仮面ライダーPIRATES epZ 『潜晦』 part1 |
● ふんふふんふふ〜ん♪ 「・・・・ん・・・」 誰かのご機嫌なハミングが耳に入り、キッドは眠りから呼び起された。 どうやらここは病室であるらしい。 まだはっきりしない意識の中で、情報として五感に入って来たのはシミひとつ無い天井の目に痛いくらいの白さと、アルコールの臭い・・・そして、その中に混じったほのかな花の香りだった。これは昔からよく知っている香水の匂いだ。首を動かしてベッドの脇を見ると、頭にぶら下げた二つのドリルを揺らしながらハナ歌混じりにリンゴを剥いてはかじる従妹とばっちり目があった。 「あら、ぐっも〜にんぐ?」シャク 「・・・・よぉ、グレイス・・・また随分と、と」 身体を起こそうとしたキッドだが、視界がグラつき堪らず後ろに仰け反った。 「ったぁ、まいったなこりゃ」 「大人しくしてなさいな。一時的に目が覚めただけで頭も身体もまだまだ寝てるはずですの」 「なるほど・・・確かに、まだあんまり言う事聞いてくれなさそうだ」 「まぁ暫くは養生なさい。治療費入院費その他もろもろは立て替えといてあげましたの」シャク 「おぉ、随分優しいじゃないか」 「ただし利息はトイチでっせ?」シャク 「利子取るのかよ・・・・あんまり怪我人イジめると泣くぞ?オレが、割と本気で」 「もう、軽いジョークですのに」シャク 「・・・てかソレ、さっきお前ばっか喰ってないでオレにもくれよ」 会話しながらも幸せそうにリンゴをかじるグレイスにキッドがジト目で抗議する。 シャクリシャクリと良い音を隣で立てられてはつられて食べたくなるのが道理である。 それにグレイス、この一見可憐そうに見える少女は、か細い外見に似合わずかなりの大食いだ。 下手をすれば見舞いの品などキッドが一つも手を付けることなく全部たいらげられてしまうことなどあり得ない話ではない。 もっとも、このリンゴを持って来たのは彼女で、一つ二つくらいは残しておく予定だったそうだが・・・(ただし数十個の内) 「そうだグレイス、ナースさん呼んでくれ」 「あら、どこか痛みますの?」 「いや、せっかく入院してんだし、白衣の天使にアーンしてもらおもごぁ!?」 「はいはい、世話が焼けますの」 言い切る前にキッドはフォークで串刺しにされたウサギをぐいぐいと口の中に押し込まれる。 「腕が痺れて上がらないなら素直にそう言う」 「もごもご」 乾いていた喉が瞬時に潤っていく。リンゴを噛み締める度に瑞々しい甘みが口から身体中に広がり、圧し掛かった疲れがサッと退いて行くイメージを覚えた。 なるほど、グレイスではないが確かにこれは幸福な気分にならずにいられない。 「また上等なの持って来たな・・・これ高いヤツだろ?」 「べ、べつに見返りなんて期待してないんだからねっ!ですの。ちなみに、こんな所に海上ケーキバイキング店新装オープンのチラシが」ヒラヒラ 「・・・・・・このヤマ片付いたらな」 「♪まぁ、よしとしておきますの。ほら、あ〜ん」 「アー、もごぁ」 「さ、お楽しみが一つ出来た所でさっそく本題ですの」 「むぐ・・・っ、さっそくと言うか、ようやくって感じだがな。何かわかったか?」 例の戦闘海域から逃げる合間、キッド達は辛うじてまだ生きていた船の無線を使ってメシコンに連絡を入れた。 濠を搬送する為の病院の手配と、中破した船の収容、そしてディーノ達サラマンダーの戦艦の追跡の要請だ。 「連絡を受けてすぐランディが衛星をクラッキングして追尾したんですの。でも、連中が波戸場で船を着けて、陸路に入って森を抜けた辺りで一度見失ってしまって」 「・・・一度ってことは、見つけたのか?」 「まぁ、情報屋さん達が頑張ってくれてるおかげでポイントはだいぶ絞り込めてきてますの」 「なるほど、サラなら顔も広いしな・・・ん?達っていうと」 「お宅の所の操舵士さん、キッドの機海馬でタクシー代わりをやってもらってますの」 「・・・ヤロー、人が寝てる間にデートかよ・・・」 キッドが軽く肩を落とす横でグレイスが気にも留めず端末を弄る。 基本的に病院では電子機器の使用はNGだが、ここの病棟は大丈夫とのこと。 「とりあえず今まで送られて来た情報をまとめると、こんな感じですの」 「どれどれ」 「ここですの」 グレイスは画面を操作してどこかの地図をキッドに見せる。 そこはどうやら隣の大陸にある渓谷のエリアらしい。 ディーノ達の潜伏先を示していると思わしき赤い印がその広い鉱山跡地の一画で点滅していた。 「そして、ここに流れてる運河は海に繋がってますの。侵入するならここからですのね」 「なるほど。タイニーホープの修理は?」 「進行具合はぼちぼち、まぁ夕方くらいには仕上がりますの」 「オーケィ、フレッド達が戻ったらさっそく・・っ、うぉっ!?」 「だから、まだ寝てないと駄目だって言ってますの。というか今更ながら、そんなにボコボコにやられたのに・・・勝算ありますの?」 「まっ、負ける気はしないな。それに、あの子との約束もあるから行かない訳にはいかない」 「呆れましたの、またどっかで女の子引っかけて来たんですの?」 「まぁ聞けって・・・・ここからは調査報告だ」 仮面ライダーPIRATES epZ 『潜晦』〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◆ 「あ〜、さっぱりした。よく考えりゃ風呂入ったの二日ぶりか・・・」 首からタオルを掛け、頭から湯気を昇らせながら歩いているのは、東海の島国、高天原からやって来た技術者、大峰恭護だ。 恭護は数日前にメシコンで開かれた客人歓迎パーティーでこの会社の技術開発部の主任であるランディと意気投合し、彼女の研究の手伝いを頼まれ暫くここに世話になっていた。 恭護は廊下を進んで、ある部屋の前で立ち止まる。ランディが個人で使っている工房-ラボ-だ。 トントン 「お〜い」 一応入る時はノックをするようにと言われていた為、数回と叩いて反応を待つが・・・ 「・・・お?」 返事がない。留守だろうかとも思ったが、どうやら鍵は掛っていないようで認証装置の上に手を置くと普通に扉は空いた。 照明が落とされていて薄暗くはあったが、決して広くはない。探すまでもなく、直ぐにランディが居ることは分かった。 あちこちに並べてあるダンボールや機材に足を引っ掛けないよう恭護は進む。 部屋室の一画に設けられた立派なディクスではディスプレイの光を受けた後ろ姿。 カタカタカタカタと一心不乱に高速でパネルを叩きまくる少し不気味な影・・・ランディである。彼女は作業に没頭するといつもこんな感じで、傍から見ているとかなり上等な不健康者である。 恭護は気付かれぬようにその背後にまでやって来ると、作務衣の袖に入れていた白い液体の入った瓶を取り出し・・・・。 「よっす」ぴと 「ひゃうっ!?」 頬に走る強烈な冷たさに、ランディは跳び上がって椅子から転げ落ちた。 いったい何事かと顔を上げると、いたずらに成功し大変満足そうな大きな子供がけらけらと笑っている。 「なっ、きょ、キョウゴ!何するのさ!?」 「いや、あまりに無防備だったもんでつい。お前の背中が俺に襲えと言ってたんだよ」 「やめてよもう・・・心臓止まるかと思ったじゃないか」 「わりィわりィ、ほら、班長のおやっさんが主任に渡してくれってよ。あ、あとこいつは差し入れな、メシまだだろ?」 部屋の電気を付けると恭護は空いた椅子を持ってきて隣に腰かけ、メモ書きを出してランディに渡す。 それと一緒にさっきの奇襲に使った瓶牛乳と売店で買って来たあんパンを机に置いた。 「あ、ありがとう。・・・ごめんね、無理言ったのにこんなことまで」 「あー、別にいいって。俺達みたいなのは動いてなんぼだろ?」 キッド達がボロボロの状態で帰って来た後、同じくボロボロになった海賊船タイニーホープ号がメシコンのドックに搬入されて来たのは深夜だった。 その為、修理に出られる人員はほぼなく、工場でランディの研究を見学していた恭護や、社員寮で寝泊まりしていた数名が駆り出されることになったのだ。 「わ・・・もうこんなに進んだんだ。流石だね」 「おう、まぁそれほどでもあるけどな」 恭護の本職は刀・鎧鍛冶であったが、以前船の大規模な修復作業を経験したことがあり知識も十分あった。その為、今回の作業はとても捗り、元々規格の小さい船であることもあり、数日も掛らず粗方の作業は完了していた。後はランディによる細かい点検を残すのみになっている。 「今はちょっと手が離せないから、もう少ししたら見に行くよ。」 「そういや、そっちの方は進んでんのか?」 「う、うーん・・・」 恭護達が作業している間、ランディが行っていたのはライダーシステムのメンテナンスだ。 ランディは以前からシステムの研究をしていて、専門と言っても過言ではないのだが・・・ 難しい顔をしているところを見ると、どうやら状況はあまり芳しくないらしい。 「・・・まずはキッドのだけど、修復は間に合いそうだよ。リバース状態で強力な攻撃を受けたっていうのが心配だったけど・・・・その割には損傷も許容出来る範囲に納まってるし、アーマーの自己修復も順調みたい。多分、あれの影響もあるんだろうけど」 そう言ってランディが隣の実験室の方を指差した。 機械に嵌められた金貨。キッドが所持していたという雷の柄が刻まれた目新しいコインだった。 「フレッド達の証言にもあった金色のレイヴァン、キッドが目覚めないと検証出来ないけど・・・・たぶん、次の作戦では大きな力になると思う」 「強化変身ってのは胸熱だけど、そんなすぐ戦わせてキャプテンさん大丈夫なのか?」 「まぁ、動けるなら止めても勝手に動くだろうし・・・・やっぱり頑張ってもらうしかないかな。それに、実力から言っても今あの赤いライダーを抑えられるのはキッドだけだろうから」 「そっか。まぁ、いざとなったらアレでドカンと・・・・」 恭護の視線の先には強化ガラスの向こうで異色な威圧感を放っている一本の槍。 同じく何か装置の中に入れられているが、こちらは液状のナノマシンのプールに浸されており今も解析を受けている最中のようだ。 「あれは今回の作戦では使用禁止だよ」 「は、何で?」 「たった一発で直線数十キロを蒸発させるような兵器を陸上でおいそれとは使えないよ・・・・。今回は仲間も捕まっているんだし、仮に威力を抑えられたとしても近くで使うのは危険すぎるよ」 衛星の捉えた映像であの神槍-トライデント-のとんでもない威力は確認済みだった。 「うーん、そう言われりゃそうだけど、なんかもったいない気がするぜ」 「まぁまぁ・・・。でも、こちらにあるだけで十分な牽制にはなるよ。相手も下手な行動は出来ないんじゃないかな」 「そういうもんか。あ、それで濠の鎧は?どうなってんだ?」 「・・・それがね、カトラスの方は・・・・」 「お、おい、まさか直らないとか・・・!?」 「そ、そんなことはないんだ。でも・・・あの・・・」 急に表情を曇らせるランディを見て恭護は顔を蒼くする。 それに気付いたランディは慌てて手を振り否定するが・・・それでもやはり状況が良くないらしい。 「とにかくね、損傷が酷くて・・・今のペースだと修復にはどんなに早くても三ヶ月から四ヶ月は必要だよ」 「そ、そんなにか・・・」 「修復出来るか出来ないか、そのギリギリの所まできてたからね。システム全体にすごい負荷がかかったみたいで・・・見てもらった方が早いね」 そういってランディは、たくさんの機器が並ぶ隣の部屋へ恭護を連れて行った。 その中の1つ、何かの液体で満たされた透明なカプセル状の機械の中にはカトラスのドライバーにあたる金色のドクロあった。 それには少し離れていてもはっきり分かるぐらいの大きなヒビが入っていた。 「うわっ、ホントにひでぇ・・・」 「普通だったらここまでダメージを負うことはないんだ。ライダーシステムはある程度の負荷がかかると変身が解除されてしまうから。不思議なんだけど・・・調べてみたらカトラスのは他のシステムとは仕様が少し異なっているみたいで、その所為かは分からないんだけど自己修復力が低・・・「あ」っ、どうしたの?」 ランディが分析結果を述べていると、恭護が思いだしたように声を漏らす。 恭護は少しバツが悪そうに頬をかきながら言う。 「いや、アイツの鎧さ、継ぎ接ぎみたいなモンなんだ」 「継ぎ接ぎ、って?」 「・・・昔に派手にぶっ壊れちまってな、あちこち欠けた部分を“日緋色霊鋼”で補修したんだ」 日緋色霊鋼-ヒヒイロメタル-とは、高間原周辺で採掘されるレアメタルだ。 霊力-レイリョク-というエネルギーをよく通し、それを吸収するほど軽くて丈夫になるという性質を持っている。濠が愛用している剣にもそれが使われていた。 「なるほど、失われた装甲を残ったものと新しいものが混ざり合うことで補った。だから構造が変化していたのか。アーマーの限界感知力にずれがあるのもその所為かな」 「結構すんなりいったから、問題ないと思ったんだがなぁ・・・まだまだ勉強不足だな」 「うーん、今回に限れば長く装着者を護っていたってことだからよかったのかもしれないよ?」 「どのみち貫かれちまってるけどな」 「はは・・・まぁまぁ。修復なら足りない分の因子を他のシステムから補充すればもう少し早くなりそうだから。でも今は、ゴウもカトラスも休ませてあげるってことで・・・」 「・・・そうだな。それじゃ、頼む」 「うん、任せてよ。・・・あ、そういえば作業が終わったならゴウのお見舞いに行って来たらどうかな。グレイスも半日休暇を取って病院に行ってるんだ」 「んー、オレは後からでいいかな。今日は姫さまが見に来るって姉貴から連絡貰ったし」 「え・・・お姉さん?」 ● キッド達がいる病室の隣の部屋。 ここには海での戦いで深手を負った濠が寝かされていた。 「・・・・・・・」 「濠・・・」 静かに眠る濠の隣に座り、その様子を憂う女性の姿がある。白沢湶だ。 自身も暫く体調を崩しており高天原の城で寝込んでいたが、義弟が重傷を負ったと言う知らせを受け、侍女に頼み込んでやっとのことで先ほど病院に着いたところだ。 「姫さま〜、入りま〜す」 「・・・戻ったか、牡丹」 橙色の着物の上からエプロンをかけた、茶色の短い髪の女性が病室に入って来る。 牡丹(ぼたん)と呼ばれたこの娘は湶お付きの侍女だった。 彼女は病室に湶を連れて来た後、担当医に話を聞きに行っていたらしい。 「それで医者は何と?」 「えっと・・・結構危なかったけど、今は、えーと、ゆっくりしてれば大丈夫、だったかな?」 「少し大雑把過ぎるな・・・」 「んんー、あんまり難しいこと言われてもよく分かんなくて。あ、でもそんなに暗い感じじゃなかったから大丈夫ですよー、それに濠くんすごい強いしっ!」 そう牡丹は幼い少女の様に屈託のない笑みで答えた。 彼女は力仕事や身の回りの世話には長けているが、幼少時から湶に付きっきりで仕えていた為か、少々学が不足している所があった。 呆れるにも呆れられず、一度だけため息をつくと湶は再び濠の方へと向き直る。 「まぁいい・・・無事、とは言い切れないが、生きていてくれた。今はそれだけで十分だ」 呼吸さえも聞こえないほど、深い眠りに落ちている濠。 まるで魂が身体から離れてしまっているように存在が酷く希薄に感られるが・・・ だが、本当に何も感じられない空っぽの抜け殻という訳でもない。 その代わりに強く伝わってくる何かの気配・・・・それに同調するように先程からずっと、濠の傍らに置かれた蒼い鏡が輝きを放っている。 「・・・・・・・・・」 アイギスの爪は心臓付近を貫いており普通の人間ならば即死、まず助かることはないが・・・ それでも濠がまだ生きていられたのは、その身体の変化のお陰であった。 強靭な肉体、恐ろしいまでの耐久力と回復力、これらを代表とする能力的特徴、瞼の内に隠れた金色に染まった眼など、変化した体組織はこの世界のある者達に酷似していた。 それに気付いたのは手術に立ち会ったサラであった。 彼女の進言で、普通の人間には決して用いることが出来ないような荒療治を伴うそれ専用の特別な治療が導入された結果、濠はこうして命を繋ぐことが出来たのだ。 「ねぇねぇ、姫さま。この鏡みたいなの何ですか?」 「出発する前には持っていなかったようだが・・・・・そういえば」 少し昔のことになるが、濠が城にやって来た頃。 湶は日々の会話の中で濠の世界の話をよく聞いていたが、身の回りの些細なことから仕事や世界の歴史のことなど実に様々なことを濠は語ってくれた。 床に臥せる間、湶はその話を思い出しては記録用の小さな書物に綴っており、今ではその量もだいぶ厚くなって来ているが・・・確か、その中に何かしら鏡について記した覚えがある。 湶は牡丹に預けていた荷物の中からその日記帳くらいの大きさの記録書を出してページをめくった。 そして、ある項を開いた所でその手は止まる。 「これか・・・」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 濠の世界にもこの高天原の国と同様に八百万の神々や様々な精霊が存在するようだが 特に大きな力を持つ神霊になるとその力を宿した依り代も存在するらしい。 それらは“器”と呼ばれ、義を持って戦に臨む者達に力を貸したという。 前にも記した凶星事変の時は、濠も度々その力を借りていたらしい。 1つ、邪を払い幸をもたらすという黄金の輪【ヒキュウの環】 1つ、龍神の力を極限に高め、解き放つという鏡【応龍の鱗】 1つ、大地の神の力を宿した大極を司る玉【燭陰の爪】 1つ、阿修羅という濠の一族に伝わる古の宝剣【星薙の剣】 1つ、一族に伝わるもう一つの宝具、創世の光を宿した【金剛の杵】 だが、これらの大半は濠がこの世界に辿りついた時に行方を暗まし、濠は元の世界へ帰る方法を探しながら―――――――――− 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「“応龍の鱗”・・・・・そうか、見つけたのか」 普段は帯で覆っている右眼から頬にかけて走る傷、それに当たらないように白く細い指が包むようにその頬に触れる。 湶自身、少し上がるだけで参ってしまうほどに体温が低いのだが、それにも増して今の濠の頬は冷たかった。 まるで水に手を着けているような、人間では考えられないほどの低温だ。 濠の出生が特殊であることは当然湶も知っている。 その身体にはヒトならざるもの力が溶け合っており、その中には龍神の血もあった。 「龍神の加護か、起きたらまた話を聞かなくてな・・・・濠」 「む・・・?」 その時、濠の右眼に走った傷跡から光のようなものが漏れ出した。 薄い翡翠の色に輝くそれは、何かに反応するようにだんだんと輝きを増している。 「何だ・・・先程までの気配の中に別の・・・・?」 「姫さま下がって!!」 牡丹が立てかけてあったモップを掴んで湶の前に立つ。 その直後、病室の窓が大きな音を立てて割れた。 ガシャァアアアアアアアン!!!!! ● その数秒前、隣の病室では・・・ 「なるほど、つまりそのアリエルという方は大昔に私達のひいひい(略)お祖母さまとひい(略)お祖父さまを巡って血で血を洗うデッドヒートを『飛び過ぎだっての』」 海でキッドの意識に語りかけて来た少女、セイレーンのアリエル。 キッドが深海で見つけた遺跡についての報告を含め、彼女から聞いた歴史に隠された400年前の戦争のことなどをグレイスに話していたところだった。 「分からなくもないがな、今問題なのはそこじゃないだろ?」 「重要な問題ですの!私の髪の毛がピンクの巻き毛じゃなくて黒髪のストレートになってた可能性もありますのに!他所とキャラ被りますの!」 「おいおい・・・」 「こほんっ、失敬。・・・でもまぁ、確かにそんな大事になってるなら尚更救出を急いだ方が良さそうですのね」 「そうだな・・・・あ、そういやミスターは?」 「あら、結構今更ですのね。手術は一応成功して隣の部屋で寝てますの。でも、いつ目を覚ますかはまだ」 「隣の部屋?そういや今何か凄い音したような気が・・・っ!?」 ガシャァアアアアアアアン!!!!! 「きゃっ」 隣から大きな物音がしたのに数秒遅れ、キッド達のいる病室でも同じように窓が破られた。 ガラスが割れる直前に、咄嗟にキッドは腕で眼を守り、シーツを蹴飛ばしグレイスに被せた。 ガラスの飛び散ったのは内側、何かが部屋に入って来のだ。 ≪ギィ・・・・!!≫ 「何だコイツ・・・ぐぁぁっ!!?」 「キッドっ!?」 グレイスがガラスまみれのシーツを払い退けると、人間より一回り大きいサイズの岩石の彫像のようなものがキッドを締め上げていた。 いきなりのことで肝を抜かれたグレイスだったが、今のキッドが自力でどうにか出来る状況ではない。 早くあの岩の怪物を引き離さなければ。グレイスがドクロのレリーフを取り出した瞬間・・・ 「は〜い、ちょっと退いて〜!!」 「っ!」 場に似合わない“元気のよい”大声がして、病室に着物を纏った女性が飛び込んで来た。 綺麗に掃除されたビニル製の床であるにも関わらず、土煙でも上げているかのような走り様はイノシシのそれにも似ている。 グレイスが脇に下がると彼女はそのままの勢いでコースに入り、ベッドの前で急停止するやその手に握ったモップでキッドを締め上げる怪物を打った。 ドグシャッ!!!! 強烈な一撃で叩き出された怪物は割れた窓から外へと弾き飛ばされる。 「わぉっ、場外ホームランですの!」 「見たか〜!これぞ恭ちゃんお手製、日緋色霊鋼製強化モップ!どんなに力込めて使っても全然折れない、霊力の込め具合で硬いのから柔らかいのまで自由自在!畳からフローリングまでこれ一本で掃除出来る優れモノ!」 「まぁ、凄いですの!でも、お高いんでしょう?」 「なんのなんの、今ならもう一本お付けして―――‐」 「牡丹、いつまでやっているつもりだ」 コントに見かねてやって来た湶が、牡丹に声をかけて隣の病室に帰らせた。 こちらの部屋にも侵入者の気配があった為送り出したが、彼女には無防備な濠の警護をしてもらわなければいけない。 「げほっ、けふっ・・・・、ッぁ痛たた・・・酷い目にあったぜ」 未だ首にぶら下がっている彫像の腕を外しながらキッドが起き上がった。 怪物が襲って来た分もあるが、さっきのアレは間接的にでも凄い衝撃だったため、鞭打ちのようになった首が痛い。 「大丈夫か、キール殿?」 「・・あぁ、助かりましたよ、プリンセス。再会の記念と今のお礼に、今夜食事でも?さっきの彼女もご一緒に」 「せっかくだが遠慮しておこう。・・それより、まだ危険は去っていないようだぞ」 一同は外へと視線を移した。 下にはさっきと同じ怪物がぞろぞろと集まりかけており、病院の壁をよじ登り始めている。 「やれやれ、骨の次は岩のモンスターってか・・・・グレイス、悪いが頼」 「がってん翔一ですの」 キッドが言い終わる前に、無くなった窓から飛び降りるグレイス。 ここの病室は七階、当然重力に惹かれて真っ逆さまに落ちて行くが・・・ 慌てる様子もなく、グレイスは【渦巻-カリュブディス-】コインをベルトのドクロに装填する。 「変身っ!」 鮮やかな薄紅の色が螺旋状にグレイスを包み、その身に衣の様な鎧を纏わせていく。 渦中に舞うのは腕や身体から続く長く美しい帯、その可憐な姿は鋼鉄の妖精であった。 対峙する者さえも引きこんでしまうような不思議な引力を持つ、その仮面の海賊の名は【レネイド】 レネイドは落下中、周囲に渦巻-トルネード-を発生させると壁をよじ登って来る怪物達を飲み込んだ。 そして、地面に激突する直前に重力に反した軌道を描き、その紅い渦は進行してくる怪物を全て飲み込ながら、少し離れた広い駐車場まで押し出した。 「よっ、とっと」 渦巻を散らすと、ドスドスと鈍い音を立て重力に惹かれた怪物が螺旋状に落下する。 その中心に降り立ったレネイドは細剣を呼び出すと、その手に取って構えを取る。 「それでは・・・・ショータイム!ですの」 |
青嵐昇華
2011年11月13日(日) 22時09分48秒 公開 ■この作品の著作権は青嵐昇華さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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どうも〜。【仮面ライダーPIRATES】《epZ 『潜晦』 part1 》についての感想です。 この話では前回の話の後に気絶してしまった後、キッドさん達がどうなったかと、今後の行動をどうするかで話し合っている最中に、何者かが“ゴーレム兵”を操ってキッドさん達を襲わせて、それを護る為にグレイスさんが新たな『ライダー』に変身したという感じに終わっていますね。 …しかし、本当に厄介な状況になっていますね〜。キッドさんのほうはまだいいとして、濠の方はかなりのダメージを負ってしまった所為もあり、当面は動けない状態になっているというのがなんともいえませんな……。しかも、本人は肉体に帯びたダメージが関係している所為なのか、“魂”だけが本来居た《世界》に一時的に戻ってしまったという始末。…まあ、本来ならば死んでもおかしくなかったところ、“阿修羅”と“龍神”の“血”と“肉”のおかげで一命を取り留めたって話ですから、なんともいえませんな。……ンでもって、一体どんな治療法を使ったんですか、その入院している病院は…; しっかし、“器”の所在はどうなっていたのか気になっていましたけど、本当にどうなっているのですか? 後、恭護さんにお姉さんが居たというのには、少々驚きました。……ところで、そのお姉さんである『牡丹』さんが持っているモップはどんなことを理由に作ったのですか? ……話は変わりますけど、キッドさんが新たに手にした“力”。多少は予測していましたけど、その武装はかなりの破壊力を持っているとのことですが、どれだけのものなのかと気になってきます…。 また、『カトラス』の修理にはどれくらい掛かるのかも気になるところではありますけどね。 そんな感じで、パート1の感想は以上です。 |
30点 | 烈 | ■2011-11-14 23:17:10 | i125-205-43-158.s10.a044.ap.plala.or.jp |
合計 | 30点 |