仮面ライダーPIRATES epU 『放浪』 |
● あたり一面が濃い霧に覆われていた。 普通なら見晴らしの良いはずの海の上であるのにもかかわらず妙に視界が悪い。 漂って来る風は薄ら寒く、なおかつ肌に纏わりつくようなひどく不快な感じであった。 ここで命を散らした死者達が暖かさを求めて生者に群がっているのだと、そんな錯覚さえしてくる。 幽霊船調査の依頼を受けたシーサーペント一行はそれが出没するという海域に到着していた。 バイク型の半有機生命体、機海馬シーホースで偵察に行こうとキッドが海に出たまさにその時のこと。 キッド達の海賊船‐タイニーホープ‐の直ぐ脇、深い霧の中から大きな船影が姿を現した。 「オゥ、ゴーストシップのお出ましか。随分デカイな・・・」 キッド達の船とは比べ物にならない大きさ・・・それこそ客船と呼べるサイズだ。 事前情報通りレーダーにはやはり何も映っておらず、霧が濃い為に肉眼でも近づかれるまで気付くことが出来なかった。 フレッドの舵取りが速かったからよかったものの、もしこれに衝突されでもしたら一溜まりもなかっただろう。 タイニーホープはそのままある程度の間隔を保ちつつ、幽霊船に並走する。 「オーケィ、それじゃあ行こうか。頼むぜ、シーホース」 【オーケ・ボス】 キッドは合図を出すと幽霊船の死角へとシーホースを走らせた。 ○ ザザッ 「こちら甲板‐デッキ‐。キッドさんが幽霊船に入ったもようです。どーぞ」 ザザッ 『こちら操舵室‐ブリッジ‐。了解、引き続き周辺の見張りを頼む』 ザザッ 「あいあいさー!・・・どーぞ」 この船の設備ははっきり言って一般のそれに比べるとお粗末なものであった。 どれもこれも旧式で、技師のカスタマイズ(魔改造)によってようやく騙し騙し使えている程度だ。 だから外の細かい様子を探ることの出来るカメラなどはなく、より時期的で正確な情報を探るには外で誰かが見てなければならない。 それでアリアに割り当てられたのが、その仕事であった。 両手に持った双眼鏡で周りを見回し、インカム型の無線機で船内にいるフレッドへ逐一報告している。 ちなみに掛け声だが、前回の間違いを反省しきちんと改善しているようだ。 空き時間には『THE 海賊』とか『海賊徹底解析』とかそれっぽい書籍を読んで色々勉強しているらしい。本当にまじめというかなんというか・・・ 余談だが『初心者でもかんたん!海兵隊式罵り方』などと言うのもあったが、速攻で駆け付けたキッドがなんやかんやと言葉に乗せて即没シュートした。 ザザッ 「もしも〜し、こちらサラよ〜!私は連絡係、あなたは操舵手・・・・引き裂かれたあなたと私・・・あぁ・・・これが運命、仕方がないこととは言えあなたを一人にしてしまった私をどうか許してちょうだい・・・!でもどんなに離れていてもあなたと私は堅く堅く繋がっているわ!!そう、まるでこの無線の電気信号のように絶え間なく―――――――――――‐って、あら接続が・・・・」 ちなみに操舵室、「こちらサr」の辺りで既にスイッチをオフに切り変えているフレッド。 脊髄反射でスイッチを強く押し潰し、そのまま硬直して動けずに居た。 「もう、フレッドの恥ずかしがり屋さん♪」 熱烈ラブコールを無碍にされたにも関わらず、超ポジティブな解釈で捉えるサラ。 自分への励ましでも何でもなく、素でそう思ってるのだから本当に恐ろしいことだ。 「『らぶらぶ』なんですね」 「うふふふふ・・・そぉ、らぶらぶなのぉよぉ〜♪」ニヤニヤ お隣で一緒に見張りをしていたサラにアリアがそう言って微笑みかけると、妄想域に片足突っ込み掛けた状態のサラが幸せそうにでれぇ、っと溶けてしまいそうなくらいニヤける。 というか既に溶けているかもしれない、脳細胞あたりが特に。 「そう言えば、お二人はどこでどういうふうに知り合ったんですか?」 「えぇえ知りたぁ〜い?」ニヤニヤ 「はいっ!」 アリアの認識ではサラは大人の女性でありバリバリの『情報屋さん』、『お医者さま』、そして・・・・と、とにかく凄い人になってしまっていた。 きっと恋愛に関しても自分なんかにはとても想像出来ないような、それはそれは素晴らしい恋をしているに違いないと・・・ 田舎の小さな村育ちでまだ恋の一つもしたことのないアリアだ。 そういうのには大変興味があり、元々勉強家なところもあって本当にいい食い付きを見せた。 アリアの反応の良さからサラもますます気分上々で、微妙にトリップ入ったまま惚気話を始める。 「あぁぁ、そう・・あれは忘れもしない私の12歳のたn『ドンッ』あら・・・?」 突然、大きな物音がして船が少し揺れた。 「?・・・何ですかねこの音?」 「残念・・・・お話はまた今度。アリアちゃん、危ないから下がっていてね」 「わ、わかりました・・・!」 どうやらお花畑から帰って来たようで、しっかりとした足取りで前に出るサラ。 移動中の打ち合わせでサラの最後の役職を聞いていたアリアはこれからの展開をすぐに理解した。 邪魔になっては大変と慌てて入口の辺りまでアリアが下がると、それ見届けたサラはもの音のした床の上に視線を向ける。 幽霊船を目撃した船は、姿の見えない何かに襲われ“中身”を奪われている。 つまり幽霊船の姿を見たこの船が次なるターゲットであることは明らかだった。 さらに続いて『ドタドタドタ…』と複数のもの音。 やはり姿は見えないが、多くの視線とざわざわとした様子・・・・何かが居るのは間違いない。 彼女が海賊の出向かなければならないような危険な場所に同行するのには理由があった。 一つは愛して止まないフレッドの傍に一分一秒でも居る為・・・そしてもう一つ。 それはキッドが居ない間、『海賊』として見えない敵から船を・・・引いては大事な船の“中身”を守る為だ。 サラは肩に提げたおしゃれなポシェットから黄金のドクロのレリーフと歪んだ星のエンブレムが刻まれた金貨を取り出した。 「じゃ、行きましょうか」 レリーフを手に取った瞬間、腰に現れる不思議な輝きを持った鋼のベルト。 その中央の窪みにドクロがはめ込まれるとガシャン、とその顎が展開される。 サラは【海星-ヒュドラ‐】の金貨をドクロに噛ませ、その顎を一気に押し上げた。 「変身っ!」 アストラル、星の意匠が施された美しいゴールデンイエローの鎧。 纏った輝きは時に人を正しく導き、そして時にその瘴気で惑わせる、星のそれによく似ていた。 煌びやかさの中にも底知れぬ危険な毒を宿した、その仮面の海賊の名は【スピカ】。 「どこの誰だか知らないけど・・・私のフレッドは渡さないわ!!!」 ● 「オゥ、流石に広いな・・・迷子になっちまいそうだぜ」 幽霊船のデッキに降りたキッドは滑り込むように内部へ侵入して中を歩き回っていた。 船内は非常に暗い・・・明りをつけて見ようかとスイッチを弄っても電気が回っていないのか照明はうんともすんとも言わない。 やれやれと肩を竦めると、キッドは収納力に定評のあるコートの内ポケットをごそごそ漁り、 それでなんとか調査に取り掛かれているのだが、この長い廊下を一人で調べて回るのも一苦労だ。 ちなみにシーホースだが呼べばすぐ来るため、キッドを送った後は見つからないように海に潜っている。 「・・・・・・・・」 「ん?」 そのまま船内をうろついていると、パーティーホールのような広い場所に出たキッド。 控え目にライトを向けるとホールの中心にぽつんと佇んでいる人影があった。 (さぁて、どうするかね・・・・) これが本当に民間の船を襲った幽霊船で、乗員が害意をもった者達であると断言できたならば、この状況はあまりよろしくないが・・・今はあくまでまだ調査の段階だ。 とりあえず接触してみるのも手ではあるとキッドは人影の方に歩いて行った。 「ヘイ、そこのアンタ。ちょっと聞きた・・・」 「・・・・お前は・・・・」 「ん?」 尋ねるのが速いか否か、男はこちらに振り向きその口を開いた。 「・・・お前は、俺を知っているか?」 「は・・・?何だって?」 呟くような静かな調子で男はもう一度言った。 「俺のことを知っているか?」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「オーケィ」 これは絶対に面倒になる、海賊の勘がそう告げていた。 「オレはアンタのことは何も知らない。残念ながら、な」 直接ライトを当てて凝視する訳にもいかないので良くは分からないのだが・・・ どうやら男は黒尽くめの厳つい服装で、これまた厳ついサングラスを掛けているようだった。 これが怪しくないはずがなく、キッドとしては相手が欲しい情報を渡し、早々にこの場を立ち去りたかった。 何かこう、“嫌〜な予感”がひしひしとするのだ。キッドの勘は割とよくあたるので馬鹿には出来ない。 「・・・・そうか」 声は調子こそ変わらないが男は落胆した様子だった。 しかし知らないものはしょうがない、そうキッドは踵を返して後ろ手を振る。 「それじゃあな、ブラックガイ」 「・・が・・・・?ぅ、っっッ!?ぐっ、グぁッ!!?」 「っ、おい・・・どうした?」 頭を押さえて悲痛な呻きを上げる黒い男。 男の変化にキッドは思わず足を止め、後ろを振り向く。 「か、海・・・・ダ、ブルアー・ル・・・被・・白・・さ・・・・ぅ、何だこの言葉は・・・!?今何をした!!?」 「オゥ・・・やっちまったな。何だか知らないが見事に地雷踏んじまったぜ」 「答えろ!!!!」 「そう言われてもなぁ・・・・っ、と、オゥ・・・」 更に面倒なことを発見、今し方確認出来たことだが男の腰部にはドクロのレリーフが・・・ 自分達、海賊‐パイレーツライダー‐の象徴とも言えるそれが、ギラギラと睨みを利かせていた。 「なるほど、アンタが例のゴーストだったというわけだ」 「ゴースト・・・?」 「アンタの通り名ってとこかな。俺が知ってるのはホントにそのくらいなんだがね・・・」 「ふざけるな・・・!!吐いてもらうぞ!!全て!!!」 ガシャン!!!! 男、ゴーストが銅(アカガネ)のドクロへ、翼竜のエンブレムが刻まれた銅貨を噛ませる。 するとベルトから赤黒い邪悪なオーラが発せられ、ゴーストの身体を暗黒色の装甲が覆った。 ドラゴン・・もしくはデーモンのそれを思わせる禍々しい翼をもった仮面の戦士は昂りを露わに雄叫びを上げた。 「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」 「おいおい、張り切り過ぎだっての・・・そんじゃ、オレも行こうか」 そう言いつつキッドはコートを払い、ベルトの金(コガネ)のドクロを晒す。 懐から【海竜-シードラゴン-】の金貨を取り出すとドクロに噛ませて高らかに叫んだ。 「ヘンシン!!」 ベルトから深青の眩い光が溢れだし、キッドの身体を覆う。 竜の鱗のように堅く身を覆ったディープブルーの装甲。 その力を誇示しているかのような額と兜の角飾、牙をあしらったショルダーガード。 冒険者のような勇ましさと騎士のような風格を兼ね備えた、その仮面の海賊の名は【レイヴァン】。 レイヴァンはベルトの両サイドからサーベルとライフルを引き抜き、ライフルの銃口をゴーストへと向けた。 「オーケィ、ショータイムだ!!」 □ あー、ちきしょう・・・もう何週間だ? こんなとこに回すなんてディーノの親分もヒトが、いやラプターが悪いぜ・・・ 周りが塩水だらけとか陸生まれの俺らには辛すぎるんだよこの環境。 あと最悪なのが船酔い、これマジなんとかなんねぇの?死にそうだぜまったく・・ なんでこんな塩水の溜まり場にご執心なのかねぇウチの親分様はよぉ・・・とか、本人には絶対言えねぇよなぁぶっ殺されちまうし。 つーか、ここなんだよここ・・・霧に隠れて昼も夜もあったもんじゃねぇ。 人払いが仕事っても・・・肝心のアイツらは中で何やってんだよ? 暗い狭い部屋に籠りっきりで何週間もカチカチカチカチと俺らには考えられねぇな、どうかしてるぜ。 俺らカメレオンも中々珍しいが・・アイツらも見ねぇタイプだったな。 ありゃなんだろうなスネーク型の派生か?護衛でやって来たって言う姉ちゃんも。 しっかし、あの姉ちゃんベッピンだけど超おっかなかったなぁ・・・・ 他の奴らはこう雰囲気が薄気味が悪りぃというか・・・マジ何やってんだ・・・? ・・・・・・・ やめよう・・・・頭使うと腹が減る・・・ 最近じゃ通りがかる船も少なくなってロクなもんが喰えねぇからなぁ。 この分だと今日も釣りかぁ・・・俺魚嫌いなんだよなぁ、小骨取るのがメンドクセぇし。 ん?おっ・・・?おぉぉおおお!! ありゃ船じゃねぇか、何日ぶりのカモだこいつは!? おい、テメェら!!船だ!!久しぶりに肉が食えるかもしれねぇぞ!! よし、ついてこい!!食い物漁りに行くぞゴラァ!! ・・・・・・・ って、馬鹿だろテメェら・・・ナニ全員降りて来てんだよ。 誰が後から引っぱり上げるんだよ!?馬鹿なの死ぬの!? え?肉の誘惑に敵わなかったって顔してるだろ?だって? 知るか!!てか顔見えねぇじゃねぇか・・・ ・・・なんで全員来たのが分かったかって?音、数えりゃわかんだろ。 感心してんじゃねぇよ馬鹿ども!! あぁ、もう・・・何だこの船、よくみりゃあ小せぇしぼろっちいじゃねぇか。 うわぁ、この分だと中身も相当シケてんだろうな・・・クソ、まぁあるだけ全部持ってくか・・・ とりあえず何人かで中に・・痛っ!?テメェどこ見てやがんだ!! え?見えないって・・・・しまった、こんな大人数で来たら身動きが取れねぇ!? 狭い!!狭いんだよこの船!! あ・・・?なんだあの姉ちゃん?なんか急に光って・・・・ ○ バシュッ!!! 「あばばばばばばっ!?!?!??」バチバチッ!! 美しい粒子の尾を描いて流星の如く飛びこんだ光弾が何かにぶつかり激しい光を上げた。 光が収まると、黒コゲになった何かがぷすぷす煙を上げながら海へと落ちていく。 「やっぱり、仕掛け人はラプターだったのね」 まぁ予想通りね、とボーガンのようなものを構えたスピカがごちた。 大戦中、ヒトがヒトを狩る為に作りだした頑強な兵隊。 多くのラプターは他の生物に追随を許さない身体能力と鋭利な牙や爪、岩のように硬い外装を持っていて、まるでモンスターのような姿をしている。 特別製造された上級ラプターには、自らの細胞を操作し人に擬態出来る者もいるが・・・今回のは広く出回っている怪人タイプのようだ。 「か、頭がやられた!?何だ!!??あいつ何か撃ってきやがっぁばばばばばばば!?!??!」 「嘘だろ・・まっ、まさかオレ達が見えてやがるのか!?!?」 「やばっ、こっち来・・っ!いって、何だこれ・・・」 「ひゃっ!?どこ触ってやがる!?」 「うげぇ、気持ち悪ぃ声出してんじゃ・・・ぽぺぇっ!?!?!?!?」 カメレオンラプターは戦後に秘密裏に開発された特殊タイプで、姿を透明にすることが出来た。 物体の透明化はこの世界では研究途中の最先端技術であるが・・・その透明化を積んだカメレオン、実際には「あたい達ったら最強ね!」と言う訳ではなかった。 変化専用の特別な細胞を使っているので力は一般人か下手したらそれより弱いし、脳細胞の殆どが変化調整の為に使われている為知力も並のより低い。 それに莫大なエネルギーを消費するので透明化出来るのも持って数分と・・・戦闘員としてはとても残念な出来なのである。 船を襲うつもりが逆に反撃を受けると言う不測の事態に大慌てのカメレオン達。 一番の不幸だったのは、まだ幾分か知恵のあったリーダーが真っ先にやられてしまったことだった。 統率力を欠いたカメレオン達に連携など取れるはずもなく、勝手気ままに逃げようとするが狭い甲板・・・お互い姿が見えない(←透明化解くという考えも無い)為思うように動けていない。 そこにスピカの放つ光の矢が次々と来襲して行った。 「ぜんぜん見えないけど、結構いるのね」 スピカの持った電磁ボーガン、スターボゥランチャーは今、弓がたたまれライフルのように変形されている。 ランチャーには弓の展開した長距離射撃に適した直射モードと、弓をたたんだ追尾モードがある。 追尾モードは放たれた電光が目標の持つ生体電気に反応し、敵を追い掛けて射るという便利な形態だ。 直射の長射程に比べ数十メートルと弾の寿命は短いが、これだけ近ければ全ての相手は射程内に入っている。 「う〜ん、ちょっとズルかったかしら?」 スピカは引き金を休むことなく引き続ける。いくら姿が見えなくても“当たればどうということもない”。 バシュッ、バシュッ、と一発ずつ光弾は飛んで行き、もれなくラプターを仕留めていった。 ちなみに低出力で打ち出しているため、当たっても即あの世行きなんてことなかったが、全身麻痺でしばらくは指の一本も動かせなくなる。 弾は一発一発が重く、ひょろっちいカメレオンは吹き飛ばされたりよろめいたりして海へと落ちているのだが・・・ご愁傷さまと思いつつもやっぱり手は休めないサラ。(ちなみに彼女は筋金入りのカナヅチ) そのうち間に船の弾は誘導効果がなくなり、船上からラプターは全ていなくなっていた。 「はい、お終いね」 「こちら甲板、船に落ちてきたラプターはサラさんがやつけてくれました。どーぞ」 『分かった。また取りつかれないようとりあえず間隔を・・・何だ、ちょっと待っててくれ』 「あら・・・」 奥に隠れていたアリアがフレッドに報告しているとサラはこちらに近づいてくる一隻の船を発見した。 まだそれなりに距離がある、ジャキッとサラはランチャーの弓を展開し直射に切り変える。 「怪しいわね、ここは一発大きいのを『待て!!!!』」 サラのインカムと船のスピーカーからフレッドの焦った声が聞こえて来る。 「はあぁん、ようやく声が聞けたわぁ♪いいわ!あなたがさせたいならマテでもお手でもち『ダマレ、フセ』きゃわんっ♪」スタッ 『はぁ・・・今信号が届いた。これから向こうと連絡を取るから絶対攻撃するなよ・・』 それから暫くして、タイニーホープはその船の方に寄って行った。 近くで見るとそれはしっかりした造りのえらく立派な船だった。 「わぁ・・すごい船ですね・・・」 「そうねぇ。どこの船かしら?」 「あ、横の方に何か書いてありますよ」 「ホント、見たことのある文字だわ。確か東国の・・・」 ● 「オオオオオオオオ!!」 「っ、と危ないな」 飛翔したゴーストが天井を蹴り、レイヴァン目がけて急降下してくる。 それを転がって避けると、回転の勢いを利用して跳ね起きたレイヴァンはバックステップで距離を開けながら右手に持ったショートライフル‐レイバスター‐の引き金を引きゴーストに銃弾の雨を浴びせた。 「ォオオオオオオオオオ!!!」 「タフだねぇ・・・まったく」 弾でレイヴァンの位置を知るとゴーストは構わずその弾丸の中を真っ直ぐ突っ込んで来る。 鎧の頑丈さを信頼してのことか、それともただ感情のままに動いているだけなのか・・・ いずれにしてもゴーストの戦い方は嵐や暴風のように激しくも荒々しいもので、それだけに無駄や隙が多く見受けられた。 「そうがっつくなよ、バーサークドラゴン。しつこい男は嫌われるぜ?」 相手に合わせて戦いのスタイルを変えるのはキッドの得意とする所だ。 飛び道具のないゴーストは距離を詰めて長さの違う二振りの刀で乱暴に斬りかかって来るが、そこで簡単に組み付かせてやるほどキッドはお人よしではない。 右手の銃で牽制、攻撃しながら距離を保ち、近付かれたら左逆手に構えたサーベルで往なし、また攻撃しながら距離を開ける。これを器用に繰り返し、徐々にゴーストにダメージを与えて行った。 サイクルも出来上がり勝ちは見えた・・・キッドがそう思い始めた矢先のこと。 ゴーストが更に激しく、空気を裂かんばかりに咆哮を上げた。 「グッ、グゥオォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」 「なっ・・・・!?」 血褐色の暗い光がゴーストから発せられた瞬間、そのスピードが急に跳ね上がった。 黒い弾丸と化したゴーストはレイヴァンとの距離を一気に詰め両手の双刀を挟み込むように振るう。 レイヴァンはとっさにサーベルで受け止めようとするが凄まじい腕力で押し込まれる双刀に食い止める間もなく弾かれる。 ザシュッ!! 「ぐぁっ!?」 レイヴァンは双刀の斬撃を喰らいホールの端へと派手に吹き飛ばされた。 双刀の刃は斬るというより削(殺)ぐことに徹底された荒い造りで、レイヴァンも斬り口の周りをゴッソリ持って行かれた。 パイレーツライダーの装甲でなければ・・・例えそれがラプターであったとしてもぐちゃぐちゃのミンチになっていただろう。 「ぅ・・・ったぁ、一張羅が台無しだぜ。それが奥の手ってヤツかい・・?」 傷ついたサーベルを支えにレイヴァンが立ちあがる。 更に勢いを増し襲い掛かって来るゴーストを見て、黄金のドクロに手を置いた。 「オーケィ、それならこっちもカードを切ろうか・・・!!」 レイヴァンは慣れた手つきでコインを外し、瞬時に裏返してはめ直した。 「ターンアップ!!」キィン!! コインが弾けるような高い音が鳴るとレイヴァンの装甲が一瞬浮かび上がり破損した箇所を含む大部分が弾け飛ぶ。 コインに裏表があるよう、海賊には基本形態と違うもう一つの姿、リバース形態がある。 レイヴァンのリバース形態、必要最低限を残して大部分の装甲を破棄するこの【ダイバーフォーム】は防御力を犠牲にする代わりにある一点にアドバンテージを集中させる特殊フォームだった。 その一点とは・・・・ 「行くぜ・・・イントゥ・ダイブ!!・・・・っ――――――――‐」 大きく息を吸い込みレイヴァンが姿勢を落とした次の瞬間、レイヴァンの姿がふっと消え・・・ 「ガァッ!!?」 突っ込んで来たはずのゴーストが宙を舞っていた。 右に、左に、上に、下に・・・まるで何かに弾かれているようなかのような動きだ。 ダイバーフォームの特性とは光学迷彩などで姿を消すものではない。 誰にも認識出来ないような速度を・・・時間の波に潜り込み、その最適な流れに乗ることで、他を圧倒する超高速の動きを作り出すのだ。 弾丸より速い動きでサーベレイバーを振るうレイヴァン、剥き出しとなった海竜の牙が幽霊に逃げ場を与えることなく攻め続ける。 ガキィン!! (何・・・・!?) 「グォオオオオオオオオ!!!!」 完全に波に乗っていたはずのレイヴァンだが、思わぬアクシデントが発生した。 ゴーストはレイヴァンの斬撃に耐えるだけではなく、数十回めにしてそれを弾いて見せた。 さらに、瞬間的に動きの止まったレイヴァンをゴーストの双刀が襲う。 これはすぐさま回避するが、レイヴァン・・・キッドの驚きは小さくなかった。 (おいおい・・・コイツは人間か?) 若干ではあるがダイバーフォームは腕力が落ちる為、与える一撃一撃の威力は下がる。 それでもこれだけの攻撃を受けたのにもかかわらず倒れる気配もなし、さらにあのスピード慣れ対応してくるなど何から何までがデタラメだ。 決して心から余裕が消え去ったわけではないが、本当に厄介だキッドは舌打ちを一つ。 ダイバーフォームにはある制限がある。 それは時間の流れに潜っている間、キッドは呼吸が出来ないというものだった。 一度出て再び潜り直すというのは大変危険で難しく、失敗すれば時間に押し戻され反動で変身が解けてしまうというデメリットもある。 だからどうしてもあと数分・・いや数十秒の内にケリを付けなければならない。 (そろそろ決めないとまず・・・・・・・ん?) 「ッ!?!??!?ウぐゥァ!?グっ・・うぅ・・・!?」 どうしたことか、突然ゴーストの動きが鈍くなり頭を押さえ苦しみ出した。 怨霊のように周りを漂っていたどす黒いオーラはしだいに弱くなっていき、それが消え去ると同時にゴーストは脱力したように膝をつく。 「ぷはぁっ」 ゴーストの様子に時間の波から上がったレイヴァンは基本フォームに戻りその様子をじっと見る。 先ほどまでの昂りや激しさが嘘のようにゴーストは静かになった。 「・・・・・・・・」 「いきなりどうした・・・?」 「っ!!」 「な・・・・・・っ、おっとこりゃまずい。おい、待ちなって!」 声を掛けると弾かれるように動き出したゴーストはホールの壁を付き破って何処かへ去って行った。 とっさのことで反応が遅れるもレイヴァンもそれを追い入り組んだ廊下に入る。 ● 「っ・・・何だこの感じは・・・・・」 「おっと、ようやく見つかったな」 「むっ・・・・?」 「オーケィ、ここは行き止まりだぜ・・・?」 狭い廊下を当てもなく走っていると右目を押さえて立ち止まる青年を見つけた。 (・・・・・・ゴースト、だよな?) 暗がりでよくわからないが微妙にさっき会った時と印象が異なっている気がする。 どういうことかはわからなかったが、また逃げられては敵わないとキッドは青年に歩み寄っていく。 「さぁ、観念しな、ミスター・ゴースト。巷の噂じゃ無害って話だったが、現に襲われたんじゃな」 「む・・・ゴースト?襲ったとはどういう・・」 「おいおい、先に仕掛けて来といてそれはないんじゃないか?」 「待て、いったい何を言ってるんだ?」 「まだとぼけんのかい?・・・悪いが捕まえさせてもらうぜ。それともセカンドラウンドと行くかい?」 「話を聞かない奴だな・・・仕方がない」 青年は黄金のドクロのレリーフを取り出すとベルトに嵌めこむ。 そして更に取り出した【海翼‐ケートス‐】の金貨をドクロに噛ませた。 「変身!!」 ベルトから発せられた眩い碧色の光が青年を包む。 レイヴァンが流線型の海竜であれば、それは力強い翼竜のフォルム。 鱗のような堅い装甲に包まれた手甲を始めとした鎧、背中には畳まれた翼、腰帯びに下げられた業物の剣。 荘厳な侍、あるいは武人のような雄々しさを持った、その仮面の海賊の名は・・・ 『仮面ライダーカトラス、推参!!』 「おいおい、後出しなのにキメてくれるなよ。こっちの立つ瀬がないじゃないか」 軽口を叩きながらサーベルを引き抜くレイヴァン、狭い廊下をカトラス目掛けて突っ込んで行く。 対するカトラスも刃の両側に付いた剣を抜きこれを迎え撃つ。 ギンッ!!!! 互いの刃が跳ね、数度に渡る刃の打ち付け合いになる。 そのうちサーベルとブレードがギリギリと音を立てて鍔競り合いになった。 「ったく、男にアタックするのは趣味じゃないんだがな・・・!!」 「意味の分からないことをごちゃごちゃと・・・!!」 「オレにはさっきの質問の方が意味不明だったぜ?」 「だから・・・何の話だ!」 (やっぱりさっきと雰囲気違うな・・・・・ん?) ふとキッドは気がついたことがあった。 「・・・カラーリングはいつの間に変えたんだ?」 「む、色だと?」 「真っ黒だっただろ?」 「この鎧は元からこういう色で、お前と会ったのも今が初めてだ・・!!」 「・・・・・・・・・・・・」 「オーケィ」 これはマズった、そうキッドは(ry 「ソーリィ、ミスター。どうやら人違いだったらしい」 「・・・・・・・おい」 ● ゴウ・キリシマ【霧島濠】、それが青年の名前だった。 東国にある島国、タカマガハラからやって来たという彼はキッドと同じくパイレーツライダーで、やはり海賊業を生業としていた。 例の素敵に営業妨害な同業者、前回の町で足止めを喰らわされた原因である。 海賊同士行動パターンが似ているのか・・・今回も今回で見事にバッティングし、民間の依頼で幽霊船の調査にやって来たようだ。 「さっきは悪かったな、ミスター・ゴウ。」 「・・・別にいい、普通に話せ」 「さぁてね、あいにくこれが普通なのさ。まぁ、気にするなよ」 「・・・・・・・」 調査するなら人手は多いに越したことはないと二人は一緒に行動していた。 キッドのフランク過ぎる感じに、「本当に悪いと思っているのかこいつは・・・」と半ば呆れていたが、悪友の影響か・・・こういういい加減なノリにも耐性が出来てしまっていた為、暫くすれば濠も気にならなくなった。 「妙だな、静か過ぎる。この船にはまるで人の居る気配がしない・・・」 「確かに、もうちょっと歓迎されてもよさそうなもんだが」 さきほど端末で確認し、サラがタイニーホープを襲ったラプターを返り討ちにしたという報告を聞いたが、まさかこれだけ大きな船なのに船員がそれだけであったはずがない。 「やれやれ・・・ドンパチや追いかけっこやってる間に逃げられちまったか?」 「逃げたとしても引き際が良すぎる・・・普通もう少しは抵抗するはずだ」 「フッ、ジジィのとこだったらイジメ過ぎて嫌われちまったのかもな」 勝ち誇ったように言うキッド、相手がそうであるようにキッドもそいつが相当嫌いだった。 そうこう喋りながらでも足を動かし手を動かし、色々調べて回ったが特に収穫もないまま、二人はある部屋に入った。 何に使うか分からないような大きな機器がいくつも並んでいたがその全てが壊され煙を吹いている。 「オゥ・・・こんなにボロボロだとランディに調べて貰うのも無理そうだな」 「これだけの機材を使って何を・・・」 「さぁな。まぁ、何かヤバ・・・」 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!! 「爆発っ!?この方向・・・まずい、燃料タンクの方だ!」 「船ごと破棄か、ホントにヤバイことやってたみたいだな」 キッドは端末でフレッドに連絡を入れ、直ぐ幽霊船から離れるように指示をだす。 「オレ達も下がるぞミスター。カモン!シーホース!!」 「退くしかないか・・・真空!!」 壁を破って二台のマシンが現れ二人の前に並んで止まる。 マシンに乗って脱出した二人は幽霊船が真っ二つに折れ、沈んで行く所を見届けた。 ○ 「私がこの船の主、白沢湶だ。ようこそ大竜宮‐オオタツミヤ‐へ」 「海賊船タイニーホープ号船長、キール・D・コーストです。お招きいただき光栄でございます、プリンセス・イズミ」 幽霊船から帰ったキッド、タイニーホープに戻って見るとフレッドが何やら張り切っていた。 話しを聞くにあちらさんの船、つまりは霧島濠の乗って来た海賊船に招待されたらしい。 普通はキャプテンだけで向かう所だが、商売敵との会談にキッド(←ぼんくら社長)だけ行かせる訳にはいかないとフレッドも同行することになり、そしたらサラもついて来ることになり・・・結局、アリアに留守番を頼んで三人で行くことになった。 相手の責任者は東にある島国、≪高き天の原‐タカマガハラ‐≫の将軍家、白沢の姫君だ。 超えらい人、しかも希に見る美人ということで久々のキッド節が唸る。 「しかしお美しいオトヒメに竜宮とは・・・東国のファンタジーに迷い込んだのかと思いました」 「キール殿は世辞が上手いな」 「真のことでございます、プリンセス。そして・・・どうぞ私のことはキッドとお呼び下さい」 恭しい態度で礼をすると、その白魚のような指を取り手の甲に口づけをしようとするキッド。 だが、背中を串刺しにするような鋭い視線の痛みに耐えられず後ろを振り返って抗議する。 「ぅ・・おいおい、そんなに睨むなよミスター。眼帯だから余計コワいんだが?」 「濠、この程度のことで目くじらを立ててはいけないぞ」 「む、だが湶のことは義父上からも託っているし・・・」 「あぁ、父上は心配性だからな。だがそれでお前が神経質になることは・・・」 口では構わなくていいぞ、と言っているが気にかけて貰っているのは満更でもなさそうな姫様。 何と言うか二人とも非常に仲睦まじい様子だ。 流石にこういう姿を見せつけられればそこで押していくほどキッドも外道ではなかった。 「ソーリィ、まさかミスター達が「「義“姉弟”だが」」オゥ、そうなのかい」 要らぬ勘ぐりと釘を刺す二人、実に息ぴったり。義ではなく姉弟を押すあたりが何とも・・・ それと同時に、フリーの可能性が出てちょっとガッツポーズのキッド。 「イズミさん!!先ほどの約束を・・・・!!!」 「オゥ、燃えてるなサブキャプテン」 分厚い手帳を片手にキッドを押しのけるように、出て行くフレッド。 実は最初に通信した時に、同業者間での情報交換を交渉していたのだ。 もう二度とバッティングなどするものかと鬼気迫るご様子の経営マン。 「今後の予定や今までの報告書も参考にしたいのだったな。少し量がある、資料室まで来てくれ」 「ええ、どこにでも行きましょうとも!」 「え・・・ま、まさか、フレッド東洋系が好・・・はっ!!違うわ・・・まってサラ、よく考えて・・・相手はお姫さまよ、すなわちお金持ち!!経営難で焦ったフレッドは・・・借りたお金のカタに色々要求されて・・・・あぁ、やめて!!私がどうにかしますから・・・・彼の純情だけは・・!!」 始まる例のアレ。 「む、む・・・??アルフレッド殿、彼女はいったいどうされたのだ?」 「アレハオキニナサラズ。ア、コレミミセンデス。ドウゾ」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 フレッド達がスケジュール調整などをしている間、キッドと濠は甲板に出て世間話をしていた。 話と言ってもキッドが色々聞いてくるのに対し濠が答えるだけ。 そして質問はやれ湶とは実際どうなのかとか、それなら好みのタイプはどんなのだとか、何かえらく世俗的だったが・・・・いつの間にか180度回転してとても真面目な話しになっていた。 「へぇ・・・それで、パイレーツライダーにね」 ある理由で郷に帰れなくなった濠は流れ流れに彷徨っている内に意識を失い、気が付けば白沢の城で湶やそのお付きに介抱されていたらしい。 今は亡き白沢の若君に瓜二つであった濠は周りからも甚く気に入られ、目覚めた後も城に留まるように勧められた。 そしてある時、濠は湶から弟の遺した【カトラス】の鎧を使ってくれないかと頼まれたそうだ。 白沢家はやはり先の大戦の英雄の一族で、代々その力を使い世を治めて来たが・・・ 数年前、前代のカトラスであった若君はタカマガハラを襲った大竜巻を治めるという偉業を成すと同時にその竜巻に呑まれて姿を消した。 鎧は大破してベルトと金貨の状態で浜辺に打ち上げられていたのを専属の技師が修復した。 本来ならば若君の形見であり将軍家の宝である、鎧を他の誰かに渡すことは考えられなかったが・・・たくさんの人々を救えるはずの力をここで眠らせたままにしておくことも出来ない。 濠ならばあるいはその力を正しく使ってくれるのではないか、そう考えた湶は濠に鎧を託した。 それで世をよくしたいという湶の意思に同調し、白沢への恩返しも込めて濠は海賊として動いているのだそうだ。 「中々ビッグスケールだな、ミスター。なんかヒーローものの主役みたいじゃないか」 「む、妙な風に茶化すな・・・」 「別に茶化しちゃないさ、オレはそういうの嫌いじゃないぜ?」 実際、海賊シーサーペントのモットーも“人助け”である。 「でもまぁ、あんまり思いつめてカチカチにならないようにな。ミスターは何かまじめそうだし」 「む・・・・・」 「一応あと三人知ってるが、海賊と言ったってみんな結構好きにやってんだぜ?セオリーなんかないんだから、ミスターもやりたいようにやればいいさ」 そう言うキッドの調子はやはり軽いものであったが、眼だけはしっかりと濠を向いていた 「先輩からのアドバイスってな・・・・じゃ、オレはそろそろ戻るかね」 「キール、だったな。縁があればいずれまた」 「フッ、案外近い内に会う気がするな。ウチの副長が泣くかもしれないが」 ● 「〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・」 「っと、と・・・」 シーホースで一足先に船に戻ったキッドが甲板に上がるとアリアが歌っていた。 一緒の船で生活しているとよくアリアの歌を聞く機会はあるのだが、その歌はどこかいつもと調子が違った。 美しい旋律で包み込むような暖かさを持っているが・・・どこか寂しい、不思議な感じがした。 「ぁ・・・キッドさん、おかえりなさい」 「あ、あぁ・・・ソーリィ、邪魔しちまったようだな」 「いえ、気にしないでください」 ちょっと気まずそうに頬を掻くキッド。 アリアは少々恥ずかしそうに笑っていた。 「あんまり聞かないメロディだったが、今のは?」 「たぶん・・・弔いの歌だと思います」 「レクイエム・・・・か」 「ここでたくさん亡くなったと聞いたら・・・何か私にしてあげられることはないかなって・・・」 「・・そうかい・・・・」 自分達海賊は失われないよう守ることは出来ても既に失ったものはどうすることも出来ない。 だが・・・失ったもの、亡くしたもののことを忘れていいとは決してキッドも思わなかった。 「アンコール、所望しても?」 アリアは微笑みながら頷くと再び大海原を向いた。 「っ――――――――――−」 雷鳴に消えた叫びは 今そよ風の子守唄となって 紅き雨に濡れた瞳 乾きて希望の色を宿した 水面-みなも-に写る貴き光 星の海へ還ったひとよ あなたの描く方舟は 新たな時へと渡す軌跡に 導いて 大いなる海神-はは-の元へ 抱擁を与えて どうか深き優しさに包み込んで 今は その子らに安らかな眠りを ■ ある屋敷の奥にワインレッドの髪、頬に深い傷跡のある獣のような目をした男が居た。 ガシャンッッ!!!!!! 男は豪快に酒をかっ喰らうと空になった瓶を乱暴に投げ捨てる。 「どいつもこいつも!!使えねぇ!!」 男の名はディーノ、各大陸に根を張る大マフィア、サラマンダーの首領(ドン)である。 最初期に生み出されたラプターで、大戦時から今日まで生き残って来た強者だ。 だが、そんなディーノも海賊には再三にわたって煮え湯を飲まされ続けていた。 今回も部下の失態の報告を受け、不機嫌の程も最高潮になっていた。 別の手下がこの場に入って来たら間違いなくヤツ当たりで全殺しにされるだろう。 そんな中、ノックも無しに部屋のドアが開かれる。 「入るわよ」 「ア゛ァ゛・・・!!!?」 「あら、怖い顔」 入って来たのはダークグレーの髪をハーフアップ纏めた白衣の女。 女は対して恐れた様子もなく、ディーノに近付いて行く。 「レティか・・・何の用だ?」 「荒れてるわね、少し飲み過ぎよ。あの子達は戦闘向きじゃないから仕方ないわ」 「・・・わざわざ皮肉言いに来たんじゃねぇだろ。要件を言いやがれ」 「相変わらずツレないわねぇ・・・海底から反応があったわ」 「何・・・?」 「ウチの子達が帰って来る途中に拾った信号、さっき解析が済んだの。・・・ボウヤのとこにいるのかもね、アレ」 ようやく探し物を見つけたかも、とレティは妖艶に微笑んでいた。 「チッ・・・またあのガキか・・・!!」 「そうねぇ・・・確かに、あんなナイト様がついているなら手が出し辛いわね」 「01・・・“スレイヤ”だったか、あいつも役に立たなかったそうだな」 「あら、いいデータが取れたわよ?特にオーバードライブはね。調整前に逃げだしたあの子が、何であそこにいたかは分からないけど・・・」 レティはそう言うと部屋の隅に目をやった。 壁にはレザージャケットを羽織った、銀白髪の女がもたれ掛かって腕を組んでいた。 「キルシェちゃんも、あそこにいたならあの子を捕獲してくれてもよかったのに」 「仕事は連中の護衛だけだったはずよ。それに“アイギス”はアンタに預けてたでしょ」 「ウフフ、ちょっと言ってみただけよ」 そう言うとレティは白衣のポケットから銀(シロガネ)のドクロのレリーフを取り出しキルシェと呼んだ女の方へ歩み寄った。 「たいぶ弄っておいたけど、よかったかしら?」 「どうでもいいわ」 「素っ気ないわねぇあなたも。もっと仲良くしましょうよ」 「ふん・・・・・・」 「同じスネークタイプ同士じゃないの、ねぇ?」 「っ・・・!!」 女の猫撫で声、研究者のような風貌、金色の眼、何から何までが感に触ったが、最後の言葉が決定的だった。 キルシェの眼、目の前の白衣の女や紅髪の男と同じ金色の眼、その瞳孔の大きさが変わる。 震える拳は爪が掌に食い込む程固められ、今にも爆発する寸前だった。 「オイ、遊び過ぎだ」 「あらあら、怒られちゃったわ」 「・・っ・・・・・・」 キルシェは、銀のドクロを引っ手繰ると速足で出口へ向かう。 「どこに行くの?」 「どこでもいいでしょ・・・データ取りよ」 「オイ、傭兵」 「・・何よ・・・」 「テメェは“03”が出来るまでの大事なモルモットだ。間違っても降りようなんざ思うな」 「誰が、大金目の前に逃げ出す馬鹿はいないわよ」 「その言葉、忘れんなよ。もしもがありゃババァとガキは・・・」 バタンッ!!!!! 今度こそ爆発した怒りがドアへとぶつけられ、キルシェは部屋から飛び出した。 ○航海日誌 担当:ゴウ・キリシマ あれから船舶の被害もなくなり、どうにか依頼は果たせたようが・・・不思議な事件だった。 騒動はやはり人為的なものだったが、俺はもしかしたら本当に悪霊の仕業でないかと考えていた。 実際に行ってみるとあそこにはそれだけ恐ろしい数の怨霊が漂っていた。 あの場所にはそれを留めておくような大きな力が働いているようだったが、それが何なのかは俺にも分からない。 幽霊船内で感じた傷の痛み・・・こちらに来て一度もなかったことだ。 あれもあの場所と何か関係があるのだろうか。 もしそうだとすれば、俺の探し物の手掛かりが見つかるかもしれない。 分からないことと言えば、あの謳もそうだ。 不思議な謳だった・・・どこからか聞こえて来たあの旋律は怨霊達に打たれた楔を外して行った。 ・・・・分からないことだらけの事件だったが、あの晩長い呪縛から多くの魂が解放されたのは確かなことだ。 感謝すべきか。おそらく、あの全て救うことは俺にも出来なかっただろう。 俺も精進しなくてはな・・・ そう言えば、先ほど急に城から包みが届いた。 ある少女を保護してくれとの、依頼状が入っていたのだが・・・白沢を通して来るとは珍しいことだ。 また一筋縄ではいかない仕事のようだが・・・・・・タカマガハラと同じ名前を持つあそこに帰るその日まで、俺は精一杯やるだけだ。 |
青嵐昇華
2010年11月03日(水) 22時46分34秒 公開 ■この作品の著作権は青嵐昇華さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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どうも、『青嵐昇華』さん。『烈』です。かなり遅い感じですけど、ここいらで感想を書かせてもらいます。 まずは何と言いますか、今回の話は、随分と『ライダー』になる人たちがたくさん、登場していましたね。新たな『仮面ライダー』としての姿を見せた濠もさることながら、まさか情報屋のサラさんまで『ライダー』だったというのには驚きです。……しかし、今回登場した謎の『ライダー』である『ゴースト』ですけど、彼はいったい何者なのですか? ……まあ、そういったことを含めて、物語の中で語られていくことなのでしょうけどね。……それにしても、キッドさんが変身した『ライダー』である『レイヴァン』との闘いの中で見せた様子など、『ゴースト』という記憶喪失な人物の気になるところが満載でしたね。後、今回の話で出ていた『ライダー』達にとっての奥の手である変身に使用する“メダル”の向きを変身する時とは逆にすることにより、フォームをチェンジさせるというところがすごいですね。 ……それにしても、何やら敵さん側ともいえるマフィアである《サラマンダー》の方々のほうも、妙な動きをしているようですね…。おまけに何やら訳ありな人もいる始末……。ここまで来ると本当にどうなるかが気になってきます……。 …しっかし、フレッドさんもかなり個性があふれる女性に好かれているもんですな…;(しかも『ライダー』だし……) 一体どういった経緯でサラさんは彼のことを好きになったんでしょう? そのことがアリアさんに話されようとした途端、“ラプター”どもが来ましたからね。本当に空気の読めない連中です…; キッドさんはキッドさんで、『ゴースト』のいきなりの戦線離脱に驚きつつも、彼を追っていったところ、そこにいたのは濠だったというのですから、なんとも言えませんね…; しかも勘違いの結果、戦うことになってしまったという結果…; 取り合えず、新たな仲間と出会い、キッドさん達の行く先にはどのようなことが起きるのかが、今後の気になるところですね。 それと、現在のところ、行方不明となっている濠の義理の姉である泉さんの弟さんの行方も気になりますね。……案外、『ゴースト』がそれってオチはないですよね……? キッドさんのほうは気づいていませんでしたけど、濠のほうは気づいていたアリアさんの“謳”に秘められて“力”。それによって“怨霊”となって“幽霊船”のあった海域にいた“魂”達を“浄化”してしまうほどのもの。…やはり、物語の一番の“キーパーソン”を持っているのはアリアさんだということが、今回の話でさらに感じられました。彼女の“歌”に秘められて“謎”。今後はそれを解いていくことが重要となってくる気がします。 とりあえずは、今回の感想としては以上です。今後も、どうか頑張ってください!! |
50点 | 烈 | ■2010-11-11 15:26:00 | 202.242.7.42 |
うーん、何が悲しくて日曜の朝にぞろぞろ並んで走る大人の映像を流されなければいけないのか… こんばんは@PFでございます。 それでは個人的感想モドキ、はーじまーるよー >『THE 海賊』とか『海賊徹底解析』とかそれっぽい書籍を読んで色々勉強しているらしい。本当にまじめというかなんというか・・・ ほほう、勉強熱心ですな…って >『初心者でもかんたん!海兵隊式罵り方』 オイ でもシメる所はシメるべきなのも確かな訳で、と言うかこの方向性でキャラ崩壊したアリアさんが見てみたいかも >サラさん 恐ろしい…前向きって事が此処まで面倒な感じに成るとは。 本当に心の底からポジティブに捉えているのか、心の底では分かっていてこう言っているのか…前者だろうな… >「どこの誰だか知らないけど・・・私のフレッドは渡さないわ!!!」 でもこの口上はヒドイと思うんだアッー!(褒め言葉) >ゴースト 言いがかり、マジ恐い 戦闘力も凶悪なものが有るようで… しかも濠=カトラスと似てる…? ふむむ…どういう関係なのか…クローンとかその辺的な関係なの、か? >ラプター共 名有りの方々はあからさまにヤバそうなのにモブっぽいのは… >馬鹿なの死ぬの!? この言葉が相応しいですねぇ(笑) >「はあぁん、ようやく声が聞けたわぁ♪いいわ!あなたがさせたいならマテでもお手でもち『ダマレ、フセ』きゃわんっ♪」 …しまった、この遣り取りに私の心の何かが反応してしまった…っ >ダイバーフォーム く、クロックア(ry しかしやたら使いにくそうな… 後半の強敵相手じゃ空気や噛ませになったりしないか不安になってきた… いや、青嵐昇華さん相手に余計な心配だとは思いますが(苦笑) >「え・・・ま、まさか、フレッ(キングクリムゾン!)彼の純情だけは・・!!」 ま、また反応した!? 一体どうなってるんだ私の心のアンテナ!もう、自分で自分が分からないよッ! >「中々ビッグスケールだな、ミスター。なんかヒーローものの主役みたいじゃないか」 タシカニ(棒) ううむ、気になることが多くて何を言えばいいのか。 敵につかざるを得ない状況に陥ってるライダーもいるようですし、次回以降も期待します! 「セレナ」もちゃんと進めないとなぁ… |
50点 | @PF | ■2010-11-09 02:51:44 | i125-202-119-254.s11.a021.ap.plala.or.jp |
おのれ駅伝がぁぁぁぁっ! 古から続くヒーロー共通の敵、駅伝とゴルフを滅ぼしたいです。 まあそれはともかく。 何といいますか、最近の掲示板の投稿頻度っぷりが半端無く、感想が追いつかないと焦りつつも触発されざるを得ない状況でありまして。僕も近日中に次のお話を投稿する予定であります。 とまあ初っ端から他人様の感想でナニイッテンダって感じですがともかく、感想失礼しまっす。 >『初心者でもかんたん!海兵隊式罵り方』 止めたキッドさんにグッジョブと言う他無い。 >それはそれは素晴らしい恋 アリアちゃん、騙されちゃ駄目だ。その恋は君が考えてる程ピュアなものじゃないと思うから。いやある意味純粋だとは思うけれども。 でも個人的にはフレッドさんとの馴れ初めが気になります。 >銅(アカガネ) 全くの私事で恐縮ですが、実は【鉄】の敵ライダー候補として、【金】【銀】【銅】という三体を考えておったのですが、順に読み方が「こがね」「しろがね」「どう」でして。いや流石に「どう」は無ぇだろ…とボツにした記憶があります。銅にそのような読み方があったこと自体知らなかったとかもうね。莫迦丸出し。無知って恐ろしい。 >ゴースト 白沢家辺りの記述などを読むと、キッドさんも間違えるほど濠君とそっくりな外見もあってもしかするとあの人なんじゃないかなーとは思いますが、もしかするとそうじゃないかもしれないので今後の展開に期待ってことで!(思考放棄 >ダイバーフォーム レイヴァンのリバース形態はダイバーフォームということで、これまた海賊らしい感じがツボりました。一瞬「え、なんで加速?」とか思いましたが、時間にダイブする訳なんですねー。 まあこういった便利なフォームにはデメリットも付き物なようで、加速中はキッドさんが呼吸できないという危険仕様。この辺りもダイブとかかってて上手いなあ、と。 使いどころが難しそうですが、今後このフォームがどのように使われていくか楽しみです。 >あなたがさせたいならマテでもお手でもち『ダマレ、フセ』きゃわんっ♪ >「え・・・ま、まさか、フレッド東洋系が好 >(中略) >彼の純情だけは・・!!」 やべえ、 しかしながら個人的にはいつの日か、サラさんがフレッドさんの制止を振り切ってやらかしてくれることを期待s(ry >普通に話せ >あいにくこれが普通なのさ なんか天道と風間大介のやりとり思い出して噴いたw 真面目っ子の濠君は性格の軽いキャラと絡ませると面白い気がする >「「義“姉弟”だが」」 何故姉弟の部分を強調するんだ…と思ったけどよくよく考えてみたら義理の部分を強調した方がヤバいと気付くのが遅れた僕はもう駄目だと思います。 毎度毎度程度の低い感想で申し訳ありませんが、今日はこの辺りで。 |
50点 | トレハ | ■2010-11-08 09:34:50 | softbank220026120007.bbtec.net |
『仮面ライダーカトラス、推参!!』 ヒーローとしての深みが一気に増すと言うか、やはり(前)主人公が自分を“仮面ライダー”と名乗るというのは熱いものがありますね。 今回は2人も新ライダーが登場の上に、次回以降の展開に関わってくるであろう含みがちらほら見える話でした。『ゴースト』を『濠スト』だと思った私は幸せ者です(ぉ さておき、すんなり変身したのスピカ。小物相手とはいえ、多数の不可視の敵を特に気にするでもなく一蹴。おかげでサラさんのフレッドは傷一つなく守られました。分かりきった事ですが、サラさんの世界はフレッドを中心に回っている様ですね。 そしてレイヴァンの別モード、【ダイバーフォーム】。装甲排除、ハイリスクという高速形態の鉄板、加えて呼吸の制限という更にシビアな条件が余計に燃えるますね。やりたいかどうかは別として(ぉ。 表裏のリバース、コインで変身という特徴を生かしまくったアイデアに脱帽しました。 相手に対応し、常に余裕を持つ戦闘スタイルは、人違いを瞬時に理解し、本人の性格によって事を穏便に済ませるってのも、キッドらしい実力ですね。 2話目からと、なにげに早い登場だった濠くん達ですが、早速合流というわけでもなく、今の所は別々に行動するみたいですね。同業者であり、一応競争相手でもあるのでそっちの方が面白そうですが。 今回謎の敵として現れた『ゴースト』と、ラプター側にもライダーがいるみたいですが、どのような形で七人が揃うのか気になりますね。次回も期待のAヨスケでした。 |
50点 | Aヨスケ | ■2010-11-05 23:15:09 | pv02proxy04.ezweb.ne.jp |
合計 | 200点 |