仮面ライダー珀羅外伝 『彼岸の浮橋と照葉の天狗《前編》』







「もうこんな時間・・・」

今日は終業式で学校は午前中までだったと言うのに・・・・・
帰り際に友達に捕まってしまったのが最後、部活の緊急ミーティングだかなんだかですっかり遅くなってしまった。
部活と行っても二人しかいないお粗末な同好会で、特に何を話合うと言うこともなく・・・
結局、ただ遊びたいだけだったその子に日が沈むまで振り回されてしまった。

そして、慣れているとは言え・・・私一応まだ中2なのに・・・・
この疲れ切った状態で明かりのない山道を一人で歩かなければならないのは色々辛い。

「ぁ・・・」

おまけに、雨まで降り出してしまった。

山の天気は変わり易いとは言うけど、今日は降るなんて誰も言ってなかったのに・・・
どうしようか、当然傘なんて持ってないし、里に入るにはまだ山一つは越えないと行けない。
これ以上遅くなるのはどうかと思うけど・・・・仕方ない、どこかで雨宿りをしていこう。

どこか良さそうな場所は・・・・・あ、あった。


「ちょっと濡れちゃったか・・・」

たぶん、誰かが昔修行の為に作ったものだろう。
近くに丁度いい横孔・・・洞窟を見つけたので、私はそこで一休みして行くことにした。

洞窟の中は外と違って湿気が少なく、夏場であるにも関わらず涼しいようにも感じられた。
とりあえず、制服は脱がなくても乾きそうだ。
鞄も濡れてしまったけど、教科書や大事なものが入って無くてよかった。


ジャリ・・・・・

「っ!?」

奥の方の暗闇から物音がする・・・・
驚いた私はそちらを振り返りその暗闇の中を凝視した。

何かが・・・・動いている?

「な、何・・・?」

『ケタケタケタケタケタケタケタ』

「ひぁっ!?」

顔を出して来たのは大きな牙と角を生やした蜘蛛のような怪物・・・
岩のようにゴツゴツした皮膚をして、足は一本一本が刀みたいに鋭くなっている。
何、この妖怪・・・?こ、こんなのが山に居たなんて・・・!

『キシャァアアアアアアアア!!!!!』

「はわわわわっ!?」

妖怪が襲って来る・・・に、逃げないと!
洞窟の外は大雨、でもそんなことに構っていられない!

「白澤、この辺りでいいんだな?」

「・・・・・ぇ・・?」

形振り構わず私が山を駆け下りていると、町の方からやって来た男の人とすれ違った。

「っ、あ、あの!!?そっちは―――――――――−」
「向こうか・・・・大丈夫だ。君は早く家に帰れ」
「え・・・・」

そう促すと、その人は私が逃げて来た道を逆に辿って行った。

「・・・・・・っ・・・そ、そっちは駄目ですって!!」

私があっけに取られている間に、その人はどんどん山道を進み、直ぐに洞窟から出て来た怪物と鉢合わせた。
あの人を放っておくことは出来ないけど、あんな怪物の前になんか出て行けない・・・・
仕方なく私は離れた木陰から様子を窺っていた。


「牛鬼(うしおに)か・・・随分と大物が出たな」

≪濠・・・着任早々悪いが、やれそうか?≫

男の人の隣に、ぼんやりと何かの影が見える。
美しい角を携えた神々しい獣の姿・・・そういえばさっき“はくたく”って・・・
っ、もしかして・・・・土地神の白澤様!?


「やるしかだろう、行くぞ!」



「変神!!」







仮面ライダー珀羅外伝『彼岸の浮橋と照葉の天狗』〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「朝にも言ったが昨日から高校生の行方不明者が出ている、寄り道は絶対するなよ。というかお前等中3なんだから、真っ直ぐ帰って部屋籠って勉強しろ」

と言うのは今日のホームルームでの担任の先生の言葉。


「怪しい・・・いや、妖しいわね・・・・っ!!」

桑茶色の二つの尻尾を揺らしながら私の隣を歩く女の子。
この子は奇稲田快輝(くしいなだ・はやて)、私の所属する郷土研究同好会の会長だ。
部活と言っても、私とこの子の二人しかいなくて、更にあと数カ月もして私達が卒業すればなくなってしまう同好会と呼ぶにもお粗末な集まりだけど・・・。

さっきまで一人でニヤニヤと笑っていたのだけど、唐突にそんなことを呟いた。
言ってしまえば一番あやしいのは間違いなくこの子だ。

「あやしいって・・・何が?」
「神隠しの話よ!事件の臭いがするわ、怪事件の!これは我が奇稲田怪奇探偵団が調査するしかないわね・・・」
「またそんなこと言って・・・ヒメちゃん、今度は何するつもり?」
「んー、そうねぇ・・・とりあえず現場に行ってみるでしょー。んで、バミューダトライアングル的な何かを発見して、異世界に旅立つ!んで、仲間増やしてー、ダンジョンでお宝ザックザックしてー、美味しいものいっぱい食べてー、最後は魔王を倒してアタシがヒーロー!!ウハハハハハハハ」

どうしよう、テンションについていけない。いや、まぁ普通について行ける時なんてほぼないんだけれど・・・
ちなみにこの『ヒメ=姫』と言うのはこの子のあだ名・・・というか自分から呼ばせている愛称だ。
その変わった名字が古い神話に出て来るお姫さまに似ていることが由来らしい。

って、そんなことは割とどうでもいいんだけど・・・
また変な妄想をこじらせて、というか最初の調査でんでんはどこに行ってしまったのだろう・・・

「一応、私達受験生だよ?分かってる?」
「んん、分かってるぅぅぅ・・・?けどさぁ〜・・・ほら、丁度帰り道なんだし、いいじゃんいいじゃん」
「・・・えぇー・・・・・」
「そんな顔しないのっ。ウチら学校じゃ結構注目度高いのよ?人々は我らの活躍を心待ちにしてるのだよ、このは君」
「活躍って・・・そんな大それたことしたっけ?」
「この前見事に解決したではないかね。ほら、深夜に旧校舎を走り回る謎の「あぁ、猫が住み付いてたヤツね」うっ・・・こ、今度のは絶対神隠しよ!天狗様のしわざじゃぁ、なんつってさぁ!」

ヒメちゃんは超常現象マニアで、妖怪とかオカルト関連の話になると喜々として首を突っ込みたがる。私が言うのも何だが、よく言えば本当に変わった子だ。
でも、よりにもよって天狗か・・・絶対、山には近付かせないようにしないと、うん。

「歩きながら寝言を言うのはやめて、春はまだ遠いよ?」
「このは、何か冷た〜い・・・はっ、さてはアレの日か!?」
「ぶっとばすよ」バチコーン
「いだっ!?デコピンしてから言うなー!」
「兎に角、本当に人が消えてるんだから・・・危ない事に関わっちゃ駄目だって」

私はあの人みたいに強くもなければ、姉さんみたいに優秀でもないんだ。
もしヒメちゃんが危なくなっても・・・私じゃどうすることも出来ないんだから・・・


「と、言うことですから・・・!」

「ぇ・・・?」

「あくまでこれは作戦なんです・・・次どさくさに紛れてどこか触ったら」
「分かった分かった。オレがわるーございましたって」
「まったく、本当に分かってるんですか?」

あれ、この声・・・・なんか聞き覚えのあるような・・・?

「よっし、とりあえず到着っ!ここが、例の高校生のリア充カップル共が焼・・・消失したっていう場所よ!」
「あ、ちょっと、ヒメちゃん!前・・・って言うか後ろ!」
「んー?・・・っあぅ!?」

「ぉわっ・・!?」

人気の少なくなり始めた件の現場付近の田舎道。
振り返って後ろ向きに歩くヒメちゃんは向こうから歩いて来た男の人にぶつかってしまった。

「やばっ・・・ご、ごめんなさい?って・・・あ」
「お?よぉ、はやてじゃねぇか」
「何だ、大峰さんか・・・あー、びっくりしたぁ」

今ぶつかった星志館高校のジャージを着ている男の人、どうやらヒメちゃんの知り合いだったようだ・・・・って、それより、も・・・・

「っ!?ナニナニ隣の人彼女さん!?もしかしてデート中だったりっ!?」
「ふふん。まぁ、そんなことも無きにしもあったりなかったりしないことも(ry」
「な、何言ってるんですかっ!?変に誤解されたらどうするんで・・って・・・恭也さん、お知り合いですか?」
「コレか?近所の小生意気なJC。稲田(イナダ)書店っつうのあっただろ?あそこの」
「あぁ・・・あの本屋さんの。こんにちは、私は鴉美と言います」
「ども〜、奇稲田快輝で〜すっvんで、こっちが友達の蔵前このは”」
「ん?蔵前・・・、あれどっかで・・・?」

大峰さん(?)が、私達を交互に見て不思議そうな顔をしている。
・・・なるべく関わりたくなかったけど・・・・逃げ場はなさそう。

「えっと・・・は、初めまして、妹のこのはと言います。姉がお世話になっています」

「え、あぁ、はい。これはどうもご丁寧に・・・・ウェイ?」



「「ええええええええええええええ!!!!??」」







「あ、それでね、聞いてよお姉さん!大峰さんね、普段立ち読みだけで買わないくせにあたしが店番やってる時だけエロ本買って行くのよ!ドヤ顔して!何とか言ってやって!」
「か、確信犯的にセクハラですね。もう万死に値するかと・・・」
「おお、こわいこわい。・・・あ、整いました!!エロ本と掛けまして本を買わないと解きます!その心は!?」
「や か ま し い っ!!」どげし
「げふぅっ!?」

現場についても特に何も変わったことがなかったからか、ヒメちゃんは姉さん達と一緒にすっかり雑談に入ってしまった。

「やー、でもこうして話して見るとやっぱ似てるわねぇ。真面目なところとか結構ツッコミ厳しい所とかそっくりだわ」
「はは・・・・いや、まぁ姉妹ですから」
「このはってば家の事全然話さないからなんかもう新鮮でー」
「あ・・そ、そう・・・ですか・・・・」

「・・・・・・・・・・」


好奇心が人一倍強いヒメちゃんはお喋りモード全開になってしまうともう手がつけられない。
姉さんが余計な事を話すことはないとは思うけど・・・・ヒメちゃんが満足するまで黙って待ってるしかないというのは我ながら情けない・・・

そういえば大峰さんって人、結構飛んでたけど・・・・・あ、畑に半分埋まってる。

「あの、大丈夫ですか・・・?」
「んー?・・・あぁ、へーきへーき。よっこらせ」

大根と一緒に畑に並んでいた大峰さんは掛け声と共に抜け出して、パンパンと身体を叩く。
土が乾燥していたから叩くだけでも汚れはだいぶ取れたようだ。

「何かここ数カ月でどんどん身体が丈夫になってる気がするぜ。不思議だなー」
「は、はぁ・・・・」

さっきみたいに軽口を叩いては姉さんに御仕置きされているんだろうな、たぶん。
キジも鳴かずば・・・という言葉を思い出すけど、きっと鳴かずにはいられない人なんだろう。ヒメちゃんなんかはまさにそれだし。

「それにしても鴉美に妹が居たなんてなぁ。はやての奴も知らなかったみたいだし、いやー、驚いたぜ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・あ、あるゑ?・・・もしかして、あんまり仲がよろしくなかったり・・とか?」
「ぁ、いえ・・・悪くは、ないです・・・」

姉さんは明るくて優しいし、いつも私によくしてくれている。
もちろんそんな姉さんのことは好きだし、家の中ではどこにでもいる普通の姉妹だと思う。


・・・けど・・・・


『妬マシイノゥ・・・・』


「っっ!?」

誰かの声が聞こえた。

突然、眼の前がちらついたかと思うと、周りにあった田畑が消えて・・・
その代わりに、何故か私達は霧の張った川に掛った大きな浮橋の上にいた。

『ンン?女子-オナゴ-ガ三人ニ、男-オノコ-ガ一人カ・・・・』
「な・・・・・・!?」

声が聞こえて来た方を見ると、橋の先に人影があった。
その人はなんと宙に浮いていた・・・あれは、人間ではない・・・妖怪?

『ナンジャ・・・・逢引デハナイノカェ』

紅地に金や紫の刺繍の入った艶やかな着物を来たキレイな女性の姿をした妖怪は
長く細い指を口に当てて悩ましげにこちらを眺め、大胆にはみ出した足を組み替えながら詰まらなそうに吐き捨てた。

「っ、おい、鴉美・・・!」
「はい、やはり「あの生足にすがりつきたい・・・!!すっごく!!」ちょ、ちょっと!??!?真面目な顔して何言ってるんですか!!!!?」

『妾ノ眼ノ前デヨクモイチャイチャト・・・妬マシイノゥ・・・!』

「何でそうなるんですか!!?ご、ごほん・・・やはり、連日の神隠しは“橋姫”、あなたの仕業でしたか!!」


橋姫?・・・・っ、そういえば聞いたことがある。
境界を守護しているという地霊、そして嫉妬心が強い女の鬼とも・・・
・・・・嫉妬って、まさか、カップルばかりが神隠しにあったていうのは・・・・

「連れ去った人達を返しなさい!!」
『嫌ジャ』
「っ、仕方ありません・・・ならば、実力行使で行かせて貰います!!」

姉さんが風神の団扇を取り出し、橋姫に向ける。

あぁ、やっぱりそうか・・・・姉さん達も神隠しのことを調べに来ていたんだ。
私達みたいなお遊びじゃなく、本当に町のことを想って事件を解決する為に・・・
確かに姉さんにはその力がある。この町で、あの人の代わりが出来るのは姉さんしかいない・・・でも・・・!

でも、ここで姉さんが術を使えばヒメちゃんにも・・・そうしたら、私は・・・・っ!

「うっそ、あれ橋姫!?や、ヤバイよ、このは!な、生の妖怪よあれ!?」

「っ・・・」

木霊するようなヒメちゃんの大声で姉さんは後ろを振り返った。
ヒメちゃんを、そして私の方を見て・・・・姉さんは、団扇を構えていた腕を降ろしてしまった。

その時

「姉さん!!?」

『ホホ・・・他所見ハイカンゾェ?』
「っ!?しまっ――――――――――――−」

袖で覆い被さるように、橋姫が姉さんを羽交い締めにした・・・その瞬間だった。
漂っていた霧の一粒一粒が膨れあがるよう、私の目の前は真っ白に染め上げられた・・・






「あれ・・・・?」

気が付いた時、そこはもう橋の上では無かった。
見慣れたいつもの田舎道・・・最初、私達が居た場所だった。

「よし・・・と、とりあえず・・・・・番号っ!イチ!」

「に、にっ!」

「・・・ぇさん、姉さんが・・・いない・・・!!」

「うぉぁ!?言われてみれば鴉美が居ねぇえええええ!?ど、何処行った!?」
「か、神隠しなう!て、そんな場合じゃないわ、ど、どどどどうしよう・・・!」


「っ、嘘・・・・・!?」

辺りを必死に見回すけど姉さんの姿は何処にもない。
その代わりに・・・・・・・

「そ、それってあいつの・・・・」

私と大峰さんの顔から血の気が引いた。
間違いない・・・・これは姉さんの持っていた“風神の団扇”だ。
ここにあるということは、つまり今の姉さんは丸腰・・・・
武器もないまま、あんな訳のわからない所に閉じ込められてしまったんだ・・・・


「わ、私の・・・せいだ・・・」


「・・・・え、このは?」

「私の・・・・!!」

「ぉ、おいちょっと、何処行くの妹ちゃん!?」








私には才能がなかった。

天狗の象徴である翼を持っていないどころか、体術は並みの人間レベル、法術の制御も破滅的に下手で、風を操ることも満足に出来ない。
天狗の子としては本当に出来そこないもいい所だ。

半人半妖の身で、まだ子供だから・・・と言うのは言い訳にはならない。
それは姉さんという類希なる才能の持ち主がいたからだ。

今まで“嵐羽”の術を扱えたのは、里の前長にして伝説的な天狗である父の天魔様。
そして、その弟で今の長である大天狗様だけだった。
それを姉さんはあの若さで使いこなし、数か月前、高天原を震撼させた邪神の起こした騒動では、その僕である魔人の一人を撃破したとも聞く。

そのことからも、姉さんが長の家系の血を色濃く受け継いでいるのはよく知られている。
これからもっと成長して、里の歴史に名を轟かせる天狗になることを誰もが信じて疑わないのが姉さんという人だった。


姉さんのような人が特別なのは分かっているし、取り分けて私が姉さんと比べられるようなことはなかったけど・・・・
里にいる時は、その評判を聞くだけで駄目な自分を痛感させられ、劣等感を感じずにはいられなかった。

・・・身勝手な嫉妬だと思う・・・・
そんな自分が嫌で・・・でも、どうすることも出来なくて・・・・いつも辛かった・・・

町の学校に通わせて貰えることになった時は、すごく嬉しかった。
友達とお喋りして、何でもないようなことで笑って・・・一緒に勉強したり、お昼を食べたり、帰りに寄り道したりして・・・・
家柄や能力とは関係ない、私だけの時間・・・そんな時間がとても心地良くて・・・

だからあの時、ヒメちゃんの前で姉さんが力を使おうとした時・・・怖かった。
天狗の事がばれてしまったらあそこに居られなくなる、そう思うと本当に怖くなって・・・

・・・私、どんな顔してたのかな・・・・

何にも出来ないくせに足ばかり引っ張って・・・
私の所為だ・・・・でも・・・どうしたら・・・


「っ、ぅ・・・何やってるんだろう・・・・・」


逃げ出した私は、あの洞窟の中に隠れるように蹲っていた。
こんな所に来て・・・本当に私はいったい何がしたいのだろうと思う。


まだ、あの人に縋っているのかな・・・


去年の夏、あの雨の夜は私にとって衝撃的なものだった。
高天原周辺の地脈に異常が出始めたのが原因で、居る筈もない場所に突然現れた凶暴な妖怪。
それを退治にやって来たのは、土地神様に導かれて外の町からやって来た男の人だった。
翠の鬼の戦士に変身したその人は、自分の何倍もある相手に一歩も引かず、危ない所を見せることもなくそれを倒してしまった。

その強さは鬼神と呼ぶにふさわしく、戦うあの人の勇ましい姿は私の目には眩し過ぎるくらいに映っていた。
結局、その時は腰が抜けてしまってお礼を言うことも出来なかったな・・・

その後も、町で色んな怪事象が発生したり、山に土の怪物が現れて里の皆が操られてしまうという事が起きたりしたけど・・・・
あの人が居る・・・・そう思うと、不思議と不安はなかった。


でも、2カ月前の大異変を最後にあの人は・・・・


「・・もう、居ないのに・・・・・・・」

「こんな所でお籠りか?」

「っ!?」

唐突に洞窟の中に凛とした声が木霊した。
驚いて外の方を返り見ると、そこに立っていたのは・・・

「か、母・・さん・・・?な、何でここが・・・・?」
「ふふん、この母に隠し事が出来ると思わないことだ・・・家のことで知らないことは何もない」
「っ・・・・」
「まぁ、それは冗談だが。・・・・それよりどうした、学校で何かあったか?」


私は橋姫によって引き起こされている神隠しのことを母さんに洗いざらい話した。
姉さんのことを話す時、なんて言われるのか・・・それは恐ろしかったけど・・・母さんは最後まで黙って眼を瞑ったままだった。

そして、話が終わると、私の目を直視して一言投げかけた。

「お前はこうして閉じ籠もっているだけでいいのか?」

「っ・・・・・・・・」


いい筈はない・・・でも・・・

「ここでじっと待っていても何にもならない・・・それは分かるな」
「はい・・・・」
「ならば、動け」
「・・・でも、私には・・・・」
「このは、お前と鴉美は違う・・・・あの子にしか出来ないことは数多くあるかもしれないが、お前にしか出来ないことだってある。お前のやれることを、お前だけにしか出来ないことをやるんだ」
「私にだけ、出来ること・・・?」
「あぁ、そうだ。もう頃合いだろう・・・・すまなかったな、今からお前に力の使い方を指南する」


「天は自ら助くる者を助くという、お前が自分を信じて動き出せばお前の“天”は必ずお前に味方する・・・」


私を・・・信じる・・・?


「お前は自分に力がないと思っているかもしれないが、それは大きな間違いだ。良いか、このは・・・自信を持て。お前はこの母の娘なんだ」








青嵐昇華
2011年08月25日(木) 02時21分20秒 公開
■この作品の著作権は青嵐昇華さんにあります。無断転載は禁止です。
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