仮面ライダーイグナイト外伝 YPさんゴメンナサイ! 双龍 決着 |
ドラグセイバーを構えながら目の前にいる毒蛇の化身と対峙するのは、黒い龍の姿と力を宿したライダー、仮面ライダー龍牙。 一方隣で腕をべきべき鳴らしながらさも楽しげに相手を見据えるのは奇しくも自分と同じ龍の姿と力を宿した 人類の進化系、ドラゴンオルフェノクこと龍美修二。 「さて、どうやって料理するかな。」 龍牙歯とりあえず目の前の敵を吟味する。背中のタンクと繋がった右手と一体化したガトリングガンは、 間違いなく毒液を噴射するウォーターガンだろう。あのウォーターガンさえなくなればこちらのものだが、 無論敵もそれを理解しているだろうから簡単には近づけない。 「なぁ龍牙さんよ」 「なんだ?何かいい案があるのか?」 「ない。」 「ないのかよ!」 龍美の投げやりな返答に柄にもなく突っ込みを入れるが、龍美は余裕タップリな調子を崩さずに話を進める。 「下手な考え休むに似たりってことわざ知ってる?俺の勘じゃあんた小細工無しの真っ向勝負が好きっぽいけど。」 「あ、あぁ。それで、何が言いたいんだよ?」 「決まってんだろう。」 ニヤリと影越しにほくそ笑む龍美の姿を見て、龍牙も龍美の考えを悟り仮面越しに笑い返した。 「そうか。一点突破。考える暇があったら前進あるのみ、てか?」 「そういうこった。」 「話は終わったか?」 「あぁ。」 「そうか。なら二人とも骨一つ残らず消えうせるんだな!」 緑毒牙のウォーターガンのバレルが回転し、無数の毒液のつぶてが二人に襲い掛かるが、二人は左右に飛びつぶてを回避する。 「どうだ凄いだろう!何せ一分間に2000発もの毒液を発射できるんだからな!」 自分の獲物を自慢しながら、緑毒牙は毒液の雨を撒き散らしていく。そのたびに毒液に当たる地面や木々が 煙を立ち上らせながら泥のように溶けていく。あの毒液の雨をくらえば冗談抜きで骨一つ残らないだろう。 「まずは貴様からだ!」 「ちっ!俺かよ!」 緑毒牙は照準を龍牙に合わせウォーターガンを打ちまくる。龍牙はただ今は逃げ回るしかない。 あれがただの鉛弾ならドラグセイバーで防御しつつ前進できるが、溶解性の毒液なら話は別だ。 いくらドラグセイバーでも、触れれば確実に役立たずになる毒液を受け止めるなど出来ない。 「ふははははは!どうした!避けてばかりじゃ勝てないぞ!」 「ああそうだな。避けてばかりじゃ勝てない。俺一人ならな。」 「そういうこった。俺がいるのを忘れるなよ!」 龍美はすかさずウォーターガンの死角である左に回りこみ必殺のパンチを叩き込む。ガトリングガンは 確かに脅威だが、右手と一体化している以上左手に少なからず死角が生まれる。龍牙も龍美も それを理解し、龍牙は自分が囮になる隙に龍美が反撃してくれるのを期待し、龍美もまた龍牙が 的になっているうちに自分が反撃に出ようと考えていた。お互いの考えは微妙に違っていても 最終的結果は一致していた。 「おりゃあ!」 「くくくく・・・・・」 龍美のオルフェノクの皮膚さえぶち抜くパンチが襲い掛かっても、緑毒牙は余裕の様子で冷静に残った左手で受け止めた。 「だが!」 先手必勝とばかりに打ち込んだパンチを受け止められても、すかさずミドルキックを叩き込もうとする龍美に、 受け止められた右手から焼けた鉄を押し付けられるような激痛が走った。 「いでででででで!ど、どうなってんだ!?」 見れば緑毒牙の爪は自分の拳に深々と突き刺さり、そこから白煙が立ち上っていく。 「はははははははははは!どうだ!砕かれるのでも切られるでもない、溶けかされていく痛みというのは?」 「龍美!」 救助に行こうとするも、右手のウォーターガンの弾幕のせいで近づく事ができない。一方龍美の右手は 爪から容赦なく注がれる毒液によってじわりじわりとその原型を失いつつあった。 「ほらほらどうした、早く何とかしないと右手がなくなってしまうぞ?もっとも、そんな状態じゃ使い物にならないだろうがね。」 「このやろう!」 何と龍美は気合の入った一声とともに振り下ろした左手の手刀で、右腕の肘からばっさりと切り離した。 「ほう、思い切ったことをするじゃないか。だが賢い選択だな。この左手に限らず俺の毒液は強力な神経毒だ。 溶けなくとも喰らえば数分で身体の自由がなくなり、石のように指先一つ動かせなくなる。」 自慢げに語りながら、二股に分かれた舌で左手にこびりついた龍美の肉の切れっぱしを舐め取る。 「龍美!大丈夫か!」 「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・・・・・・・大丈夫な訳・・・・・・・ねぇだろう!」 駆け寄る龍牙の手を借りずに立ち上がると、龍美は右手に力をこめだした。すると肘の上から無くなっていた 右手が竹の子のように生え元通りになってしまった。ドラゴンオルフェノク自慢の再生能力だ。 「お、お前ナ○ック星人かよ!?何だそりゃ!?」 「あぁ?俺は他のお仲間より壊滅的に打たれ弱い分、再生能力はずば抜けて高いんだ。」 「よそ見してる暇なんてないぞ?少しでももがいてくれなきゃこちらが楽しめないからな。」 龍美の並外れた再生能力に感心している暇さえ与えず、毒液の雨は容赦なく二人を襲い続ける。 「ほらほら、もっと早く逃げなきゃたちまちどろどろだぞ!」 「ちぃ!それなら!」 反撃の術が見つからない龍美に対し、龍牙は起死回生を狙い一枚のカードを取り出しバイザーに装てんした。 STRIKE VENT バイザーからくぐもった電子音が鳴り、龍牙の右手に黒龍の頭を模した手甲が装備され、同時にレギオンの血溜りから 美しくも狂気を孕んだ赤い瞳を宿した黒い龍が這い上がってきた。 「なに!?龍だと!」 「すっげぇ!なんだそりゃお前のペット!?」 「ペットじゃねぇ、相棒のドラグブラッカーだ。そんなことよりいくぜブラック!」 『分かっている!』 敵と一緒に軽く面食らう龍美の質問を簡単に済ませ、龍牙は腰に力を入れながら必殺のパンチングアクションを叩き込む。 「おおりゃああああああ!!」 「くくくく・・・・・・何をするかと思えば火球の礫か。片腹痛いな!」 耳障りな嘲笑を洩らしながら、緑毒牙のガトリングガンの四つのバレルから放たれた毒液は一つの巨大な塊となり、 龍牙のアクションに連動して吐き出したブラッカーのブレスを簡単に相殺した。 「ちぃっ!あのガトリングガン、単発も撃てるのかよ!?」 「思慮が浅かったな。」 龍牙の予想は儚く崩れ去った。当たればそれでよし、仮にかわされてもその隙を突いてドラグセイバーで 奴のガトリングガンを切り落とそうと考えていたが、ガトリングガンがシングルショットを撃つなど予想外も良い所だ。 「さぁ、戦いを続けようか!」 「くそ!っておいどうした龍美?」 再びこちらに照準を合わせようとする敵を前にしながらかわすそぶりを見せない龍美に龍牙は目を向け端を発した。 「か、身体が、身体が動かない!」 「くくくくく。ようやく効いてきたようだな。」 「なんだと!・・・・・・・・・・まさか!」 よく見れば毒液の煙は、ちょうど自分達を囲むように立ち登っている。もしやこの白煙を吸ったからか。 龍牙の脳裏を過ぎった予想を読み取るかのように緑毒牙から肯定の返事が返ってきた。 「そう、そのまさかさ。俺の毒液は気化したものを吸っただけでも身体の自由を奪っていく。人間なら一息すっただけで 指先一つ動かせなくなっちまうんだが。そっちの黒い奴はなんで効かないかわからないが、 灰色のお前は時間がかかっちまったが漸く効いてきたようだな。」 ちなみに龍牙が無事なのは、ライダーのマスクに搭載されている酸素浄化システムがついているからであるが、 生身の龍美にはそんな便利機能などついているはずがない。 「くくくくく!すぐには殺さないから安心しろ。じわりじわりと溶かされる恐怖と苦痛を味わせ、苦しみ悶えながら死なせてやる。」 ガトリングガンのバレルは容赦なく回転を始め、無数の毒液の雨が龍美に襲い掛かっていく。 (あぁ。こりゃマジでやばいかもな。もっと上手いスィーツとか漫画とか読みたかったなぁ。というか 千景の奴俺がいなくて大丈夫かなぁ。というか仮リュミ最終回見る前に死ぬなんてやだなぁ。 それ以前に、あいつと白黒つける前にくたばるんじゃ死んでも死にきれねぇ!白いのあいつだけど。) 他人ごとのように自分の死を受け入れるかける美の脳裏には、今までの記憶が走馬灯のように、よぎったりはしなかった。何故なら ACCEL VENT 沈んだ電子音と共に、目にも入らぬ速度で龍美を射程圏外まで運んだ龍牙の乱入で事なきを得たからだ。 「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ。」 「お、お前!?」 「ブラック、コイツを安全な所まで運んでやれ。」 『了解した。』 「お、おい!こら待て!」 抵抗したくてもいまだ身体の自由が利かない龍美は、自分の肩を掴むブラックにされるがまま、 毒霧の届かない安全圏内へ運ばれていった。 「まだそんな力を持っていたか。」 「面倒か?」 「かなりな。それだけに惜しい。」 「惜しい?」 「それだけの力がありながら、人というカテゴリに属している限りお前に待っているのは 矛盾と無意味に縛られた人間の無価値な世界だけだ。」 「言いたい事があるなら端的にかつ分かりやすく言えよ。」 「我々の仲間にならないか?お前ほどの力を持つ者なら、殲鬼姫様の愛を受ける資格もあろう。」 思いもよらぬ誘いが飛んできた。これがあの白い熱血馬鹿なら迷わず「断る!」と言っている所だな。 と考えつつ、龍牙は緑毒牙の誘いに暫し耳を預ける事にした。 「仲間?俺に荒魔とやらになれっていうのかよ?」 「そうだ。よく考えろ。平和だ秩序だを謳っておきながら、同じ人間同士無意味に争い、醜く差別し殺しあう。 そんな愚かな生き物他にいまい?そんな愚かな生き物が支配する世界など、何の価値もあるまい?」 「確かにな。否定はできねぇよ。」 正直耳が痛いが、向こうの言い分は大なり小なり的を得ていた。文明が始まって以来の人間の歴史は 差別と争いの歴史だ。法や技術が進歩したといっても、寧ろ悪化の一途を辿っているかもしれない。 「そんな人間に、この世界を支配する資格はない。この世界を支配するのは、殲鬼姫様と 俺のような殲鬼姫様に愛される資格を得た者だけでいい。」 「それで、選ばれなかった奴等は野たれ死ねってか?」 「少し違うな。殲鬼姫様はゴミ屑ほどの値打ちもない人間に、家畜という新しい役割を与えてくださっているのだ。 感謝こそせど、恨まれる筋合いはないと思うがね。これが愛といわずに何と言う?」 「ふーん。愛なら仕方ねぇなぁ。」 「だろう?いずれ殲鬼姫様はこの世に、選ばれし者だけの真の繁栄と秩序に満ちた選ばれし者による 千年王国を気付きあげる。お前もその楽園の住人になれるかもしれないんだぞ。」 「そいつは悪くない話だねぇ。」 「どうだ?お前も殲鬼姫様の愛を受け入れれば人を超越した存在になれるんだ。さぁ、俺と一緒に 殲鬼姫様の愛を拒んだあの愚か者を始末し、殲鬼姫様の手土産としようじゃないか。」 「すーはーすーはー!って、なんかヤバげか!?」 手ごたえありとばかりに微笑みながら、緑毒牙は肺に溜まった毒を吐き出そうと悪戦苦闘中の 龍美を指差しながら龍牙に手を差し伸べる。もし龍牙が向こうの誘いに乗れば、未だ身動きの取れない 自分など一貫の終わりだろう。まさに自分のこの後の未来は龍牙の返答にかかっていた。しかも 龍牙の態度を見る限りじゃかなり乗り気な感じが伺える。 「さぁ、俺と一緒に選ばれた楽園の」 「だが断る!!」 龍牙の口から出てきたあまりにも有名な某漫画家の逆転フラグの一言で、龍美の道は生存の未来へと繋がった。 「なんだと!?」 「お前の言う通り、人間ってのは愚かさ。正直この世界も俺からすれば守る価値もねぇし変えようとする気もねぇ。 だがな、そんな世界にもすぐ近くに守るに値する、いや命をかけてでも守りてぇ奴らがいる。俺にとっちゃそれで十分だ。」 「人を超えた純粋なる力が欲しくないのか!」 「あぁ。」 龍牙の言葉が信じられないとばかりに、声を荒げながら叫び続けた。人などという愚かで脆弱な存在から 荒魔という人を超越した存在になれるというのに。それを拒むだけの価値ある理由があるというのか。 「ふざけるな!脆弱な人間に何の未練や柵があるというんだ!ただ一つ、殲鬼姫様に愛され、受け入れれば 人を超えた力と楽園の住人の資格が手に入るんだぞ!それを拒む理由が何処にある!」 「ターコ。そんな化け物の手で愛する彼女や可愛い妹を抱きしめられるかっての。」 中指をおっ立てつつ龍牙は小馬鹿にした調子で返した。愛する彼女と甘ったるい日々を過ごしながら 強い奴と戦いつつ適当に金稼ぎながら可愛い妹に生暖かい愛情を注ぐ。食う、寝る、遊ぶ、暴れる、いちゃつく。 龍牙の人生はこれで集約されていると言ってもいい。だが、それこそが龍牙、城戸真一の全てだった 「殲鬼姫様の愛を拒む理由がそんな下らない理由とはな。」 「下らなくて結構。人間やめちゃいました系の勘違い野郎に理解してもらう気なんてさらさらねぇよ。 そんな殲鬼だか洗面器だか訳分かんねぇ奴に頭下げて生きるなんざなおさらお断りだね。」 「殲鬼姫様の愛を拒むのなら最早貴様に用はない!ここで骨一つ残らず消えていけ!」 再び右手のガトリングガンが唸りを上げ、毒液の雨が龍牙に襲い掛かる。だが龍牙は巧みに回避しつつ 再びベルトのデッキからカードを取り出しバイザーに装てんする。 「さっきから聞いてりゃ愛だの楽園だの」 ACCEL VENT カードが読み来れた瞬間、再び龍牙は閃光の如き速さを得て稲妻の軌道を描きながら緑毒牙に接近していく。 「この!ちょこまかと!」 「ぶっ壊さなきゃ世界を変えられないくせに何が愛だ!!」 「ぐふぅ!!!」 アクセルベントの加速と龍牙の怒りが重なった必殺の右ストレートが顔面を見事に捕らえ、緑毒牙を後方へと吹き飛ばした。 「てめぇらの言う家畜とやらに俺の愛する彼女と可愛い妹がカウントされているって言うなら、 尚更てめぇらを見過ごす訳にはいかなくなってきたぜ。」 「全くだね。」 「なんだと!?がはぁ!!」 何時の間に復活したのか、振り向き様に蹴りだされた龍美の回し蹴りが、緑毒牙の残った 右頬を大きく凹ませ、再び放物線を描きながら吹き飛ばした。 「もう動けるのか?早いなぁ。」 「あぁ。毒を抜くのに思いの外時間食っちまったけどさ。それとさっきの話聞かせてもらったぜ。多くの命を 奪ってなにが楽園だ!ってあいつならまたそんなくっさい台詞言うんだろうけど。お前等が何しようと 勝手にやってろって片付ける所だけど。お前等の創る楽園なんざどうせケーキもテレビも漫画もなさそうだしー。 そんな世界が来たんじゃ俺にとっちゃ『死ね!』って言われるようなもんなんだよねー。」 「だからなんだ!?」 「だからーお前等に『死ね!』って言ってるんだよ。正直お前等見たいのがいるとオチオチ漫画も読めないしー。」 「ぷっ。お前本当に分かりやすくて面白い奴だな。」 二人は胸を張り荒魔の力を、殲鬼姫の愛を否定した。二人にとっての全ては何事にも縛られず自由である事なのだ。 殲鬼姫に従い、服従する世界の何処に自由があるというのか。 「驚きだ。殲鬼姫様の愛を否定するばかりか我々荒魔を滅ぼす気でいるとはな。」 「御託はどうでもいいからとっとと死ねって言ってるんだよこっちは。それとも蛇になっちまって 耳が悪くなっちまったのかー?んー?」 「ほざけ!ここで骨一つ残らず消えていけ!」 緑毒牙の怒りを具現化させたのごとく、再びガトリングガンから雄たけびが上がる。二人は肩を並べながら 再び毒液の雨を逃れていく。 「おい、さっきの超加速ってまた使えないのか?」 「あいにくアクセルベントは前の二発で打ち止めなんだ。」 「うわっ!つっかえねー!」 「うるせぇ!けどなぁ、ほかにいい考えがあるって言ったら乗ってくれるか?」 「なんだ?俺参加の場合は楽だけど美味しい所いただけるので頼むぜ。」 「この野郎!」と思いつつも龍牙は作戦の概要の説明に入った 「どうだ?」 「いいねぇ。そんじゃ合図は?」 「俺があいつに接近したのが合図だ。行くぞ!」 「オッケー。」 二人は再び二手に分かれるかと思いきや、龍牙はデッキからカードを一枚取り出しながら緑毒牙へと突っ込んでいく。 「何を企んでいるかは知らんが、俺の毒液を如何にかしない限りお前等は俺に近づく事さえ出来んぞ!」 「あぁ。そんなの百も承知さ!」 ADVENT 龍牙によって呼び出された黒龍は威嚇するかのように雄たけびを上げながら、必殺のブレスを吐き出した。 「馬鹿が。火球など俺に効かないと前に見せただろう。」 すかさず迎撃に入ろうと照準を合わせようとしたが、それは叶わずに終わった。何故ならブレスは 自分の数メートル手前に落ち、巨大な火柱と黒煙と砂煙を立ち上らせるだけに終わったからだ。 「外した?」 前方の視界が奪われあっけに取られるが、前方の黒煙の中から薄っすらとこちらに拳を振り上げる人の輪郭が見えた。 「馬鹿が!自分から死にに飛び込んできてくれるとはな!」 「ぐあぁああああああああああ!!」 人影目掛け容赦なくガトリングガンから毒液の雨が打ち出され、黒煙から姿を表した龍牙は全身から 煙を立ち上らせながらその身体を大地に預け倒れ付していた。 「まずは一人か。さて、次はあの灰色の奴を。」 軽く頭を踏みつけ事切れているのを確認し、次の獲物である姿の見えない龍美を探そうと首を動すより先に、 背後から聞こえるはずのない声の主が自分の身体を羽交い絞めにした。 「かの偉大なるリーダーは言っていた。この世で最も恐ろしいもの、それは油断という名の化け物だと。」 「ば、馬鹿な!貴様はさっきしとめたはず!じゃああれは!」 白煙を立ち上らせて蹲る龍牙は、ガラスのように砕け散り、役割を終えたかのように粒子となって消滅した。 「あれは俺のデッキにあるカード、ファントムベントで造った分身さ。」 「そ、そんな面倒なカードまで!じゃあさっきの攻撃は!」 「そう、お前の視界を奪い、ファントムベントのカードが使われるのを悟らせない囮さ。龍美!待たせた!」 「オッケー!」 龍牙によって身動きを封じられているのを確認し、全速力で駆け出す龍美の手にはドラグクローの時に 放り捨てられていた龍牙のドラグセイバーが握られていた。 「よ、よせ!やめろ!」 「はい分かりました。ってやめる奴は」 「いなーい!」 龍牙の言葉に続きながら、龍美の振り下ろしたドラグセイバーは緑毒牙のガトリングガンをを根元から切り落とした。 「ぎゃあああああああああ!!!」 「龍美!」 「おう!右手の礼だ!タップリ受け取りな!」 「ぎゃあ!うぐぅ!」 先ほどまで好き放題されたお礼とばかりに、容赦ない滅多切りをお見舞いし続ける。 「じゃあ俺も行くぜ!」 「がはぁ!」 龍美の滅多切りをくらい足元がふらつく緑毒牙に、龍牙お得意の伍連爆流星キックが見事に決まった。 「いっせぇの!」 「せっ!」 「ぐはぁ!」 掛け声と一緒に飛ばした二人同時の回し蹴りは見事鳩尾に決まり、緑毒牙の身体を後方へと吹き飛ばした。 「龍美」 「ん?」 「最後に俺と付き合ってくれないか?」 「へっ。上等。」 デッキから取り出した最後のカードを取り出し、龍牙と龍美はお互い頷き最後の仕上げに入った。 FINAL VENT 「ブラック!最後の締めだ!気合入れていくぜ!」 『言われるまでもない!』 二人を囲むように散開した後上空へ舞い上がるのにあわせ、二人は必殺キックの体制へと入った。 「「はぁ!!」」 二人同時に地面を蹴り上げ高々と跳躍する。一方緑毒牙は先ほどの二人の攻撃で避ける余力さえ残っていなかった。 「「ダブルドラゴン!!」」 二人の背後にブラックが陣取り、龍牙は右脚を、龍美は左脚を突き出し一本の巨大な槍と化す。 「愚かだな!全くもって愚かだだ!殲鬼姫様の愛を受け入れさえすれば生き残れたものを!愛を拒んだ 貴様等に残っているのは無様な破滅の未来だけだ!!愚か愚か愚か愚か!ひゃはははははははは!」 「「ライダーキック!!」」 緑毒牙の耳障りな言葉を掻き消すように、ブラックのブレスの高熱と加速の相乗効果を受けた二人の蹴りは 緑毒牙に直撃し、人の身体と心を捨てた毒の化身を跡形も残さずに焼き焦がした。 「殲鬼姫だか洗濯機か知らねぇが、他人からもらう未来で満足してる以上俺には敵わないぜ。」 「破滅の未来ねぇ。そんなもんゴメンこうむるけど、降りかかる火の粉は払いのける。でしょ?」 「まぁな。」 お互い頷きあい、二人は軽く笑いあった。しかしそれも龍牙の口から出てきた思いもよらぬ単語で終わりを迎えた。 「なぁ」 「ん?なに?」 「お前がさっきから言ってるあいつって、もしかしてサイガのことじゃねぇのか?」 「ひょっとしてお前もサイガ知ってんの?」 「いやぁ、オルフェノク繋がりでお前が言ってた臭い台詞言うあいつなんて、俺の知りうる限りじゃサイガ以外いなくってさぁ。」 あれだけのピースでよく答えを見つけられるなと思いつつ、龍美も確認を踏まえ質問を投げつけてきた。 「ってことは、あんたもサイガを狙ってるって口?」 「もってことは、ひょっとしてお前も?」 「当ったり前だろ!あいつと俺はコインの裏表みたいに切っても切れない因縁の間柄なんだからな。」 龍美の発言に、龍牙から見えない笑みが零れる。まるで新しい玩具を見つけた子供のようにさも楽しげな笑みを。 「残念だなぁ。お前みたいなのは嫌いじゃないんだが。生憎俺は独り占めって言葉が夜の晩酌より大好きでさぁ。」 「奇遇だねぇ。俺もケーキは誰にも邪魔されず一人でワンホール食べるのが好きなんだ。」 二人の瞳がフランクな悪友から本能に任せ原始的欲求を求め続ける獣に変わった。一触即発の空気が辺りに広がる。 獣は知恵があろうと所詮獣。人なら山分けという選択肢もあるが、自分の事しか考えない獣は 自分が獲物を独占し自分の食欲だけを満たす事しか考えない。考えられない。 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 二人を中心に深い静寂が包み込む。二人の耳には先ほどから激しさを増す心臓の鼓動と、空を駆け巡る 雷光の雄たけび、木々を揺らす風の音がお構い無しに入ってくる。一瞬でも隙を見せれば容赦なく付け込まれる。 だがその先の見えない静寂も、二人同時に吐き出した深いため息によって終止符が打たれる。 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」」 「やっぱやめようぜ。」 「続きはこの街の一軒を片付けてからか?」 「あぁ。」 先ほどの緑毒牙との戦いの疲労が癒えてない状態で戦えば、最悪共倒れという可能性もある。仮にどちらかが 勝っても、未だにレギオンが溢れる猛獣の織にいる以上、激戦で弱りきったどちらかが餌食になるのは確実だ。 それに本調子でもない相手と戦っても面白くない。 「なぁ?」 「ん?」 「最後に教えてくれないか?」 「何を?」 「あんたの素顔と名前。次に会うとき真っ先に再戦出来る様にさ。」 龍美の大胆不敵な挑発に一瞬あっけに取られるが、すぐに面白そうな笑みを零した。 「へぇ、そんな顔してたのか。」 「あぁ。それと名前は真一、城戸真一だ。」 ガラスのように砕けたスーツから姿を表したのは、茶色に染めた髪をロンゲで決めた整った顔立ちの同い年ほどの青年であった。 その不釣合いな獣のように鋭い眼光から覗く光は、自分と通ずる何かを感じさせた。しかもお互い変身していた時は 気付かなかったが、軽く180はあろうかという長身は、175にも届かない龍美の心を微妙にイラつかせた。 「けど、これで次に会う時は敵同士だな。」 「ま、いいんじゃぇ?俺は馴れ合いなんて趣味じゃないし。」 「言ってくれるぜ。」 真一はポケットから取り出したニコチンに火を灯そうとしたその時、龍美から今までのラフな態度を一遍させるの怒声が飛んできた。 「おい!」 「な、なんだよ?」 「俺の前で大嫌いな煙草を吸いやがって!お前が一本吸うことで二本分吸わされる羽目になるこっちの身になりやがれ!」 「わ、分かったよ。」 今までとは違う龍美の態度にたじろぎつつ、こういう煩い奴がニコチン愛好家の形見を狭くするんだよなと 心の中で呟きながら、真一は渋々ライターの火を消した。 「代わりに、ほい。」 「ん?」 ニコチンをケースに戻す真一の横から伸びた龍美の手には、チ○ルチョコと思われる一口サイズのチョコが差し出されていた。 「俺にか?」 「あぁ。俺が施しするなんてよっぽどこのことだぜー。」 「こんなんじゃニコチンの代わりにもならないけど。ま、疲れた時は甘い物がいいって言うし。」 そう言いながらもチョコを受け取り口に放り込んだ。口にチョコ独特の濃厚な甘さが広がり、真一の口を楽しませ 程よく溶けたところで食道に流しいれた。その瞬間、真一の全身からいいようの無い快感と絶叫がほとばしった。 「!!!!!!!な、なんか!かかかかかかかか身体全体が、あああああ余すとこなく、びびびび敏感にー!!」 『真一!何がどうなっている!?』 ブラックに質問されても、今の真一は全身を羽根で撫で回されるような、美女に息を吹き付けられるような 感覚をダイレクトに感じていた。今の真一には耳に息を吹きかけられただけでも悶絶し気絶してしまうだろう。 「お、おい龍美!おおお前いいい一体何を、何を食わせ、食わせやがった!!」 「なにって、ただのチ○ルチョコ・・・・・っていっけねぇ。」 海老のように仰け反り呂律が回らない真一の質問に、龍美は先ほど地面に捨てたチョコの包み紙を見て納得した。 「間違えて敏感セールスマンチョコレートエクスタシー食わせちまった。」 「それだー!」 ※ ここで説明しよう。敏感セールスマンとは、仮面ライダーリュミエール放送以前に放映されていた、主人公敏感一彦が 織り成す愛と笑いと希望に満ちた、ニューロン全快のギャグアニメである。が、余りにも放送時間を 間違えまくった内容のためPTAという日本のアニメ文化を腐らせる害虫とそれに便乗するマスゴミに 散々叩かれ僅か8話で打ち切りになってしまった幻の作品である。しかし多くのファンから復活の要望を受け、 現在深夜25:30というあるべき時間帯で大きいお友達を中心に大人気放送中である。 「いやぁ、洒落で買ったんだが食う気も使う機会もないから処理に困ってたんだけど、あんたのお陰で捨てずに済んだよ。」 「てててててめぇ!なななななんちゅうもんを食わせ!あっああああああああ!!」 反論しようにも龍美に脇腹を突っつかれるたび、真一の全身から電撃のような衝撃が走る。 「こりゃあ戦うなんて出来そうもねぇな。」 「ああああああ当たり前だ!!」 そんな中真一の絶叫に誘われたのか、レギオンの増援が二人を囲むように姿を表してきた。 「おっ、どうやら敵の増援が来たようだな。安心しなよ。あんたの分まで暴れるついでに助けてやるからさ。」 「ててててててめぇ!こここここの快感と化け物退治がすすすすすんだら確実にてめぇここここ殺すからな!!」 物騒な言葉が飛んできても、修二は寧ろ願ったり叶ったりとばかりに不敵に微笑んだ。 「結構。というか歓迎だね。サイガみたいな仲良しごっこなんかよりずっと楽しめるし。 これが片付いたら何時でも遊んであげるよ。」 「そそそそそそその言葉わわわわわ忘れんな!あっ!!あああああああああ!!!!」 こうして龍美修二は真一の骨のある獲物リスト兼、全殺しリストに加わる事となり、彩乃達が 殲鬼姫を倒すまで、レギオンの断末魔と真一の絶叫が天明市に響き渡っていった。 |
イタリアーノリク
2010年06月18日(金) 22時30分38秒 公開 ■この作品の著作権はイタリアーノリクさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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ijXD9h Thanks for sharing, this is a fantastic blog article.Really looking forward to read more. | 30点 | Bookmarking Service | ■2012-08-07 06:08:11 | 91.201.64.7 |
ぬぐぁぁぁぁあああ……ゲストとして出していただきながら、今更の感想というこの体たらく……! くずっ……ごみくずっ……人の好意を容易く踏みにじる、使い物にならないポンコツスクラップ……!! とか、福本せんせー風に懺悔も終わったのでカン・ソー。 >気になるあの子はドラゴン野郎 何だかんだで気のあってる二人、根っこが似てるんでしょうかね。 真一兄貴のような漢 IN THE 漢とうちのスイーツが同等とは思いませんが。 ……あ、物事を深く考えない辺りが似てるのか。 >ナDック星人 た、確かにw でも緑毒牙さんが毒使いって時点で、うちのスイーツにはリスキーな敵でしたね。 アーマータイプの真一兄貴がいてくれて助かりました、これがクウガとかアギトみたいな タイプだったらと思うと……うん、緑毒牙さん詰んじゃう。 >忍法痺れガスの術でござるの巻 汚いな緑毒牙さすが汚い。 今回はホントに相性悪い相手というか、明らかにうちのアホがお荷物というか。 しかもフィニッシュにはちゃっかり参加するという図々しさ、お前ライダーじゃねぇだろ!? フォローしながら戦った真一兄貴、本当にお疲れさまです。 >ニコチン あー……すいません、私も煙草嫌いなんです。 煙草の何が嫌いって、受動喫煙なんですよね。 あれはマジ勘弁……。 でわー、こんかいはー、このへんでー。 わざわざうちのアホを書いていただいてありがとうございました。 いつかお礼を……といったところで今は何もできないこの歯がゆさよ。 |
50点 | YP(Double-Action Strike formキタ、これで勝つる!) | ■2010-06-29 09:50:10 | proxy223.docomo.ne.jp |
こんにちは、そして、ごめんなさい!! クロス作品を書かせていただいるにもかかわらず感想をなかなか書けず申し訳ございません!! 今回のバトル作品は熱い!!見ていて思わず拳を握り締めたくなる熱血ぶりが大好きです。 城戸真一さんとYP様の龍美修二様のタッグバトルがすごく男らしくいかなる悪にも立ち向かっていく勇敢さや男らしさ、一つ一つのしぐさが印象的です。 今度、うちの娘の「天童慧」、それとファンガイアの頂点にして「男の娘」な「大友晶」と出会う機会がありましたらぜひとも弟子入りよろしくお願いします。 >緑毒牙 6人目のスペクター、なるほどこうして荒魔が生まれるのですね。 毒を自在に操る狙撃手タイプの戦士で、性格は残虐そのもの、しかし相手が悪すぎたようですね。それにこいつが殲鬼姫の愛を果たして受けていたのか、本当に殲鬼姫様はこいつに目をかけていたのか不思議ですね。 次回作も楽しみにしております!! |
50点 | 鴎 | ■2010-06-19 14:00:52 | 124x35x122x206.ap124.ftth.ucom.ne.jp |
合計 | 130点 |