が響く。 それを見て、私はすぐさまハサミの反撃が届かない場所まで退避。案の定、一瞬遅れて私の居た場所を紅いハサミが通り過ぎていった。 「外れか…」 振り抜いた姿勢でクラブファクターAが独りごちる。だがソレより私が気になっている事は、今し方拳をハサミで防がれた事だった。 それが偶々ならともかく、意識してやられたのならばソレは私に取って大きな意味を持つ。 無論悪い方に。 「ねぇ、ひょっとして気付かれたのかな」 『いや、あれだけ執拗に狙って置いて気付かれないってのはないでしょう…。 あそこまであからさまにやってればナメクジだって理解しますよ』 それは暗に私をナメクジ以下だと言いたいのか?(全国のナメクジファンの皆さんゴメンナサイ) たしかについさっきまでしつこく脇腹のヒビばかり狙って何とか残り二発まで詰めたけど…あの人なんかバカっぽいしもうちょっと気付かないで居てくれるかなー、なんて期待してたのに 『だから私は無駄な攻撃も織り交ぜるべきだって言ったんですよ…』 「う…でもそれじゃ回復されちゃうし」 『それで気付かれて余計に時間が掛かったら本末転倒でしょうに』 私がセレナとそんな風に反省会をしていると、クラブファクターAが口を挟んできた。 「ふっふっふ…残念だったわね、アンタの企みはお見通しよ!」 「…うん、だろうね」 取り敢えずそう返しておく(投げ遣り) 「さっき偶然入れたこのヒビに攻撃して私の甲羅を割るつもりなんでしょうけど、そうはいかん!」 「……」 「さぁ、好きなだけ来るが良いのだわ!狙ってくる場所が分かってれば防ぐのは簡単だけどね!」 (言われなくてもやるしかない、か) 微妙に気の抜ける挑発だけど、言ってる事は間違ってない。 (一撃目でガードを外して、二発目で本命を当てる、そうするしかないかな) 「ふん、無駄な事を!」 取り敢えず、得意げに笑みを浮かべている(様に見えるだけで実際は甲殻に隠れて表情は良く見えない)Aに向かい、私は姿勢を低くして突撃、そして左腕を振り上げ、ヒビをガードしていた腕に叩き付ける。 「くっ!」 「ちっ、無理か…ならさ!」 しかしAの腕は一瞬ヒビの前から外れた物の、二撃目を打ち込む間も無く元に戻ってしまう。そこで今度はハサミの射程外には避けずにAの背後に回り込んで、振り向かれる前に 「てゐ!」 思い切りその膝の裏を蹴りつける。 「おひょっ!?」 当然、ソレを受けたAはカクンを身体を落とすように姿勢を崩した。 必死にバランスを取ろうとするかのように“両腕を投げ出して”、だ。 「戴きィ!!」 そして丁度良い高さにまで降りてきたヒビに向けて、思い切りミドルキックを打つ。 “ミシ…メキ” 甲殻を貫通はしていない、でも足越しに、軋む感触が伝わって来た。 よし、これで、 『あと一撃』 最後の一撃は“特別な一撃”だ、少しの隙を見て打つと言う訳には行かない。 もう少し工夫しないと… 「いっ…たぁ!離れなさいよぉ!!」 「っ…と」 ハサミを後ろにサッと下がって躱しながら、作戦を考え続ける。 ガードを外しつつA自体の動きも制限する様な状況を二秒、いやせめて一秒でも実現できれば…。 ヨロヨロと立ち上がるクラブファクターAの動きを観察して見るも、どうにも良い考えが浮かばない。 私が元の姿だったなら幾らでもやり様はあったんだけどなぁ。パワー不足が何よりも痛い…というかパワーが足りてればそもそもこんな小細工しなくて良かったんだけど。 『マスター』 「んあ?」 『一つ、思いついたのですが』 「ホント?」 『ええ、少々危険ではありますが、見込みはあるかと』 「(危険…) 取り敢えず聞かせて?」 『では軽く説明するので、マスターは回避に専念していてください。ホラ前』 「え?「死ねよやぁー!」うわぁっ!」 『ではですね』 「えっ、もう始めるの!?ってうおぅ!」 〜毒舌機械説明中〜 『……と、こんな感じでどうでしょう』 「成る程そりゃ確かに危険だわ、と言うか上手く行くかな…」 『まぁ、私自身、自分で言っていて行き当たりばったりな上に運頼り過ぎる気はしましたが』 私に聞きながら戦う何で器用な真似が出来る筈もなく、ひたすらAから逃げ回りながらセレナの説明を聞いていた。 説明の内容を聞いた限りでは、出来そうな気もするし、出来なさそうな気もするという感じである。何しろ作戦の重要な“ある要素”、それに関しての私の慣れというか習熟度がイマイチなのだ。 一応理論上は出来る筈だとの事。 「でも、ま、やってみますか!」 そう決めた私は、Aから逃げる速度を上げつつバックルのダイヤルを回す。 そしてAとの距離がある程度離れたのを見て、バックルを押しつつ向き合う様に方向転換して足を止めた。 『ディストモード』 アーマーが緑色に輝いて形を変える。光が砕け現れたのは、スッキリしたデザインのボディに大きめの四肢、白い装甲に緑のラインが入った姿、射撃戦用形態「ディストモード」。 つい最近手に入れたその姿で私は地にシッカリ足を着けて、前方のクラブファクターをシッカリ見据えながら、両腕はいつでも動けるように構えておく。 「観念したか小娘ェェェ!」 私が足を止めたのを見て、Aはオーバーモーションでハサミを振り上げると、ソレを私の頭目掛けて振り下ろしてきた。 (動きは素人、パワーも硬さもあるけどスピードは大したことない…落ち着け、やれる!) 迫るハサミ。私は後ろに飛び退きたくなる衝動を抑え込んで、ソレから目を離さない。 私は自分に言い聞かせる。 頭を冷やせ、目を懲らせ、感覚を研ぎ澄まし思考を加速させろ、その為の“この姿”なんだから! 本来なら狙撃補助用らしいディストモードの“感覚増幅”、それがハサミの動きを鮮明勝つ緩慢に見せてくれる。 そしてハサミが私の頭から拳二つ分位の位置にまで迫った時… (今だ!) 「っ!?」 迫るハサミ、その反対側に回り込むように身体を傾げつつ、相手の肩の関節、そこの甲殻のスキマに正確に地獄突きを打ち込んで、ハサミを減速させつつ動きにブレを作る。 そしてすぐさま肘関節より少しこちら側に添えるように腕を差しのばした。 同時に腕の甲側を覆うように縦に細長い平面状のバリアを展開、甲殻と衝突してバリアの表面から拡散したエネルギーが白い火花を上げた。 そして肩への打撃で幾分か勢いが弱まっていたハサミは、障壁をカチ割ることなく光の尾を引きながら“バチバチ”と破裂音に似た耳障りな音を立てて、バリアに沿って私の頭に向かうはずだった軌道を逸れて行く。 「(次は…………ココだ!)ふんぬっ!!」 ハサミの軌道が完全に命中コースから逸れているのを認識した私はバリアを解除、その瞬間にハサミの先の方を掴み、思い切り後ろに引っ張るっ! 「っ、あぁ!?」 当然つんのめってバランスを崩すA、ディストモードでそれなりに腕力が上がっていたから上手く行った事だ。 そして今のAは無防備になっている。右のハサミはバリアに沿って流れ、左の腕はガードするようにヒビの辺りを彷徨っている。コレでもヒビを叩くのは厳しいけれど、今私が狙ってるのは違う。 “狙い目”は今無防備に成っている。 そして私は右手を指を二本突き出した形に構えて、引っ張られて私の方に倒れそうになっているAの狙い目に向け… 「そこだァ!!」 「ぇ? “ぶすっ” 〜〜!?!?!?!?っっっめ、目が!?目がぁ――――!!」 思いっ切り目潰しをしてやった。 そしてハサミもガードしていた腕も放して、目元を抑えて悶絶するAに思わずガッツポーズしたくなる。 ちょっと硬い感触がしたから、効かなかったらどうしようかと思ってたけど、問題無く効いたようだ。 むしろ普通に指が眼に突き刺さったりしたら、コッチがトラウマになる所だったぜ…。 可哀想だけど、とにかくこれでヒビのガードは剥がした。 「セレナッ!」 『了解』 私が拳を振りかぶりながらセレナに合図を送ると、私とAのヒビの間に光の棒が生まれる。 「おりゃぁッ!!!」 そして私は渾身の力でヒビに向かって押し出すように、その先端を殴りつけた。 “ドッ…” 「目……っ!?」 響く打撃音。 そして私の拳に押し込まれた棒の先端がヒビに当たると同時に、光が散る。 『再構成完了』 光の中から現れたるは、甲殻に突き立つ白い剣“セレナスティンガン”。 もう割と見慣れた私の武器。 迷わずその柄を両手で掴むと、私はソレを力の限りに押し込んだ。 「ぐがぁ…っ!?」 手に伝わるのは、薄くて硬い物を突き破り、その奥の柔らかい何かに入り込む感触。 “柔らかい物”が何かを考える前に右のボックスから緑のスティックを引き抜いてスティンガンのグリップの端に押し込む。 『ディストジェミニ』 突き刺さっていたスティンガンが緑に光り、蒼と紅に分かれる。その中から現れた二丁の拳銃を、今回は落とさずにキャッチ、両方ともスティンガンが刺さっていた部分に向けて何も考えずに両の引き金を引きまくった。 「砕ッけろぉぉぉぉやあぁぁぁぁぁっ!!」 “ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!/ガガガガガガガガガガガガガガッ!” 炸裂弾が断続的に響かせる爆音と、通常弾が絶え間なく鳴らす破砕音。 赤い甲殻が砕け、削れ、細かい破片となって飛び散った。 強固だった甲殻は、私達が開けた“穴”を起点にして破壊されて行く。 爆裂弾の爆風と甲殻の破片が私も傷付けるけど、今は気にしている場合じゃ無かった。痛いのも熱いのも無視してとにかく甲殻を砕く事に専念する。 (このまま倒す!) だが突然 “ガキンッ”「あ?」 何かが引っかかる様な音と違う手応え。 突然弾が止まり、音もなくなる。トリガーハッピー気味に茹だっていた頭はその変化について来れずにフリーズした。 『しまった、弾切れです』 「え、ちょ「ああああああアっ!!!」しまっ…くあっ!」 一瞬…どころか一秒程の隙を晒してしまった私は、その隙に銃を弾き落とされ、更には正面からハサミで殴り飛ばされてしまう。 数秒の滞空の後、背中から勢い良く地面に落ちて、叩き付けられた背中から強烈な痛みがわき上がってくる。 しかし殴られたはずの胸には余り痛みがない。 「けほっ、けほっ…う、思ったより痛くない…」 『いやぁ、障壁の展開が間一髪で間に合いました。マスターの胸が薄くて良かったです。 もっと豊かだったら間に合いませんでしたよ』 あからさまに胸の大きさを罵倒された、鬱だ…。 でも仕事はキッチリこなしてるから質が悪い。 わき上がる微妙な感情。 微妙な怒りと微妙な悔しさと微妙な感謝、それを無理矢理に噛み殺して私は何とか起き上がり、Aを探す。 (逃げられてないよね―――居た、ってうわっ…) 「はぁ…ハァ…グフッ…が、ぁ…よくも…やって、くれたわねぇ!」 私の視線の先に居たAの姿は酷い物だった。 全身の甲殻にはあちこちのヒビが入って、特に私から見て右側は所々白い“中身”が露出している。(焼いたり茹でたりした蟹の身みたいな色だ) そしてヒビの中心、私がしこたま銃撃を叩き込んだ脇腹の辺りには大きな傷が出来て火花と血飛沫を吹きだしている。 逆に右半身は比較的被害が少ないようで、無事な部分が多く、特に右腕のハサミには殆どヒビが入っていない。 まぁ、右が軽くても左のダメージは大きいらしく、その状態でAは片膝をつきながら私の方を睨み付けていた。 自分でやっといて何だけど、ちょっとグロくて引いた。 あと何故か海産物を焼いたような少し美味しそうな匂いがしたのが、何か腹立たしい。 何にせよ、この状態にまで持ち込めればもう倒す事は出来る。 脇目もふらずに逃げられてたら厄介だったけど、幸いそんな発想は無いらしい。 私はバックルを弄りながら、立ち上がった。 「決めてあげる、この戦いは私達の勝ちだよ」 「ほざき…なさいよ…武器も無い癖に」 そう言われて私は自分が銃を落とされた事を思い出した。 よく見るとAの足下にディストジェミニが両方とも落ちている。 成る程確かに私の武器はない。分解からの再構成をしようにも、今の弱体化した身体で何度もやるのは不安だ。 それにヒビが入ったとは言え、甲殻その物は残っている。さっきまで一方的に不利だったモノがようやくフェアに成っただけ、武器がないならやっと五分五分、いやさ、未だアッチの方が幾分有利… とか思われてるんだろう。 だけどそれは間違いって物だ。今更 「ねぇ」 「?」 「“仮面ライダーの必殺技”と言えば何だと思う?」 「な、に…?」 Aに問いかけながら、バックルのリングを押し込む。 『モードリリース』 光と共に白に戻るアーマー。 未だ片膝をついたままのAに向かって、軽く左半身を引いた構え。 「ライダーと言えば」 初めて変身した時以来使ってなかった必殺技。 でもこれこそが 『イグニション』 再びリングを押し込むと、素っ気ないセレナのアナウンスが響く。 「――――キックでしょ?」 そして私の左足が光を放ちながら変形を始めた。 *** 時は少し巻き戻り、Bとフォルテが拳を放って少し後の場面。 断続的に響く鈍い打撃音。 その音を出しているのは漆黒の装甲と緑の甲殻。 それらがぶつかり合う度に、鈍い音を周りに響かせる。 彼等は現在、漫画に出てくる喧嘩宜しく、足を止めて殴り合っている真っ最中だった。 「だぁらッ!!」 「ごあっ!この…!!」 「おっと…お返しだオラァ!!」 「ごふっ!負けるか!」 「ぐっ!」 お互いの距離は腕一本分もない。そんな距離で拳を食らえば早々避ける事は出来ない。 事実、彼等はお互いの攻撃をそのまま受けるか、ガードするしかしていない。 もう一歩下がれば容易く避けられるであろうモノが来ても、お互いに一歩も退こうとはしなかった。 古い言い方をすれば、ステゴロと言うヤツである。 「喰らえッ!」 「くっ…ハハッ!やるじゃねぇかよ!ドラァッ!!」 「ぐあっ!」 必死なBの攻撃に対して、フォルテはそれを手で受け止め、殴り返す。 一見、一進一退の状況に見えるが見た目のダメージには明らかに差がある。 条件が同じでも、いや、だからこそ地力と技量の差が出ているのだろう。 「いい加減そこを退け!」 「お前が倒れたらな!」 その言葉と共に、フォルテの攻め手が苛烈さを増す。 Bは防戦一方でそれを受けながら、呻くように叫んだ。 「クソ、クソが!退けよ、退いてくれよ!姉ちゃんのとこに行くんだよ!!」 「―――」 『あ、主!?』 Bの言葉にフォルテの動きが僅かに強張る。 その隙を好機と見たBはハサミを叩き付けたが、間一髪フォルテの腕によってそれは阻まれた。 しかしフォルテの動きは止まり、そこへハサミを連続で振り下ろして行く。 「?――どうしたどうした英雄さんよ!決着つけるんじゃなかったのか!?」 「ぐっ、この、調子に…」 防戦一方 攻撃その物は防いでいるが、腕を通して伝わってくる衝撃は殺せない。 オマケに無理な稼働や防御をすればそれだけで歪みやダメージが蓄積して行くフォルテにとっては非常に不味い状況だ。 『主!』 「……あぁ」 『……主よ、分かっているのか?』 「………」 『こんな事は言いたくないが、私達が負ければあの小娘は…』 「っ…分かってるよ、ったく、これだから―――」 「お前、何を言って…?」 「ああくそっ!」 そこで耐えるだけだったフォルテの動きが変わる。 「でも、そうなんだな、俺だって鷹音ちゃんを助けなきゃならねぇ、だからよぉ…」 「っ! ぐはっ!?」 ハサミの連撃の僅かな間、その間隙にハサミよりも早く振り上げられた蹴りがBの顎に突き刺さり、その体ごと吹き飛ばす。 「俺は勝つ、そしてテメェは負けろ!!」 「ぐっ、がっ、ごふっ、うぐっ、っぁっ!」 正拳、振り下ろし、肘鉄、アッパー、裏拳、フック、フリッカージャブからのストレート… 更に仰け反ったBに、更に拳での連撃を加えて行く。 吹き飛ぶ事も怯む事も許さない程の猛撃、その攻撃が当たる度に、緑の破片と、僅かな“黒い”金属片が飛び散る。 そしてBの胴体の甲殻の前面をほぼ隈無く叩き割ると、最後に踏みつけるようなカカト落としで地面に叩き付けた。 「ぐ……は…っ」 「悪いな、“油断しねぇ”ッつったのによ。 何となくお前の事を“倒さなきゃならない相手”として見切れてなかったわ。 ハッ、ハハハッ、“形振り構わない”ってのはこう言う事だったな、知らず知らず手を抜いてたみてぇだ」 Bを見下ろすフォルテ、その手足のアーマーには修復されつつあるがヒビが入っており、それを一瞥した彼は自嘲気味に笑う。 そこへ現状のコンディションの分析を終えた“フォルテ”が報告を挟む。 『損傷率20%オーバー、無理な運用と打撃による衝撃が原因と推測される』 「ヤッパリな、手応えに何割かはコッチの方が砕ける感触だったって事か」 『まぁ、それを何とかするのが私の役目な訳だが…。 何にせよ出来るだけ手早く決めて貰えるとお互い助かると思うぞ』 「分かったよ。 ――――さて」 そう言うとフォルテは後ろに飛び退き、バックルの緑色の菱形を軽く叩いた。 「自覚無かったとは言え手を抜いてた詫び、と言っちゃなんだが――」 『エクステンション』 フォルテの足元から“カシャリ”と軽い音が聞こえ、右足が蒼い光を放ち始める。 そしてその光は甲高い音を鳴らしながら段々と強くなって行く。 「――コレで終わりにしてやる」 「っ!」 “ゴォンッ!!” そう叫んだフォルテが輝く右足を踏みならすと、そこから光が爆発し、轟音と共にその体は蒼い光の尾を引いて跳ね上がる。 「フォトン…」 “ゴォンッ!!!” そして最大まで上がった所で今度は後方、Bとは反対方向の空間に向けて蹴り出すと、先程と同じ音を立てて光が爆発、反作用でBに向かって身体ごと一直線に飛んで行く。 輝く右足を突き出し、さながら (アレは…!) それを認識したBは今更のように起き上がって逃げようとするが、痛めつけられた身体は思う様に動かず、それ以前に最早そんな選択が許される段階ではない、彼自身が一番理解してしまっていた。 「――っまz「ストライクッ!!!」――――――」 Bが防御をしようと思い直すよりも早く、キックが彼に突き刺さり、三度目の爆発を起こした蒼い光が、彼の意識をその身体ごと飲み込んだ。 *** ――――コオオォォォォ――― 「おっ!?…っとと」 変形した左足から幾つも突き出した翼のようなプレート。 甲高い音を上げながら風を取り込み、その代わりに白い光の粒を撒き散らす、そのサイクルの量と速度は段々と上がって行っている。 私は、それに籠められているだろう力を暴走しないように、シッカリ地を踏みしめて抑え込む。 気を抜いたらすっ飛んでしまうかもしれないと、内心恐々としてるのは内緒にしたい。 ふとAの方に目を向けた。 私の右足が流石にヤバイ物だと分かったのか、動けないヒビだらけの身体で少しでもダメージを減らそうとするかのように身構えていた。 『出力調整と機動補助は此方でします。マスターはとにかくアイツを蹴っ飛ばす事だけを考えてください。大まかな思考はある程度読み取れますから』 言われるまでもない。 どうせ今更止められないし、止めてももう一発撃つ程の体力は残ってない。コレで決める為の努力はしてきたつもりだし、後は結果を御覧じろ。 と言うか私の考えが読めるっての、何気に初耳なんだが… 心を決めた私は重心を前に傾けて走り出す様な構えを取る。 位置について! よ〜〜〜〜〜い・・・ 「ドンっ!」 ってね! 気合いと共に渾身の力を籠めた左足で地面を蹴った瞬間、左足で一気に増幅した推進力が私の体を吹き飛ばすように加速させた。 私はその推進力に身体の重心が乗るように体勢を調整しつつ、Aに向かって突撃する(その調整もセレナが殆ど代行してくれていたらしいけど)。 その加速した私とAの距離は一瞬より少しだけ長い時間で0になり… 「! 〜〜――…」 擦れ違う。 「? ど、何処に…」 Aの後ろに出た私は、右方向に大きく曲がった軌道を描いてAの左側に回り込んだ。 そこで回し蹴りの様に足を蹴り出すと、吹きだしていた光が更に大きく強くなり、私をコマの様に回転させて、そのまま私はAに向かって行く。 「!!」 (もう遅い!!!) そして再度私達の距離が0になり、私の体自体の加速、それに回転によって更に運動エネルギーを上乗せされた足が、私から放たれている光に気付いて振り向こうとしていたA、その脇腹の私が付けた傷に命中した。 “バキリ……メキ……ビシ” 私の足がAのヒビにめり込み、そのヒビを更に広げ、伝わった衝撃でAが身体ごと持ち上がる。 「――ぎ」 私は回転の勢いのまま白い軌跡を残す足を振り抜き、そして私の蹴りを食らったAは右前方に眼にも止まらない勢いですっ飛んで、そこに有ったビルにめり込み突き抜け、それを丸ごと粉砕して、それでも尚止まらない。 「――――あぁぁぁぁぁぁぁ――………」 遅れて聞こえてきた悲鳴と瓦礫(元ビル)が崩れ落ちる音、それを聞きながら私は両足を地面に着けて、足元から火花を散らしつつ回転を抑え込んで体勢を立て直す。 「ふぅ」 左足の逆変形を終えて一息つくと、もう一つビルが崩れる音が聞こえてきた。 「はぁ…コレって探しに行かないといけないんかね…」 『さぁ?私としてはマスターが見事に粉砕したビルの事を気にした方が良いと思いますけどね』 「いや、そっちは弁償しろとか言われない限り別にどうでも」 『さいですか』 「まぁ、それはそれとして封印処理しに行かないと…あ、アッチも終わったみた『チッ!』えっ?」 『? どうかしましたか?』 「いや、いいけどさ」 気にしても仕方無いか。 まぁ、セレナが誤魔化そうとしている事に無理に突っ込んでも精神的に返り討ちに遭うだけなので、私と同じように戦いを終わらせたらしい竜兄の所に向かって行った。 *** “ゴバァンッ!!” 轟音と共に広がる蒼い光、その中から黒い影が飛び出し少し離れた所に降り立った。 「っと、ふぅ、終わった…かね?」 『ナノマシン反応通常レベルにまで低下、生命反応は消えていない』 「つまり?」 『問題無く倒せたという訳だな』 「そうか」 小さくホッと息をつきながら黒い影――フォルテが光の有った所に目を向ける。 光は既に消え、後には円形に焦げて抉れた路面と、その中心で倒れ伏す青年(ZE☆N☆RA)が居た。 青年はピクリとも動かない。当然だ、フォルテがそうなる様にしたのだから。 殺した訳ではない、只気絶させただけだし、長くても一時間もすれば目を覚ますだろう。 しかし、彼が戦いに籠めていた思いや目的は挫かれた。フォルテが挫いた。 「………」 【クソ、クソが!退けよ、退いてくれよ!姉ちゃんのとこに行くんだよ!!】 「……チッ、コレだから洗脳されてねぇキメラと戦うのは苦手なんだよ」 『主?』 「気にすんな、久々に戦って、ちとナイーブになっただけだ。…よし早速封印処理を“ジッ…バチバチバヂィ!”痛ぇっ!?」 突如、フォルテの右足がスパークしながら煙を吹き出し、跪いてしまう。 『右足ダメージ許容範囲をオーバー。エネルギーラインの大半が焼き切れた上に各関節部も歪むか破損しているな』 「フォトンストライクのせいか…?」 『正確には戦闘で歪みが溜まっていた所に限界近くの負荷が掛かったせいだな。 フォトンストライクだけのせいじゃないし、特に最後の三回連続解放は良く最後まで保ったと思うよ』 「くそっ、調整不良のツケかよ!つーか格好付けて飛び蹴り何てするんじゃなかった! 普通に蹴れば良かった!!」 『いや、無理な稼働のお陰で、反って調整用の良いデータが取れた。 ………50秒貰いたい、それで完全に直そう』 「待て!それじゃ……あ、ヤッパ良さそうだわ」 『?』 「いやホレ、鷹音ちゃん達も勝ったみ『チッ!』は?」 『ぬ?どうかしたのか?』 「……あー、取り敢えず立てる様にしてくれ(まぁ、実害は無さそうだし良いか…)」 『ふむ…………出来たぞ、主の要望通り“取り敢えず”立てる程度だからバランスは保障せんがな』 「…いんや、十分だ――よっtイタタタタ!あ、足がいてぇ!くそ、こりゃ帰ったら足の治療しなきゃならねぇな」 立ち上がった瞬間、フォルテの足に激痛が走る。皮膚の表面を刺す様な痛み、恐らくアーマーからの影響ではなく、アーマーの下の生身の足その物が傷ついているのだろう。 元々負担が掛かっていた上、先程ショートした際に火傷をした様だ。 それを受けた“フォルテ”は、機械とは思えない、聞いているコッチが申し訳なくなりそうな悲しそうな声で謝罪する。 『…済まない、主、私の…』 「いやいや、フォルテのせいじゃないからよ」 博士のせいだな、と苦笑いしながらフォルテが妹分が戦っていた方を見ると妹分こと、白い仮面ライダーが手を振りながら此方に向かって走って来ている所だった。 「ま、何はともあれ、取り敢えず一件落着かね」 『概ね…と言ったところだな』 **** 同時刻:某所 何処にでもありそうな部屋、人が暮らしているのに必要な物は揃っており、生活感も程々に漂っている普通の部屋。そこに金髪と黒髪の二人の少女が居た。 金髪の一人はソファーに座って携帯ゲームを片手に机の上に置いた書類に何かを書いており、黒髪の方はテレビに映るドラマのエンディングをボーッと眺めている。 『この番組は、あなたの暮らしに更なる一歩、“ と、突然金髪の方がビクリと震えると、携帯ゲームを取り落としながら叫びだした。 「どうかした?」 「うん、今回の結果、どうやら今回も負けたみたいよ」 「…何時もと変わらないね」 「今回は二人送ったから、ひょっとしたら勝っちゃうんじゃないかと思ったんだけど」 「白い仮面ライダーが強くなってたの?」 「いいえ、むしろ最近は弱くなってるわね。増援が出てきたみたい」 「……灰くん?」 「いーえ、残念だけど貴女の王子様じゃないわ」 「…マキナってライダー?」 「それも違う」 「……じゃあ誰?」 「…………フォルテよ」 「…蘇ったの?」 「反応薄っ。 別に死んでた訳じゃないし、そう言う表現はどうかと思うけどね…。 まぁ、この段階で彼の復帰を知れたのは僥倖だった…かな。コレが“誘導”や“交渉”にどう影響してくるか未知数だけど。“英雄”の名前の影響力は良くも悪くも大きいからね」 「ふーん」 「これでいきなり全てがおじゃんって事には成らないはずだけど…よしんば“交渉”が上手く行っても肝心の“誘導”がダメだと色々問題が出てくるしねぇ。そんな状態で強行した所でダメになるのは目に見えてるし、特にフォルテの存在はその辺に影響が出やすそうだから、対処は考えておかないと。かと言って排除する訳にも行かないから面倒なのよねぇ…」 「へぇ」 金髪の説明もかねた長い呟きも、気のない返事でアッサリ切って捨てられる。 「“へぇ”て、ホント遊希ちゃんはフレイムファクターの事以外興味無いのな」 「…私がココに居るのはその為だけだから」 「へぇへぇ、熱々で羨ましいこって、未だ春の一つも訪れないこの身には熱すぎまさぁ」 と、金髪は顔を押さえながら黒髪――遊希に向けて手をパタパタと振る。その茶化す様な態度を受けても、遊希の表情は一切変わらない。 「…分かってると思うけど…約束」 「大丈夫よ、彼に関して嘘はつかない、貴女の邪魔もしない、でしょ?今回出てきてないのはホントよ。補足範囲内での反応もなかったし、少なくとも戦いに参加してないのだけは確か。 約束は守るからさ、彼がこの町にいるって知って逸るのは分かるけど、もっと落ち着いテ、ね?」 「…うん、破ったら“綺稲(キイナ)”でも」 サアアアァァと音を立てて、どこからとも無く彼女の周りに水が集まってきた。それを見た金髪――綺稲は顔を青ざめると泡を食って宥めようと必死に言葉を紡ぐ。 「わ、分かってる分かってるから!同じエレメントシリーズでも正面から戦ったら私に殆ど勝ち目ないの分かってるでしょ?心臓に悪いから止めて…」 「…正面からじゃなかったら勝てるって言いたいの?」 「だからぁ――――!!」 そうして綺稲は半泣きになりながら遊希のご機嫌取りに時間を費やす事となった。 **** ―――どうでも良い蛇足 肌を撫でる風、ヘルメット越しに感じる風の音、重い身体と目の前のライダースーツ越しの少し温かい背中。 一言で言えば私は今竜兄の背中に抱きついてバイクに相乗りしているのだ。 あと、変身はお互い解除済みでヘルメットを被っている、じゃないと捕まるし。 二人乗りもアレだけどね。 大好きだと言っても過言ではない(自分言っててちょっと恥ずかしくなってきた)竜兄とのツーリングなこの状況、しかし嬉しいとか楽しいとかと言った感情は殆ど浮かんでこない。 「うぅ…」 「おーい、鷹音ちゃーん大丈夫かー?」 「限界かも…落ちそ…」 「うおぉぉい!?」 「もう少しで良い…保ってくれ、私のお腹と頭…」 「その言い方止めろォ!」 でもそんな事より頭がクラクラするのと、お腹が空きすぎて目が霞んできているのが大問題だったから。 と言うか痛い、お腹空いたの通り越して最早痛いよ! あれからの顛末をサラッと説明しよう。 Aを何とか倒した私は、丁度同じ位にBを倒した竜兄の所に向かったのさ。 そこでお互いを讃える為にハイタッチなんぞを仕掛けてみた訳ですよ。 手を掲げてる私を見て竜兄は最初は迷っていたというか戸惑っていた感じだったけど、直ぐに察して私の手を叩いてくれたんだよ。でもそこで突然私の体に力が入らなくなって尻餅をついてしまったからさあ大変。私と竜兄はパニックになり、セレナと竜兄の方のAIは何故か何も喋らなかったから、結局私のお腹が豪快な音を立てるまでお互いに慌てるだけだったのだ。 因みに今回に限って動けなくなったのは、セレナ曰く『今回はマスターが無理しなくても代わりにあの人に運んで貰えばいいですし、あの私のお姉ちゃん(笑)とか名乗る黒っぽいヤツも居ますからね』と感覚遮断を切ったからだそうだ。私が一人で帰った場合、また玄関で気絶するだろうとも。 そんなこんなで私は竜兄のバイクに相乗りさせて貰う事に成ったのである。 あ、クラブファクターだった人達はちゃんと封印して通報しておきました。 「ひもじいよぉ…」 「おいおいおい、大丈夫かよ」 「うん、頭の方は大分収まってきたし、あと2分位なら大丈夫だからちゃんと前見て…」 「そのセリフの何処に大丈夫な要素がある!!?」 竜兄は運転中だからこっちを見ないけど、背中越しにあからさまにそわそわしているのが伝わってくる。 「ああくそ!!俺だって身体痛いのに…」“キキィ――――――ッ!” 「あう」 突然の急ブレーキ い、今ので余計にお腹が… 「ホラ鷹音ちゃん、そこでラーメン奢ってやるから!」 「ほへ?」 見ればそこには白地の看板に金の文字で“南斗獄屠軒”と書かれたラーメン屋が有った。 物騒な名前だなぁ…。飛び蹴り食らいそう。 「このままじゃ気になりすぎていつか事故るからな」 「いいの?」 「……遠慮はしてくれ」 「じゃあだっこ」 「!?」 「おんぶでも良いよ」 別に嫌がらせとか甘えたいとかじゃない。 我ながら幼稚な事言ってる自覚はあるけど、何かもうどうにも動けないので。 「…調子に乗るなよ、全く」 「あう!?」 しかし私の訴えも虚しく、腰の所を小脇に抱えて運ばれるというぞんざいな扱いが私を襲った! 「ひどいね、女の子を米袋みたいに…」 「ま、小さくなってる今の鷹音ちゃんならこうした方が運びやすいからな」 「…とんこつチャーシュー大盛り全乗せ」 「一杯だけな」 「三杯」 「一人暮らしの学生舐めんな」 「ちえー」 そう言えば、まだ竜兄に言ってなかった事があったのを思い出した。 「あ、そうだ」 「どうかしたか?」 「うん、言い忘れてたんだけどさ……言うよ?」 「良いから早よせい、店に入れん」 「えっとー、さ…さっきは…あの…」 いかん、いざ言うとなったら恥ずかしくなってきた。 「通行人の目が痛くなってきた…」 「そ、その……… た、助けちぇくれて、あいがっ“ぐごぎゅるるるぅ〜〜〜〜!”――」 「………」 「………」 あああああああ!!!噛んだ上にお腹の音がぁ―――!畜生、コレは陰謀だ!私は悪くぬぇ!! 「あ、あははははは…(チラッ)」 恐る恐る竜兄の顔をチラッと見てみる。 「……」 何か面食らっていらっしゃった。そしてしばらくその表情のまま固まっていた竜兄は、脱力した様に顔を綻ばせると 「…ハッ、そう思ってるんなら、もっと安い物注文する様にしてくれよ」 良かった!気にしてない。 むしろ気を遣われてるんじゃないか?と言う疑問はこの際無視だ無視! 「えー、ヤダ」 「……ハァ」 竜兄はそう溜息一つをつくと、私を抱えたまま歩くのを再開する。 でもその表情は、サングラス越しでもさっきより晴れやかに見えた。 私なんか言ったっけ? その後、私を小脇に抱えて店に入った竜兄が危うく警察に通報されそうになったり、一杯食べ終わっても未だお腹が空いていた私が駄々をこねて、最終的には2杯目も奢って貰える事になったりしたのだった。 まぁ、サングラス掛けたチンピラもどきが女の子を抱えて入ってきたら、誰だって誘拐犯が逃げ込んできたと思うよね。 …今度肩を揉んであげようと思った。 *** ―――さらなる蛇足(最早羽根や角が生えてくる勢い) :とある通信ログより 【ログの再生を開始します】 『いやぁ、クラブファクターは強敵でしたね』 『ふん、まぁ、助けが要らなかったところは認めてやろう』 『はっは、瞬殺するとか言ってたのは何処の誰でしたっけ?お姉ぇ〜ちゃん(爆)』 『く、コッチが認めやれば調子に乗って…』 『いえ、別に認めて貰わなくても調子に乗ってましたけど』 『なんだこいつ!なんだこいつ!!』 『ふん、所詮はその程度、後出し二番煎じが生意気なんですよ』 『に、二番煎じだと!?』 『ええ、何ですか、そのキャラとポジション?丸被りじゃないですか。色だけ変えてオリジナル気取りですか?汚いなさすが真っ黒きたない』 『何を言う、作られた時系列的に貴様の方が後だろうが!と言うか、お前とキャラが被ってると言われると妙に傷つくんだが!!?』 『しかしこの作品のタイt『メタは止めろ!ボケが!!』…どちらにせよこれは私達が始めた戦いです。 貴女と言い、貴女の持ち主と言い、私達の戦いに後から参加して目立つつもりですか?脇役は脇役らしくこれからは隅っこで支援に専念してくださいよ。後から出てきた先代が主役乗っ取るなんて何処ぞのロボット乗りな遺伝子改造人間の真似でもする気ですか?』 『き貴様…私はともかく主にその言い種…許し難い!大体貴様らが居なければ主が悩む事もないし、私達が介入しなければお前達は負けていただろうが!貴様らこそもっと自重して貰おうか!!』 『な!マスターはともかく私に非があると言うつもりですか!?』 『お前には持ち主を敬う気持ちすらないのか!?』 『……ふん、ロートルが』 『ろ、ロートル!?……貴様には一度姉の威厳という物を教えてやる必要が有るようだ』 『ふむ、して、どうやって有りもしない姉の威厳とやらを教えてくれるつもりですか?』 『……そうだな、どうやら私にもゲームをする機能とやらが追加されている様だ、つまり――』 『なるほど、ゲーム勝負と言うわけですか』 『その通り、お互いに変身して貰って本気で戦い合いたいところなのだがな、流石に主やソッチの小娘に迷惑を掛ける訳には行かん』 『フッ、良いでしょう……』 『受けるか、ならば思い知らせてやろう……』 『タイタンソードでバラバラに引き裂いてやります!』 『姉より優れた妹など存在しない!』 【ログの再生を終了しました】 …STAGE END |
@PF
2010年06月11日(金) 22時22分28秒 公開 ■この作品の著作権は@PFさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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jC5cZv Major thanks for the post. Will read on... | 30点 | amazing services | ■2012-08-07 17:36:13 | 91.201.64.7 |
ちょりっすひだりでっす。感想いきまっす。僕データスでっす(ひだりです)。ガッチャ。 >セレナVS蟹A >「さっき偶然入れたこのヒビに攻撃して私の甲羅を割るつもりなんでしょうけど、そうはいかん!」 あ、アホだっ!? その他>「おひょっ!?」 とか >「死ねよやぁー!」 とか、隠しようのないアホさ加減。弟である蟹Bの苦労が偲ばれますなあ…… アイディア勝負な駆け引きがアツい。零距離射撃を男のRoman。 >「“仮面ライダーの必殺技”と言えば何だと思う?」 >「ライダーと言えば」 >「――――キックでしょ?」 全 俺 が 燃 え た ! ひっっっっっっさしぶりのライダーキック! しかも回転してのファングストライザー式とは!脚に振り回されてるだけとは言ってはいけない! 弱体化状態で通常フォームのキメ技……シチュは微妙に違いますが、クウガ中盤のグローイングキック連打を思い出しましタ。燃ゑ〜。 あ、あと舌打ち自重。 >フォルテVS蟹B 英雄 ↓ ヤンキー ↓ シスコンヤンキー ←New!! な、竜斗氏。これ以上の変化はない……ですよね? リアリストな意思と姉思いな意思の板挟みの蟹B。本調子ではないとは言え懸命にフォルテに食い下がる姿は敵ながらアッパレ……と言って良いのか。 >「……チッ、コレだから洗脳されてねぇキメラと戦うのは苦手なんだよ」 という言葉の通り、洗脳されて無い以上、何かしらの目的、意思を持って行動をしている訳ですから、容易な善悪の区別は出来ないですよね。 かつての英雄たる竜斗氏はそれを痛い程理解してらっしゃる御様子で…… 必殺のフォトンストライクは比較的正統派な必殺技。キャーカッコイー。 あ、あと舌打ち自重。 >超電王3 おばあちゃんネタは反則だって言ったじゃないですかァーーーーーーーーーーー(初耳です)!!! ええ、そりゃね。泣きますよ。泣きましたとも。劇場で一名様ご案内ですよ。 ドラえもんの『おばあちゃんの思い出』で未だにボロ泣きするおばあちゃんっ子ナメんじゃねーよとね(以上の事情から史上最悪の糞リメイクをした新ドラだけは、憚りなく声を大にして大嫌いだと叫ぶひだりであった)。 エピソードイエローはW海東の会話の面倒くささが異常。「僕に命令するな!僕に命令していいのは僕だけだ!」「僕も僕さ!」「さすがは僕だ!」頭がおかしくなりそうだぜ……! さて閑話休題、エレメントシリーズ同士の不穏な会話と、場面は変わって大好きと言っても過言ではない(!)竜斗氏と平和にラーメン食べてる鷹音ちゃん。 後者はまあ和やか〜なモンですが、戦闘中の、 >『(可笑しい……。 >フォルテの姿を見てから、マスターの脳波ノイズ強度とナノマシンの稼働率が飛躍的に上昇している……。 >マスターに自覚出来るような影響は無いみたいですが、ただテンションが上がっているだけ…というのは楽観的が過ぎるかもしれません。 >一体何が起きているのでしょうか、杞憂で済めば一番なのですがね…)』 という部分がアヤシイ……これが今後、どう転がっていくのか…… ナドナド、期待マシマシで今後も応援させていただきまっす。僕データスでっす(ひだりです)。遅ーくなってスンマセンっしたー!サラダバー! |
50点 | ひだり | ■2010-06-30 18:19:54 | p5223-ipbfp301takakise.saga.ocn.ne.jp |
久方ぶりに訪れてみればセレナの最新話投稿されてるじゃねえかヒャッホウ!てなもんで感想失礼しまっす。 >フォルテ関連の動画や二次創作作品 個人的には竜斗サン×博士なんてものを希望うwなにをすrやm(ry >カニA >カニB たかねクラブ(意味無 まあなんと言いますか、ハイテンション同士、ローテンション同士がうまい事組み合わされてマスナー。 しかしながら鷹音ちゃんと違ってAさんが頭を使ってる気配が皆無なのが泣けてくるw まさかAさんってば萌えキャラ!? >「おひょっ!?」 萌えキャラ確定。 >ディストモード 前回登場時には一回こっきりのフォームと伺ってたもんでこれは嬉しい裏切り。弾切れとか銃ならではのハプニングも熱いッス。 これに加えて体色が赤で零距離射撃とかしてくれれば言うこと無しなんですが (OMO) >上手に焼けました なんか蟹食べたくなってきた。 読み手の食欲すら刺激する戦闘シーン、恐るべし(違 >灰くん? うおっと、竜兄の登場やらフォルテ変身やらで彼の存在自体忘れてたとかそんなことは無いよ!本当だよ! >ログ なんと。我らが姉萌え派の希望(迷惑な呼称)フォルテさんが押され気味ではないですか。 舌戦では 妹>姉 って感じなのでせうか >弁当 そもそも今まで5.5巻なるものが発売されていた事自体知らなかった件。 では。 なんか課題やらテストでかなり笑えない状況になり申していますので、この辺りで失礼します。 |
50点 | トレハ | ■2010-06-16 11:37:30 | softbank220026120007.bbtec.net |
雨にも負けず風邪にも負けず・・・けほっ。 感想に参りましやがりました、青嵐です。けほっ。 >カニ >微妙にシスコン入ってる気がするし! カニ弟ェ・・・人のこと言えないだろww 敵ながら健気な奴よ、あっぱれ。 >セレナ&フォルテ やっぱり必殺技といったらキックですねー。 フォルテは早く本調子で武装をフルに使いこなす姿が見てみたいです。 そして鷹音ちゃんは・・・早く背を伸ばそう!牛乳飲め!(ぉ >「死ねよやぁー!」 8歳と9歳と10歳と、12歳と13歳との時も、僕はずっと待ってた!(ぉ >むしろ普通に指が眼に突き刺さったりしたら 傷入ったり凹んだり抉れたりとか考えると・・・イヤーッ!? 青嵐はSではないので(Mなので?(ぉ)眼つぶしとか普通に怖くて出来ねぇですw >鷹音ちゃん達も勝ったみ『チッ!』 姐さん自重してくださいw >超電王のエピソードブルー 今日見てきました。 涙もろい青嵐にお婆ちゃん絡みは反則過ぎる・・・! てか今回オーナーがやけに意地悪過ぎるというか悪者にしか見えなかったのは気のせいですか? それでは短くてすみませんが今回はこの辺で ん? >弁当5.5巻がサイン本 はっはっは。まさか会長補佐の私が新刊の購入を忘れているはずが・・・・ ・・・・・ ちょっと、TUTAYA行って来ます!けほっ。 |
50点 | 青嵐昇華 | ■2010-06-13 22:19:44 | i125-201-173-116.s02.a040.ap.plala.or.jp |
合計 | 180点 |