仮面ライダー珀羅 『少女の涙と地神の玉《前編》』






子供の頃はいつも隣に澪示が居て・・・それがずっと当たり前だった


「澪示!」
「あ、燎子ちゃん」
「またこんなにやられて・・・・もう、なんでへらへらしてるの!悔しくないの!?」
「うん・・・たぶん、あんまり痛くないし」
「でも、いっつもいっつも・・・!」


あの頃から澪示は周りと違っていた

まじめで温厚だけど、どこか浮世離れした感じで・・・・・周りとの確かな隔たりがあった

子供の社会は残酷で、除け者になった奴は周りから“それなり”の扱いを受けることになる

今のあたしにも同じことが言えた・・・

ただ違ったのは澪示がまったくの無抵抗だったということ

大人しい澪示はやり返すということをせずいつもされるがままになっていた


「やっぱりおかしい・・・何でやりかえさないの?」
「僕は平気だから、大丈夫だよ」
「平気じゃないよ・・・!だって・・・・・だって・・・・あたし悔しいよ・・・!」
「お母さんがね、本当に怒ると相手もだけど自分の心もとっても痛くなるって・・・そう言ってた」
「でも・・・・!!」
「僕はそっち方がずっと嫌だし、燎子ちゃんにも怒ったり悲しんだりして欲しくないな・・・ね?」


そうやっていつも澪示は笑う

なんとなく誤魔化されている気もしたけど澪示の顔を見ていると何も言えなくなって・・・

結局あたしの方が先に折れるのが毎度のことだった


「んん・・・もういい。お家帰ろう・・・ほら、立って」
「ありがとう・・・・燎子ちゃんの手は温かいよね」
「そ、そうかな・・・?ふつうだよ、たぶん」
「ううん、とっても温かいよ」


どんなにひどいめにあっても澪示は飄々としていた

「いいよ、気にしてない」と何もなかったかのように相手を責めもしない

それが余計に鼻に触るのか・・・しだいに澪示へのいやがらせは増えていった



そしてあの日


「やめてよ!」


我慢出来なくなったあたしはそこに飛び出していた

「なんだよ、うるせーな」
「や、やめてって言ってるでしょっ!このひきょう者!」

あたしは周りの数人を押しのけて澪示の所に行こうとした
だけどあたしは本当に非力な子供で・・・澪示を助けるどころか逆にあたしが囲まれてしまった

「いたっ・・・じゃますんなよ!おい!」
「ぅっ・・ゃ、痛っ!」
「くそっ、女のくせになまえきなんだよ!」
「あっ、こいつ・・・この前チクったやつじゃねぇか!」
「余計なことしやがって・・・!」

取り囲まれたあたしは髪を引っ張られたり服を掴まれたり突き飛ばされたり・・・
何にも出来ずにただやられていたが、少しだけそれが止んだ

「うあっ!?何だっ・・!?」
「燎子ちゃん!」

澪示だった・・・・
澪示はそいつらを引きはがそうとそいつらに掴みかかっていた。

「燎子ちゃんは関係ないっ!」
「うるさい!」
「っ・・・・!」

澪示が抵抗するところを見るのは初めてだった

だけど相手は大人数居て余っていた奴も動き出し、すぐに澪示は押さえつけられる

「な、なんだよ急に・・・」
「もしかしてこいつのこと好きなんじゃねぇの?」
「あー・・・ふ〜ん、なるほどwそんならこいつやった方がいいんじゃねぇ?」
「ぅ、ぅぅ・・・・」

あたしはどうしていいか分からなかった・・・
悔しいのか怖いのか・・・いつの間にか目の端に大きな滴が出来ていた


「・・ャ・・・・・ロ・・・」

「あー?きこえ







『ヤメロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』








燎子ちゃんが泣いているのを見た時、頭の中が真っ白になった

次の瞬間から僕の中に巣くう恐ろしいものが僕の身体を勝手に動かしていた


「れ・・・澪示!!し、死んじゃうよ!!駄目っ!!」


小さな子供の体でも『逆鱗』の枷が外れた僕は、並みの大人以上の力があった

いつの間にかそこにいた子達は皆、あちこちにぐったりと倒れていた・・・


「澪示!!やめ・・・きゃぁっ!?」


狂ったように暴れる僕を燎子ちゃんが止めようと近づいた

僕の爪が燎子ちゃんの腕を掠めその小さな身体が簡単に弾き飛ばされる


「ぁ・・・・ぁぁ・・・・・・・」


傷口からは血がにじみ出ていた・・・

燎子ちゃんは大粒の涙をぽろぽろこぼしながら震えていた


「・・・ぃ・・ゃ・・・・」


ただ怯えていた・・・・

腰が抜けて動かない身体で、必死に後退って・・・・化け物でも見るかのようなそんな目で・・・・


「嫌ぁ・・・!」


声なんか聞こえないはずの僕の耳にはそのすすり泣く様な声がいつまでも重く響いていた



僕が皆とは違うことは知っていた

でも僕のことを思ってなるべく皆と同じようにさせようとしてくれる母さん達の気持ちも、子供ながらに分かっていたつもりだし・・・・・何より僕の傍にはいつも燎子ちゃんが居てくれた

それだけでよかったんだ

ただそれだけで・・・ここにずっと居続けたいと思っていた・・・・

だけどその日、気付かされた・・・・・・

僕は化け物なんだって・・・・僕が周りを傷つけ・・・燎子ちゃんを・・・・




僕は・・・・・ここに居ちゃいけなかったんだ・・・・







「れい・・・じ・・・・・?」


鋭く見開かれた金色の眼のから、滴が零れ頰を伝わって落ちていく

澪示は泣いていた・・・・あの澪示が・・・・

あたしにいつも笑いかけてくれる澪示が・・・泣いていたんだ

ジクリと胸を刺す痛みに身体の震えは止んでいた


「ッ!?ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛・・・・!!!!」


急に様子が変わって澪示が何かを警戒し始めた時、あたしの目の前には綺麗な銀色が舞っていた


「町のど真ん中で龍神の気配すると思えば・・・・・お前、顛吼の倅(せがれ)か」


あたしと澪示の間に入って来たのは巫女さんのような格好をした女の人だった

よく分からなかったけどその後ろにライオンみたいな大きい動物を二匹連れていた

「わっ!?こ、これは一大事ですねぇ・・・」
「皆酷い怪我です、早く治療しないと!」
「おい狗ども、兎魄と皎妍を連れてこい。急げよ」

女の人が言うとライオン達はすぐさまどこかへ飛んで行く

「グゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛・・・!!!!」

「そこの小娘、少し下がって・・・っ、お前は・・・!?」
「お願い・・・・・澪示を・・・澪示を助けて・・・・・!」
「・・・・・・安心しろ、元から止めてやるつもりだったさ」 
「ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
「フンッ・・・!」

突っ込んで来る澪示の腕を掴み、もう片方の手で澪示の眼を覆うようにその頭を掴んだ

すると糸が切れたように澪示は倒れ、その人が澪示を抱えていた

何が起こったか分からない・・・それくらい一瞬の出来事だった


「お前の将来がどうこう言うのは知らんが、八神(ここ)に居る内は“オレ”の氏子だからな。そのことだけは覚えておけ・・・」


その人は今度はまだ混乱していたあたしの方にやって来た


「・・・・お前も・・・・・少し眠った方がいいな」






ある日、自分のベッドで目を覚ますと前の日のことを何も覚えていなかった

今日はちょっと寝坊してしまったから急がないと学校に遅れてしまう

澪示はまだ家で待っていてくれているだろうか・・・・・

そう思いながら家を出ようとした時、お父さん達に呼び止められた



事情があって澪示は遠くに行くことになった・・・・と



話の途中で家を飛び出しあたしは澪示の家に走った

でも・・・澪示の家でも同じことをまた言われた

会わせて欲しい、声だけでも聞きたい・・・そう頼んだけど澪示のお母さんは「ごめんね」と泣き喚くあたしの頭をただ抱いた



その一言で・・・・澪示はもうあたしの手の届かない所に行ってしまったのだと分かってしまった・・・


どうしようもなく悲しくて・・・・悔しくて・・・・・一日中泣き散らした



あたしがいけなかったんだ



なんとなく・・・・・理由も分からなかったけど・・・そう思った






その後あたしは何日も学校を休んで自分の部屋に籠っていた・・・・


そんなある日・・・ふと、おじいちゃんのところに喧嘩のやり方を教わりに行こうと思った



強くなれば・・・・・・・誰にも負けないくらい・・・


ちゃんと助けられるくらいに・・・・・・


何にも怖がらずにいられるくらい、あたし自身が強くなれば・・・・・・


そしたら・・・・・きっと帰って来てくれる・・・・・


幼稚な考えだと思う・・・・でも・・・・・・・それでも・・・・・・





そう信じるしか・・・・出来なかったから・・・・・


















青嵐昇華
2010年07月11日(日) 01時55分34秒 公開
■この作品の著作権は青嵐昇華さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

約二週間、それが俺の投稿に掛ったタイムだ・・・!


おのれ、ディケイド・・・・貴様のせいで燎子ちゃんの一人称までもが破壊されてしまった!(ぉ

さてさて、今回は燎子ちゃんキャラが崩壊してしまう程にショッキングな・・・というわけでもなく、大体が今までの奴の方がポーズなのですよね。
傷つきやすいオトシゴロ!
ちなみにちみっこい頃に濠には何回か会ってるんですけど濠のことは『澪示の”お兄ちゃん”』とか呼んでたので何かこっ恥ずかしくて『ゴウさん』とちょっとカタカナ気味になってるんだ!
だから別に海賊サイド関係ないんだよ!てか、むしろ地元民はみんな漢字使うよっ!(謎

それでは後半戦(という名のいじめ、かっこわるい)へ続きますます。


この作品の感想をお寄せください。
いろいろと考えた末、“前編”と“後編”の感想は別々にして行おうと思います。そんなわけで、まずは【仮面ライダー珀羅 『少女の涙と地神の玉《前編》』 】の感想を書かせてもらいます。

まず最初にですけど、燎子さんと澪示君が幼馴染で幼い頃はいつも一緒に遊んでいた仲であったのに、いつも自分をいじめていた子ども達が燎子まで傷つけようとした時、己の中に流れる“龍神の血”が目覚め、そのいじめっ子達を瀕死の状態にしてしまった澪示君。その上大切な幼馴染である燎子まで傷つけてしまったとあったら彼自身、かなりのショックを受けても不思議ではありませんね…。……しかし、母親である湊さんにはそんな出来事が起きたということはなかった気がしますけど、これって父方の“血”が原因とみていいでしょうか?『甲武』の十二体いる“式神”の一人であり、“龍神”でもあるあの『顛吼』の息子でもあるようですし、“龍神の血”が母や伯母、叔父以上に濃い性で起きてしまった事と考えれば、確かに納得がいきます。
ある意味、大切なものを傷つけられるという“逆鱗“に触れた結果、暴走状態になってしまった澪示君。しかし、そんな彼を止めたのが現在燎子に“力”を貸している“空狐”の玉緋だったんですから正直驚きと共に納得がいきます。……この際に玉緋と出会った事は彼女本人によって忘れさせられていた燎子さん。…そして、この日を境に澪示君と会えなくなってしまい、自分がもっと強ければ彼が遠くに行く必要はなかったのではという思いから、祖父の家に行き喧嘩のやり方を教わることになり、【珀羅】の時代における彼女が出来上がってしまったわけですけど、…このような悲しい過去に正直、他になかったのかと思いました。“タイトル”における『少女の涙』というのは燎子さんの過去から感じている“悲しみ”と澪示君に対しての“想い”であることには、何かと因縁を感じてしまいます…。今後、澪示君と燎子さんの二人はどうなっていくのでしょうか?その辺りが気になってきます。

そんな感じで、“前編”の感想は以上です。
30 ■2010-07-14 11:55:01 202.242.7.42
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